【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
始まりの日常(Side フウタ)☆★
荒廃し、廃墟と化した都市。
壊れかけたビル郡の間から見えるのは、三……いや、四体の巨人、MS(モビルスーツ)と称されるロボットだ。ずっしりとした体格の人型ロボット、さながら兵士を思わせるような姿である。
――GBNのノンプレイヤーダイバー、つまりNPDの操作するリーオー。AI操作なだけあり、近すぎず遠すぎずの距離間で、統率の取れた偵察行動を取る。
最も、それは同時に機械的な、ある意味単純な行動原理にすぎない。
四機がかりで偵察を行っていると言え、その動きは一定のパターン化しており、動きさえ見てさえいれば、隙を見つける事も十分に可能だ。
――そこっ! 真横ががら空きね!――
内一体のリーオーが、左方の確認を終え、姿勢を変えようとした瞬間、数発の銃弾が胴体に撃ち込まれる。
反撃する暇のない、先制攻撃。攻撃を受けたリーオーは胴から火花を散らしながらよろめき、爆発に包まれた。
残る三機は臨戦態勢を取り銃を構えるも、今度は態勢が整う前に、倒された機体の近くに位置していたリーオーの至近距離に、一機のMSが
出現する。
リーオーと異なり、西洋騎士の鎧や、竜のような形状のMS。
それはモノトーン調の、改造されたレギンレイズ、『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』に登場するグレイズ系の最新鋭量産機と言う設定の機体だ。
大部分はオリジナルと変わらないものの、両足はかぎ爪状に、胴体が通常よりも尖ったデザインであるとともに両肩アーマーが軽量化されたものへと改造されていた。
特に特徴的であるのは、腰部に装着された大型ホバーユニット。それにより地上において、機動性は良好である。
武装は先ほどの130㎜の口径を持つ大口径ライフルと、そして……両腕の攻守両用のガントレット。
――これで二機目……かな!――
レギンレイズは左腕のガントレット、その尖った先端を頭上から刺し潰す。リーオーの頭部センサーの光は消え、機体は沈黙する。
しかし、不意をつけたのはここまで。
すぐさま敵機はマシンガンを斉射し、応戦に入った。さすがのNPDも、これ以上の先制を許すほど、馬鹿ではない。
とっさにガントレットで弾を防ぎつつ、機体は廃ビルの陰へと後退。ビルを盾にしながらライフルで反撃する。
ライフルの弾丸を受け、三機目のリーオーも倒れるが、最後の一機は盾持ち。
手にしたマシンガンを放棄し、今度はビームサーベルを抜いて迫る。銃弾はリーオーのラウンドシールドに弾かれ、二機の距離は次第に縮まる。
目の前で振り上げられるビームサーベル、しかしこのタイミングが絶好の好機、レギンレイズはそれよりも素早くライフルの銃口をリーオーに向け、引き金を引いた!
……しかし、響くのはカチッとした、乾いた音のみ。弾が発射されることは、なかった。
――もしかして、弾切れ!? そんな!――
レギンレイズのパイロットは覚悟して、思わず目を瞑る。
だが、そんな時。
襲い掛かろうとしたリーオーの真上から銃弾が降り注ぎ、その機体は爆発四散した。
《間に合って良かった! 大丈夫だった、ミユ?》
応援に駆け付けた機体も、同じくレギンレイズ。なお、こっちの方はブルーに塗装され、腰部には一対のスラスターウィングが取り付けられていた。
青いレギンレイズは空中を滑空していたが、仲間の機体の元へと降下し、着地する。
機体のコックピットハッチが開き、中から十代後半の少年が一人、手を振って表れた。
「ご苦労さま、これでこの辺りの敵機は片付いたさ!」
年齢の割には少し小柄な体には、航空機のパイロットスーツを纏い、頭にはゴーグル、MSのパイロットとしては不自然ではあるかもしれないが、現実より自由な電子世界でなら問題ない。
肩に少しかかるくらい長い髪に、気の強そうなややつり目な少年。でも今こうして笑いかけている顔は、可愛いくも見えた。
すると、向こうのハッチも開いて、今度は同い年くらいの少女が顔を出す。
「ありがとうね。さっきは、フウタのおかげで助かったよ」
フウタと呼ばれた少年は、少女の言葉にへへッと得意げに笑う。
さっきまでレギンレイズで四機のリーオーを相手にしていた少女、ミユ。
ふわっとして明るそうな、ちょっと垂れ目気味の可愛い女の子。白いワンピースの上から纏う薄い上着、そして左右に跳ね毛気味なショートカットである。
そして、二人の少年少女はともに、猫耳と尻尾を生やしており、その毛と髪の色は少年が青、そして少女は白色であった。
「こっちも数機のリーオー相手に、ちょっと手こずったんだ。中級でしかも、その中でも簡単そうなミッションを受けたはずだけど、なかなか強敵って言うか……僕たちエンジョイ勢にはこたえるかな。さすが連戦ミッション、普通よりも手強い」
「でも、バトルは楽しかったわ! 大変だったけど、たまには良いね」
「いつもはもう少し、簡単なミッションばかりだから、新鮮味があるかもな。けどまだ……ミッションは終わってないよ」
すると辺りに、地響きが響き渡る。
二人のいる場所から、少し離れた場所のビル群、それが音を立てて崩れ、土煙から通常のMSよりも巨大な影が現れた。
「連戦ミッションのボス――サイコガンダム、か。うん! 相手にとって不足なし!」
影の正体は、黒い巨体を持つガンダム、サイコガンダム。
「行くよミユ! これがこのミッション、最後のバトルだ!」
「うん! 頑張ろう、フウタ!」
フウタ、ミユはそれぞれの機体に、再度乗り込む。
サイコガンダムは頭部を二機に向けて、視認する。アイセンサーは鈍く、赤く輝き、戦闘態勢を取る。
頭部、両手、胸部に、幾つものメガ粒子砲を備えた、MSとは名ばかりの移動要塞、その砲門はフータ達の機体めかけて、その牙を向く。
地面と廃墟を薙ぐ、大出力のエネルギー、二機のレギンレイズはそれを掻い潜り――サイコガンダムへと突撃する!
――――
「やぁ、お二人ともご苦労さん! GBNは楽しかったかい?」
GBNからログアウトしたばかりの二人、カザマ・フウタとアラン・ミユをそう言って出迎えたのは、三十代程の模型店店主。細身で長身の、緩い雰囲気の男性。見た感じは悪くないものの、あまり手入れをしないのか茶髪の髪はボサつき、顎にはやや無精ひげが目立つ。
ちなみに現実のフウタは黒髪で、ミユは亜麻色髪、髪型もフウタが比較してほんの少し短いこと以外は現実と変わらず、それに服装も高校の制服姿であることくらいだ。
「うん! いつも使わせてくれてありがとう、今日も色々遊べて、楽しかったよ」
「ふっ、そう喜んでもらえて、こうして用意した甲斐があったってものさ。それに二人はウチの常連だしな、いつでも大歓迎、って事だ」
ミユの言葉に、店主――ヒグレ・ジョウは、照れの混ざった笑いを浮かべる。
彼の経営するヒグレ模型店は個人経営の小さな店だが、品揃えは決して悪くない。
辺りの棚には自動車に航空機、船舶に城など多種の模型が並び、その中にはロボット――ガンダムシリーズに登場する『MS』をモデルにしたプラモデル、『ガンプラ』も多くあった。
ガンプラ専門店には劣るものの、初代ガンダムやZ、ZZガンダム辺りの宇宙世紀のものから、ガンダムSEEDやООとも言ったアナザー系のものまで、満遍なくとり扱っている。
そして――模型店奥の別室には、世界規模のネットゲーム、ガンプラバトル・ネクサスオンライン――GBNへと接続可能な専用端末が用意されている。
ガンプラのデータを読み込み、オンライン上で対戦するガンプラバトルを主に、様々なミッションを楽しむ事が可能であり、また再現されたガンダム作品の各舞台を含めた広大な仮想空間と、他のプレイヤーとの交流、その自由度もGBNの人気を支える、大きな要因でもあった。
「今日はミユと一緒に、連戦ミッションに挑戦してみたんだ! 最後のボスには苦戦したけど……何とかクリアしたよ」
フウタはにこっと笑い、店主にそう言った。
「ははは、それは良かったじゃないか」
「それに、最近だとそろそろ、GBNがアップデートされるって話さ。そっちもちょっと、どんな風になるか楽しみだ。
ミッションの後はミユとデート、サンクキングダムを一緒に散策したんだけど……やっぱり街並みや、海が綺麗だった感じ」
「ははーん、Wガンダムの舞台の一つだな? 確かにあそこは、デートするには打ってつけの場所なのは同意だぜ」
「まあね。けどやっぱり他にカップルも多かったし、人がちょっと沢山すぎたかも。今回はバトルフィールドじゃなくて、お祭りみたいなイベントがあったからね
今度は、もっと静かな場所に行きたいぜ」
「フウタと一緒なら、私はどこでも楽しいよ。バトルはちょっと苦手だけど、それだって面白いもの」
フウタはそう言っているものの、ミユにはとても、良い思い出が出来たみたいだ。
そしてそれは、彼本人も同じく。
「僕だって同じさ。たまに一人だったり、GBN上のフレンドとも遊んだりするけど、やっぱりミユと遊んでいるときが、一番楽しいんだから」
二人が通う高校では、GBNをやっているクラスメートは、知っている限り存在しない。
人口の多い大都会の都市部ならともかく、ここはそこから遠く離れた地方のそのまた、少し大きいくらいの町である。
模型店も、GBNをプレイできるのも町ではここだけ、更に言うならGBNの接続端末を店で用意したのも、数か月前とつい最近だ。
それ以前はプレイするために、ここから離れた地方都市にあるガンプラ専門店、ガンダムベースへと、電車で一時間近くかけて行っていた。
そこにはちゃんとGBNの専用筐体が用意されている。……が、さすがに一時間は長い。二人が遊びに行くのはせいぜい一、二週間に一度程度が、せいぜい関の山だった。
それにここは、いわゆる田舎に片足を突っ込んでいるような、そんな町。いくらGBNでも、そうそう身近にプレイしている人間なんていない。
店主の話では他に店のGBNへの接続端末を使う人間は、いるにはいるらしいが、時間帯が合わないのか、彼らと会う事は滅多にない
フウタとミユも、リアルでも知り合いで、なおかつ一緒にプレイする相手は、互いしかいなかった。
そして二人は昔からの幼馴染、また今は恋人でもある。……そうした意味でも互いの仲は、とても良かった。
「……ははっ、いつ見ても仲睦まじそうで、羨ましいじゃないか」
これに、フウタは頷く。
「それは当然。だってずっと一緒だし、僕の事を想って好きでいてくれる、そんな相手だから。
もちろん僕も、ミユの事を大切に思ってるし、かけがえのない幼馴染で……大好きな恋人さ」
「もう、フウタってば……いくらジョウさんの前でも、言い過ぎだよ。何か、恥ずかしいって、言うか」
自分にかなり正直過ぎる性格の彼に、思わずミユは恥ずかしくなる。
「まぁ、それが君の彼氏の、良い所だろ?」
「ジョウさんまでそんな事を言って、私でも怒りますよ。それは……フウタの言う通り、私だって……」
店主は若い二人の様子を、微笑ましく思うと同時に、ちょっとため息をつく。
「いいよな、本当に。――その一方で俺はと言うと、相変わらず相手が見つからない日々、さ。この間の合コンでも、良い相手はいなかったしな」
「はぁ、結局また失敗したんだ」
「失敗は成功のもと、だって言うだろ? 今回は良い所まで行ったんだが、相手から『自営業なんて今更流行らない』って言われたんだぜ?
かーっ! 模型店の経営なんて、男のロマンじゃないか! 嫌だねぇ、それも分からないなんて」
こんな様子の店主には、さすがのフウタも呆れ顔。
「相手が欲しいなら……まずそんな所を、少し直したらどう?
――さてと、それじゃそろそろ遅くなりそうだから、僕たちは帰ろうかな」
外を見ると、もう日は沈みかけて黄昏色となっている。
「そうか、分かった。だがその前に……フウタ、ちょっといいか」
「……ん? 別にいいけど、何?」
フウタは店主に顔を近づけ、話を聞こうとする。
「確か、明日は市内のガンダムベースで『アレ』が入荷する日じゃないか? 前々からフウタは、待ち遠しく思っていたみたいだから、忘れてるんじゃないか、心配でな」
「もちろん、朝早くから行って、並んで買いに行くとも。バイトで貯めたお金もあるし……用意も十分さ」
「それは良かった! けど店には早めに行って、並んでいた方がいいぜ。売り切れて買えない、なんてなったら困るだろ?」
「うん、分かってる。だってあのガンプラは……」
ひそひそとそう話す二人の様子に、いぶかしむミユ。
「ねぇ? 私に内緒で、何を話しているの?」
彼女からそう聞かれたフウタは、とっさにこう言った。
「――いや、ちょっと模型の塗装テクニックを、教えてもらっていただけ……さ」
「ふーん、そうなんだ」
何とかミユを誤魔化せた[?]ようで、彼は一安心した。
「ジョウさん、話についてはまた今度。
――あっ、そうそう、ついでもこれ買っとこうかな」
と言って、フウタは少し近くの棚から、航空機の模型を手に取ってレジに置いた。
「おっと、これはまいどあり、だ。
何々……へぇ、米軍機の『ヘルキャット』か。フウタは航空機の模型も、好きだもんな」
彼はジョウに代金を払い、袋に入った模型を受け取る。
フウタはガンプラも好きではあるが、他の模型、とりわけ航空機、戦闘機関係の模型も大好きであった。
「だって、空を飛んだりとか、格好いいじゃん。ありがとうジョウさん……じゃあね!」
「おう! ミユちゃんも、元気でな!」
「はい、今度はまたフウタと一緒に来ますね」
店から出ていく二人を、店主であるジョウは、手を振って見送った。
――――
夕暮れ時の、殆ど暗くなった帰り道。
フウタとミユは、横に並んで歩いている。手にはさっき購入した、航空機の模型が入った、袋をぶら下げていた。
「あはは、今日も遅くなったね。ジョウさんの店でGBNを遊べるようになってからは、学校が終わった後にはよく、遊びに行ってるから。
……ところで、明日は学校は休みだけど、フウタはどうする? 一日中GBNで遊ぶことだって出来るけど……」
しかし、フウタは首を横に振る。
「いや、明日はいいよ。それより昼の12時くらいに、ミユの家に行っても、いいかな? 両親とも仕事で遅いから、せっかくだから昼ご飯を一緒に……なんて」
昼から会う約束をしたのは、朝の内に模型店に行くためだった。
ミユは、その事についてはまだ知らない。が――
「もちろん、いいけど。……やっぱり、また何か隠してない、フウタ?」
「えっ!?」
思わず、ドキッとしたフウタ。
「ははは……そんなこと、ないよ」
「フウタは正直すぎる性格だから、逆に嘘は下手なのは、気づいてる? さっきだって、今だって、怪しいのはバレバレなんだから」
「ううっ、かもしれないけど」
「でも、その様子だと変な事じゃないみたいだし、やっぱり気にしない事にしようかな? けど良かったら後で、何の事だったか教えてね」
やはり二人は長い付き合い、嘘か本当かの区別はもちろん、それ以上の事もミユには分かった。……まぁ、フウタが正直な性格であるせいでも、あるかもしれないが。
「うん、後でなら、ちゃんと教えてあげられるさ。だから今は――」
「分かっているよ。けどちょっと、楽しみにはしてるね」
ミユが見せる素敵な笑顔、それをただ一人、フウタへと向けられた。
そう言えば――、彼女はさらに、こう続ける。
「たしか、明日の昼は私の家でお昼ご飯……だったね。家にはお父さんがいるけど、お父さんはフウタの事をとっても気に入っているから、きっと大歓迎ね」
調子が戻ったフウタは、こんな提案もする
「そうそう、お昼ご飯なんだけど、料理は僕に任せてよ!
今は弁当店で調理のバイトをやっているから、料理の腕も前より上がったんだ。得意料理は青椒肉絲[チンジャオロース]! ピーマンやひき肉なんか冷蔵庫によくある材料で作れるから、とても良いんだ」
「へぇー、フウタの手料理、楽しみだな。前よりも上手くなっていたら、嬉しいな」
「前よりは絶対に上達してるはずさ、期待してて、ミユ」
そんな話をしていたらいつの間にか、自宅へと帰りついていた。
町のちょっとした住宅地、フウタ、ミユ、二人の家はちょうど、並ぶ住宅の中で隣接した位置にあった。
今歩いている道の、手前にあるのがミユの家、その玄関先でフウタはミユを見送る。
「それじゃあ、また」
ミユは頷く。
「バイバイ、フウタ。……良い夢、見てね」
「ふふっ、ミユも。――明日は、どうか楽しみにしてて!」
もちろん!――、彼女はそう言って、家の中へと入って行った。
ミユが家に帰った後、フウタは一人、期待に胸を膨らませる。
――明日、ようやくあれが買えるんだ……楽しみだな――
期待で胸が膨らみ、もう明日が待ちきれない――フウタであった。