「やる事だらけで時間ねぇしな」
『珍しいな。お前が俺に優しいって』
「言い訳じゃなく事実だからな。俺ちゃんも特殊部隊にいたし、軍隊系のキツさは分かってる」
「あぁ、ありがてぇ···これで心置き無く狩人の悪夢を攻略出来る···」
『あぁ、無理せず悪夢を···何だって?』
「BloodborneのDLC買いました!」
『前言撤回、くたばれ糞ったれ』
(背納サイド)
「ふぃ~、漸くご飯だー!」
昼。鳴り響くチャイムを聞き流しながら、ボクはゴキゴキと身体を伸ばす。昨日の運動量のお陰で増強した筋肉も、上手く馴染んで来た。
「じゃ···食堂、行こっか?」
「「は、ハイッ!」」
近くに居た三奈ちゃんと透ちゃんの肩を、ポンッと叩く。すると2人はビクッと大きく跳ね上がり、引き攣った返事をした。
「全く、そんなに怖がらなくても獲って喰いやしないよ···
今の所は」
「「ッ···!?」」
おや、更に青ざめてしまった。どうしたと言うのだろうねぇ?
「コラ背納」
―ゴスッ―
「タブラッ!?」
瞬間、背中の右肋骨に激痛が走る。鈍い杭を打ち込まれたようなその痛みに、思わず変な悲鳴が出た。
「悪い冗談言わないの!2人とも、気にしなくて良いからね」
「イッテテテ···敵意が無い分、余計にキツい···」
背中を擦りつつ、後ろを振り向く。痛みの正体は、響香の肘鉄を打ち込まれた衝撃だったらしい。
これで殺気でもあれば幾らか反射的に緩和出来たけど、生憎と全く殺意も敵意も感じないから防御出来ない。
って言うか、これゲリラ特殊傭兵の少年兵に教えられる極意じゃん。何で響香これ使えるの···?出久だって、中学時代の内の丸々半年使って漸く習得したってのに···
「背納さん、行きますわよ」
「あぁ、うん···」
百ちゃんに引き起こされ、ボクは教室を後にした。
―――
――
―
「で、何処にするか決めたの?」
「んぇ?」
プロテインバーを齧りながら、唐突に問い掛けてくる出久。急に聴いて来るもんだから、チキンジャーキー(ドクお手製)を噛み切れなかった。
「ほら、指名来てたでしょ?」
「あぁ、あれね」
指名とは、昨日の体育祭を観たプロヒーローからの職場体験のお誘いの事だ。出久もボクも轟君も、かなりの数の指名が来ていた。
「うーん、荒事が多そうだし、大阪のファットガムにしようかなーと思ってるよ。そう言う出久は?」
「八木さんから紹介された所に行ってみる。何でも凄く強いらしくて···しかも、
「へぇ···」
成る程、そう言えばさっき、コソコソと呼ばれてたなぁ。
「俺は···親父の所にする」
隣でざるそばを啜っていた轟君が、ボソリと呟くようにそう言った。
「そっか···頑張ってね!」
「あぁ。アイツから眼を逸らしちゃ、ダメだから···俺の道を行く為に、まずはアイツをしっかり知る」
「ヒュー、さっすがは折寺の聖母。大躍進させたねぇ?」
やっぱ出久のセラピースキルって凄い。あんだけ凝り固まってた憎悪をこうも容易く解かして···
「···」
「ん、どうしたの?」
「眼、綺麗だなって」
「アハハ、ありがと!」
···あー、成る程。理解した。
(あの轟の眼って、確実に···)
(そう、ですわよね···)
うん、響香と百ちゃんも気付いてるねこれ。
だがしかし、口は挟まぬよ。馬に蹴られるのは御免だ。
「って言うか、2人ともご飯少なくない?背納はチキンジャーキー3本だけだし、緑谷なんてバランス栄養食1本って···」
「あぁ、今日はちょっと放課後に用事があってね。お腹を空かせとかないといけないから」
「「?」」
ボクの返答に、2人して首を傾げる。可愛い。
「丁度良いや。2人も見学に来ると良いよ。2時間は掛かっちゃうと思うけどかなり面白いし、何より···為になる」
「···じゃあ、着いて行こうかな。暇だし」
「私は、今日は少し用事がありまして···」
「ん、分かった。じゃ、今日は張り切っちゃうぞ♪」
ギャラリーが多い方が、燃え上がるってものさ。
にしても···飯田君、随分と淀んだ眼をしている。憎悪と怨念を
「飯田君」
と、出久が声を掛ける。元々が人の仕草に敏感な出久だ。気付くなと言う方が無理だろう。
「ん、何だね緑谷君」
「···何か思い詰めてる事があれば、相談してね···お兄さんの事とか」
「ッ···あぁ、その時は、宜しく頼む」
む、飯田君の兄···何だっけな。思い出せん。だが、出久が何かに巻き込まれるのは確定した訳だ。
「さぁてと···(どうなるかな?)」
行方知れずの未来に期待しつつ、ボクは残りのジャーキーの欠片を口に放り込んだ。
―――――
――――
―――
――
―
「さぁ、此処だよ」
放課後。駅を5つ越えた先にある、今宵の目的地にやって来た。
「え、此処って···スーパー?」
そう。其処は、ちょっとした田舎にある普通のスーパーマーケット。その名もライフストア。
まだチェーン展開はしていないけど、品揃えが豊富で近所の評判も良い店だ。
「さーってと、行こうか!」
「うん、行こう」
出久と拳を叩き合わせて、自動ドアを潜る。
「っ~♪」
鳴り響く
あぁ、やはり心地好いものだ。
『ッ~!!?』
「え?何この空気···ピリピリしてるって言うか···」
ボク等が入店した瞬間、店内の空気が一気に張り詰める。まるで火薬庫の中のニトログリセリンにでもなったような気分だ。
そんな空気も懐かしく想いながら、店の一角にある
「うげっ、
「あっ、
何と無く脚を運んだ乾物コーナーで、此処でのちょっとした
赤いスカジャンにジーパンを履いた、かなり筋肉質な金髪の青年。
「マジかよ、相性最ッ悪···こりゃ今夜は久々にどん兵衛かな···
あ、
「フフ、ありがとう」
「へぇ、
「
「久し振り!」
続いて、モスグリーンのパーカーを着て前髪で目元を隠した女性が話し掛けてくる。
因みに、
「って言うか、その子雄英の子だよね?何?アビスの
「へ?パピーって、ウチの事ですか?」
「まさか。まぁそうなってくれれば嬉しいが···少なくとも、今日は見学。
そう言って、ニシシッと笑って見せる。彼女としても、後輩になるかも知れない相手には興味津々みたいだね。
「ねぇ背納、どういう事?此処って···」
「まぁ、見てりゃ分かるよ。
あ、1つだけ言っておくけど、絶対に割り込まないでね。マジで死んじゃうから」
「はぁ!?ちょ、どういう――――ッ!?」
「おっ、キタキタ♪」「···」
突如としてBGMが消え、店内が静まり返った。無論、先程以上に空気も引き締まり、四方から隠す気も無い闘志が溢れ出す。
ボクと出久はソウルイーターを着け、その時を待った。
そして遂に―――――
「「狩り、開始!」」
(NOサイド)
「うん、一瞬だった。ウチは最初、何があったか分からなかった」
後日、耳郎響香は語った。己が見た、その現場を。
「背納も、緑谷も、一瞬で
脳内に甦る、その瞬間の映像。
肉を拳で打つ音が聞こえ、咆哮や気合いの声が混じり合う空間。10や20を優に超える人数が、お互いに己の肉体をぶつけ合う光景。
「あれは、ホンットに戦場そのものかと思った。体育祭のバトルロイヤルも大概だったけど、そんなの比じゃないぐらい···そんな中で、ウチは緑谷と背納を何とか見付けられた」
背納はその時、床の上を滑走するように駆けていた。
身体が水平になる程まで姿勢を下げ、太股より下の高さを走り抜ける。
一方出久は、上に居た。
ワンフォーオールを薄く纏い、天井まで跳び上がったのだ。そして更に其処から天井を蹴って、闘いの中心地へと
「其処からはもう、ホントに何が何だか···背納は跳び回っては人をフッ飛ばしてるし、緑谷は有り得ない人数相手に全部捌いてるし···」
高笑いを響かせ、次から次へと場所を変えて地獄絵図の欠片をばら蒔く背納。それに対し、出久は黙って迫り来る攻撃を滑かにぬるぬると捌き、確実なカウンターボディブローで相手を沈めて行く。
「おりゃァァァァ!!」
「フッ、ッシ」
―ドボグッ―
「おごぇッ!?」
今宵こそはと挑んだサラマンダー。周囲の空気を捲き込む程の強烈なパンチはしかし容易く打ち落とし
へそ下から打ち上げるように叩き込まれたウェイヴアッパーの衝撃は、腸から胃を、そして横隔膜まで抉るように貫いた。
個性:
己の痛覚を麻痺させ、火事場の馬鹿力を発揮出来る。しかし、身体を普段からしっかり鍛えて慣らして置かないと、筋肉や骨が負荷で崩壊してしまう。
痛覚が無くとも、呼吸が不意に、強制的に止められれば脳はパニックを起こす。その一瞬の隙を、出久は見逃さない。
「ッシュ!」
引き延ばされたようなどんよりとした時間の中で右裏拳を振るい、
(見えている。手足も、視線も、何もかも)
身体能力の生物濃縮とも言えるワンフォーオールの特性、継承深化。そして当然ながら、その運動能力に着いて行く為に、神経伝達速度や反射速度も引き上げられる。
出久はパワーではなくその神経系の加速をメインに使い、敵の攻撃や自身の反射的悪手を防いでいるのだ。
此方の攻撃は当たらず、一方的に打ちのめされ、またその闘い方は映画《RE:BORN》のゴーストのよう。それが彼の渾名、
「U-Ra-Ra!U-Ra-Ra!フハハハハハハハッ♪」
渾名の由縁たる笑い声を響かせながら、背納は迫り来る敵対者達を次々と蹂躙して行く。
手足や尻尾で打ち据え、並外れた膂力で投げ飛ばし、
「デェやァッ!」
前方からの正拳突き。左右は人垣で固められており、今し方投げ飛ばした直後で跳躍にも向かない体勢。
「よっ」
故に、背納は後方へ倒れた。膝から上を全て、90度後ろに折るように。
そして尻尾を接地させ、3点で身体を支える。これにて、
「ぬぇいッ!!」
両足の裏のファンデルワールスキャッチを発動し、土台を固定。其処から腹筋と尻尾のバネをフルに活かし、堅牢な己の頭蓋を相手の頭に叩き込む。
――
「ごッはァ!?」
洒落にならない威力の頭突きを諸に喰らい、ブッ飛ばされる挑戦者。気絶はしたものの、幸いにも怪我はしていない。硬質化系かクッション系の個性だったのだろう。
「さぁ、そろそろフィナーレだ!」「獲物は頂く」
その五体で戦場を切り開き、背納と出久は目標への経路を見出だした。そして、己の獲物へと手を伸ばし―――――
「2人の目的?あー、多分ワケ分かんないと思うよ。ウチもそうだったし。簡潔に言うと―――――」
「「イョッシャァァァアッ!!」」
「半額弁当、だってさ」
「んーまぁいッ!やっぱ自分で勝ち取った獲物は格別だね!」
「うん。アドレナリンも出てるから、肉も美味しいしね」
激戦後。背納達は近所の公園のベンチにて、その日の戦利品を胃に納めていた。
背納の手にあるのは、『しっとりジューシーな和牛ステーキ弁当(ワサビ&醤油ソース付き)』。出久の戦利品は、『ボリュームたっぷり、甘辛砂肝のスタミナ炒め弁当』である。
「あ~♪甘い肉汁とワサビ醤油はやっぱり不変のジャスティス···」
「此方もオススメだよ。砂肝の歯応えと、味噌ニンニクのタレの風味が良い。やっぱり、此処の弁当は美味しいや」
各々の感想を交換しつつ、弁当を咀嚼する
手に収まっているのは、レトルトの卵粥である。
「あ゛~、打ち据えられた胃に粥が染みる···」
「アハハ、ごめんね?」
「全くだぜ。
腹の虫の加護とは、空腹による食への衝動によって身体能力を解放すると言う、半額弁当争奪戦の参加者、通称《餓狼》達の必須技能である。出久のウェイヴパンチは内臓まで衝撃を届ける事に特化した打撃である為、まともに腹に受けると加護が消失してしまうのだ。
また、
「って言うか、未だに状況が呑み込めないんだけど···まず、何であんな殴り合いしてまで弁当を取り合うの?···うわ、うまっ」
呆れと困惑にまみれた表情で問いながら、耳郎はカツカレーサンドを頬張る。見学だけだった彼女は、争奪戦後に惣菜コーナーで『肉厚!濃厚カツカレーサンド』を買って、この夕餉に参加していた。
因みに、此処にいないのはギリードゥだけである。彼女は大学生の身分なので、翌日の準備等が色々とあるのだ。
「えーっとね、あの狩りは元々大昔のラノベに出てきたヤツで···」
「アニィ!出久のアニィ!」
背納が答えようとした時、1人の男が割り込んで来た。息も絶え絶えなその男は、出久の名を叫んでテーブルに手を着く。
「え、サブ君?どうしたの?」
出久が語り掛けると、サブと呼ばれたその男は肩で息をしながら顔を上げた。
「えっ···」
その顔に、耳郎は思わず声をあげる。
獣のような縦開きの眼孔と牙。何より、頬に走る大きな切り傷跡。どう見ても堅気ではなさそうだ。
「アニィ···ジュンが、ジュンがッ···」
「···分かった。此処じゃなんだし、向こうで聞く。落ち着いて」
最後の一口を掻き込んでソウルイーターを着け、席を立つ出久。
その眼を鋭く吊り上げ、首をゴキリと鳴らした。
to be continued・・・
~キャラクター紹介~
緑谷出久
現代忍者で戦闘者、更に狼でもあるデクです。ニンニン。
閉店間近のスーパーマーケットに現れる、餓えた狼の1人。背納とのバディ、
初手の天井三角跳びは、ベン・トーの
最後に接触して来た男をサブと呼び、何らかの話をする為にフェードアウト。まぁ勘の良い読者の皆さんなら分かるでしょう。
触出背納
悪ノリが過ぎた化物主人公。
閉店間近のスーパーマーケットに現れる、餓えた狼の1人。出久とのバディ、
その戦法は時に荒々しく、時に狡猾。但し他の餓狼達とは違い、弁当だけで無く闘争その物も目的であり、謂わば二兎を追っているに等しい状態。それ故、腹の虫の加護は弱い。
敵を狩る際の高笑いと、敵をコントロールして闘う姿から、映画《RE:BORN》の
耳郎響香
半額弁当争奪戦に困惑したヒロイン。
攻撃と言う意識を持たず、殺気を消して攻撃する、特殊少年兵の極意の欠片を自分で掴んだ凄い子。
今回、刃牙のインタビュー後日談風描写を入れてみた。
彼女が餓狼になるかは作者も知らない。
ベン・トー原作に登場した狼達と同じ二つ名を当てられた餓狼達。作者の気分次第でまた出るかも。
サブ
出久をアニィと呼ぶ、大分強面な青年。
どう見ても堅気じゃないのだが、こんなのに兄貴扱いされる出久とは···
轟君を轟ちゃんにするの、ぶっちゃけアリ?
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アリ。やっちまえ。
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流石に自重しろバカ。ダメに決まってんだろ
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まずは薔薇を咲かせてからだ。