TSUBAMEを斬りたいのでSAMURAIになりたいと思います。   作:天丸

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待たせたな。

ぐだぐだファイナル復刻にて高難易度のカカレェッ!おじさんを倒したので投稿します。
勢いで書いた。反省も後悔もしない。

※話数表記変えてみました。


第七歌 SAMURAIと第1回イベント ─破─

 互いの刃がぶつかり合い、耳障りな金属音を何度も響かせる。

 斬り合い始めてまだ数分だというのに、既に刀を交えた回数は二百を優に超える。ここまで互いに傷は負っていない。何方も一切の負傷もなく、かすり傷一つ付いていない。

 だが、カスミが息を荒らげ、滝のように汗を流しているのに対し、コジロウは息を切らすこともなく、涼しい顔でカスミの怒涛の剣戟を時に躱し、防ぎながら対処している。それに加え、カスミは全力でコジロウに斬り掛かっているが、コジロウはカスミに対し一度も攻撃らしい攻撃をしていない。

 何方が有利なのかは一目瞭然、比べるまでもないとはまさにこの事だろう。

 そして、それを理解しているカスミは大いに焦っていた。

 

 ──強いとは思っていたが、まさかこれ程とはな。素の剣術では相手の方が一枚も二枚も上手だ。今は何とか勢いで有利を保っているが、こんなものはすぐに覆されるだろう。

 

 ──勝負に出るしかない、か。

 

 ステータスも実力も相手より劣っている場合、順当に戦ったところで敗北は必須。ならば、とれる手は一つ。

 スキルによる初見殺しの一撃必殺、これしか有り得まい。

 

 しかし、デメリットもある。スキル発動時は隙だらけになる上に、一度見切られれば、その時点でスキルは相手にとって絶体絶命の窮地から絶好の好機に早変わりする。

 故に、大事なのはタイミングと技。相手はまぐれが通じるような生半(なまなか)な相手ではない。絶対に外さない間合い、致命傷を与えられるであろう瞬間、防御も回避も不可能な窮地を狙わなければそれは意味をなさない。

 

 カスミは考える。どのスキルが最も相手に有効か、最適解を探す。【一ノ太刀・陽炎】は速攻には最適のスキルだが、相手に一度見られている上に、あの程度の速度では確実に防がれる。一撃必殺には成り得ない。

 では、それ以外のスキルを用いるのか? ──否、断じて否。他のスキルは確かに威力や速度に長けるものもあるが、溜めがいるものやデメリットを伴うものばかりだ。溜めなどという隙を見せれば殺られるのは必須。かといって、デメリットのあるものを選択し、倒し切れなかったらその時点で詰み。

 だからこそ、最速で相手の虚を衝ける【一ノ太刀・陽炎】を使うしかないのだが、そのまま馬鹿正直に技を放てばカウンターで斬られる。

【超加速】で速度を更に上げるという手もあるが、相手の速さから考えるに、同じ土俵に立つのが関の山だろう。奴を倒すには二手も三手も足りない。

 

 案という案を浮かべ、シミュレーションしてみるが、どれもコジロウを倒すには足りない。ここに来てカスミは行き詰まる。

 

 ──何か、何かないのか。相手を一撃で倒す方法は……いや、待てよ。

 

 ここでカスミはふと思う。別に一撃必殺でなくともいいのではないか、と。今まで一撃で倒す事ばかり考えていたが、別にそうでなくともいいのなら、打てる手はある。

 正直に言うと、こんな事は一度もやった事がないから、成功するかどうか分からない。だが、成功すれば確実に此方が有利になる。ならば、やるしかない。

 

 カスミは相手の刀を強く弾くと同時に後ろに跳ぶ。

 

「コジロウと言ったか。お前、強いな」

 

「いやいや、其方(そちら)もなかなかの腕前。()()もそれなりに腕には自信があったのだが、どうやらその首を落とすには足りぬらしい」

 

「よく言う。全力の私を相手に手を抜いて戦っている時点で、少なくとも私よりは数段上だ」

 

「それは買い被りというもの。拙者は臆病者故、鬼気迫る攻めをする其方(そなた)に対し、受けに回るしかなかっただけのこと」

 

「どうだか。私には首を落とすには足りないだけで、私を斬るだけならいつでも出来たという風に聞こえるが」

 

「さてな、拙者には何の事だかさっぱり」

 

「まあいい。お前がどれだけ強かろうと、()()()倒せる事に変わりはない。ならば、この()()にて斬り裂くのみ」

 

 カスミは両手で握っていた刀を右手に持ち、地面に向かって勢い良く振るう。すると、土砂がコジロウに向かって放たれる。コジロウは思わず刀を持っていない手で目元を守る。その一瞬、コジロウの視界からカスミは外れた。

 それこそがカスミの狙い。相手の目が封じられている内に刀を鞘に収め、構えを取る。その瞬間、スキルを発動する。

 

【一ノ太刀・陽炎】

 

 カスミは瞬時にコジロウの目の前まで移動し、視界の封じられているコジロウに向かって勢い良く抜刀する。

 相手の目が封じられ、困惑している隙にすかさず斬り付ける不可避の斬撃。普通の相手ならばこれでおしまい。カスミは見事に相手を斬り伏せ、勝利の美酒を味わっていただろう。

 

 ───そう、普通の相手ならば。

 

「これしきの小細工では、拙者の目は潰せてもこの()は潰せぬよ」

 

 コジロウは【気配感知】でカスミの居合を易々と躱した。

 カスミの相手は普通ではなく、剣聖を並々ならぬ執念で打倒した普通とは正反対の男。カスミがどれだけ策を弄そうと、全力の技を放とうと、カスミは普通(ノーマル)に過ぎない。だから目の前の異常(アブノーマル)には通用しない──

 

「……そう来ると思っていたぞ」

 

 ──はずだった。

 

 コジロウが目を開くと、そこにあったのは空を切った刀があり──左手に持った鞘がコジロウの目前まで迫っていた。

 

 これこそがカスミが思い付いた逆転の一手。【一ノ太刀・陽炎】は早い話ただの抜刀術だ。回避も防御も種が分かれば容易い初見殺しの技。故に、種が割れた相手にはもう使うことは出来なかった。しかし、カスミはここでもう一つの使い道を思い付いた。

 

 ──種が割れているのならば、それさえも利用してしまえばいい。

 

 このゲームにおいて、鞘が武器として成立する事を知っているプレイヤーは少ない。だからこそ、これを予見することは難しい。先程までの言葉も、「斬る」という事を相手に強調し、この状況に陥れる為のブラフ。

 刀を躱して油断したところを弐撃目の鞘で打ち伏せる。そうすれば、相手を倒すことは出来ずとも、隙を生むことは出来る。そこに立て続けにスキルを放ち、相手を倒す。

 

 “相手を倒す技ではなく、相手を倒す為の技であり、相手が知っているからこそ陥る技”

 

「それこそが、一ノ太刀改メ(いちのたちあらため)逃水(にげみず)

 

 カスミの起死回生の技がコジロウに向かって振るわれ───

 

「生憎、それと似たような事を過去にやったものでな」

 

 ───長刀を持って防がれた。

 

「なッ!?」

 

 技を放った直後で硬直しているカスミをコジロウは思い切り蹴飛ばし、カスミは木の幹に打ち据えられる。

 

 カスミの策、【一ノ太刀改メ・逃水】はこの状況における最高の一手と言えた。同じ状況ならば、最上位プレイヤーと呼ばれる存在にもこの技は決まっていただろう。

 しかし、コジロウはかつてこれと同じ、()()()()()()()()()を行っている。それを用いた場合の効果をコジロウは知っていたからこそ、【一ノ太刀・陽炎】を見て、すぐにこの作戦を思い付いていた。そして、カスミがそれを行うであろうことも、想像に難くなかった。

 

 これはカスミが悪いのではない。ただ、相手が悪過ぎただけの事だ。

 

 カスミは刀を杖にフラフラと立ち上がる。HPバーを見たところダメージは酷くないが、精神的なダメージは大きい。

 

 ──確実に決まると思っていた。今までで最高の一手だと確信していた。

 

「その結果が、これか。はは……軽く心が折れそうだ」

 

「……拙者に女子(おなご)を甚振る趣味はない。ここで去るというならば()()()が、如何に?」

 

 ──見逃す? 見逃す、か。何とも……懐かしい言葉だ。

 

 思えば、この手のゲームにのめり込むようになったのも、あれが切っ掛けだった。

 

 

 まだVRMMOというジャンルが世に出回ってそれほど経っていない頃、興味本位でオンライン対戦型のゲームをやった事があった。武器を用いた一対一の真剣勝負という在り来りなものだが、当時は息抜き程度に遊んでいた。それなりに強かった事もあって、連勝するようになったある日、彼女と出会った。

 

『わっ、綺麗な娘。相手は貴方? そっかあ……あ、別に貴方と戦うのが嫌って訳じゃないのよ? ただ、ほら。今時正統派の黒髪美少女って貴重でしょう? だから本当は()()()()あげたいんだけど、そうもいかないわよねぇ……。よーし、こうなったら手加減無しでいくからね!』

 

 何とも明るい人で、まるで晴れ渡る空のような、そんな印象の人だった。初めは、私の事を舐めてるのか、って突っかかっていた。力の差を見せ付けてやろうとも。

 結果は、力の差を見せ付けられて終わった。何処からどう見ても完敗。いっそ清々しい程の敗北だった。

 

 勝負に負けた私は悔しがるでも負け惜しむでもなく、ただただその剣に魅了された。

 私のようなお遊びの剣ではなく、彼女の剣は本物だった。振り下ろしも、切り上げも、刺突も、どれもが洗練されていた。無駄の省かれた惚れ惚れするような剣を見て、どうしようもなく憧れた。

 

 如何してそんなに強いのか、と興奮冷めやらぬまま、童のように無邪気にその疑問を彼女にぶつけた。

 

『如何してって、そりゃあ剣が好きだからよ! 昔っから剣が好きで修行とか色々やってきたけど、現実じゃあんまり振れないじゃない? それで興味本位でこっちに手出したらハマっちゃって。色んなゲームを渡り歩いて遊んでいく内に思いの外強くなっちゃったのよね。ま、貴方も才能あるし、強くなれるわよ。きっとね! それじゃあ、縁があったらまたどこかで!』

 

 そう言って、彼女は嵐のように去っていった。名前も聞く暇もなく、分かっているのは彼女が()()()だった事と、彼女と戦い、敗れた者は皆同じ言葉を残しているという事。

 

 “─── 鮮やかなり天元の花 その剣、無空の高みに届く

 

 その言葉を聞いて、正しくその通りだと思った。美しくて、激しくて、人を元気付けるような、そんな印象を覚える満開の花。温室で育てられるような愛でる花ではなく、野原に芽吹く逞しい大輪の花。その花はいずれ、無空の領域に至るのだろう。

 柄にもなく、そんなことを思ったのを覚えている。

 

 それから、私はVRMMOにのめり込むようになった。

 また彼女の剣が見たくて、また彼女に会いたくて、刀を扱うゲームなら何にでも手を出してきた。そうしていく内に、いつの間にか剣の腕もかなり上達して、その上達ぶりに伴うように私の願いは形を変え始めた。

 

 ──彼女に会いたいのも確かだが、彼女ともう一度戦いたい。

 

 ──今度こそ、彼女に勝ちたい。

 

 彼女に焦がれる童から、勝利を渇望する剣士に成り上がった。

 その矢先に、『NWO(このゲーム)』を見付けた。何となく、ここでなら、私の小さな望みが叶うんじゃないかと思った。

 

 

 ──そうだ。私は女子でも童でもない。私は、私は……

 

私は、剣士だ!! 

 

 空気が変わった。先程までのカスミから感じられていた諦観は微塵もなく、今はただ嵐ような闘志だけが吹き荒れる。

 

「見事。良く吠えた。ならば我が秘剣、披露する事に異論無し」

 

 勝負は最終、泣いても笑ってもこれが最後。カスミは己の持ちうる最強のスキルを惜しみなく使用する。デメリットなど考えず、後先など頭に無く、ただ目の前の剣士を斬る為に、渇望した勝利を手にする為に、()()()()()()も曝け出す。

 

「【始マリノ太刀・虚】!」

 

 カスミの髪が白く染まり、瞳が緋色の光を灯す。それは装備の耐久値を代償に、【神速】を凌駕する程の速度を得るスキル。

 別の世界線ならば、【崩剣】のシンを倒す筈だった技。しかし、それを今、目の前の剣士に使うとカスミは決断した。

 

 対するコジロウも、体を半歩引き、刀を顔の横に水平に構える。

 それはつまり、コジロウの最速を誇る燕殺しの魔剣が放たれることを意味する。

 

 気迫、良し。刀、良し。構え、良し。ならば後は放つのみ。

 

 先程までの激しさは何処へやら、辺りを静寂が支配する。場に緊張感が張り詰め、両者とも身動き一つしない。ただ、絶好の機会を静観して待つ。

 

 一時間にも一秒にも思えるような、長く短い時間が過ぎていく。

 その時、一陣の風が吹き、両者の姿を一枚の葉が隠す。

 

 それが、開戦の合図となった。

 

 

【終ワリノ太刀・朧月】ッ!! 

 

 

【終ワリノ太刀・朧月】。カスミの持つスキルの中で最速・最高威力の十二連撃を一定時間の全ステータス半減、太刀スキルの封印を代償に放つ最強の技。それを【始マリノ太刀・虚】を使用した状態で放つ。

 紛れもなくこのゲームにおいて最強の十二連撃。

 

 それがコジロウに向けて、放たれる。

 

「コジロォォォオオ!!」

 

 絶叫と共にカスミの絶技が放たれ、コジロウの体を穿つその瞬間、カスミの瞳には、三人にぶれたコジロウが写っていた。

 

 

【秘剣・燕返し】

 

 

 コジロウがそう呟いた瞬間、カスミには三筋の光が見えた。

 そこには時間と空間と存在と概念(あらゆるすべて)を超越した、神域に至った剣技があった。

 

 本来ならばこの神業を前にすれば、絶望を味わった末に全てを諦めていただろう。ここまでか、と悔しさに唇を噛んだだろう。

 だが、いざそれを前にして──カスミにはそれがどうしようもなく輝いて映った。

 

 

 ──嗚呼、これは。

 

 

 あの日、カスミを剣の道に導いた女剣士が、戦いの最後に放った技。カスミには、それがコジロウの放つ技と重なって見えた。

 厳密に言えば、コジロウの技はその女剣士とは違う、いわば対極に位置するものだ。

 しかし、何方にしろ剣を極めた果ての境地である事に変わりはない。

 

 それは刃に魂を載せて疾らせる者だけが到達する極み、数多の剣士が夢想して止まぬ無念無想の境地。

 かつて、一人の童の目を焼いた輝きであり、一人の剣士が求め続ける願いの欠片。

 

 彼女(カスミ)彼女(■■■)を繋ぐ、ただ一つの光。

 

 

 ──良かった……また、見れた。

 

 

 朧の月を、燕の羽根が斬り裂いた。

 

 

 互いに技を放ち終え、すれ違うように交差する。背を向け合い、振り返らずにただ佇む。

 やがて、カスミの体は静かに崩れ始め、光の粒子となっていく。しかし、その顔は先程までからは考えられない程の穏やかな表情で、微笑みを浮かべている。

 そして、勝負の終わりを告げる為、その口を開いた。

 

──勝負あり。勝者、コジロウ

 

 ここに、剣姫と剣鬼の勝敗は決した。故に、敗者は結末を告げる。敗北をその身に刻み込み、勝者を讃える為に。剣姫は、剣鬼を祝福する。

 

「目も当てられぬ惨敗だが、一矢報いるくらいは出来たか」

 

 最後にそう呟き、光と共に彼女は消滅した。

 

 残されたコジロウの頬には一筋の傷があり、HPバーは僅かに減っていた。彼女は最後に、このイベントで初めてコジロウに傷を負わせた。

 

「──お見事」

 

 その事実を称賛し、剣鬼は振り返ることなく、その場を後にした。

 




【一ノ太刀改メ・逃水】の元ネタ…飛天御剣流の双龍閃。


当作品のカスミは、とある女剣士の存在により強化されています。

とある女剣士…一体何者なんだ…(棒読み)

なお、次回投稿も不定期。

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