導きの青い星と蒼い絆の物語   作:MAMYU9

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茶番回ー



ナナリという腐れ野郎

 あれから十日が過ぎた。

 平和なんて束の間に終わると思っていたミーナも流石に意表を突かれた様子で食事処の椅子に座っていた。

 テーブルに置かれているカップにはまだ半分程、水が入っていて空の青のように澄んでいる。だが、今はどうでもいいこと。

 腕も完全に治ってクエストにも出れる状態なのだがミーナはそのやるけなさにすがってぐうたらな日々を送っていた。

 けれども今日はいつもよりも早起きをして食事を済ませていた。多分、今日がこの十日間の中で彼女的に一番忙しい日になる予定だった。いや、彼女だけではなくこのアステラ全体が忙しくなる日。

 それは貿易船の来航であった。四日前に突如として発生した嵐のせいで到着が遅れて多くの移民が必需品の枯渇に頭を悩ませていた。そして今日は遅れた貿易船の到着日。まだ早朝だというのに彼らは事件でもあったかのように広場に集まり面白味もない地平線を待ち遠しい気持ちで覗いていた。ミーナにはまだ食事でもして時間を過ごした方がああ待つよりも有意義だと感じていた。

 優雅である理想的ティータイムとは程遠いものではあるがこれも一興と欲を殺して静かに時が過ぎるのを待っていた。

 そもそも彼女は別に慌てて騒いで物品を買い占める必要はなくて、消費の少ない生活。自炊に割く時間も持て余してなければ(今回の件は別)旨い飯を自身に振る舞える実力もやる気も足りない。それがミーナの生き方。ここ一年、未だ著しい変化の片鱗も見せない悪い意味合いが籠った安定した生活を送る彼女にとっては今回の遅れた買い出しも残った余り物を買い込めばいい、どうせ枯渇もしていなければ目を丸くして手に取る商品もない、彼女にとってのこの買い出しは怪我をする恐れもないクエストにネコの保険を掛けるようなこと。

 念のための積み重ねが今の彼女を作っていた。

 

 「嬢ちゃん。買い出しには行かねーのかい?もうすぐ交易船の着く時間だぜ?」

 

 すると食事場のキッチンから右目に傷をつけた大柄なアイルーが机に倒れているミーナを生き返らすように話し掛けてきた。背にはモンスターでも狩りに行くのかと疑う程の磨がれた身長程の包丁を背負い、心なしかの布を身に付けている。

 

 「別にいいのよ…どーせ目ぼしい品なんて無いだろうし売れ残ったモン漁って買いだめしとけばいいんだし」

 

 気力の一切も籠らない軟体動物かのような手をひらひら振ってミーナは反応を示した。ただその仕草はまるで酔い潰れたダメな人間のそれであった。

 これにはアイルー達もその引きついた顔はどう足掻いても隠しきれず暫くは不穏な空気間のせいで客の足は捗らなかったという。

 それから暫くミーナはこの状態のまま時間を過ごして突然、息を吹き返したように立ち上がると朝食代のゼニーを机に叩き付けて去っていった。

 無論、向かう先は交易船からの物が売られる広場。ミーナが周りの者と違った行動とはあまりにも出遅れしたこと。ただ、彼女には後悔の念は一切も無く、寧ろこれぐらいの誰も混雑していないくらいの空間が商品の質や量よりも彼女を喜ばせた。

 人混みが無い。一人一人の顔から服装までを個として認識してとれる。だからこそか久しい顔がすぐに目に留まった。

 その顔を見るのは実に三年ぶりだった。やけに整った顔つきに黒色の髪。高身長と何一つ残念が無いルックスの男が真っ黒のスーツを着て歩いていた。

 

 「あれ………ミーナちゃん…?」

 

 「…………ナナリ?」

 

 実に久し振りの、腐れ縁との再開であった。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 買い物を済ませたミーナの腕はパンパンに詰まった紙袋を抱いて歩いている。

 少なくともこれは彼女も予知していなかった展開。まさかこの男が此処に来ていたなんて。ミーナは何だか変な気持ちになってしまう。

 ナナリはずっとミーナの隣をニコニコしながら歩いている。

 

 「……なんで着いてくんのよ」

 

 「一人よりも誰かといた方が楽しいだろう?それに僕にも用事があるんだ」

 

 「だからアステラに来たわけ?で、その用事って何なの?」

 

 ミーナは鬱陶しそうにナナリに訊いた。同じ村で育って歳も同じなのにこの仕打ちは中々お目にかけれるものではない。やられた側は相当心が痛むのだがナナリは昔っからミーナのこういう所は慣れていた。

 

 「二級ハンターに会いに来てね。サシャ先輩に……」

 

 「サシャ?」

 

 ナナリの口から思いもよらない名前が出てきた。サシャの名が出たと思えば知り合いかのような先輩呼び。親しい仲なのだろうか、ミーナは思考を巡らす。たが今は一つ言いたいことがあった。

 

 「サシャの居る場所は知ってるから教えてあげるけど…なんでスーツ?」

 

 ただ今の疑問はそのビシッとかしこまったスーツにあった。

 

 「あぁ、これ?実は今はギルドで働いててね、僕はそこで二つ名ハンターのサポートをしている云わば【補佐担当】って呼ばれてる仕事でね。今はサシャ先輩を担当してるんだ」

 

 「ギルドで働いてんの?」

 

 「そういうことになるね」

 

 驚いた。こんな男が二つ名ハンターの補佐を任されているなんて。にわかに信じがたい話だった。

 

 「意外ね……まぁけど確かにアンタ頭だけは回ったからね。頭だけだけど」

 

 頭という単語を大事に何度も強調するミーナに対してナナリは苦笑いをして「そこまで強調する必要、ある?」と甲高い声で笑いだした。

 

 「ウッザ」

 

 心の底からの本音であった。その言葉の鋭さはまるで杭。ナナリの胸に撃龍槍が突き刺さる。ガガガと削り奥へ奥へ直進する。

 けれどナナリは───

 

 「うっわーそれ結構響く!!」

 

 顔がひきつり始めたのはミーナの方だった。この男、村を出る前よりもウザさに磨きが掛かっていやがる。もう一秒でも早くミーナはナナリと離れたくなった。

 

 「それにしても三年間の間に随分美人になったねー。幼い頃の可愛らしさも好きだったけど今の感じもいいね」

 

 「ねぇホントにキモいからやめて」

 

 ミーナ失言の連続。これは構わないことが正解の対応であることは承知だった。けれど抑えられない衝動がミーナを駆り立ててしまった。

 

 「ミーナちゃんってさ、もしかしてそっち系?」

 

 「あーもう!五月蝿い五月蝿い!!この変態っ!!さっさとどっか行きなさいよ!サシャんとこ行くんでしょ!?」

 

 ミーナは声を荒げてナナリを何度も強く叩いた。蹴ったり、聞き取れないような暴言を吐いたり、公衆の面前で散々な事をしていた。

 

 「ちょ、痛い!痛いって!!」

 

 ナナリが少し笑い交じりにミーナを静止させようとしていると、突然ミーナとナナリの間からストレートの拳がバリスタ弾のように飛んできてナナリの頬に命中して彼を吹っ飛ばした。

 

 「ぶはぁ!?」

 

 「ちょっとナナリ!?」

 

 これには両者驚いてしまいナナリはそのままされるがまま転がり続け、ミーナは拳の飛んで来た方を目を丸くして見た。

 其処には拳から怒りの蒸気を上げている、しかめっ面のサシャが立ち尽くしていた。彼女の周りには近付きがたい雰囲気を纏いゆっくりと口を開く。

 

 「おい……テメェ…ナナリ…?一番に報告する上司すっぽかして女とお喋りとはよぉ……中々、良い度胸しているんじゃねぇのか…?よぉ……もう一発、いくか?」

 

 サシャはゆっくりとした口調の中で何度も掌に拳をぶつけ、殺意を溢れさせて今にも倒れているナナリにもう一発骨をも砕く一撃を、ブラキディオスのような猛然一撃を浴びせんばかりだった。

 その様子を見たミーナは危なっかしくて堪らなかったので別にナナリを庇うつもりは無かったが怪我人、最悪の場合の死人を出すわけにはいかないのでサシャを止めにかかった。

 

 「ちょっっとサシャ!?一旦落ち着いてさ!?ね!?あのままだとナナリ死ぬから!少なくとも顎が抉れるから!」

 

 そうやって制止にかかったミーナだがサシャは意外そうな顔をして上がった拳を下げた。

 

 「……?お前ら知り合いか?」

 

 疑問の念が詰まった言葉にミーナが返事をしようとするといつの間にか起き上がっていたナナリが口を挟んだ。

 

 「そうっすよ。ミーナちゃんと僕は一応幼なじみなんッス」

 

 そうやってナナリが頭をかきながらノロノロ近付いているとまたもやサシャの拳が飛んで今度は横腹に命中。そのまま吹っ飛ぶ。

 

 「おふっ!!」

 

 「だからって女と二人きりとは良いご身分だな!?えぇ!?」

 

 ナナリはうつ伏せになったまま中々立ち上がってこず、ずっと呻き声がミーナ達に伝わってくる。

 サシャは次は蹴りに行こうと近付くが、それはミーナの手によって未然に防がれた。

 

 「にしてもねぇ……お前らが幼なじみ…」

 

 サシャは呆れた目でナナリを軽蔑しながら煙草を吹かした。そして白い人から吐き出される有害な濃霧は全てナナリへ向けて吐かれる。

 

 「うわっ!?煙草!煙草臭っ!!」

 

 するとナナリは死んだフリをした虫が慌てた様子で飛び上がるように煙草の臭いに反応して起き上がった。虫か何かを連想させる一連の動きをしたナナリ程、気持ち悪いものはなかった。ナナリ自体が害虫に知性と人の言語を喋れる能力を与えた云わば喋るクンチュウ。仕事するランゴスタ。彼を人と見る人間はこの場には僅か少数。

 

 「あっ……サシャ先輩にこちらを」

 

 そうやって彼は何処に隠し持っていたのか紙袋を取り出してサシャにお納めした。ミーナには何か賄賂に見えないでもなかった。

 

 「んだこれ?いつもこんなので渡してきたか?」

 

 「あーそれお菓子も入ってるんすよ。仕事で寄った村の名物饅頭」

 

 「へーナナリ。意外と気が利くのね。ねぇサシャ、私も一つ貰っていい?」

 

 ミーナのもの欲しそうな顔に負けたのかサシャは紙袋の底から白い箱を一つ取り出して開け出すと、茶色い饅頭を一つミーナに渡した。

 

 「いいの?じゃ、甘えてお一つ───ん!美味しいわね!」

 

 小さい一口だったがミーナはそれだけでも味わえたようで、頬張った次の瞬間には美味しいと口走っていた。それにつられてサシャも急いで一口。

 

 「うん。旨いな。今度からこれ手土産な」

 

 中々の横暴っぷりを見せてくるサシャにミーナは少し呆れつつあったがナナリは「それ、高いんすよー!?」と文句を漏らしていた。

 そんなナナリとミーナを横目にサシャは紙袋の中から幾つかの紙を取り出して饅頭片手に読み始めた。多分、ギルドからの物だろうとミーナは一人勝手に憶測を始めた。

 

 「ふーん。何人かこっちに来んのか…?………二級ハンターと……一級!?」

 

 途端、サシャは声を荒げて饅頭を喉に詰まらせた。一級という単語を遺して。

 

 「えっどういう事…?」

 

 これにはナナリ以外の二人が脳の処理が追い付けぬまま文字と言葉を鵜呑みにし始める。二級と一級。多分これは二つ名ハンターのことを指しているんだろう。サシャが二級ハンターだから同じレベルの人と、それよりも強い人が来るということ。

 一級と聞くのはカムイ以来だった。

 

 「誰が来るんだ?」

 

 一番に処理が終わったのはサシャだった。彼女は気持ち悪いほど冷静に戻りナナリに訊いた。

 

 「えっとっすね………一応、今の所は一級の“フユメ”さんと二級の“メイリン”さんッスね。サシャ先輩、お二方と関わり持ってましたよね?僕、担当したこと無いんで、ちょっと関わりにくいというか何とかいうか────」

 

 ナナリはその後も何やらゴニョゴニョ呟いているがサシャの頭の中には何一つ、入りもしなかった。今はただ反射的に一言返してしまう。

 

 「は?」

 

 拍子抜けな声が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました‼️
こういうのがしてみたかった…
ではまた‼️
導きの青い星が輝かんことを…

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