【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
GBN、荒野のフィールドにて、三機のMAが飛翔する。
闇夜を照らす、仮想空間とは思えない程に綺麗な月に照らされる機体の姿は、三機とも改造されたガザシリーズのMA形態だ。
元々『機動戦士ガンダムZZ』に登場する、MS、MA両形態への変形機構を持つ可変機。…………なのだが、やたら派手な塗装に、刺を生やしていたりなどと、やたら世紀末的もとい攻撃的な外見となっている。
《さてと、次はどんな真似をしようか?》
《低レアのアイテムを初心者に高く売りつけて、コインの大儲け、なんてどう?》
《だが、ポイントも稼ぎたいぜ。ミッション中にでも、高レベルのプレイヤーを騙し討ちすれば、たんまり儲かるんじゃねぇか》
やたら物騒な会話を行う、アバターの柄までもが悪い、ガザのパイロット達。
どう見ても、ただ普通にゲームを楽しむダイバーとは、とても思えない。
それもそのはず、彼らはGBN内で迷惑行為を繰り広げ、『ガザ三兄弟』で名の知られる悪質ダイバー達であったのだから。
彼らはこれから行う悪事について、色々と話し合っていた。
《確かにポイントも悪くねぇ。ここらで一気に、稼ぎたいとも思っていたしな》
その中でリーダー格と思われる――ここではダイバーAと呼ぶ――ダイバーが、もう一人のダイバーBの意見に同意する。
だが三人目になる若干オネエ口調のダイバーCは、やや否定的な様子。
《だけど、最近だと微妙に警戒されてるじゃない? 他のプレイヤーも集まるミッションだと、不意打ちをするのも面倒でしょ》
これにはダイバーAも唸る。
《確かに、それはそうだ。何しろ俺たち悪質ダイバーを狙う、ヒーロー気取りの奴もいるからな、そいつに目をつけられるのも少し不味い》
《なら、一機でいる所を、三機で襲うなんてどうだ? いくらレベルが高くても、俺たちのコンビネーションなら!》
《それでもそんなに都合よく、そんなダイバーが一人でいないわよ》
それでも懲りずに高レベルのダイバーを狙う、ダイバーB。ダイバーCは乗り気ではないが、対してタイバーBには、まだ当てがあるらしく、ある事を話す。
《ところがどっこい、実はそれに打ってつけの相手がいるんだ。
……こんな噂を、聞いたことあるか。あちこちのディメンションを一人放浪し、何かを探して回っている凄腕のダイバーがいるって事を》
この話についてダイバーCは知らない様子だが、ダイバーAには聞き覚えがあった。
《ああ、その話なら俺も知ってるぜ。何ならあの『アヴァロン』の一員として、第二次有志連合戦でも活躍していたって話だ》
GBNにおいては、ダイバー同士の協力要素も存在し、それが部隊システム、『フォース』である。同じ目的を持ち、専用のミッションへ共に挑む、それこそフォースの醍醐味とも言えた。
その中でもランキング一位のフォースこそ、『アヴァロン』でる。
リーダーを務めるのは、GBNチャンピオンであるクジョウ・キョウヤ。約二年前に起こったブレイクデカール、そしてELダイバーに関する事件に際して、ダイバー、フォースの連合軍となる『有志連合』を組織し、GBN全てを巻き込んだ第一次、第二次有志連合戦は、今でもダイバー達の間で語り草となっていた。
《確かにそんな奴なら、倒せばポイントが高く、手に入りそうだな……ふふふ》
ほくそ笑んでいるダイバーAに、そうだろう、とダイバーBは言う。
《そのダイバーは見たことないガンダムに乗っているらしい。大きな特徴は、普通のガンダムより、小型ってことだぜ》
《小型の……ガンダムねぇ。何があるか知らないけど、私たちなら余裕そうね》
《俺が聞いた、その筋の話では、次はこのディメンションに現れるってよ。
もし現れれば、その時は――》
悪質ダイバー達がそんな話をしてた、まさにそんな時……『それ』は姿を現した。
三機の前に現れた黒い影。
夜の闇に紛れ、姿ははっきりと分からないが、人型のシルエットはまさしくMS。
そして、頭部からのびる、角のような二本のアンテナと、輝く二つの目。
それはまさしく――
《『ガンダム』……か》
ガンダム――それはアニメ『機動戦士ガンダム』から始まる、一連のアニメシリーズで主役として活躍するMSであった。
そのヒロイックなデザインは、今日に至るまでのガンダムシリーズの人気へと繋がり、GBNにおいても他のMSを凌ぐ高い人気を誇っている機体だ。
《それに見ろよ。あのガンダム、普通より小型だぜ。まさかあれが……》
あの正体こそ、先ほど三人が噂した、凄腕のダイバー……なのだろうか。
《そうと決まれば、早速――倒してポイントを頂くぜ!》
ダイバーAの合図に、B、Cともに応える。
謎のガンダムに向かい、急襲を仕掛ける三兄弟のガンプラ。
相手もそれに気づき、ライフルらしきもので応戦するも、ことごとくそれを避ける。
MA形態は加速、機動性ともにMSよりも高い。そのためでもあるのだろう、が……
《ははっ! 全然当たらないぜ!》
《射撃が全然ダメじゃない、本当に凄腕?》
噂とは全く違う様子に、思わず嘲笑するかのように三機はガンダムの周囲を飛び回る。
ガンダムは相変わらずライフルで攻撃しているものの、それでも傷一つ、つけられはしない。
《それじゃ、そろそろ止めを刺すか。……行くぞ!》
その声を合図に、三機のMAは方向転換し、ガンダムへと向かって行く。
そして三方向からの、ビーム砲の一斉斉射、相手は成す術もなく次々とビームに貫かれ――爆発四散する。
《ひゃははは! どうだ! いくら凄腕だろうが、俺たちの敵じゃないぜ!》
ダイバーBは得意げに大笑いした。だが、ダイバーCはやや、懐疑的だ。
《……だけど、あのガンダム、かなり弱すぎでしょ? あんな動き、初心者と殆ど変わらないわ》
《何言ってんだよ、確かに普通よりも小型の、ガンダムだったじゃないか? あれで間違いないぜ。弱かったように思ったのは、単に俺たち三人が、強かっただけの話だ!
見てみろよ、きっと手に入ったポイントだって……》
そう言って、ダイバーBがポイントを確認した。
しかし、確認した瞬間、彼の得意げな様子は消えた。
《どうしたのよ?》
《……馬鹿な! ポイントがほとんど入ってない、だと!?》
ポイントを確認した所、ほんの僅か入ってはいるものの……大して入っているとは、言えなかった。
こんな中で、ダイバーAは何かに気づいたらしく、こんな事を言った。
《おい、二人とも、倒したガンダムの残骸を見てみろ》
先ほど、爆散したガンダムのパーツ。
頭部と胴体、肩など一部が、原型が残っており、それは三兄弟にも見覚えが、あるものだった。
《あれは……F91、じゃないのか》
ガンダムF91――それは劇場アニメ『機動戦記ガンダムF91』に登場する主人公機。従来のMSよりも小型化した機体が中心に登場し、ガンダムF91もこれまでのガンダムと比較し、小型の部類に入った。
《確かに、小型のガンダムだが……確かお前の話では『見たことのないガンダム』だったよな》
これにはダイバーBも、認めざるを得なかった。
《ああ。これは…………全く違う機体。ただの人違い、だな》
――――
とある地方都市のガンプラ専門店、ガンダムベース。
そこでGBNから、ついさっきログアウトしたばかりの青年が、溜息交じりでヘッドギアを外す。
「……はぁ」
その傍に位置する、三角形に近い台座。GBNへとガンプラのデータをスキャンするデバイス――ダイバーギアの上には、彼の物と思われる、黒と金色に塗装されたガンダムF91が置かれていた。
――ディメンションで一人、ガンプラバトルの訓練をしていたのに、まさか三人がかりで襲われるなんて。
一体、俺が何をしたってんだ――
灰色を基調としたカジュアルな服装に、細目の眼鏡をかけている青年、顔立ちは整っているものの、若干冴えない雰囲気を漂わせている。年はおそらく、二十代半ば、と言った感じだろうか。
「ようやくログアウトしたか、随分と遅かったじゃないか、ジン」
青年――タケヤマ・ジンの傍らには、少し前から待っていたのか、年が近い男性が二人。どちらも彼の仕事仲間、そして彼らもGBNのダイバーでもあった。
「ごめん、ちょっと待たせた」
「全く! 今日はGBNは程々で、その後飲みに行くって約束だったろ? せっかく良い店を予約したって言うのに、時間がないぜ」
多分三人の中では年上で、先輩風を吹かせた青年は、そんな事をジンに言う。
「まぁまぁ。待っている間に僕たちは、ガンプラが買えたじゃないか。それで良しとしましょうよ、先輩」
一方、ジンと同期らしいもう一人は、彼を弁護する様子を見せる。
先輩とその同期の青年は、どちらも手にはガンプラの入った袋を持っていた。
「ま、それもそうか。……それじゃ、ジンも戻って来た事だし、早速飲みに行きますか!」
――――
三人はガンプラベースから歩いて数分程度の距離にある、居酒屋へと向かった。
それなりに良い所らしく、小綺麗な感じの店内。ジンたち三人は、テーブルを囲んで飲み物を頼みながら軽い食事をしていた。……そもそもメニューも、やや高めな物ばかり、あんまり多くは頼めない。
「くーっ! やっぱり飲み会一番のビールは上手いな! 身体に染みるぜ!」
早速、届いたばかりのビールを飲み、ぷはっと酒臭い息を吐く先輩。その一方で、同期の方は、頼んでいた焼き鳥を食べていた。
「……にしても、相変わらずジンは、酒を飲もうとしないんだな。ケイジの奴だって、ノンアル程度は飲めているのにな」
そして、ウーロン茶をちびちび飲みながらフライドポテトをつまんでいたジン。
「……ん?」
自分の名前が呼ばれ、焼き鳥を頬張りながら、同期も顔を向けた。
が、それは置いておいて、ジンはこう言い返した。
「仕方ありません、先輩。自分、ノンアルでも酔って次の日、頭が痛くなりますから」
「と言っても、明日は仕事休みだろう? たまには冒険ってのも悪くないぜ。……ほら、これなんか喉越しも良いし、フルーティーな味わいだぞ」
「はぁ、これ以上言うなら、パワハラで訴えますよ」
「ちぇっ! 連れないやつだな」
と、そんな会話をしているものの、実際は関係としては良好で、悪いものではなかった。こうしたやりとりも、たまにあることだ。
するとここで、何かを思い出したかのように、先輩はこんな事を聞く。
「まぁ、それはともかく。……ところで、だ。ちょっとはGBNは、上手くなったか?」
「うーん。やっぱり、俺はまだ……」
この質問に、ジンは残念そうな表情だ。
同期も同期で、何かを思い返す様子を見せる。
「元々僕たちは、時間を見つけてはたーまに、GBNで遊ぶ程度だったのにな。
それなのに最近のジンは、僕たちより熱中した様子でさ、本当によくやるよ」
「それは勿論。だって、そうしないと、『あの二人』に勝てないだろ」
「話は聞いてるけどさ。その二人は世界ランク五百位代の、かなりの強者じゃないか。対する俺たちは、せいぜい行けて百万位くらいだろ? どう考えても程遠いに決まってる」
同期の指摘に、ジンはグサッと来るも、こんな事を言う。
「けどさ、頑張ればそのうち、いつか……。だからさ、先輩やケイジ、どっちでも良いから協力してくれないか。二人を相手するには、こっちも二人じゃないと駄目なんだ。
あれからGBNでもパートナーを探したんだけど、見つからなくてさ。……他に、頼れる人間がいないんだよ」
しかし、先輩と同期の様子は、明らかに乗り気ではないと分かる。
「だから言ったじゃないか、僕たちの実力じゃ、全然届くわけがないって。世界の中で五百位近くの上位まで行くってことは、ゲームの腕もガンプラの腕も、並外れているに決まってる。
ジンが頑張っているのは分かるけどさ、やっぱり諦めた方がいいさ、僕たちには無理だよ」
「……ケイジの意見には、俺も同感だ。今日みたいにたまに練習へ付き合う位なら構わないが、さすがにそんな無茶な事は、ご免だ。
すまない、悪いとは思うが、な」
結局、二人はそこまで、ジンの味方になってくれる……と言うわけではないようだ。
――まぁ、俺だって無茶だって言うのは、分かっているけどさ。あきらめ切れるわけ……ないじゃないか――
彼らなりには、親身になってはいる。決して責めることは出来ないと、分かってはいても、ジンは悔しくて両拳を握る。
「さてと、ちょっと暗くなっちまったな。……それじゃ! 仕切り直しと行こうか」
そんな様子を察したのか、先輩は明るく振舞い、楽しい飲み会を再会する。
同期、そしてジンも、何とか調子を取り戻す。……だが、彼の心の隅には、相も変わらず影が差していた。