【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 作:双子烏丸
回想その1 フレンド登録(Side フウタ)
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時間は正午を過ぎ、時刻は一時を回っていた。
「むぅ……遅いな、フウタ」
家のリビングで、ミユは机の上で、頬杖をついていた。
そうしていると、その机に一匹の白いネコが、ピョンと乗っかり彼女に頬ずりする。
「シャルルってば、もう、くすぐったいよ」
この白い雄猫、シャルルもミユの家族の一員。ちなみに猫はフウタの家でも一匹――あっちは三毛の雌猫だが――飼っている。
二人のGBNでの姿、ダイバールックに猫の要素があるのは、そのためでもあった。
「ミー!」
ミユは机に乗ったシャルルを両手で掴み、床へと降ろした。
「まぁまぁ。気になるのは分かるが、たった一時間じゃないか」
彼女の向こう側では、父親が新聞を片手にコーヒーを口にし、せっかくの休日をくつろいでいる。
システムエンジニアとして働くミユの父親は、痩身のナイスミドルと言った男性。今でも女性に声を掛けられることもあるらしいが、それでも愛妻一筋の良い父でもある。
「でもお父さん、いつもならフウタは連絡してくれるんだよ? 何かあったのかも……」
そんな時、家のインターホンが鳴った。
もしかすると――、ミユは玄関に駆け寄り、声をかける。
「もしもし、どなたですか?」
「僕だよミユ。……遅れてごめん」
この声は、フウタのものだった。
ミユが玄関を開けると、そこには息切れをしている、フウタの姿があった。
「ちょっと用事があって、電車に乗り遅れてさ。
でも! ミユと約束があったから、急いで走って来たんだ」
「……もう。急がなくても、連絡くれたら、それで良かったのに」
「あっ! そう言えば、そうだった。連絡する事も忘れていたなんて――」
どうやら、急ぎすぎたせいで連絡の事まで、頭が回らなかったフウタ。
ミユはちょびっと呆れた様子を見せるも、遅れながらも来てくれたことや、そしてフウタに会えたことに――嬉しそうな様子だ。
「ううん。ちゃんとフウマも来てくれたし、もういいんだ。
……ほら、いつまでもそこにいないで、家に入って来て。 フウタが青椒肉絲を作ってくれるって約束だから、私とお父さんも、待ってたの」
「ははは。待ちすぎたせいで、こっちもお腹ペコペコだとも。だが、フウタくんの手料理が食べれるなら、悪くはないさ」
ミユとその父の言葉に、フウタは玄関から家の中へと上がる。
すると白猫のシャルルは、彼の足元に絡みついて来る。
「ふふっ、シャルルも出迎えてくれるんだね。よしよし」
彼は猫の喉元をやさしく撫でる。
そして早速、キッチンへと向かい、料理に取り掛かろうとした。
「さて、と。ちょっと時間がかかるかもだけど、楽しみにしてて。
――腕によりをかけて、料理するからさ!」
冷蔵庫から材料を用意し、道具の準備をするフウタ。
そして料理を始めるなか……彼は二時間前のある出来事について、少し思いをはせる。
――――
時間はさかのぼり、朝の十一時頃。
フウタとジンは、ガンダムベースへと戻り、そこでGBNへとログインした。
ゴーグルをつけ、ログインするとともに、意識がふわりと浮かぶ感覚とともに……どこかへと向かって行くようなイメージ。
そして――
二人が立っていたのは、GBNのロビー。
円形の広いホールに、あちこちにモニターがあり、ガンプラバトルの様子を映し出す。
もちろんダイバー達も、数多い。
オリジナルのダイバールックをした者もいれば、これまでのガンダム作品に登場したキャラクターのコスプレをした者
、そして各勢力の軍服や制服を着用した者など……多種多様だ。
フウタの恰好は、パイロットスーツにゴーグル、そして青髪に猫耳と言った、いつものダイバールックだ。
「へぇ、それがGBNでのフウタ、なんだな。なかなか良い恰好じゃないか」
声がした隣を見ると、そこにはジンの姿があった。
しかし現実とは違い、黒ではなく灰色の髪となり、眼鏡はかけていなかった。
そして格好もややカジュアルな現代風の服装から、まるで中世ファンタジーの、旅人のような恰好をしている。とりわけ背中に纏った灰色のマントなど、いかにもな雰囲気を感じさせる。
「まあね。じゃあまずは、先にフレンド登録から済ませておこうか」
GBNではこうしてフレンド登録をしておけば、相手のログイン状況や現在地を知ることや、連絡など取り易くなる。
今後何かあった時など、これで楽になるはずだ。
二人はメニュー画面を開き、互いにフレンドの登録を行う。
「カザマ・フウタ……っと、こっちは登録したさ」
「僕もジンさんを登録したよ。これで今度は、直接会わなくてもGBNで連絡がつくはずだ」
フウタ、ジンはフレンド登録を済ませた。
そしてフウタの方は、少し考えた後、こんな事を話す。
「――さてと、手伝うって言ったはいいけど。まずは互いの腕を知っていた方が、良いんじゃないかな?」
「腕を知るって事は、フウタとフリーバトルって、ことか。場所はどうする? 俺としては……そうだな」
ジンは画面を開き、周囲のマップを確認する。
「場所はそうだな、ちょっと離れているけど、この湖近くはどうだ。戦うには丁度いい感じじゃないか?」
マップをのぞき込む、フウタ。
「うん。たぶん、ここなら良さそう。それじゃ早速行こう。
……こっちも用事が控えてるし、早く済ませよう」
彼にはミユに昼ご飯の約束をしていた。とりあえず今日は、早めにこの用事を済ませたかった。
――――
高層建造物から飛び立つ、二機のMS。
フウタのレギンレイズと、ジンのガンダムF91……世界観が全く異なるMSが同じ空を飛ぶ、これもまたGBNならではだ。
「……ジンさんのガンプラはさっき見させて貰ったけど、これが僕のガンプラ、名付けて『レギンレイズ・フライヤー』。AEUイナクトとのニコイチで、軽い改造だけどね」
コックピットで機体を操縦する、フウタ。彼は横に表示される通信画面に映るジンに、こう話した。
〈たしか、鉄血のオルフェンズの、MSだったよな。オリジナルは緑だった気がするけど、そのブルーは塗装したって事かい?〉
「そう言うこと、青色が好きな色だしさ。本当はエアブラシだとかの方がいいんだろうけど、高いし扱いが難しそうだから、スプレー缶で塗ったんだ」
〈へぇ、でもなかなか綺麗な色じゃないか? 俺の場合は、全部筆塗りだからさ、微妙に塗装のムラが目立つんだよな……〉
ジンも、そしてフウタもガンプラや模型は好きで、趣味の一つである。
しかし、一言でガンプラ、模型と言っても楽しみ方もまた人それぞれ。塗装一つでも、スプレー缶や筆塗り、そしてエアブラシに無塗装などと、人によって千差万別だ。
加えて更に、接着や合わせ目消しに、プラ板、パテ盛りによる工作もあり言い出せばきりがないが――GBNではこれらの制作、工作技術もまた、重要な要素。
何しろこのゲームは、単なるゲームの腕のみならず、ガンプラの完成度がそのまま、機体の性能へと左右される。
攻撃力、装甲、機動性など、各種の性能はもちろん、一部MSに搭載される特殊システム、EXAMやトランザムなどの能力もまた、ガンプラの出来が良ければ良いほど高くなる。……逆を言えば、出来が不十分であれば、それも満足に使えないと言うことであるのだが、これはまた別の話だ。
「まぁ、そこは人それぞれ、好きに作るものだからね。……僕だって、自分より年下の相手が、もっと凄い模型を作っているのを沢山見てきたし」
〈言い出したら、きりがないって事か。ははっ、言えてる〉
そんな話をしながら、フウタはふと外の風景を眺めていた。
下には鬱蒼とした森が広がり、遠くには別のエリアとなる、雪山までも見渡せる。
そして青く、広々とした空――、ついここが仮想世界であることを、忘れてしまいそうだ。
どうやら、ジンも同じように風景を眺めていたらしい。彼はフウタにこう話す。
〈今更だけど、このGBNは、よく出来ているよな。こうして眺める風景や、空も、本物みたいに綺麗だ〉
フウタもまた、同意を示す。
「そうだね。僕は現実世界でも、旅行や散策が趣味なんだけどさ、ここも負けず劣らずだよ。
それにGBNでは……こうして空だって、飛べたりするし」
そしてこんな事も、続けて話していた。
「僕はガンプラの他に、航空機の模型なんか好きなんだ。
だけど、こんな風に自分の作った模型に乗って、空を飛べるのはガンプラや、GBNならではだよね」
〈――そうだな。俺も交際出来たら、この空でデート、ってのも悪くない。
まぁ、GBN歴の長い彼女にとって、珍しくないかもしれないけどな〉
フウタはこれを聞いて、ジンが好意を抱いている女性の事を、きっと今思い浮かべているのだろうと、そう思った。
――ジンさんは好きな人のために、強くなろうとしているんだよね。……僕も、その気持ちは分かるし、出来る限り頑張ってみたいな――
そう思っていると、下に目的地が見えて来た。
「さてと、ジンさん。考えている所悪いけど、そろそろ目的地だよ」
フウタの声で、ジンははっとしたようだ。
〈おっと! ちょっと考え込んでたな。じゃあ……降りようか〉
眼下には大きな湖が見える。二人は自らの機体を、その近くへと降下させる。
――――
――そうそうあの時、空の上ではそんな事を、ジンさんと話していたんだよね――
フウタがこんな風に、さっきの出来事を思い出している内に、青椒肉絲は出来上がっていた。
――おっと、こっちも出来上がったね。ミユ達に持って行かないと――
彼はフライパンからそれぞれ皿に三人分盛り付けると、ミユと彼女の父親のもとに運ぶ。
「はい! お待ち遠さま! あっ、でもちょっと待ってて、ご飯の方も用意するから」
そう言って、またキッチンに戻るフウタ。
炊いてあったご飯を茶碗によそって、青椒肉絲の皿の横に、置いて行く。
そしてフウタもまた、テーブルへとついた。
「ふふっ、我ながらよく出来た感じ」
テーブルには、三つのご飯茶碗と、青椒肉絲の盛り付けられた皿が置かれている。
ミユはその青椒肉絲を、しげしげと眺めた
「……へぇ、前の時より、とっても美味しそう!」
「だから言ったろ? 前よりも上達したって。それじゃ……いただきます、と」
試しにまずは、フウタが青椒肉絲を一口。
「うん。味も……なかなか悪くない、はず」
続いてミユと、その父親も……。
「ほう? これはなかなか、いけるじゃないか」
彼女の父親はその味に、悪くはないと言った様子だ。
そしてミユはと言えば。
「あっ! 全然美味しいよ、フウタ! ちょっとピリッとして辛いけど、良い感じだね」
「ミユが喜んでくれて、何より! 作った甲斐があったさ」
美味しそうにしている彼女に、フウタは心底嬉しそうに笑っていた。
「いざとなった時には、ちゃんと料理も出来ないといけないしさ。……今度は、ハンバーグなんかにも挑戦しようかな」
そう話す彼に、父親は少し茶化すように言う。
「いわゆる、フウタの花婿修行って事かい?」
「――もう! お父さんってば、恥ずかしい事言わないでよ!」
恥ずかしがるミユはそう言うも、相変わらずの父親。
「まぁまぁ。だって幼馴染から、恋人だろう? だったら、このまま行けば……」
これにはフウタは照れるかのように、少し頬を掻く。
「……そりゃ、まだ随分先だけど、僕だって家事が上手く出来るようにならないとね。家では料理以外の家事だって、こなしているしさ。
……その時にはちゃんと花婿として、ミユや、いつか出来る家族に、美味しい料理を振舞いたいんだ。まぁ、料理上手なミユには……ちょっと程遠いけど」
そう話しながら、彼は照れる感情を誤魔化すように、自分の青椒肉絲を口にする。
フウタの想いを聞いたせいか、やや顔を赤らめるミユ。
「フウタまで、そんな事言って」
「ちょっと気が早いかもだけど、別に、考えるくらいならタダだろ? 両想いでもあるしさ、その時には……良いと思うんだ」
ミユはさらに顔が赤くなり、頬を膨らませて青椒肉絲をぱくつく。
「フウタははっきり言いすぎ! そんな事くらい、私だって……もぐもぐ」
しかし青椒肉絲を食べながらも、まんざらでもない様子の、彼女であった。
するとふと、ミユは箸をとめて、ふふっと笑う。
「……でも、始めたばかりの頃よりも、ずっと美味しくなってる感じ。このままだと本当に、追い越されちゃうかも。
フウタがそう言うなら、私も負けてられないかな。今度は私が、フウタの家に遊びに行って、もっと美味しい料理を作らないとね」
これにはフウタは心底、嬉しそうなようだ。
「それは嬉しいな。ミユの料理の方が、ずっと美味しいし!」
「料理の腕を磨いているのは、フウタだけじゃないんだから。さっきの話で言うなら、私だって花嫁修業って事、かな?」
「ふぇっ!」
いきなりの言葉に、今度はフウタが変な声を出してドキッとした。
「くすっ、フウタが先に言ったのに、驚くことはないでしょ」
「……言うのと言われるのは、また違うさ」
今度はフウタが、どぎまぎした様子。
「これで少しは、私の気持ちも分かったかしら?
――けど、それよりフウタも食べよう。早くしないと冷めちゃうよ」
「あっ……そうだった!」
言われてみれば、まだ彼は殆ど自分の料理に口をつけてなかった。
話に夢中になっていたフウタは、ようやく昼食を再開する。
自分の作った青椒肉絲を食べながら、ふとある事が頭をよぎった。
――そう言えば、ジンさんはどうしているかな。あれからまだGBNにいるって事だけど――