「また迷走してるよコイツ」
(背納サイド)
「じゃ、ドク。宜しくね」
「ショグヂ ギバギダ」
朝。昨日生まれた新しいソルジャー達の教育をドクに任せて、今日はマックスと一緒に家を出た。
「フンフフ~ン♪フンフフッフ~ン♪
フッフンフンフフ~ン♪」
スクールバッグはやっぱり邪魔なのでと引っ張り出した中学時代の米軍仕様ミリタリーバックパックを揺らし、お気に入りの鼻歌を歌いながらスキップ。バックパックには教科書やノートその他全部丸ごと入れてるから13キロぐらいあるけど、まぁ大丈夫だ。問題無い。
因みにこの曲、マックス達ゼノモーフの名前の引用元のアニメのOPだったりする。まぁアニメ版は作者がぶちギレるレベルで原作崩壊してたけどね。
「ビギデロ、グギギン。ジョブガレゾド ン ギヅザギ ゾ グレスボダギゾ リヅベラギダレ」
「ま、そこは天下の雄英高校。あれぐらい良質じゃなきゃ嘘さ」
にししっと笑いつつ、昨日と同じように木を伝って坂を登る。途中のセンサーも代わり映えしないから、何の障害にもならなかった。ま、そんな事はどうでも良いか。
「ビギデロ ゴギバダダゼグバ。キョグリョブバ《ブシゲギション》グ ザヅゲンギバギドパ」
そう。昨日生まれたゼノモーフ達は、今朝方までずっと山の中で食料を食べさせまくって急成長させたのだ。
朝起きたら、ドクに連れて来させて個性をしっかり受け継いでいるか確認してきた。結果は、帯電、エンジン、酸、イヤホンジャックが継承成功。逆に百ちゃんの創造が継承されずウォーリアーとなった。
「いや、そうでもないさ。成功だよこれは。今回で、受け継ぐ事が出来ないのはどういう能力なのかが分かってきた。勿論、まだまだデータは足りない。でも、その貴重なデータの礎になった。地味だろうが目に見えなかろうが、立派な躍進だよ。
と言うか、こういう事は寧ろマックスの方が分かるでしょ。ボクのこと試したな~?」
「ハッハッハ。ギジャギジャラダダブ、ババギラゲンバァ グギギン ビパ」
マックスと談笑しながら、雄英の門を潜る。
そう言えば、今回の増員で僕の兵力は丁度30と1人。一個小隊の台に乗った。
かの少佐殿が指揮した
あぁ、早く戦いたい。ボクを滾らせてくれる、脅威と驚異の軍団・・・まぁ、出久といれば因果は向こうから抱き付いてきてくれるだろう。ならばそれまで、ボク等は精々、まだ見ぬ愛しき怨敵達をもてなす準備を進めるだけだ。
「シュビドゥビドゥ♪シュビドゥビドゥッドゥドゥ~♪」
―――
――
―
「ねーねー背納ちゃん!どうなった!?アタシの子はどうなった!?」
教室に入るや否や、三奈ちゃんがニッコニコしながら肩を揺さぶってきた。
「うん。みんな元気に育ってくれたよ~。ゼノモーフは学習が早いから、明日明後日にでも学校に連れて来られると思う」
「うっひゃ~楽しみ~♪」
三奈ちゃんゼノ大好きだからなぁ。
「あ、あの!私の子は、どんなふうに育っているんですか?」
「ウチも、結構気になるかな」
「そーだ!俺のはどうなったよ!」
あー、宿主いっぱい集まってきた・・・
「ま、まぁまぁ。お昼時にでもね?ハイ、解散!」
「約束ね!」
約束を取り付け、この場は解散。いやはや、皆スゴい好奇心だねぇ。
「ギギ ゴドロザヂ グ ゼビラギダバ、グギギン?」
「アハハ、まぁね?」
―――
――
―
「背納ちゃ~ん!ご飯行こ~!」
「はいよ~!」
午前の必修科目が終わり、昼休み。弁当箱をひっ掴み、三奈ちゃんに着いて行く。
途中、百ちゃんが券売機で首を傾げたりしつつ、何とか全員テーブルに着いた。
メンバーは、出久含む苗床組。そこにマックスが一緒に座っている。
「じゃあ、早速報告しよう」
ボクが眼を細めると、皆の顔が引き締まる。出久は結構ワクワクしてるね。
「今回の出産で、継承出来る能力と出来ない能力がある事が分かった。
勿体振らずに言おう。百ちゃんの創造以外は、無事に継承出来てたよ」
「そ、そう、なのですか・・・」
目に見えてしょぼくれる百ちゃん。何かコンプレックスでもあるのかな?
「大丈夫。百ちゃんの子は、平均より体格がガッシリしてたから。劣ってる訳じゃないよ。
そして、それぞれの新種には名前を付けようと思う」
ボクはスマホのカメラ機能を起動し、今朝撮った写真を表示した。
「産み付けた順に見ていこう。まず上鳴君」
表示されたのは、黄色掛かった体色のゼノモーフ。腕や脚、頭部なんかに雷のような幾何学模様があるのが特徴だ。
「エレキモーフ。全身の筋肉が発電器官になっている」
次は、脚や背中から金属質なパイプが出ている子。
「ターボモーフ。まだ計ってないから未知数だけど、アクセルが効いたスピードタイプ。背中のマフラーはそれなりに角度が調節出来るから、壁とかを走り回りながらでも使えると思う」
次。ガッチリした大柄なウォーリアー。ガタイが良い事ぐらいしか紹介出来ないから次。
下腕からイヤホンジャックが伸びている子。
「ビートモーフ。イヤホンジャックの射程は大体6mぐらい。試しに手に刺してみたら、脳髄まで痺れるような爆音が流れ込んで来た。心肺機能が強靭なゼノモーフには相性良かったんだろうね。
あと、何故かインナーマウスの代わりに指向性スピーカーに似た発声器官が発達してた。そこにプラグを接続して爆心音を飛ばせるみたい」
「フム、元の個性をより使いこなせるように進化したって事かな?」
「それはまだわかんない。でもターボモーフみたいに、たまに寄生元よりグレードアップする事もあるみたいだね」
出久の疑問に言葉を返しつつ、最後の写真を表示。うっすら紅色の体表と、頭部の触角が特徴の子だ。
「アシッドモーフ。三奈ちゃんの個性を見た目ごと受け継いでるね。
元々強酸血液に耐えられる身体だから、相性は抜群。だけど反面、華奢だからパワーは強くないね」
「成る程。蠍や蜘蛛みたいに、能力があれば単純な身体能力が退化して、逆に能力が無ければ身体がマッシヴになる感じか。成る程成る程」
お、出久が良い例えしてくれた。
「所で、せっちゃんが気付いた継承出来るかどうかの違いって?」
「あぁ。単純に、
「・・・えっと、つまり?」
うん、上鳴君が皆の意思を代弁してくれたか。
「例えば、エレキモーフの発電能力はデンキウナギとかがいるよね。ターボはメダカハネカクシ、アシッドはマイマイカブリ・・・兎に角、自然界で似たような能力を持った生物がいるかって話だ。体脂肪を別の物質に転換出来るなんて、良く良く考えれば化物も良いとこだしね。
まぁ、多分物理学に喧嘩売るタイプの個性は無理だと思うよ。ゼログラとか念力系とか。
ハイ、以上!報告終わり!食べよ食べよ!」
手を叩いて空気を締め、ボクは風呂敷から弁当箱を取り出す。マックスはボクより小振りなやつだ。
「あそうだ!飯食わなきゃ・・・ってデッケェな!?」
「せっちゃんいっぱい食べるからね」
カパッと開けると、上段はミッチリ詰め込まれたポテトサラダ。そして下段を開けると・・・
「な、何だこりゃ!?」
「うわぁ、スゴい・・・」
「こ、これは・・・一体」
出久以外の全員が眼を見開く。
下段はおかず。バンブーワームの唐揚げに、イナゴの素揚げ、クワガタの幼虫の燻製、山菜の佃煮。いつも通り、ご機嫌な昼食だ。
「なぁ、これってもしかして・・・虫か?」
「そーだよ?バンブーワームに、イナゴでしょ、あとクワガタの幼虫!」
「美味しいよ?」
出久は結構昆虫食経験してるから、全然引かないね。
「ホラホラ、食べてみ?あーん」
「えっ、ウチ?えっと・・・あ、あ~」
イナゴの素揚げを、耳郎ちゃんの口に放り込む。耳郎ちゃんは眼をギュっと瞑って、恐る恐るといった感じで咀嚼し飲み込んだ。
「・・・エビ?エビっぽい?」
「でしょ!」
「ヤバい。これハマるかも」
フヒヒ、計画通り♪こっからどんどん染めちゃおっと♪
「あ、そうだ。マッちゃん、ドクちゃんは最近どう?」
「えぇ。最近は親衛隊員の育成と、薬草の成分の抽出等に力を注いでおりますね。母上によく似て研究熱心で・・・それが高じて、大家のおば様に許可を取って専用のラボ小屋を造る程ですよ。
あと、最近は養蜂にも挑戦しているようでしてねぇ。何時か母上に舌鼓を打って頂こうと張り切っていました」
「そっか!じゃあ、楽しみにしてるって伝えといてね!」
久し振りに長女と会えた出久も楽しそうだ。ドクの研究も面白いしね。
「まぁたまに悪巫山戯でご飯に媚薬とか劇毒混ぜられるけどね」
「「「「「は?」」」」」
いやー、ドクめ。原作と違って結構遊び心があるんだからなぁ。マッドな天才に持たせたらヤバいものランキングのトップだと思うんだよね、遊び心。
「び、媚薬って、どど、どんな!?」
「上鳴君?せっちゃんが暴力装置になるスイッチの1つが厭らしい感情を向けられることだからね、男のままでいたいならそう言うのは抑えた方が良いよ」
明らかに鼻の下が伸びた上鳴君に、出久が注意してくれる。
まぁ、出久が居ないとこじゃ言わないよ。
「媚薬って言っても、滋養強壮効果のある野草から抽出した成分だからね?コーヒーみたく少し寝付きが悪くなったりしたぐらいだよ」
まぁたまに調合が上手くいきすぎてお風呂場から出てこられなくなるけど。もうね、ドクは漢方系の製薬会社に入れば良いと思うんだ。
「で、では、劇毒とは?」
「あー、それね。ドクの奴、どっから仕入れたのやらテトロドトキシン・・・簡単に言うと河豚毒で有名なやつね。あれを入れたりしたんだよ。ボクの皿にピンポイントで」
「悪巫山戯どころか謀反じゃん。暗殺計画じゃん・・・」
顔をひきつらせる三奈ちゃん。って、皆ドン引きしてるなぁ。
「まぁ、直後にトリカブトから抽出したアコニチンっていう毒も摂取させられたお陰で助かったんだけどね。あれ作用機序が正反対で打ち消し合うから。
でもそしたら今度は河豚が先に抜けきっちゃってさ、逆にトリカブトで死にかけたよ。そんでまた河豚をおかわりして・・・そんなこんなで、まぁ少なくとも河豚毒とトリカブト毒には耐性が出来たかな。致死量が常人の数百倍か数千倍にはなってる」
これには流石の出久も呆れ顔。重い溜め息を吐きながら、カツ丼を口に運ぶ。
「ふ、触出君は一体、何を目指しているんだ?」
「何を目指す、か・・・」
「そりゃ飯田お前、ヒーローに決まってるだろ?」
キョドりながら訪ねてくる飯田君に、上鳴君がつっこんだ。
でも、ヒーローか・・・ヒーローねぇ。
「ボクの目標、と言うか夢は・・・
「「「「「ッ!?」」」」」
その瞬間、そのテーブルだけでなく周囲すらもフリーズしてしまう。
「別に自殺したい訳じゃないよ?でも・・・ボクは何より、強者との闘争を望んでいる。
その根幹にあるのは、死に対する欲求だ。誰しもが持つ
化物を倒すのは何時だって人間だ。何故なら、人間だけが
化物は死ぬ為に戦う。獣は逃げて生き延びる為に戦う。だが、人間は違う。人間だけは、恐怖を乗り越え諦めを踏破し、脅威を倒し尽くす為に戦う。
そんな美しい人間に、殺されて死にたい」
ボクはどんなに美味しいものを食べようと、友達と遊ぼうと、決して満たされない。
強い敵と戦っている時・・・それだけが、ボクが自分らしくいられる時間だ。
「さてさて。果たして憐れな化物は、人間としてこの世界の美しさを味わえるのでしょうか・・・それとも、最期まで闘争を求め死に急ぐ化物のままでしょうか・・・
午後はヒーロー基礎学。どんな内容か楽しみだ」
自分でも分かる程冷たく笑いながら、ボクは空になった弁当箱を片付けた。
「グバサギビ キョグビ。ゴセゼボゴ、パセサ ン グギギン ザ」
to be continued・・・