導きの青い星と蒼い絆の物語   作:MAMYU9

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星輪隊の白装束

 雪のように白く染めた鎧の如き装束。
 
 嘗ての処刑隊を真似たそれは何よりも潔白と、
 その純情さを示したのだろう。

 だが、忘れてはいないだろうか
 白は色を薄めると同時に穢されてしまうものだ。


星に最も近い

 フユメの部隊は星輪隊と呼ばれるらしい。

 

 ミコトは竜車に揺らされながら彼女のそんな話を思い出していた。

 

 古い話───おとぎ話にしては些かショッキング過ぎる──を聞かされてから、彼は世界が変わってしまったように思えたのだ。

 

 自分の存在が煙のようにふわふわした形容になって、自分の中で確かに形を掴めるのは歴史上に存在したというパスポートを持った歴史だけだった。

 

 けれど歴史など所詮、伝わった程度のものでしかないと彼は知ったのだ。事実を無かった事にして嘘を上書きする事など、何と雑作のない事か。

 

 ミコトは、明らかに肩を落としていた。

 彼は実に簡単な世界だと思っていた。この世界にはモンスターが存在して、人も生きて、互いに対立し合う。

 

 だが、自分のようなライダーという変わった者も居て、協力し合える素晴らしい世界だと何時からか錯覚していた。

 

 どうも青二才、虚偽の上に立つ事に恐れを抱く。

 

 何故だか不意に、自分という形が無くなったように思えて止まないのだ。

 

 

 「こんなガキを殺したいなんて、穢れ血も何がしたいのかよくわかんねぇな」

 「こらアストラ。私語は慎みなさい。今は任務中ですよ。いつ襲撃に遭うか分かりません」

 

 そんな彼の前の席には二人組の男女がいた。

 

 何とも奇妙な格好である。

 彼らの被る鉄の兜は所々、錆び付いているというのに胴体を守る、金属の鎧に匹敵しそうなほど分厚く重厚のある白生地の装束には汚れはなかった。

 

 そして星輪隊である彼らも、フユメ同様、車輪の首飾りを誇らしげにぶら下げていた。

 

 何が誇らしいのかミコトにはよく分からなかったが、はやり誰かに認めてもらえてることを喜べたのだろう。

 

 だが、飾りに堕ちた喜びなど、得たくないものである。

 

 「………何処へ向かってるんですか」

 「おっ、喋った」

 

 男────口調や声、体格からして想定した────アストラはミコトに反応を示した。

 

 だがそれは対等なものとは思えなかった。

 護衛対象。そう言われたが実際はロジエを誘き寄せる餌に過ぎないのだろう。 

 

 ミコトは彼らを軽蔑の目で睨み付けた。

 

 打ち付けられるように揺れ動く車内で、手足を枷で高速された彼は、ひたすらに無力であった。

 

 「作戦の最終確認を済ませましょう。このまま洞窟に設置した基地へ彼を輸送します。この大襲撃、明らか何かがおかしいですが…穢れ血の王もこの期に乗じて攻め込んで来る可能性が高いです。ですから我々が護衛を───」

 

 女であろう星輪隊が何かを言い掛けたその時だった。

 

 竜車は嵐に巻き込まれたかのように激しく揺さぶられ、上品に飾り付けられた装飾も分厚い窓ガラスも粉々に砕かれて大きく転倒した。

 

 ミコトは、こじ開けられた───衝撃に曝されて大破した元々ドアであったもの───から外へ投げ出された。

 

 荒々しい岩肌に彼の細身は打ち付けられる。骨の髄まで響き渡る振動と激しい痛みが同時に彼を襲った。

 

 何が起きたのか、あまりにも一瞬の出来事過ぎて理解など追いつかなかった。

 

 砂塵の中、倒れる彼はその奥に蠢く何かを捉えた。

 

 きっとこの襲撃の犯人なのだろうが逃げようにも足に付けられた枷が邪魔をする。

 

 どうしたものか、あまりにも無力で絶体絶命ではないか。

 

 ミコトはまたもや打ち付けられた。

 哀愁なんて、砂塵に呑み込まれて無くなってしまっただろうが、彼は死んだ表情をそのまま変えず心の中で笑い尽くした。

 

 なんて!なんて呆気ない事だろうか!

 

 死とは実に一瞬で不意に訪れる。

 階段から足を踏み外すように誰にも予想出来ずあた回避することも不可能に近いものだ。

 

 枷が、邪魔をする。意志が、既に未来を見失っていた。

 

 だが、深淵でこそなければ、一筋でも光は存在したのだ。

 

 彼のその気付きは天恵的であった。

 自分の足を見るなり、先の衝撃で枷が壊れかけていたのだ。

 

 奇跡への糸口は、確かに手の届く所にあったのだ。

 

 気付きを得た彼は直ぐ様転がる岩を手に取れば、枷に向かって思い切り振りかざした。

 

 激しい金属音と共に枷は見事に大破して、勢い余って足首まで打ち付けてしまう。強力な電気を浴びたかのように痛みはやってくる。

 

 「────っ!!ああ!」

 

 唸り声に涙混じる。

 

 だがこれで活路を得た。

 まさしく死中に活である。

 

 手の枷は外せてはいないものの、彼は何かを振りほどくようにして逃げ出した。

 

 最後に砂塵奥に見えたのは、確かに───

 

 「ディアブロス……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星の大車輪

 

 古き殉教者、カルディールが遺した

 「カラクリ武器」。

 

 ルーゲウスとは、また別の流れを生んだ

 それは、奥底に神秘を宿らせなかったという。

 

 だが、その大車輪は実に素晴らしい

 音を奏でたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星輪隊のアストラは無鉄砲に車輪を振り回した。

 

 ギコォ…と車輪は音を鳴らして微かに回転しながらその恐るべき巨体に激突する。

 

 幾度たる攻撃の間を抜けて叩き込むが分厚い甲殻に阻まれて大したものは期待出来なかった。

 

 アストラは怯んでしまう。

 目の前に立ち塞がる強大過ぎるディアブロスに立ち竦みを起こしていた。

 

 「クソ…!効いてるのか?おい!アシュリー!」

 「続けて!頭部を狙えれば目眩を起こせる筈!」

 

 アシュリーという女はアストラが注意を引いている間にディアブロスの真下に滑り込んだ。

 

 その時、アシュリーはディアブロスの異変さに気付いた。

 

 明らか、この個体は常軌を逸脱した巨体であり、角に纏った黄色の結晶は見覚えがない。

 

 ならばこいつが───

 

 「アストラ!こいつ、報告書のディアブロスです!」

 「まずい事態だな…あのガキもいねぇ…逃げやがって!」

 

 交戦状態にある二人は二つ、失態を犯していた。

 

 一つは、この混乱に乗じてミコトにまんまと逃げられてしまったこと。

 

 そしてもう一つは────

 

 

 

 

 『■■■■■■■■■■■■!!』

 

 時空間も歪みそうな程の轟きが砂を巻き上げた。

 

 彼らでは、明らかな実力不足だった。

 

 きっとこれに打ち勝てるのは彼らの知れる所ではフユメがいい勝負になる程だ。相手していい悪魔ではない。

 

 「アストら──────っ」

 

 一瞬だった。

 

 兜の中で、頬から汗の一滴が垂れるのを実感したのとほぼ同じにアストラの前で鏖殺が行われた。

 

 肉塊が宙を飛んでいた。鮮やかに赤い飛沫が雨のように降り注いで、遅れたのか、今さら轟音と強烈な風圧がアストラを襲った。

 

 『死ぬときは一瞬です。家族の誉れを称えなさい』

 

 真っ二つに散った彼女の兜は粉々に、昔靡かせていた美しい銀の髪を露にしていた。

 

 アストラは息を飲んだ。

 

 彼女は、あのディアブロスの逞しい角による薙ぎ払いで真っ二つに切断されていた。

 

 

 

 彼女の瞳は虚ろ。最期に何を見たのだろうか。

 

 アストラは心を失ったように覚束ない足取りに、小刻みに震えながら死体に近づいた。

 

 「…………っ」

 

 アストラは大きく車輪を掲げた。ぎらりと光が差し込む。

 

 『ギギャアアアアアアアッッッ!?』

 

 死体を捻り潰して、車輪は実に良い声で鳴いた。

 怨念だろうか、果たしてそんな非科学的な事があるのだろうか……しかし、それは確かに呻いたものだ。

 

 「家族よ、私を愛せ」

 

 車輪は、垂らすべきものを垂らしてはいなかった。

 

 大量に浴びた血飛沫を何処へやったのだろう。

 

 『ヴヴヴブブブゥゥァァ!!』

 

 獣のように呻くものだ。

 

 確かな獣性は、ドブのように汚ならしい血を吸い込んでは糧とする。禍々しささえ覚える大車輪は嘗て穢れを取り払えたのだろうか。

 

 恐るべき大車輪の異質はまさに「穢れを無くす」という事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『穢れは───私たちの内にもあるのです。ですから寛容さが必要だったのです。─────宇宙は、広いのでしょう?』

 

 

 

 

 

 

 穢れが本性を現した。

 

 消えた訳でもない、ただひたすらに溜め込まれた醜い穢れが呻いたのだ。時だけが流れて、憎悪だけに埋め尽くされたのだろうそれは、武器呼べる代物ではなかった。

 

 『ア〝ア〝ア〝アアァァァ……』

 『ギャアアアアィィィィィ!?』

 『ヒャイイイイィィィィー!?』

 

 無数の悲鳴が忘れ去られた過去の中で蠢いた。一体、幾人の魂があの車輪を気取った牢獄に囚われているのだろうか。

 

 そんな悲惨な事実とは裏腹にアストラは車輪が重くなったのを確かに実感していた。

 

 血を吸って本性を現すなど何と獣めかしい物であるだろうか。だが、カルディールは確かに見出だしていたものだ。

 

 唯一、穢れを取り払う手段を獣道の中で得ていたものだ。

 

 ルーゲウスとは道を違えたとしても本質は変わらないのだ。

 

 血の活路を得て、鬼に金棒のそれをアストラは必死に振るった。妖艶と共に音を奏でさせた大車輪はディアブロスに触れると凄まじい威力を誇った。

 

 あれほど有無を言わせなかったディアブロスの甲殻が、陶器のように砕けたのだ。

 

 素晴らしい血を纏う乱舞は人の狂気を保てたものではない。

 

 長時間、穢れに曝されれば人を保てなくなる。力を得る代わりの代償といった所だろうか、まさしく禁忌そのものであろう。

 

 だが、星輪隊は恐れぬものだ。獣に等しい愚かさを克して賢者となる。 

 

 「うらあっ!!」

 

 全身を使った大車輪のフルスイングがディアブロスの頭部に命中する。衝撃波が、彼の装束を煽った、腕に痺れが回るほどの一撃は一番いい場所にめり込んだのだ。

 

 「どうだぁ!?」

 

 更に、勢いに身を任せて体重を掛けて押し潰しに掛かる。

 

 流れが来た──アストラはそう直感していた。

 

 だが、彼は何かが宙を舞うのを見て驚愕した。

 

 「あっ!?ギャィアアア!?」

 

 断面から溢れ出る血。

 舞ったのは彼の右腕だった。

 

 

 狼狽える彼に追い討ちを、ディアブロスは畳み掛けた。

 

 「ぶっ─────」

 

 その時には、もう上半身がくっついてはいなかった。

 

 

 倒れるのは下半身だけ。ミコトを護衛していた星輪隊はディアブロスの襲撃に遭い、たった今全滅したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まさか……ここまで手痛くやられるなんてね……」

 

 フユメは、車輪を突いて岩壁にもたれていた。

 

 所々に散っていった家族たちが転がっている。大抵の者が上半身と下半身を分けられて倒れている。

 

 「側近の子たち以外は……クソロジエめ……殺してやる…」

 

 フユメはくしゃくしゃに打ち捨てられた煙草を拾い上げて一服始めた。

 

 火はランタンが倒れて薪にしようと集めていた枝に燃え移って困りはしなかった。

 

 「皆……いるかい?」

 「フユメさん大丈夫ですか?」

 「あちゃー……みーんなやられちゃってるよ……」

 「ひっでぇなぁ!?ロジエの野郎はまだ殺せてないんすよねぇ!?」

 「手痛いねェ~これを一人でェ?」

 

 フユメの呼び掛けで集まった側近たちは次々に命を下された。

 

 「フーカは本部と連絡を、レデイは生存者の確認と救護を、アナベラとユーべべは私に着いてきて……ゲルバは?」

 「ゲルバはぁ逃げたモンスター追ってどっか行っちゃいましたぁ!」

 

 少し窶れた表情を見せた彼女は「彼は追跡を任せるとしようか」と何処か腑に落ちない様子で、致し方なく本人に聞こえる訳もないのに人知れず命を下した。

 

 「いい皆?私たちは今から穢れを取り払う。互いに死んでしまうかもしれない。だから、家族に月の導きがあらんことを」

 

 

 嘗ての星輪隊には上位の派閥があったという。

 月の狩人。隊長であったカルディールを含めたごく一部の側近たちがそれに所属していたという。

 

 今はもうその名残しか残ってはいないが彼らが誓いに月を用いたのはただの真似事なのか、或いは本当にカルディール老のように導きを見たというのか。

 

 見たというのならば────また囚われてしまったのだろう。

 

 きっと夜に何の意味もない意味を見出だすのだろう。

 

 「ミーナはちゃんと接触してるんだろうね?期待はしてるんだ。アナベラ、ユーべべ行こうか」

 「シッシッシ!反撃だねぇ!?」

 「んぅ~頑張りますかねぇ~」

 

 三人が先導する。

 

 「行きますかっ」

 「そうだな…」

 

 その後ろに二人が後を追う。

 

 月光の狩人たちが、遂に動きをみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ねぇ……黒猫、何処まで歩くのよ?」

 「海岸だ…夜になるまでには着くぞ。暮れてからじゃ、あのスーツ着込んだ真っ黒野郎たちを確認しずらいからな…早めに着いて身を隠そう」

 

 じゃりじゃりの、舗装された形跡の一つもない獣道を歩きながら先導する黒猫は指を指した。

 

 すっかり夕焼けは朧気に揺れているが休まずに歩き続けること数刻、やっとのこさ海岸が広がる場所まで辿り着いていた。

 

 しかし、歩みを進めてみれば砂浜───船を停めれる場所───までは激しい高低差があり、まるで崖に立っているような高さがあった。

 

 「こりゃあ…高すぎるな。迂回しよう迂回。こんなン飛び降りようとでもしたら即死だろうよ」

 

 下を覗くメイリンは吹き上げる風に煽られていた。

 

 目的地は確かに目の前だというのに、そこにはあまりにも大きな壁が、いや壁を登ったはいいが降りる手段を持ち合わせてはいなかった。

 

 夕陽は今にでも深海へ堕ちそうだった

 

 「時間は無いな。暗くなってしまえば森は危険だ。此処を降りよう。私が先に降りる。ロープを持ってるんだ、役に立つだろう」

 

 何故か焦っているような素振りを見せる黒猫はアイテムポーチから麻のロープを取り出しては背後の丈夫そうな木に巻き付けて崖の先端に立った。

 

 「別に無理しなくてもいいのよ?……ほら危ないし…こういうのって何かあってからじゃ遅いのよ?」

 「これぐらいいつも登り降りしてる。直ぐに降りれるようにするさ」

 

 そう言い残して黒猫は念を押すように縄がほどけない事を確認すると、腰に巻いて命綱を作った。

 

 そして、仄暗くなってきた景色と同化して消えるように黒猫は姿を眩ました。

 

 ミーナたちは直ぐに崖を覗くもずるずると降ろされて行く縄が暗闇に消えていくのを確認出来るのが最後、黒猫の姿は見えない。

 

 「行っちゃった…けど縄が引かれて行くって事は降りてれるのかしら…随分無茶するものね」

 「あぁ…だが、アイツがやってくれてるお陰で少し休めそうじゃねぇかぁ?」

 「クソメイリンの苦労知らずめ……」

 「あんだぁとぉ!?レン!この女ぁ!」

 

 ミーナは日が沈んだ海の向こうを眺める。

 

 もうすぐサシャの作戦でこの大陸を出る。けれど向こうに行った後の生活をまったく想像する事ができないのだ。

 

 実感が湧かない──と言うのだろうか。彼女の漠然とした感情は虚ろに近しいものだった。

 

 騒がしい後ろの喧嘩を見る事ができるのは、もう最後なのではないか。現大陸に着いてしまえばギルドから身を隠す隠居生活を強いられる。

 

 果たしてそれが幸せと呼べるほどの代物なのか、深く考えさせられたが決して不満を口に出す事は無かった。あまり迂闊に口に出すことは賢い行いではない。

 

 ミーナはちらりとメイリンを横目に見る。警戒の眼差し───つまりは何かに恐れているのだ。

 

 彼女は──如何せん子供のような訳だがメイリンに怒られる事が怖いのだ。

 

 それに、彼女は何よりも一人になることを恐れたに違いない。

 

 ミーナはただ、日が落ちて不気味なほどに静寂の白色に染まりきった黒の海を見ながら立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体どのくらい降りてきただろうか。黒猫は命綱を頼りに絶壁を滑るようにしながら進んでいた。

 

 時折吹き荒れる、強い潮風が彼女と命綱を大きく煽り、ぐらんと揺らすのでその度に振りはなされないか肝を冷やしていた。

 

 「危ないなっ。もう少しで離しそうだ……」

 

 黒猫はかいた冷や汗も拭う暇も無く、やむやむ休める事もせずに靴底を滑らした。

 

 そんな最中、偶然滑らした岩肌から小さな石ころが転げ落ちた。うっかり、足場を崩してしまったかと戦慄したがしかし転げ落ちた石ころは真っ暗な闇へと消えていった。

 

 黒猫がそんな石ころの行く末を静かに見守っている中、黒猫は確かなそれを見逃しはしなかった。

 

 

 ────コツン。

 

 確かに、真下で小さな音が聞こえた。

 

 まさかもう地面は直ぐそこにあるのか。

 

 黒猫は覚悟を決めて足を離し自由落下を味わった。煽る風が妙に不安を募らせたがトンと足の裏に再び衝撃がやってくると彼女は安堵した。

 

 「着いたな……」

 

 微かに聞こえていただけの波の音が今では隣にいるように近くで鳴り響いている。

 

 黒猫は直ぐに腰に巻いていた縄をほどいて垂らすと、大きく揺さぶって上にいる彼女たちに合図を送る。見事なまでな一連の動作だが二つ盲点があるとすれば、彼女たちに合図を送る事を教えていないことと、この合図では少々派手さをに欠けることだろうか。

 

 だが、合図を送らないのもまずかろう。絶えず縄を揺さぶり続けたその時だった。

 

 音に対して絶対的に敏感であった黒猫は決して見逃す事はなかった浜辺を、複数人で歩く音。二───いや三人の足音が此方に近づいている。

 

 黒猫は本能的に極めて危険であることを察して、縄を、見上げなければ見えない高さで素早く切り落とし、海へと投げ捨てた。

 

 今から何が起こるというのだ。黒猫は後退りした。

 

 「黒猫……何処に行く予定だったンだい?まさか…作戦を放棄したのかな?」

 

 暗闇から二人の男女を連れたフユメが姿を見せた。

 

 「っ……こんな…所で」

 

 黒猫は失意したのと同時にあの時の、咄嗟の判断は正しかったと思った。

 

 「潮風が強いね…散歩には、ロマンチック過ぎるね黒猫。────私は君を一度逃がして恩を売ったつもりだったんだけど…それを君は、やっぱり仇で返すんだ」

 

 もはや、避けられない。

 

 「黒猫ォ~ダメだよダメだよ!!逃げれないもン!!」

 「弁解の余地もないねぇ~」

 

 「少し…静かにしてて?」

 

 騒ぎ出した後列にフユメは強調して注意した。

 

 「黒猫……私は今、怒ってて悲しくて……呆れたよ。君はもう少し…もう少し賢い人間だと思ってたのに…もう、いいよね…?」

 

 フユメは拳銃を前へと突き出して黒猫を捉えた。

 

 「さようなら。お馬鹿な子猫ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 星輪隊

 嘗てのカルディール老が率いたという処刑隊を
 模したとされる宗教。

 今や彼らの思想は止めどなく、いつかは実現
 するのだろうか。

 だがそれは善きものであっても
        賢くは、ないのだろう。




         導きの青い星が輝かんことを…

第二回 人気投票

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