お待たせいたしました,ではレッツラゴーです!
剣戟がバチッと火花を散らしながらぶつかり合う。
瞬きをする間に振るわれる刀を,その二刀をもってガードし,一転して攻撃に転じる。攻めと守りが表裏一体となった見事な技というしかない光輝の二刀流。
一千一千は刀を振るう黎騎の速度には及ばない。だが,その代わり元から光輝が使っている剣はSTR型一強の重さを重視した剣であり黎騎の刀とぶつかった時に弾かれるのは黎騎の刀だ。
「チっ!!」
そして光輝の反射神経はいつしか研ぎ澄まされ,ゾーンに入るほど早く鋭く重い一撃を繰り出していく。
黄金に煌めく,どの一振りも必殺の域に達している。これまで光輝が積み重ねて来た戦いの歴史が,今まで以上に光輝の潜在能力を引き出していた。
「ふっ!」
気合の一声と共に光輝の右の剣<ウォーリア・ビヨンド・ディスペア>が胴に一閃される。黎騎はそれを飛び上がる事で回避するが,次の瞬間光輝は左に持っていたもう1つの剣<ブルーレッド・オブ・ウォーリア>を凄まじい回転を伴いながらぶん投げた。
「なにっ?!」
剣士が戦いのさなか武器を敵に投げるなど普通あり得ない。自分の得物をわざわざ手放すなんて剣士であればあるほど余り考えない。
何故なら剣士はその剣が自分を守る一種のお守りみたいなものであり,それを手放した時の精神的な負担はそれなりに存在する。
「くっ!」
だが,生憎と光輝は剣士ではない。
自分の守りたいものを守るためにこれまで積み重ねて来た技術の中に剣は確かにある。だけど,光輝の力は二刀だけではない。
剣が黎騎の刀に弾かれるや否や,すぐに飛雷神の術が発動し黎騎の眼前に現れる。
「舐めるなッ!」
黎騎はそれも予想していたのか,眼前に現れ左手で剣を回収している光輝へ凄まじい速度の蹴りが迫る。両手に剣を持っている光輝は迅雷の如きスピードが乗った蹴りをガードする事は出来ず,なすすべも無く吹き飛ばされる。
吹き飛ばした光輝を見送った黎騎は,直ぐに刀に気を流してそのまま吹き飛んで行った光輝へ放つ。そうすると刀によって形作られた気の刃が命を刈り取らんと光輝に迫る。
しかし,それを光輝は二刀に風遁を纏わせた剣をX状にに空間を切裂いた。下手な斬撃程度では黎騎の気の刃を弾くことは出来ないが,光輝のこれはただの斬撃ではない。
「風遁・空斬り!!」
吹き飛ばされていた光輝の前に置かれた斬撃が,黎騎の気の刃と接触した瞬間に暴風に変化し光輝を追撃しようとしていた黎騎は後退を余儀なくされた。
それと同時に煙幕に変わる。
空中でストップをかけた光輝は,瞬間移動で黎騎の背後に回る。だがこれでも……既に光輝の動きの癖を身体で覚えたのか振り向き際に刀を振るう。
それは剣を握っている光輝ならば,迎撃するしかない剣戟だ。
だけど
「なっ?!」
光輝の両手に二刀は握られていなかった。よって光輝の動きを頭から握っている腕に伝えそれを振るう腕力を出し振るうという工程が必要ない。
振るわれた腕を,光輝は右の腕で中途半端な位置で止める事で黎騎の意表をつくことに成功し先程のお返しとばかりに蹴り飛ばした。
「ぐぁ?!」
凄まじい勢いで吹き飛んだ黎騎を見送りながら再び両手に剣を携えた
「ジェネレート・サーマル・エレメント!!」
記憶解放の要領で剣から炎の玉が飛び出て,そのまま剣を振りかざす
「ディスチャージ!!」
剣から飛び出た炎の玉が肥大化し,数多のビルを突き抜け黎騎に迫る。だが黎騎はそれを先程と同じ気の刃で破壊する。そうして手ごろなビルに着地した黎騎は再び発生した煙幕を突っ切る。
「貴様あああ!!」
その勢いのまま刀を力強く持ち,0.コンマの世界であっという間に光輝の前に迫る。光輝はそれを左の剣を量子変換機に反射的にしまい込み右の剣で鍔迫り合いに持ち込んだ。一瞬世界を照らすほどの火花が飛び散る。
黎騎の蒼赤と,光輝の黄金が睨みあう。
「いい加減……いい加減斬られろよ!!」
「断る!」
2人は同時に気を発散させ無理やり距離が開く。だが,2人には決定的な違いがあった。それは……
「はぁ……はぁ……」
肩で大きく息を乱しているのは黎騎で,光輝は黎騎に比べ余り乱れていなかった。体力やスタミナはどれだけ外付けしようとも最後にものを言うのは自分の努力の量である。
体力のキャパが生まれつき多い人間はいるが,光輝は絶え間ぬ修業によって修業の年数が短い黎騎よりもタフであるとも言える。
それを差し引いても,光輝の今の姿は以前の蒼赤のように頭痛などという明確なデメリットなどない。却って黎騎の蒼赤は色々ズルしているとは言えそのデメリットが消えた訳ではない。
2人の姿は,なりかたは似ているが進化しているかしていないかの違いがある。
黎騎は宇宙樹の力によってブーストはかけているが,己の憎しみ”しか”感じていない。
だけど,光輝は違う。自分だけじゃない,自分を待ってくれている人達がいる。だから負けられない。負ける訳にはいかないという強い想いがこれまで以上に光輝の力を引き出しているのである。
理屈ではなく感情でのパワーアップ,ある意味サイヤ人の真骨頂でもあるのだが願いに呼応して力をあげたのはサイヤ人としてではなくあくまでも地球人としての姿……シャイニング・ブレイブの力である。
「どうしたこんなもんか,その程度でよくもまあ全ての悪を背負うなんて大言壮語も甚だしいな」
「黙れ……!」
「貴様に言いたい事は一日使っても足りないが,今は貴様に構っている時間などない」
この瞬間も悟空達は光輝を守るために戦っていて,光輝にしてみれば向こうの戦局も分からない状況。別に悟空達が負けるとも思っていないが,悟空達が負けなくても宇宙樹にエネルギーが溜まった時点で負けだ。
だから光輝は早急に黎騎を退け,シーラスを倒さなければならない。黎騎に個人的な時間を使っている暇はない。
「お前のそいつには決定的に願いが不足している。そんなただ自分を見失った力じゃ,俺を殺す事なんて出来ねえ」
ぶっちゃけて言うなら,俺が再びこの姿になる事が出来たのはフィーリングに近い。理詰めでもなんでもなく感覚でやったなど,将来的にフルダイブマシンを作りたいと思っている奴とは思えない発言なのは分かっている。
だけど,今の状況は笠木やヒースクリフと戦った時と状況が似ているのが関係している……と思う。
あの2戦は,多くの人が注目した戦い。俺がその場の代表で,俺にしか託せなかった人達の思念は確かにあの時が一番高まっていた。そうしてそれが俺の力に変わった。
逆説的に,タイムパトロール先で人知れず戦っていた俺にかける願いは必然となくこの力が引き出せなかったのだと今なら分かる。本当に理屈ではなく誰かの願いに呼応した力……それがこのシャイニング・ブレイブなんだ。そりゃあ練習して出せる訳ないわなって話だ。
そして,この考えが正しいのなら黎騎にはこの姿になる事は出来ない。何故なら,黎騎のそれには憎しみしかなく誰かの願いなんてないから。
「煩い……何が願いだ! その理想が……俺の大事なものを全て奪ったんだ!! お前らはいつもそうだ,平和だと謡いながら一方の存在を悪にする。自分の望むものとは違うから悪を倒す……そんな自分勝手な人間こそ滅ぶべきだ!!」
絞り出すように叫ぶ黎騎を,光輝は哀れのものを見るかのような眼で見ていた。別に,黎騎の言う事を全て否定するつもりはない。彼はそうなってしまったかもしれない自分の姿。
だから,否定なんて出来る訳も無かった。
多分,黎騎の世界ではそれが彼が出した答えだったのだろう。だが
「だから世界を滅ぼす? ふざけるな,お前のそれはお前に何かを願ってくれた人達を裏切ることだ!」
黎騎にも,俺の愛美みたいな存在がいたのなら……彼女はこんな事を望んでいない筈だ。いや,彼女だけじゃない。彼の両親も祖父母も……そして姉もこんな思い出を消すような事をしてほしくないと思っているはずだ。
だって,俺は生きろと言われたから……大切な人達に貰った言葉を履き違えたりなんてしない。でも今のこいつはそれすらも忘れて悪だのなんなの言葉を侍らせて滅ぼそうとしている。
「願いなどない!! 俺は……貴様らがのうのうと生きている事が許せない。いい加減……俺にその幸せをくれよ!!」
多分……黎騎も色々限界なんだと思う。色々なものを失って,自分の世界が滅んで……その滅びと引き換えに人知れず平和に生きていた俺達の世界の人間を憎んで憎んで憎みまくって……疲れたんだと思う。
この時まで戦って,戦いしかない黎騎の人生に一番絶望しているのは黎騎自身だ。戦っても戦っても,大事なものを守り切れなかった黎騎の人生……彼は努力したと思う。強くなったと思う。それでも……守れなかった。
守れなかったからこそ破壊し,再び自分が守るものを手に入れようとしている。それが例え仮初だったとしても,そうしないと黎騎の人生が無意味なものになってしまうと思っているから。
それでも……
「俺は……家族を笠木に殺された」
「……っ」
「今が幸せなのは……その通りだ。多分,お前が望めなかったものを俺は受ける事が出来ている」
それは家族の愛や,自分を形作ってくれた人達の想いだったり……愛美が自分にくれた笑顔だったり。
それらは黎騎の言うように光輝の幸せとして確かに存在する。
「だけど,それまでが無くなる訳じゃない! 俺の過去も,他の人の過去も……お前には到底足りないものかもしれない。だが,誰もが未来に向けて歩みを進めてる! 1人で動けなくても,大切な人達が俺の背中を押してくれる。それは俺が選び,手に入れたものだ。貴様にくれる訳にはいかない」
例え……俺達の世界がある事で黎騎の世界が可笑しくなったのだとしても……俺にだって失ったものはある。欲しかったものがある。その時の喪失感は黎騎にだって分かるはずだ。
でも,俺はもう一度立ち上がると決めた。今度こそ大事なものを守っていくって覚悟を決めた。
そうやって俺はこれまでを戦ってきた。それを破壊しようとしているお前が,俺が手に入れようとしている幸せをくれ?
「笑わせるな,幸せは奪うものじゃない。他者を受け入れて初めて貰えるものだ! 世界を壊し,自分すらも壊そうとしているお前がそんなものを掴めると思っているのか?」
「じゃあどうしたらよかったんだよ!!」
今まで溜まっていた何かを吐き出すように叫んだ黎騎の悲哀の眼を……俺は蒼の力が無くても生涯忘れる事はないのだろうと思った。
心の壁を決壊寸前まで修復せず,こんな戦いに臨むなんて多分敵の俺に言わせれば馬鹿だとしか言えないのだと思う。俺が決戦の前に仲間達に貰った物を,愛美に貰ったものを黎騎は貰わなかった。
俺とは何もかも正反対で,闇に生きたこいつは……心が弱いままの俺だったのだから。
「世界が滅んで,家族が死んで,たったの7歳のガキを大人は守ってくれなくて,沢山特訓したのに全員死んで! 俺は……俺はどうすればよかったんだよ!!」
それは慟哭の雨だった。
黎騎の心の壁が決壊した瞬間だった。必死に当時をどうすればよかったのかを懇願して聞いて来るこいつは,多分今回の全ての一件の最大の被害者だ。
そして,俺は黎騎のこの言葉に返す言葉は見つけられなかった。だって見つけられる訳ないだろ。
今でこそ,時の界王神様の下で働いているけれど時の界王神様は基本的に甘いように思えるが,それは仕事以外の所だ。仕事ではある意味冷酷とも言える事をしてくる。
未来の悟飯さんの時が良い例だな,歴史では悟飯さんが死んでしまう。だから俺は当時”正しい場所”で悟飯さんが殺されるように導かなければならなかった。それが時の界王神様の指示であり,俺はそれに反発した結果心に甚大なダメージを折ってしまったのだが。
だから,時の界王神様は次元の壁に干渉しない限りきっと黎騎の世界には干渉しなかった。
”歴史を守る”と言えば聞こえはいいが,実際は人を見殺しにするような事も普通にして時の巣の時の巻物には沢山のバッドエンドだってある。
だから,悟空達みたいな超人たちもいなくてドラゴンボールもない黎騎の世界は……遅かれ早かれこうなっていた筈だ。
それがシーラスが時の界王神を見限った理由であり,黎騎がシーラスに加担する理由なのだろう。黎騎にとってシーラスこそが時の界王神であり,信頼関係などないが目的が同じ。
だからこそ共に戦ってきた。
こうやって光輝の前に立ちふさがって来た。全てが……これまでの自分の歴史を消す事が出来ると信じて。それまで否定されてしまったら,黎騎の心はもうどうしようもないこの現実に絶望するしかないではないかと。
「ああ,俺には……どう考えてもお前を救える道は思い浮かばなかった」
そうだ……だから,俺が黎騎にしてやれることは1つしかない。奴にも手に入れたいものがあるように,俺にも守らないといけないものがある。
俺達の存在が,黎騎を作ったのだとしても……俺にはやっぱり”全てを救う”なんて選択肢は浮かばなくて英雄にはなれやしないとどこか自虐の気持ちが抑えられない。
これはエゴだ,世界の……そして俺自身のエゴだ。
光輝はその剣を背中の鞘にスチャッと音を鳴らしながら入れ,右手で印を組んだ
「俺がお前にしてやれるのは……”死”だけだ」
「西沢……光輝ィイイ!!」
光輝の宣言を,黎騎は怨念を込め名を叫びながらその力を解放し光輝にその気が放たれる。
だが光輝はそれを自分の気で弾き飛ばし,勢いよく地面を蹴って……黎騎と交錯した。
お互い,すれ違った恰好のまま止まる。本当に一瞬のやり取り……瞬間100はくだらないやり取りをして……倒れたのは黎騎の方だった
★
黎騎……そう名乗った青年が,光輝と交錯し倒れた。あまりにあっけないように見えて,その実凄まじい攻防があったのだが,光輝はそれを制したのだ。
「ほう……やるじゃないか,光輝の奴」
そのやり取りを見ていたビルスが,以前戦った彼とは比べ物にならない程の戦闘力をあげたことも含めて彼の技量を掛け値なしに褒めた。
今の戦いを見ていた殆ど……というよりもビルスとウイス以外の人間は光輝や黎騎がどんな攻防をしていたのかも分からないだろう。有象無象であればただ2人がすれ違ったようにしか見えない程の次元を超えた攻防で,光輝が紙一重で勝利を収めていた。
彼の強さはビルスの値踏みによると,超サイヤ人ブルーの悟空や超サイヤ人4の悟空とそう大した差はない。2つの姿もそれぞれ特徴はあるが,今の光輝の姿はどちらの変身の特徴も受け継がず西沢光輝本来の戦闘スタイルを求められる。
「きちんと私の言いつけを履行していたのですね。以前に比べて遥かに良い動きです」
だからこそ,光輝の修業の成果が如実に表れてウイスも光輝を評価した。
ビルスは次に,光輝に敗れ地面に倒れた黎騎を見てどこか憐れんだような眼で見て告げた。
「それにしても,光輝になれなかった光輝か……世界が違えば人間はこうも邪悪になるのだな」
「ビルス様,彼らの場合は比べるにしても前提条件が違い過ぎるとお思いですよ」
「時の界王神があいつの世界に手を差し伸べていたら,結果は違ったのかもしれんな」
少し嫌味らしくビルスが言うのを,時の界王神は否定する事が出来なかった。
ただ一つの歴史を変える事は許されない。シーラスが変えようとした時と同じように,時の界王神は黎騎の世界への干渉をしなかった。黎騎自身たちの手で未来を作って欲しいという思いもあった。……それは言い訳だ,自分は時の界王神という立場に囚われていた。
光輝のように知らない間に他の歴史に干渉してしまうようならそれはタイムパトロールの仕事の範疇であるが,黎騎には次元の壁を開けるなんて芸当は1人では出来ず自然タイムパトロールが介入する事態にはならなかった。
ただそれだけの差,それだけで世界が分かれ1人は神に絶望し世界を壊そうとした。黎騎の逆ギレと言ってしまえばその通りだろうが,彼の怒りは正当なもので時の界王神の中でやるせない気持ちがあるのも確かだった。
「まっ,これで光輝がシーラスって奴を倒せば全て解決という訳だな」
そんな陰った時の界王神を一瞬見たビルスだが,気を取り直すようにあとはシーラスを倒すだけだという。普段なら星1つの未来をかけた戦い程度ではこうしてビルスが観戦することなどないのだが,今回は全ての次元をかけた戦い。
関係ないという事は出来ず,最後まで見守る気持ちだったようだ。
「どうでしょう?」
ビルスが1件落着とも言いたげに安心したのを,ウイスは疑問を出す事で露散させてビルスは少し不機嫌そうに付き人を見上げた。
「どうでしょうって,今の光輝がシーラスに負けるとでも?」
最悪身勝手の極意を発現出来るという素質を持っているだけでも,彼は世界を救える力を持っている。そんな光輝がシーラス如きに負ける訳ないだろというある種の信頼がビルスの言葉から感じるが,ウイスが心配しているのは対シーラス戦ではなかった。
「ビルス様」
ウイスは眼線でそこをビルスに見上げさせ,ビルスの視線が細まった。
ビルスの目線の先では,光輝の世界を覆っていた宇宙樹の根が高らかな光を帯びて……1つのキューブのようなものが出来ていた。
そして……そのキューブを持っているのは……
「シーラス!」
今は異次元となったアナザーユニバースにいたはずのシーラスが,いつの間にか光輝達の前に姿を現していた。そしてビルスはそのキューブから凄まじいまでの力を感じ取る。
それが宇宙樹から供給された力など見たら分かるが,ブラックの時とは訳が違う……他者を暴走させることしか考えられていない禍々しい気がそれを満たしていた。
直感的に不味いと思ったビルスは,映像の中で黎騎をその剣で斬ろうとしている光輝に向けて叫んだ
「光輝,逃げろ!!」
映像の中で光輝はビルスから声をかけられるとは思わなかった事も含めて,反射的に後方上空に眼を向け……凄まじい勢いで飛んできたその宇宙樹キューブを躱した。
『シーラス?! ……ッ?!』
シーラスの姿を確認した光輝は,直ぐにそのキューブで狙ったであろう黎騎へ振り返って……絶句した。
『あっ……あ……ガアアア!!』
キューブは既に満身創痍となっていた黎騎の身体に侵食するように入って,彼は悶え苦しみ始めた。顔も蒼白になり,まるで身体の中の何かに抗うように身体を痙攣させていた。
ビルスはその異常事態に,少しばかり眉間に皺をよせた
★
黎騎の変化は,如実に,そしてまるでこいつを蝕むように現れた。その黎騎の闇の気を増幅させるかのようなあのキューブみたいな奴を見て……それがどう考えても良いものではないのは分かる。
その悪寒の正体をやりやがった本人に聞くしかない。
「シーラス!! てめえなにしやがった?!」
奴はいつものあの棒を携え,冷たい瞳で俺達を見下ろしていた。奴は俺の問に答える事はなく,黎騎に語り掛けるように話した。
「貴様……今は黎騎と呼ぼうか。ここまでご苦労だった」
その言葉を聞いた黎騎は,悶え苦しみながらも信じられないような眼でシーラスを見上げていた。ただ,彼の言葉の真偽を黎騎は胸の中から侵食してくる何かに対抗する為に問いかける事が出来なかった。
それはシーラスも分かっているのか,正義と言っていたのが嘘のように顔を醜悪に歪めて続けた。
「しかし,現在宇宙樹のエネルギーは十分に溜まっていない。貴様がその小僧から吸収させる予定だったエネルギーを大きく下回ったからだ」
それは逆説的に悟空達が善戦しているという報告なので光輝からしたらいい報告でしかないのだが,そんな事を報告する為に安全圏から来たわけでもない。
そして,その不足しているダメージエネルギーを補う手段は……見たら分かる。
「宇宙争乱の戦いで,宇宙樹の種を体内に植え付けられた戦士がいた」
それは光輝が新生ツフル星エリアで戦ったカミンとオレンなのだが,今の光輝はそれは知らない。だが光輝にとって重要なのは宇宙樹の種を身体に植え付けられたという所であり……今の黎騎がそうではないかと歯を食いしばってのたうち回っている黎騎を見て,直ぐに殺そうと気功波を放とうとする。
「——ッ!」
だが,そんな光輝を妨害するようにシーラスからもエネルギー波が放たれ光輝は後退を余儀なくされる。そしてシーラスのまき散らした気功波は煙幕にもなり黎騎の姿を完全に消してしまい煙の向こうから彼の今にも張り裂けそうな叫び声しか聴こえなかった。
「Ahaaaaaaa!!」
まるで人間が怪物になるかのようなそんな声で,光輝も思わず背筋が凍り……黎騎の気が大きく膨れ上がっていくのを感じた。戦慄している光輝を見ながらシーラスは続けた。
「そのものはそれまでとは比べ物にならない程の力を得て宇宙樹に還元した。貴様の足りない分のエネルギーは貴様自身から貰おうとしよう」
「シーラス!! この外道が!!」
光輝は叫び,直ぐに気を吹き上げながら宙にいるシーラスに突貫した。そのこれまでの光輝とは違う次元にあるスピードに,シーラスは反応し棒を横に置くことで光輝の袈裟斬りをガードし火花が2人を照らした。
「お前ら,仲間だったんじゃねえのかよ!!」
「ああ,この時までは仲間だった。だが奴は貴様に負けた。予定のエネルギーも取れないそんな敗北者にかける情けはない」
「敗北者? ふざけるな,あいつは……あいつなりに世界と戦っていた! それを一番近くで見ていた貴様がそれを言うのか!!」
「どうした,やけに奴に感情移入するではないか。やはり……同一人物だからか?」
「……っ」
シーラスは光輝の隙を見逃さず彼を弾き,態勢が崩れたのを追撃するかのようにオーバーヘッドキックの要領で光輝を地上へと叩き落した。
地上に堕とされた光輝は難なく着地を決めてシーラスを見上げる。
「だが,仲間だったのは認めよう。それ故に……全てを破壊する力をくれてやったのだ」
そう言ってシーラスは煙が晴れ……肉体が変化し始めている黎騎を指さした。光輝はハッと振り返ったら,黎騎の身体が徐々に白身を帯び始め肉体が肥大化し始めているのを見て遅かったと理解してしまった。
それでも黎騎はまだ戦っていた……が,シーラスは諦めの悪い黎騎に対して称賛するように見てから……絶望に叩き落した。
「黎騎よ,仲間だったよしみで最後に教えておいてやろう。貴様の地球を破壊したのは自然災害などではない……俺が破壊した」
それは衝撃的なカミングアウトで……
「「……っ?!」」
その時……黎騎の眼から涙が出てきて,様々な感情がぐちゃぐちゃになった。
光輝もその言葉に絶句し,次第に怒りが……怒りが抑えきれなかった。まるで腹の底から湧き上がる激情の渦を,光輝は抑える事が出来なかった。
だが,それ以上に怒りを抱いたであろうこれまで悶え苦しんでいた黎騎が気力を全開にして叫んだ。
「き……貴様……貴様ぁああ!!」
それに伴って黎騎の気が尋常じゃない程膨れ上がるが,光輝はそれを見て不味いと思った。シーラスの今の話は,本当であれ嘘であれ今の黎騎にそれを見極める手段はない。
そして,宇宙樹の力が黎騎を乗っ取ろうというのならその瓦解した心を付けこまれる。
「黎騎聴くな!!」
「Ughaaaaaaaa!!」
だが,決壊した精神状態では光輝の言葉など聴こえる筈も無く……黎騎の意識は既に闇の中に飲み込まれていた。それでも尚,力を増幅させる為にシーラスは続けた。
聴かれてもいないのにその理由を語ったのである。
「そもそも,いくら宇宙のエネルギーバランスが崩れているからと言って世界が滅ぶような事は普通ない。宇宙は元からあるもので適宜やり繰りをするからだ。現に,貴様が元居た世界の地球以外の星はまだ生命体がいる」
つまり……アナザーユニバースはこの世界に比べて確かに宇宙全体のエネルギー量は劣るけれど,そのエネルギーでやりくりが出来るようになっていた……逆に言えば黎騎が本来こうして苦しむ事は無かったのだとシーラスは言っているんだ。
黎騎は……シーラスの計画に初めから利用されていたって事だ
「本格的に外道じゃねえか」
「貴様らがやって来たことも外道ではあるだろう? 例え,俺が滅ぼしたのだとしても手を指し伸ばさなかったのは時の界王神だ」
シーラスの言っている事は……多分正しいのだろう。本当にシーラスの言う通りならば,黎騎の世界への介入はタイムパトロールの仕事だった。
だけど,シーラスの介入に時の界王神様は気がつくことが出来ず……結果的にこんな事が起きてしまったことになる。
”基本的に歴史には介入しない”という時の界王神様のスタンスが完全に裏目に出たのなら……シーラスの言うようにある意味俺達も外道なのだろう。
勿論改変されない限り歴史に介入しないというのは当たり前のスタンスなのだけど,黎騎を助ける事は……タイムパトロールの案件だったとシーラスは言うのだ。
「なんでだ,何でこんなことしやがった!! お前は悪がいない世界を望んだんじゃないのか!?」
シーラスの話が本当ならば,外道とかそんなものを抜きにしてもシーラスが悪だろどう考えても。黎騎をここまで追い詰めたのは俺の存在なのかもしれない。
だが,シーラスがそれを考えるきっかけを作ったのだとしたら悪としか言えない。正義だの悪だの普段言わない俺にだってその程度の事は分かるぞ。
「一つはあの不完全な宇宙が都合が良かった。そして……もう1つは黎騎,貴様の潜在能力を買っていたからだ」
「お前……まさか……黎騎を仲間に入れる為だけに地球を滅ぼしたのか?!」
黎騎が……別世界の俺だとすれば,普通シーラスにつくことはない。他の人なら分からないが少なくとも俺は自分自身の事であれば断言できる。
だけど,それは仲間や家族がいる場合の事で黎騎の事を同情したように仲間がいなかったら俺だってどうなっていたか分からない。黎騎は”守るべきもの”を全て奪われ,その結果シーラスの誘いに乗った。
シーラスが家族や大事な人の仇だとも知らずに,シーラスに力を貰い……利用された。
「元より俺の計画は全ての世界を破壊し,新たな世界を創造する事だ。そこに創造主は2人も必要ない」
「シーラス!!」
「それよりも,良いのか? 俺にばかり注目していて」
ニヤリと笑ったシーラスが指さした先で,黎騎は本格的に意識を失い……その姿を変貌させていた。
身体は肥大化し,俺の数十倍の大きさに変わって皮膚は黒色に変化しその瞳は真っ赤に染まる。更には人型だった体型も既に化け物と呼んでしまう方が正しいような姿になってしまって……その身から放たれる気は先程の黎騎の比ではなかった。
「くっ!」
「Ahhaaaaa!!」
黎騎は……この世ならざる姿へと変身し,どう見ても理性を失って……化け物と言われても仕方のない姿になってしまっていた。黎騎の叫び声が,大地を揺らし周りのビルや建物が次々に倒壊していく。
光輝は咄嗟に手ごろなビルへと飛び乗って上からその変身してしまった黎騎を見下ろす。
あの黎騎の姿……どこかファンタジーゲームにいそうな風体だが,正直迫力という意味ではどのアインクラッドやALO,GGOそしてアンダーワールドのボスクラスモンスターよりもあって気を感じ取る事が出来る事も相まって背筋に冷汗が流れる。
「うそだろ……ジレンに匹敵するぞこいつ」
俺がこれまで戦った中で悟空さん達を除いて一番の実力者,第11宇宙最強の戦士ジレン……化け物の姿になった黎騎から感じられる気だけで言えば多分ジレンと匹敵する力だ。
俺はジレンの本気を見たこともないからジレンの方が強い可能性の方がまだあるが,それを差し引いても俺が戦った時のジレンの気に比肩する。あの時ジレンと戦った時は文字通り手も足も出なかった。
それを思えば,こいつの力は嫌でも分かる。
「っていうか,SAOにいそうな様相だなこいつ」
「それは当然だろう」
俺が立っているビルの前で,化け物になった黎騎を観察していたシーラスが俺の言葉に答えた。
「あの姿の元はアインクラッド第100層ボス<An Incarnate of the Radius>を参考にしたもの……奴がアナザーユニバース最後の戦士であるならばこれ以上に無いネーミングだろう?」
「——っ!」
取り合えず,俺はシーラスを一発ぶん殴りたくて瞬間移動で奴の背後に回って拳を握ったが,それよりも早くシーラスの姿が完全に消えてしまった。
そんな俺を嘲笑うかのように世界にシーラスの声が響いた。
「さあ戦うが良い,世界の闇を1人で背負った男の哀れな末路を……その身に刻み込め!」
「Aghaaaaaaaa!!」
想定外の第三ラウンドが,切って落とされた。
お疲れさまでした!
というわけで,黎騎,あの時のカミオレン状態へと変化しました。
ただし姿はアインクラッド100層ボスと似た姿です。つまり能力殆ど同じです。クソゲーだぜ。
愛美との回を見て貰えれば分かると思いますが,光輝は<An Incarnate of the Radius>と直接戦ったことないので初見です。
だってARとVR,どっちの方が強い?となれば光輝はARでしたから役割分担で会場に残るのは割と妥当な判断ですから。
次回,ボス戦です!ではでは