導きの青い星と蒼い絆の物語   作:MAMYU9

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人形の気持ち

 

 古代樹の森全体に汚染するかのように拡がった血の臭いに鼻を刺されながらもフユメの率いるギルドナイトの二人組はは足を進めていた。

 所々、雨が染み込んだ泥のようにぐちょっと浸かる足場に鼻に傷をつけた男は苛立ちを叫んだ。

 

 「あぁー!!もうなんやねんこの足場あ!?ぬっちょぬっちょしててキモいわ!!」

 「なんや五月蝿いなぁ!?男ならそれぐらい我慢しい!」

 「おニューの靴やのにい~…最悪やで~来るんやなかった~」

 「お前え…あん嬢ちゃん前でそないな態度とるなや?」

 

 そう言って男よりやや背が高い、高身長の黒髪の女は立ち止まって懐から取り出した水筒を飲み干した。男は不満げに女に訊いた。

 

 「あの子、年下のガキやろぉ?ほなら何で取ったらアカンねん?」

 「アホお!年下でもワタシ達より偉いんや!フユメさんがぁ一目置いとるんや、ヘタこいたら罰や罰!」

 

 女は空の水筒をしまって男を先導する。男はフユメの名が出た時から冷や汗をかき始めて明らかな彼女への恐怖心をむき出しでいた。

 女は言った。

 

 「サシャって子、どないな狩人なんやろなぁ~」

 「狩人なんてイイモンあらへんやろ。この十年間俺らは何を見て来たんや?」

 

 女は暫し考えた後に無言で返した後に集合場所に指定されていた作戦前線基地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「逃げろじゃねぇ!バカ奇面族!」

 

 ミーナとフユメの目線の先に現れたのは見知った赤毛の少女だった。

 

 「びっくりしたあ…サシャじゃない」

 「たっくう~驚かせんなよ~」

 

 スーツ姿のサシャは少し慌てた様子で事情を説明した。切羽詰まった眉間は直さず、有用な事をミーナに警告するかのように今、或いはこれから起きる事はただ事ではないことを伝えた。

 

 「死亡扱いってえ……マジなの…?そこまで私…」

 「サシャちゃんさあ~今そっちってどうなってるか分かんない?こっちじゃ全然把握出来なくてさ~」

 

 如何せん、焦りを見せない二人にサシャは不満に感じたが、それよりも二人の特にミーナの生存を確認出来ただけでも嬉しい限りであったので、彼女は髪をかいては不満も苛立ちもかき消した。

 ミーナも最初はショックを受けていたが次第にどうでもよくなったのか何時もの彼女に戻っている。

 

 「まぁ…今は皆大蟻塚に向かってるから逃げるなら今なんすけど…前線基地が大蟻塚の手前、丁度まだ古代樹の森に位置してる場所なんで気を付けた方がいいっすね」

 「逃げるって…何処によ?」

 「そりゃお前、船出して現大陸で隠居するしかないだろ」

 

 船を出す。それはあまりにも規模が大き過ぎて彼女の頭の中には決して湧くことのなかった作戦であろう。連絡船に搭乗する案は浮かんだが自ら船を出すのは一苦労どころではなかろうに、容易くその案を言い出したサシャには何か、彼女には考えられない作戦があるのだろう。

 

 「ねぇどんな感じで船出すの?」

 「いや…メイリンさんから言われなかったのかよ?二級のハンターが一言言えば小型の船くらいなら出してくれるぜ?」

 「いや流石に緊急事態だ…!出せる訳ねぇぜえ!?」

 

 すると、サシャは何処か秘めていた煮えたぎるような不完全燃焼の覚悟を燃やした。

 

 「これから私がやるんすよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前線基地とは名ばかりのものだ。

 適当に持ち運ばれたような携帯の食糧品に三つのテント。数えきれる程のランタンに切り株を椅子代わりにして口調が独特な傷の男は座っていた。余程口が寂しいのか煙草の吸い殻が幾つも転がって未だに火を点けてふかしている。

 その男の元に赤毛の少女、サシャがやって来た。彼女を見て、一瞬はガンを飛ばすも特徴に聞き覚えのあった男は直ぐに起立し敬礼のポーズを取った。

 

 「ん…?あ!おっとこりゃ失礼しましたあ~ええと、サシャさんですか?」

 「そうっすけど…確か名前は…」

 「俺はアデルって言いますう。もう一人デカ女がおる…居ますんけど今は別ん所でヤニ休憩してはりますう。ああ、直ぐに呼んできましょか?」

 

 彼女を見下ろすアデルという男は自分の口調を隠そうとしながら誰が聞いても不格好な喋りでサシャに訊いた。何処か訛りっけを隠しきれていない様子はかくれんぼで表すところの頭隠して尻隠さずのように何処か抜けた口調であったのが印象に残る。

 

 「いやいいですよアデルさん。その人にも迷惑が掛かりそうだ。ヤニぐらい吸わせてやりましょう」

 

 アデルは意外だった。十八のガキと聞いていたから自惚れた、自分の力の限界知らないような馬鹿ガキの相手をするのかと思っていたが実際は社交辞令を弁えたクソガキ。なんらクソガキには変わりはないが話を理解出来るなら幾分、この十年間務めてきた方ではマシな方である。

 

 「それより話って何ですか」

 「あ、ええとですね、君ん担当の臨時補佐官は僕ともう一人のシマって女がやらせてもらいますよおっていう話ともう一つは依頼ですねっ。僕んら担当は古代樹の森から蟻塚方面に動くルートの安全確保ですわ」

 

 そうやってアデルはくしゃくしゃにしたメモ帳を確認しながら如何にも台本通りの大根役者の口振りである。しかし、不思議なのはここまで死後とが乱雑なのに補佐官として認められる功績がこの男にあったという事。狩りの腕だけではなく求められるのは多種多様のスキル達であり、ギルドナイトの選りすぐり、所謂エキスパートである。対人護衛、暗殺、狩りの肉体的任務に上には逆らわないという首輪を着けて忠誠心を誓う。だからこそこの男には何かが欠けていた。

 

 「終わったでえ…ってこれは失礼しました。遅れてしまってえ…」

 「アホお!!遅すぎるわ!」

 「トイレもしてたもんで遅なってしもうたんや…大変失礼致しました」

 

 後ろで髪を結んでいるシマという大女はもたもたしながらお辞儀をするとアデルに遅れた事を責められていた。体調でも悪いのか少しばかり窶れた体躯、目の下に浮かぶクマは不調である証拠であると共に彼女らはそこまで呈しての何かに圧されている事を暗示している。

 

 「大丈夫っすか…?だいぶ、窶れて見えますけど」

 「いやあ…まあ、大丈夫ですわ。こっちも慣れたもんでして」

 

 体調を優先出来ない程の大事なのだろう。隊員の犠牲などものともしない上の覚悟とそれでも何かを隠蔽しようとするギルド上層部、或いはそれすらも牛耳る何者かの企みが垣間見えた。しかし、下で動くものは確かな真相を知る必要などないのだ。故に等しく、此処に派遣された誰もがこの事件の真実の深淵を知ることもなく、また歴史が改竄され、人々の記憶から雨上がりの微かな霧の如く消え去る。今まで発表され、それが真実だと信じ続けて来た事でえ果たして本当の出来事なのか疑いの目を掛ける。

 サシャは故に思う。自分はどれ程この深淵の沼に踏み入る事を許されていて、また其所の住民であるギルドナイトですら真実を知っているのだろうか。

 秘密とは、完璧に隠し通す事は難しく、或いは叶わぬ事であるかもしれないが、虚偽の秘密を晒しても果たしてそれを偽りの内容だと気付く者は現れるのだろうか。苦い思いをしながらふと、甘い蜜を出されてしまえばそれで探求は終わってしまう。

 知っていた。世界は端から嘘で作り上げられていた事ぐらい承知でそれで謀略するギルドに身を呈してきたのだ。だからこそ、虚しかった。また此処に己と同じ無力の狼が居ることに。

 

 「わざわざ此処まで出向いてやる事なんて変わりもしないんですわ。でも、サシャさんが来てくれて漸く書類仕事からおさらばですわ」

 

 アデルがそう言って肩から力を抜くと、重い枷でもしていてそれが漸く外されたように彼は開放的でいた。重労働に肩を入れてすっかり暗くなるまで気を抜けない作業なんかよりもよっぽど肉体労働の方が気楽らしい。理由は分からんでもない。

 

 「しっかしい…まあ僕らあ随分面倒な仕事を押し付けられたもんや、人類最強とやり合うなんてアホらしいわ」

 

 端から諦めたように、アデルは力の籠らない声で臆病になっていた。やはり相手だからだろうか人々にとって最も恐ろしいのは有力者であり、得体が知れない程心の奥底で根源的な恐怖を持ってしまう。こびり付くカビのように消えず、また心の深淵など人間ごときに覗くことすら許されはしないのである。

 

 「アホらしくても仕事せないかんのや。それが大人っちゅーもんや。ほら、ワタシらを呼んだアホ隊長がまーた呼んどるわ」

 

 手まねく大男の誘いにより、三人は指示された作戦に移行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで終わりかいな?随分倒したなあ~」

 

 転がるトビカガチとジャグラス達の死体も上にアデルは血みどろになりながらも立っている。しかし無造作な物などに構う暇もなく、彼らは獰猛にも人の姿を捉えれば血相を変えて飛び掛かってきた。それは今も尚、現在進行形で燃え盛る火のごとく激しく襲い掛かっていた。

 

 ───唐突にもそれは聳え立つ木々にその巨体を打ち付けながら獲物を踏み潰そうと奮わんばかりのタックルをかましていたのだった。

 

 「ああああっ!!っぶねええぇ!!畜生んでこんなに凶暴なんだよっ!?」

 「サシャさん避けい!!」

 「んえ!?っクソ!!」

 

 ピンクの体色に群青色の毛を覆わせた歴戦のアンジャナフはサシャが避けた場所に的確に追撃を加えて地面を抉っていた。尻尾による叩き付けではその振動で小規模のクレーターはでき、力強さ故足下はふらついてしまう。

 その巨体から引き出される凄まじい一撃は、着実に獲物を余る力で蹂躙した。荒ぶる暴力の化身、いざ動けば止まること知らず例えそれが、殺めるべき標的を見失ったとしても気付かず破壊衝動に駆られる。

 しかし怒り狂う破壊者は見落としていた。うねる鎖繋ぎの鋼鉄が如くの扇の急接近に気付かず一撃を許してしまう。

 

 忍び寄る鎖付きの双剣は蛇行を組んでアンジャナフの肉を僅かに削る。些細な傷を作るだけだが間髪入れずに襲い掛かる。

 華奢な舞の中に刻まれる細かな傷にアンジャナフは叫んだ。また迫力のある咆哮ではあったが中断するようにサシャの双剣がアンジャナフの右頬を叩いた。

 いつの間にかアンジャナフは虎の尾を踏んでいた。尻尾と言ってもアイルー程にも満たないような小さきものだろうがそれでも牙を剥けたのは強靭で姿なき狩人であった。繰り出されるは蝶のような鎖付けの舞に血しぶきが踊った。

 

 「ほえぇ~強いなああの子~」

 「見惚れてる場合ちゃうで。ほら、また黄色いのがようさん来よったわ」

 

 華麗な動きに見とれていたシマをアデルが連れ戻すとまた彼らが押さえる細道からはジャグラスが群れを成して波のように襲い掛かる。さらにその奥にはずっしりと構えたドスジャグラスが向かっていた。いよいよ波も本腰を入れたらしい。

 

 「なんやあれ……食えそうやないか?」

 「完全な肉食らしいで。臭くてアカンやろ」

 

 見栄は張っても内心、腹を空かせていた彼らは先ほどからジャグラスを見る度に唾液を溢れさせていたがいよいよ脂肪をのせた上物が来てしまった。肉食性とはまた曲者の食材ではあるが後であの厳つい隻眼アイルーにでも調理を頼んでみるか。

 

 「うーん、大変やないかあ?あれ処理すんのお…」

 「せやかて…放っておけんやろ。サシャさんの邪魔になるわ」

 

 彼らは覚悟を決め手再び得物を握った瞬間だった。奥で何かがぱっと光るとドスジャグラスとジャグラスの首が宙を飛んでいた。シマもアデルも目を丸くする。動揺を隠せないまま彼らは身動きを取ろうとアデルは足を一歩前へ出した瞬間、彼は吹き飛んだ。

 

 シマはその吹き飛ぶのを確かに見届け僅か数秒の事態に対処は遅れてしまった。

 彼女は背後からまるで閃光のような何かに頬を殴られた。受け身を取る暇も、意味すら感じさせない程の高速のブローは彼女の意識を飛ばした。

 シマはそのまま滑りながら吹き飛ばされやっとの事、木に衝突してクッション代わりになって停止すると気を失ったまま倒れてしまう。

 

 「これで全部か……」

 

 黒髪を揺らしながら黒猫はひりついた拳を開いた。単騎で乗り込んだ彼女は猫等ではなく狼の姿であった。軽装に身を包んだ彼女はそのまま前線基地が置かれた場所へ向かおうとした時、横から木々を薙ぎ倒してアンジャナフが目の前に倒れ込んで来た。

 目は閉じて涎を垂らして、息をしていない獣の静けさを黒猫はじっと見守る。

 

 「──────!!」

 

 その静けさの中で黒猫は僅かな鎖の擦れる音に気付き近付いていた鎖付きの剣を跳ね返した。火花の奥に一人の少女が焼き写る。

 

 「モンスターじゃあねぇのに人なんか襲ってんじゃねぇよ……テメー何もんだ?」

 「………─────っ」

 

 質問に答えず、彼女は俯いてクラウチングスタートのような構えを取ると、刹那、黒髪をなびかせながら凄まじい疾風の如く急接近した黒猫は腰から剣を抜くと閃光を走らせたがサシャは一歩の所でかわした。

 しかし直ぐに伸ばした手を地面に着けてそれを軸として黒猫は蹴りを入れた。流石に避けた後に後続の攻撃も避けれる訳もなくサシャは腕で顔面への直撃を防いだがあまりの重さに声が漏れてしまう。

 

 「いっ───つう───んだよこの力ァ…」

 「よく防いだね」

 「ヒリヒリするぜ…馬鹿力女だな」

 「お喋りが好きなのかい?…舌を噛むよ」

 

 お互いに距離を取って、サシャは遠くへ飛ばした鎖を再び引き戻して、それを手短なサイズにするために両方の鎖を片方ずつ腕に巻いたサシャは防御を兼ね備えていた。構えも先程とは違い、振り回すような体を大きく使う型ではなく、両拳を前に突き出して殴り合えるよう自然と黒猫に近い型になっていた。

 サシャは察していたのだ。この女は少なくとも自分以上の力を持っていて、近接戦闘で勝算があるのは知っているところでメイリンくらいしかいないだろう。時間稼ぎもいいがハッキリ言ってこも勝負は勝たなきゃ意味がなかった。この女は何かしら基地に用がある。彼女に深淵へ足を踏み入れられてしまえば情報が漏洩する可能性だってあり得る事だ。もしかしたらロジエの差し金なのかもしれない。だから踏み込ませる事は断じて阻止しなければならないのだ。

 

 一層覚悟が強まったサシャは一歩前に踏み込むと、下から打ち上げるように拳が上がってきた。いつの間に潜り込まれたのか、考える事さえ許さない猛攻が襲ったが不意に顔を逸らして回避に成功するがまた後続の刃を使った攻撃が飛んできた。

 避けきれずサシャは肩に刃を突き立てられる。苦渋の顔が浮かんだサシャを黒猫は殴り、更に殴り、殴って殴り倒した。更には腹を蹴って、髪を掴んで地面に叩き込み、再び顔面へ殴りを入れる。サシャは口や鼻から血を垂らして倒れ込んでしまったがそれでも構わず黒猫は馬乗りになってまで殴り掛かろうとすると突如、背後から発砲音が鳴り響き、鉛玉が黒猫の頬をかすめる。振り替えればアデルが満身創痍の状態で引き金を引いていたのだった。

 

 「…………殴りで済ましてやったのに…よっぽど自殺願望が強いみたいだな…」

 「アホ…!こんな仕事やっとたら勝手に死ねるわ!」

 

 何か反論する箇所がずれている気もするがアデルのお蔭でで注意はサシャから離れた。よってそれ以上の追撃はなかったものの、完全に殺意はアデルに向けられた。囮としては上出来であろうが本来は殺しとくべき対象が生きてる彼にとって囮はもはや単なる事故犠牲に過ぎなかった。

 倒れたサシャに今何の利用価値があるだろうか。未だ気絶しているシマに助けなど求められない。終わったと思った。馬乗りを止めて、此方に向かって足を進める黒猫から放たれる一瞬の介錯で全てが終わると思っていた。

 

 だが、黒猫の顔面に閃光が走った。

 それは頬を強打すると彼女を吹き飛ばしながら現れた。いや復帰した。満身創痍、絶体絶命。どん底からサシャが苦渋を飲んで這い上がって来たのだ。

 

 「アデルさんサンキュー。お蔭で一発ぶち込めたぜ」

 「いやあ…ナイスタイミングや」

 

 鎖絡みの冷たい一撃は男なんぞの拳よりも遥かに重く、また強烈であり、入り所が悪ければ一撃でノックダウンすらあり得るのだが、タフネス黒猫。鼻を押さえてハナジヲ噴き出すと依然、動揺せずに武器を手に取る。

 

 「アデルさん…まだいけるかい?」 

 「アホ…もう闘えませんわ」

 「覚悟……は出来てるな…?狩人共」

 

 サシャが構えを取ろうとした瞬間、思い切り顔面に強打の強い衝撃がほどばしったが何とか堪えて黒猫の顔にやり返すも殴った腕に剣を突き立てられてそのまま蹴りを入れられる。

 

 「あ"あ"っ!?」

 「ちょっ!?大丈夫っすか────あぎゃあっ!?」

 

 少しの余所見が命取りとなりアデルの腹部に投げナイフが三本突き刺さる。

 ギルドナイトのスーツというのは特別製だ。普通の物より丈夫に作られて、防御性も抜群だった。なにせあのナルガクルガの毛を利用して編まれたものだ。人間ごときが刃を突き立てたところで本当は何ともないのだ。しかし黒猫の馬鹿力は頑丈なスーツを貫通して刃を刺した。浅いが量が多い。

 

 一時の間、意識が他所に向けられていたサシャは傷ついた体を踏ん張り、鎖付きの剣を投げつけるが直ぐに察知され見事に腕ごと叩き落とされた。

 

 「~~~っ!!」

 「遅いね」

 

 サシャはその後です動き終わった体を一瞬もの硬直も無しに動ける訳もなく、黒猫の渾身の拳が飛んで顔面に直撃すると地面に打ちのめされる。

 そのまま後頭部を鷲掴みにして何度も打ち付けて数十回を超えたあたりで彼女の顔を拝むと白目を向きながら血だらけになっていた。

 潮時だと彼女を放り捨てて前線基地の方向へ歩き出した黒猫はひりついた頬を擦っていた。サシャに入れられたのはあの一撃だけだったが想像以上に響いていて、口の中で血の味がしていた。痰を吐いた。

 

 「っよ………」

 「……?」

 

 黒猫の片足が前へ出ない。縛られたような実感と金属が打ち付けられ合う音が響く。

 直ぐに察した黒猫は引き剥がすように足を大袈裟に振るうが彼女の脚に絡み付いてる鎖がそれを拒み、思うほど振れずに引き剥がせず、自由を奪っていた。

 彼女は振り返ると手錠の如く、腕に鎖を巻き付けたサシャが立っていた。

 

 「あばよ……クソ女」

 「しまっ────」

 

 サシャは存分に傷付いた体を振り絞って鎖を巻いた腕を振るった。関節が痛々しい音を立てながらも黒猫の脚を縛った鎖がピンと伸びるほど素早く、そして力強さに彼女ごと動かした。

 まるで黒猫は無様に餌に引っ掛かった魚のように釣糸にただ導かれるがままに投げられる。鉄球投げかの如く鎖を離して振り回された黒猫は横になった体勢のまま木に背中を打ち付けられて地面にずるずると滑り落ちた。

 

 「あっ……っが────!!」

 

 血反吐を噴き出して立てない程のダメージを受けてしまった黒猫は直ぐに思考を巡らした。行き着く先はやがて後悔であった。何故、この女を最初に始末しなかったのだろう。数なんぞよりも土壇場で底力を魅せつけたこの女が一番厄介であったのに、選択のミスがこんな所で仇になるとは。

 黒猫は必死に起き上がろうとすると彼女の額とサシャの額が物凄い勢いでぶつかり合ってひびが入ったような激痛に見舞われた。

 

 「うっ!?あ“が!?」

 「っち……イッテーけどよお…テメーにやられたのはこんなもんじゃなかったぜ?覚悟は出来てるよな?」

 

 するとサシャは黒猫の顔を片手で木に押し付けながら鎖を巻いた拳で思い切り右頬を殴った。殴ったのとは反対方向に血しぶきが飛んで彼女の右頬は真っ赤に染め上がる。更に追撃がほど走り、二回、三回と回数を増やしていった。

 

 黒猫はもう限界を迎えようと事切れそうになりかけていた。

 

 「ラスト、一発だ。こいつで終わりにしてやんよ…」

 

 最後の一発と告示した彼女は特別そうに腕を大振りにして今までのどんなのよりも勢い強く拳を振るおうとしたその時だった。突然、背後から随分と音の軽い発砲音が鳴り響き、サシャはゆっくりと倒れていった。

 黒猫はその目の前に撃った犯人の顔を確かに見た。

 

 「何やってるんだい…?メイリン。こいつは仲間じゃないのか?」

 

 メイリンが木製のライフル銃を構えながら立っていた。

 

 「仲間だ。だから麻酔弾を撃った」

 「……まさか敵に借りを作るなんてね」

 「その借りは直ぐに返してもらう」

 「……何をすればいい」

 

 メイリンは彼女に手を差し伸べた。

 

 「俺らに協力しろ」

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
いやもうホント、土曜日になっちゃいましたね…ごめんなさい。
お詫びの気持ちを込めて文字を多めに入れたんで許して下さい。何でもしますから。
ではまた。
導きの青い星が輝かんことを…

第二回 人気投票

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