導きの青い星と蒼い絆の物語   作:MAMYU9

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夜は痛い

 「てことでぇよ……ヒデェ話だろぉ…?」

 

 ミーナはこの隣の席に座っている酔っ払いの女、サシャをどうにか最善の対処をしなければならなかった。酒を水の要領で飲み続けたせいかすっかりうとうとした自我に磨り減ってしまっている。林檎の芯よりも細い正気すらも最早保てていない。

 

 「ねぇサシャちょっと飲み過ぎよ…ほらお水」

 

 ミーナはコップ一杯に入った水をサシャの前に置くが彼女は気に食わない顔をすると空のジョッキを高く掲げて親しい家族に言うように「御代わり!!」と叫び始めた。

 これには他の席に座っていた肝っ玉の持ち主達も流石に驚いて目を丸くしていた。アイルーの料理長はこの有り様に頭を抱える他無かった。

 

 「ごめんなさい…彼女にもう一杯だけ…」

 

 ミーナは謝りながら彼女のジョッキにもう一杯注いでくれるように頼んで返ってきていた水を一気に飲み干しながら今日一日の出来事をフラッシュバックさせる。

 それは確か今日の朝、クエストボードを確認していたミーナに通りすがった上機嫌なサシャが飲みに誘ってきた所から始まった。

 飲みくらいならとミーナもその時は特段、何も考えずに了承し、日が暮れて月が上り始めた頃には待ち合わせのこの食事処には着いていた。

 其処からサシャと合流してミーナも嗜む程度に飲んで話して────彼女の記憶はここからあやふやだったが断言出来る事は幾つかあった。

 サシャは随分前からこの調子で、もう合流してから日が変わる位には飲み明かしてるということを彼女は断言できた。

 既に隣の彼女の顔は火照って耳の先端まで染まりきっていた。肌の表面から今すぐにでも湯気を出しそうなくらいの赤。

 ミーナも料理長につられて頭を抱えてしまう。その時触れた額に違和感を感じる。そして脳が正常に働いて感覚を取り戻す。

 

 「あっつ……」

 

 彼女は酔っていたのか身体中汗びっしょりに濡れているにも拘わらず今更、汗をかいている事を認識して暑さを感じ始めていた。

 自分にも酔いが回り始めた粉とを恐れたのかミーナは水をもう一杯貰いまたもや一気に飲み干した。

 水の味が分からない。そもそも水に味なんてあったのか?あったか。

 

 「なぁ…ミーナ。今日何の日か分かったりするか…」

 

 「私が地獄の飲み明かしを貫徹してしまった日」

 

 直球に出た言葉。疲れ始めたミーナはふざける事に専念した。

 

 「チゲぇよ。……今日はな私が人を仲間を殺してしまった日だ。記念日だなんておめでたいモンじゃねぇ、戒めの日だよ」

 

 サシャは先程とは明らか顔の色を変えてマッチで煙草に火を点けていた。テーブルにはマッチ箱が置かれていて隣に一本のマッチが追加で置かれた。

 ミーナは言葉が出なかった。頭の中では言いたい事が山程あったが口がゆうことを聞かず、舌は動かず仕舞いで唇は開いたまま硬直してしまっている。

 サシャとの付き合いはアステラに来る前から続いていてもう三、四年ともなる付き合いの中でも初めての告白は異常なモノであった。

 

 「殺したって…急に──」

 

 「嘘」

 

 「嘘なの?」

 

 「嘘だと思うか?」

 

 サシャの言葉に半信半疑なミーナであったが思いきって訊いてみる事にした。初めてする質問。【貴方は人を殺しましたか?】。まるで犯罪者への取り調べ。

 

 「本当……なの?」

 

 「実際に私が手に掛けた訳じゃないし、誰かに依頼した訳でもない。した訳でもないが……仲間を一人だけそんな目に遭わせるってのは詰まる所そういう事だ」

 

 彼女の知らない、触れてはならない過去に触れてしまったミーナは何時ものように口を動かせない。まるで呼吸の仕方を忘れたかのように当たり前が出来なくなっている。

 

 「どう思う?見殺したゲス野郎が今は呑気に煙草咥えて酒を嗜んでやがるんだ。アイツは多分上で私の事を呪い殺そうと頑張ってる最中だろうよ」

 

 ミーナはサシャの過去の何もかもを知らない。「きっと恨んでなんかないよ」なんて言い切れないかった。もしかしたら自分もそうなのかもしれないから。

 

 「私達、共犯かもね」

 

 互いの傷を抉る言葉だった。それでもそれは思いがけない言葉なんかじゃなくて考えて、確証を持って吐いた言葉。

 サシャは一気に白い煙を空の黒に濁らせて吐いた。

 

 「テメーも同類なら私の罪はどんだけ重いんだよ。お前の倍は重いだろうよお互い人を殺した犯罪者なら」

 

 ────悪人を殺すのは罪ですか?

 ────善人を見捨てるのは罪ですか?

 ────私達だけが生き残るのは(ばつ)ですか?

 答えは二つは否。悪人だって処刑という名の制裁(ころし)が行われて例え善人が目の前で死んでいってそれを助けなくてもそれを罰する事は出来ない。

 ただしそれを行った者、見た者が生き残るのは間違いなく理不尽に与えられる(ばつ)である。

 永久的に偽りの罪が描かれた足枷を無理矢理付けられて暮らす事になる。

 描かれた画はその時脳裏に焼き付いて離れない光景。罪状は人殺し。

 

 「辛くないかミーナ。これからハンターとして、人として生きていくって事はそんな事を耐え抜かなきゃいけないんだ。悪人から自分や他人を救おうと悪人を殺しても罪にはならない。“セイトウボウエイ”ってのが働くからな…」

 

 まるでいっそのこと罪にして欲しいと言わんばかりの言いぐさにミーナは言葉を失う。手にしたいるジョッキを見ているのかはたまたマッチ箱を見ているのかサシャの目は何処を捉えているのか分からなくなる。

 

 「その人に呪われたくないからって法に呪われようとしてる訳?馬鹿みたい」

 

 そんな矢先。ミーナの口から思ってもみない言葉が出た。意図的なのか真実はミーナにも分からない。

 

 「そうだな……法ってのは罪という重りから自分を解放させる事が出来る最も簡単な手段だからな…。他人を傷付けておいて金を払うだけで済むケースなんて探せばザラに見付かるものさ。法ってのはどうやっても形で償うだけなんだ」

 

 サシャは一度口から煙草を離して大きき煙を大道芸人みたいに吹いた。二つ指で挟んでいる煙草も元の大きさから随分背を縮めている。

 ミーナの顔は伏せられていて隣のサシャでもその顔色は窺えないが言えることは“真っ黒”だった。

 

 「疲れてるのか?」

 

 「……いいえ」

 

 サシャの心配の言葉にも素っ気ない対応。疲れているだけならどれ程良いだろうか。彼女には少し大役を任せっきりだったりしている。

 疲れているんだ。きっとそうだ。

 

 「その人はどんな死に方だったの───」

 

 サシャはあまりにも率直で悪意すらも垣間見れるミーナの言葉に驚いてしまう。それでも質問された以上、答える気だった。

 

 「テオ・テスカトルに殺されたんだ。前日、私が調査を手伝うのを断ったから彼女一人で向かう羽目になって──それで──彼女は──焼き殺された後が見付かった。顔は真っ黒焦げで、煤で出来てるみたいだった──防具を外そうとしても溶けてた皮膚や肉がくっついて離れないんだ」

 

 サシャの話はまだ続いた。

 ミーナもその異様な程の現実味(リアリティー)は吐き気すらも誘った。

 

 「一日経った後だというのに嗅いだことのない焼死体の臭いが辺りを漂っていてね……何か彼女の形見を親御さんにと思ってね、一番に目を付けたのは彼女が肌見離さずつけていたペンダント。だったけど…煤で汚れたそれは手で触れると砂の城みたいに崩れた───」

 

 「………それでどうしたの」

 

 「───ソイツの腕をくれてやった。既に骨になるまで燃やされて、それでも尚武器を離さなかった腕を渡した」

 

 信じられる話だろうか?親に自分の子供の腕を形見を称して渡すのだ。誰だって正気じゃない。ミーナは分からなくなる。正しいとは何か。正気を保った行動とは何かを考え始める。

 

 「勿論、葬儀にも参加したんだがよ───どうしたことか泣けなかったんだよ。悲しいなんて感情も薄れきっていて──別れの言葉も交わさずに式を抜けたんだよ」

 

 サシャはポツリと呟いた。

 

 「私は──間違ってたか」

 

 「アイツだけじゃない。二つ名のハンターに成ってから身近な死を何度も体験してきた。それでも関係ないと葬儀にも出ず、あまつさえカムイの葬儀もすっぽかした」

 

 ミーナはもう何も喋らなかった。もう聞きたくないってのが本音だった。何故そこまで掘り出してくる?もういいだろう?それは貴方だけの罪じゃない。私の罪でもある。

 

 「なぁ…お前は辛くないか───」

 

 その次の瞬間、ミーナはとんでもない言葉を放った。

 それにはサシャも瞳孔を開いて固まってしまう。

 

 「殺す事に慣れてしまえば───楽になれるかしら──モンスターも人も──両方を殺してしまう事に何の罪も感じないようになるのなら──」

 

 「何……言い出すんだよ……」

 

 「ねぇ──教えて───私はどうすれば良かったの…」

 

 悲痛を混ぜた声が細やかに放たれて哀愁が漂う。人を失った恐怖が未だに祟りのように取り付いて離れなくて、誰かに見られている感触が消えない。

 これがあの日から永遠に続いていた。

 失って気付くそのモノの尊さは何時も自分の首を絞めた。助けれた──そんな虚言を尊さは一心不乱に吐きながら首を絞めてきた。

 

 「どうしようもなかった……んだよ。誰も助けられなかった。私もお前も───あぁ、イテーな」

 

 サシャは上の空で煙草を吸い続けた。もう元の姿ではなくカプセル見たいに縮んで小ぢんまりしたのが冬場の吐息みたいに色薄い半透明な煙を昇らせていた。

 その煙草の姿は今の自分達みたいだとミーナは腕の隙間から覗き込んで感化されていた。

 サシャは流石に吸いにくくなったカプセルを地面に吐き捨てると踏みつけて鎮火した。

 

 「お前はもう帰んな。勘定は私がやるから家帰ってねんねしとくんだな」

 

 サシャはうつ伏せのミーナの頭をひっぱたくと欠伸をしながらもう一本、煙草を口に咥えて火を点けた。モクモクと小さすぎる狼煙を遥か遠く銀河に伸ばして堪能する。

 飲み過ぎ疲れすぎのデバフは表情や身だしなみに影響を現し、ワインみたいな赤い髪がくしゃくしゃに乱れて目の下に隈が出来ている。

 ミーナはそれを最後に捉えると半場、潤んだ目になりながらも少しふらついた足取りで帰路に着いた。

 サシャはそんなミーナを見ながらポツリと呟いた。

 

 「いーな。パートナーが居るって」

 

 まだ月は明るく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました‼️
これにて第一章完です。
ではまた❗
導きの青い星が輝かんことを……

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