この書物は、十二代目国王の意思により全てありのままを記して警句として後世へと遺す。二度と、この醜き獣のような過ちと惨劇を繰り返さぬ為に。
そして全ては穢れ血の根絶と人類の救済を願って───
穢れ血は既に人のように繁殖してしまっていた。彼らはいつの間にか人間の真似をする等、何と狡猾で下賎で愚かな事であろうか。ウジ虫が如く湧いて人の形を偽るのは我々への侮辱であろう。
人は内に獣を潜めるという。それは野蛮で何とも狂暴であると聞くが誰もその形など知らぬのだ。
人はあのような長く、鋭い頑丈な爪をするだろうか。血に渇く牙は、焔さえ防ぐ毛は、何より感情を無くしたあの瞳は存在などしない。
人の内に獣など存在しないのだ。この時代に存在する医療の技術でさえ証明した。人の身体の内の何処にも獣は存在しないと。
ならば獣とは。それはきっと穢れ血であろう。醜く汚ならしい、爪も牙も毛も無いがあの瞳は確かに物語るのである。
彼ら、否あの獣共は兎に角血に渇いているのである。
不格好に涎を垂らしては無感情で血肉を貪りながら吠えるのである。その姿は獣と何が変わろうか。
狩人とは獣を狩るために在る。
だからこそ諸君よ。我々が行ったこの戦いは狩りである。血に渇いた獣を狩りに酔った狩人が狩る。何とも粋で当たり前な事である。
だからこそ、諸君。我々は間違いなど犯してはいない。
血を、恐れたまえ。
恐れるならば、汝穢れを克するだろう。
穢れを取り払い、それを永遠として克する事が国王の望みであり責務でもあった。これ以上、穢れを病のように蔓延させてはならぬと彼は仰せになった。
獣とはやはり汚れなのである。澄んでいた空を汚して自然を汚す。何処までも血にまみれてまた、渇くのだ。だからこそ対照である狩人はある種の掃除屋と言えよう。人が汚れを落とすのに何の躊躇いがいるであろうか。
だから我々は掃除屋を作った。
人を偽る獣を狩る為だけの処刑隊を、我々は送り込んだ。穢れは既に数を増やしていたが、だがそれは穢れを墓穴へと追い込む事であった。
我々が処刑隊を送り込むより前に血族は互いに血肉を晒し合って憎み合っていた。獣は、己が信仰の的になろうとしていたのだ。
まさに獣風情に似合う醜さではないか。獣たちは三つの勢力に分かれて互いに真似た武器を手にとって殺しあった。だからこそ処刑隊が送り込まれた時には既に穢れの国は衰弱し多くの屍が家を模した何かに棄てられていた。まるで地獄であったが、まだ獣たちが犯してきた罪の重さには到底届いてはいない。
獣を根絶やしにする。我々人類の悲願であり、いずれは成し遂げなければならない。
だから汝、獣に大粛清の夜を。
恐れを知らぬならば自ら内に刃を突き立てろ。
汝が獣になりきる前に。
さすれば神は汝を救うだろう。
汝らに救済あれ。共に世を清潔にいたそう。
獣を恐れ、共に戦い約束された朝焼けの訪れを待とう。
処刑隊を率いた英雄、穢れ祓いのカルディールはこう言った。
「穢れを取り払う事に意味が在るのです。それ以外、善意も悪意も意味のないものは在るべきではないのです。ですから我々には意味が在ります」
カルディールは己が率いる処刑隊を穢れ血が存在する事によって自分達の存在意義が在ると説いた。彼の考えは正に穢れを祓う為に在るようなものだった。我が国が取り入れていた基本的な考えである相思理論(他人の失敗は己の失敗でもあるとする考え)を否定し、新たな独立理論(全てを己の責任とし、評価を改めさせる考え)は我々に新鮮な考え方であった。先端者である彼は穢れ血を根絶やしにするカラクリ武器を造り上げて独自の工房を持った。その多くの処刑隊員が彼の作った量産型のカラクリ武器を持って狩りしたという。
彼が死後遺したカラクリ武器は今でも工房に保管されている。使い果てた血濡れの大車輪も、火薬薫りの散弾銃も、彼の愛用した葬儀の鎌も全てがありのまま残されていた。以後、王家の者以外が工房に入る事を禁じた。
いくら英雄を創る武器とはいえもう既にあれらは血に濡れているのだ。だからこそ国王は工房を地下に隠してその上に教会を建てた。せめてでも、その禍々しい程の深淵を共にして邪気に濡れてしまった武器を元に戻す為に。
幾らか行方知らずとなったカラクリ武器も既に壊れているか、或いはまた何処かで保管されているのか、兎に角カルディールの作り上げた金色の時代は霞む霧のように消えていったのだ。
その張本人、カルディールは大粛清の狩りの最期──自らの命が短いと知り───命を断っていったという。
そんな、悲しき最期を我々は英雄譚として語り継がなければならないのだ。
「君らに───最期、この言葉を贈ろう。───人をお想いたまえ────さすれば、君に人の温もりがあらん」
「我が同胞に叡知あらん」
「我々は恐れなければならない。獣には理性など持ち合わせんものだ。だからこそ、獣は我らの手で狩らねばならんのだ」
国王は我々に道を示してくれた。どうしようもなく暗い夜の中に導きの月光のように光で血の海に浮かぶ道を見せてくれた。淡い緑色に輝く神秘の道は例え深淵にあろうともそれは常に我々の前に現れて必ずや道を進むべき先を示してくれることだろう。
血を血で拭ってはならぬのだ。我らは狩る者である。血を、狩りで拭わなければならない。かつて処刑隊はそれを己が使命として神にその身を捧げたという。
処刑隊の最期など真相は誰も知らぬが、神は己に仕えた者に最期まで慈悲を与えた事であろう。
だからこそ、狩りとは神聖な儀式の行為であって狩人は輪廻転生を繰り返す神々の代行を行うある意味彼らも聖職者に代わらない存在である。
聖職者の務めは罪を犯した者を正しく裁くことにある。故に、処刑隊の務めは獣を捌く事にある。
穢れ血を率いていた長はかつての忌みものの龍から意味を授かっていた。忌みものの力は正に禁断の代物であり、常識を遥かに逸脱した物であった。
忌みものを授かった獣はそれぞれに信仰する教団を作った。
一つは、言葉を創り獣に要らぬ知恵を恵んだという言圧の穢れ王。
一つは、色欲を司り血に美を与えたという色欲に溺れた魔女。
一つは、復讐を望んでその偶像を崇拝したという紛いの神秘。
そして名もない白紙の戦士。
獣は互いに呪い、怨み、行き着く道は自滅へのものだった。
カルディールの狩りは決して無慈悲なものではなかった。彼の故郷の、古い弔いをなぞらえた狩りをしたらしく、彼の扱う鎌の刃は罪人を裁き償わせる為の処刑の刃だったといわれている。
彼にとって狩りとは弔い。すなわち彼は昔より輪廻転生の考えを用いた狩りを行っていたのだ。
それはあまりにも英雄に相応しい在り方ではないか。古英雄、カルディールは多くの血を流し、またその多くを正しき道へ導いたという。
彼は見たというのだ。真っ黒に染まる程の血の中に微かに伸びる、細く脆く淡く輝く糸を見出だしたと。
後に生まれた新な狩人はこれを「月光の導き糸」と呼び、見たものは狩人を越えた神秘の存在に近づくと云われてきた。
「獣を恐れ、叡知を得よ。さすれば君、上位者とならん」
またこれも、古き言い伝えとなった。
狩人へ告ぐ。忌みを嫌い獣を恐れたまえ。
血など、恐ろしいものなのだ。恐ろしく、恐ろしくそして渇くのだよ。呑めば晴れて獣と変わりない獣だが狩人はいうように聖職者でもある。
責務と力がある。月光の導きを受け入れたまえ。
未来永劫、獣狩りの風習が途絶えない事を願い、或いは獣が途絶える事を願って我々は息をし続け学びを得るだろう。
宇宙にこそ最大の神秘が眠り、我々はその一部、月光の導き糸を授かっただけに過ぎないのだ。浮かれることなかれ、上位者に成るには更なる学びと啓蒙が必要なのだ。
殉教者、カルディール老よ。
我らに学びを月光の導きの糸の教えを、宇宙の神秘を与えたまえ。貴方が見た景色を後世へ語り継ぎ、我々は神秘に見えなければならない。
老いた国王は亡くなられる直前、最期に我々へこう告げた。
「かねてより、血を恐れたまえ」
読了ありがとうございました。
いや…一年、経ってましたね…。
お気に入りの数は多分少ないのでしょうが様々な方々は着いてきて下さって色々感慨深いものがあります…。
ファンアートも昔に貰ったりして、本当に感謝しております。
これからも精一杯頑張って行こうと思います。
ではまた
導きの青い星が輝かんことを…
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