導きの青い星と蒼い絆の物語   作:MAMYU9

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四つ巴

 既に古代樹の森に役者は揃いきっていた。どれもこれも腕に覚えのある名役者であり、連ねる顔にも見覚えのある人物ばかりである。

 その中にはロジエの家族さえ居た。

 

 「ミーナ…まさかこんな所で再開するなんてよぉ!驚いた驚いた!」

 「驚いたってぇ…!腕がっ!!」

 「どういう状況だよ?何でロジエと猫オンナが殺し合ってんだ?訳分けんネ」

 「あっー!!あの時の金髪男!?動かないでくださいよぉ!?」

 「面白いね……フユメの子猫まで来て…」

 

 辺りはぐちゃぐちゃ。情報が多すぎて理解が追い付く人間はこの中には居ない。誰から銃口を、攻撃の矛先を向けられてもおかしくはない四面楚歌。いや狙撃の可能性も含めて五面楚歌である。

 ミーナは頬に汗をつたらせる。この状況を呑み込めない事に焦りを覚えていた。どうすればいいのか分からないのだ。大切な人が傷ついて心に余裕がない。

 

 「クソッ!!離れろチビオンナっ!!」

 

 ミーナは素早い動きでリボンの少女の顔面を下から蹴り上げた。爪先は少女の顎を強打し、そのまま吹っ飛ぶ。彼女は舌を噛んだのか微々たる血飛沫を飛ばしながら宙を回る。

 

 「うびゃっ!」

 

 ミーナが動き始めたと同時に黒猫もロジエも再度、動く。

 両者ともに拳を振るうが相手の顔に命中させたのはロジエだった。ロジエは手のある腕を構えながら黒猫から迫る俊足のジャブをかわした後に顔面に音速を超えるほどのスピードでぶん殴る。

 黒猫は自慢の体幹で地から足を離す事は無かったが絶え間なく迫り来るロジエの蹴りが顔面に炸裂する。

 

 「クリィーンヒットォだなぁ!!」

 「………っ」

 

 顔を赤くし、鼻血を垂らす黒猫は少しふらつく。手負いの相手に劣勢なのがどうも気に食わないのか不貞腐れた様子で再び構えをとる。

 土を被ったスーツが風に拐われバサッと揺れる。それが開戦のゴング代わりとなって二人を動かす。

 

 一瞬で蹴り上げた脚はロジエの顔を掠り、ストレートパンチは黒猫を外れて空を切った。しかし、ピッと黒猫の頬に切り傷をつける。まるで刃物のような拳に黒猫は本物の猫みたいに飛び下がった。

 黒猫は袖の間からナイフを手に落としてロジエに向けて投げ飛ばす。

 しかしロジエは難なく投擲されたナイの刃を指で挟んで受け止め、デコイにして近づいていた黒猫をまた蹴り飛ばす。

 

 「うっ………」

 

 吹き飛ばされ、木に叩き付けられた彼女は腹を押さえて悶える。どれほど強力な力で蹴られたのか吐血しながら痛みに耐えていた。

 

 「猫はやっぱよく飛ぶんだなぁ…そういえば液体、だなんて説もあるが液体は蹴れも殴れもしねぇよなあ」

 「師匠…やめてっ!!」

 

 近づくロジエにミーナが静止を呼び掛けた。それにピタッと止まって彼女を視界に捉える。まるでもの惜しそうな顔をして哀愁を漂わせていた。

 

 「ミーナ………」

 

 ミーナもピタリと止まってしまう。

 

 「お嬢さん……逃げろ……ソイツは犯罪者、ライダー殺しだ…現に此処でも一人のライダーが殺されかけた……」

 

 その言葉を聞いた途端、外野にいたメイリンに正体不明の衝動が走り、ロジエに襲いかかった。

 ミーナを後ろへ押してロジエに斬りかかる。しかし、当然の如く避けられて腹部に回し蹴りを入れられる。メイリンも装備は着ず、スーツであったため、幾ら特別製とはいえ最強の回し蹴りは効いた。

 

 「うえぇっ!?」

 

 軽くどころか木々を薙ぎ倒してメイリンは節々を打ち付ける。数十メートルという距離は離されたメイリンは地面に打ちひして踞っていた。

 

 「あがっ………!?クッソォ!?」

 「メイリンか……久し振りだなァ……まだちっせぇんじゃねぇの?」

 

 メイリンに続けミーナもロジエに近付くが彼女の顔を轟音と共に何かが切り裂いた。物凄い突風のような金属の塊が彼女の右の口端に沿って通りかかり、耳元まで頬に亀裂が入って膝を落として頬に手を当てた。

 隙間から溢れる血が傷の深さを顕示していた。

 

 「うっ!?イッ~!?」

 

 唸るミーナにメイリンも黒猫も誰も微動すら困難な状況の中に佇むロジエに遠くからの照準がずっと彼を離さず捉えていた。

 フユメはただひたすらに密林に紛れて引き金に触れている。獲物は素早い動きで翻弄するが群がる猫やら犬やらはしっかりと視認している。

 

 

 

 

 

 

 

 「ミーナに一発当てた。動きは止まってるね。他の狙撃班は?」

 「現在、定位置から移動を開始して距離を詰めています。私達も向かいましょうフユメさん」

 「フーカは此処で待機して、動きがあったら信号弾で合図して。もしミーナが逃げたら撃っちゃっていいよ」

 「分かりました」

 

 フユメは銃口をから煙が漏れる狙撃銃に弾薬を入れ直して髪を紐で編んだ。

 

 「第二狙撃班、行動開始」

 

 彼女の合図で五人で組まれた狙撃班が地獄へ向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロジエ以外が動かぬ地獄で一人むくりと起き上がる死体人間がいた。口から滴る血反吐も腕で拭って黒ずんだ眼はロジエを捉える。その様子も彼はしっかり捉えていた。

 

 「黒猫ちゃ~ぁん?もうおっきの時間かぁ?」

 「ん………」

 

 拳を構えて僅か五秒、急接近する黒猫にロジエは蹴りを入れて迎撃しようとするも、すらりと避けられて、真下に滑り込んだ黒猫はアッパーを仕掛けて顎を殴る。

 確実に急所を突いた黒猫は顔面に蹴りを入れようと振るうがロジエは倒れかかるように前のめりになって黒猫の頭を鷲掴みにして蹴りが来る前に頭を地面に打ち付ける。

 しかし、次の瞬間にはまるで黒猫の攻撃がデコイであったかのように背後からメイリンが近づいていて、背に刃を振るう。

 けれども気配を察知したロジエは後ろを向いたままメイリンを蹴りあげて攻撃を無理くり中断という形で防いだ。

 

 「ギャッ!?」

 

 更に追い打ちを掛けてメイリンにとびきりの回し蹴りを浴びせてまた再起不能に追いやる。手負い相手に万全を期したハンターが次々とやられる最中、ミーナは頬を押さえながら叫ぶ。

 

 「師匠!!ホントなんですか!?ライダー殺しだって……!」

 「………まぁな」

 「何で!?」

 「何でって……教えなきゃダメか?」

 

 子供の秘密事みたいに声を曇らすロジエにミーナは問い掛ける。そうであってほしくないという思いがだだ漏れである。

 

 「ちがっ、いや何かの間違いですよね!?そうだ!ドッキリ!ドッキリだ!!」

 「ドッキリで耳やら手首が飛ぶこたぁねぇだろ」

 「あ、じゃ、じゃあホントなんですね……」

 

 ミーナの顔がどんどん暗くなっていき、膝から崩れ落ちてしまう。俯いた顔には涙が浮かんでいる。

 

 「心配する事はネェ。俺は死なねえからな」

 

 ロジエがミーナに向かって手を振った瞬間、彼に鉛の豪雨が降り注いだ。絶え間ない発砲音に硝煙の香り、目の前に居た彼の姿が打ち付けられる弾丸と、巻き上げられる土煙で隠れていく。

 急いで辺りを見渡すとちょっとした木陰から銃口が突き出されてスーツを着込んだ男達が引き金を引き続けている。

 

 「第四班交代!!急げ!!暇を与えんなっ!!」

 

 合図と共に男達が入れ替わり止んだ銃声もまた繰り返される。

 最初の発砲から二十五秒後、およそ百発以上の銃弾の雨が降り注いだ後に離れた部隊から放たれた徹甲榴弾で更に地形を抉り、土煙と黒煙の霧が晴れた時には木々はあらかた倒れてロジエの姿は無かった。木っ端微塵になったとは考えにくい事から恐らく倒れた木々の下敷きになっていることだろう。

 

 「あっ………あぁ………」

 

 ミーナは呆然と何も無くなった場所を涙を流しながら眺めているだけだった。

 そんな彼女を放置して拳銃を構えて進行するスーツの男達。

 

 「ロジエの死亡を確認しろ!!あれだけ撃っても死体を出さなきゃ上は満足しねぇぞ!!」

 「埋もれてるんだ!!警戒しろ!!いや、撃っちまうか!?」

 「あの女だ!!あの女がロジエの跡取りだ!!撃ち殺せ!!」

 

 全てが騒々しい、嵐のような地獄にミーナは絶望していた。撃ち殺されたロジエ、次の標的に移って銃口を向けられる。

 積まれた木々に集う三人の男達。倒れる黒猫一派とメイリン。絶望するミーナ。

 

 しかし、役者は足りない。

 

 聞き耳を立てながら近づく男達の一人が何かに反応した。

 

 「あれっ!?あれ!?」

 「何だどうした!?」

 「何かっ!何か変だ!!変んなんだ!!」

 

 拳銃とはまったく別の方向を確認する男は気が狂ったように同じような言葉を言い続けて、仲間の男と死体確認を放置し、会話を続けた。

 

 「おかしい!!おかしい!!おかしいぞっ!?」

 「おかしいのはテメェの頭だ!!イカれやがったか!?」

 

 男は気が狂った男をまじまじと見ていると段々と異変に気付いた。薄くだが男の顔が横に線が入って三等分にされている。

 

 「お前………その傷……」

 「あああああ!?おかしいいっ!?」

 「何処デェっ───」

 

 次の瞬間、二人の男の顔が三等分に切り裂かれて地面にありったけの脳ミソと血をぶちまけた。まるで心霊現象のような理解不能な攻撃に生き延びた男は直ぐに後ずさる。

 すると背後には誰も居ない筈なのに誰かと衝突する。

 

 「うわぁあ!?」

 

 振り替えると全身穴だらけのロジエが呼吸の音すら聞こえない程、静かに立ち尽くしていた。

 驚いて倒れてしまった男は次に拳銃を向けるが不思議な事にロジエは立ち尽くしたまま、男に指差す。

 男は銃の引き金を引かなかった。ただずっと夢中になったようにロジエの人差し指の先端をじっと眺めて動こうとしない。

 

 

 

 「死になさい」

 

 

 

 ロジエの言葉を合図に男は目から口から耳から血を噴き出して死に倒れた。ミーナはその様子を見ていたがとても喜べはしなかった。また別の絶望がやって来て夜が明けぬまま狼が動き出した。

 

 確実に鈍くなっていたロジエに後続の五人で組まれた部隊が一斉に射撃を開始する。弾道は真っ直ぐ飛び、ロジエの体を次々と貫く。既に死んでいてもおかしくはない彼に掛かった追い打ちだが依然、ロジエは立っている。

 怯む男達とロジエの目があった途端、一人の男が口から大量に吐血して倒れ、それに腰を抜かした男は首を切断されていた。

 果敢にも二人一斉にカットラスに似た剣を持って近接戦に持ち込んだが、二人ともロジエに到達する前に頭を二等分にされる。返り血を浴びる。

 残った男は恐怖のあまり、口に拳銃を咥え込んで引き金を引き自害した。

 

 いつの間にか起き上がった黒猫も状況の整理が追い付いていない。小説の途中を聞かされて、別の物語とごちゃ混ぜにされた気分だった。

 他所を見る目も戸惑いが隠せず、現状を理解していく程焦っているように見える。

 

 「…………何だ…これは…」

 「何だろうな」

 

 ミーナは激しい動揺の結果気を失い、メイリンは這いずりながら彼女の方向へ進める。

 近づけばより鮮明に彼女の裂けた頬の痛々しさが露になる。何とか治療してやらねばと衝動に駆られそうになるが今は此処から逃げる事が先決だった。しかし、一体何処へ?ミーナはギルドから理由は分からないが狙われている。この傷もギルドハンターからの銃弾によるものだろう。迂闊にアステラに帰還すれば裏でミーナは処刑され、ギルドは彼女の存在を消すかもしれない。

 そもそも這いずる事しか出来ない自分に何が出来るのかメイリンは問いただした。焦っていては周りの事が見えなくなってしまう。よく観察すれば何か、ボロがあるかもしれない。

 

 「大丈夫だミーナちゃん……もうすぐ何とかなるからよぉ……」

 

 目の前でロジエと黒猫が対峙している。少なくとも傷だらけのロジエに追い付かれる可能性はないだろう。問題は黒猫と控えるギルドハンター達。単騎最強の黒猫と数ギルドハンターで来られれば逃げ場はない。

 チャンスは誰も手をつけてこないこの瞬間しかない。メイリンは震える体を叩き起こしてミーナを背負って逃げ出そうとした。

 その時だった。メイリンは逃げる足を止めてただ、その光景に驚愕した。言葉も出ない。黒猫も開いた口が塞がっていなかった。

 

 「あーー……」

 

 ロジエは足元に転がる死体の腕を切って残された片手で掴むと、口元まで持っていき、大きく口を開けてそれを貪り始めた。モンスターが殺した獲物の生肉を噛みちぎるように骨から引き剥がして肉を貪る。口に入った人肉はそのまま食道を通って飲み込まれる。

 正気の沙汰ではない。

 メイリンは吐きそうになってしまった。此処まで香ってくる鼻を刺すような刺激臭、頭ん中が真っ白になってしまう程、悲惨な有り様に言葉は出なかった。いや、正確には頭の中にすら言葉は無かった。

 

 「何かの……冗談か…夢なのか?」

 

 これは悪夢だろうか。傷を負って、死人も出して、追い込んだロジエの傷が癒えているのだ。数々の風穴、切り傷、そして撃ち飛ばされた耳、切断された手首がまるで歯が生え替わるように再生していた。

 地獄が口を開けて牙を見せ始めていた。

 

 「クッソォっ!?何だぁ!?んなんだよぉ~!?」

 「これは逃げるしか……」

 

 戦意喪失、即座撤退の意思を見せた二人の行動も虚しく、完全回復を遂げたロジエの素早さは既に、たったの一秒。彼らを通り過ぎていた。

 

 「あっ────」

 「………」

 

 二人の肩から大量の血が一気に噴出する。光の宿っていた眼が薄く暗くなって地面に倒れてしまう。降る血が止まないを動くのはロジエただ一人。一つの銃声も人声も無く、赤い液体が染み込む地面をジャリジャリ言わせながら歩く足音のみ。

 

 「動くなよロジエ──」

 

 静寂だからこそ小さな声が響き渡った。声の主の方向へ視線を向けるとそこには拳銃を倒れるミーナへ向けるフユメと彼女が引き連れる部隊がロジエに銃を構える。

 

 そして彼女が発してから間も無く発射される弾丸は次々とロジエを撃ち抜いてよろけさせる。しかし四肢は撃ち抜けても致命的な損傷は与えられる事はなく、まるで一時的にロジエの機能を停止させているようだった。

 

 「ロジエの足止め。数で押すにはこれぐらい単純でいいね。私はミーナを……」

 

 そうやって他所にやった視線をミーナへ戻すと驚く事に彼女の姿が消えていた。そして付近に倒れていたメイリンも霧のように音もなく消えていた。

 

 「メイリン……?マズイよ…多分、メイリンは保守派についちゃった」

 「…!ヤバイんじゃないですか!?」

 「ヤバそう……」

 「ヤバイねぇ~」

 「ヤバヤバヤババッ!?」

 

 気づけば黒猫一派も姿を眩ましているため──

 

 「───ここは下がろう。ロジエ相手にしてたら負けちゃうよ」

 

 

 しかし、そう簡単にロジエが逃がす訳がなかったのだ。銃撃がたった数秒止んだだけで再び動き出すと土埃の霧の中から散弾のように石ころが真っ正面から飛んできて部隊の銃撃を中断させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フユメ、ロジエ、黒猫、メイリンは完全に察していた。これは四大勢力による全面戦争である。既に大久野島死者を出し、人類の歴史に大きく残される事になる最悪の戦いが巻き起こってしまった。モンスターと人間ではなく、人と人の最も醜い戦いが歴史に刻まれてしまったのだ。

 

 

 

 「エグい戦いになっちゃうね~……ロジエ……」

 「ババアになっちまったかぁ?フユメさんよぉ~?」

 「もうババアだよ……」

 

 フユメはロジエを一瞥すると銃口を向けて躊躇なく引き金を引いた──────

 




読了ありがとうございました。
苦手になってんのヤバイ。6000位が限界になってるわぁ…
ごめんなさい……
何かコロナヤバそうなんで気をつけて下さいね。
ではまた。
導きの青い星が輝かんことを…

第二回 人気投票

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  • メイリン
  • フユメ
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