姉さんに知らされた僕の宿命。
それは”向こう”の世界でこれから過ごせと言う物だった‥‥‥‥‥‥‥
つまり、”こっち”の世界で元龍を蘇らせるなと言う事だ。
なるほど納得――できるわけない。
「ちょっと待って姉さん! それって本当の話なの!?」
「全て事実です。これは3か月前の話なんですが、私と父さんと母さんは吉井の本家に呼び出されました」
「まずそこからツッコませてもらうと、僕は本家の存在自体知らないんだけど‥‥‥‥‥‥?」
吉井本家なんて物があるなんて、なんだか由緒ある家柄のようでそこから信じられない。
「本家と言うのは、一族を管理する者達の集まりです。吉井として生まれた子は本家に報告されて、吉井の名簿に名前を載せる事になりますから、当然アキ君の名前もそこに載っています。ついでにアキ君の血も一緒に保存されてます」
僕の知らない所で名前が流出している。
これは日本の法律で守られている、個人情報保護法に反しているんじゃないだろうか?
と言うか、名前どころか血までって‥‥‥‥‥本家にはツッコミ所が多くて困る。
「本家に初代が残した、魔法のアイテムがいくつか保管されています。その中の一つに魔力探知と言う物があるのですが、そのアイテムの効果は名簿に名前が保存されている人物が、魔法を発動したら本家の者達に知らせると言う物です」
「つまり、そのアイテムの効果によって、僕が魔法を使った。つまり元龍の力に目覚めた事が判明したと」
「そう言う事です‥‥‥‥‥。アキ君に本家の事を教えなかったのは、初めて本家にアキ君を連れて行った時、本家の方たちが『この子は極度にバカなようだ。初代はとても聡明で賢い方だったそうだから、この子が力を目覚めさせる事はないだろう』と、言っていたので、アキ君は力に目覚めないと勝手に安心して、長い間黙っていたんです」
おかしい。
なんで僕は初めて本家に行った瞬間からバカだと決めつけられたのだろうか?
僕が覚えていないと言う事は、小さい頃の話なんだろうから、バカかどうかなんて分かるはずがないのに‥‥‥‥‥‥
と、僕がツッコミきれなくなってきて困っていると
「ちょ、ちょっと待って下さい! 玲さん!」
「それはつまり、明久君が一生”向こう”で暮らすって事ですよね!? 玲さんはそれでいいんですか!?」
美波と姫路さんが狼狽えながら、姉さんに迫っていた。
「それが吉井の家に生まれた者の責任です。今、私達がそれを無視すれば、今後も掟で苦しむ人達が増える事になります。それに、この責務から逃げれば将来、この力を悪用する人が現れる可能性もあります。世の中には極悪な人達も少なからずいますからね」
姉さんは表情を動かさず、そう言ってのける。
姉さんは僕とは違って、賢くて優秀な人だった。
だからこそ、これから先の平和な未来のため、掟で縛られた先祖たち、それら全ての事を理解して、どうするのが世のためなのかを考え、覚悟を決めていたのだろう。
けど、話の根本を覆すようで悪いんだけど
「ちょっと待ってよ、姉さん。僕は未だ”向こう”に行くために必要な道具を持ってないよ? 本家の人達はどうやって僕を”向こう”に行かせるつもりなの?」
幸か不幸か、現在僕は未だ腕輪を手に入れてないから、”向こう”に行く手段を持ち合わせていない。
まぁ、美波さえ説得できれば”向こう”と”こっち”を繋げるための道具、”白金の腕輪”は手に入るんだけど‥‥‥‥‥‥‥‥
「ああ、アキ君にはまだ言ってませんでしたね。いいですか? アキ君? ‥‥‥‥‥‥吉井が本気になれば国家だって動かせます」
ちょっと待ってほしい。
いくら何でも国家を動かせるって言うのは、おかしすぎると思う。
そんな事が出来るなんて、もはや家柄だけの権力だけでは不可能でしょ?
「そんな吉井が三日程前に、どうやったかは知りませんが、文月学園の学園長と接触して、確約を取り付けたそうです。その確約の内容は、『腕輪は直接アキ君に渡し、遅くとも今月中にはアキ君の手に腕輪が渡るようにする』と言う確約だったそうです‥‥‥‥」
三日前‥‥‥‥‥‥‥。僕が署名を集めだした日だな‥‥‥‥‥。
と言う事は、ババアは僕に署名を集めて来いと言い出した時から、この事を知っていた事になる。
‥‥‥‥‥‥ババアはいったい何を考えているんだ?
僕には署名を集めない限り、腕輪は返さないと言ってきたくせに、本家には遅くとも今月中に腕輪は僕に渡すって言うなんて言ってる事が滅茶苦茶だ‥‥‥‥‥‥
「因みに、アキ君が今やっている事も知っています。‥‥‥‥‥‥‥アキ君は今、署名活動をしていますよね? そして残りのメンバーは美波ちゃんただ一人ですね?」
「うん‥‥‥‥。姉さんの言う通りだよ」
別に隠すような事ではないので、僕は肯定した。
すると姉さんは
「ではここで、この話のそもそもの趣旨である、美波さんと瑞希さんにお話しがあると言う論点に戻ります」
そう言って、今までの話が長い前置きだったかのように話し出す。
いや、僕に取っては今までの話も結構重要だったように思うんだけど‥‥‥‥‥
「率直に言います。これから美波さんに危険が迫る事になります。美波さん、本当に危険ですので署名を早くしてしまって下さい。吉井の者が美波さんを襲う可能性があります」
姉さんは僕が肯定すると、直ぐに美波に話しかけて、署名をするように促した。
それも、とんでもない理由で‥‥‥‥‥‥
「ちょ、ちょっと待ってよ姉さん! それどういう事!? 分かるように説明してよ!」
「今、吉井の本家では、意見が二つに分かれています。穏便に事を進めたい派と、強硬手段を取ってでもアキ君を”向こう”に飛ばしたい派の二つの勢力の意見です。その強硬派が美波さんを襲う可能性が非常に高いのです」
‥‥‥‥‥‥またややこしい話になってきた。
二つの派閥とか、マンガみたいな事は本当に止めて欲しい。
訳が分からなくなる‥‥‥‥‥
「穏便派は学園に確約を貰った人達で、今月中に事が済むならそれでいいと考えている人達ですが、強硬派は最悪アキ君に事情を話さずに、”向こう”の世界に閉じ込める事も考慮に入れていた連中です。そんな人達が後美波さんだけ、署名すればアキ君を”向こう”に飛ばせると知れば、美波さんに被害を与えてでも何とか早く事を片付けようとするでしょう」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥つまり、その強硬派が美波に危害を加えるかもしれないって事?」
「その通りです。良く分かりましたね? 姉さんは正直、今とても驚いています」
うるさいな! 僕はバカだからイマイチ細かい事は分からなかったけど、この事だけは何となく理解できたんだよ!
「そう言うわけなので、美波さん。早く署名して、この件から手を引いて下さい。吉井の家の問題で、アキ君の友人に迷惑を掛けたくないんです」
再び姉さんが美波に署名の催促をする。
その様子から美波を真剣に心配しているのが良く分かった。
僕も、僕自身の問題で美波に被害が出るなんて考えたくないけど、美波はきっと姉さんの考えを良しとはしないだろう。
「お気遣いありがとうございます。でも、その話を聞いた以上署名するわけには行きません!」
「なっ!? どうしてです!? このままだと美波さん自身が危険なんですよ!?」
「分かってます! けど、ウチが署名したらアキは二度と戻ってこないんですよね? そんなの認められるわけないじゃないですか! それはつまり、アキ一人を犠牲にするって事ですよね!?」
「犠牲ではありませんよ? アキ君は死ぬわけではありません。むしろ、魔法の分化が確立している場所で、正しい魔法の使い方を勉強する事で、アキ君が自身の力を自由に使いこなせるようになります。使いこなせない力は害にしかなりませんので、そう意味ではアキ君のためとも言えます」
確かに、姉さんの言う事は正論だ。
使いこなせない力は害。
全く持ってその通りだと思う。
実際、僕はなのはに正しい魔法の使い方を教えてもらったし、それを実践でも活かせるように隊長陣に模擬戦で容赦なくボロボロにされたおかげで、僕は魔法を普通に使えるようになったんだ。
”向こう”で魔法の事を勉強する事が僕のためだって事は間違ってはない。
けど、
「悪いけど姉さん。僕は二度と”こっち”に戻らないなんて選択をするつもりはないよ? もちろん、”向こう”でやらないといけない事があるから、一度は”向こう”に行く。”向こう”には僕の大切な人達が大勢いるから、一生”向こう”で暮らせって言うのも拒否したりはしない。けど、”こっち”にだって大切な人達が大勢いるんだ! ”こっち”の世界だって捨てられないんだ!」
僕はどちらかの世界を選ぶ事なんてできない。
両方とも、僕に取っては大切な場所なんだから‥‥‥‥‥
「アキ君、矛盾してますよ? ”向こう”で一生を過ごす事を拒否しないなら、”こっち”にはもう戻らないと言う事になるんですよ?」
「戸籍上はね。けど、この世界に旅行しに来る事は禁じられてないはずだ。初代の望みは”こっち”の世界に魔法の力を残さない事でしょ? 普段は”向こう”で生活して、たまに”こっち”に遊びに来るだけなら初代の望みには反しないでしょ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
姉さんは僕の言葉を聞いて無言で熟考していた。
どうやら、僕の考えを姉さんは考えた事が無いようで、今初めて考えたようだ‥‥‥‥
姉さんが僕の考えが可能かどうかを考えだして数分。
僕が姉さんの結論を待って緊張しながら審判を待っていると
「アキ君。アナタは意外とこういう事に関しては頭が回る子だったんですね? 姉さんは生まれて初めて、本当はアキ君がバカではないのかもしれないと思いましたよ」
言い方が凄いあれだけど、このいい方はつまり
「さっそく本家にこれで納得してもらえるように動きましょう」
僕は両方の世界を捨てなくても良いって事になったようだ。
ただ、ひとつだけ気になる事ができてしまった。
「姉さん一人で大丈夫なの? 話を聞いた限りでは本家って酷いイメージしか湧かなかったんだけど‥‥‥‥‥‥」
姉さんは認めてくれたけど、本家はこれを拒否するかもしれない。
そうなれば、強硬派とやらが姉さんに危害を加えるかもしれないのだ。
それが唯一心配だった。のだが
「ふふふ。大丈夫ですよ。一度は私からアキ君を奪おうとした連中です。姉さんが手加減してあげる道理も義務もないですから、納得しない連中や、襲撃してくる連中にはしっかりとO☆HA☆NA☆SHIしますから♡」
今の姉さんが纏っているドス暗い雰囲気と、言葉を聞いて、心配する内容が変わってしまった。
(どうか姉さんがやりすぎませんように‥‥‥‥‥‥‥)
「さて、では姉さんは早速行ってきます。明日の朝には帰って来れるようにします。一度”向こう”に行くつもりなら、私が帰ってきてからにしてくださいね?」
姉さんは頼みごとを――いや、従わなければ酷い目に会わすと言う脅迫にも等しい言葉を残して、本家を目指して家を出て行ってしまった。
結果、この家に残されたのは僕と姫路さんと美波の三人だけとなってしまった‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
僕達の間に流れる長い沈黙。
おい。姉さん。
出て行くなら、この空気をどうにかしてから出て行ってよ‥‥‥‥‥‥。
こんな空気だと、残された僕等が困っちゃうでしょ?
なんて、心の中で呟いてみてもこの場の空気が変わるなんて事はなかった。
当たり前だけど‥‥‥‥‥‥‥
「そ、そう言えば、玲さんは私達にお話しがあるって言ってましたけど、なんだったんでしょうね?」
遂にこの空気に耐えられなくなった姫路さんが、一番最初に口を開いた。
「そう言えば、そんな事を言われて連れて来られたんだっけ? ‥‥‥‥‥ウチに話って言うのは、多分署名の事だろうけど、瑞希に話って言うのは何だったのかしら?」
「多分、姫路さんには美波を説得するのを手伝って欲しかったんじゃないかな? さっきまでの姉さんの口ぶりだと、本当に美波は危害を加えられる危険があったみたいだし‥‥‥‥‥‥」
もし美波が拒否しても、仲の良い美波の言う事なら少しは聞く耳を持つかもしれないと言う、計算だったように思う。
そう考えれば、雄二達は呼ばずに2人だけを呼んだのにも納得がいくし、ほぼ間違いないだろう。
それよりも分からないのは
「ババアの奴は何を考えて、この署名を集めろなんて言い出したんだろう?」
これが一番の謎だった。
吉井には絶対に腕輪は僕に渡すと言っておきながら、僕には署名が集まらなかったら腕輪は渡さないと言ってきた。
もの凄い矛盾だ。
遂にボケたんだろうか?
「学園長先生は、明久君に署名を集めれば腕輪を返してくれると約束したんですよね?」
「うん。正確には使用許可を出すって言ってたけど‥‥‥‥‥」
まぁ、どちらにせよ意味は大して変わらないが‥‥‥‥‥‥
「なら学園長先生は、アキが少なくと今月中には絶対にウチ等の署名を集められるって思ってたんじゃない?」
なるほど。最終的には絶対に集められるって思っておきながら、直ぐには渡さなかったと。
僕は直ぐに必要だったのに‥‥‥‥‥‥‥
要するにそれは
「あのくそババアァ~。いつか魚のエサにしてやる!」
僕に嫌がらせをするために、こんな手の込んだ事を計画をしたって事だな!?
あのくそババア、許すまじっ!
「なんでそうなるのよ‥‥‥‥‥‥‥」
「明久君の思考回路は良く分かりません‥‥‥‥‥」
何故か二人に呆れられてしまった。
なんで? 僕はババアに復讐しようとしただけなのに‥‥‥‥‥‥
「まぁ、学園長先生の話は、明日本人に聞いてみましょ? 今あれこれ推測しても、真実は本人にしか分からないんだから」
「それもそうだね。美波の言う通り、今考えてもババアに対する怒りが収まらなくなるだけだし、今は考えるのは止めておこう」
無駄にババアの考えなんかを考えていたら、今夜、夢にまでババアが出てきそうだ。
それだけは本気で勘弁したい。寝付けなくて明日確実に寝不足になるから。
「じゃあ、はいこれ。確かに渡したわよ? アキ」
ババアが夢に出てきた時の事を想像して、気持ち悪さから来る吐き気と、恐怖から来る震えを感じていると、美波から紙を渡される。
僕が美波から受け取った紙を確認すると、そこには
『清水美春、久保利光、工藤愛子、木下優子、霧島翔子、坂本雄二、土屋康太、木下秀吉、姫路瑞希、島田美波』
と、書かれていた。
「ま、まぁ、アキをこれ以上イジメても面白くないし、アキは”向こう”で死ぬ気もないみたいだし、今回は”向こう”に行っても、帰って来るみたいだし、皆もアキに協力して、ウチだけ一人反対しても仲間外れみたいで、嫌だから、その、気まぐれよ! 感謝しなさいよね!」
「美波‥‥‥‥‥‥。ありがとう‥‥‥‥‥」
なにやら色々と理由を述べた美波だけど、美波も署名してくれたので、これで全員分の署名が集まった事になる。
要はこれで”向こう”にヴィヴィオを救いに行けると言う事だ。
「べ、別にアキのためってわけじゃないわよ‥‥‥‥‥‥。さっきも言ったけど、これは気まぐれよ! どうせ今、署名してもしなくても、アキは本家に逆らう気がないみたいだから、いつかは”向こう”に行くんでしょ? だったら、アキは一度言い出したら聞かないんだし、自由に女の子を助けてくれば良いと思っただけよ‥‥‥‥‥‥‥」
何やら、またもや署名してくれた理由が増えたような気がするけど、言うのは止めておこう。
美波が署名してくれた理由よりも、大切な事は美波が僕に協力してくれたと言う事なんだから。
「美波、ありがとう。どんな理由であれ、協力したくれた事に感謝するよ。それに姫路さんも僕を助けてくれてありがとう」
‥‥‥‥‥‥今日一日でFクラスの皆からいっぺんに署名をもらったり、姉さんが帰って来た事から始まった嵐が起こったり、色々ととんでもない話を聞かされたりと、かなり疲れる事になったけど、これで何とかババアに出された条件はクリアしたのだ。
その事も含めて、僕は感謝の言葉を口にした。
こうして、条件をクリアした最終日は嵐のような日だったけど、無事に終わりを迎えたのだった。