Warrior beyond despair   作:レオ2

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おはようございます。
いよいよ黎騎戦も大詰めでございます。
では!


憎悪と願い

 時の巣の保護区,疑似的な櫂の家にはこれまで光輝と関わっていた人達がシーラスによって見せられている決戦を見届けていた。もっとも,シーラスの魔術を持っても戦いの素人である櫂達には何が起きているのかは分からない。

 分かるのは,黎騎と名乗った仮面の男が世界に絶望し……自らが悪になることでシーラスによって創生される世界で平和な世界を作るという目的で光輝と激突している事。

 

「すごい……」

 

 美咲が呆然と呟くのも無理がない。寧ろ,最初の激突からの凄まじい攻防は常人には理解する事すら不可能なスピードで息をするのも忘れる程の戦いだ。あの笠木の時の戦いとはまるで訳が違う。

 今も映像の中では自分達の世界の原宿だけに留まらず,様々な場所が戦いの余波だけで崩れ落ちて行く。笠木はその力で渋谷を崩壊させるのが一杯一杯だったのを2人は余波だけで崩壊させていく。

 どちらの方がレベルが高いのかなんて一目瞭然だ。

 

「お兄ちゃん,頑張って」

 

 咲良も戦いが見えないながらもエールを送る。

 光輝が本気を出す戦いを一瞬たりとも見逃さないと瞼に焼き付ける。

 そんな娘の様子を見ながらも,櫂は黎騎と名乗る青年の素性が気になり始めていた。

 

(双子の宇宙……なら,こっちの世界の人間と同じような人もいるのか?)

 

 似たような事象としてはパラレルワールドに当たるのだろうが,双子の宇宙とパラレルワールドは全くの別物だ。同じ世界で,どこかの選択で分岐したものがパラレルワールドというのなら,双子の宇宙は時間の流れが百歩譲って同じだったとしても違う世界であることには変わりない。

 だから双子の宇宙に,全く同じ人間がいるなんて事は考えずらい。あるとするのならば……似た境遇の人間がいることくらいだろうか。

 

「今……どっちが勝ってるのかしら」

「次元が違い過ぎていて全く分からない」

 

 楓が呟いた言葉を,光定がそう返す。

 

『多重影分身の術!!』

 

 ビルから出た光輝が印を結ぶと,空を光輝が埋め尽くす。本物の影分身が黎騎に襲い掛かるが,黎騎はそれらをいなし消していく。

 

「光輝君……君はもしかして……」

 

 ──この仮面の正体を知っているんじゃないか,そんな確信が櫂にはあった。今までの彼らの会話から見ても,二人には何らかの因縁がある事は何となく分かっていた。

 光輝がいつ,どのタイミングで黎騎の正体に気が付いたのかは正直分からない。だけど……

 

『少なくとも,俺には出来なかった』

 

 たった1人の悪になると話した時,やたらと俺と強調したのには何か理由があったのではないかと思わないと説明が上手く出来ない。でも,光輝が最後の戦いを前に彼の名前を知りたがった事,その仮面を剥ぎ取ろうとしているのを見て……正体を光輝自身も確かめたいと思っているんだと思った。

 

「あっ!」

 

 その時,悲鳴じみた楓の声が響き櫂も慌てて瞳を閉じて映像を見ると……光輝が黎騎の気功波に飲み込まれているところだった。櫂も思わず拳を握るが,直ぐにそれが杞憂だったことを知った。

 黒が金色の光に弾き飛ばされ,超サイヤ人4に変身した光輝が文字通り先程とは次元の違うスピードで黎騎に迫り……螺旋丸で仮面を叩き割った

 

 

『お前は誰だぁああ!!』

 

 

 この戦いを見ていた誰もが気になっていた仮面の下の顔,それがいよいよ分かるのかと櫂は身構え……驚きの余り口をあんぐりと開けてしまった。

 

 

「う……そ」

 

 

 周りにいる光定や楓も……その衝撃的な真実に口を半開きにしてしまっていた。咲良に至ってはなにが起きているのかが分からなさ過ぎて

 

「え……え……」

 

 と,言葉を零していた。

 映像の中の黎騎は,割れた仮面を忌々し気に見て……次に光輝へ目を向ける。光輝はその黎騎の顔を見て……一瞬息をのんだが,直ぐに歯を食いしばる。

 

『……やっぱり,か』

 

 悲しそうな……怒りたそうな……喜怒哀楽が分かりやすい光輝にしてみれば酷く複雑な表情で黎騎を……光輝と同じ(……)顔をした漆黒の戦士を見ていた。

 

「光輝……君?」

 

 楓が思わずそう呟いてしまうほど……黎騎と名乗る青年は光輝と瓜二つだった。その事が保護区にいる人間達に伝わった瞬間,波紋を呼び戸惑いの声が響いて行ったのだった。

 

 

 ★

 

 

「ほう……面白いじゃないか」

 

 その正体を見たビルスは,ニヤリとした笑みで光輝と黎騎の映像を見ていた。驚きと,意外性を伴った感情でその場を見守る。

 

「光輝さんとは別人でありながら,光輝さんになり得たかもしれない戦士ですか」

 

 ウイスがそんな事を言っている間にも,時の界王神は驚きの余り半開きにしていた口をキュっと締めた。

 

『あいつとは,俺が戦わないといけない。そんな気がするんです』

 

 過去に光輝が仮面の男との決着をつけるのが自分だと,悟空達に譲ろうとしなかったのは……光輝も心のどこかで仮面の下の正体について分かっていたからなのではないかと考えた。

 つまり,光輝にはどこかしらで彼の事を推理する材料があったという事。

 

『……お前が,もしかしたら片割れの宇宙……,こんな言い方も良くないな。勝手に命名するがアナザーユニバースの俺に値する人間じゃないかというのは……インフィニットワールドにいる時から思っていた』

 

 インフィニットワールドでは戦いばっかりをしていた訳だが,休んでいなかった訳でもない。休息の時にはそれなりに考え事とかをしていた。その時に,黎騎のこれまでの特徴を当てはめた。

 

『俺の祖父が持っていた筈の二振りと無い日本刀,そして極めつけはお前の蒼赤だ』

 

 初めて出会った時から,不思議と既視感は存在した。他人事とは思えないほどの悲しみに紛れた殺気……あれは,笠木と二回目に対峙した時の自分によりも濃密なものだったが種類としては同じものだった。

 

『俺の蒼赤がどうして開眼したのかは,正直まだよくわからない。だけど……お前の過去を見て思った。共鳴したんじゃないかって』

 

 光輝が勝手に命名したアナザーユニバース,別の世界と言ってもやはり光輝の宇宙の双子であることには変わりない。だから時の界王神にも分からない力のパスが通っていて,全く同じタイミング,全く同じ痛みが普通の地球人にはあり得ない変化をもたらしたとしたら? 

 検証する方法なんて無い,光輝も検証したいとも思わない。だけどその仮説が正しければ……この蒼赤の力は間違いなく次元を超えて共鳴したと仮説した方が発現の理由には納得が出来るのだ。

 

『俺は……貴様じゃない!! 俺は……俺は黎騎,黎騎だ!!』

 

 黎騎の気が顕現し彼を纏う。そして,その瞳が蒼赤に染まる。ただし瞳孔は黒で今までの光輝のものとは違う……黎騎オリジナルの力として昇華させていた。光輝の話が本当ならば,黎騎の力は凄まじく上昇したことになる。

 それでも……

 

「さあ,見せてもらおうか小僧。お前の真の力を」

 

 ビルスが呟くと,画面の中にも変化が訪れた。

 

 

 ★

 

 

 奴が纏った,漆黒の神の気と双眼の変化。それはまるで鏡合わせのように俺へ向けられていて……そんな奴に俺は無性にイライラしてしまう。だけど,同時にこいつの気持ちも分かる。

 俺も……笠木と初めて戦った時,愛美が殺されていたら? アインクラッドで仲間達が皆死んでしまったら? そんなIFを想像するだけでも不安な気持ちが抑えきれないし,実際された時の痛みはきっと俺には計り知れない。

 あの荒廃した世界で……その剣があるという事はお爺ちゃんや他の皆も亡くして……多分,愛美に値する人も笠木に値する人間に殺されたんなら闇落ちしてしまうのも理解は出来る。

 だけど……同時にもう1人の自分を見ているみたいで,ムカつきもする。

 

「ああ,お前は俺じゃない」

 

 言いながら光輝は金色の光を纏う。大猿のパワーと人間体のスピード,究極の超サイヤ人と右手に取り出した双剣の片方<ウォーリア・ビヨンド・ディスペアー>から解き放たれる光が融合する。

 

「だから,俺はやっぱりお前が許せない。絶望に抗う力があったはずなのに,それを破壊する為に使う奴に成り下がった貴様が!」

 

 超サイヤ人4の黒髪が,薄い金色へと変貌する。変身を終えた光輝は剣を消して相対する。

 

「抗う力? そんなものはない!! 俺にも,貴様にもない!!」

 

 そう言って取り出したのは,俺のお爺ちゃんと同じ形状の日本刀。もっとも厳密には俺の祖父の日本刀と同じという訳じゃない。第7宇宙と,第6宇宙みたいなもので俺の世界にあったものが鏡のように向こうの世界にもあって,それが黎騎にとっての日本刀なんだろう。

 それに奴が気を流し……それに呼応するように光を伴う。それを見て俺は奴が何をするのかを何となく察した。

 だけど,邪魔はしない。

 

 

「エンハンス・アーマネント!!」

 

 

 何故なら,奴のいう力を真正面から打ち破り……こいつの存在を否定する。同じ道を歩んだかもしれないからこそ……俺はこいつを認められない。

 だって,俺は戦ってこれたから。

 守って来れたから。

 別の世界の,俺に値する人間だからこそ……俺はきっと,黎騎にも同じ事が出来たはずだと思った。

 ……違うな,俺は……こいつにも……黎騎にも……諦めてほしくなかったんだ。俺が諦めなかったように,諦めてほしくなかったんだ。

 俺だからこそ……諦めるなんて選択肢を取ってほしくなかったんだ。

 

「……それが貴様のフルパワーか」

 

 奴の見た目にはそれほどの変化がない。その刀からは闇とも言えるエネルギーが黎騎を満たしているが,元々黒髪黒目だったのもあってそれ程の変化はない。

 だけど憎悪に関しては……俺が今まで見たことがないほどの殺気をコートみたいに着こんでいやがる。きっと並みの戦士なら,触れただけで心を破壊するんだろう。……いやカンバーかお前は。

 

「そうだ,この刀は俺の世界で何百何千,何万……いや何億という人間の憎しみの記憶がある」

 

 それは黎騎によって呼応した……俺達の世界への憎しみ,それらを記憶として開放した武装完全支配術。俺の事をどこかでみていたらしいし……もう1人の俺なら出来るのも無理はない。

 武装完全支配術,それも俺がする分には環境を整えるだけで出来たのだから”憎悪”をトリガーにしたのなら,ある意味俺よりも完成させやすかったのかもしれない。

 

「……色んな気が,悲鳴をあげているみたいな気だな」

 

 だけど,それを見た俺はそんな感想が浮かんだ。この世界の真実に辿り着いた人間が,自分にはどうする事も出来ない力でその運命を辿ったのならその憎しみは俺には分からない。

 分かるのは……恐らく向こうの世界で唯一生存したこいつくらい。憎しみを纏うからこそ,自分が全ての憎しみを背負うなんて台詞を言ったのかもしれない。

 

「でも……そんなの悲しいだろ」

 

 光輝はそう呟き金色を纏う。黎騎と反対の……家族の思い出がくれる光の力。同じ人間に値する人間でありながら,全くの正反対の力を持つ存在を前にして光輝はそんな事を思う。

 

「憎しみじゃ何も救えない! お前だって本当は分かってるんだろうが!!」

 

 瞬間黎騎の脳裏に駆け巡る過去の記憶,たった1人の人間を殺した所から始まった負の連鎖。大切な存在を傷つけられるからこそ殺して,その罪をあがなう為にまた殺して,殺して……殺しつくして。

 そして……1人になった

 血に染まった過去を,吹っ切るかのように力を上げた。

 

「うるさい!! 貴様のような甘っちゃんが,俺を語るんじゃねえ!!」

 

 叫び,先程までとはまるで別次元のスピードで真正面を取る。その右手から放たれる一刀の煌めき,だがパワーをあげているのは黎騎だけではない。凄まじいまでの速度を誇る刀を難なく躱すと,反対の拳をつきたてる。

 それを黎騎は左腕でガードする。ぶつかり合った瞬間に轟音が響き渡るが,2人はお互いの瞳を見て離さない。

 

「……ッ」

「世界に裏切られた絶望が,貴様に分かるのかあああッ!!」

 

 その憎悪を纏った闇の気が,光輝に襲い掛かって……直ぐにそれが金色の光によって露散した。

 

「……ッ?!」

 

 それに目を見開いた黎騎は,直ぐに身体を下がらせ蹴りを放つ。それを光輝は最小限の動きでしゃがみ,カウンターに腹部へ拳を繰り出し,勢いよく黎騎に突き刺さり肺の空気が一気に吐き出される。

 

「がはっ?!」

「分かんねえよ……分かんねえけど,やっぱり貴様にだけは負けられない!!」

 

 そう言うと同時,気を発散させることによって黎騎を勢いよく吹き飛ばした。一瞬踏ん張ろうとした黎騎だったが,光輝の気の圧力の方がずっと強くなすすべもなく吹き飛ばされた。

 だが直ぐに宙で一回転すると刀を地面へ突き刺しブレーキをかける。

 

「それは俺の台詞だ!!」

 

 直ぐに追って来た光輝を見て,黎騎はその刀を起点に武空術で浮かび上がり刀を持ち周りながら光輝を躱し,攻撃が外れた光輝の腹部を上空へ蹴り上げた。

 刀を引き抜き,黎騎もその後を追うと光輝は印を結んでいた。

 

「火遁・豪火球の術!!」

 

 そう言って口から巨大な火球を繰り出し,地上から迫っていた黎騎に向かう。光輝の気によってブーストされた豪火球は凄まじい勢いを持っているが,黎騎はそれを自分の刀に気を纏わせることで一閃し半分に切り伏せ大爆発を起こさせる。

 しかしその大爆発よりも一足早く黎騎は抜け出し,刀を振るっていた。

 

「ちっ!」

 

 舌打ちしながら光輝は,その刀が振り切る前に黎騎の腕を掴み止める。そのまま黎騎が振るってきた左腕も右手で拘束する。残っているのは両足と……

 

「「オラぁッ!!」」

 

 足では不意を突けないと思った2人は,全く同じタイミングでお互いの頭をぶつけ合った。考える事は同じ,何度も頭をぶつけ合い血が流れているが闘争本能むき出しの2人に痛みはない。

 あるのはただ,目の前の相手よりも凌駕する事。

 

「ふっ!!」

 

 何度ぶつけ合っても埒が明かないと悟った光輝は,また頭突きをしようとしていた黎騎を首を捻る事で躱し代わりに膝蹴りをお見舞いする。

 

「ぐはっ?!」

 

 何度もぶつけ合っていたものがいきなりすり抜け,腹部から感じる痛みにがっちりとしていた腕から力が無くなったのを感じた光輝は直ぐに刀を持っている腕を勢いよく捻りその刀を地上へと落とした。

 

「……ッ?!」

 

 その事に一瞬眼を反らした黎騎の顎を,光輝の蹴りが穿つ。

 

「がっ!」

 

 一瞬意識を失うほどの衝撃が黎騎を襲うが,直ぐに気力で意識を取り戻すとがむしゃらに光輝へ右ストレートを繰り出す。だが光輝はその腕を取ると逆に地上へと黎騎を背負い投げする。

 そしてそのまま追撃するかのように気弾を投げつける。

 しかし,その気弾を地上へ落ちると,その場に突き刺さっていた刀を引き抜くと同時に切り付けて相殺する。その器用さから光輝はふと思った。

 

(……刀の扱いはもしかしたらクライン以上かもしれないな)

 

 俺が知っている刀使いはクラインと七姉ちゃんの助手のスメラギだが,技量はもしかしたらあの2人以上かもしれないと思った。

 技量と実力は全く違う物,俺も剣の実力じゃキリトやユージオ……それにお爺ちゃんよりも上回っているかもしれないが,技量はこの3人にも,それにきっとユウキとかにも俺は劣る。

 俺が上回っているのは,反射神経,動体視力,パワー,スピード,タフさ,戦闘に関係するすべてのパラメータが皆よりも圧倒的に上だからに他ならない。全く同じ条件で彼ら彼女らと戦えば先ず俺が負ける。

 

「前も思ったが,ちゃんと修業自体はしたんだな」

 

 二回目に戦った時,シーラスによって施されたパワーアップに甘んじていた奴からは考えられない飛躍だ。今もシーラスによって強化された力自体はあるのだろうが……,それを差し引いてもこいつの力の上がり具合はもはや異常とも言えるな。

 それが憎悪の力というのが何とも悲しく思うが。

 

「黙れ! その余裕,今すぐ消し去ってやるぞ!!」

 

 叫びながらその刀から更なる憎悪の力が溢れ出し黎騎を包み込む。その姿が……闇に沈む俺を見ているような気がして無性に腹が立った。それと同時に納得出来る事もあった。

 それは奴が俺を嫌悪する理由。同じような人間でありながら,全く別の道を歩んだ俺達。

 どちらも己にならなかった俺達。

 その道に行ったかもしれない存在で,全く違うからこその同族嫌悪。

 だけど……だからこそやっぱりこいつの相手は俺で良かったと思える。

 

「ふー……はぁ」

 

 1つ深呼吸した光輝は,カッと眼を見開くとその姿を光らせ……通常状態へと戻った。

 

 

「「……ッ?!!」」

 

 

 その光景を見ていた全ての人達が驚愕に染まる。この死闘のさなか,通常状態に戻るという事はそれだけ隙が出来るという事。サイヤ人としての特性をまるで無視したその行動に驚くのも無理はない。

 蒼い羽織をなびかせた光輝はそのまま黎騎を見下ろす。

 

「貴様……どういうつもりだ!!」

 

 舐められていると思ったのか,黎騎が吠えながら構える。

 敵意むき出しの黎騎に,光輝は言った。

 

「いや……やっぱり,公平にしないと意味がないなと思ったんだ」

「なにっ?! 

 

 その意味が分からない黎騎は疑問を浮かべたが,変化は直ぐに訪れた。黎騎の瞳がズキッと痛みを伴った瞬間……光輝の瞳が双眼が蒼赤に染まった。その時光輝の戦闘力が著しく上昇したが,先程の超サイヤ人4に変身していた時には遠く及ばない。

 それは当然であり,身体能力が最大4倍程度になるだけなら光輝にとって界王拳で済む話。だから頭痛を伴うようなこの蒼赤の力は超サイヤ人となった光輝には無用な賜物というものが光輝が下した結論だった。

 これを使うのは最低でも超サイヤ人との併用,そうじゃないと今の戦いの次元では4倍程度では何も変わらないからだ。

 

「今更それか,さっきの赤い猿の方がましだったぞ!」

 

 失望したというように黎騎が吐き捨てるが……光輝の変化はそれで終わりじゃなかった。

 

「だからダメなんだ。()()()()としてじゃなく,俺は()()()としてお前に勝つと決めた!」

 

 以前,悟空やカンバーに話したサイヤ人じゃなくとも戦うという光輝の証明。

 宇宙樹やシーラスの加護を受けているとはいえ,目の前にいる黎騎は間違いなく地球人として……あの絶望の世界の住人として世界を変えるために戦っている。

 だから光輝はサイヤ人であることで出来る超サイヤ人に,この戦いではならないと決めた。それで勝った所で……きっと黎騎は救われないと思ったから。その道が間違いだと,教える事が出来ないから。

 自分になり得たかもしれない存在だからこそ,自分の可能性を知ってほしい。抗い続ければ……いつか辿り着いたかもしれないその境地へ。

 

 

「お前に見せてやる……本当に託された願いの力を!!」

 

 

 瞬間,光輝に襲い掛かろうとしていた頭痛が一瞬で吹き飛び……その姿が金色の光が包み込んだ。超サイヤ人とは似て非なる力の奔流。超サイヤ人になる時のように叫ぶわけでもなく,ただその光の中に身を任せる光輝は一種の神聖さをも纏っていた。

 そして,その光の中で穏やかな表情を浮かべた。

 

 この感覚は……もう直ぐ8年前くらいになるのか。笠木……そしてヒースクリフを前にして”生きて帰ってほしい”と願ってくれた大切な人達の願い。彼らの,彼女達の声がここにいる訳ないのに頭の中に響いて来る。

 義理の家族,警部に,担任……そしてアインクラッドとその先の世界で出会った仲間達。今は不思議とその中にあの忍の世界で共に戦った人達の声も響いて来る。

 そのどれもが俺に生きてほしいという願いの声……そして最愛の人が,どこかの高原において笑顔で俺に振り返った。

 

『光輝』

 

 この戦いを前にした彼女の笑顔が最後のピースとなり……光輝の姿が金色から黄金へと変わり,瞳も黄金に染まる。その光が発散すると同時に光輝の世界を覆っていた曇り空が一瞬にして晴れ渡った。

 黄金に染まった髪は,超サイヤ人のように派手に逆立つのではなくあくまでもバーナーのように燃え上がる気によってふわふわと浮いていた。

 

「貴様……その姿は……!?」

 

 光輝はゆっくりと眼を開き,温かみを感じる黄金の瞳で黎騎を見下ろす。そしてその背中にあの城からの相棒たちが再び装備され,ふわりと浮いた道着の帯の所には木ノ葉の額当てが結び付けられていた。

 サイヤ人としての要素は何一つなく,使っている力は正真正銘地球人としての力でありながら……その力はさっきの超サイヤ人4に勝るとも劣らない凄まじい力を発していた。

 

 

「シャイニング・ブレイブ……俺の世界ではそう言うらしいぜ?」

 

 

 もっとも名付けたのはどこかのネット民であるが,そんな事は今はどうでもいい。

 SAOを後に一度もなる事が出来なかった光輝の姿。黎騎も映像で見た事はあったが,直に見るその力は想像を超えていた。

 SAOの時のこの姿ならば,黎騎の敵ではなかった。それなのに今空から見下ろす光輝の気は……同じ地球人の力であるはずなのに……宇宙樹の加護を受けた自分と比肩するもの。

 プライドも全て投げ捨て,シーラスの強化と憎悪の力を纏った自分と……

 

「これで終わりだと思うのか?」

「なに?」

 

 言うと同時,光輝の背中の剣からも光が溢れ光輝を包み込み一段とその光を燃え上がらせる。それに伴って光輝の気はまた大きくなった。やっている事は簡単だ,単純にシャイニング・ブレイブとリコレクション・ブレイブの併用なのだろう。

 超サイヤ人の状態でも併用は出来るのだからそれ自体には何の不思議もない。というよりも,やっていること自体は黎騎と全く同じ。

 蒼赤の力が……進化しているかしていないか,それだけの差。

 

「な,なんなんだよ……何なんだよ……お前は!!」

 

 しかし,それだけの差で自分と光輝との力と心の差を直感で感じ取ってしまった黎騎は吠えるように気を燃え上がらせる。

 この光輝の姿が……今の自分にはなれない姿だと察してしまったから,認められなかった。同じ力を使って……自分よりもその力を使いこなしている事に苛立ちを隠せなかった。

 光輝は黎騎が立っている地上へと降り立ち,口を開いた。

 

「とっくにご存じだろう? 俺は貴様らを倒す為にやってきたタイムパトローラー。貴様と表裏一体の地球人……」

 

 そう言いながら光輝は背中の双剣を引き抜き,構えた。それはあの忍の世界で名乗った時と,全く同じ構え。まるであの時の焼き直しのように黄金の気を纏う。

 

「貴様が望むのなら,今一度名乗ってやる。俺の名は光輝,アインクラッド最強の戦士……心してかかってこい!!」

 

 光輝から発せられる気が,地面を円形状に吹き飛ばしながら黎騎に斬りかかった。

 

 

 




お疲れさまでした!!

はい,作者の伏線とも言えない伏線の張り方が雑過ぎて知ってたという声が大きそうですが,黎騎の正体は光輝命名,アナザーユニバースの光輝にあたる地球人です。
あくまでもパラレルワールドの光輝とかではないので,厳密には光輝本人ではありません。

イメージしやすいのだと第7宇宙と第6宇宙のフリーザ,フロストみたいな関係でしょうか。フリーザとフロストは生き方は違くとも1割位は性格掠ってるのであんな感じをイメージしたら楽です。

そして,蒼赤の正体をあっさりと明かしました。別に写輪眼のように悲しみによって開眼…ではないのですが,光輝の仮説では開眼のタイミングが全く同じで,”世界に絶望”で,双子の宇宙としての力のパスが通って,光輝と黎騎のある意味双子のような関係だからこそ起きたのではないか。
仮にそれが本当だとして,凄まじくタイミングがシビアだし確かめる術ももうないけどねってお話です。

では,また次回です!
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