捕食少女の闘争アカデミア   作:エターナルドーパント

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『さて、出久の猛毒舌説教タイムです』
「ステインはどうなっちゃうの?」
『アザトースを直視した人間が精神に受けるダメージに近い、とだけ言っておこう』
「発狂確定コースじゃん・・・」


第26話 少年の蹂躙

「うっ・・・ぐぅッ・・・」

「ハァ・・・弱い」

地に伏す飯田。それを踏み付ける、血のような赤いマフラーと全身に携帯した刃物が特徴的な男・・・ヒーロー殺し、ステイン。

癖となった溜息と共に、落胆と侮蔑を吐き出すステイン。この男にとって、飯田は只の有象無象に過ぎなかった。

贋物(ニセモノ)だから、弱い。私情の為に力を振るわず、己を顧みず他を救う・・・それがヒーローだ」

そう言って、ステインは手に握った刃こぼれだらけの刀で、路地の奥に倒れているヒーローを示す。

「だが・・・ハァ・・・貴様は、どうだ?復讐に呑まれ、視野を狭め、仲間を見殺しにしている。ハァ・・・見苦しい」

「ぐっ・・・」

兄の仇の口から出た、しかし反論の余地の無い正論。それを、身動ぎ1つも侭ならぬ状態で聴かされる。

飯田は己の腸の底から、悍ましくも形容し難い苦痛が這い上るのを感じた。

「ハァ・・・贋物は、死ね。正しき社会の、その礎に・・・」

「くっ、クッソォォォォォッ!!!」

身体の自由を奪われ、生殺与奪をも憎き仇敵に握られた飯田の慟哭。それを冷めた眼で見下ろしながら、ステインは獲物の背を貫かんと刀を振り上げた。

 

─キィンッ─

 

「ッ!!」

だが、突如として頭上から響いた金属音に、その刃を止めて頭上を見上げる。しかし、其処には何も無い。

「何が────」

 

─ズドッ─

 

「ぐアァァッ!?」

突然の激痛に、思わず絶叫するステイン。痛みの発生源である右前腕には、短い矢のような物が突き刺さっていた。

「こ、これは・・・ッ!!」

ステインは殺気を感じ取るには長けていたが、襲撃者は殺気を操作する事に長けていた。放たれた軽合金の短矢・・・ダーツに殺気は無く、唯々ステインの腕という物体を貫いただけだ。

瞬間、神経を針のように刺す激痛にも似た殺気を感じ、反射的に飛び退くステイン。鋭く空気を裂く音を伴い、その首があった位置を何者かの貫手が通過した。

 

─ピシッ─

 

しかし、どういう訳か反らし仰け反ったステインの首下、鎖骨の辺りに、紅の横一文字が浮かぶ。其処から溢れる血に手を遣りつつ、襲撃者を見遣る。

其処に立っていたのは、()()()()()()()()()()()()だった。

何だこれは、人間じゃ無い、何をされた、個性か・・・彼の脳はパニックを起こし、敵前に置いての重要な刹那を、自問自答に囚われた。

 

─ドボグンッ─

 

「うごあッ!?」

その無意識の刹那を、異形が放った拳が狩り取る。

股関節の回転で右脚を前にスイッチし、その回転を余す事無く体幹で肩に伝達。其処から肩甲骨、肘関節を連動させ、脱力した腕の水分の重さで投げ付けるように打ち出されたパンチは、直撃した腹斜筋を素通りし、内蔵に押し潰すようなダメージを浸透させた。

「ほぅ・・・」

数瞬の残心の後、異形の襲撃者は素立ちの構えに戻る。そして、右手に嵌めていた暗器を外した。

それは、ゴムチューブに通した透明なテグスの輪。ステインの胸元を切り裂いたのは、刹那の振りにより鋭い刃と化したこの極細の糸である。

「がッ・・・ぐっウゥ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

潰れるような内臓からの激痛に、辛うじて耐えるステイン。しかし、呼吸のリズムを保つのが精一杯のようだ。

「ハァ・・・そう、か・・・ギリー、スーツか・・・ハァ・・・」

しかし、じっくりと観た事で、ステインも襲撃者の正体に気が付いた。

理解してみれば、何の事は無い。襲撃者は、闇に紛れる黒いギリースーツを着込んでいたのだ。

しかしシンプルな事実とは裏腹に、その効果は絶大である。

人の脳は、両肩と頭が作り出す三角形のシルエットと、股から差す後光によって人型を人型と認識する。ギリースーツは、そのシルエットを膨れ上がらせて丸め、人間の脳を混乱させると言うコンセプトで造られた偽装服なのだ。

「き、君は・・・もしかして・・・」

飯田の呟きにも耳を貸さず、バサリとフードを頭から外す。その中からは、黒混じりの暗い緑色をした縮れ毛と、髑髏染みたマスクに覆われた顔が現れた。

「や、やはり・・・緑谷君・・・!」

黒いマジックミラーの眼鏡・・・アイギア越しに、出久は飯田を一瞥する。しかし応える事はせず、左手に持っていたグリップが付いた鉄板のような何かを構え、スーツの中から取り出した、釣り糸のような返しの付いたダーツを其処から伸びる紐につがえる。

キリキリと引き絞るとグリップの前方に畳まれていたリムがY字に開いた。

 

─パシュッ キンッ─

 

「・・・流石に、正面からじゃ当たらないな」

ダーツを避けられようと大して落胆した様子も見せず、出久は左手の武器・・・スリングショットをホルスターに仕舞う。

「み、緑谷君・・・済まない・・・だが、其奴は俺が───」

「勘違いするな」

訴え掛けるような飯田の声はしかし、出久の温度の無い声にぴしゃりと斬り捨てられた。普段からは想像も出来ないような冷徹な声に、飯田は思わず項が粟立つのを感じる。

「僕だって、君と目的は大差無い。仇討ちだよ。友達の、その友達のね・・・」

「ハァ・・・矢張り、貴様も贋物だったか」

出久の発言に、苛立たしげに吐き捨てるステイン。内臓からの叫びを抑え、ギリギリと歯軋りして出久を睨んだ。

「・・・貴様を処理する前に、聴くべき事がある。貴様の言う、《本物》とは何だ?《贋物》とは、何だ?」

感情の無い冷たい瞳で、出久はステインに問い掛ける。相手の中で自分の敗北が確定事項になっている事に苛立ちを覚えつつ、ステインは回答した。

「ハァ・・・本物のヒーローとは、正しく自己犠牲によって偉業を成し遂げた者の事だ。己を顧みず、見返りを求めず、私欲に惑わされずに他者を救う者・・・オールマイトのような、真の英雄だ。

そして、贋物は・・・ハァ・・・それに中らぬ、俗物だ・・・ハァ・・・富を求め、名声を求め、英雄の何たるかを忘れた、この社会の癌だッ!」

「だから、貴様は斬り捨てたのか?その癌細胞とやらを・・・」

「そうだ!全ては英雄の原点回帰、真に正しき社会の為だッ!」

「・・・あぁ、そうか・・・成る程、そう言う事か・・・あぁ、全く。全く以て・・・

下らない」

「何?」

何の熱も帯びなかった出久の瞳に、初めて感情が宿る。それは、侮蔑。思考の次元の低い、目障りな蛆虫を見る眼だ。

「今・・・ハァ・・・何と、言った・・・」

「聞こえなかったか?下らない、と言ったんだよ。()()()

ソウルイーターの下でビキリと歯をむき出し、不愉快を表現する出久。出久から投げ付けられた罵倒に、ステインは眼を血走らせる。

「俺が・・・ハァ・・・糞餓鬼、だと・・・?

どう言う意味だ・・・巫山戯るなッ!」

「巫山戯る?巫山戯てなどいない。巫山戯ているのはお前だ、ステイン」

嘲笑を浮かべ、吐き出すように言葉を紡ぐ出久。次に発する言葉を組み立て、心を抉る刃と練り上げ研ぎ澄ます。

「確かに、全てのヒーローがオールマイトのようならば・・・それは素敵だ。嘸かし、素晴らしい社会が出来上がるだろう。

(ヴィラン)の活動は不活性化し、流通は活性化。産業は進み、間違い無く豊かな社会になるだろう・・・()()()()()な」

「第一世代?」

予想もしていなかった単語に、ステインは眉を顰める。一応の興味はあるのだろうか、出久に攻撃を仕掛ける素振りは無い。

「問題は、そんなヒーロー達の子供だ。己を顧みないヒーローの、何所に家族に愛を注ぐ時間がある?」

「「ッ!」」

ステインだけで無く、飯田もこの言葉に眼を見開く。しかし、それも仕方無いだろう。自分の子供と言う存在を理解しない限り、まず辿り着かない発想だからだ。だが、出久には既に子供がいる。25体のゼノモーフと言う、己が胎の内に宿した子供を産んでいる。故に、辿り着く事が出来たのだ。

「妻や夫は良いだろう。そう言う相手と添い遂げると、()()()()()()、パートナーはな。

だが、子供は違う。子供は()()()()()()()()()()()()()()()()

故に、目の当たりにするのさ。()()()()()()()()()を、()()()()()()()()()()()()()()の姿を、遠く離れた画面越しにな」

生々しく、ステインの理想の行く末を語る出久。舞台演技めいた抑揚と言葉選びは、嫌が応にも聴く者の心に入り込んで来る。

「勿論、それを誇る事が出来る子供も居るだろう。僕のパパは、ママは、こんなにスゴいんだぞー、ってな。

ならば、出来ない子供は、一体どう思うだろうか?」

意地の悪い問いである。しかし同時に、想い人を持つヒーローが必ず直面するであろう問題でもあった。

「数多の命は、決して等価では無い。明日4歳の誕生日を迎える愛娘と、何所の誰とも知らぬビール腹の小汚いおっさんの命の、何所が等価であると言えようか。

だが、ステイン。貴様が理想とするヒーローとは、これに対して真正面から等価値だと言ってのける気違いなんだよ」

当然、オールマイトは等価と言い、どちらも救おうとする。そして、本当に救ってしまうだろう。しかし、それは本来、人間としては至極異常な思考なのだ。

「そうなれば、どうなるか・・・命に関わるならば、勿論駆け付けよう。だが、それ以外なら?

誕生日、クリスマス、年越し、運動会、発表会・・・一体、どれだけをリアルタイムで、現地で、観てやれるかな?

あぁ、言わずもがなだ。殆ど観てやれない。そんな時間でも、街ではトラブルが起き、助けを呼ぶ声が上がるからだ。

そして、その埋め合わせとして、お高い豪華な夕飯をご馳走するんだろう。

だが、子供はどう思うかな?

・・・どんなにほったらかしにしても、こうやって機嫌を取れば良いと、この人は思っているんだと・・・自分との家族愛を、()()()()()()()と思うんだよ」

その言葉は、重かった。

親であり、子供である。その異色の二重人生が、その言葉に鉛のような重みを生み出した。

「その歪な闇を抱えた子が、どうなるか・・・ここまで言えば、分かるだろう?」

心を蝕む猛毒をその牙に滴らせ、出久の言葉は蛇のようにステインに絡み付く。ステインは殴られた痛みとは違う、もっと別の腸の痛みを自覚した。

「答えは・・・悪意の大爆発だ」

グワリと見開かれた出久の眼。その瞳孔は深海のように昏く開かれ、見る者を吸い込むように釘付けにさせる引力を放つ。

「闇は共鳴し、悪意は感染し、やがて社会を侵蝕する。もはや収拾は付かなくなり、目覚ましい発展の朝の時代は一転、混沌逆巻く暗黒時代になるのさ」

「あ、が・・・ッ!」

自身の理想の行く末が、絶望と混沌たる未来。心を支える柱を出久の劇毒に腐らされ、ステインを襲う心の痛みは焼け付くような熱に変わる。

「英雄回帰・・・?正しき社会・・・?

巫山戯るな。巫山戯ているのはお前だ。

 

お前は餓鬼だッ!この世の何も見えていない、哀れで無様で滑稽で、痩せっぽちの餓鬼だ」

 

「がっ・・・カハッ・・・ハッ、ハッ・・・ハァッ・・・カハッ・・・!」

吐息混じりの、揺らぐような語り掛ける声が、ステインの鼓膜から脳を犯し、心の傷を腐食する。もはやステインには、満足に呼吸のリズムを整える気力すら、残されていない。

「オラッ!」

 

─ドゴムッ─

 

「がッ!!?」

膝をつき、嘔吐くステインの腹を、出久は容赦無く蹴り飛ばす。爪先で貫くような蹴りは横隔膜を叩き上げ、胃袋を叩き潰した。

「どうした、紅いの。立てよ・・・たかが1発良いの貰ったからって、ハイお終いって訳には往かないんだよ、小僧」

 

─ゴキンッ─

 

「ウガァッ!?」

左腕の肘を踏み抜き、更に頭を鷲掴んで持ち上げて壁に押し付ける。正座程度の高さに抑え、足技を潰すのも忘れない。

「何の事も無い。結局こんなのは、子供の喧嘩に過ぎないんだよ。だから子供(ぼく)が相手をするのさ」

「かっ・・・ハァッ・・・お前は、何なんだ・・・」

「ふむ。面白い事を聞くな。だったら答えてやる。

僕は死の三日月(デッドクレッセント)。或いは暗緑の地雷原、或いは血塗れ翡翠の悪魔、或いは幽霊(ゴースト)・・・

或いは・・・()()だ」

ギリギリと壁に頭を押し付け、答える出久。その答えに理解が及ばず、只でさえ苦痛で纏まらないステインの脳内は疑問符で満たされた。

「お前がこの世を恨んで、呪って、好き勝手やってブチ蒔けまくった怨嗟・・・それが巡り巡って凝集し、お前への呪詛返しとなった呪いの藁人形、それが今の僕だ。

人を呪わば穴二つ・・・社会を憎み、人を恨み、自分勝手な呪いをばら撒いた奴は、自分さえもその呪いに呑まれるのさ。

報いの種を踏んだな、えぇ?血の染み汚れ(ステイン)

出久の眼や口から、ドロリとした黒い何かが溢れ出すような幻覚がステインを襲う。

それは、憎悪。煮詰められたタールのようなべた付く憎悪が、自分の顔に垂れ流され、口と鼻を覆ってしまうような窒息感に目眩を覚える。

「あっ、あがっ・・・や・・・」

「や・・・何だ?その続きは。やめて、か?やめろ、か?それとも立場を弁えて、やめてください、かな?

まぁ、どれでも良いとして・・・おかしな事を言うモノだ。貴様がそんな命乞いに、一度だって耳を貸した事はあったかな?」

アイギアをズラし、直接眼を合わせる。カッ開かれた真っ暗な瞳に生気を吸われ、ますますステインの顔面は蒼白になる。

「どうした?随分と顔色が悪いな、ヒーロー殺し。牛乳を拭った雑巾の方が、まだ活きが良い気がするぞ。

暖色街灯で照らせば、その顔色も少しはマシになるか?そぉらッ!」

抵抗の出来ないステインを、出久は容赦無く道路に向けて投げ飛ばした。両腕を使えないステインは真面に受け身も取れず、ゴロゴロと転がる羽目になる。

「ッ!み、緑谷君ッ!もう良い、十分だ!もう良いだろうッ!」

凝血(ステインの個性)の効果が切れていながら呆気に捕られ動けなかった飯田が、ここで出久にストップを掛ける。最早腹の奥底で煮え立っていた兄の仇への憎悪はなりを潜め、出久への怖れへと置き換わっていた。

「うん、そうだね。心もへし折って完全に磨り潰したし、もう闘う気力も無い腑抜けになっただろう。だから、完全に捕縛する。一切の抵抗も出来ぬよう、厳重に縛り上げる」

ギリーの前を開き、内側からパラコードを引っ張り出す。そして路上に投げ出されたステインを縛り上げんと、表街道に踏み出した。

「ッ!緑谷出久ッ!」

「・・・そう言えば、貴方も来ているのだったな・・・エンデヴァー?」

重く息を吐きながら、名を呼んだ男の方を振り返る。其処に立っていたのは、ヒーロー殺しを追って来たエンデヴァーだった。

「ヒーロー殺し・・・これは、貴様がやったのか」

「緑谷・・・」

「えぇ、その通り。コイツは僕が叩き潰しました。

あとゴメンね、ショウちゃん。ちょっと怖いけど、許してね」

顔を引き攣らす轟に笑いかける出久。空気は完全に切り替わり、朗らかな優しい声色だ。

「エンデ、ヴァー・・・」

その声に反応し、項垂れていたステインの眼に再び意思が宿った。

「エンデヴァー・・・贋物ッ・・・!!!」

ステインは、額を地面に擦り付けて立ち上がった。強い怒りと憎悪にこそ、限界を迎えつつある人間の心を支える力がある。

「ハァッ・・・正さねばッ・・・誰かが、血に染まらなければッ!」

腕に着けたナイフを口で噛んで引き抜き、羅刹染みた形相でエンデヴァーを睨み付ける。否、最早睨むと言うより、己の視線を凶器にしてエンデヴァーを殺そうとしていると言う表現が適切だろう。

「ハァッ・・・来いッ!来てみろ贋物ッ!俺を殺して良いのは、オールマイトだけだッ!」

「馬鹿かお前」

 

─バカンッ─

 

「うがッ!?」

脅威をガン無視して血気盛んに殺気をブチ蒔けるステインの右脛を、木製バットを軽くへし折る出久のカーフキックが襲った。足払いのように下半身を丸ごと持って行かれ、ステインは氷の上でスリップしたようにスッ転ぶ。

筋繊維は潰れ、骨は損傷して、立つ事は兎も角、動かす事はもう不可能な状態だ。

「今までずっと、他人に不本意な最期を押し付けてきた貴様が・・・まさか、理想の最期を選べるとでも思っていたのか?全く滑稽甚だしい。お前にオールマイトが拳を振り下ろす事は無い。貴様は今ここで、無様に、藁のように縛られて、死ぬ事も赦されない監獄に入れられるんだよ」

膝裏を抑えて脚の可動範囲を完全に潰し、刃物を没収していく出久。そしてまもなく丸腰にまでひん剥き、パラコードで手早く、骨に引っかけるように縛り上げる。そして其処から頸動脈を締め上げ、10秒掛けて気絶させた。

「ヒーロー殺し、捕獲完了」

20秒掛からず、完全に拘束されるステイン。後は警察の領分だろう。

「・・・1つ聞きたい。ヒーロー殺しのこの傷・・・全て、お前1人でやったのか?」

「えぇ。隙だらけだったのでちょっと警戒を誘導してやれば、面白いように間抜けを晒してくれましたよ」

出久は嘲笑混じりにそう返し、ステインの腕からダーツを無理矢理引き抜いた。

「コイツはもう動けない。警察に引き渡すだけですよ。目的も果たした。もう用はありません」

「・・・緑谷君・・・」

苦々しげに呟く飯田。出久は後ろを振り向き、飯田の手を取って引っ張り起こす。

「俺は・・・ヒーローを志していたのに・・・」

「・・・うん。復讐に呑まれるとは、感心しないね」

「ッ・・・」

「でも、分かるよ。復讐は甘いものだから」

そっと顔に手を添えて、柔らかい声で語り掛ける。

「だが、それに酔っ払って、生きる目的や支えにしちゃあいけないよ。復讐は飽くまで、明日にしがらみを残さない手段。

それが目的に転じれば、それは最早畜生の所業・・・幾ら友達であろうとも、僕達が狩らなきゃいけなくなる」

「っ・・・!」

狩ると言う、人に使うには異質な言葉。其処に含まれた、殺意にも似た明確な決意。

本気だ。もしそうなれば、本気で自分を刈り取りに・・・否、狩り捕りに来る。

「君の手は、まだ返り血に塗れてはいない。その手で、お兄さんの支えになってあげて」

「っ・・・ぁ・・・!」

兄の支えに・・・その言葉に飯田は、仇討ちに視界が塗り潰され、何の為の復讐かを忘れかけていた事に気付く。

その有様は、自分達と敵対する(ヴィラン)と、如何程の違いがあると言うのだろうか。

だが、飯田は畜生には堕ちなかった。己の手が汚れる前に、出久が始末した事で。そして皮肉にも、復讐するべき仇敵が、自分よりも強過ぎた事で。

「スィ、ママ。脳無は全て捕縛したよ」

「Good!良い子だよウォルちゃん」

街灯上に着地して報告したウォルターを労い、出久はソウルイーターを外した。

 

「おいおい、ありゃやり過ぎだろ・・・」

「やっぱヤベェ奴だったのか・・・」

「あんなのが雄英入れたってマジかよ・・・」

 

「ッ・・・」

「・・・はい、待った。大丈夫だよ」

「っ、出久・・・?」

周囲からヒソヒソと聞こえてくる、異質を怖れる声。

恩人に掛けられる心無い言葉に、冷気を吹き出しそうになる轟を、出久が頭を撫でて制する。

「彼らは分かってないだけなんだよ。コイツみたいな思想犯が、只身体を打ちのめされた程度では、決して折れない事を。

例え腕を裂かれても、脚を砕かれても、歯を折り取られても・・・何度も立ち上がり、また己の信念を貫こうとする。それは危険だ。だからこそ、完膚無きまでに叩き潰し、意思を砕き、再起不能にしなきゃいけない。例えそれが、どんなに惨い事であろうとも・・・」

まるで見てきたかのような、説得力のある言葉。周囲の群衆はその重みに思わず口をつぐみ、身を強張らせる。

「何故分かるんだって顔してるね。何故なら、僕も持っているからだ。その狂気の域にすら達した、決意を」

出久はそう言って、ニヒルに片頬を上げた。

「例えどんなに過酷な訓練でも・・・それこそ、走馬灯が脳裏に走るような、凄絶で、身体が死を真正面から認識せざるを得なくなるようなものであっても・・・その一切を呑み下す。弱かった僕が、自分に価値を見出す為に」

急速に光を失った昏い瞳が、出久の体験した過去を物語る。

死の寸前まで、己を追い込む。しかも、自ら。心折れずにそれを乗り越えるには、尋常の決意、並大抵の意思では不可能であろう。それこそ、狂気と言い表せる程で無ければ。

「僕も、コイツも、根底は似ている。周囲とは違う異質な自分の価値を、それでも尚求め続けた。その過程ならば、どのような過酷も苦難も、甘んじて受け容れられる。

故にこそ、コイツを真に倒すには、只の力では駄目なんだよ。

死に体を支え突き動かす信念を根底から否定し、希望を腐らせ、夢を潰し、潰し、潰し、潰し、潰し・・・最早立ち上がろうと思う事すら出来なくなるまで、徹底的に踏み躙らなければならないのさ」

鉛のような重さと、蜂蜜のような粘り気を帯びる空気。その雰囲気は、あって欲しくないもしもを周囲に幻視させた。

もし、この男が(ヴィラン)になったら・・・

「・・・おい、行くぞ小僧」

その空気を、しわがれ声が切り開いた。

「分かりました、グラントリノ」

声の主に着き、歩みを進める出久。その片手間で、とっくの昔に到着していた警察に、ステインの身柄を引き渡した。

「はぁ・・・疲れたな」

「おい小僧。今回確かに戦闘許可は出したが・・・流石にやり過ぎだ。自重しろ」

「済みません」

駅へと向かう道中。出久の前の景色は、その時間帯にしては、異様に開けていた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

緑谷出久
超絶毒舌現代忍者。
濃過ぎる人生経験と過酷な訓練により、思考の主観が大分捻れている。
故に思考の癖を読み取り、その裏に何があるのかを察して、適切な刺激を与える事が出来る。心の鍵開けの本質はここにある。
自分とステインの共通点を直視した結果、精神的にオーバーキルしてSAN値を消し飛ばす作戦を決行。まぁそもそも依頼された復讐を果たす為、ズタボロにするのは確定事項だったが。
スリングショットでダーツを放ち、視線を誘導して意識外から再度狙撃。攻撃能力を大幅に削いでから、更にギリースーツの特性を活用してウェイヴパンチを叩き込むと言うコンボをキメて、懇切丁寧に根拠を提示しながら執拗に信念を否定しまくると言う心身ともに凄まじいダメージを叩き込む戦法。エグい。

飯田天哉
復讐鬼になりかけたものの、出久と実力差と言う2つの要因によって皮肉にもそれを回避。
自分の醜さに気付けたので、強くなれるんじゃないかな?

ヒーロー殺し、ステイン
本名、赤黒血染。
時代錯誤な英雄思想に取り憑かれた結果、認め難い現実から逃げ出した憐れな男。
信念があるだの何だのと言われているが、出久曰く、現実を視たがらない子供の癇癪でしか無い。
因みに彼の理想の末路として上げられた運命によって生まれたのが、実は死柄木弔だったりする。
完全な無気力状態で日本最堅の監獄(タルタロス)にブチ込まれる事になる。
人を呪わば穴2つ。蹴落とされた穴の底は、猛毒の針の蓆だった。

轟君を轟ちゃんにするの、ぶっちゃけアリ?

  • アリ。やっちまえ。
  • 流石に自重しろバカ。ダメに決まってんだろ
  • まずは薔薇を咲かせてからだ。
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