希望を切り裂く刃は──今──その強靭な衣を破壊され、ただの武器へと成り下がった。ただ、随分みすぼらしく感じさせる哀愁が漂いながらお互いに硬直する。動かないのだミーナもディノバルド亜種も今はずっと、お互いに相手の出方を探る。彼は臆しながら、彼女は息を荒げながら。
ミーナの目は濁ったような黒色に戻っていたが、何時、あの時のような狂った蒼に染まるか分からぬ。それは彼女自身も知らないし、その時の記憶が曖昧だった。
しかし、彼は感じ取れた。あの不気味な見えぬオーラが見えていた。まるで誰かに呪われているようなおぞましいもの。恐怖が具現したか?あるはずの無い、黒の霧が手の形になってディノバルド亜種の方へ伸びてくる。そして彼の顔に触れた。
その瞬間、ディノバルド亜種はこの世のものとは思えないものに触れた恐怖を体感して電撃がほどばしった。痛みはなく、痺れも無かったが気付けば一歩後ろへと脚を戻していた。
ディノバルド亜種はある疑問を抱えて、それに困惑して
いた。
───今、生まれて初めて感じているこの恐怖という感覚は──彼女が恐怖なのか──それとも──恐怖が彼女なのか分からない。恐れを抱くというのはここまで臆病にさせるのか──
ディノバルド亜種はもう動けなかった。何故なら存在しない筈の手達が辺りを囲んでいる。ミーナから、あのむかっ腹の立つ、あの気味悪い女からウジ虫のように湧いて出ている。
──あの女、何処を見ているのだ?
ミーナの目は彼の目を見ている訳ではなく、ただじっと地面にを見続けている。あの黒の目が彼にとっては恐ろしく感じるものへ変貌したいた。この手達と何一つ変わらない程、深い暗闇を含んでいる。
「終わりにしましょう」
ミーナは強く地面を蹴って瞬く間に空いていた距離を詰めた。例えるなら閃光のような素早さ、目で追うのには必死にならなければいけなかった。
ばっと目の前に彼女がいきなり現れるとディノバルド亜種はその、反射神経の良さを活かして噛み付こうとしたがミーナはそれをいなすと一旦離れた。
「なっ!?」
その刹那、ディノバルド亜種が彼女の避けた方向へ大きく口を開けて喉の奥から吐き出すように尾の結晶を発射し
た。その棘状の結晶は真っ直ぐミーナの方へと音を切り裂きながら進んでいく。すぐに理解出来た。絶対に避けられないと悟れた。
「くそっ!!───なら見せてやるよ私の度胸ってヤツを!」
するとミーナは驚くがことに利き手の方に太刀を持ち変えると片方の手で胸に突き刺さりそうだった棘状の結晶を掴んだ。
ぐちゃぁ、と生々しい気持ちの悪い音と鉄の臭い、そして目を見開いて声も出ないような激痛。ミーナの手のひらを幾つかの大小様々な棘が突き刺さり中には鋭く細長いものは骨まで到達した。
ディノバルド亜種はその光景にも目を疑ったが今、もっと恐ろしい光景が広がっていた。
自分の周りには手のひらに落書きのような黄色い目がついている黒の手達に囲まれていた。何回も震えた手で縦に細長い黒色の輪郭をどんどん内側へ描き込まれている。
そして『音が』聞こえる。
[傷付けた…傷付けた…傷付けた…傷付けた…傷付けた…]
[痛そう…可哀想…酷い…惨い…]
[あぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ………]
まるでディノバルド亜種の視界を塞ぐように多くの手が寄って集まって手を繋いでいた。そしてディノバルド亜種もまた悟る。恐怖が彼女じゃない。彼女自身が恐怖という概念であり存在であると──
「はぁぁあっ!!」
ミーナはまた一瞬でディノバルド亜種に近付くと顔の側面に思い切り刃を高速で振るった。炎がきめ細かな傷口に入り、涙が滲むような痛みに襲われる。
だがそれも今の彼を止めるのには足りなかった。克服したのだ。恐怖を、痛みも──この闘いにはどちらも要らない要素だと理解した。そしてこの黒の手達もただ、自分が抱いていた恐怖という感情から見えるようになってしまった幻覚だと知る。
なら─もう──今を楽しむまで
『────────!!』
短い咆哮を荒げると真剣状態の尾を滑らせながら大雑把ながらも器用にミーナの元まで威力を殺さずもっていった。
しかしミーナも止まらない。その攻撃を紙一重のところで交わすとミーナは血だらけのスリンガーからクローをディノバルド亜種の顔面へ向けて発射して金属の爪は命中すると離れないようにがっしりと固定された。
そしてクローから伸びた紐がどんどんミーナごと引き寄せて短くなってゆき、彼女はディノバルド亜種の顔に張り付いた。
クラッチクロー。あるハンターがそう呼び初めてからその呼び名が通っていった高等テクニック。
モンスターの頭に張り付いてスリンガーに装填されている弾を発射して標的を吹っ飛ばすテクニック。それを発展させたものとして空中に飛んでいるモンスターの体勢を崩して撃墜させたり、壁や障害物目掛けて吹っ飛ばし転倒させるという更に上のものがある。
今ミーナが行おうとしているのは後者、壁にぶっ飛ばしてディノバルド亜種の転倒を狙っていた。
骨が軋んでミーナに絶えることの無い激痛が襲い続けているのにも関わらず、必死にすがる気持ちで手が耐えてくれる事を祈りながらしがみついている。時間もチャンスもこの一度しかない。外せば討伐は不可能になってしまうかも──いや不可能になるだろう。外せない。この感情がただひたすらミーナを追い込んだ。
けれど、ミーナは“追い込まれてる時ほど想像以上のことをしでかす”タイプだった。彼女の口の端がほんの少しつり上がる。
『─────────!!』
ディノバルド亜種が彼女の足を噛み砕いて無理やり引き離そうと顔を揺らした瞬間、彼の目にズブリとミーナの太刀が刺さり込み奥へ奥へと進行を進める。
ディノバルド亜種はこの瞬間、確かに目にしたのだった。今となってはもう使いものにならぬ程まで壊された眼は確かに捉えていた。ミーナの後ろにから太刀を持つ手にまで触手を伸ばした黒い影を。
あぁ──何と、“気持ちの悪い”───
『────────!?───!!』
ディノバルド亜種の悲痛の叫びは気にも止めずミーナは突き刺した太刀の柄を離さずようぎゅうと握り締めてスリンガーを近付ける。
「ブっとべっ!!」
スリンガーに残っていた火種石がディノバルド亜種の顔面に向けて全て放たれ彼は壁の方へ頭から飛ばされ鈍い音と共に衝突する。
ミーナは逆の方向に、すっぽり容易く抜けてしまった太刀と飛ばされて尻餅をついて着地するが腕の痛みは更に加速してしまっていた。
けれどもこれで──
ディノバルド亜種は地面に顔を擦り付けてもがかせる事に成功した。ミーナはその隙に絶え間無く攻撃を与え続け一気に瀕死の状態まで持ち込むが腕一本しか使えないということもあり狩り始めの時より素早さも威力も落ちてディノバルド亜種の体力を削り切ることは不可能だった。
「なかなか……しぶとい…わねぇ」
ディノバルド亜種がふらつきながらも、その頼りなさそうな二本の脚で立つ光景を見るとやはりまだ死に抗える余裕があるんだとミーナは感じる。だからか彼女の腕の痛みは引いていきこの残り僅かの闘いに集中出来た。
ミーナが最後に狙うわ太刀の奥義、【兜割り】。これをディノバルド種の弱点部位である頭に当てれれば勝利は確実の美酒はミーナの物となる。だがディノバルド亜種に妨害、もしくは攻撃を喰らえば逆に彼女が追い込まれるか、もしくは敗北するか──二つに一つ。
ミーナはディノバルド亜種に刃を向けると彼は尾を身体に擦り付けるかのように寄せて自分の身を守り始めた。
ミーナはこの行動を以前見たことがある。これは──確か物凄い素早さでの突き刺しだったはず。見てからの回避は難しく、その直前の長い溜めが攻撃の合図。
彼女は思い出すとはっとした顔をして慌てて横に回避するとディノバルド亜種はさっきまでミーナが立っていた場所で尾を研ぐように素早く突き刺してきた。あのまま突っ立っていたら間違いなく胸部から腹部にかけて縦長い穴が空いていただろう。
ミーナは振れる回数も限られてきた腕の力を温存する為に刃を地面に添えて預けるように余分な腕の力を抜いていった。精々振れて二、三回。全力なら【兜割り】で限界。
落ち着いて深呼吸し、イメージを膨らませる。彼女のイメージの中に映っているのは勝利していう自分の姿があった。
此処からどう動くかは大方決まった。これで負けたのなら相手の方が自分よりも一歩上手だったと認めるしかない。だから──最後の力を振り絞れ!!
「ああぁぁっ!!」
強く地面を蹴って背を低くし加速する。兎のように俊敏で、迎撃しようと先程のように口から棘状の結晶を放つもそれは容易く避けられたりあと少しの所で緩やかな動かし方で力を使うこと無く刃を振るって弾いた。
ディノバルド亜種は自分の近くで瞬く間に尻尾を研いで素早い【大回転斬り】を放った。広範囲に及ぶ大技も満身創痍の彼女の前には届かず尻尾と地面との間に生まれる僅かな隙間を彼女は滑って通り抜けるといよいよディノバルド亜種の目前まで迫れた。
するとさっきまで視界に入っていた尾がまた消えていて今度は真上から振りかざされた。──がミーナはこれを危機一髪、何とか避けた。地面との衝突により弾けとんだ砂や小さな石がミーナの顔に切り傷をつけるものの彼女は突き刺さった尻尾を踏み台にディノバルド亜種の背中を放った駆けると一気に頭部まで走る。
「喰らえぇっ!!」
頭部まで辿り着くと一気に跳躍し刃の先を真下に向けながら落下しそのまま一直線で頭上から突き刺しながら着地する。縦に赤い線が光ると同時にミーナの持つ太刀の刃がパキッと音を立てて砕けた。そして塵のように風に拐われて地面に零れる。
ディノバルド亜種はまだ倒れてはおらず、ひざまつく彼女を嘲笑うがように首もとを噛み付こうとして迫っていた。
ミーナの敗北である。彼女の顔に悔いの表情は無かったがもう柄しかないその太刀を握り締めながら涙を流していた。
その刹那──黒い巨大な影がディノバルド亜種の顔面を蹴り飛ばして怯ませた。それは空から舞い降りて再び現れ、ミーナは一人で闘ってたんじゃないと思い出させる為に、助ける為に、ライダーとそのオトモンは再び馳せ参じた。
「ミコト!!ソラ!!」
ミーナはパッと顔を輝かせて立ち上がる。絶望の言葉は元より無かったが今は希望という言葉だけが彼女の中に満ち溢れていた。
ミコトとソラは少しディノバルド亜種から離れた所に着地するとミコトは背中に手を伸ばし始めた。
「ミーナ!!これをっ!!」
ミコトと背中から操虫棍を手に取りミーナへ投げると再び迫っていたディノバルド亜種が噛みつく前に負傷した手で受け取り持ち変えるとディノバルド亜種の喉に突き刺し押し込む。
「これで!!終わりだぁっ!!」
溢れ頭から浴びる大量の出血。ディノバルド亜種の喉に突き刺さる操虫棍は血液に浸されながら奥へ進み、そして斬り上げる。空高く鮮血は飛び散り、模様を描きながら雨になる。
ディノバルド亜種は───力無く──虚ろな目をゆっくり閉じながら倒れ伏す。
ミーナは──その傷だらけの鮮血滴る腕を──上げながら────またひざまつく。
太陽が差し、雨が止む。日だまりもまた、どんどん影を侵食して進む。
照らすは新たに生まれた英雄を──
今──蒼空に陽が差し英雄が覇す。
読了──本当にありがとうございました‼️
この後の後日談と茶番回をもって第一章は終わりとなります‼️
今はただ、読んでくださっている方々に感謝の念しかありません❗こんな約30話を読んでくださって本当にありがとうございました‼️
これからも頑張って行きます‼️
ではまた‼️
導きの青い星が輝かんことを…❗
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