全員から署名を集め終わった日の翌日。
僕は登校するなり、ババアに会うために学園長室を訪れていた。
「――と言うわけで、署名は集め終わったから腕輪を返せババア」
「何がと言うわけだよ。なんで朝一番にアンタの顔を見て、ババア呼ばわりされなきゃならないんだい‥‥‥‥」
僕だって、できる事なら醜い妖怪の顔なんて見たくない。
けど、ババアに会わないと腕輪が手に入らないから僕だって我慢してるんだ。
一人だけ被害者面は止めてもらいたい。
「それで? 全員分集まったと言う事は、少しは人の気持ちを理解したのかい?」
「まぁ、僕が皆に心配を掛けていた事は理解しましたよ‥‥‥‥‥‥‥‥」
最初ババアに条件を突きつけられた時は、何でこんな面倒な事をしないといけないのか? と不満タラタラだったけど、結果的には僕が皆に心配を掛けている事を教えられる事になった。
そう言う意味では、人の気持ちを少しは理解できたと言えるだろう。
「そいつが理解できたなら、アンタにしては上出来だね。‥‥‥‥‥‥世の中ってのは、自分一人が優秀だったり、自分一人が命を懸ければ、強く生きて行けるわけじゃない。人に支えられて、人の気持ちを知り、協力し合って生きて行くもんさね」
ババアが何やら語りだした。
話の内容は全然分からないけど‥‥‥‥‥‥‥‥
「ん? つまりどういう事?」
「つまりだな。帰って来たばかりの頃のお前は、『何が何でも、どんな事をしても、どんな犠牲を払おうとも、自分が女の子を助けなければならない』と気負っていたから、学園長はお前に『何でも一人で解決しようとする必要はない。お前が女の子を助けたいと願うように、お前の事を心配して、大切に思ってくれている人がいるんだから、自分の命を軽く見るな』と言うのを伝えたかったわけだ。お前が無茶をして死ねば、悲しむ人がいると言う事を忘れるなと言う事だ」
僕がババアの良く分からない事に疑問符を浮かべると、そこに鉄人が入ってきて、解説をしてくれる。
入った時は気付かなかったけど、どうやら最初から学園長室にいたようだ‥‥‥‥‥‥
まぁ、そんなわけで、僕が疑問符を浮かべてるのに気付いた鉄人が僕に解説してくれたけど
「もっと簡単に言うと?」
鉄人の解説でも良く分からなかった。
「‥‥‥‥‥‥恐ろしく噛み砕くとだな。人の気持ちを考えずに、自分の命を躊躇なく捨てる奴は犬死にするだけだから、他人の気持ちを理解できないなら行くな! と言う事だ」
要するに、ババアは僕が犬死しそうな勢いだったから雄二達と話をさせて、命の大切さと、僕の事を心配してくれる人がいる事を伝えようとしたって事?
そんな‥‥‥‥‥‥それだとまるで
「そんなバカな‥‥‥‥‥‥。それだとまるで、ババアが凄い良い人みたいじゃないですか‥‥‥‥‥‥」
「失礼な奴だね。アタシからしたら、アンタがアタシの事をなんで良い人じゃないと思ってるのか不思議なくらいだよ」
「いや、それは普通でしょ? ババアなんだし」
「表情を全く変えずに言うのは止めな。冗談に聞こえないよ」
そりゃ冗談じゃないんだから、当然だ。
まぁ、ババアが本当は良い人なのか、悪人なのかは正直どっちでもいいから置いておいて。
「そんな事より、条件をクリアしたんですから、早く腕輪を返して下さい」
「アタシに取っては重要な事なんだけどね‥‥‥‥‥‥‥‥。まぁ、アンタの家の人間からも渡すように脅されてるしね、そんなに欲しけりゃくれてやるさね」
そう言ってババアは机の引き出しから”白金の腕輪”を取り出して僕に向かって投げてきた。
イキナリ投げられた腕輪に反応が遅れて、僕は少しばかり取るのに焦ったが、何とか空中で腕輪を取る事が出来た。
「ちょ!? もっと大事に扱って下さいよ! 壊れたらどう責任を取ってくれるんです!?」
「そん時はアンタの家の連中に直してもらいな。アタシが知ったのも、ついこの間の事だけどね、アンタの家があんなにデカイとは知らなかったよ? アンタの家の連中なら、これを持っていたら直せるだろうさ。なにせ、この学園のスポンサー全員と関係を持ってるみたいだからね」
何故かババアは不機嫌そうにそう言って、僕の家の事(おそらくは本家の事だろう)を話し出した。
「アンタの家の人間が、学園のスポンサーをしてくれている人達からの手紙を持ってきた時には驚いたよ。なにせ、全員が『吉井の人間の頼みを聞かないなら、スポンサーを降りる』なんて言い出したんだからね」
なるほど、それでババアは吉井の頼みで、腕輪を僕に渡す事を強制させられたのか‥‥‥‥‥‥‥
で、僕にはさっき言ってた事を分からせるために、あんな事を言った。と‥‥‥‥‥‥
「アタシはこの学園が開校してから、ずっと学園長をやってるけどね、こんな事になったのは初めてだよ」
それは、その、なんというか、申し訳ないです‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ただ、弁解させてもらうと、僕が吉井家にそんな力がある事を知ったのは昨日なので、僕はその事については一切知りませんでした。
「まったく。今後、こういう面倒な事をしてくるのは止めて欲しいもんさね」
「ババアと一緒とか凄く遺憾ですけど、珍しく気が合いますね」
ホント、こんな風に手を回してくるとか、人としてどうなんだろう?
「なら、アンタの方から家の連中に言っておいてくれると、アタシとしても嬉しんだけどね」
ババアのためと聞くと、やる気が無くなってきた‥‥‥‥‥‥‥
「まぁ、今後の学園のために宜しく頼むさね。それと、ちゃんと、アンタに腕輪は渡したから、それも本家の連中に報告するんだよ?」
「はいはい。分かってますよ」
ババアは別にどうなってもいいけど、学園に被害が出ると困るし、ちゃんと両方とも言っておくとするか。
「じゃあ、もう用事は済んだので、僕は失礼しますね?」
「伝える事はちゃんと伝えるんだよ」
ババアは僕が部屋から出て行く直前まで、僕に念を押してきた。
どんだけ本気なんだよ、このババア‥‥‥‥‥‥
☆
僕が教室に戻ると、そこには署名に協力してくれた皆が集まっていた。
「あれ? Aクラスの皆までいるけど、どうかしたの?」
ついでに美波の横にはAクラスでも、Fクラスでもない清水さんもいるけど‥‥‥‥‥‥‥
「どうかしたの? じゃねえよバカ」
会って早々、雄二にバカ呼ばわりされた。
なんで一発目はババア。二発目は鉄人ときて、三人目が雄二なんだろう?
今日は僕、不幸な日なんだろうか?
「今朝、登校中に島田さんと会って話を聞いたら、昨日の内に署名をした。と言う話を聞いたんだよ」
「島田さんが署名したなら、吉井君が集めてる署名は全員集まったって事でしょ?」
「なら、吉井君は”向こう”に行こうとするだろうから、その見送りでもしようと思ってきたんだ♪」
久保君と木下さん、工藤さんの三人が分かりやすく丁寧に説明してくれた。
なるほど。皆は僕の見送りのために来てくれた。と
「‥‥‥‥‥雄二、今夜は私の家で泊まって行ってほしい」
「断固拒否する!!」
「お姉さま~。今なら保健室は無人のはずです。美春と一緒に愛を語らいましょう!」
「いや――!! こないで――!!」
若干二名程、目的が違う気がするけど、それは黙っておこう。
邪魔すると、後が怖い‥‥‥‥‥
「まぁ、わしらは元々、ここが教室じゃしのう」
「‥‥‥‥‥‥普段通り」
「もちろん、明久君が”向こう”に行く時は見送りに行きますけどね?」
うん。Fクラスの皆はいつも通りだね。
雄二と美波が襲われてるのも含めて。
「それで、明久よ。実際にはいつ”向こう”に行くつもりなのじゃ? お主の事じゃから、腕輪を手に入れたら直ぐに使うと思っておったのじゃが‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥不思議」
「ああ。それなら姉さんが来たら、直ぐに行くつもりだよ?」
姉さんに脅迫されてなければ、今すぐにでも出発してただろうけど、姉さんには昨日待っているように脅迫されたから、僕は姉さんを待ってからしか行動できない。
もし、姉さんを無視すれば、何をされるか分かったもんじゃないんだから‥‥‥‥‥‥‥
「なんと、玲さんまで知っておったとは意外じゃな」
「‥‥‥‥‥‥明久なら玲さんには黙っていると思っていた」
「まぁ、色々と事情があってね? 姉さんとは昨日話したんだ」
もっとも、姉さんは最初から知ってたみたいで、僕が色々教えられた側なんだけどね?
秀吉もムッツリーニも姉さんの事を知らなかった事から察するに、姫路さんも美波も昨日の姉さんの話は話していないようだ。
まぁ、姉さんが口止めしてたから、当然と言えば当然なんだけど‥‥‥‥‥‥‥
「昨日話したと言う事は、昨日はやはり嵐になったのじゃな」
「‥‥‥‥‥‥ご愁傷様」
二人は姉さんの話を持ち出しただけで、嵐と言う単語を直ぐに引っ張ってきた。
確かに、昨日帰り際に、嵐、嵐と言っていたから、直ぐに出てくるのは分かるけど、姉さんの名前だけで嵐が浮かんだのは、決して昨日の話のせいだけではないだろう。
きっと姉さんの存在そのものが嵐だという認識をされているんだろう。
無論その解釈は間違っているとは思えないから、否定はしない。
そして、二人の言う通り、昨日は家に帰った瞬間に嵐に巻き込まれたよ‥‥‥‥‥‥‥。
「で? 嵐は収まったのか?」
霧島さんをどうにかおとなしくさせた雄二が僕等の会話に戻ってきた。
なぜか雄二は下半身だけクールビズしてるのか、下着一枚の姿になってるけど‥‥‥‥‥‥
「うん。被害は甚大だったけど、なんとか収まったよ?」
世界史の教科書が見つかったり、なぜか僕が寝ている間に女装させられていた写真が出てきたりと、首の関節が外れたり、姉さんと姫路さんの合作料理を食べさせられそうになったり、挙句の果てには今まで知らなかった家の事とか教えられたりと、僕の名誉、尊厳、肉体、精神、と立て続けにダメージを負わされたけど、一応は収まったと思う。
「なら、なんでお前の姉さんはリムジンなんかで学校にまで来てるんだ? お前の見送りにしちゃ半端ない規模だぞ?」
そう言って、雄二は校門の前に目を向けていた。
僕が雄二の目の先に映っているものを確認すると、そこには一台のリムジン車と、四台の黒い車が止まっていた。
校門に止まった黒い車から、サングラスを掛けた強面っぽい黒服の男達が、それぞれの車から四人ずつ降りて、辺りを警戒した後、リムジンへと近づきリムジンのドアを開けると
「ね、姉さん!?」
驚いた事にリムジンの中から、僕等よりも少し幼く見える金髪の少女と一緒に、姉さんまで降りてきた。
しかも、先程の黒服達に守られているような立ち位置でだ。
「ちょ、ちょっと急用ができたみたい!!」
僕は騒ぎになる前に‥‥‥‥‥‥‥もう手遅れかもだけど、目立つ事は止めさせようと姉さんの下へと向かって、もうダッシュした。
「あ、おい明久!」
僕が教室を飛び出した時、後ろで雄二が何か叫んでいるような気がしたけど、そんなのは無視だ。
今はそれどころじゃない。
姉さんはいったい何を考えてるんだ!?
確かに昨日出かける時に、今日の朝には帰ってくるって言ってたけど、まさかこんな風に帰って来るとは全く思わなかった。
僕はダッシュで校門の前に着くと、直ぐに姉さんに文句を言い放つ。
「ちょっと姉さん!! なんでこんな目立つ事をしてるのさ!? 皆が見てて凄い目立ってるよ!?」
「ああ、これはアキ君。おはようございます」
姉さんは落ち着いた様子で、僕に朝の挨拶をしてくる。
「あ、おはよう姉さん。‥‥‥‥‥‥‥‥‥ってちっが―――――――う!!」
どうして僕は姉さんに釣られて暢気に挨拶なんてしてるんだ!?
今は暢気に挨拶なんてしてる場合じゃないんだ!
「姉さんはいったい何をしてるのさ!? こんな目立つ車で学校にまで来るなんて、どんな神経をしてるのか不思議で仕方がないよ!!」
「? 何をそんなに怒っているのいるのですか? アキ君? 昨日姉さんは本家の所に行くと言いましたよね? そして朝には帰って来れるようにするとも言いましたよね? 姉さんはアキ君との約束を守っただけですよ?」
「確かにそう言ってたけど、まさかこんな車で帰って来るとは思いもしなかったんだよ‥‥‥‥‥‥」
約束を守るにしても、もう少しやり方を選んでほしかった。
こんな車で帰ってきて、学校に乗り込んでくるなんて、恥ずかしくてしょうがないよ‥‥‥‥‥‥‥‥
「あのー‥‥‥‥‥玲さん? その子が明久さんですか?」
僕が姉さんの行動に恥ずかしがっていると、姉さんと一緒にリムジンに乗っていた金髪の女の子が姉さんに遠慮がちに声を掛けた。
と言うか、今まで姉さんの相手をするのに忙しくて、気にもしなかったけど、この金髪の女の子は凄い可愛い子だった。
けど、気のせいだろうか? この事は一度会った事があるような気がする――と言うより、誰かに似ているような‥‥‥‥‥‥‥?
「ああ。すみません。紹介がまだでしたね。このバカみたいな顔をしているのが弟の吉井明久です」
僕が金髪の女の子が誰に似ているのか考えていると、姉さんはこの女の子に僕の紹介をしてしまった。
僕はイキナリの紹介に慌てて返事をするが、その挨拶は急だったせいもあり、僕は月並みな挨拶しかできなかった。
「は、初めまして。よ、吉井明久です」
「初めまして、明久さん。私は吉井穂海と言います」
穂海と名乗ったこの子は、丁寧に挨拶をしてくれる。
名前が吉井だし、姉さんが本家に行って、次の日に連れてきた人なんだから、まず間違いなくこの人も本家の人なんだろう。
と言うか、名前もどこかで聞いた事があるような‥‥‥‥‥‥‥‥?
「アキ君。この方はまだ中学生ですが、吉井の当主を務めるお方です。粗相のないようにして下さい」
「へぇ~。中学生なんだ。どうりで少し幼い気がした、よ?」
ん? 今、姉さんはなんて言った?
あまりにも軽過ぎて、思わずスルーしてしまったけど、今、当主って言わなかった?
ん?
「当主!?」
中学生が!? 僕より年下じゃん!!
「あ、はい。父も母も既に他界してしまったので、私が当主をやらせてもらってます。と言っても、次期当主は前当主の長子が受け継ぐ事になっているからと言う理由なんですけどね?」
それでも、その年で当主をやってるなんて凄い事だと思う。
「こんな事を仰られていますが、この方の命令一つで会社や学校なんかの一つや二つは一瞬で潰れてしまいますので、失礼な事をしてはいけませんよ? アキ君」
「マジで!?」
中学生の命令で学校が潰れるとか、どんな社会なんだ? 今の世の中‥‥‥‥‥‥‥‥
「あ、あの‥‥‥‥そんな事しないので、そんな心配しないで下さい‥‥‥‥‥‥‥。会社や学校が潰れたら困る人が大勢出ちゃうのは私でも分かっていますので‥‥‥‥‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥潰す気がないのは分かったけど、力がないと否定しない辺りが本当に恐ろしい‥‥‥‥‥‥‥‥
「それに、もうじきそんな力もなくなって、吉井の家は普通の家に戻る事になりますしね?」
「え? そうなの?」
別に吉井の力には興味がないけど、それはつまり権力を無くすと言う意味でしょ?
正直、一度力を持った人達は、力を失う事を良しとしないと思ってたから、この情報は意外だった。
「はい。元々吉井が力を持った理由は魔法が原因でしたので、魔法が無くなれば力を失うのも自然な事です」
要するに僕が魔法の力ごと”向こう”に全部持っていけば、今後は誰も吉井のせいで傷つく事はないって事だよね?
「明久さん一人を犠牲にして、この世界の秩序を正すみたいで、申し訳ないんですけど‥‥‥‥‥‥‥」
「ああ。それは気にしないで。それは納得積みだから。‥‥‥‥‥‥‥ただ、せめて高校くらいは卒業させてもらいたいんだけど‥‥‥‥‥」
「ああ、はい。その辺りは大丈夫です。明久さんが”こっち”で血を残さなければ何ら問題ないので、男性が結婚できる18歳までは”こちら”で過ごしていただいても大丈夫ですから、高校は卒業できますよ」
「もちろん、留年したりしたら、卒業できませんけどね?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥どうしよう?
なぜか姉さんの言った事が冗談に聞こえない‥‥‥‥‥‥。
大丈夫だよね? 僕は留年なんてしないよね‥‥‥‥‥‥‥?
と、僕がちゃんと卒業できるか不安になっていると、穂海ちゃんの下に黒服の一人が近づいてきて、声を掛けた。
「お嬢様。これ以上は他の生徒の邪魔になります」
黒服にそう言われた穂海ちゃんが周りを見渡すと、僕等の周りには黒服の男達が立っていて、誰も近づけないようにされていた。
要は、僕等に皆が近づけないようにされて、話し声も皆には聞こえないようにガードされていた。
考えてみれば、僕が穂海ちゃんみたいな可愛い子と学校で話しているのに、FFF団が襲ってこないのも変な話だったのだが、ボディガードに邪魔されていたようだ。
良く見ると、倒れている生徒がチラホラと見られる。おそらく全員FFF団だろう。
「そうですね。学校に遅れる事は伝えてありますけど休むわけには行かないですし、それに何より通行の人の邪魔になるのはいけませんからね」
そもそもリムジンなんかで来なければ、こんな騒ぎになる事はなかったんだけど‥‥‥‥‥‥って、元々場所を移動してもらおうと、ここまで来たのに一緒に話してた僕が言えた事じゃないか‥‥‥‥‥‥
「それでは明久さん。またお会いする事になると思いますが、今日はこの辺で失礼させてもらいますね」
「あ、うん。今日はわざわざ来てくれてありがとう」
穂海ちゃんは笑顔で挨拶をして、この場をさろうと車に乗り込もうとしていたんだけど
「穂海さん? まだ、穂海さんがここに来た本当の目的が終わっていませんよ?」
「あ、そうでした。私とした事が、明久さんに会っただけで目的を果たした気になってしまってました」
姉さんが穂海ちゃんを引き止めて、穂海ちゃんはそう言って、笑いながら再び僕に近づいてきた。
どうやら、ここに来た理由は僕に会う事以外にあったようだ。
「明久さん。玲さんから話は全て聞いているので知ってるんですが、アナタはこれから”向こう”に戦いに行くんですよね?」
‥‥‥‥‥‥ホントこの子は凄いな。
そんな事まで知ってるなんて、正直驚きだ。
この話は個人的な物で、吉井は全く関係ないのに‥‥‥‥‥‥
「戦いに行くなら、明久さんに渡さないといけない物があります」
そう言って、穂海ちゃんは黒服の一人に車から箱を持ってこさせて、それを僕に渡してきた。
「初代ご先祖様の話は玲さんから聞いてますよね?」
「‥‥‥‥‥‥‥一応は聞きました‥‥‥‥‥‥‥」
完全に理解しているか? と聞かれたら、答えを濁してしまう程度には‥‥‥‥‥‥
「なら、初代が一度は力を封印しようとしたのも知ってると思うですけど」
あー‥‥‥‥‥‥うん。
そんな事を言ってた気がする。
「確か、力を封印しようとしたら、血を全部封印しないとダメだって気づいて、力の一部だけ封印したんだよね‥‥‥‥‥‥?」
凄い自信ないけど、確かそんな話だったと思う。
「はい。その通りです。初代様が力の一部を封印して以来、その力はずっと封印されたままなんですが、これから戦いに行かれる明久さんに取っては、その封印は邪魔にしかならないですよね? この中に入っている団子を食べれば、封印が解かれますので明久にお渡ししておきます」
「封印を解く‥‥‥‥‥‥って、そんな便利な物があるの?」
封印した割に、それを直ぐに解ける便利アイテムが残ってるなんて、初代はなんのために力を封印したんだろうか‥‥‥‥‥?
「一応、これは家宝なんですけど、今も尚残っている書物によれば、『これは力を目覚めさせた子孫が必要ならば、自由に使わせろ』という物があるので、明久さんに渡します。と言うか、過去に『これを食べたら魔法が使えるようになるんじゃないか?』と言いだして、凄い騒ぎになった事があるみたいで、禍の下ですから貰って下さい」
それはつまり、この団子が迷惑だから、僕に処理しろと?
まぁ、力が封印されているのを解けるって話だから、僕に取っては邪魔にはならないはずだ。
一応、貰っておこう。
「それでは今度こそ私はこれで失礼しますね」
そう言って穂海ちゃんは車に乗り込んで、今度こそ帰って行った‥‥‥‥‥‥
ついでに姉さんも穂海ちゃんと一緒に車に乗り込んで、この場に今までの騒動の関係者は僕一人になってしまった。
「‥‥‥‥‥‥‥」
「さて、吉井」
穂海ちゃんと姉さんが去った後、僕は色々と質問されるのは覚悟してたんだけど、イキナリ忘れたくても忘れられない野太い声に話しかけられるのは、ちょっと予想してなかったな‥‥‥‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥なんでしょうか? 鉄――西村先生‥‥‥‥‥‥‥」
「そこで鉄人と言わなかっただけ少しはマシになったが、お前は授業と言う物を知っているか?」
僕は鉄人にそんな事を言われてから、時計を見て時間を確認すると、もう一時間目の授業がとっくに始めている時間どころか、終わりそうな時間になっていた。
考えてみれば、朝の時間なんて物は短いのに、最初はババア、鉄人と話して、次に教室では皆と話してから、最後は姉さん達との会話。
これだけ色んな人と会話をすれば、かなり時間が経って、授業の時間が始まっているのは当たり前の事だ。
そして僕の担任は鉄人だ。
つまり、僕は鉄人の授業をサボったと言う事になる‥‥‥‥‥‥
「いや、その、これは姉さん達の来るタイミングが‥‥‥‥‥‥」
「言い訳はそれだけか? 保護者や来賓の方々が来た時は、用のある生徒を個別に呼ぶ事くらいお前も知っているだろう?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
僕は何も鉄人に言い返す事が出来なかった。
僕が記憶を辿ってみて、姉さんに呼ばれた記憶も学校に呼ばれた記憶も僕にはない。
それどころか、自分からこの騒ぎの真ん中に来た記憶しか僕にはなかった‥‥‥‥‥‥
「吉井!! 罰として今からお前は補習だ! 他の者は直ちに教室に戻れ!!」
僕等の事を遠巻きに見ていた生徒たちは、鉄人の一括を聞いて直ぐにそれぞれの教室へ戻って行ったのだが、僕だけは鉄人に捕まったままだった。
「嫌だ――――!! 僕だけ補習なんて理不尽だ――!」
「お前の思慮が足りないから、こんな事態に陥ったんだろうが! 責任はちゃんと取れ!」
僕の抵抗は空しく、僕は一人だけ補習室へと連行された。
せっかく腕輪を返してもらって、穂海ちゃんから封印を解くためのアイテムを貰ったと言うのに、未だにヴィヴィオを助けに行けないなんて‥‥‥‥‥‥
僕はなんて不幸なんだ‥‥‥‥‥‥‥