【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
「なっ――!」
いきなりの提案で、フウタは目を見開いて、固まる。
しかし、彼の次の反応は、もちろん。
「そんなの、駄目に決まってるだろ!」
「……駄目か? たった一度のデートと言うか、一緒に過ごすだけなんだが、それでもか?」
「駄目ったら駄目さ! そもそも、『少し借りて』だって? ミユは物なんかじゃないんだ
いや……そうでなくても、僕は彼氏としてそんな提案、受けはしないさ!」
きっと、フウタはカインを睨む。
対して彼は、余裕満々。一体何を考えているのか。
「ふむ、そう来るか。フウタと言ったか、正直君のことはただの粋がっている子供くらいに思っていたが、ちゃんと芯が通っているじゃあないか。
褒めてあげよう!」
「アンタみたいに女の子をやたらめったら手を出すような奴に言われてもな。
そんなのと違って、僕はミユ一筋なんだ。幼なじみとして一緒に過ごして、いつも僕の事を想って大好きでいてくれる彼女が……さ!」
「……こんな時でも、フウタは相変わらずだね」
少し呆れてはいるものの、ミユもそんな彼が、やっぱり好きなのだ。
「ま! それが僕だからね。……多分そこは、一生治らないだろうし、さ」
フウタは得意げに、彼女にウィンクを向ける。
「そう言うことだからさ、もういいだろ?
現実ならまだしも、ここは仮想空間だ。こんな人数で囲まれたって、いざとなればログアウトすればいいだけさ。
だからもう、僕たちに構わないで欲しいな!」
彼にしては、なかなかに決まった態度ではあった。つまり……恰好良かったと、言うことだ。
これでもう、話はついたとフウタ達は思った。……しかし。
カインの余裕はそのまま。そして……そのままこんな話を。
「ふむ、言いたい事は分かった。
――ただ、それなら彼氏らしく、格好良く私を倒せば済む話じゃないか?」
「それは……」
思いも寄らない発言に、フウタは言葉を詰まらせた。
「そしたら君が愛しているミユちゃんにも、いい所が見せられるじゃないか。むしろ一石二鳥だとも。
それとも……私と戦って勝てる自信がないのかな?」
「うっ!」
それは幾らか図星だった。
「まぁ、それでも私は構わないけれどね。
勝てない強い相手には勝負を挑まないのも、一つの手だ。うんうん、仕方ないとも」
「……」
これはかなり困った状況だった。
さっきの言葉で引き返すと思っていたフウタだったが、逆にカインに追い詰められた。
ふと横を見ると、ミユは心配そうにフウタを見ていた。
――ミユがいるのに、ここで引き下がるだなんて、僕には――
ああも言われて引き下がるなんて、とても出来なかった。
――だってミユを取られたり、負けたりするのは嫌だ。相手は強そうだし。けどここで逃げたら、それこそ彼女を失望させるかも。
そんなの、もっと嫌に決まっている。……どうしたら――
答えの決まらないフウタ。
……しかしその時。
「その勝負、俺たちが受けてやるぜ!」
代わりに答えたのは、ジンだった。
「おや? 私はフウタに聞いたつもりだったんだが」
「俺はジン、フウタのバディーさ。だからタッグバトルと言う条件なら、戦ってやると言っているのさ。
そっちはフォースなんだろ? だったそっちもタッグを組む相手くらいは工面出来るんじゃないのか?」
「……ジンのやつ」
自分を置いて話を進めるジン。フウタは一人複雑な様子である。
「ふむ。タッグバトル、ねぇ」
「悪い話じゃないだろ。それとも、そっちがタッグで戦うのが苦手なら、話は別だけどな」
「ジン……か。ずいぶん言うじゃあないか」
カインとジンの間に、視線が交差する。
そして……。
「オーケー。ならそのタッグバトルの挑戦、受けようじゃないか」
彼はその提案を、受け入れた。
「そうか。まぁ俺たちだってそれなりに強いんだぜ。簡単に勝てると思うなよ」
「ふっ、それは楽しみだな。……ただ、そう言えば」
するとカインは、何かを思い出すかのような表情で、続ける。
「私が勝った時の条件は伝えたが、もし君たちが勝てた場合の話がまだだったな。
そうだな……じゃあ、二人が私に勝てたら、『アレ』をプレゼントしよう」
カインがそう言って示したのは、頭上に浮かぶ戦艦ドミニオンだった。
さっきまでずっと待機していた周りのダイバー。しかしこの突飛な提案にはさすがに、どよめきを隠せない、
「待ってください、リーダー! それはいくら何でも不味いですよ」
「あのドミニオン、一体どれだけ掛かっているのか。それを……」
騒ぐ周りではあったものの、カインは。
「ごちゃごちゃ騒がない。大体、私が負けると思っているのかな」
「それは……」
彼に制され、途端に騒ぎは収まった。
再び、カインはフウタ達に顔を向ける。
「と言うことで、この挑戦を受けるとしよう。……フウタも、それで構わないかな」
さっきまでずっと黙りっぱなしのフウタにも、最終確認をとる。
最も、こうなってしまえばもう後には引けなかった。フウタは黙ってこくりと頷く。
「了解したとも。――なら、さっそく勝負を」
戦いの火ぶたが切って落とされようとした、その時。
「ああっと、リーダー!」
取り巻きのダイバーが、何かを思い出した様子でカインに駆け寄る。
「どうした? 今から戦いを始めると言うのに」
「その、今は不味いですよ。何しろ……」
彼は耳打ちで、何かを伝える。
「――おっと、それは私も忘れていた。これはいけないな」
はっとした様子のカイン。そして改めてフウタ達に対して
「……悪いが今日は、既にあるダイバーとガンプラバトルの約束をしていたんだった。
恥ずかしながら、前にその相手と戦って負けてしまったのさ。だからリベンジマッチを申し込んだわけだけど……すっかり忘れていた」
「へぇ、ちなみにどんな相手なんだい?」
ジンは少し気になる感じで尋ねると、カインは
「それはな、ハクノって言う白髪の、ヤンキーっぽいやつなのさ。
あっちもタッグで戦うのを得意としている感じだけど、私とは一対一でな。……最も、それでもかなり強い相手ではあるんだが」
「ハクノ……か」
それはフウタとジン、二人にとっても因縁の相手だった。
「おや? もしかして知っている相手だったか?」
「まあな。俺たちにとっても因縁があるからさ」
「へぇ……世間は狭い、と言うことか。
――さて」
すると上空のドミニオンから一機のシャトルが、屋上へと降り立つ。
辺りのダイバーは続々とその中へと乗り込み、取り囲んでいたウィンダムも、飛び立って行く。
「そう言う事だから、私たちはこれにて失礼するよ。お楽しみは後で取っておくと、言うことさ。 さらばだ、フウタ、それにジン」
「……」
「ああ、次会った時には、目にもの見せてやるとも」
フウタは結局黙ったまま。そしてジンは、そうカインに言葉を返す。
「ふふっ、それはどうかな?
……最後にミユちゃん。君とのデート、心待ちにしているよ」
カインはミユに微笑みかけ、手を振る。
そして、彼もシャトルに乗り込むと、機体はそのままドミニオンへと戻って行ったのであった。
――――
フウタ、ジン、ミユ、そして……ロッキー。
彼ら四人は飛び去って行くドミニオンの後ろ姿を、しばらく眺めていた。
「……はぁ、ようやく行ってくれたか。
三人とも大変な目に遭ってしまったな」
ロッキーは三人に、そう声をかける。
「特にミユちゃん、あのカインとデートの約束を取り付けられてしまうなんて。
……まぁ、あいつは面倒な奴だが、悪人ってわけじゃない。それにたった一回だけでもあるし、俺が言うのは何だが……あまり気にしないでくれたまえよ」
彼はミユに励ましの言葉をかけるが、彼女は首を横に振る。
「私は大丈夫。だって、フウタとジンさんがいてくれるから。
二人とも強くなったし、……あんな相手なんて、コテンパンにするんだから!」
これにはジンも、ははは、と笑う。
「俺こそ悪い、勢いでついあんな勝手な事を言ってしまってさ。今考えると、あまりにも無責任すぎたな」
「大丈夫だよ。むしろジンさんがあんな風に言ってくれて、恰好良かったんだから」
「ありがとう、ミユちゃん。……とにかく、俺たちも全力を尽くして、絶対にあのカインって奴を倒すからさ。
なぁ、フウ――」
ジンはすぐ傍のフウタにも、声をかけようとした。……が!
バシッ!!
言葉を言い終えない内に、フウタは振り返ったジンの顔が目に入ったかと思うと、いきなりその顔面に強烈なパンチを食らわせた。
「なっ!!」
「フウタっ!」
これには見ていたロッキーも、それにミユも、強いショックを受けた。
そして殴られた当のジンはと言うと。
いきなり殴られ、後ろに数歩よろめいた。しかし殴られたと言っても、ここはGBN、つまり仮想空間だ。
殴られたとしても、現実のように痛みなんて殆どない。……しかし何も言わずにいきなり殴りかかって来たこと、それはショックだった。
「――っ、どう言うつもりだよ!」
ジンはあまりの理不尽に抗議するが、対してフウタは。
「それはこっちのセリフだ! 勝手にあんな勝負を受けるだなんて、何考えているのさ!」
ここでようやく話した言葉は、ジンへの強い抗議の言葉だった。
「確かに俺も軽率だったし、悪いと思う。
……けどそれは、フウタが何も答えられなかったからじゃないか」
「だからと言ってあんな事、無責任じゃないか!
絶対勝てる保証なんて、そんなのないのに……なのにあんな」
ジンは弁明するも、それでもフウタの怒りは収まりきらない。
もはやジンも、どうすればいいのか分からなくなって来た
「じゃあ、あの時にどう答えるべきだったんだ? それにもし、勝負を受けたくなかったのなら、普通に断りさえすれば済む話じゃないか」
するとフウタは……また言葉を詰まらせてしまう。
「それは……だって……」
「止めてよ、二人とも!」
するとミユは、とうとう二人を止めに入った。
「ごめんなさいジンさん、気持ちは分かるけどあまりフウタを責めないで。
……フウタも、あんな風に殴って、ジンさんに強く当たるなんて良くないよ。そこまで気にしなくても、私は全然大丈夫だから」
「……」
「――ほら、もし勝負に勝てなくても、たった一回のデートくらいじゃない。
それだけで私とフウタの絆がどうにかなるって訳じゃないんだから。
だから……そんなに思い詰めないで」
ミユの言葉に、フウタはしばらくの間黙っていた。
しかし――
「もっと、頼りにならなきゃなのに。……ミユにふさわしいパートナーとして、僕は」
彼はそう、一人呟いていた。
さすがにジンも、この様子には心配になる。
「おい、フウタ。……やっぱりお前」
だが、そんな心配もフウタには届かない。
途端に彼は、きっとジンを睨む。
「うるさいよ。言っただろ、ジンの顔なんて見たくないって。
……それに、ごめんミユ。本当に……さ」
そう言い残すとフウタは、これ以上何も言わずにメニューを開き、GBNをログアウトした。
「あっ――」
一方的に姿を消したフウタ。ジンはこの態度に、ますます気にかかる。
「あーあ、あの坊や、へそを曲げちまったよ。いきなり過ぎて、俺には何が何だか分からないぜ」
この状況に、ロッキーは訳わからない様子であるが、それはジンも同じである。
「俺だってそうさ。今回のフウタはかなりおかしかった、どうしてああなったんだ?
そりゃ、あんな態度にはムカつくけどさ、ああ怒ったり、落ち込んだりで……心配になるんだぜ」
そんな風に話す彼に、ミユは近づく。
「あの、ジンさん」
「……どうしたんだい?」
「本当にごめんなさい。フウタがジンさんに、色々と迷惑をかけちゃって」
彼女はとても、申し訳なさそうにしていた。
「俺はそこまで気にしてないさ。むしろ、あんなの初めてだったから、それは心配なんだけどさ」
「ありがとうね。あんなにひどい事言っちゃったのに、それでもフウタの事を気にかけてくれるんだ。
私も、嬉しいよ」
ミユはジンに、優しい笑顔を見せた。
こんな風にされるのも、初めてだった。ジンは思わず照れて、頭を掻く。
「そりゃあ、どうも。
……ところでミユちゃんは、どうしてフウタがああなったのか。知っているかい? 君なら何か知っているんじゃないかってさ」
そう尋ねたジン。すると……
「あそこまで落ち込んだのは初めてだけど、こうした事は前にも、何度かあったんだ。
フウタがああなったのは、ね、それは――」