Warrior beyond despair   作:レオ2

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おはようございます。
前半悟空達で,後半光輝の修業です。
では!


己の矜持

 ──乱戦

 

 神域に辿り着いた戦士達が,自らの目的の為に戦いを繰り広げる。光輝の命名,インフィニットワールドで今一番凄まじい戦いが繰り広げられていた。

 

「調子に乗るな人間が!!」

 

 神がサイヤ人の子に振るう刃は,正義の戦士によって軌道を変えられその間隙をサイヤの子が狙う。

 

「ピッコロオオ!!!」

 

 薄紅色の刃がナメック星人に振るわれるが,それをナメック星人は腕一本で防ぎきる。そして反撃に巨漢の正義の戦士が剛腕を振るう。

 

「ウオオオオッ!!」

 

 邪悪な赤黒い気を纏った存在が,黄金の戦士に力を放出するがそれを黄金の戦士は避け,反撃していく。途中から合流した灰色の戦士の助けもありサイヤ人を追い詰めていた。

 この乱戦を空から俯瞰している唯一の男は内心呟いた

 

(このままでは劣勢……いや敗北するのは必須だな)

 

 ブラックと呼ばれる孫悟空の肉体をした存在はその特徴から徐々に戦闘力をあげていくが,それでも記憶のナメック星人よりも大幅にパワーアップしているピッコロという存在とプライドトルーパーズのリーダー,トッポを同時に相手にするのは至難の技。

 それにトッポの心を読んだから知っているが,トッポの本気はこんなものではない。ブラックの戦闘力が上がる前に破壊されてしまうだろう。

 また,彼の分身たるザマスは不死身ゆえにダメージを負っている様には見えないが戦闘力という点で孫悟天,ディスポの両名に劣っている。これでは勝つことは出来ないだろう。

 そしてカンバー,この面子の中では恐らくブラックを凌駕し一番の実力者であることには間違いはないが相手が悪かった。どの時代の孫悟空かは分からないがフルパワーも出していない今の段階でカンバーを圧倒している。それに彼が仮に負けたとしても未だに強さが未知数のジレンの存在。自分がこのまま誰かしらの援護に向かったとしても,この戦力差を覆せるとは思えなかった。

 そしてさらに言えば……

 

(俺の興味はあの光輝という戦士に向いている,か)

 

 ハーツは,この事態で戦いのエネルギーを回収しているあの宇宙樹を回収する事にあった。そして全王への打倒,その目的がブラック達と一致して利害関係の元で協力関係を築いている。

 だがそこで自分は見た,絶望的な状況の中でもカンバーの悪の気と向き合い未完成ながらあの気を克服しつつあった光輝という戦士を。

 全王,そして神という存在に作られた生命が持つ最高の邪悪がカンバーというのなら光輝という存在は反対の光の存在……それも闇をも力に変える存在だ。

 

「……興味深いね」

 

 完全な劣勢を強いられているカンバー,力では勝っている筈なのに純粋な技で負けている。力こそがサイヤ人の矜持,そしてその力は邪悪な存在だからこそ振るえるというのがカンバーの論。しかし迎え撃っている孫悟空はカンバーのような強烈な悪の気を纏ってはいないのにも関わらず凌駕している。それに,先程彼の心も読んだ結果そもそも目の前にいる戦士達はピッコロと孫悟天以外自分と戦った事のある時空の戦士達だ。悟空はかつてカンバーと戦った事がある時空の悟空らしく,カンバーと戦う事が出来るのは至極当然だなと思った。

 

「それに孫悟空はまだ本気じゃない」

 

 別の次元の孫悟空とベジータの超サイヤ人ブルー,トランクスの超サイヤ人ゴッドと孫悟飯の娘のパンからサイヤパワー与えられて限界突破した超フルパワーサイヤ人4・限界突破の存在がある。本来なら彼単体でブラックやザマス,カンバーという存在を纏めて相手とっても戦える力の持ち主だ。

 

(ここは撤退が無難だね)

 

 考えたが吉日,ハーツは果てしない激突をしていたカンバーと孫悟空の元へ現れた。

 

「……! おめえはハーツ」

「何の用だハーツ!! 俺の邪魔をするとは覚悟は出来ているんだろうな!!」

 

 戦いの乱入をされたからかカンバーは怒りを感じる声色で言いながらハーツに向けて気弾を形成する。しかしその腕をハーツは自身が作り出す重力キューブを彼の腕だけに作り出し抑えた。

 

「落ち着けカンバー,ここは撤退するよ」

「ぬうう!! 何故だ!」

 

 君が孫悟空には勝てないからだ,なんてことは言わない。確かに今は負けてはいるがカンバーが孫悟空に劣っているとも思っていないからだ。同じサイヤ人,それも血自体は古代のサイヤ人であるカンバーの方が濃いのは必然。そんな彼が現代のサイヤ人でもある悟空よりも強くなる可能性はあると思っているから。

 現にカンバーは先程までなら光輝相手になら猛威を振るっていた。けれど,ハーツはだからこその撤退を選ぼうとしていた。

 

「君には,あの光輝という存在と戦ってほしいからね」

「なんだとっ!!?」

 

 思うように動けない腕を何とか動かそうとするが,腕だけにかけている重力キューブはカンバーの想定よりも遥かに重く簡単には動けなかった。

 それを見越しているのでハーツはカンバーに向けていた視線を,正面にいる悟空へ向ける。今撤退すると言う言葉が本当なら敵である悟空は見逃すはずが無い……が,ハーツは悟空に関しては見逃してくれるだろうと算段を持っていた。

 

「あの光輝という少年,まだまだ強くなる。そうだろ?」

 

 光輝がもう1人の孫悟空とベジータに連れられてどこかに行ってしまう際,光輝の心も覗いていた。

 

「この世界と根本的に違う次元から来た転生せしサイヤ人の戦士,僕はあの子供がどれほどの力を身に着けるのか楽しみなんだ」

 

 そこにあるのは,心の底から光輝の行く末を見たいと感じるハーツの穏やかな表情だった。それに悟空は面を食らったが,同時にハーツの言う事も分かる。自分も西沢光輝という1人の人間の才能を見て,鍛えてきた人間だ。その光輝もこの世界に来てから更なる飛躍をしている。この世界を脱出するころの光輝の実力はどれほどのものなのか想像も出来なかった。

 しかし,それを認められない存在がここに1人

 

「転生だとッ?! 誇り高いサイヤ人の血を,勝手に作ったと言うのか!!」

 

 それはカンバーからの怒りの声だった。戦闘民族サイヤ人,その存在に生まれる事が出来たのはカンバーにとって僥倖であり自らが纏う悪の気はそのサイヤ人の在り方を示してきたものとしてなによりも誇りに思っている事だ。

 つまり,カンバーにとって邪悪な事は前提としてサイヤ人という存在がなにより誇りであり光輝がそのサイヤ人のへと変化した存在というのなら光輝は元々サイヤ人ではないと言うのはカンバーにとって何よりも許せない事だった。

 

「あのような下郎が,誇り高きサイヤ人になっただと!!」

 

 彼のサイヤ人であることの拘りはもしかしたらベジータ以上かもしれないと悟空は思った。ただし,誇りに関してはベジータを上回るサイヤ人を知らないが。

 

「許さん! 許さんぞ貴様あ!!」

 

 激昂し強引に重力キューブを破壊しようとするがハーツが彼を落ち着かせようと更に強化する。しかし想定以上にカンバーの気が膨れ上がりハーツでも抑えが効かないほどになる。そこに響く波紋のように広がる声

 

 

「なら,また光輝と戦うか?」

 

 

 落ち着いた声を発したのは悟空,その落ち着いた声はカンバーの中に浸透し動きを止めた

 

「あのようなサイヤ人の誇りを失った下郎に戦う価値などなし!」

 

 それよりも悟空と戦わせろと思うのがカンバーの本音である。それが本来,強敵と戦えることが嬉しい筈の悟空でも今回ばかりは光輝の矜持の為,彼に譲ろうと思っていた。

 

「とか言っておめえ光輝に負けるんが怖いんじゃねえのか?」

「この俺が恐れを抱いてるだとッ?! 出来損ないを恐れる俺ではないわ!!」

「なら良いじゃねえか。それに,そんなにオラと戦いてえならおめえが光輝を倒した後に戦ってやる」

 

 カンバーはイライラしていた。悟空に攻撃をしたいのにさせてくれないハーツへ,そして自分が光輝に負けると思っている悟空に。だからカンバーは一周回って落ち着いた。

 

「良かろう! あの下郎をズタズタにして殺してやる!」

 

 言って取り合えず重力キューブに反発していた力が収まったのを感じ,ハーツはその重力キューブを外した。外した瞬間に悟空に襲い掛かるかもと思ったが,心を読んだ限り本気で今の一番の敵意は光輝に向けられているからだ。

 ハーツはニヤリとし,悟空へ向いた

 

「光輝君の修業は何時頃終わるかな?」

「2日後だ」

 

 言いながら悟空の心を読むハーツ,精神と時の部屋と言う事で修業すると言う光輝。そこは外界と時間の流れが異なりこちらの世界での1日が向こうでは1年間という修業をする上では最も効率のいい部屋。

 

「では,二日後ここでまた会おう」

「あの小僧に伝えておけ,俺の前に立ったことを後悔させてやると」

 

 そう言ってカンバーとハーツはこの場を離れた。悟空はそれを見送った後,自分の背後に立つ男,ジレンへと向いた

 

「何故奴らを逃がした?」

 

 その言葉には純粋な疑問があった。悟空ならばあの2人を相手とっても戦えると思っていたしだからこそ何故あのカンバーの相手を光輝に任せたいのかが分からなかった。

 悟空は超サイヤ人3の変身を解きながらその疑問に答える

 

「カンバーは兎も角,ハーツはそんなに悪い奴じゃねえ。それに光輝の心の壁を壊すにはカンバーと戦わなきゃなんねえ」

 

 悟空は光輝がどこか焦っていた事に気が付いていた。超サイヤ人4に変身することが出来ても勝てない敵が出てきていたから。それはさっきのカンバーだったりハーツ,そしてブラックにも未だ勝てないと光輝自身が分かっていた。

 悟空ならば,例え勝てなくとも修業を繰り返し最終的には勝てるようになるだろう。だけど光輝は少し違う。基本的に光輝も修業を繰り返し力を身に着けてきた人間だ。だけどその目的は自分の矜持を守る為だ。自らの人生と,それを構成してくれた人たちとの繋がりを守るために強さを求めるのが光輝だ。

 

「悪い事がサイヤ人の在り方……それを否定してえのに出来なかった事はオラがあいつを倒してもあいつの中に残り続ける」

「それをあいつが自分で打ち破る為に,と言う事か」

 

 カンバーの,サイヤ人としての在り方を光輝は否定した。否定したからこそその悪の気を制御しカンバーを打倒そうとした。

 だけどそれが出来なかった。自分やベジータ,バーダックや悟飯に悟天,トランクスの在り方を見ていたからこそ否定したことが出来なかった。

 

 強さこそ,自分の意見を通すのに必要な世界。それがジレンにはよく分かっていた。光輝個人の感情をカンバーに認めさせたいのならば光輝がカンバーに勝つことが必須。その機会を悟空は作ったのだ。

 これは信頼がどうとかそんな話ではない。2人の戦士が,それぞれの矜持を守るための戦いと言う事だ。

 一応の納得はしたジレン,しかしそんな彼も疑問はまだある

 

「だが,はっきり言って今の奴ではあのサイヤ人には勝てないぞ」

 

 それがジレンの感想だ。自分も戦った事があるからこそ分かるが,奴の悪の気は生半端な気持ちで受けて良いものではないし,それがなくとも奴の身体能力自体は自分に匹敵する。そんなカンバーに今の光輝が勝てるとは思えなかった。

 悟空はニヤリと笑った後,天界がある空へと眼をやった

 

「ああ,けんどオラは見てみたいんだ」

「何をだ?」

「サイヤ人でもなかった光輝が,サイヤ人としての在り方を証明する為に戦う。そんな光輝が壁を越える姿を」

 

 タイムパトローラー,孫悟空・ゼノは光輝の才能に惚れた1人だ。自分とは根本的に違う存在,自分と同じサイヤ人になった後でもそれは変わらなかった。

 自分よりも”愛”を大切にし,無くなってしまうが故に恐れそれでも向き合う事を決めたサイヤ人。だからこそ繋がりを力に,誰かの願いを力に変えてきた光輝は特異な存在とも言える。そんな光輝が,サイヤ人の悪の部分と……いやもしかしたらサイヤ人の在り方とも向き合い壁を越えた彼の力を見たかった。

 

 ★

 

 精神と時の部屋,外界と切り離されたこの場所で赤と蒼がぶつかり合っていた。2つの蒼は1つの赤を追随する。

 

「はあああ!!」

「ぬうう!!」

 

 赤は真正面から蒼の戦士達と激突する。

 超サイヤ人ゴッド,その先の力である超サイヤ人ブルーとの激突で幾度も弾け地面へと弾き飛ばされる

 

「くっ!」

 

 超サイヤ人ゴッドになっているのは光輝,弾き飛ばされた地面へ難なく着地を決めた彼だが次の瞬間には超サイヤ人ブルーに変身しているベジータから放たれたエネルギー弾の嵐が放たれていた。

 

「ちッ!」

 

 その嵐の中をかいくぐるように炎のような気を燃え上がらせベジータへと向かう。しかし,もう直ぐ根源であるベジータへと辿り着くという時にベジータは唐突にエネルギー弾を撃つの止めた。

 

「なにっ?!」

 

 次の瞬間,光輝の背後には同じく超サイヤ人ブルーである悟空が瞬間移動で現れていた。光輝は咄嗟に同じ瞬間移動で攻撃を躱そうと見たがその前に悟空の拳が頬に突き刺さる

 

「ぐぁ!」

「どうした! そんなんじゃブルーになれねえぞ!!」

 

 遠心力に従い吹き飛ばされた光輝の前ににベジータが現れ絶え間のないラッシュが光輝を襲う。

 

「貴様の力はその程度か!!」

 

 光輝は自分に制限を設けていた。千鳥やその他忍術の禁止,武器の禁止,己の技と力で2人の修業を受けていた。そうしなければいけない修業だと光輝本人が思っているからである。

 

「だりゃあ!!」

 

 ラッシュの狭間に見つけた隙でベジータに蹴りを放つが,それすらも読んでいたのかその蹴りは空を切る。背後に回られたと察した時にはまた地面へと真っ逆さまに落ちている。それに内心舌打ちしながら体をくるりと回し着地して再びベジータへと突撃を噛まそうと思ったが,真正面から悟空が迫っていた。

 

「守ってばっかじゃ勝てねえぞ!!」

 

 一瞬腕を交差させて防御体勢を築いた光輝だが,悟空の勢いの乗った拳がその防御を簡単にブレイクする。

 

「くっ」

 

 そのガードが崩れた瞬間,眼前には悟空だけじゃなくベジータも現れ目にもとまらぬ乱撃が光輝を襲う。

 

「どうした!! 俺達を越えて見せろ!!」

「おめえが強くなればオラ達ももっと強くなる!!」

 

 孫悟空とベジータ,2人のサイヤ人は基本的に1対1の対決を望む。しかし,こと戦闘において共闘する時は凄まじい連携を発揮する

 それは内心光輝も思っている

 

(この2人,1対1でも勝てるか分からないのに手を組んだときのこの連携はなんだよ!)

 

 どちらか一人を対応しようとすると必ずもう1人が自分の防御をブレイクしてくるし,逆にこちらが攻撃をしても2人の実力ならば簡単にいなしてくる。

 それも凄まじい連携だ。キリトやアスナさんみたいな完全にシンクロしている連携って訳ではない。寧ろお互いがお互いの動きのまま攻撃してくる。だけど,そのちぐはぐさが歯車同士が絶妙に噛み合って対応しきれない連携を生み出してる。おまけに完全なキリトとアスナさんのようなシンクロは最初は脅威かもしれないが,慣れれば寧ろ却って読みやすい連携になる。

 でも,それをこの2人は意識もせず相手と動きをずらしてくるから対応が出来ない

 

「しまっ」

 

 悟空さんの拳を防御した瞬間に腹部に強烈な蹴りが放たれていて,俺はそのまま吹き飛んでしまった。

 

「かはっ!」

 

 なんとか着地をするも,余りの威力に膝を付く。そんな俺の前に現れる2人の超サイヤ人ブルー,正直今にも超サイヤ人4へ変身したい。そうすれば勝てはしないかもしれないが互角にはなる気がしたから。これが超サイヤ人ブルーに変身する修行じゃなかったらきっともうなってたんだろうなと思った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息の詰まる攻撃で足りなくなっていた酸素を少しでも取り込む。それを見ている2人は振り返るように言ってくる

 

「おめえの動きは悪くねえ。向こうのオラの弟子ってだけあっぜ」

「だが貴様は何を気にして戦っていやがる」

 

 ……やっぱりバレちまうか。違う次元とは言え俺の師匠達,一緒にいた時間はそれほどない筈だが何で分かるのかな。

 

「俺は……これまでサイヤ人である事にそれほど疑問に思った事はありませんでした」

 

 確かに,トランクスさんは最初俺が助かる為に俺の世界の地球人よりも強靭な肉体を持つサイヤ人に転生させたと言っていた。あの後からタイムパトロールになったから分かるがサイヤ人の肉体はどの種族よりも強靭だし戦闘力のコントロールもしやすい。確かに魂の入れ物としてサイヤ人の肉体はぴったりだったと思う。だからこそ疑問に思わなかった。周りのサイヤ人は悟空さんや悟飯さんに悟天さん,トランクスさんにベジータさん,バーダックさんみたいに良い人が多かったからサイヤ人が悪という認識はそれほどなかった。

 

「だけどあいつは違う」

 

 思い出すのはカンバー,サイヤ人は邪悪さこそが本質だと言い放ち身に纏う気はそれに違わぬ邪悪な気だった。

 悪いサイヤ人だっているのは分かっていた。ターレスやブロリーもその部類だろう。ナッパはちょっと微妙。あの人は最後の表情が印象に残っている。

 

 閑話休題

 

 だけどカンバーは今までのサイヤ人とは根本的に違う。俺は力を振るう人の心が正義か悪かを決めると思っていたしそれは今でも思っている。

 だからあいつに悪だと語っているのはあいつだけだって叫んだ。でもそれを俺は証明出来なかった。奴に負けた,奴の気を食らって暴走しても……それを力に変えてしまった。それはまるで,俺の中にもそう言った邪悪な部分があると言われているようで……

 

「そんな事か,下らん!」

 

 唾棄するように吐き捨てるベジータさん,やっぱり俺の事が気に入らないのか超サイヤ人ブルーの変身を解き踵を返した。精神と時の部屋の入り口に当たる宮殿へ姿を消した。

 困った顔をしているだろう俺の顔を見た悟空さんはしょうがないなと言いたげに見送った後,変身を解いた。俺もそれを見て変身を解く。

 

「悪いな,ベジータも悪気がある訳じゃねえんだ」

「いえ,俺もああいうベジータさんは慣れてると言うか……」

 

 俺は少し疲れてしまい,その場で座った。重力10倍だからふつうこんな事したらあっと言う間に辛くなるはずだが,今更10倍程度なら0倍と何も変わらないな。

 悟空さんも俺の隣に来て座った。2人してあのベジータさんがいる宮殿に行くのは気が引けたらしい。

 

「正直言うと,本当は超サイヤ人になるのもある意味サイヤ人への侮辱になるのかなって最近は思ってるんです」

「ん? なんでだ?」

 

 悟空は光輝がそう思う理由が分からなかった。だけど,それは地球人からサイヤ人へとなり,その後も偉大なサイヤ人を見て来たからこその考えだ

 

「超サイヤ人は……サイヤ人がサイヤ人であるからこそ変身する事が出来る切り札的な存在。それを,後々にサイヤ人なったとは言え地球人でもある俺が使うなんてまあ人によっては許せないよなって」

 

 本来の西沢光輝なら,超サイヤ人になることすらなかった。俺が笠木を小1の時に捕まえる事が出来たのならSAOに行く事も,こうやって悟空さんと語らう事もなかっただろう。外の世界から監視されているようで余り好ましくないが時の巣の界王神たちが俺を見出す事もなかった。

 きっとあのまま愛美と別れ,それでも家族の愛を受けながら育ったと思う。こんな時空の混乱を止める戦いなんて無縁の人生を送ることになっていた筈だ。そして,あの蒼赤の力を手にする事も。本当の意味で俺は地球人として過ごしていたはずだ。

 

「ナッパやターレスみたいに超サイヤ人になる事が出来ない人から見ても正直いい気分はしないだろう」

 

 自分は超サイヤ人になる事は出来ない,それなのにこの前までサイヤ人でもなかった人間が自分以上にサイヤ人であることを使いこなしている。

 カンバーという存在と出会ったから考えてしまう事。力はただの力でありそこに正義とか悪なんて概念はない。

 

「だけど……その超サイヤ人の力でさえもしかしたら紛い物なのかもしれない」

 

 サイヤ人が超サイヤ人を使うのならなんら問題ないだろう。それは生まれ持った種族の特性みたいなものでありそれにケチをつけるなんて頭が良い人に「頭いいなんてズルい」なんて言っているのと同じだからだ。

 だけど俺のはもはやインチキに近い。俺が持つ地球人としての力なんてそれこそリコレクションブレイブ位で,本来ならリコレクションブレイブだけで戦うのが地球人としては正解だ。でも俺は超サイヤ人になって,サイヤ人としての在り方の為に戦おうとしている。部外者がケチを付けているもんだ。

 

「あーあ,前はこんな事思ってなかったのに」

 

 言いながら俺は仰向けに倒れる。精神と時の部屋はあの宮殿以外に建物はない。地面という概念はあるが上と左右に関しては果てしない。

 だからこうやって上を見ている光景も,本当は果てしない空間があるだけだ。

 

「力そのものに善悪はない。蒼赤の力も,リコレクションブレイブでさえ壊す為に使えばそれは悪だ。超サイヤ人も同じ。だけど俺の場合はなんだろ……種族の力を併用してるようなものですから」

 

 分かりやすく言うなら,ALOでリーファさんの種族でもあるシルフは種族補正として他のプレイヤーよりも聴覚が優れているっていうシステム的な恩恵を受ける事も出来るし,ALOの醍醐味と言っても良い飛行速度にも補正がかかる。でももしその種族補正とでも言うべきものがサイヤ人の特徴であるにも関わらずそれを地球人という,サラマンダーとかウンディーネの種族がシルフと全く同じ種族補正を受けられるなら……とてもそんなゲームをしたいと思う人はいないだろう。

 俺の今の今まで使っていた超サイヤ人という力も同じ,ぶっちゃけズルなんだ。本来は地球人であるはずの俺が,地球人として持った力とサイヤ人としての力を持っているなんてこれがALOなら即刻アカウントBANものだ。

 

「んー,でもおめえも超サイヤ人になるまで相当苦労したんだろ?」

 

 悟空さんは,あのナメック星でのフリーザとの戦いのときに覚醒した。俺も当時は現場に立ち会ったから分かる。クリリンさんが殺される怒りなんて普通に過ごしている分には絶対に起こらない。悟空さんの超サイヤ人は,あの戦いだったからこそ出来たと言ってもいい。

 そしてそれは俺も同じ……だと思う。

 

「まあ……正直親しい人が死ぬのを想像して超サイヤ人になるのはもう懲り懲りですね」

 

 俺の超サイヤ人は愛美や櫂さん達一家が笠木に殺される強烈なイメージで変身する事に成功した。もちろん直前にバーダックさんの超サイヤ人を見ていたのもきっかけの1つではあるけど。

 

「オラはおめえが思ってる事がよく分かんねえぞ」

 

 そう悟空さんが遥か先の世界を見据えながら言った。まあ,悟空さんがそう思うのは正直無理はない。こんな悩み,持つことのできる人物なんて俺の知っている限り俺ともう1人だけだ。そしてそのもう1人はこんな悩みを持つことは今の所絶対にない。

 いや……あいつの場合はその悩みがないからこそ,あの姿に変身する事が出来たのかもしれないな

 

「おめえとブラックは違う」

 

 ──

 

 光輝は悟空が呟いた言葉が周りの空気に浸透するように消えていったのを聞き,少し呆然としながら隣で胡坐をかいている悟空を見た。

 

「……俺ブラックの事なんて言いましたっけ?」

 

 さっきまでカンバーの話をしていたから出てくるとしてもカンバーの事だと思っていたのに,悟空さんは今まで話題にも出していないブラックの事を話してきて少し驚いた。

 

「何となく,な」

 

 悟空さんは茶目っ気にこちらにウインクしてくる。どうやら……全部見透かされていたみたいだ。

 

「俺の……カンバーに対してサイヤ人としての矜持を示そうとした時俺自身はどうなんだって思ったんです」

 

 言いながら俺は自分の掌を見る。何もない手,愛美からは大きくて優しいと言われた手。けれど,何人も血に染めた手。

 

「こっちに来る前はそれでも戦いに集中しようと思ったんですけど,やっぱりこの精神と時の部屋に来て悟空さんとベジータさんと戦っている内に思ったんです。俺も……ブラックと同じじゃないかって」

 

 超ドラゴンボールを使って界王ザマスの肉体と,戦闘民族サイヤ人孫悟空の肉体を入れ替えよ。神の魂を持った存在が悟空さんの肉体に宿る。

 地球人の魂だった俺が,サイヤ人の肉体へ転生したように。

 

「ははっ……笑えねえよ」

 

 俺がカンバーよりも,ある意味一番憎いと思ったブラックとやっていることが全部同じなんだ。

 自分じゃない,自分の肉体で超サイヤ人という力を使っている。本来は持つことが無かった力を使っている。俺とブラックが違うのはその力を使う目的のみ。

 でも……同じなんだ。

 

「ブラックは……孫悟空であることに何も疑問を持っていないからある意味純粋にあの身体を使える。超サイヤ人ロゼも……俺と同じ悩みを持っていたのならなれなかった筈だから」

 

 超サイヤ人ブルー,戦ってみた感じ根本的な変身によるパワーアップでは恐らく超サイヤ人4と同等。だけど超サイヤ人ブルーには4にはない特徴がある。それが完全な気のコントロールだ。気のコントロールが出来ていないと例えば界王拳のような身体に更なる負荷がかかる技は使えない。超サイヤ人は,その身に宿る力が発散的に爆発する変身だけど,超サイヤ人ブルーは力に振り回されることがない。でも……俺はそれが出来ていない。”超サイヤ人”と言う事に根本的な疑問を持ってしまったから。

 

 時間にして数分,外の世界では何十時間の流れの中で光輝は沈黙した。けれど,そんな沈黙を打ち破るように明るくて優しいサイヤ人は語った

 

「さっきも言ったけんど,おめえとブラックは違うさ」

 

 そう言いながら悟空さんは立ち上がって拳を握る

 

「確かにおめえはサイヤ人の身体で,地球人でもあるかもしれねえけんどその姿を手に入れるために強くなったんは間違いなくおめえの力だ」

 

 分かっている。超サイヤ人も,超サイヤ人2も3も,限界突破に超サイヤ人ゴッド,そして超サイヤ人4も……間違いなく俺自身がこの肉体で,俺自身の意志で強くなった証左。

 だが生まれは間違いなく地球人,力の根源も。

 

 光輝は歯ぎしりしていた,自分の力の源が分かってくるだけあのブラックに重なってしまうから。

 

「オラ思うんだ,何かを守る時に大事なんは力を振るう奴の姿形じゃなくて心なんじゃねえかなって」

「……心?」

 

 それはさっきから俺が思っている振るう力の善悪とかそう言う話なんだろうか。

 悟空さんはニッと笑いながらこちらを見下ろす。

 

「光輝は今まですっげえ強い奴と戦ってきたんだろ? 何でおめえは戦ってきたんだ?」

「それは……自分の大切な人達を守るためです」

 

 そんなの決まっている。

 笠木に全てを奪われた……全ては言い過ぎだが,あの日から俺の戦う理由なんてそれだけだ。ぶっちゃけ愛美や櫂さん達にキリト達にお姉ちゃん達の優先順位が高すぎて他の人に関しては余裕がある時だけだが,その信条だけは変えていない。というか変えられない。

 それを変えたら……西沢光輝の存在意義がなくなってしまうから。

 

「じゃ,そいつらがおめえのサイヤ人としての力に何か文句言ったんか?」

「それ……は」

 

 俺は一応知っている,愛美のいる世界でサイヤ人であることに拒否反応を起こしている人達がいる事に。でも愛美たちが,サイヤ人としての俺に何かを言った事は……ない。

 無言が答えとしたのか,曇りのない笑顔で悟空さんは言った。

 

「だろ? おめえがもしサイヤ人じゃなくても,光輝なら地球人としても立派に戦ってそいつらを守ってたさ」

 

 それは……例え超サイヤ人の力がなくてもまた違う力で俺は戦っていた,と言う事か? 今までの旅路で,何度も超サイヤ人に助けられてきたけれど俺はそれが無くても戦っていたのか? 

 俺が仮に地球人のままだとしても,ナッパ,ターレス,フリーザ,クウラ,人造人間達,セル,そして魔人ブウ。この世界に来て戦った多くの敵達。俺が倒れたら,愛美たちを守れないと分かっていたのなら俺は例え超サイヤ人がなくても戦い続けたか……? 

 

(決まってる)

 

 笠木の時と同じだ,自分の持ち得る力の全てを使って俺は戦っていた筈だ。勝てる勝てないじゃない,譲れないものがあるのなら立ち上がるのが……西沢光輝という人間だ。

 サイヤ人……地球人……? 

 それがどうした? 

 

「おめえは昔のサイヤ人って事を認められなかったオラとは違う。じゃなかったら初めておめえに会ったベジータがあんな怒る事ねえさ」

 

 ……確かにそうかもしれない。

 戦闘民族サイヤ人,それに誇りを一番持っているベジータさんが生まれ持ったものではなく後から転生してサイヤ人になった人の事なんて本来はムカつくはずだ。というか,タイムパトロールの方のベジータさんは暫くそうだった。当時の俺がその現状をあっさりと受け入れたから余計にそう思ったはずだ。

 でも,そのベジータさんが今は俺をサイヤ人だと認めてくれている。

 

「少しはおめえの知ってるベジータを信じろよ。オラ達サイヤ人の王子なんだぜ?」

「……ふ」

 

 悟空さんがベジータさんを王子と呼ぶなんて少し珍しいなと思ったが,その通りなんだろう。

 俺達の王子が,俺をサイヤ人だと認めてくれている。じゃないとこっちのベジータさんも俺の修業を付けようなんて思わなかった筈だ。

 そして,その俺自身がサイヤ人であることに疑問を感じたのならそりゃあ認めてる側からしたらフラストレーション溜まるわな。

 

「あははは」

 

 何だか,今まで悩んでいたのが馬鹿みたいに笑みがこぼれて来た。

 カンバー,どの歴史でも見たことが無い邪悪に満ちた気を持つサイヤ人

 ブラック,悟空さんの肉体を奪い未来を滅茶苦茶にしていた自称神

 許せなかった,サイヤ人の本質を邪悪さだと履き違えているサイヤ人が。

 許せなかった,尊敬する人の身体を我が物顔で使っているクズが。

 だから守ろうとした,サイヤ人の矜持を。

 でも……それを本人達は別に望んでいないのだ。

 悟空さんはきっと自分の力でブラックと戦う。

 ベジータさんは自らの手でサイヤ人の在り方を切り開く。

 

「光輝,おめえはおめえのままで良いんだ。サイヤ人がどうとかそんな事は今考えなくていいとオラ思うんだ。光輝の戦う理由にサイヤ人であるかどうかはどっちでも良いんだからな」

 

 あくまでも結果としてサイヤ人として,西沢光輝の持ち得る力の1つとしてサイヤ人の力を使っているだけだとそう言ってるんだ。”サイヤ人”の在り方,そんなものは俺には関係のない話だと。

 

「ま,おめえがそこまでサイヤ人の事考えてくれてんのはオラも嬉しいけんどよ,オラはおめえにとって一番大事なものを守ってほしいんだ」

 

 大事な物,それはサイヤ人の矜持ではなく愛美達,キリト達を守る事。

 

「……分かりました」

 

 吹っ切れた……かは分からない。

 だけど,この部屋に入ってきたときからあったの胸のとっかりは何だか消えた気がする。

 

「よっしょと!」

 

 悟空さんの隣に立ち,彼の顔を見るといつものように優しい笑みを浮かべていた。

 

「じゃ,続きやっか!」

「……はい!」

「どうやら話はまとまったようだな」

 

 言いながら宮殿から出て来たのはベジータさんだった。隣にいた悟空さんはにっと笑みを浮かべた後に歩き出し,白銀の世界で俺が知っている最強のサイヤ人である2人は並んだ。

 足元から気の風が吹き始め,2人の神の気がまた高まり始める

 

「光輝,今のおめえならなれる筈だ。歴史から消えたサイヤ人の……その先の力に」

「この俺達が鍛えてやってるんだ,生半端な実力では許さんぞ!」

 

 2人の白銀の気が,蒼く流動的な気に変わり始める。

 大地を揺らすような荒々しさではない,水面をも揺らさないような穏やかな気,でも確かにその気から感じる力の奔流

 

「「はっ!!」」

 

 2人の声が重なり,青白い光に包まれる。

 その光の膜が,2人の足元から散るように剥がれて姿を現したのは超サイヤ人のような髪型で蒼く染まった2人のサイヤ人。

 相対するは,無限の成長をする1人の戦士。

 

「俺も,あなた達みたいになれるかは正直分からない」

 

 彼はその身を紅い流動的な気を纏う。しかし,その気はすぐさま穏やかな気の流れへと変わり彼の中に入っていく。その変化を見ながらサイヤ人の王子は言った

 

「違う! 俺達を越えてみろ!」

 

「ふ……。当然だ!」

 

 彼の中に入った紅蓮の炎が,今度は更に燃え盛るように蒼い気を発し始める。先程の2人の様に徐々に光始め,光の膜へと変化する。

 

「俺も1人の人間としてあなた達を……超える!」

 

 彼を中心に爽やかな風が吹き荒れ,それを見た地球育ちのサイヤ人は心底楽しみでしょうがないと言いたげに笑みを浮かべる。隣のサイヤ人の王子も同様の笑みを浮かべて新たな姿を得た戦士を見る。

 超サイヤ人の様に逆立った髪,そして海ような蒼い髪。

 

「だから……行きます!」

 

 燃えるような蒼い気を纏った超サイヤ人ブルーの光輝は,2人の超サイヤ人ブルーへと向かって行った

 

 

 




お疲れさまです!
前に問題として光輝と共通点のあるキャラは?みたいな出したと思いますが,正解はブラックです!
まあ別に光輝は誰も乗っ取っていないので厳密には違うのですが”あとから”サイヤ人になった点においては2人とも実は同じなんですよね。
それに気が付いてしまった光輝ですが,そこを諭すのはやっぱ悟空ですね。
最初は地球人だって言っていたけれどナメック星で自分をサイヤ人をベジータへの誓いと共に受け入れた悟空だからこそ,ある意味逆転現象起きている光輝に言える言葉があると思います。まあ,悟空は結果的に周りを守っているだけでやっぱ一番は強い奴と戦いたいだと思いますけどね笑。

ぶっちゃけここの光輝の吹っ切りはブラックに乗っ取られた本人の悟空じゃないと多分出来なかったと思います。ベジータがなんか言っても引っかかったままでした。だからベジータは悟空に光輝を投げた訳です。

という訳で光輝,超サイヤ人ブルーになれました。けれどブルーと4じゃまだカンバーには勝てないのでまだまだパワーアップします。
久しぶりにアンケートします~。
次話も殆ど書き終わっているんですが,物語に直接リンクする訳でもないので飛ばしても良い所を書くかどうかって感じのアンケです。
ではまた次回!
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