【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
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一年前。
シラサキ・マリアは、ガンダムが大好きだった。
ガンダムのアニメも、そしてガンプラも。作品も宇宙世紀やアナザーを問わず、ガンダムと言うコンテンツそのもの、すべてが好きだった。
それは彼女に兄である、ハクノも同じ。
……だからこそ、ガンダム関連で世界規模で人気を博すネットゲーム、GBNも絶賛、ハマっている最中だった。
それこそやり始めたのは、さらにまた一年前。
この時期はGBNにおいてブレイクデカールと呼ばれるチートアイテム、電子生命体であるELダイバーの騒ぎで盛り上がっていた時期であり、始めようと思ったきっかけになった。
……それからは、ジンとハクノの兄弟はメキメキとGBNに順応し、ガンプラバトルの腕も上げた。
一年たったこの頃にはもう、世界ランク千位台に、到達していた程だ。
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まぁ、それはさておき……。
そんなガンダム好きのマリアが、ガンプラを購入するために、ガンダムベースへと訪れたときに偶然出会ったのが、ジンだった。
あまりガンプラに慣れてない様子の彼に、マリアは声をかけた。
……が、返って来た答えは。
『別に、俺はガンダム作品なんて、好きじゃないんだ』
そう言われた彼女は、ショックを受けた。
だが一方で。
――そう言うなら、私だって引き下がれないわね。何がなんでもガンダムを好きになってもらうんだから!――
心に火がついたマリア。
「そう! なら……ジンにはたっぷり、ガンダムについて色々教えないとね。
絶対に、好きになってもらうんだから!」
マリアは、そう言うやいなや、ジンの手を引っ張る。
これには訳が分からず、混乱するジン
「えっ! ちょっ!?」
「ここでゆっくり話すには、場所が悪いでしょ? だからるいて来て! 最適な場所があるの!」
理解が追いつかないまま、ジンはマリアの勢いのままに、どこかへと連れていかれるのであった。
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「……はぁ」
「で、ガンダム作品……宇宙世紀を舞台にした作品で言うなら、ジムやザクなんかの量産機もいいの。
バリエーションもとっても豊富で、世代を追うごとに次々増えていくのよ!
ジムならジム改、ジムⅢ、名称は変わるけどジェガンって言う機体もあるのよ」
「……へぇ」
「私のオススメは0083に登場する、ジムカスタムね。一年戦争のジムを全般的にチューンアップした機体で、『特徴がないのが特徴』と言う言葉どおり目立った特徴はないけど、いかにもジムの強化型って感じが、とてもいいの!」
ジンとマリアがいたのは、ガンダムベース近くの、小さな喫茶店だった。
二人は向かい合って、ガンダムに関する話を長いことしていた。
……もっとも、話してばかりなのはマリアの方であり、ジンはほとんど聞き専ではあったが。
返事も大体は生返事、ではあるものの……。
「そう言えば、よく分からない話ばかり、だったかしら?
ごめんなさいね、でも、ちゃんと聞いてくれて、嬉しいわ」
「……俺こそ、何か気の利いたことを、話せたら良かったんだけどさ。どう言えばいいのか。
でも、ガンダム……か、話を聞くと思っていた以上に、奥が深いんだな」
話していたことの半分どころか、四分の一すら理解出来なかったジンであるが、それでもジンはガンダムと言うコンテンツがどれ程大きなものか、そして……。
「マリアは、ガンダムが好きなんだな。俺はそこまでよく分からないけど、さ、それは分かるとも」
ジンのふとした、優しい言葉。これにはマリアも嬉しそうな表情を見せる。
「ふふ! その通り! 私のことを分かってくれて、嬉しいわね。
でもガンダムはあんまり知らないとなると、そうね……ジンは、ゲームとか好き?」
いきなりガンダムから話題が離れ、やや戸惑うも、ジンは答える。
「うん、まぁ、人並みには好きだぜ」
「良かった! なら、ジンにはGBNをオススメしようかな。そっちは……知ってたり、する?」
彼は頷いた。
「一応な。世界規模のVRゲームだって話は、聞いているよ。
何しろかなり人気らしいしな。ガンプラを使う、ゲームだったっけ」
「その通りよ! ガンダム作品の舞台が色々再現された広大な仮想空間を舞台に、その世界を巡ったり、イベントを楽しんだり、……何より自分のガンプラを操縦して、バトルも出来ちゃうの!」
これにテンションが上がったマリアは、ついテーブルから身を乗り出して、熱弁する。
「良かったらジンもGBN、遊んでみない? 私は結構ハマっているから、一からその楽しさを、貴方に教えてあげられるわ。
……でもちょっと、お兄ちゃんが厳しいけど」
「お兄ちゃん、だって?」
「あはは……。私には過保護ぎみの、お兄ちゃんがいるの。
本当はとっても良い人なんだけど、もし男の人と仲良くしているなんて知れたら、何て言うか……」
マリアはついつい、苦笑い。
ジンもこれにつられてしまう。
「それは、大変だな。
……だけど、心配しなくても俺はそこまでガンダムに興味はないんだ。マリアの手を、煩わせないさ」
やはり、ガンダムを好きにはなってくれない、ジン。
これにはマリアもどうしたものかと、考える。
「うーん、ここまで熱く布教しても、これだなんて。困ったわね」
彼女は考え込む様子を見せると、こんな事を、つい聞いてみた。
「ちなみにジンは、どうして……ガンダムの事、好きじゃないの?
もしかすると、何か理由があるんじゃないかなって」
ここまで好きじゃないと言うことは、もしかしたら、何か理由があるかも。
マリアはそう考え、質問した。
「……ああ。実はちょっと、訳ありでね」
すると、何やら乗り気でないようだが、ジンは呟いた。
「そうなのね。なら、良ければ教えてくれないかしら? 私で良ければ力になるわ」
「マリアの気持ちは、もちろん嬉しいけど……」
だがやはり、消極的なジン。
「私達もう、お知り合いでしょ? 今更恥ずかしがることはないじゃない」
「いや、その……きっと、話したらきっと、変に思われそうだ。それに、笑われるかもだし」
きっと、相当にジンは心配なのだろう。
そんな彼にマリアは励まして、元気づける
「大丈夫、大丈夫! 笑ったりなんてしないわよ。
だから、ねっ? 教えてよ!」
ジンはいまだに迷っているみたいだが、やがて覚悟を決めたのか、こんな事を話した。
「確か俺が7、8才くらいの小さい頃は、さ。ガンダムは好きだったんだ。
……中でも、ガンダムSEED Distiny、だったかな。それが大好きで見ていたんだよね。
前作のSEEDも見てはいたんだけど、そっちはあんまり覚えていなくて、はっきりとガンダムと意識して見たのがそれさ」
「ガンダムSEED Distinyね! 私も好きよ! ストーリーの展開には賛否があるかもだけど、メカは前作以上に進化した感じがあったりもして、悪くなかったしね」
ガンダム好きのマリアは、SEED Distinyもまた好きであった。
「でも、好きであったなら、どうして……」
これに、ジンは悲しい目で、こたえた。
「マリアは知っていると思うけど、その作品には、ステラ・ルーシェって女の子が……兵士なんだけど、実際はとても純粋で、可愛い少女が登場したんだ。
。こんな事言うのは、アレだったんだけど、彼女が僕の初恋だった。……笑っちゃうだろ
まぁその子は、作中で主人公であるシン・アスカと恋仲に落ちるんだけど、それでも良かった。彼女が幸せになってくれるなら」
「……ジン……あなたは」
何かを悟った様子の、マリア。
そして彼女の予想は、見事に的中していた。
「だけどアニメの後半で、ステラはデストロイガンダムに乗せられて、そして、殺された。
あんな結末で、僕は辛かったんだ。
それが今でも、心に深く、傷にさ」
――と、ついに感極まったジンは、小さくすすり泣きさえ始める
。
「本当に、そうした事ばかりだ。
ミーアって名前の子も好きだったんだけど、彼女まで……。
他のガンダム作品だって、ZZではプルとプルツーが、ガンダムAGEではユリン、そして鉄血のオルフェンズではラフタまで……さ。
ガンダムシリーズはSF、ロボットものでもあるけど、戦争ものでもあるし、犠牲が出て当然なのは頭では分かっているんだよ。だけど……俺にはもう、耐えられなかった。だから……」
「ガンダムが嫌いに。いや、嫌いとまでも行かなくても、苦手になったのね」
こくりと、ジンは頷く。
「はは、は。やっぱりバカバカしいだろ。アニメにすぎないのに、こうもなるなんて。我ながら情けないぜ。
こんな俺、笑ってしまうだろ?」
そして自虐的にまでなり、追い詰められた彼。
ではあったが……。
マリアはジンに真剣な様子で、そして優しく言った。
「そんな事、全然ないわ。
アニメでも辛いものは辛いし、悲しいのは、悲しいから」
「えっ?」
意外な彼女の反応に、ジンは驚いた。
今までその事を、何度も話したことがある。しかし、話しても理解されず、笑われもされたりと、どれも辛い経験だった。
だが……。マリアはそんな自分の思いを、理解してくれた。
それがジンには驚きであり、救いだった。
「ジンはきっと、優しい人。
私……ますます貴方の事、気に入ったわ」
「俺が、優しい人、だなんて」
「もちろん、そうよ!
……だけど、今日はそろそろ、帰らなきゃ。ちょっと用事があってね、時間がないから」
と、マリアはそう言うと、席を立って先に出ていこうとする。
しかしその前に。
「ねぇジン、また会っても、いいかな。
辛い気持ちは分かるけど、ジンには少しでもガンダムを、好きになってもらいたいから。
それにジンのことも、好きになったからね!」
彼女はそう言うと、魅力的な眩しい笑顔を、なげかけた。
ジンの答え。それはもちろん――
「ああ! 俺でよければ、よろこんで」
これがマリアと、ジン。二人の絆の始まりだった。