「ミーナちゃんにはいろいろ頑張って欲しいことがあるからとりま、クエスト行こっか」
これが会って数分、他愛もない呑気な会話の最中にメイリンから放たれた言葉だった。唐突っぷりに驚かされもしたが狼狽える事もなく、本人もそれを望んだ。
そして向かった先は大蟻塚の荒地。ターゲットは陸の女王とも名高いリオレイア。知名度はあのリオレウスと同列に並び、飛竜の中でも頭指に入る強さを持ち合わせる。
そしてこのクエストにはメイリンから付けられた条件が一つあった。
「目的地に着いたら君に武器を渡すから持ってこなくて大丈夫だよ」
そんな経緯の元、ミーナ達は大蟻塚の荒地に来ていたのだった。
~~~~~~~~~~
「はい。これが使ってもらう武器ね~あと絶対に研がない事。これ約束」
ベースキャンプで狩りの支度をしていたミーナにメイリンが刀袋の中から一本の太刀を取り出して渡した。直ぐに彼女も受け取ると鞘を外して刀身を拝もうとする。
それはよく駆け出しハンターに渡されると
「滅茶苦茶…切れ味落ちてません?こんなにも刃こぼれ……」
ミーナがよく観察眼を凝らせばモンスターを斬るために有るとは思えない程のノコギリみたいな凹凸激しい刀身に、すっかり固まっている血がちらりほらりと付着している。
これは幾らなんでも……非常識が過ぎる。
「これで勝てるんですか…?」
不安しかないミーナを暫し大事そうに見つめながらメイリンは彼女に声を掛けた。優しい声、言葉、顔、一瞬で彼女を安心させた。
「安心しなって。何かあれば俺が直ぐに助けるからさ」
「そうですよ!!メイリンさんはちゃらんぽらんで責任感無くて性格ネジ曲がってますけど凄い実力者なんですからね!!」
─────奥から聞こえてくるフーカの発言でだいぶ台無しになってしまったがミーナは気合いを入れる為に自分の両頬をひっぱたいて気合いを入れた。それを横目に丸まったルルネを撫で終えると、メイリンは自分の小指に指輪をはめた。
「さて──各々準備を済ませたことでしょうし一狩り行くとしますか!」
「───あ、ごめんなさい。ちょっと口紅塗ってきますね~」
突然、訳の分からない事を言い出してフーカはテントの中に戻っていった。その様子をこの場の誰もが呆気に取られる。
「───モンスター相手にナンパでもするのかな?」
「マジで言ってるんんですかね……」
「人間ってモンスターにも求愛行動をとるルルか?」
その後約五分間、フーカを待ち続けた三人組はどうしても彼女の色の変わった艶の目立つ唇から目を背けれなかった。
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大蟻塚の荒地、エリア七番にてハンター二名、奇面族一体、補佐官一名が異常行動をとるボルボロスと遭遇。
一名のハンターと交戦を開始し、ハンターの奮闘によりボルボロスを討伐。
「環境が不安定だから気を付けてくれって言われたけど……へぇ~マジなんだ」
メイリンは身を隠せる程の岩の陰に潜みながら目の前の光景に驚いた様子で呟いた。彼らの前に居座るのは小型モンスター達を蹴散らしいる泥の王、土砂竜ボルボロスがそこには居た。
王冠のような頑強な頭殻に本来弱点である火を通さない泥の鎧。武器にも成りうる攻守共に万能な小さな戦闘要塞にミーナは背負っている太刀の柄を握りながら冷や汗をかく。
この武器では勝てない。ボルボロスの甲殻と泥の鎧で軽減された竜のナミダにも満たないダメージでは少なくとも太刀打ち出来るものではない。ハンターがモンスターに勝てるのは武器の力が有るから。別に戦わなくていい。勝たなくていい。そうは分かっていてた。
それでも、武器が変わっただけで、なまくらと知っているだけでここまで相手が強大に見えるなんて知らなかった!!
「メイリンさん……私がやります」
ミーナは柄を握るのを止めて必死に震える手でスリンガーこやし弾を装填した。そしてボルボロスの様子を窺う。
何故かは知らぬがあのボルボロスは本来自分の縄張りである泥沼から出て、小型モンスターを食用目的以外で襲っているイレギュラー。こういうのは過去に一度体験したことがある。レギュラーからのイレギュラーと成ったケース。かのディノバルド亜種の一件だ。
ここまで気性の荒いボルボロスを警戒しない訳がなかった。
「いんやぁー。これは俺がやるよ──あのボルボロス、よく見たら幾つか傷があるね…他のモンスターと縄張り争いでもしたんだろ…大方、今回の俺らのターゲットのリオレイアが原因だと思うけどね。ま、環境を荒らしてるんだ討伐しちゃっても問題無いでしょ」
するとメイリンがその様子をよく観察しながらミーナの背中の太刀を取って抜いた。音が立たず、気配を感じず、取られた事にミーナは陰の外にメイリンが出るまで気付かなかった。
「え!?ちょっとメイリンさん!?」
「まーまー大丈夫ですって───私、あの人よりも強い人、一人しか知りませんから」
ミーナはその言葉に驚いた。
一人しか知らないって……あの人まだサシャと同じ二級じゃないの?
「彼の二つ名は『
ミーナはメイリンを見つめる。彼は勝てるのか───あんな武器で。
「今から見せるのはミーナちゃんに使いこなせるようになって欲しい技、
「しん……がん…?」
するとメイリンはそのなまくらの先端を地面に着けて刃をボルボロスに向けた。日光が反射して銀色の光が辺り一面にぎらつく。そしてそれはボルボロスの目にも留まった。
『───────■■■■‼️』
凄まじい雄叫びを上げながら目の前に居座る己の半分にも満たない小さき虫けらに鋭い眼光を浴びせる。しかし───それは虫けらか───否か。
次の瞬間、ボルボロスは素早い動きでメイリンに噛みついた。そして大量の血が飛び散ったのを見てミーナは絶句する。
「メイリンさん!?」
ミーナが陰から飛び出そうとすると腕をフーカに掴まれる。必死に振りほどこうとするがフーカは両手で掴んでいるため中々振りほどけない。
「ちょっ!?危ないっすよ!?今行ったら巻き添え喰らっちゃいますって!」
ミーナがハンターナイフ一本で無謀な救出を試みようとしたその時だった。突如としてボルボロスの頭部に小さな亀裂と傷が幾つも現れ始める。そしてバキッと何かが壊れた音と共にボルボロスが怯んで一歩後ろへ退いた────のちに、メイリンは血の垂れるなまくらを振るった。
ミーナが呆然と眺めてる中、彼は此方へ振り返って片手でVサインを送った。
「だいじょうぶい。なーんのなーんの心配ナッシング。やる時はやる男、メイリンはこんなんじゃくたばりゃしませんて」
笑顔だ。彼がミーナ達に向けたのはこんな状況の最中の笑顔だった。
すると、彼の刀が震え始めた。そして────光の筋が幾つにも束になって──揺らいで流れてるようになって──その後、流れが止まった。
「────やろーかい」
刹那。メイリンが飛び出すとボルボロスが見極めたように頭を叩き付けてきた。しかしメイリンはそれよりもうんと素早く腹のしたに潜り込んだ。けれどそのスピードは刃が光を反射するよりも速い。
ミーナが目を疑った次の瞬間、大きな光の輪がボルボロスの脚を斬ったのだった。所々に現れる筋の乱れはまるで流れを逆らう幼魚が泳いでるみたいで幻想的──。
ボルボロスは衝撃に耐えられずに体勢を崩したその時、メイリンは流れる光の筋を泳がせたままボルボロスの尻尾から頭部にかけて身体全体を回転させながら切り刻むという、とても人間離れした業を見せた。
そして口から血を垂らしていたボルボロスの眼球にメイリンはゆっくりと──ゆっくりと──反撃される事もなくぷつりと刃が刺さる。刹那、メイリンはその場から消えた後、ボルボロスが叫びを上げる前に反対の目も一瞬にして潰したのだった。
『────■■■────■■■‼️』
「目ってのは全生物のウィークポイントでしょ?枝でも潰せりゃ、機能を一瞬無くすだけなら砂でも水でも止めれる。刃こぼれしててもいっちょ前に金属で出来てるんだ。簡単に潰せる」
まだボルボロスを討伐したわけでもないのにメイリンが血のついた先端を眺めながらミーナに話し掛けた。彼女は返事に困ったが暫し熟考したのちに頷いた。ボルボロスに目はいったが。
「けどね大抵のハンターって目を狙わないんだよね。何でか分かる?」
メイリンは自分のまぶたを親指でつつきながらミーナに質問した。するとミーナもこれには不思議そうな顔をして唸ってしまう。
突然、メイリンが笑いだした。
「いいよその顔!マジで分かんないって顔!いいねーそういうの欲しかった──とそんなんはどーでもよくて……答え合わせだ」
その次の瞬間、ミーナは言葉を失った。メイリンの後ろにはまだ視力が回復していない筈のボルボロスが大きく口を開けて窺っているのだ。そしてメイリンが人差し指を立てたタイミングで一気に頭から───
「メイリンさんっ!!」
するとメイリンは瞬間的な速度で開脚をして、ストンと股を地面に着けてボルボロスの噛みつき攻撃を見事かわしたと思えば、そのままボルボロスに回し蹴りをお見舞いした。
「しょーめんが危ねーからっていう簡単過ぎる理由なんだよね。意外でしょ?」
ミーナはぽかんと口を開けたままメイリンとボルボロスを見つめることしか出来なかった。なんというか戦闘というよりは蹂躙だと思う目の前の光景を驚くことしか出来なかった。
これが
「じゃ、終わりにしますか」
メイリンが刀を腰の位置に構えた次に何が起きたかは理解出来なかったがミーナには結果としてボルボロスの討伐成功という事だけが残った。幾つもの残光がボルボロスを覆って、隠して、霧が晴れるように光が消えれば目の前には大きな獰猛だった土砂竜の死体だけが倒れていた。
「あれ…?いつのまに───」
はっと放心状態だった我を取り戻し消えているメイリンを目で探すと後ろから誰かに頭を押される。力強くてミーナでさえも転んでしまいそうな力強さ。踏み留まって後ろを振り返ればそこには口角を斜めに吊り上げているメイリンが立っていた。
「……何するんですか。痛いです」
ミーナが本能的にメンチを切る。
「キレないでよ…おーこわっ」
メイリンはブツブツ呟きながら地面に尻餅をついてポーチの中を漁り始めた。少しすれば中から小さい巾着袋を取り出して紐を緩めて開いた中を覗けば細かく千切られた干し肉のようなものが沢山入っていた。メイリンはそれを一つ手に取り何回も噛んで噛んで噛み続けた。
「貴重な食糧だ。一つ腹ごしらえに食べるといい。ただ、貴重な食糧だから何回も噛んで…空腹感を養うんだ。言うのを忘れていたけどリオレイアを討伐するまでは帰還はしないよ。だからって君が一回で仕留められるとも思わないけど」
メイリンは噛み続けながら語りかけた。そして袋をミーナに投げて受け取らせる。彼女は受け取って直ぐにばっと手を突っ込んで一番大きい干し肉を手にとって何回も噛み始めた。
「もともとそのつもりです…!」
ここまで差を見せつけられれば、生物としての意地が彼女を奮い立たせた。
彼女は一気に干し肉を噛み千切り、喉の奥へごくんと流す。
「やっぱり。君のそういう所がいい」
メイリンは静かに誰にも気付かれる事なく微笑んでそんな様子のミーナを見つめた。
▼▼▼▼▼
大蟻塚の荒地、エリア二番にて目標であるリオレイアとハンター二名と奇面族一体が遭遇。
一名のハンターが交戦をして─────
そいつは何者にも脅える事もなく、ただ其処で堂々と辺りを廻っていた。木々に視界を遮られるが物陰になってくれているお陰でミーナ達は至近距離まで近づけていた。其処で彼女が思ったのは一目見てひしひしと伝わるサイズ感。
彼女は気付かれぬよう小声でメイリンに語りかけた。
「大きいですね…最大金冠はあるんじゃ…」
最大金冠とはギルドが今まで記録した中で最も大きい個体の別称。その遺体の実物を見たわけじゃないが昔にサシャに教えてもらったサイズを覚えていた。一目見てそのサイズ感を測れた訳ではないが大きさの異様には流石に気付いた。
隣の木に隠れているメイリンはうーんと声を曇らせながら木に背中を張り付けてちらりと様子を窺った。
「確かに少しおっきいな。ちょっとしんどいかもね…一回これは急所を突くしかないね。奇襲を狙おう」
リオレイアが此方を見てない内に──ミーナとメイリンは会話はせずに目だけの合図で互いに頷き腰に装備した太刀の柄を握ってリオレイアが反対方向を向いた──その時だった。
「ごめんルル──くしゃみが──」
「「!?」」
ルルネのその言葉に二人は青ざめて手でバツを作ったり口に指を当てたり、慌てながらくしゃみを止めようとしていた。しかしルルネが大きく顔を仰け反らせるとミーナは走って止めにいった。
「あ、大丈夫ルル」
ゆっくりと顔を戻してきたルルネに二人とも息を吐いて安心した。が、ミーナの方を向いたメイリンが再び青ざめる。
「ミーナちゃん!?」
「あ」
ミーナは木陰からすっかり身体を出していてリオレイアにどうしたものか、覗かれて睨まれていた。それは確実に縄張りに入った虫として見下ろされていたのだった。
「やばっ!!」
何かを察知したミーナが直ぐにメイリン達の隠れている木陰に緊急回避すると彼女の突っ立っていた位置に豪火球が飛んで木を巻き添えに小規模の焼け野原を作り出した。
「あぶね!?って此方に来んな!!」
「あっち行けルル!!そして華々しく散ってくるルル!」
メイリン達が言葉を荒げた後その場を一目散に離れた。そしてようやくミーナはその意味を理解したが──今から行動を起こすには少し遅かった。
刹那。彼女達の木陰になってくれていた木がバンッと大音を立てて破裂をし土埃の霧が晴れれば黄色い瞳と緑色の鱗の装甲が浮かび上がり出現した。
ミーナは直ぐに腰から刀を抜いて浮き出たリオレイアの頭部に刀を思い切り振るうがガンッと弾かれてしまう。甲殻も少ししか削れず、腕に振動が響き渡り痺れてしまう。
「ッ!?硬──」
ミーナが動けないままでいるとリオレイアの素早い尻尾からの反撃が飛んできて広範囲の薙ぎ払いが直撃した。地面を抉り、風圧を起こすほどの強烈なもの。これをミーナが喰らってその場に留まる事は不可能で吹っ飛ばされ、木に激突する。
頭を強く打ち、ぐらんぐらんしながら膝ま突く。額からはヒタヒタ血が垂れていて、ミーナは視界の邪魔にならないように擦って拭った。
「クソ野郎め…いきなりきやがって…」
カチャと刀を構えるとミーナは思考を巡らす。このまま振るえばさっきの二の舞だ。勝つための活路はメイリンの言う心眼しか他なかった。うろ覚えの見よう見まねに懸ける他なかった。
ミーナは勢いよく地面を蹴り飛ばし一気に接近し、両手を大きく振るうって再度リオレイアの頭部に攻撃を仕掛けた。しかし虚しく結果は同じ、どころか先程よりも硬直が激しく手が痛む。
するとリオレイアが口を大きく開けるのでミーナは鳥肌が立った。ヤバい──噛み付かれる。
ミーナは刀身に頭突きをしてリオレイアの口に刃を突っ立てて抵抗をした。
「てめぇ…これの落とし前はつけてもらうからな…」
額には傷が出来てしまい拭ったのにまた血が溢れ出てしまっている。ミーナは我を失ったのかはたまた策略の内なのかあと一歩の所の間近の頭部に蹴りを一発ぶちこんだ。そして少しだけ怯んだ所にもう一発入れ込む。するとリオレイアは大きく仰け反って口から刃を離した。
「クソ…今度こそは……」
「ミーナちゃーん!!」
突然、後ろから声が聞こえてきたので振り返ればメイリンが腕を振りながら呼んでいた。
「リラーックス!!落ち着いていけー」
ミーナはその言葉を聞くと、どこか安心した気持ちになった。彼女の頭に上った血は退いていって賢い判断が可能になり、冷静にスリンガーの弦を引いて一つの弾を装填した。
もっと落ち着いていけ、私。
「はぁあっ!!」
太刀を構えながら彼女はリオレイアに猪突猛進をかまし、陸の女王を呆気させる。王女の目にはどうしようもない単調な馬鹿にしか映らぬもので、虫けらを焼き払う為に喉の奥を熱くさせる。
そして喉の奥の燃え盛る物体を吐き出そうとした刹那、彼女の世界は真っ白に染まったと思えば暗転した。
────一体何が起こった!?
その時、リオレイアの目はミーナの放った閃光弾により一時的な失明状態に陥ってしまっていた。この盲目の中のリオレイアを前にミーナは太刀を片手に持ち変えて素手で王女のごつめいた甲殻を纏う頭部を押さえてそれを支えに空中高くに身を投げた。
ミーナは投げ出された際に両手で柄を握りしめて落下を始めた。それも身体の軸を回転させながら重力に従いながら高速で女王の頭部に落下していく。
そして身体ごと回転した刃は弾かれながらも数回ヒットし、火花を散らす。そのまま着地後迷わず彼女はリオレイアの足元に潜り込みある考えから見いだした斬撃を試した。
今まで彼女は一発一発を本気で
だから彼女はなぞった。正確にはなぞるようにリオレイアの脚を斬った。
そしてそれは正解であった。見事、女王の脚から血が溢れ出る。少し深く、切り傷が残る。
「成ったな」
メイリンがそう確信したようにミーナは心眼を成功させた。
──しかし、成功がある不純物を心に生んでしまった。
「ミーナちゃん!?」
それは勝てると思い込んでしまった自惚れた愚心、元より鈍っていた身体、どうしたものか危機感の欠如───それがミーナに牙を立てて襲った。
「あ───」
たった一瞬の隙を怒りの女王陛下が見逃す筈もなく、回復しきったその眼光を尖らせて瞬く間に飛び立つと暴風でミーナを煽り、その瞬間に────リオレイアの
バンと一気に吹っ飛ばされ、多量の毒液を浴びたことを薄く記憶に残したまま──彼女は気を失った。
読了ありがとうございました❗
もしよろしければご意見や評価の方もよろしくお願いします❗
ではまた❗
導きの青い星が輝かんことを…
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