【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
十年前――
「やぁ、いらっしゃい、小さなお客さん」
ジョウはその時は二十代と若く、店も父親の手伝い、アルバイトとして店員をしているくらいであった。
「また遊びに来たよ! ジョウおじさん!」
「おじさんはないだろ、フウタ? 俺はまだ二十三……、まだまだ若いんだしさ」
店にやって来たのは、小さい男の子だった。
彼がまだ小さい頃のフウタ、よくこの模型店に遊びに来てガンプラを買って行く、言うなれば常連である。
だからこの時から、フウタとジョウは互いによく会ってもいる、知り合いでもあったのだ。
「いいじゃん! 別に小さい事だし」
「あはは、参ったなこりゃ? ところで……」
ジョウはそう言って、フウタのすぐ隣に視線を向ける。
「そっちの女の子は、一体誰なんだい?」
フウタは一人で来たわけではなく、もう一人、同い年の女の子を連れて来ていた。
彼と手を繋いでいる、亜麻色髪の可愛い女の子。背丈はフウタよりも少し小柄。……この時はまだ、フウタの方が背が髙かったのだ。
こっちは、ジョウにとっても初めて見た。
「あの、初めまして……です」
女の子は少し緊張しているようで、ぎゅっとフウタの手を握る。
「大丈夫だよ、ミユ。あの人は悪い人なんかじゃないから。ちょっと、柄は悪いかもだけどさ」
「おいおい、そりゃひどい言いようだな。
でもミユちゃんって、言うんだな。良い名前じゃないか。……俺はジョウ、よろしく」
「……うん」
ミユも少し安心したのか、にこりと微笑んだ。
これには一緒にいるフウタも、
「ミユが安心してくれて、僕も良かった。
……ジョウさん、彼女は僕の家の隣に住む子で、大の仲良しなんだ。
だから、せっかくだから今回はミユも一緒にって、思ったんだ。プラモとかに興味を持っていたから、今日は一緒に来たわけ。
ねっ、ミユ!」
フウタとミユは顔を合わせ、にこっと笑いあう。
「ははは! 若いお二人同士、微笑ましいな。
ちなみにさ」
ニヤニヤしながら、ジョウはこう聞いてみた。
「ところでフウタ、彼女とはただの友達なのかい? それとも、恋人だったりか?」
「えっと、私は……」
これにミユは、顔を赤らめてもじもじするも、フウタは。
「そりゃあもちろん、誰よりも大好きな、特別な人だよ! ジョウさん」
「わわわ、っ……フウタ!」
いきなりそう言われて、ミユはさらに顔を真っ赤にしてしまう。
これにはジョウも大笑い。
「ははははっ! これはまた、愉快な二人じゃないか。
……とにかく、見て行ってくれよ。ちなみにミユちゃん、もし何か欲しいのがあったら特別に、ある程度だったらタダでプレゼントするぜ」
「えっ! 本当にいいの?」
「もちろんさ。何しろお得意さんの、彼女なんだからな!」
「さすがジョウさん、太っ腹!
ミユも何か作ってみたいって言ってたし、良かったね」
まだ顔を赤らめたままだけど、ミユも嬉しそうな様子だった。
「じゃあ見て行こう! 僕のプラモもだけど、ミユのも一緒に、さ!」
フウタは彼女の手を引いて、共にプラモを見て回っていた。
「へぇ……本当に、たくさんあるんだ」
初めて来る模型店、ミユはワクワクとしている感じだった。
あちこちにある、色んな模型。女の子であっても十分に楽しめている、その様子にフウタも嬉し気だった。
「まーね! 車のプラモもあるけど、こっちには飛行機のプラモだってね。
僕としては飛行機の方も作りたいけど、ジョウさんからは大きくなってからって言われたから」
二人は今度は、ガンプラコーナーへと。
「こっちのロボット……ガンプラなら、僕でも作れるから。
だからミユも作るとしたら、こっちがいいかも」
「あっ! これはフウタの部屋にあるロボットだね」
「そうだよ。ガンダムって言うロボット作品の機体で、たくさんあるんだよ」
「ガンダム……面白そうだね、フウタ」
――へぇ、気に入ってくれているようで、何より――
ジョウは一緒にガンプラを見ている小さな二人を、少し離れた所で眺めていた。
「……ミユはプラモを作るのが初めてだから、このハロだとかどう?」
フウタが勧めたのは、ガンダム作品のマスコットである、丸いロボットのプラモ。
「こっちは可愛いね。それにこれなら、私だって作れそうだし」
「あとミユが作るなら、この小さいクマみたいなプチッガイもおススメだよ。
どっちとも色は選べるから、好きなのを選べるんだ」
「うーん、どっちにしようかな。迷うよ……」
そう悩んでいるミユ。――で、あったが。
「――あっ」
すると彼女は、ふいに何かに目を奪われたように、固まった。
「どうしたの、ミユ?」
「ねぇフウタ、私……あれが欲しいんだ」
ミユが指さしたのは、棚の一番上に置いてある、大きなガンプラの箱。
「あの白い翼のガンダム、とても恰好良くて、綺麗なの。
だから私、これがいい」
「えっ、でもあれは……」
しかしフウタはミユの願いに戸惑っていた。なぜかと言うと。
「ハハハ! いくら何でもそりゃ厳しいだろ。……PGのウィングガンダムゼロカスタムを、子供が作るだなんてよ」
ミユが欲しいと言ったのは、パーフェクト
グレート――PGの、ウィングガンダムゼロカスタムだ。1/60の大きさのガンダム、もちろん組み立ても緻密であり、とても小さい子供に作れる代物じゃない。
「駄目かな、ジョウさん。……フウタも、私一人だと無理かもだけど、一緒だったら作れるって思うの」
「あっ……えっ、と」
「だってフウタは、模型が得意だから。これだって作れたり、するんじゃないかなって。
……お願いフウタ」
期待の眼差しを向けられて。フウタは相当に困り顔。
いくら彼でも、PGなんてまだ作れはしない。これにはたまらずジンも、助け舟を出す。
「おいおいミユちゃん。あのキットはな、二人には早いんだよ。
何せ組み立てるのがかなり難しい。だから、悪いがそれは諦めてくれよな」
「そう……なの」
ミユは残念そうに、しゅんとしょげた。
「あれはもっと、二人が大きくなってからだ。今はミユちゃんはフウタの言う通り、ハロやプチッガイを作った方が楽しいぜ」
ジョウの説得に、ミユは頷く。
「……うん」
けれどやっぱり、ゼロカスタムのパッケージを、彼女はまだあきらめられないように、少し寂しいように眺めている。
残念がっている、ミユ。だけど……
「ねぇ、ミユ」
「――フウタ」
彼女の傍には、フウタがいた。
「確かにまだ、僕にはあれを作るのが難しいし、ミユにプレゼントする事だって、出来ない。
けど、ジョウさんの言う通り、僕が大きくなったら……。それこそ、僕はミユが大好きだから。――だから」
彼はミユの目を真っすぐ見て、そして幼いながらも純粋な心で言った。
「だから、もしゼロカスタムを作れるようになったら一緒に作ろう。大きくなって、それをミユにプレゼントして、そしたら。
ミユ、その時には僕と――結婚して欲しいんだ!」
――――
「……ぶっ!」
これにはジンも思わず吹き出す。
「フウタの奴、マジでそんな事を……」
ジョウも思い出し笑いでニヤニヤしながら答える。
「そりゃ、まだ小さい頃だからな。結婚、と言うのもまだ分かっていない所もあったんだろ。せいぜい一番大好きな相手とする事ぐらいにしか……間違ってはいないが」
「でもあのフウタなら、あり得るかも、か」
ずいぶんジンは、フウタとともにいた。だからそれくらいは分かる。しかし……。
「そう言うことだ。だから、ああしてゼロカスタムを手に入れるために、強くなろうとしているんだ。 ……フウタにとってあれは、今でも大切な約束。ミユへの好きだって気持ちの、証明でもあるからな」
そうジョウは解説し、そして少しため息交じりで、続ける。
「あいつ、自信がないんだよ。
何の取り柄もない自分が、本当にミユに好かれるに相応しいのか。だから……想いだけでも証明しようとあがいているんだ」
「だから、あの時も……」
GBNでフウタが激高したのも、そこに触れたせいだ。そうジンは気づいた。
「ガンプラだけ手に入れる方法なら他にもある。なのにジンの提案を受けたのも、そうしたいフウタ自身のためさ。
困難を乗り越えて、そして目的を果たした方がより、自分の想いに自信が持てるかもって。
ははは……身勝手ではあるけど、全部ミユちゃんのためなんだよ。少なくとも、本人にとっては」
フウタがゼロカスタムが欲しいのも、ガンプラバトルで強くなるのも、どちらもミユに想いを伝えたいため、そして彼女が好きだからこそ。
……そのために、ある意味ジンの提案を、利用した部分もあるかもしれない。けれど、フウタも本気ではあった。
「――そっか」
話を聞いて、ジンは呟きそして……。
「ありがとう、ジョウさん。色々と教えてくれて。
俺は――フウタとまた、ちゃんと話し合わないといけないな」