ミコトは少し散歩に出掛けていた。特段、お洒落して歩いているのでもなく暇潰し程度の散歩。ソラの世話も済ませてミーナと一緒にクエストに出るわけでもない。憂鬱な日々はこのようにして潰すしかなかった。
今日の目的地は広場。今朝、ミコトの耳に交易船が到着したと入ったので品物でも見に行こうとしていたところだった。
そう彼女に腕を引っ張られ、足留めさせ喰らわなければ彼は今頃売れ残った品物にありつけていただろう。
「あれっ?サシャさん?あぁ──サシャさんも買い物です───っか!?」
途端、強い力がミコトの腕を引っ張り声を掛けた主が居る方向へ引き寄せられる。引力よりも強い力。女性の腕力とは到底思えず、その痛さに顔をひきつってしまう。
「いったい……ちょっと何するんですか!?」
「馬鹿っ!静かにしろ!バレちまうし聞こえないだろ!」
静かに怒鳴るサシャにミコトは疑問を隠し切れず、脳の処理がいまいち追い付かない。何かハッキリしないようなドッキリをされたような感覚に近い。
サシャはミコトの頭を鷲掴みにするとそのまま勢いをつけて地面にぶつける速度で彼を屈ませた。ミコトの頭はぐらんぐらん揺れて首が痛む。
「────っ!?ほっんとうに何がしたいんですか!?」
サシャに叱られたこと活かして怒りの感情は感じれるものの随分小さな声でミコトは怒った。
「よく見ろ!あそこを!……ほらミーナとあれが一緒に居んだろ?」
あれがミコトにはよく分からなかったが一目見ればすぐに理解できた。いってもあれの正体だけであるが。
ミコトの目に映るのはミーナに煙たがられてる一人のスーツを着込んだ男。ナナリであった。
「ミーナ、ナンパでもされてるんですか……?」
「正解かもしれんが一応あの男、ナナリはミーナと同い年だ。改めて言うがナンパかもしれんけど」
ナンパじゃないと言い切れないサシャにミコトは少し疲れたような顔をして聞き流していた。心底とまではいかないがミコトにはどうでもいい事。
ミコトは華奢な脚で立ち上がると「じゃぁ僕行く所があるんで」とサシャから逃れようとした。
しかしまだ腕を掴む力強い手がある。
「……痛いじゃないですか。離してくださいよ」
「行くな。止めろ。今お前が行けば絶対にミーナは助けを求めてくるからな…絶対に行くなよ?折角面白い状況なんだから」
あぁ───この人は何故楽しんでいるのだろう?そればかりが疑問に残った。薄気味悪い表情をしている彼女から一刻も早く離れたいミコトだったが相も変わらず力勝負で勝てると思い込むほど彼は思い上がってはいなかった。
仕方ない。と息を漏らして座り込む
「おもしれーだろ?あのミーナが同年代の野郎と話し込んでんだぜ?こりゃ当分これで笑い話は足りるな」
サシャは手を口にやり笑いを堪えながらミコトの方を窺った。そのミコトは何だかつまらなそうな顔をして不貞腐れていた。何がつまらないのかサシャには中々理解出来ない。もしかしたら無意識の内にその理由を聞くことを嫌っているのかもしれなかった。
こんな物陰に隠れていたとしても距離がやけに近いせいか二人の声がミコト達によく聞こえていた。内容は他愛の無い世間話。まだサシャの興味が惹かれるような面白いと思える話は聞こえない。あれはナナリによる一方的な会話だった。
「面白くないですよ。サシャさんちょっと趣味が悪いんじゃないですか?」
サシャは「うっ」っと途端に顔色を悪くして俯いた。棘のある言葉だったとミコトはその反応を見た後に後悔した。二人だけの狭い空間と空気。お互い吐く言葉が中々見つからない。
その気まずさに不味い息を呑み込む。
「ん…確かに趣味が悪いかもな…じゃ私はここいらでおいとまするよ…じゃぁの」
サシャは相変わらずの何かやる気のない気力ゼロの手振りをしながら去っていった。目的地なんてミコトは知らないのは当たり前だが彼女自身もどうしようか迷っているような足取りだった。
「さて…僕もそろそろ──」
「ねぇミーナちゃん。ライダー殺しって知ってる」
聞き慣れた単語と慣れない単語が合わさった空気の重い言葉を聞いたミコトは立ち上がろうとした脚を動かすことが出来なくなっていた。
聞いたこともない言葉の筈なのに、ミコトは恐怖心を抱いてしまっていた。想像するだけでも何かが其処にいるかのような感覚に陥った。
「………何それ」
ミーナは平然を装って言ったが内心驚いていた。いや彼女もその言葉に恐怖心を抱いていた。何故だろう、その言葉には圧がある。
「今こっちで散々好き勝手暴れてくれてる犯罪者さ───いやもう犯罪者では済まないね──アイツは死ぬべき悪魔だよ」
「死ぬべき悪魔…?」
剣のように鋭く、彼女の知るナナリの言葉遣いとは思えなかった。
「あぁ、ヤツは今もまだ何処かでライダーの鏖殺を目論んでると思われる人物さ。ソイツは今まで何個ものライダーの集落を襲って血の海に変えてきた。被害者なんて一人じゃぁ数えきれない」
ナナリの淡々と吐かれた言葉を黙って聞く。
「動機は不明。被害者の身体と遺族が残ってれば良い方。最悪は其処には元から何も無かったかのように村ごと消される。この前見つかった遺体は骨、血だまり。それだけさ」
「酷い……ハンター達は動かないの?特に二つ名のハンターを動かせばすぐに解決する話じゃないの?」
「それが簡単にはいかないんだ。今回、ライダー達を護衛していたハンターは二級相当にあたる二名のハンターだったけれど結果的には五体が全部バラバラに斬られていた」
曖昧なものだったが二級相当のハンター、それも二名ともなればミーナにしても心強い護衛だった。
それなのにどうして────
「今ギルドが総力を挙げてライダー殺しを追っている。二級……いや一級全員が捜査に全面的な協力をしている」
「一級全員って何、戦争でもするつもりなの?」
「戦争ならどれだけよかっただろうね………これ、一人の人間に対してこんだけの総力挙げてんだよ?マジで……馬鹿になるよ……」
「疲れてるなら少し休んだ方がいいわよ……結構窶れてるんじゃないの?」
話の内容が重いせいかミーナな急にナナリを労り始めて体調を気にし始めたが「大丈夫」と一声でナナリは断った。
この仕事休めないし、ライダー達の為にも決して休んではいけない仕事だとナナリも承知の上での過労だった。だから幼なじみがいる新大陸に仕事で向かうことになった時は嬉しかった。
ナナリはこの仕事を終えた後、本土に戻れば二級ハンター達とライダー殺しの捜索に掛かる予定だった。死ぬかもしれない時に幼なじみに会えたのは幸運だった。
───そっか、ハンターっていつもこんな感じなんだ。
見慣れてはいるけれど慣れてはいない自分の番にナナリは変な気持ちになる。憎悪でもない。後悔でもない。あまりにも不思議な感情───言葉では表せそうにない。
「やっぱり休むよ───少しだけどね」
「手のひら返しかよ」
あはは、と笑うナナリに安心ような顔で溜め息をつくミーナ。このやり取りも随分懐かしい。
すっかり平穏という生活から離れきってしまった二人には苦しさが残る。明日、死ぬかも───いやな妄想が膨らんでしまう。
「ミーナちゃんさ、“付き合わない”?」
「──────はぁ?」
すっとんきょうな声が出た時にはもう物陰にはミコトは居なかった。
~~~~~~~~~~~~
夕日が海の彼方に溺れ始めてから随分時間が経ってオレンジは丁度半分を海に沈め終えていた。
これからナナリの乗った船は夕日を目指して進んでいく。不安と恐怖と一握り好きな人からくれた勇気を乗せて進んでいく。
『────付き合って?』
『うん』
『もっと大人になったら答えてあげる』
脳裏にこびりついて離れない恥ずかしい過去の記憶。必死に上り詰めてきた日々の支えにもなってくれた薄情だったり優しいかったりよく分からないヤツ。
少しは感謝してるかな───
「ごめんなさい───ナナリ」
精一杯の謝罪であった。次があること願って言葉を考える。その時の言葉は“ありがとう”かな。
今はただ──脳裏に浮かぶ悪魔を殺して──。
彼女は一度、ある人に訊いたことがあった。
『人を殺す事は───いけないことですか──』
その人はそう答えた。
『ワリィ事だが──していい時もあると俺は考えるね──好きにすりゃいいさ─こういうのを決めるのは他人じゃなくてテメェさ』
それがまだ残っている。
「どうしようか……」
謎の脱力感に浸ってしまっていた。
そして騒がしかったミーナの一日が終わった。
読了ありがとうございました❗
ここであまり解説できていなかったことをご紹介したいと思います。
受付嬢の出番が全くないのは理由があって率直に言うと担当が変わったっていう設定でして、そもそも受付嬢の担当は元々カムイっていう設定でカムイが亡くなってからはミーナの担当に変わった感じです。
今彼女はセリエナで頑張ってくれてます。本作の方でも優秀扱いされてましたからね。結構忙しいのでは?
じゃ今誰がミーナの編纂者やってんだつー話ですけど何故今の今までこれを話さなかったのか担当は“ミコト”がやっています。
彼は一応、ミーナ付きの編纂者としてクエストに動向し、もしもの場合はライダーとしての独断での行動も許可されてる人物です。なんやかんやイレギュラーな編纂者扱い。
ティガレックスの時はライダーとして動いてるので編纂者扱いはされてません。
よし❗話したい事は終わった❗
ではまた❗
導きの青い星が輝かんことを……
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