第四十三話
「おいババア!! これはいったいどういう事だ!?」
俺、坂本雄二はいつもの如く、学園長室の扉をノックもなしに侵入する。
これはいつもと同じ光景だ。何も変わった所なんてない。
ただ一つ、俺が焦っている事以外は‥‥‥‥‥
「やっぱり来たね、クソジャリども」
「当たり前だ! なんで三か月前に行方不明になった明久がボロボロで、しかも学園長室から出てくるような事が起こるんだ!?」
俺が焦っている理由。
それは単純に、昨日の夕方、三か月前から行方不明になっていた明久が見つかったと聞いたからだ。
だが、明久が見つかった時、何故かアイツは体中がボロボロだったらしい。
幸い、病院に運ばれて命に別状はなかったが、今も病院で寝てるらしい。
「そんな事はアタシは知らないね。アタシがやったのは、白金の腕輪の遠隔操作。最後に起こった事象の再現を行えるようにしただけさね」
三か月前、ババアは最初、俺達が明久が消えた時の事をきめ細かに話すと、おそらくそれは、元教頭の仕業だと断言した。
理由は、ババアがまだ若かった頃(そんな時代があった事に驚きだが)一度、元教頭の竹原がババアの目の前で、白い光に包まれて消えた事があったらしい。
そして今回、俺がババアに説明した光景と、その時の教頭が消えた時の光景が似ている事から、原因は元教頭が何らかの仕掛けをしていたと言う結論に至った。
だが、犯人は分かっても原因は不明、元教頭もどこにいるか分からず、解決策は見当たらなかった。
そこでババアが『白金の腕輪はデータ収集のため、何か起こる度にアタシのパソコンにデータが送られてくる。それを元に白金の腕輪を解析して、どうにかして吉井を元に戻すしかないようだね』と言って、昨日再現に成功して明久を呼び戻せたわけだ。
だが、明久はボロボロの姿で気を失っていた。と‥‥‥‥
全く訳が分からない。
「おいババア。じゃあ説明しろ。なんで明久は姿を消した? 元に戻せたんだ。その理由も分かってるんだろう?」
せめてどんな仕掛けで消えたのか位は教えてもらおうと、ババアに聞いてみたんだが
「おい、なんで目を逸らすババア? 何か不都合でもあるのか?」
ババアは俺から視線を外してきた。
どうやら、言いにくい事があるみたいだな。
「何をバカな事を‥‥‥‥‥。そんな物、あるわけないに決まってるさね」
「なら言え。分かってるのか? 俺が明久の姉さんに今回の事を話したら、大問題になるんだぞ?」
明久が消えた時、幸いにも玲さんはアメリカに帰っていて、吉井家には誰もいなかった。
だから、明久の家族の人間は誰もこの事を知らない。
だいたい、このババアは何か問題があれば、解決より隠蔽を謀る奴だからな。
隠せるのなら隠したかったんだろう。
俺達としても、現状明久を戻せる唯一の可能性がババアだったからな。
仕方なく隠蔽に協力してやったが、明久が帰ってきた今、このカードは交渉の材料として有効活用させてもらう。
「‥‥‥‥アンタはホント悪魔みたいなガキだね。‥‥‥‥まぁ、いいだろう。別に隠したいわけじゃないからね、教えてやろうじゃないか」
「だったら、最初から隠したりすんな」
隠すつもりがないとか、ほざくなら最初から話しやがれ。
「うるさい奴だね。話してやるって言ってるんだから、黙って聞きなクソジャリ。‥‥‥‥‥先に言っとくけど、信じる信じないはアンタの自由だからね。今回の事件の原因は科学じゃない。魔法さね」
魔法? 魔法って言うと、あの魔法か?
そんな物が存在するのも驚きだが、科学とオカルトとちょっとした偶然が原因で召喚獣なんて物が存在するんだ。
魔法が存在しても不思議じゃないが
「根拠は?」
根拠も何もなしじゃ、信じられない事ではある。
「‥‥‥‥解析は随分前に終わっていたんだ。同じものを幾つか作ってみて、色々実験とかしてみたんだけどね、効果が表れたのは一人の人間だけだったんだよ。しかもその人物も消えたりする事はなく、腕輪が光るだけの現象だったけどね」
「つまり全員が使えるわけじゃなく、特定の人物しか使えない事から、効果のある奴が特殊で、その特殊な物の正体が、マンガじゃ良くある”魔力”ってわけか」
「流石は元神童。そう言う事だよ」
ふむ。ならつまり、明久は魔法が使えるって事か? なら、アイツがあんなにボロボロだったのは、”違う世界”に飛ばされて、そこで魔法バトルでも行って、負けたって事か?
「‥‥‥‥‥我ながら、バカな事を考えたもんだな」
だが、魔法が存在するなら、完全に切る事はできない考えだ。
やっぱ、明久に無理にでも吐かせるか‥‥‥‥
「おい、ババア。俺はこのまま明久のいる病院に行ってくる。早退するから、ちゃんと鉄人に連絡を入れておいてくれ」
俺はババに言い残して、明久のいる病院へと向かった。
☆
ヴィヴィオの涙。
その場面だけが鮮明な記憶として、何度も頭の中に流れていた。
その後、必ず見る光景は扇のユニゾン状態での顔だ。
そして僕はその場面で何をするわけでもなく、ただ地面に這いつくばって見ている事しかできない。
そんな悪夢を何度も何度も見させられて、もう何回見たかも分からなくなった時。
突然、僕にとっての悪夢は終わりを告げた。
「ここは‥‥‥どこ‥‥‥‥‥‥‥?」
僕が目を覚ますと、僕は見知らぬ部屋の見知らぬベッドの上にいた。
体の至る所には包帯が巻かれていた。
「そうか‥‥‥‥‥‥あれは夢じゃなくて、ホントに僕が体験した事だったのか‥‥‥‥」
僕はヴィヴィオを守れなかった。
直ぐ近くにいたのに、なのはにヴィヴィオを任されていたのに、ヴィヴィオが泣いていたのに‥‥‥‥‥
と、僕がヴィヴィオを守れなかった事を悔やんでいると
「邪魔するぞー。って明久、お前目が覚めたのか!?」
突如、扉が開きそこには、雄二と
「なんと!?」
「‥‥‥‥驚いた」
「明久君!」
「アキ!」
秀吉、ムッツリーニ、姫路さん、美波の五人がいた。
え? ちょっと待って。どうして皆がここに? ここって‥‥‥‥‥‥え? なに? これって夢? それとも僕は元の世界に戻ってきたの?
「‥‥‥島田、姫路。ババアと医者を呼んできてくれ」
「わ、分かりました。すぐに先生を呼んできます!」
「じゃ、じゃあウチは学園長先生に連絡してくる!」
姫路さんと美波は、雄二の指示に従って二人とも病室には入らず、逆にこの場から離れていく。
それとは対照に雄二、ムッツリーニ、秀吉の三人は病室に入って来る。
僕はまだ、これが夢なのかどうか分からずに
「えっと‥‥‥‥‥‥‥‥‥ここはどこ? 私はだれ?」
とりあえずボケてみた。それに対する雄二の返答は
「ここはバカが来る場所で、お前はその中でも最もバカな、ばか~の一世だ。分かったかバカ?」
ツッコミですらもボケ返しでもなく、ただの罵倒だった。
と言うか
「バカバカ言い過ぎだよ! バカ雄二! 自分だってバカなくせに!」
これが久しぶりに会った、友人に対する扱いだろうか?
まぁ、おかげでコイツが本物の雄二で、ここが僕のいた元の世界だと言う事は分かったけど‥‥‥‥
「お前が会って早々にバカやるからだ。まぁでも、お前は相変わらずのようだな」
「そっちもね。秀吉とムッツリーニも久しぶり」
「全くじゃ、本当に今までどこにおったのじゃ?」
「‥‥‥‥‥‥‥割と本気で心配した」
どうやら、三人とも結構心配してくれていたようだ。
と、僕等が久しぶりに話をしていた時に
「坂本君! 先生を連れてきました!」
姫路さんが僕の主治医? らしき人を連れてきて、僕達は話を一時中断して先生の診察を受ける。
「う~ん。君、傷の治りが早いね。普通なら四、五日は入院してもらう所だけど、これなら今晩様子を見て、何もなければ明日の朝には退院できるだろう」
僕自身、確かに少しは体のあちこちが痛むけど、我慢できない痛さじゃないから大した事じゃないと思ってたけど、どうやら僕の予想通りだったようだ。
「それじゃあ、今夜は大人しく寝てるんだよ?」
「分かりました。ありがとうございます」
先生はそれだけ言うと、病室から出て行き、その入れ代わりで美波が病室へ戻ってくる。
「学園長先生に連絡したら、今からこっちに向かうって言ってたわ。多分、後五分か十分で来れるだろうって」
ババアも来るのか‥‥‥‥‥正直、このタイミングでババアの顔を見るとなると色々心配だ。主にリバースしないかと‥‥‥‥‥
「なら、明久。ババアが来たら、今までお前がどこで何をしてたか色々話してもらうぞ?」
色々? 僕が何をしてたとか? それなら戦って‥‥‥‥‥‥‥
「あ――――――!!!」
そうだ! あの時戦ってたのは僕だけじゃなくて、六課の皆で戦ってたんだ!
なら、僕の失態でヴィヴィオを攫われたけど、もう一度取り返せる可能性だってまだ残されてるんだ!
‥‥‥‥‥戻らないと。
「雄二! 僕の白金の腕輪、今どこにあるか知ってる!?」
「白金の腕輪だ? んなもんババアが持ってるだろう? お前が発見されたのは学園長室なんだからな」
学園長室‥‥‥そうか、僕はやっぱり白金の腕輪の力で転移させられたんだ。
そうじゃなかったら、今頃僕は瓦礫の下だっただろう。
‥‥‥‥‥こうしちゃいられない。
早く学園長室に行かないと!
「ちょっとアキ!?」
「明久君!? どこに行くつもりなんですか!? 先生が今日は大人しく寝てなさいって言ってたじゃないですか!」
僕がベッドから飛び降りると、美波と姫路さんがすぐさま反応して、扉を塞いでしまう。
くっ! なら窓だ! ここが何階か知らないけど、今の僕は飛べるんだから、そんな事は関係ない!
と、僕が窓に向かおうとしたら
「させんぞ! 明久!」
「‥‥‥‥‥ここは通さない!」
窓は秀吉とムッツリーニの二人が、ガードして僕が外に出る手段が無くなってしまった。
くそ! 行動を読まれた! この完璧に僕の動きを読んでいるような動き、指示を出したのは雄二だな!
「雄二! これはいったいどういう事なの!?」
僕は雄二を睨みつけて、怒鳴り散らすが
「お前こそ、どういうつもりだ? ここ七階だぞ? こんな高さから落ちたら、確実に死ぬぞ? それに俺達はまだ、お前に何があったか聞いていない」
「話す! 話すよ! けど、それなら後でもいいでしょ!? 僕は急いで白金の腕輪を手に入れる必要があるんだ!」
僕は雄二に怒鳴りながら、真剣に魔法を使って突破しようか? とも考えたが
「ここは病院だよ! 少しは静かにおし!」
このタイミングでババア現れ、その試みは失敗に終わる。
ちっ! また邪魔が入ったか‥‥‥
「吉井、お前が帰ってくると、直ぐに賑やかになるんだな‥‥‥‥‥‥」
あ、鉄人もいたんだ‥‥‥‥‥
どうやら、魔法を使う選択肢を無くして正解だったようだ。
なんとなくだけど、鉄人なら本気の魔法を使った攻撃でも耐えそうだし‥‥‥‥‥
「で? これは何の騒ぎなんだい?」
「それが、‥‥‥‥実は明久君が‥‥‥‥‥」
ババアの質問に律儀に答える姫路さん。
まぁ、僕がババアに白金の腕輪を返してくれるように頼む必要がなくなったし、丁度いいかな?
なんて思ってたんだけど
「なんだい、そんな事かい? 吉井、それなら暴れる必要はないよ。どうせ白金の腕輪をアンタに渡すつもりはないしね」
ババアは返してくれる気はないとか言い出した。
ふむ。つまり、僕の手元には白金の腕輪は返ってこないと‥‥‥‥‥‥
「なんで!?」
なんでそんな事になってるの!?
それじゃあ、”向こう”の世界に帰れないじゃないか!!
「吉井、お前は相変わらずバカなようだな‥‥‥‥いいか!? 生徒が一人、危険な目に合ってるんだ。そんな危険な物を簡単に生徒に渡すわけがないだろうが?」
「おのれ鉄人! 僕の邪魔をする気だな!? いつも生徒に補習と言う名の地獄に強制連行するくせに、なんて言い草だ! 白金の腕輪を使うより、鉄人の補習の方が命に危険がある位だから、白金の腕輪を使う位、別に危険なんてないよ!!」
「そう言う事は、今の自分の格好を見て言うんだね」
今の僕の格好?
場所→病院。
体→包帯だらけ。
‥‥‥‥‥包帯が邪魔だな。
僕はババアにそう言われて、包帯を全部外してから
「別に変な所なんてないじゃないですか!!」
別に問題なんてないと主張する。
「‥‥‥‥‥なら、頭から流れてる血をどうにかしたらどうなんだい?」
くっ! 一々面倒なババアだな。
血を直ぐに止める方法‥‥‥‥何かあったけ?
くそ! 直ぐに思いつかない! 仕方がない最終手段だ! 人に頼らせてもらおう!
「雄二!」
「今回はババアの味方だ」
‥‥‥‥そうだった。今この場にいる人達は皆、僕の敵なんだった‥‥‥‥
「とにかく! 吉井、アンタは包帯を巻きなおして、今日一日は医者に言われた通り、大人しくしてな」
そう言って、ババアは鉄人を置いて、一人帰って行った‥‥‥‥‥‥って
「ちょっと待てババア! 鉄人も一緒に連れて帰れ!」
どうしてババアは一人で帰ってるんだ!?
鉄人と一緒に来たんだから、鉄人も連れて帰ってよ!
「ああ。要件を言うのを忘れてたね。今夜は西村先生にアンタの見張りをしてもらうから、余計な事は考えるんじゃないよ?」
なんて恐ろしい事を言いだすんだ、このババア!!
鉄人を置いて行く? じゃあ、僕は今日一日、鉄人と過ごさないといけないって事!?
そんなの‥‥‥無理だ!
こうなれば、皆にもギリギリまで一緒にいてもらうしか
「まぁ、西村先生が隣にいたんじゃ、アキは寝るしかないわよね」
「明久君、明日皆で迎えに来ますから、今日は一日大人しくしていてくださいね?」
「‥‥‥‥お大事に」
「わし等がここにいたら、明久はゆっくり休めんじゃろうからな。わし等も学園長と一緒に帰るとするかの」
「ああ。良く考えれば学校を早退するのは良くないしな。明久、詳しい話は明日聞くからな?」
速攻で帰り支度をする皆。
どうやら、皆も鉄人と長い事一緒にいるのは嫌なようだ。
くっ! なんて薄情な! 僕は”向こう”で一度、鉄人と二人でサウナーに閉じ込められた、トラウマがあると言うのに‥‥‥!
「ん? なんだ? お前等も帰るのか? 俺に遠慮せずもう少し、吉井の見舞いをしてもいいんだぞ?」
そうだ鉄人! もっと言ってやれ!
と、僕が鉄人を応援してると
「とは言っても、吉井には居なかった間の補習があるから、喋る事はできないが」
そう言って鉄人は、カバンから大量のプリントを引っ張り出してくる。
え? なにそれ? そんなの聞いてないよ?
「だから帰ると言ってるんだ。邪魔するわけにはいかないからな」
「‥‥‥‥頑張れ」
「明日、退院する前に来るからの。それまで補習頑張るのじゃぞ?」
そんな! 待ってよ! 友達でしょ!? 僕を一人にしないでよ!
って言うか三人とも、と巻き込まれるのはごめんだって顔に書いてあるよ! この薄情者!
「ごめんなさい明久君。私も今日は帰ります。今日はお父さんとお母さんに早く帰るように言われているので‥‥‥‥‥」
「ウチも今日親が二人とも帰ってこないから、葉月が一人なの。だから今日は帰らないと」
姫路さんと美波は、本当に申し訳なさそうだな‥‥‥‥‥
二人は本当に用事があるんだろう。
「そうか。なら、気を付けて帰るように。吉井は俺がしっかり面倒を見てやろう」
できる事なら遠慮したいです。
「ほら、帰るならさっさとしな! ジャリども」
ババアに呼ばれた皆は、素直にババアに従い病室から出て行った。
いつもはババアのいう事なんて、全く聞かない雄二まで‥‥‥‥
「さ、皆も帰ったようだし、お前はこれから三か月分の補習だ。終わるまで寝させんぞ?」
こうして僕は、今日一日を鉄人と一対一で補習をして過ごす事となった。
とほほほ。こんな事してる場合じゃないのに‥‥‥‥‥‥