アメリカ カリフォルニア州
愛美はALOからログアウトし自室のベッドで目を覚ました。だが直ぐに起き上がる事はせずにアミュスフィアを取った腕をそのまま自分の顔に当てる。先程まで起こっていた事を見つめなおす。
(あんなお姉ちゃん初めて見た)
自分が光輝のいる戦場に行くことを拒否したレインの表情を思い出しながらそう思った。だがその理由は愛美にも分かっている。仲間の内誰か1人でも死んでしまったら光輝が戦場に立てるようになるか分からない。だから光輝のリカバリー役がいる。レインがその役を愛美にやらせようとしていたのは愛美にも分かる。だけどそれは愛美も嫌だった。
(皆が生きてないと……意味ないよ)
そう心で泣き声で言って愛美は上半身を起こした。少し頭がくらくらする。アミュスフィアをベッドの棚に置く。アスナが示した決闘は皆の予定が嚙み合った1週間後、誰が相手なのかは分からない。だけど……愛美には勝つ自信が無かった。
まだ愛美がALOを始めて1カ月も経ってない。あの面子と何回か決闘したことがあるが一回も勝てたことがない。セブンには何とか食らいつき始めたがセブンの真骨頂は戦闘スキルではないので意味がない。
「はぁ……」
愛美はため息をつき立ち上がる。沈んだ気分を変えるために愛美は散歩に出ることにした。何時も被っているつばの広い帽子を被る。そして自室から出る。そうすると今日は休日だから母も父もいた。愛美は気取られないように帽子を少し深めに被る
「ちょっと散歩してくるね」
緊張のしすぎか少し声が裏返っていた。それに両親は訝しげに見たが特に何も言わず
「行ってらっしゃい。ご飯までに帰るのよ」
「うん」
そう言って愛美はドアをくぐった。そしてあてもなく歩く。空を見上げてみる。そこには時の界王神が教えてくれた次元の裂け目がある。人は時間が経てばなれるもので気味が悪い事は変わらないがもう余り周りの人は気にせず家族団欒やデートするカップルは次元の裂け目を気にせずデートしたりしている。
だがこの裂け目がこの世の終わりに繋がるかもしれないと思っている人はどれくらいいるだろう?
「光輝……」
別れの前の光輝の恥ずかしそうな表情を思い出す。その光輝がこの現象を止めるために今この瞬間も命を懸けて戦っている。そう考えただけで愛美は胸が締め付けられる気がする。手を自らの心臓にあてる。
「なんで私は弱いの?」
そう弱々しく言った。愛美は”戦い”なんてものとは無縁の人生を送ってきた。だからその世界に入ったのはALOを始めてからだ。光輝がやっていた事を自分でもできると最初は浮かれていた。だけど光輝との最初の決闘で経験値の差を思い知った。それも当然で光輝は自分が光輝が手に入れてくれた平和の中で生きて来たのだ。そんな戦闘スキルを身に着けられる訳がない。
「覚悟……か」
自分にあるのだろうか? さっき言った事は嘘じゃない。光輝の為ならなんだってするし死ぬことも怖くない。でも……それがもし中途半端なものだったら……光輝の足かせになってしまうのだけは絶対にダメなのだ。答えを考えるために外に出たのに余計に分からなくなってしまう。光輝と付き合うという選択肢を選んだ時点で常人ではいられない。そんな事は分かっていたつもりなのに。
「はぁ……」
愛美はため息をつき少し早いが結局帰る事にした。これ以上普通のカップルを見ていると気が重くなる未来しかなかった。てくてくと歩き気が優れない表情で愛美は戻って来る。
そんな表情を見れば両親も流石になにか愛美になにかあったのか分かる。だけれども愛美が話そうとしないので少し静観することにした。愛美は部屋に戻るとそのまま勉強机の上にある写真立てを手に取る。そこには愛美が光輝と映っている写真がある。二人はあの日の様に笑って手を握っている。横には咲良と三人で撮ったものやALOで皆と撮った写真がある。あの一週間で沢山写真が増えた。そのどれもに光輝が映っている。
そして今この瞬間にも光輝は戦っている。自分の大切な人達を守る為に。
「私も……戦えるのかな」
そう弱々しく言ったのだった
★
夜、愛美はずっと光輝の事を考えていた。それでもお腹は減るもので母の自分を呼ぶ声が聞こえたのでリビングに入る。今いる場所はアメリカだが基本的に食卓を囲むのは日本食だ。使っている調味料とかで若干味は変わるがそれも愛美からすれば微々たるものだ。
今日の晩御飯は肉じゃがだった。よく煮込まれていてとても柔らかく出来ている。しかしそれは分かっているがやはり愛美の顔色は優れなかった。娘のそんな様子を見て心配するのは親の性だろう。晩御飯を食べ終わった時
「愛美、何かあったの?」
「え?」
愛美としてはそんな様子をおくびにも出してなかったつもりだが第三者からすればバレバレだ。愛美が両親を見るとどちらも心配そうな顔で愛美を見てきていた。
愛美は一瞬「何でもないよ」と言おうとした。だけれどもそれは出来なかった。愛美が仮にキリト達について行くことになった場合、心配をかけるのは光輝だけではない。それどころか一番心配するのは両親と言う事に今更気が付いたのだ。
愛美はそれに気が付きまた顔を下げてしまった。だが両親はせかさず辛抱強く待った。愛美は少し経った時、深呼吸した後話し出した
「あの裂け目の事だけどね……」
そこから愛美は話した。あの裂け目の正体、その先で起きるかもしれない事、そして……SAOの世界の人達の覚悟と勇気、更に……
「私も……私も行きたい。光輝を助けたい」
だがその言葉に覇気が無かった。あの時は光輝への思いが強く無我夢中で嘘偽りなく叫んだ。だが、レインから足手まといと言われ現実を考えた時それを返す言葉が無かった。
「愛美、本気なのか?」
と、父親である弘樹が聞いた。その言葉に愛美はびくっとした。だけれども覇気がないだけで芯は固まっている。愛美は頷く。両親は揃ってため息をついた。当たり前だ。二人からすれば娘がいきなり戦争に行きたいって言ってきたようなものだからだ。
弘樹は額に手を当てながら呟いた
「何で……そんな」
確かに自分達は娘の幸せを優先し光輝とのお付き合いを認めた。だがそれとこれは別だ。戦いのプロである光輝がピンチになる時、どう考えても愛美の出番はない。それが例えパワーアップしたとしても変わらないだろう。みすみす死んでしまう。だから出す答えは一つ
「ダメだ」
ただそう言ってそれ以上愛美の反撃を許さないように洗い物を洗い場に持っていき自室に向かった。美咲も夫に続くように洗い場に向かい愛美に何も言わせまいとした。
愛美はそんな両親を見て顔を下げてしまう。両親が反対する理由なんて分かり切っている。それでも……行きたい理由はいっぱいあるのに口が開けない。愛美は立ち上がり自分の洗い物も洗い場に置いた。その時美咲の顔を見た。美咲も愛美を見ていた。愛美は何かを言おうとした。だけどもそれは言葉にならずしぶしぶ自分の部屋に引っ込んだ。
「うっ……うっ」
愛美はそのままベッドに倒れ枕に顔を押し付ける。愛美は何も言い返せなかった自分に対して涙が出る。ALOでは言いきれたのに両親の前では言えなかった。それどころか自分の覚悟さえ分からなくなった。愛美はベッドの棚から写真を取る。そこには恥ずかしそうに笑う光輝と愛美、恋人になってから初めて撮った写真。それを見ると心臓がどきどきする。たったそれしかしてないのにだ。
「嘘じゃない……」
(光輝の事を想うこの気持ちだけは)
愛美はしばらくその写真を見続けたがそれを棚に戻し代わりにアミュスフィアを取った。ヘッドギアをセットし仰向けになる。
「リンクスタート」
そうして愛美は意識を手放した。
★
ALO 第47層 光輝・レイン・セブンのプレイヤーホーム
愛美は水妖精の愛美として目を覚ました。昼頃はここで世界を揺るがすかもしれない会議というか集まりがあったというのに今は誰もいない。愛美は一応ここのホームの鍵を持っている。だからホームから出る。鍵をかけた後あてもなく歩く。ALOは夜がアクティブタイムの社会人達の為に現実と時間が同期しているわけではない。今、愛美のリアルでは太陽が沈み暗闇が広がり始めているのに対しALOではギラギラに太陽が昇っている。
しかし愛美の心境としては完璧に逆だ。気分はどちらかというと落ち込んでいる
「えーみ!」
そんな愛美の落ち込んでいる肩を誰かが叩いた。愛美が驚いてみたら
「ユウキさん……」
今の愛美には眩く見える笑顔で自分の肩を叩いたのはユウキだった。この世界では一番愛美と一緒にいる時間が長いかもしれない。最早関係だけ見れば師弟関係だ。
ユウキはなんか落ち込んでいる愛美を見て疑問符の顔になる
「どうしたの? そんな暗い顔して」
勿論、ユウキはあの時の界王神の会合にいた。だから愛美が一週間後に誰かと決闘する事も知っている。てっきり今頃特訓しているのかなと思ったらこんな所にいたから気になって来たら愛美が暗い顔だった訳だ。
二人は場所を移し27層の小島にやって来た。そこで愛美は自分が抱えている不安を話した。自分の覚悟、光輝への思いと両親を前にした時の自分のギャップを話した。
「そっか……」
ユウキはそう言って小島の向こう側を見た。愛美もつられてみたが特に何かがあるわけではない。何を見ているんだろうと愛美が思った時、ユウキの口が開いた
「それで愛美はどうしたいの?」
何時もの天真爛漫な雰囲気のユウキと違い今はどこか師匠っぽい雰囲気を出しながら愛美に聞いた。愛美はそんなユウキを初めて見たからか少し驚き聞かれたことの意味を理解した時、顔を下げながら答えた
「私はそれでも……光輝を助けたい。足手まといになるかもしれない。でも……」
「ダメだね」
愛美の言葉を遮りユウキは愛美の言葉を一刀両断した。ユウキは振り返り愛美を見た。愛美はそんなユウキを眼を見開いて見ていた。あの時は何も言わなかったのに今ユウキは愛美を否定した。
愛美は心のどこかではユウキは肯定してくれると思っていた。だけれども帰って来た答えは否定
「足手まといになるなら来なくていいよ。それこそお留守番しててくれた方がよっぽどいい。まだその方が愛美の出番はあるよ」
もしその時が来た時、個人戦かレイド戦かはまだ分からない。そもそも光輝や悟空達だけで十分だった場合はユウキやレイン達の出番はない。時の界王神もそんな事は分かっている。だけれども手を打っておくのに越したことはなない。だがそう何人も連れていける程余裕がある訳でもない。
ユウキは唖然としている愛美から一定距離離れて腰の剣を引き抜きその切っ先を愛美に向け視線を愛美に固定し言った
「中途半端な気持ちで言ったのなら悪い事は言わない。君は行くべきじゃないよ」
「中途半端なんかじゃない!」
愛美はそのユウキの言いように怒りが出て立ち上がり言った。だがその顔や言葉にはまるで覇気が無かった。ユウキもそんな事は分かっている。だからこそ追い打ちをかけた
「だったら何を迷う必要があるの? 愛美に本当の覚悟があるのなら迷う必要はない」
「!」
確かにそうだ。本当に死闘になるであろう戦場に向かう覚悟があるのなら両親だろうが愛美は言い負かす事が出来たはずなのだ。しかし、現実は出来なかった。自分の力不足を知りながらも愛美は戦場に行きたいと言った。自分の中の気持ちは固まっていたはずなのに両親の前では言えなかった。……中途半端なのだ、愛美の行動のなにもかもが。そして愛美が聞きたくない事をユウキは言った。
「君は本当に光輝の事が好きなの? 光輝の為に命を懸けられるの?」
その言葉に愛美は怒りよりも狼狽の気持ちが多く出た。真正面からそう自分も心の中で思っていた事を言われたからだ。8年も恋焦がれた。生きてると信じ続けて来た。そして……恋人になってくれた。でも……だったらなんで今自分は悩んでいるんだ、と。
愛美はそのユウキの言葉に思わず少し顔を下げかけた。だがそれは出来なかった。何故ならALO最速クラスのスピードをもってユウキが愛美の目の前に踏み込んできていたからだ。
「──!」
愛美は咄嗟に飛びのくことで回避しようとしたが間に合わずユウキの袈裟切りを回避できなかった。赤いダメージエフェクトが愛美に入る。実戦ならもう終わりだった。愛美はいきなりの事にユウキを見た。ユウキは再び構え言った
「一週間も待つ必要はないよ。僕が今ここで引導を渡してあげる」
ユウキも出来るなら死人なんか出したくない。いや、いつものボス戦の様に死者を出さない。それがどんな強敵でも。だが中途半端な者が1人いるだけで空気は変わる。ならここで愛美の戦意を完全に消し去る。それがユウキが光輝の為に、そして愛美自身の為に出来る事だ。
「さあ剣を取って」
今までのユウキと雰囲気が違う事に愛美は戸惑いながらも腰の剣を引き抜き中段に構える。そんな愛美にユウキは自分の剣を向け……接近した
(早い!)
ユウキの今までの特訓とは違うスピードに愛美は反応が出来ずに攻撃を許した。
「──! やあああっ!!」
愛美は気合の入った叫びを出しながらユウキに迫るがユウキはそれを簡単にしのいで見せる。愛美がその剣戟のさなかユウキの瞳を見るとユウキは射貫くような眼で愛美を見ていた。それに愛美は一瞬たじろいでしまった。そんな隙を見逃すほどユウキは甘くない。
「あ……」
愛美の剣を上に弾きその手から剣を離させる。そして愛美の顔面すれすれにユウキは剣を突き付ける。僅か10秒ほどの戦いだった。
愛美はそのユウキの射貫くような……全てを貫くような視線を見て思った。
(怖い)
ただそう思った。何故なら愛美は死にかけたことはあるが何時も光輝が助けてくれた。だが今は光輝はいない。そして……目の前のユウキは本気で自分を殺すつもりというのが嫌でも分かってしまった。本気で自分から中途半端な戦いの意志を消し去ろうとしているのだと。
愛美は命を懸けたことはない。何時も安全圏内でやって来た。それが普通ならば正常だ。だが光輝と付き合っていくには普通で止まったらだめだ。そして……ここが仮想世界という事も忘れて愛美はただ恐怖を感じた。愛美の眼が虚ろになってきたのを見てユウキは剣を下した
「戦うのは怖いよね」
「……え?」
唐突にユウキからそんな言葉が出てきて変な答えになってしまった。しかしユウキは気にせず続けた
「僕がエイズだったのは知ってるよね?」
「はい」
「あの時僕は生きる事を諦めてた。エイズと戦う事が怖くて……ただ死を受け入れてた」
諦めてた? ”原作”のユウキさんは精一杯生きてた。精一杯笑って病気と闘って……私の知っている”原作”のユウキさんはそうだった。だけど……諦めてた?
「あ、その眼疑ってるなぁ? でも本当だよ。あの時の僕は精一杯生きて死のうって思ってたんだ」
ユウキさんはそんな暗い話を普通に話してくる。私の中にあった暗い気持ちはまだあるがそれでも今のユウキさんの言葉を聞かなくちゃいけないと不思議と思った。
「でも……それで光輝に怒られた。『今を生きたくても生きられなかった人達がいる。全ての手段を探してもいないのに諦めるな』ってね」
そうどこか懐かしそうに話すユウキさん。でも光輝がそう思った理由は分かった気がする。お義母さんやお義父さん……それにお姉ちゃん達は本人の意志とはなしに殺された。でも……ユウキさんには時間や治る方法があるかもしれないのにそれを探さなかったのに怒ったんだ。ユウキさんは自分の心臓に……仮想世界に心臓はないけど手を当て眼を閉じた
「でも……僕は生きたかった。そう願ったから光輝は僕に協力してくれた。だから僕は今生きている」
ユウキは気を取り直したように愛美を見る。その眼が今度は試す顔になった
「だから僕は光輝の為に命を懸けるよ。それが僕にできる光輝への恩返しだから」
ユウキさんのアメジスト色の瞳が語っている。「君はどうなの?」って。少し私は眼を閉じた。それだけで光輝の事が出てくる。自分でも光輝に依存してるなって思っちゃう。でも……心臓はドキドキしている。こんな状況なのに簡単に光輝との思い出が出てくる
初めて助けてくれた日の事
私を励ましてくれた時の事
映画やプールに一緒に行って遊んだ日の事
私の為に命を懸けてくれた日の事
世界を懸けた一戦で私の事を話してくれたこと
名実ともに私の世界の
そしてこのALOで遊んだ時や……ファーストキスした時の事
(あの気持ちが全部嘘だった?)
そんな事ない。私は光輝の事を”愛してる”。それは……それだけは絶対に嘘じゃない。
だって……光輝の事を考えただけでこんなにドキドキして光輝が戦ってるって分かっただけで不安になる。光輝が悲しかったら私も悲しくなる。光輝が辛かったら私も辛い。
だったらそこにある気持ちは……
私はそこで眼を開いた。ユウキさんは剣を持ったまま私を見ていた。そこにある眼光は剣士としてのものだった。でも……不思議ともう怖くなかった。迷いの気持ちももうなかった。
「私は光輝の事を愛してる。だから私は光輝を助けたい! 私と光輝は”運命共同体”、光輝の戦いは私の戦い。もう迷わない!」
そこで少し深呼吸する。それだけで落ち着ける。そして私は変わらない……それでいてさっきとは違う結論を言った
「だから私は行く。光輝だけに世界を背負わせない!」
そう聞いたユウキさんは数秒たちふっと笑った気がした。そして剣を構えた
「だったら君が今すべき事は何?」
私はさっき弾かれた剣を取って構えた。今のユウキさんに纏う雰囲気はもう”ゲーム”の雰囲気ではなく”剣士”としての雰囲気だった。でもそんなのは怖くなかった。私が今すべきなのは5年前の光輝と同じ、守りたいものの為にその腕を磨くこと。
「お願いします!」
愛美はそう叫びユウキに肉薄したのだった
お疲れ様です。ユウキさん、愛美に戦意を失わせようとしたのに戦意を復活させた。ユウキが少し笑ったのは光輝みたいに非情になれなかったから少し自虐の意味を込めてる。
愛美ははっきり言って結構依存癖があります。
次も愛美の話です。いやすいません。その次にヒルデガーン戦です。ではでは