TSUBAMEを斬りたいのでSAMURAIになりたいと思います。 作:天丸
結論から言うと、ボロ負けした。
あの爺さん頭おかしいよ。何処から斬り込んでも返される上に反撃される。かといって下がったらめっちゃ斬り込んでくる。しかも動きがまったく見切れない。同じ攻撃でも相手はこちらの防御をすり抜けてくるので防ぎようがない。それでも何とか躱し、隙を見て斬り込もうと思っていたら、いつの間にか構えてた爺さんの刀が三つになって同時に三箇所から斬り捨てられた。
な……なにを言っているのかわからねーと思うが私も何をされたのかわからなかった……催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ
何処からか怪電波を受信したが気にしないで欲しい。
それにしても、あの爺さん本当に強い。最後の技なんて躱しようがないし、はっきり言って勝てる気がしない。
ここは諦めるのが正しい選択なのだろうが──私は諦めるつもりはない。いっそ清々しいほどの惨敗だが、負けたまま引き下がるというのは納得できない。こうなったら敗北覚悟で挑み続けてやる。そうすればいつかは勝てるはずだ。たぶん恐らくきっとメイビー。
という訳で暫くはあの爺さんに挑もうと思う。正直、序盤にこんなところで足踏みしてていいのか気になるが、こうなればもう意地だ。あの爺さんに勝ってやる。
今日も惨敗した。何とか食らいついていたが、攻め過ぎて上段からの振り下ろしを繰り出した時に、カウンターで首を飛ばされたり、防御に徹し過ぎて、唐突な刺突に反応できず喉を貫かれたりした。やられ方は千差万別だが、敗北の二文字はまったく変わらなかった。反撃の糸口すら見えず、ひたすら急所を攻撃されて一撃でやられた。どうやら昨日の対決は様子見で、本気ではなかったようだ。あれで本気じゃないとか本当に人間やめてますねあの爺さん(白目)。
まだまだ先は長そうだ。
今日も今日とて惨敗した。今日は手で長刀を掴んで動きを止めようとしたが、掴んだ瞬間に柄を弾いてこちらの手を斬り、怯んでいるうちに首を飛ばされた。隙がないとは思っていたが流石に無さすぎでは。これからは怯まないようにしていこう。
そういえば今日リスポーン地点に戻ったら新しいスキルを手に入れた。【挑戦者】というスキルなのだが、どうやらこれがあれば負けても経験値が取得できるらしい。これでピンと来たのだが、スキルを使えばあの爺さん相手にいい勝負ができるのではないだろうか。
思い立ったら即行動ということで早速、有用そうなスキルの情報を集め、別のクエストをこなして【超加速】というスキルを手に入れた。速さが増すスキルなのでここぞという時に発動すれば一矢報えるかもしれない。
今日はそこそこ善戦した。少しずつではあるが、刀の動きを感じられるようになってきたので、以前より比較的に躱せるようになった。攻撃に関してもいい線までいっていたと思う。初めはタイミングを考えず【超加速】を使いまくっていたが、その速さに振り回され隙だらけのところをやられたり、効果が切れた瞬間に斬られたりした。だが、スキルに慣れてからは動きが格段に良くなり、斬り込む瞬間に発動させると首を飛ばす寸前までいった。まあ、ギリギリで上体を反らして避けられたが。しかし、勝ち筋は見えてきた。この調子でいけば近いうちに勝てるかもしれない。
あとあの爺さんと戦ってる時に爺さんの動きを真似たら動きが良くなった気がしたので、動きだけでなく口調や仕草も真似るようにしてみた。これが勝負に関係するかどうかは不明だが、取り敢えず続けてみようと思う。
今日はなんとあの爺さんと斬り合えるようになった。最初の惨敗から考えると信じられないくらい濃密な戦いになっていると思う。少しずつではあるが爺さんに傷を負わせられるくらいにはなっているし、Lvもかなり上がった。装備は相変わらず初期装備のままだが、防具を着ても動きが悪くなるので、一番動きやすい今の装備が好ましい。
それに新しいスキルも一つ手に入れた。手に入れた経緯がかっこ悪いが、気にしたら負けだ。まあ、気にしなくてもずっと負けてるが。しかし、これが爺さんに通用するかどうかを考えると微妙だ。爺さん以外の相手になら有効なんだろうが、本人に使っても猿真似にしかならないだろう。まあ、折角のスキルなのでとっておく。
この延々と続く勝負もそろそろ終わりが見えてきた。
今日は勝利寸前までいった。あと一歩という所まで追い詰めたが、あの三つに増える斬撃でやられた。あの魔剣への対抗策を考えないと勝利は訪れないだろう。しかし、あの剣は躱したり防ぐことは不可能だが、攻略できない訳ではない。
今日の最後の戦いで取得したあのスキルは非常に強力なものだ。それも、逆転には持ってこいのスキルと言える。
もし、私の考えている策が上手くいけばあの爺さんを倒すことができるかもしれない。
覚悟を決める時だ。明日の勝負で決着をつける。
満月の夜、空に雲が棚引き姿を見え隠れさせる月の下、二人の侍が対峙していた。
遂にこの時がきた。私は、戦いが始まるというのに刀を構えず脱力した状態の目の前の剣聖を見据える。
「其方も懲りぬものよ。幾度敗北を期しても何度も噛み付いてくる。正しく鬼神の如き執念。さて、今宵こそはこの首にその刃が届くかな?」
「知れたこと。何度敗北の苦渋を味わおうとただ一度の勝利でこちらの勝ち。ならば挑み続けるほかあるまい。だが、その挑戦もこれまでだ。我が剣、届くのかと問うたな。その答え、己が身で証明してみせよう」
何度も繰り返した問答。負け続けること実に百回。しかしそれも今日で終わりだ。今日こそはその首、獲ってみせる。
静かに剣を構え、相手を射抜くような視線を向ける。そして、もはや暗黙の了解となった開幕の合図を告げる。
「刀使い・無銘 コジロウ」
「剣聖 名無し」
「「いざ尋常に」」
「「勝負!! 」」
名乗りを上げるやいなや、互いに刀を交える。ひとたび斬り結べば火花が散り、刹那の間に何十もの剣戟が交わされる。
目に見えないほどの剣の応酬。下段からの掬い上げ、中段からの突き、上段からの袈裟斬り。状況に応じて最適な剣を繰り出す。しかし、それらは呆気なく捌かれ、逆にこちらが反撃される。それを防いで次の攻撃に転じようとするも、それを見越したかのように鍔迫り合いに持ち込まれる。
ここで押し負けて弾き飛ばされれば、その瞬間にあの魔剣を叩き込まれる。だが、こちらが弾き飛ばそうにも膂力が足りない。ならばと足払いを繰り出すも、難なく防がれる。だが、相手が防いだ隙に後方に跳び、何とか危機を脱する。
そして、油断なく構える私と剣聖の視線が交じり合い、火花が散るのを幻視させる。この状態が何時間も続いている気もするし、一分も経っていない気もする。だが、それなりの時が流れたのは確かだろう。
ここで仕掛ける!
そんな膠着状態に一石を投じるように、私は【超加速】を発動させ、斬り掛かる。突然のスピードの変化に一瞬の逡巡を見せる剣聖を見逃すことなく、今までの全てをつぎ込んだ剣戟を浴びせる。
防戦一方となった状態の剣聖だが、それでも危なげなく一つ一つ丁寧に捌いている。
このままいけばこちらの【超加速】が切れ、逆転されるといういつもの焼き増しになるだろう。だが、そうはいかない。剣聖が攻撃を防ぐ瞬間を見逃すことなく注視する。そして、その時は来た。
ここだ!
右からの振り下ろしを弾いた剣聖が思わず見せた一瞬の隙。相手の右脇腹の防御が外れたが、刀を弾かれた今の状態ではその隙を突くことはできない。しかし、こちらの武器は刀だけではない。
私は腰に差していた鞘を左手に持ち、相手の脇腹に思い切り叩き付けた。
「ぐぅ!」
思わぬ衝撃に剣聖は堪らず距離を取る。だが、それを許すはずもなく、私は勢い良く相手の懐目掛けて飛び込む。
【超加速】の効果時間はあと僅か。今の優勢は【超加速】でのもの。効果が切れれば速さに慣れた剣聖と遅くなった私ではどちらが勝つか一目瞭然、ここで決めなければ負ける。
覚悟を決めて飛び込む私に対し、剣聖はここで初めて構えを見せた。その構えこそ今まで私を敗北に追いやった魔剣を繰り出す必勝の型。
だが、それを読んでいたからこそ私はこの死地に飛び込んだのだ。今こそ、その必勝の理を覆すとき。その技、破ってみせる!
「ハァァァ!」
身を奮い立たせる雄叫びを上げながら私は相手の間合いに入る。そして遂に、その絶技が放たれた。
「【秘剣・燕返し】!」
剣聖の長刀が三つに増え、全く同時の三方向からの斬撃を放った。躱す術のない不可避の技に、私の体は為す術もなく切り刻まれる。そして、力を失った体はゆっくりと落ちていく。
剣聖はその様子を見届けるとほんの一瞬、気を抜いた。それが勝負の決め手となった。
「【不屈の意志】」
死に絶えた体に再び力が甦る。地に沈むはずの体は大地を踏み締め、驚愕する剣聖に勢いのまま刀を振り抜き、刀身はその身を斬り裂いた。そして、役目を果たしたと言わんばかりに私の刀は砕け散り、長きに渡って行われた私達の戦いは、遂に幕を下ろした。
勝った……遂に勝った。
私の心中を勝利の喜びが駆け巡り、脳が沸騰するほどの興奮を覚える。
やはり勝利の決め手となったのはこのスキルだったか。
【不屈の意志】……HPが半分以上ある状態で即死状態になる攻撃を受けても、HPが1だけ残る。
取得条件……同じ戦闘相手に勝利するまでに100回以上敗北する。
百回目の戦いに敗北してこのスキルを取得した時に、相手がこちらを倒して油断した瞬間に奇襲するという作戦を思い付いた。在り来りな策だったが、結果は効果覿面、その体に刃を通した。切り札として用意していたことは確かだが、それでもここまで上手くいくとは思っていなかった。
『クエスト 剣聖の試練を達成。
スキル【心眼(偽)】を取得しました。
スキル【透化】を取得しました。
スキル【宗和の心得】を取得しました』
クエストクリアの表示が現れると同時に、まだ倒れていない剣聖の姿を見る。すると、彼は徐に背中から長刀の鞘を取り外し、刀を鞘に収め、こちらに向かって差し出した。
「持って行け」
「……良いのか。それは貴殿の得物だろうに」
「最早この身には必要ないのでな。何、楽しませてくれた礼だ。遠慮なく受け取れ。それに、この刀もより良い使い手に渡ることを思えば悪くない。……この道の果てには幾人もの強豪を喰らった恐るべき魔物が待ち構えている。行ったところでただの活きのいい獲物になるのが関の山だろう。それでも行くと言うのなら───かの魔物、見事討ち果たしてみよ」
私はその言葉に応えるように、彼の手からその魂とも言える長刀を受け取った。
「承知した。その魔物、仕留めてみせよう」
「……そうか。案ずるな、其方ならば勝てるとも。…………死に際に拙者を越える剣士が現れるとは。人生、ままならぬものだな。だが、それも良い」
最後に口元に笑みを浮かべ、剣聖の体は光の粒子となって夜空に消え去った。その光景はどこまでも雅なもので、私は静かにそれを眺め、夜空に昇る光の粒子を見送った。
【挑戦者】…戦闘に敗北しても、経験値の半分を取得できる。
取得条件…同じ相手に10回以上敗北する。
【不屈の意志】と【不屈の守護者】が被っていることに投稿してから気が付きましたが、【不屈の意志】は【不屈の守護者】の上位互換とお思いください。
※内容を少し編集しました。