捕食少女の闘争アカデミア   作:エターナルドーパント

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『さぁ、対に人間と化物の頂上決戦だ』
「俺ちゃんの出番は?」
『暗号のミスコン回で絡ませてやるから』
「信用出来ねぇ···」


第21話 死欲の愛

「···ゼデビバジョ。ギスンゼショ?」

控え室。戦闘用のパーカーに着替え、グロンギ語で呟くように言う出久。それに応えるように、シュレディンガーが現れた。勿論、通気口からだ。

「ラダダブ、ジドヅバギ グ ガサギジョ。グギギンパ」

「ゴブソグガラ。ゴセゼ?ガズバシロド ゾ パダギデブセスババ?」

「ザギ、ボセ」

出久の催促に、シュレディンガーはウェストポーチから預かり物を2つ取り出す。それを受け取り、出久は髪を後頭部で括った。

「ギデデサシャシャギ、ララ」

「ん、ギデデブスジョ」

シュレディンガーに手を振って、出久は控え室を後にした。

 

―――

――

 

『さぁ、いよいよ決勝戦ッ!究極の師弟対決だッ!

使命に活きる戦闘者ッ!敵を見据える緑の眼ッ!振るう手足が返り血に塗れる!

ウェイヴマスター!緑谷出久ゥゥ!!

VS!!

殺戮に活きる闘争者ッ!苦痛を貪るその爪牙(そうが)ッ!全身凶器が狂い舞うッ!

フリークスソルジャー!触出背納ァァ!!』

 

マックスのアナウンスを受け、ステージに上がる出久。しかし、背納は一向に現れない。

「どうしたんだ?触出のヤツ」

「何か、あったのでしょうか···?」

「背納に限って、そんな事は無いと思うけど···」

上鳴が疑問を溢し、一眠りして復帰した八百万が耳郎と共に心配する。

 

『因みにこの決勝戦。両選手の申し出により、文字通りの()()()()()となっております。何が起ころうが口出し無用で―――』

 

―PANG!―

 

ドクの注意を切り裂くように、1発の銃声が響いた。

「···何のつもりかな?」

ざわめく観客席。それを捨て置き、出久は向かいの入場口の闇、その向こうに問い掛ける。

 

―PANG!PANG!―

 

再び銃声。立て続けに2発。それに対し、出久は肩甲骨の可動で正中線をズラす。

「···兄さん、避けてる」

気付いた事を真っ先に口に出したのは、麗日だった。

そう。出久は発砲される度、飛んでくる弾を避けていたのだ。

「ねぇ、せっちゃん···良い加減に、しようか

諭すような口調で、出久は言う。だがその言葉には、煮え滾るような怒気が滲んでいる。

「そんなオモチャ如きで、僕を倒せると思ってるの?ねぇ、どんな冗談?」

「――――――ごめんよ、愛弟子」

闇の中から、背納が出て来た。右手には、迷彩ペイントが施されたグロックG17のガスガンが握られている。100と数十年程前には、18禁と銘打たれていたモノだ。

「あぁ、愛しき我が弟子、宿敵よ。そんなに怒らないでおくれ?お前の純粋な殺意の火に、こんな下らない怒りを焚べないで。どうか燻らせないでおくれよ。

少し、魔が差してしまったのさ。ボクの弟子は、この程度は平気で熟してしまう程、強い戦闘者なのだと···これを育てたのがボクなのだと、つい、自慢したくなってしまったのさ」

グロックを投げ捨て、ステージ上がる背納。対する出久は、冷めた眼で背納を睨むだけだ。

「···さぁ、始めよう。これ以上、言葉はいらない」

そう言って背納は、左手に持っていたメタルメッシュのマスク(ソウルイーター)を装着する。出久も、同じものを黙って装着した。

そして、背納はジャージを捲ってズボンのフチから、出久はパーカーのジッパーを開いて腹に巻いたサポーターから、それぞれ獲物を取り出す。

背納は陰月刀、出久は陽月剣。しかしどちらも鮮やかな緋色に染まっており、背納のモノに至っては通常の陰月刀とは形が大きく違う。

「ヴァンパイア・ゴーストヴァイト···」

出久が呟いた。背納の武器のオリジンの名は、クレッセントブレイド・ダークネス・ヴァンパイア・ゴーストヴァイトである。

アビスウォーカーがリボーンゴーストの血を求め、ブレイカーから派生させた呪具。禍々しく歪んだ鋼の牙は、獲物の血を啜らんと妖しく輝く。

出久はふと、手に持ったカランビットの銘を見た。

《緋色月 妖血劍(ようけつけん)

それが、この刃の真名。

砂鉄を背納の強酸血液で溶かし、それを鋳融かし還元した玉鋼で拵えた妖刀には、相応しい銘である。変色の理由は、そう言う事だ。背納の血が練り込まれているのだ。そのお陰なのだろうか、この仕様のナイフは背納の強酸血液でも溶けないのである。

因みに、背納のダークネスの銘は《緋色月 胤血刀(いんけつとう) 吸命牙(きゅうめいが)》である。

 

―ヒョウッ ヒョンッ ヒュヒュンッ―

 

妖血劍を指で回し、構える出久。手首を重ねて胸に寄せ、妖血劍で正中線をカバーしながらダブルウェイヴを掛けられるよう左手首を妖血劍の鍔に引っ掛ける。

一方背納は、順手持ちにした胤血刀を寝かせて首元に構えていた。

そして八百万に作り直して貰った上着の左袖を捲り、下腕を出す。その腕に鋭い刃の先端を当て、勢い良く滑らせた。

『ッ!!?』

皮膚が切り裂かれ、血が滴る。それは、胤血刀が紛れも無いリアルエッジである証拠である。流れた血がコンクリートに落ち、溶かして白煙を上げた。

対する出久も袖を捲り、腕に妖血劍で傷を入れる。斬れば血が出るリアルエッジのであると言う証明も済み、2人は腰を落として向かい合う。

背納は肩甲骨と股関節の絞り、捻りを駆使して、素早く脚のスイッチを繰り返しながら移動を続ける。対する出久はその場から動かず、唯々常に背納を正面に見ながら構えるのみ。

「これは···難しいね」

「そ、そうなのか?麗日」

「うん。師匠も、兄さ···兄弟子も、どちらも後の先は達人級。先に仕掛ければ、どんな偶然にも必然で対応されて死ぬ。痺れを切らした方が負ける。だからお互いに、下手には動かないし、仕掛けない」

麗日の声も、観客席のざわつきも、出久と背納には届いていない。集中力が研ぎ澄まされ、どんよりと減速した時間の中で、相手の出方を窺っていた。

しかし、それでは一向に埒が明かない。故に、思うように埒を開けようと、最初に隙を作ったのは出久だった。

足を僅かに摩らし、ホンの僅かに妖血劍を下げる。その瞬間、背納は後ろに下げていた右足の踵を踏み締め、更に尻尾を前方に投げ付けるように伸ばす事で重心を引っ張り前進。そこから右手の胤血刀を突き出し、テールスピアとの同時強襲を繰り出した。

出久は右手の妖血劍でテールスピアを弾き、左腕を背納の右腕に振り下ろす事で胤血刀を止める。しかし背納は、右手が打ち落とされた遠心力を逆利用。肩を軸とした落下の円運動に任せて手を胸元までコッキング。更にそこから送りのウェイヴを加えて、肩の高さから頸動脈を狙い再度突いた。

左腕を引き戻し防ぐ時間は無い。故に出久は、下がった左肩でそのままショルダータックルを仕掛ける。出久の首は胤血刀の間合いの更に内側に入り、微かに薄皮を掠めるだけに終わった。

出久の体重を乗せたショルダータックルに、堪らず背納は後退。嵐のような瞬の読み合いに、一先ず区切りがつく。

尚、この間僅か0,8秒である。

「ひ、ヒーロー志望の戦い方じゃあない···」

「これが、戦人の死闘···否、死合か···」

「え、つか今、何があった?全然見えなかったんですケド?」

戦慄する飯田、固唾を呑む常闇、理解と動体視力が追い付かない上鳴。三者三様なこの反応は、観客席全体の主な反応と同じである。

「ちょ、ちょっと!これは流石にダメよ!危険過ぎるわ!」

 

『止めに入る気なら、お勧め出来ないと言っておくよ、ミッドナイト女史。あの2人は今や、1人分の身体に無理矢理押し込められた戦争そのものだ。割って入ろうとすれば、君の個性で意識が飛ぶまでの数瞬の間に、両方から攻撃の嵐を喰らう事になるぞ。

そうなれば、クイーンは君を見る度に殺意を向けるだろう。さながら、愛しき想い人を見知りもせぬ泥棒猫に横取りされた乙女のようにな。

何より···お互いに信じているからこそ、遠慮無く攻め合う···如何にも、青春っぽくはないかね?君好みな』

 

「···アリね」

(((((引き下がったッ!?)))))

生徒の命の安全よりも趣味を優先しアッサリと引き下がったミッドナイトに、見ていた全員が戦慄。自由と無責任の境界線が、中国のパチもんクオリティである。

「フゥゥゥゥゥゥ···ッ」「ヒュィィィィィ···ッ」

外野がざわついている間も続いていた膠着が、遂に壊れた。出久は無表情に、背納は広角をつり上げながら、それぞれ深く息を吐く。

 

―ギャギンッ ギャギンッ―

 

刹那、交差する朱色の刃。

背納が繰り出した胤血刀での刺突を、出久が両手のダブルウェイヴで時計回りに振るった妖血劍で弾き上げたのだ。

更に、一周して胸元に戻った妖血劍に左手からのウェイヴを掛けて右に振るう。対する背納は、弾き上げられた勢いに乗って重心を左に落とし、頸動脈を狙う妖血劍を潜りつつテールスピアで出久の左脇を狙った。

出久は引き伸ばされた体感時間の中で眼球を転がし、テールスピアの狙いを読み取る。そして最適な回避を反射的に思い付き、それを実行。

両肘を胸元に寄せるように畳み込む事で、身体の回転を加速。テールスピアを遣り過ごし、同時に左脚に重心を掛けて右足で後ろ蹴りを放った。

 

―ドグッ―

 

「ゴッヘェ!」

脇腹に踵がめり込み、打ち飛ばされる背納。ゴロゴロと転がり、衝撃を逃がす。

「んぐぅ、ゔ、ぅお゙ぇッ···ぇうっ···クックッ、クッキッキッキッキッキキッ···」

 

―カリィンキャリーンッ―

 

えづきながらも立ち上がり、俯きながらソウルイーターをズラして口許を擦る。そして背納は不気味に笑いながら、胤血刀を投げ捨てた。

「···」

 

―カーンカラァーン―

 

無言を貫く出久も、同じように妖血劍を投げ捨てる。そして、2人は同時に前傾姿勢をとり、肩をゴリゴリと回し始めた。

そして、ここから更なる零距離戦が展開される。

先手を打ったのは出久。左脚で踏み込み、鉄板仕込みの安全靴を履いた右足の土踏まずで背納の脛を狙った。背納はこれを股関節ウェイヴによる脚のスイッチで回避し、同時にその下半身の回転を背骨から肩まで伝達させて左手を突き出す。

鋭い爪を備えた指先が首を狙うが、出久は顎を引いてソウルイーターでこれをガード。背納の鉤爪は、メタルメッシュの表面をなぞった。

しかし、これでは終わらない。背納は滑らされた左手で、今度は出久の肩を掴む。出久は蹴り脚を地に着けるが、其処は背納の股座の丁度真下。前方には踏ん張れるが、左後方がガラ空きである。

背納は掴んだ肩に突き落とすウェイヴを掛けて、支えを失った後方へと出久の身体を押し倒した。

「グッ···ッ!」

呻きつつ何とか受け身を取る出久だったが、背納が掴んだ右肩に握力を掛け始めた事を察知。肩の肉を握り潰されぬよう、馬乗りになった背納の左腕を両手でロックし、腰のツイストで左向きに転がって脱出を謀る。

 

―ゴキッ―

 

「ぬっ」

背納はホールドを崩され、同時に左肘を脱臼。

転ばされぬよう尻尾を地面に突き立てるが、左脚は浮いてしまったので出久に逃げられてしまった。

瞬時に外された肘を嵌め直し、両足を地に着け直す。

「ッシャァーッ!」

金切り声をあげ、突貫する背納。バックステップで距離を稼いでいた出久は、足元の広範囲を見渡して重心初動を読み取るイーグル・アイから、背納の手指やテールスピアを警戒して直視に切り替える。切り替えざるを得なかった。

この視線のスイッチが、背納の狙いである。

 

―カチッ シュビッ―

 

「うがッ!?」

ホワイトアウトする出久の視界。その隙を突く、背納の抜手。鋭利な爪が、出久の左肩を浅くだが抉った。

「フラッシュライトですわ!」

「爆豪とのバトルで使ったアレか!」

復帰して来た八百万が言った通り、背納は出久が視界をスイッチした瞬間に、眼をフラッシュライトで照らしたのだ。インナーマウスの中に隠しており、先程口を拭った際に手の中に忍ばせたのである。

「チィっ!―カチカチッ バキッ―ぐぶッ!?」

両手を上げて顔をガードする出久。しかし背納は手を水平に上げ、横の隙間から眼に光を当てる。そして再び隙を突き、フラッシュライトを握り込んだ左拳を出久の頬に叩き込んだ。

「ハァ、ッ···ハァ···ッ、ハァ···ッ」

パニックに陥り掛けた身体を、呼吸で何とか落ち着ける出久。そして、その眼を瞑った。

背納は飛び退って、出久が投げ捨てた妖血劍を回収。そして、出久に向けて猛進する。右手の妖血劍、左脇から前に通したテールスピアが、それぞれ出久の首と脇腹を狙う。

「や、やめ――――――」

誰のものかも定かではない声の訴えも虚しく、遂に動かない出久の急所に――――――

 

―シャギッ―

 

刃は、振るわれた。

「ッ~!」

「みど、りや···?」

その光景を見た者の反応は、実に様々である。

2人から眼を背ける者、それすら出来ず凝視し続ける者。泣き出してしまう者もいれば、絶望に打ち(ひし)がれて膝から崩れ落ちる者もいた。

 

―ピチャッ ピチャピチャッ―

 

滴る朱。地面を焼かぬそれは、人間から流れた証。

「―――――ハァ···」

「―――――ッ!!」

しかし、化物は眼を剥いた。閉じていた出久の眼が、冷たく静かに開いたのだ。

 

―バキィッ!―

 

「がッ!」

そして出久は、迫り来る2つの刃を交差させて()()()()()()()両手を開き、背納の顔面に右拳で裏拳を見舞う。打ち据えられた拍子に、背中のソウルイーターが外れてフッ飛ばされた。

「う、うそ···」

「いき、てた···」

呆然とするギャラリーに眼もくれず、出久は向かって右側によろけた背納に対して追撃を叩き込む。

 

―ドゴムッ―

「ガフェッ!?」

 

右ウェイヴエルボーで首元を打ち···

 

―ガゴンッ―

「ングェルッ!?」

 

再び右エルボーで、背中から左肋に罅を入れる。

 

「う、ゥふう···」

―ボグンッ―

「おガッ!?」

 

そして、辛うじて向き直った背納の胸に、下向きに打ち下ろすウェイヴパンチ。

殴り倒された背納は、地面に叩き付けられ、後ろ回しのように転がる。

「ふッ、フゥ···フゥ···ヴゥゥゥゥ···」

しかし、背納は気絶しない。ガタガタと力の入らない手足に鞭打ち、何とか起き上がって見せた。

「あ、ア゙ァァァァ···」

「···ヒュィィィィィ···」

くぐもった唸り声をあげ、尚も出久に手を伸ばす背納。そんな背納の右手を打ち払い、出久は右腕を引き絞る。

 

「ッヂェイッッッッ!!」

―ガゴヂョンッ!―

 

そして渾身の力を込め、ウェイヴパンチで背納を殴り飛ばした。

文字通り殴り飛ばされた背納は、場外まで転がり出てしまう。

 

『決ッッッ着ッッッ!!クイーン場外ッ!勝者!緑谷出久ゥゥゥゥゥッッッ!!』

 

背納と出久の戦いに呆けていたギャラリーを、マックスの大音量が現実に連れ戻す。

同時に、出久も膝から崩れ落ち、意識を手放した。

救急ロボがスクランブルし、2人は医務室に緊急搬送される。担架の上に寝かされた背納の顔には、微かな笑みが浮かんでいた。

 

―――――

――――

―――

――

 

「えー、おほんっ。もはや試合と呼んで良いのかさえ分からないような、ブッ飛んだバトルもありましたが···これより、表彰式を行いますッ!」

血糊を洗い流し、綺麗に整えられたステージ。ミッドナイトが宣言した通り、これより1位から3位まで、4人の表彰だ。

ステージ中央が開き、出久、背納、爆豪、轟を乗せた表彰台がせり上がってくる。

「そして!メダルを授けるのはこのお方!

我らがヒーロー!オールm「私がメダルをォ~!持って来たァ!!」

···」

「あ···ゴメン、被っちゃった」

上空からノリノリで落下して来たオールマイトだったが、段取り不足でミッドナイトと被ってしまう。

「えー、あーうん。まぁそれは置いといて···まずは轟少年!おめでとう!」

「ハイ。ありがとうございます」

「うむ!何だか憑き物が落ちたような顔をしているな!」

「緑谷のお陰です。緑谷と戦ったから、自分を見つめ直せたから···」

「ウンウン!一歩前進だな!」

轟の首に銅メダルを掛け、ギュッとハグをするオールマイト。そして次に、爆豪の前に移る。

「···」

「あー、爆豪少年。惜しかったな!今回の悔しさを呑み込んで、共に強くなって行こう!」

魂が抜けたように俯く爆豪の首にも、同じく銅メダルを掛ける。そして優しくハグして、背納の前へ。

「触出少女!ベストを尽くしたな!とは言え、正直ああいう戦いはご遠慮願いたいんだが···」

「アハハ、ベストなんて尽くせてませんよ。出久に聞けば分かります。でもまぁ···自分が育てた愛弟子の、最高の晴れ舞台で殺される···理想的で、最ッ高な、恋い焦がれていた敗北でした!その辺も、ありがとね!出久!」

「何言ってるのさ。君を殺せるのは僕だけだろ?それを果たしただけだよ」

「うむ!戦いの密度やスキルも、もはやプロでも通用するレベルだ!それでも、油断はしないように!おめでとう!」

背納の首に掛けられたのは、鏡のように輝く銀メダル。オールマイトからのハグも受け、背納はカメラ目線でメダルにキスして見せた。

そして遂に、優勝者の番が来る。

「優勝、おめでとう!緑谷少年ッ!」

「ありがとうございます、オールマイト」

微笑みながらメダルを受け取り、ハグを受ける出久。ふと背納に対し、疑問を溢した。

「そう言えば、せっちゃん。今回はかなり攻撃が鈍かったね。何かあったの?」

「え、あれで鈍かったの?」

「あぁはい。前までのせっちゃんなら、さっきの死合で多分3回は殺されてた筈です。なのに今回は、やけに甘かったなーって」

(べ、ベストじゃなかったって、そういう···)

出久の指摘に、オールマイトは薄ら寒いものを感じた。

「ん~、デストルドーが鈍った訳じゃ無いんだけどサ···リビドーが、ちょっとだけ強くなったから、かもね」

八百万と耳郎をチラリと見やりながら、そう呟く背納。出久は成る程と納得し、深くは追求せず口を噤んだ。

「···クソが」

「って、おいおい爆豪少年!?」

唐突に表彰台を降り、フラフラと立ち去ろうとする爆豪。オールマイトはその肩を掴み、引き留める。

「どうした爆豪少年」

「止めんな···オールマイト···」

「···へぇ、そう言う事」

声のトーンで、背納は何かを察する。出久に目配せすれば、彼も理解したようだった。そして同時に、落胆の色も浮かんでいる。

「重要な式典だぞ、どこに行くんだい?」

「···俺、雄英辞めるわ」

「···え?」

「はッ、んなこったろうと思ったよ」

爆豪の口から溢れ落ちた言葉に、オールマイトは絶句。背納は鼻で嗤い、爆豪を見下ろした。

「トップじゃねぇ俺になんざ、何の価値もねェ···ましてや、あのバケモン女にゃ良いように遊ばれる始末だ。歌って、踊って、その片手間でノせる···その程度なんだろうよォ···」

リカバリーガールの治療を受けて尚、ズキリと痛む両手を見下ろす爆豪。其処には、掌を左右に分断するような、縦長の貫通創があった。リカバリーガールの手腕でも消せない、一生傷だ。

「ふーん。じゃ、勝手にすれば?敗け(イヌ)

「ッ!」

「触出少女ッ!」

「闘争と進化を諦め、戦場を棄てて尻尾巻いて逃げるんだろ?そんな奴、ボクの大好きな人間な訳無いじゃないか。

《ヒト、諦めの踏破にて人と成り、また血に酔いて人を失う》···人を失う寸前まで闘って、故に化物に成り下がるのを恐れて、それで逃げるなら良い。だがコイツは、人になるまでに心が折れちまったじゃあないか。

だったら、貴様は敗け狗だ。血と糞尿が詰まった、只の肉の袋だ」

「グッ···」

「いい加減にしろ触出背納ッ!!」

背納の罵倒に、砕けんばかりに奥歯を噛み締める爆豪。オールマイトは覇気を込めて背納に詰め寄るが、当の背納は涼しい顔だ。

「···君には、失望したよ。爆豪勝己」

そして、これまで閉ざされていた出久の口が開いた。

「失望、だと?」

「あぁそうだ。君には、天才的なセンスと、絶望的な往生際の悪さがあった。自分以外の一切を喰らい、貪り、強者として登り詰めると言う野心があった。

強さへの貪欲さ···その一点に置いてだけは、爆豪勝己。癪な事に、君を尊敬している僕がいた。

でも君はたった今、その唯一の美点をドブに棄ててしまったんだよ」

「ッ~!?」

「何より、だ。此処で雄英を辞めた後、君はどうなると思う?」

「何、だと···?」

出久の問いが心に引っ掛かり、振り返る爆豪。それに対して、出久は冷たい眼のまま続けた。

「高校を中退した人は、まず何よりも職に泣く。今時、中卒で働くにはかなり苦労するからね。

そして何より、君は戦いと無縁に生きるには、明らかに闘争本能が過剰だ。戦場に飛び込めない事が、どれ程のストレスになるかは想像に難くない。そして、その性格から、中途半端な時期に新しく集団に入り込むにしても難が多過ぎるだろう」

指を2本立てて、分析と予測を組み立てる出久。爆豪は黙って、その未来予想を聞く。

「面接まで漕ぎ着けようと、中卒と言う時点でまず採用され難い。やっとの思いで身をねじ込んだ職場でも、馴染みきれず周りとはギスギス。そうなれば作業効率は落ちて、今回のように自分から辞めるだろう。

フリーター続き、ストレス漬けの毎日。トラブルが起こらない筈も無い。君の所のおばさんは何だかんだ優しいから、絶縁まではしないかもだけど、少なくとも別居状態にはなるだろう。

其処まで追い詰められれば···()()()()()のは、すぐだ」

「ッ~!!」

「生来の短気な性格も合間って、加速度的にドロップアウトしていく。そんな奴は、何時の時代も、悪い奴の眼に留まるもんさ。

敵連合や、録でも無いヤクザな集団、はたまたテロリスト団体···君が天才的なのは、皮肉にもこの場で証明されてしまった。万年人員不足を嘆く日陰者達が、これを見逃すと思うかい?」

「お、俺はそんな―――」

「そんな奴らに与しない、かい?本当に?誰が保証出来る?」

爆豪の反論を喰い殺して、出久が真っ向から捩じ伏せる。

「と言うか、君の意思なんてそもそも関係無いんだよ。家族を人質に取るか、顔が潰れるまで拷問するか···あぁ、麻薬なんかで薬漬けって手もあるな。

奴らは、何も躊躇しない。利益を喰う為なら、文字通り何でもするのさ。

それを防ぐには、プロになるまで踏ん張って、自立し巣立つしか無いんだよ。違うかい?」

「ッ···!」

ぐうの音も出ない爆豪。ふと背納を見やってみると、鋭い鉤爪を備えた指をゴキゴキと鳴らしている。《もしそうなったらボクが狩るぞ》と言う、遠回しな意思表示だ。

「お前の選択肢は、2つに1つ。前言を撤回して、煮え湯を呑みながら足掻き強くなるか、それともドロップアウトして狩られるか。さぁ、どうするね?」

「ッッ···クッソがァ···」

不気味に嗤う背納の問いに、爆豪は1つしか、答えを持ち合わせていなかった。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
現代忍者で戦闘者、免許皆伝ウェイヴマスターのデクです。ニンニン。
今回からポニーテール。うなじ越しの横顔は大変艶かしい模様。
新しいクレッセントブレイドシリーズの第1号たる【妖血劍】にて奮闘した。
後半のバトルは、完全にRE:BORNの敏郎VSアビス素手戦の再現になっている。
爆豪の未来予想図に関しては、作者の知り得るヒロアカ世界の情報にリアルのヤクザ知識、更に爆豪の性格から考えた現状のメンタル状態やストレス量から予想したもの。
一応爆豪の往生際の悪さについては一定の評価はしていた。ただ、侮蔑が圧倒的に勝っていたので態度には1ミリも出ていない。
頸部に極浅い裂傷···リカバリーガールにより完治
右頬骨亀裂骨折···完治
左肩に裂傷···完治したが傷痕あり
両掌に裂傷···完治したが傷痕あり
結論=全然元気。

触出背納
愛弟子に気持ち良く敗北した化物主人公。
新しいクレッセントブレイドシリーズの第2号たる【胤血刀 吸命牙】を握って戦った。
初手射撃はアビスウォーカーのリスペクトみたいなもの。因みにこの世界ではガスガンの18禁制度がほぼ無くなっており、また発射初速の規制もかなり緩んでいる。
出久と揃って飯田にどこぞのタカくんみたいな事を言われた。
因みに爆豪がドロップアウトした場合、マジで躊躇無く狩る。今度は両腕を完全に切り落とす。
頸部軽度のムチ打ち···完治
左肋亀裂骨折···完治
消化器系···絶賛大混乱中
結論=実はボロッボロ。

・新たなクレッセントブレイド···緋色月(スカーレット·ムーン)シリーズ
背納が出久と勝負する為に、ウォルターに新造させたリメイク品。
背納の血で溶かした砂鉄を石炭還元し、それによって出来た緋色の特殊な玉鋼、《緋緋色玉鋼(ヒヒイロノタマハガネ)》(後にマックスが命名)で拵えたもの。ゼノモーフの強酸血液に対して、強い耐性がある。また酸化しにくく、加工中の酸化損失も少ない新素材である。

・妖血劍
緋緋色玉鋼で拵えたクレッセントブレイド・シャイニング。グラデーションがかった緋色をしており、背納の血液に濡れても腐食しない。
また、軟鉄の芯を鋼鉄で包んだ日本刀と同じ構造である為、本物の刀には劣るものの剛性にも優れる。

・胤血刀 吸命牙
緋緋色玉鋼で拵えたクレッセントブレイド・ダークネス。ヴァンパイア・ゴーストヴァイト仕様の形である。
但し、金色のストーキングリングと髑髏数珠、人髪の編み込みは付いていない。更に言えばヴァンパイア・ゴーストヴァイトと言う名称そのものが《髑髏数珠》と言う意味なので、そもそもヴァンパイア・ゴーストヴァイトでは無い。
順手、逆手共に使いやすく、尚且つ禍々しい形をした鋼の牙である。

グロックG17・コンバットカスタム
背納が使った改造ガスガン。グロック17に迷彩塗装を施しており、内部もゴテゴテにカスタムされている。
「ほう、これは···」
「対暴徒鎮圧実戦運用想定、グロックG17ガスブローバック・コンバットカスタム。
全長22,5センチ、重量740グラム。装弾数は25。もはやオモチャとは呼べないシロモノですよ」
「インナーバレルは?」
「6,04ミリ内径、クレイジージェットインナーバレル」
「初速は?」
「0,25グラム生分解性プラスティックボールバレットで、93,13メートル毎秒」
「有効射程は?出来るだけ分かりやすく説明してくれ」
「大体30メートル以内で真っ直ぐ当たれば、スチール缶の片面貫通は固いよ」
「パーフェクトだウォルター」
「感謝の極み」
と言う会話が納品時にあったとか無かったとか。
因みにこのデータはリアルのガスガン規制にモロ引っ掛かるレッドカード物なので呉々も真似しない事。

轟君を轟ちゃんにするの、ぶっちゃけアリ?

  • アリ。やっちまえ。
  • 流石に自重しろバカ。ダメに決まってんだろ
  • まずは薔薇を咲かせてからだ。
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