「改変しすぎてか?」
「それ以上にトーナメントの戦略練るのが」
『お前、軍師の才能無いもんなぁ』
(出久サイド)
「う・・・うぅん・・・っ」
「!」
ベッドの上で寝かされていた麗日さんが上げた唸り声に、僕は僅かに眼を見開いた。
「目が覚めた?」
「ここ、は?・・・いっつつ・・・!」
薄目に周囲を見渡しながら身体を起こす麗日さんだったが、痛みが襲ったであろう腕を強張らせて再びベッドに横たわった。
「無理はしないで、麗日さん。此処は医務室だ。
リカバリーガールの治癒でも、流石にあのダメージは1度に治しきれはしなかったみたいだから。と言っても、もう筋肉痛程度みたいだけどね」
肩に手を置き、緊張を解す。緊張すればする程、其処に意識が集中して痛覚が鋭敏になるからだ。
「・・・そっか。私、負けたんだ」
「・・・そうだね」
「そっか~・・・んあ゙~悔しいッ!あイテテテ・・・アハハ」
歯を喰い縛りながら腕を振るい、痛みに少し呻いて乾いた笑いを漏らす麗日さん。だが・・・
「・・・妹弟子」
「・・・はい」
「此処には、僕以外居ない」
「・・・うん」
貼り付けたような笑顔は消えども、心の内を明かすには今一歩・・・足りないか。
「・・・求められていないなら、僕からは何も出来ない。
でも・・・最後のウェイヴパンチは美事だった。良いセンスだ。
じゃあ、僕はこれで・・・」
「ま、待って!」
立ち上がりかけた僕の袖を、麗日さんが引き留める。その手の引きに委ねるように、今度は椅子では無くベッドに腰掛けた。
「・・・兄弟子。ちょっと、背中・・・貸して、貰えませんか?」
「・・・あぁ、良いとも。背中でも胸でも、好きにしなさい。これも、兄弟子として当然の事だから」
「優しいなぁ・・・うっ、うぅ・・・うわァァァァァァんッ!!」
・・・やっぱり、泣く程悔しいよね。まぁ、当然か。
「落ち着くまで、背中は貸してあげるから」
左肩と右脇腹に感じる、麗日さんの握力。悔しさで握り締められているが、不意に緩む時がある。苦し気な嗚咽と染みてくる涙が、僕にその全てを伝えてくれた。
・・・抱き締められない事を不甲斐ないと感じてしまうのは、子を産み過ぎて膨れ上がった母性故にだろうか。
「・・・あったかい」
「それは良かった」
一頻り泣き、落ち着いたらしい。嗚咽も止み、深呼吸の揺れが背骨に伝わって来る。
「麗日さん」
「何?」
「確かに、麗日さんは負けた。でも、あの爆豪相手に最後の最後で一発良いのをくれてやった。素晴らしいと思うよ。
それに・・・あのパンチは、バトンでしょ?」
「ッ!気付いてくれてたん!?」
「ハハハッ、ウェイヴマスターを嘗めちゃいけない。良く見えていたとも、君の狙いが」
「・・・えへへぇ♪」
照れくさそうに頭を掻く麗日さん。やっぱり、あれはそういう事か。
「良い判断だ。勝てずとも、ただでは死なない。己の死力を尽くしきり、それを次に繋いだ。
戦闘者として、ベストだった。花丸だ」
「ふあっ」
そう言って、僕は自慢の妹弟子の頭をクシャッと撫でる。そしてベッドから立ち上がり、部屋を出んと扉に向かった。
「・・・緑谷君!」
「ん?」
「・・・兄さん、と呼んでも?」
「・・・フハハッ、ちょっと照れくさいな。でも、悪い気はしない。好きにすると良いよ。
じゃあね」
そう優しく微笑み掛け、僕は医務室を後にした。
―――
――
―
「おー師範!お帰り!」
「うん。ただいま、切島君」
ブロックに戻ると、気付いた切島君が手を振って来た。ワキワキと指を曲げて答え、席に座る。
「って師範!次お前だろ?大丈夫か?」
「あっ、いっけない!」
もう轟君と・・・心操君!心操君の試合終わってたか!医務室完全防音だったから気付かなかった!
「慌ただしいなー師範。因みに轟が勝ったぜ。
じゃ、行ってらっさい」
「うん、行ってくる!」
さて、相手は教え子たる芦戸さん。せっちゃんと何時も師弟対決はしてるけど、師の側に立つのは初めてだな。
あぁ、楽しみだ。とても、とても楽しみだ。
―――
――
―
(NOサイド)
『第二試合ッ!纏うは強酸ッ!腐食の浸蝕ッ!ブレイクウェイヴァー・芦戸三奈ァッ!!』
「ルーブじゃん」
「何それ」
「ウルトラマンシリーズって言う大昔の特撮の1つ。仮面ライダーと共にオススメだよ」
『VS!一挙十撃!一動必殺ッ!最年少ウェイヴマスター!緑谷出久ゥゥ!!』
芦戸と他愛ない言葉のキャッチボールを交わしながら、出久は肩甲骨を回してストレッチする。そして上着を脱ぎ、マタドールのように両手で持ったまま肩をダルンと下げた。
「さっきは何時も通り瞬殺しちゃったけど、それじゃあ観客の皆さんも面白く無いかもだし・・・今度は、もう少し戦闘らしい戦闘をしよう。あ、ついでにウェイヴや戦闘体術のテストも済ませちゃおうか。
さぁ芦戸さん、楽しませてね?
「アハハ・・・師範はこれまた難しい宿題出すなぁ・・・まッ、やれるだけやってみるけどね!」
凶暴な笑みを浮かべ、楽しみたいと宣言する出久。それに苦笑いしながらも、芦戸は真面目に構える。前傾姿勢で肩甲骨を回し、顔の前で手を揺らす構えだ。
『レディ、Fight!』
「うりゃッ!」
「フッ!」
―バシャッ―
「ッシャ!」
「わっぷ!?」
『おぉー!流石は母上!芦戸選手の開幕酸液を上着で払い退け、それを被せて視界を奪ったァァ!!』
『しかし、追撃をしませんね。戦闘が成立するまで、決着を着けないつもりでしょうか』
「さぁ、次は何が来る?
蹴りか?突きか?平手か肘か、それとも酸か!
闘争はこれからだ!テストもこれからだ!夜明けはまだまだ遠いぞ!さぁ来い門下生!
「うわぁ~ん!スイッチ入っちゃってるぅ~!!」
『母上、既に闘争モードに入って眼がギンギンになってるな。泣き言を言わずに居られない芦戸選手の気持ちもよく分かるぞ』
『最初の宣言通り、母上の暴力に男女の差はありませんからな。男女平等に殴り飛ばします』
「さぁ、おいで。有望な門下生」
「・・・ヨシッ、覚悟完了ッ!」
芦戸は腹を括り、膝を抜いて突撃する。更にブレイクダンスで培った体幹とバランス感覚で、正中を留めず的を作らない挙動も織り混ぜる高等技術を披露した。
「シアッ!」
そして出久の大股3歩分手前で身体を左に思い切り落とし、右足を振り上げて卍蹴りを繰り出す。
―ボッ―
「痛っ!?」
「良いキレだ。スムーズになったな。80点」
『あーっと母上!芦戸選手の卍蹴りに、同じく卍蹴りを重ねたァッ!!』
「脛同士が綺麗にクロスしていますな。これは痛いでしょう芦戸選手。母上の脛蹴りは木製バット2本をへし折りますからね。骨折していない辺り、かなり加減したのでしょうが」
「さぁおいで、我が教え子・・・」
「うぐっ・・・」
出久の気迫に、芦戸はザリリ・・・と、指半分程だが後退る。
「
「ッ!!」
挑発であろう出久の叱責。しかし、芦戸の退きかけた精神を叩き起こすには十分だった。
「ヒーローは退かない。戦士は退かない。気高き人間は退かない。
例え、敵の眼を欺く為に逃げ回り跳び回ったとしても、例え、相性が悪過ぎて殺されかねなかったとしても・・・信頼し得る仲間に託しもせず、戦いそのものを投げ出し、みっともなく逃げ出す訳が無い。
あぁそうだ。そんなものは決してヒーローではない。諦めの1つも踏破出来ぬ者が、どうして他者を救う事が出来ようか。
それは最早、人間等ではない。血と糞が詰まった、只の肉袋だ。人の
さぁ、門下生芦戸三奈。お前は何だ?
「あ、アタシ、は・・・」
見つめた両手をグッと握り、構え直す芦戸。
「フゥゥゥゥ・・・
アタシはッ!人間だッ!!」
息を吹き出し、強く宣言する。只の肉袋に、無様な負け狗に成り下がるつもりなど微塵も無い。
「然らば、構えろ!零距離戦闘術の基本を思い出せ!」
「・・・スゥゥゥ、ハァァァァ・・・」
芦戸は深呼吸しながら肩甲骨を回し、上がっていた肩をゆったりと下ろして強張った筋肉を解す。其処から全身へと意識を移し、5つ数える間も無く緊張状態から脱した。
「ほう・・・この圧を前に、そうも容易く緊張状態を解くか。やはり才能の塊だ。
師として、その才を磨き上げられる事を誇りに思うよ」
「っ・・・照れるってばさ、師範・・・行きますッ!」
膝を抜いて重心を落とし、
そしてウェイヴを乗せて放たれる拳を、出久は腹で諸に受け止めた。
「ごふぇっ!」
出久はご丁寧に完全に衝撃をボディで完全に受け切ってから、バックステップで距離を取る。
(チッ、流し込み切れなかった!)
「フゥゥゥゥ・・・」
息を深く吐き出し、腹筋を波打たせて無理矢理痛みを緩和。身体の内側に意識を集中し、被害を感覚で読み取る。
「・・・僕が脱力して全体に逃がし散らした分もあるけど、明らかにエネルギーが入り切っていない。75点。
良いとこまでは行ってるけど、今一歩だね」
「やっぱりねぇ。だって突っかかるような感じしたもん、肘とかで」
「だが踏み込みは見事だった。良いセンスだ」
軽い称賛を贈りつつ、出久は腰を落として構え直した。
「まぁ、赤点ラインギリギリではあるが合格としとこうか。いや、そもそも修練期間が短過ぎたんだ。本来は年単位で身体に刷り込む技術、逆に良く此処まで練り上げた。
さぁ、最後だ。掛かって来なさい」
「・・・ッ」
構えを作り身体を揺らす出久に対し、芦戸は飛び込むように踏み出す。そして着地した右脚を軸に、左脚で後ろ回し蹴りを突き出した。
「どぇっ!?」
しかし、出久は左足を引いた半身で蹴り脚を捕まえて踵を左肘でホールド。其処から送りのウェイヴを流し込み、芦戸を突き倒す。
そして上がった芦戸の左腕に右腕を絡め、自分の肩に手首を引っ掛けて関節を極め、左手中指を芦戸の頸動脈に突き付けた。
「いッ!?」
「酸で僕の肌が焼けるよりも、僕の指が頸動脈を突き抜く方が早い。どうする?」
「・・・参り、ました」
『決着ゥゥゥゥゥッ!!師弟対決、師の勝利ですッ!』
『今回は勝負と言うより寧ろ、完全にテストでしたね。免許皆伝はまだまだ程遠いようです。
ですが、あの殺気ギンギンな母上相手に良く食い付きました。芦戸選手に拍手を』
「師範!これ普通に負けるより恥ずかしいんだけど!?」
「ドクちゃーん!止めたげてぇぇぇ!!」
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
緑谷出久
現代忍者高校生。そして雄英高校ウェイヴ教室(仮)の師範代で、お茶子の兄弟子。
ウェイヴだけでなく、それを他の武術と織り混ぜた戦闘術を教える。また、個性や性格に合わせてバトルスタイルの指導も出来ると言うオーバースペックっぷり。
今回で師匠属性とお兄ちゃん属性が追加。もう属性が多過ぎて通称に困る。
麗日お茶子
爆豪に一杯喰わせた原作ヒロイン。
出久に教わる門下生の中では最も好成績。
現状、出久に抱いているのは恋情ではなく純粋な安心感。此処からどうなるかは、正直作者も分からん。