【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
「……ふぁーあ」
眠気の冷めないフウタは、大きな欠伸をついた。
窓には街の景色が、次々と流れて行き、ガタゴトと揺れる音がする。
時間は朝の六時代、始発の電車に乗っているからなのか、他に乗っている人は少ない。……まぁ、ここが地方の田舎であることも、十分に要因とも言えるが。
自分の暮らす町から、この辺りで一番大きな、地方都市へと。
目的は地方に唯一あるガンダムベース、今日はそこに、あるガンプラが入荷されるからである。
フウタが乗る電車はすでに街中に入り、もうすぐ駅に着きそうだ。
社内に、終点の駅を伝える、アナウンスが流れる。
――そろそろ、降りる準備をしないとね――
フウタはカバンを握り、席から立って出口付近へと移動する。
やがて駅のホームが見えはじめ、ゆっくりと速度を落とし、そして軽く揺れたのち、停止した。
ドアが開くと、彼は誰よりも早く駅へと、降り立った。
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駅からまた、しばらく歩いた先に、ガンプラ専門店であるガンダムベースがあった。
時間はまだ七時になったばかり。店の開店までは三時間も先だ。……しかし、すでに店の前では、十人程の人が並んでいた。
――やっぱり、あれが目的なんだろうな。……早く来て、本当に良かった――
早速フウタも、その列へと並ぶ。
――後三時間、か。ちょっと長いけど、気長に待とう――
幸い今日は暑くも、寒くもない丁度いい気候だ。
それに楽しみだってある、数時間待つことくらい……楽勝だ。
――――
――三時間後。
あれからさらに行列は伸び、人が集まっていた。
そして、スタッフにより開店の用意がなされるとともに、人々は店の中へと入る。
ガンダムベースの中には、所せましとガンプラが並ぶ。宇宙世紀、アナザー系を問わず、様々なガンダムシリーズのガンプラが、新しいキットから古いキットまで、多く取り揃えていた。
時間があれば見て回りたい所だが、今日来たのはそんな事のためではない。
店で一番目立つ場所に置かれた、いくつもの大型のプラモデルの箱。
そのパッケージに描かれているのは、天使のような翼を広げた、青と白を基調にした美しいガンダム――ウィングガンダムゼロカスタムの姿であった。
『劇場版新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』に登場する主役機、そのこれまでにないヒロイックなデザインには、ファンも数多い。
先に来たお客は、次々とそのガンプラを手に取る。そして
ついに、フウタの番が来た。
このゼロカスタムは1/144スケールのHG(ハイグレード)や、1/100のMG(マスターグレード)とは訳が違う。
規格は1/60ものPG(パーフェクトグレード)。元々PGのゼロカスタムは販売されていたが、最近ではもう在庫は希少であり、ジョウの模型店はもちろん、このガンダムベースにさえも存在していなかった。
それが今日、店へと入荷された。
しかもただのPGゼロカスタムではない。フルカラーメッキが施された――限定品のゼロカスタム、PGのシリーズでは比較的初期のキットではあるが、それでも完成度の高い一品だ。
フウタはその大きな箱を持ち、瞳をキラキラとさせる。
――ようやく、このゼロカスタムが、手に入ったんだ。情報を聞いてから、数か月待った甲斐があった――
手にしたガンプラを、彼はレジへと会計へ向かう。
元々のPGですら一万円以上と高いが、これは限定品であるため、更に輪をかけて高額となっていた。
しかしそんな事はフウタにとって、大したことではなかった。
大きめのビニール袋に入れられ、店員から再度渡された、ガンプラの重さ。
これを感じた時、改めて彼は……ガンプラが手に入ったと、そう実感した。
――――
「~♪ ~♪」
街の河川敷の上を、上機嫌なフウタは鼻歌交じりで歩く。
片手にぶら下げているのは、ガンダムベースで購入した限定版PGゼロカスタム。よほど、それが手に入ったのが、嬉しい様子だ。
昼からはミユの家へと遊びに行く約束をしていたが、まだ時間に余裕がある。
それに次の電車が来るまで、間もそれなりに長い、それまでの間、街の散策を楽しんでいた。
こうして散歩したり、どこかに軽く旅行に行くのも、フウタのちょっとした趣味だった。
一人でするのも良いし、ミユと一緒なのも……もちろん楽しい。
外は雲一つない、快晴の青空。吹いてくる風も気持ちいい。
こんな空の下、見える景色もより良く見える、そんな風に思えるフウタ。
立ち並ぶ街並みと、河川敷の下には大きな川が流れ、風景を鏡面のように逆さまに反射させる。――どちらも、日の光に照らされて、キラキラと輝いていた。
――そうだ、せっかくだから一枚、写真でも撮ろうっと――
フウタはポケットからタブレットを取り出すと、カメラモードで風景の撮影をしようとする。
――ちょっと角度が変かも、それにもっと広い範囲が撮りたいから――
タブレットの画面に集中しながらフウタは動くも、そのせいで足元は、かなりお留守な様子。
……そして、それが次の瞬間に災いとなる。
足元の僅かな窪みに引っ掛かり、思わずバランスを崩したフウタ。
「うわっ!」
慌ててバランスを取ろうとするが、間に合わず彼は、盛大にひっくり返って後ろに転倒した。
空と大地が――ほんの一瞬で、反転するのが見えた。
後ろに転倒して、フウタは仰向けに地面へと倒れた。
「……いてて」
幸い頭をぶつけなかったものの、背中を強く打って、かなりヒリヒリする。
――僕の、タブレットは――
そっちの方は、とっさに右手に握っただったおかげで、傷一つついてない。
しかし……その瞬間、あることに気が付き、ギョッとした!
――ちょっと待って! ガンプラの方はどうなった!?――
とっさに周囲を見回すも、どこにも見当たらない。そもそもあんなに大きな箱、気づかないはずはない。
……だとすると。
フウタは河川敷の下を見下ろした。するとそこには……
「――――そんな」
目の前に流れる大きな川、ガンプラは川の上にぷかりと浮かび……下流へと流れて行く。
唖然とし、脱力した彼は、へたりとその場に座り込んだ