今日から新章ジェネシス編です。最初は入りからなので少なめです。
戦士の涙
たった1人,この世界にいる人間である光輝は肩で息をしながらその力を解除した。というか解除せざる得なかった。
「はぁ……はぁ……」
ブラックの気が,完全に消滅したのを見届けた俺は否応なく身体に纏っていた力が露散するのを感じた。力が無くなったのと同時に襲ってくる強烈な虚脱感,気を抜いてしまったら一気に武空術すら出来なくなってこの海に落ちて行くのが分かる。
それだけはまだダメだ。
「……出て来い,それとも恥ずかしがり屋だったのか?」
今この世界には,元々いた世界の人間はいない。だからこそ目立つ気配の乱れ……俺とブラックの戦いを影で見ていた輩がいるのにも気が付くことが出来た。
俺が声をかけた瞬間に,抑えられてたであろう殺気が溢れ出してきた。そして,煙から実体化するかのようにそいつは上空に現れた。
「減らず口を,満身創痍の貴様にそんな余裕があるとは思えないが?」
不気味な仮面を付け,赤く光る瞳にはこれ以上ない憎悪を感じ取れる。
「はっ,そんな仮面を付けている時点でシャイだと思うのは普通だろ」
「戯言を」
奴はそう言って……空に浮かぶゲートを指さした
「あれより先,シーラスが宇宙樹の完成を待っている。だが1つ問題が発生してな……完成にはまだ時間がかかることになった」
そんな事をいきなり言い出す奴の眼を,ギロリとしながら見る。奴は俺の視線の意味を数分違わず理解してニヤリと笑う……気がした。癪だが時間稼ぎには丁度いい。
その理由を言い当てて見せる事にする。
「ブラックの元気玉に加勢した時の分が無くなったって事か」
実際,ブラックの元気玉を放つ前に比べて宇宙樹の輝きはなり潜めている。それでも莫大なエネルギーがあることには変わりはないが,俺を殺したことで得られるダメージエネルギーと,凶悪化した敵達への力の供給し,それ以上のダメージエネルギーを悟空さん達から吸収する筈だったのが俺が悟空さん達を時の巣に転移させたことで得られなかった。
なるほど,体勢を立て直す為に悟空さん達を転移させたのが思わぬところでも効果を発揮していた。……奴らには今,ダメージエネルギーを吸収する術がないんだ。
「そう言う事だ。貴様が余計なことをしてくれたおかげでな」
「で……貴様は今から俺を殺すとでも言うのか?」
奴がこの場に現れたのはそんな事情を話す為じゃない筈だ。また戦闘になるのなら……ブラックの元気玉を利用してなった身勝手の極意はもう使えない。
正直今の体力でなれるのは超サイヤ人2位まで……蒼赤の力を使っても……恐らく今のこいつには勝てない。隠しているのかもしれないが,何故だか奴の力の底だけは分かる。
だけど意外にも奴にその気は無かったようだ。
「そうだ……と言いたい所だが,満身創痍の貴様を倒した所でなんの足しにもならん」
それに反論したい所だが,ここで吠えては体力の無駄遣いだ。少しでも体力を回復させる為に今は奴の会話に乗った方がまだ懸命だ。それか……隙を見て最初で最後の仙豆を食うか。
「今,どうせ時の界王神どもはこの光景を見ているんだろう?」
その瞬間,奴の姿が霞んだ瞬間に眼前に現れた。俺は咄嗟に超サイヤ人になろうとするが,それよりも早く奴の手が俺の首を捉えた
「ぐぁ?!」
首に襲い掛かって来る強烈な閉塞感に思わず声が漏れ出て,光輝は仮面の男の手を掴んで離そうとする。しかし,カンバー,一星龍,そしてブラックとの連戦で体力は万全じゃないのも合わさり簡単に解くことが出来なかった。
その光輝の腹部に,重い拳が乗った
「ガアッ!」
余りの重さに血反吐を吐いてしまうが,それでも光輝は仮面の男を睨みつけていた。それをうざったそうに見た後,仮面の男は光輝を海へ投げ捨てた。
武空術の体力も無くなってしまい,光輝はそのまま海に着水し海上に浮いたまま仮面の男を見上げた。奴はそんな光輝を見下したまま……高らかに宣言した。
「1日待ってやる。明日……俺達と貴様ら,どちらが世界に相応しいのか決める全面戦争だ!! もしも逃げるのなら,他の世界が宇宙樹の餌食になるだけだ」
そう言った仮面の男は,蜃気楼のように消えて行った
★
意識がある内に……俺は久方ぶりに取り出した次元移動装置がついてる腕時計型デバイスを取り出して時の巣に帰還した。ただ,俺はもう体力の殆どが底をついていたから……刻蔵庫の前に帰ったと同時に倒れ込んだら……目の前に赤い羽織が見えて俺は抱き留められて倒れるのを阻止されていた。
それと同時に周りから心配な声が数多く上がって来る。
「光輝,でえじょうぶか?」
「光輝君,仙豆よ。食べて」
もうほぼ意識が無い状態だったが,その言葉に何とか口を動かすと仙豆が入った感触があったから噛んでのみ込むと朦朧とした意識がカッと覚醒して顔を上げたら……そこにいたのはタイムパトローラーの方の悟空さんだった。
「立てっか?」
「あ,はい」
仙豆の効果はやっぱりすごくて,完全に身体は回復していた。……まあ,メンタルが快復出来る訳ではないんだが。
「光輝君……今回は偶々元気玉がきっかけで身勝手の極意になれたけれど,本当に……無茶しないで。あなたが最後の希望なんだから」
……どうやら外野から見れば俺は相当ヤバい事をしていたらしい。まあ,よく考えなくても俺はシーラス達との最後の戦いの為に戦力として必要なんだから,本当なら元気玉の時点で逃げ帰るのが正しいだなんて分かってた。
例え地球が無くなっても,元居た世界の人達はこっちに避難しているんだし今回は特例中の特例としてドラゴンボールを使わせてもらう事は出来るだろう。完全に俺達の落ち度で全く関係がなかった世界に被害を出したのだから当然と言えば当然だ。
「それでも……ブラックだけは,俺が倒したかった」
ここに本物の孫悟空がいるけれど,なんだか不思議な気分で言った
「本当なら……何かしらの手段でザマスを悟空さんの肉体から追い出して……本当の悟空さんに返してあげたかった」
光輝がブラックとの勝負を決める時,呟いた謝罪の言葉。
あれは,ザマスに自分を奪われた悟空に対して……悟空の肉体ごと消してしまう事への謝罪の言葉だった。ザマスに入れ替えられた悟空はもう死んでしまっているだろうと思っていたが,それでもドラゴンボールという何でもありな願い玉が存在する以上可能性が無いわけではないと思っていたから。
だけど,ブラックを相手にそんな事を言える余裕も無かった。中途半端な攻撃ではブラックの力が高まってしまうだけ……だからこそ肉体もろとも吹き飛ばす必要があった。武装完全支配術で拘束しようとしても,ブラックなら簡単に抜け出せただろうから最後の手段であった。
それが出来なかった自分の力のなさに,胸の奥でブラックに身体を奪われた悟空に対して申し訳ない気持ちで沢山になった。
「光輝君……」
元々光輝は”歴史”だからと言ってその通りにしようと思うほど冷徹な男ではない。未来の悟飯の時も,恐らくSAOの時に歴史だと聞いていたとしても本来死ぬはずだったディアベルや月夜の黒猫団も助けるために動いていた筈だ。
だからブラックの歴史にも,一番いいと思った悟空の肉体を本人に返させるという事も本気願っていた。それが一点の歴史の悟空でも,たった一つの歴史しかブラックから元の悟空に戻らないとしても……そんな世界があってもいいじゃないかと。
その時,俯く光輝の頭を悟空が撫でた
「ブラックに身体奪われたのはオラじゃねえけんど……そのオラもきっとおめえに感謝してる筈さ」
その言葉に光輝は顔を上げた。その瞳からは一滴の涙が見えた。
どんな時代だろうと,孫悟空は光輝にとって目標であり偉大な師匠だ。そんな師匠を救えなかった自分に対しての苛立ちと無力感への涙だった。
しかし悟空は眩い笑顔で二かッと笑った。
「”仇をとってくれてあんがとな”ってな」
「……っ」
その時……そこにいる訳がないのに光輝の瞳には幻影が見えた。農作業着を着ている孫悟空と,彼女の妻であるチチに次男である悟天。3人はブラックが悟空を乗っ取った際に殺された3人。
悟空にとってこの事実を知らされた時激怒するほど大事にしていた家族が,どこか安らかな眼で光輝を見ていてくれた。
「おめえはよくやったさ。オラにとってオラの身体で好き勝手される方がきっと嫌だっただろうさ」
だからこそ,ブラックを倒してくれてありがとうと言ってくれている。
その言葉に……どこか赦しを貰ったことに光輝は涙が止まらなくなった
「う……ああ」
少年のように戻った光輝の嗚咽が……刻蔵庫に響いていたのだった
お疲れさまでした!
という訳で,タイムパトローラー側とシーラス側の全面戦争です。
その前に光輝は色んな人に会いに行きましょ~。
では!