TSUBAMEを斬りたいのでSAMURAIになりたいと思います。 作:天丸
しかしこの程度でTSUBAMEと呼んでいいのか………。
剣聖の最期を見送った私は、それから少しの間感傷に浸っていた。流石に百回以上も顔を合わせていたのだから、思う所も多分にあった。後悔はないが、どこか寂しさを感じる。本来あれはNPCなので、こんなことを思うのはお門違いかもしれないが、このゲームのリアルな造形と私が初心者ということも相まってこんな気持ちを味わわせる。
だが、いつまでもセンチメンタル決め込む訳にもいかない。折角山頂までの道が開けたのだから、ここはポジティブにいこう。
さて、センチメンタルモードから脱却したことだし、この道が何なのか調べてみよう。幸いなことに、道の入口に看板があるので、そこに書いてある文字を読むことにする。
『ダンジョン【飛燕の山道】』
どうやらこの山道はダンジョンになっているらしい。ダンジョンというのは宝やモンスターのいる危険な領域のことだったと思う。あながち山頂にお宝があるというのも的外れな予想ではなかったようだ。
早速ダンジョンに突入したいところだが、その前に先程取得したスキルやおニューの刀の性能を見てみたいと思う。まずはこの長刀から見ていくとしよう。
『物干し竿』
【STR +40】
【DEX +20】
スキルスロット 空欄
ふむ、どうやらSTRとDEXに補正が掛かる武器のようだ。STRの低い私にうってつけな武器だ。このスキルスロットとやらは説明書に書いてあったので、どんなものかは分かっている。確かスキルスロットには身に付けたスキルを付与が可能で、そうすると一日に五回だけMPの消費をせずに発動できるらしい。付与したスキルは二度と取り戻せないというデメリットもあるが、特に問題ないだろう。まだ相応しいスキルを手に入れていないので、これは空欄のままにしておこう
次はスキルだ。確か三つ取得していたが、どのような効果があるのだろう。あれだけの強敵を倒したのだからそれなりに強いスキルだとは思うが。
【心眼(偽)】……自身への攻撃を一度だけ回避し、クリティカル威力を30秒間40%上昇する。一度使用すると30分間のインターバルを必要とする。
取得条件……クエスト『剣聖の試練』をクリアする。
【透化】……気配を遮断し、敵に見つりにくくなる。ただし、攻撃時には効果が弱まる。更に、精神干渉を無効化する。
取得条件……クエスト『剣聖の試練』をクリアする。
【宗和の心得】……自身の間合いの内側においてのみ攻撃が必ず当たるようになり、クリティカル発生率を30%上昇させる。
取得条件……クエスト『剣聖の試練』をクリアする。
おお、強力なスキルだとは予想していたがここまでとは。何一つ外れの無い凄まじいものばかりだ。
一つ一つ分析していくと、【心眼(偽)】は発動すれば不可避の攻撃であろうと回避することが可能な上に、技を出して隙だらけの相手に高威力のクリティカルを喰らわせることができる。
【透化】は奇襲の成功率が上がるし、精神干渉系のスキルを無効化できる。
【宗和の心得】は相手が攻撃を躱そうと問答無用で攻撃が通るし、クリティカルの発生率も上がるため、【心眼(偽)】と相性抜群である。これで勝つる。
まあ、これでスキルの確認はできたのでこの話は置いておこう。それよりも考えなければならないのがこの先にいるという魔物だ。
正直に言えばあの爺さん、もとい剣聖を倒すことに躍起になっていたからこの道のことをすっかり忘れていた。剣聖が何も言わなかったらそのまま帰っていたと思う。本末転倒とはまさにこのことだ。
普通ならここで一旦町に戻って準備をしてから攻略するものだが……あんなことを言った手前、戻ろうとも思えないのでこのまま突入する。
幸いにもポーションなどの回復アイテムは普段から所持しているのでHPは既に満タンまで回復させてある。装備は初期の紙装甲のままだが、元々VITにまったく振っていない回避専門なので問題ない。肝心の武器だが、最上の業物が一振り。これさえあれば大抵の敵は紙屑にも劣るだろう。刀身の長さが違うので間合いを掴むために慣らさなければならないが、タイミングのいい事に山頂までの道中、モンスターが溢れている。登山の道すがら練習相手になってもらおう。
「では、行くか」
そして私は山頂へ向かって足を進めた。
「む、何だ。もう頂上か」
モンスターを斬りながら登ること十数分、あっという間に山頂は見えてきた。問題となっていた刀の扱いも元々、私の戦い方は剣聖の動きを基本としていたのですぐに感覚を掴めた。更に【長刀の心得Ⅰ】というスキルを取得してからは今までと遜色なく振るえるようになっていた。むしろ今までよりも技のキレが増していたように思える。嬉しくなって片っ端から斬っていたらあっという間に【長刀の心得Ⅴ】までスキルレベルが上がった。かすり傷くらいは覚悟していたが、無傷でここまで来れたので僥倖である。
だが、ここからはそうはいかないだろう。
道の終わりに岩の鳥居らしきものがあり、その先が見えなくなっている。間違いなくボス戦だ。剣聖が門番を務めたダンジョンのボス。一筋縄でいかないことは確実。いや、剣聖以上の強敵の可能性が高い。
そう思うと、自然と手が震える。私の中にある弱い心が引き返せと悪魔のように囁いてくる。
だが、引き返すことなどしない。彼は勝てると言った。ならば、証明しなければならない。彼を打ち倒した私が、証明してみせる。
気付けば震えは止まり、手により一層力が入った。心の中で闘志が燃え盛る。体が高揚するが、頭は冷静を保つ。
よし、行こう。
決意を胸に、私は鳥居を潜り抜けた。
鳥居を潜るとそこは鳥の巣の中だった。ここがボス戦の場所ということは、ボスはやはり鳥の類いか。ダンジョン名から予想はできていたが、厄介な相手だ。空中にいる敵には刀は届かない。そうなると防戦一方となり、こちらが不利になる。
どう戦うか考えながら、ボスが現れるのを待っていると、突然何かが舞い降りた。
「ピィィィィィィ!! 」
「……来たか」
けたたましい鳴き声と共に現れたのは、1メートルはあるであろう大燕だった。腹周りが白く、顎の辺りが赤、それ以外が黒い模様の本来の燕と同じ色合いだが、その翼は見事な光沢を宿し、嘴はドリルのように尖っている。
これが、飛燕。
その姿を観察していると、燕はその瞳をこちらに向けた。その瞬間、私は悪寒を感じ、すぐさま右に飛び退いた。
すると、先程までいた場所に鋭利な嘴が突き刺さっていた。
速い!
目で追えないほどの速度。あのままあそこに突っ立っていたら確実にやられていた。なるほど、剣聖が『魔物』と言う訳だ。充分過ぎるくらいの化け物である。
燕は嘴を抜くと飛び上がり、その場で羽ばたき始め、やがて機関銃をぶっ放すが如く翼からいくつもの羽根を飛ばしてきた。
私はすぐに刀を構え、【宗和の心得】の効果で攻撃を外すことなく、間合いに入った羽根を全て打ち落とす。羽根は当然のように刀身とぶつかる毎に甲高いを鳴らす。
「たかが羽根と侮れば全身に風穴が開く、か」
鋼鉄の如き硬さの羽根をこんなスピードで放たれればそれは最早弾丸と大差無いだろう。燕は更に数を増して羽根を飛ばすが、こちらも負けじと刀を振るう。
何度も耳障りな金属音が巣の中に響き、私を不快にさせる。いくつもの羽根が巣の中に散らかり、辺りを羽毛が舞う。
羽根を撃つのをやめた燕は、その場で旋回し始めた。すぐに燕の姿は見えなくなり、旋回の影響で風が吹き荒れ始めた。そして、燕を中心に竜巻が発生した。
「飛び回るだけで竜巻を生み出すとは……何とも規格外なやつよ!」
巻き込まれないように刀を巣に突き刺し、その場で踏ん張る。この風に呑み込まれたが最後、あの嘴に貫かれるだろう。それだけは何としても防がねば。
だが、この技の恐ろしいところはここからだった。突如、私の頬を何かが掠めた。
「これは……羽根が風の影響で飛んでいるのか」
先程ばら撒かれた羽根が、竜巻の影響で再び弾丸のように飛び始めた。横から撃ち込んでくる羽根を刀で打ち落とせば、体の踏ん張りが効かず、竜巻に呑み込まれる。かといって放っておけば体を撃ち抜かれる。実に嫌らしい攻撃だ。
「だが、この手は私には悪手だ」
刺していた刀を抜くと同時に、私は風の吹く方向に走った。私の体は風の流れに乗り、段々と速さを増していく。そして、飛び回る羽根に追い付くと跳躍し、飛んでいる羽根を足場にして竜巻の中心目掛けて刀を振るった。
「ピィィ!?」
「まずは一太刀」
いきなりの衝撃に燕は旋回を中断せざるを得ず、竜巻は消滅し、羽根はひらひらと舞い落ちる。燕の上に表示されているHPゲージを見ると、既に二割も削れていた。
どうやらこいつは速さはあるが、耐久性はないに等しいようだ。
傷を負わされた燕は、今度は縦横無尽に飛び始めた。これまた弾丸のような速さでフィールドの中を飛び回り、すれ違いざまに翼で攻撃してくる。
紙一重で躱すと、先程までいた場所に切れ込みが入っていた。
「これは……何とも凶悪な」
あまりのスピードに、翼が刃の如き切れ味を宿しているのだ。もろに喰らえば胴体は泣き別れを免れないだろう。躱すにしても最早燕の姿はまったく見えず、耳元を風切り音だけが撫でていく。
私は刀を構え、耳で奴の動きを探る。そして最も音が近づいて来た時、すかさず防御する。翼と刀がぶつかり合い、甲高い音を鳴らして交差する。動き自体は直線的なので来る場所を予測し、斬り払えば攻撃は入るが、その余波だけでこちらも僅かにダメージを受ける。それが何度も繰り返され、こちらの体力を徐々に削っていく。相手のHPゲージを見ると、既に半分以上削れていたので、強力な一撃を叩き込めれば一気に削れそうだ。
「このままでは埒が明かぬか。ここは一か八か、仕掛けさせて貰おう」
再び燕の刃がこちらを切り裂こうと迫る。その瞬間にスキルを発動させる。
「【心眼(偽)】!」
燕の翼が当たる瞬間、体が勝手にその場から跳躍して回避する。そして燕の頭上からその首目掛けて刀を振り下ろす。これ以上ない絶好のタイミングで放たれた必殺の剣は───本領を発揮した魔物には通じなかった。
刀が触れる直前、燕のスピードが更に上がり、渾身の一撃は刃の如き翼で防がれた。HPゲージが僅かに削れるも、燕は堪えた様子もなく、再び縦横無尽に飛び始める。
「何と……! まだ速くなるか!」
その速さはまさに音速と言っていいもの。先程までよりも格段に攻撃力も上がるだろう。しかも自分は空中にいるため回避行動も取れない。急いで体勢を立て直そうとしたが、狙いすましたかのような一撃がこの身を切り裂いた。
「ぐはッ!」
私のHPゲージがみるみるうちに減っていき、1で止まった。【不屈の意志】がなければ即死だった。しかし、もうその手も使えない。あと一撃喰らえば終わりだ。回復する隙など与えられないだろうし、【心眼(偽)】は30分のインターバルが必要だ。
不味い不味い不味い! 何とかこの状況を打破する手立てを考えなければ負ける! くそッ、考えが纏まらない。一体どうすれば……。
その時、ふと頭の中に剣聖との戦いが流れた。最後の場面、私が彼を倒したところ。【超加速】で極限まで加速した私が剣聖に突っ込む。まるで、この燕のように。それに対し剣聖は──。
「……光明が見えたか」
だが、私にできるのか? あれは剣聖の技であって私のものではない。例え真似たところで劣化版が精々だろう。それで倒せるかどうか……いや、待て。あのスキルと【超加速】と【宗和の心得】を合わせればいけるか? 敵はあの速さだ。一撃の攻撃力が高まるのはこちらも同じこと。勝てる可能性はある。
ならば、やるしかない。
「…………ここが勝負どころよな」
己を鼓舞するように呟いた言葉はその場に消えていく。構えを解き、体全体を脱力させる。感覚を研ぎ澄まし、奴の次の動きを予測しろ。
右……後ろ……左…………前!
「【超加速】!」
スキルを発動し、いち早く構えへと移行する。目の前には私を串刺しにしようと迫る燕。勝負は一瞬、奴が間合いに入った瞬間。この一刀に全てを掛ける!
そして、奴のその嘴が間合いに入ったその時、【宗和の心得】が発動する。これで私は絶対に攻撃を外さない。そして私は最後のスキルを発動させた。
「【模倣・燕返し! 】」
それはかの剣聖の御業。頭上から股下までを裂く一の太刀、一の太刀の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である二の太刀、左右への離脱を阻む三の太刀。それらをまったく同時に放つことによって繰り出される不可避の斬撃。
防げるものなら防いでみせろ。
燕の嘴は私の身を貫く───ことなく、勢いのまま地に墜ちた。墜落した燕の体には三つの斬撃がしっかりと刻まれていた。
「一念鬼神に通じる。人の身と侮ったな」
何とか勝てた。正直体力を削り切れるかどうか賭けだったが、勝利の女神は私に微笑んだようで、燕の上に表示されているHPゲージは尽きていた。
【超加速】と【宗和の心得】だけでは燕返しを真似ることは不可能だったが、剣聖の真似をしている間に取得していたもう一つのスキルが役に立った。
【模倣】……これまでに戦った相手のアクティブスキルを一つだけ模倣する。ただし、性能は20%落ちる。
取得条件……他者の真似と思わしき行為を一定時間やり続ける。
このスキルで剣聖の燕返しを模倣し、【超加速】と併用することで本家本元にも劣らぬ技が繰り出せた。
剣聖には通じないだろうから使わなかったスキルだが、今回の戦闘では大いに活躍してくれた。何が役に立つかなど、使ってみるまで分からないものだ。
『スキル【長刀の心得Ⅴ】が【長刀の心得Ⅹ】にレベルアップしました。これによりスキル【長刀術】を取得しました。
スキル【刹那無影剣】を取得しました。
スキル【燕返し】を取得しました』
また新たなスキルを手に入れたが、一つだけどうにも見覚えがある。というかついさっき模倣した技だ。
確かに敵は燕だったが、まさか燕を落として取得するとは何とも洒落が効いている。しかし、剣聖の技を受け継げるのであれば、これほど嬉しいことはない。
あとで他のスキルも詳細を確認しておこう。
そういえばあの燕はどうなったのかと、亡骸のあった方を向くと燕が消滅し、光り輝く魔法陣と共に大きな宝箱が現れた。
説明文を読むと、【ユニークシリーズ】という単独かつ初戦闘でボスを倒したプレイヤーに贈られる一つのダンジョンに一つしかない希少なもののようだ。
箱を開けると、中にとても見覚えのある装備が一式揃っていた。
【ユニークシリーズ】
『剣聖の陣羽織』
【AGI +25】
【DEX +15】
【自己再生】
【霊基再臨】
『剣聖の袴』
【AGI +15】
【DEX+25】
【自己再生】
【霊基再臨】
『剣聖の草履』
【AGI +30】
【DEX +10】
【自己再生】
【霊基再臨】
「くっ……はっはっはっはっはっ! これはまた洒落が効いているというかなんというか。狙っているのではあるまいな」
笑いを堪えきれず、私は口を開けて笑った。
それは間違いなく、剣聖の身に付けていたものと同じ装備だった。装備してみると、口調と相まって、彼の姿を真似ているようだ。
思えば、この口調も真似ている内にすっかり板に着いてしまった。今から元の口調に戻そうとも思えない。そんなところにこの装備だ。まるで「やるなら完璧にやれ」とあの剣聖から言われているような気がする。
「よぉし、ここまで来たら徹底的に真似てやるとしよう」
何せこれはゲームだ。現実とは違う仮想の世界。ならば、普段とは違う自分に成りきるのも面白い。
初めはどう楽しむかも分かっていなかったことを思うと、自分も随分このゲームにのめり込んでいると自覚させられる。
だが、それも仕方のないことだろう。何せ、この世界はこんなにも楽しいのだから。
装備やスキルの紹介は次回。