6000文字位追加。
「お姉ちゃん!」
小学1年生の光輝が駆け出し1人の女性に飛びつく。女性は光輝を愛おしそうにキャッチし抱擁する。普段学校では見せないとびきりの笑顔の光輝が女性も·····姉も好きなのだ。
歳は10歳も離れているがそれを気にした事は無い。光輝が愛美を連れて来た時は光輝の未来のガールフレンドになりそうな愛美にもお姉さんと言って貰えていた事は嬉しかった。
姉の顔立ちは何やら外国の……それもロシアと日本人が混ざった様な顔だが姉自身はれっきとした日本人だ。
「こーら、走っちゃダメでしょ?」
「えへへ」
そこにいる光輝は笑って姉に抱きつきながら周りを見る。周りでは父が新聞を読み母はキッチンで料理、祖父は最近になってやり始めた読書、祖母は裁縫をして一目で幸せな家族と分かる光景がそこにある。
この光景は光輝にとっては当たり前でこれからも続くだろうと思っていた。
光輝はそこで姉から声がかからない事に気が付き姉を見る為に上を向いた。そこにいた姉は光輝から離れていきその顔は寂しさと罪悪感がある。何故そんな顔になるのか光輝は分からない。
そしてよく周りを見たら先程まで新聞やら料理やら読書やら裁縫をしていた筈の両親と祖父母が姉と同じ表情で立っていた。そんな今まで向けられていた事がない表情に光輝は思わず1歩下がった。
「あれ……なんで?」
光輝はそこで先程まで小一で私服だった筈なのに今は小三の体になり道着を着ている事に気がついた。そしてその場から1歩も動けなくなった。
「なんで!?」
光輝は思わずそう叫ぶが1歩も言う事を聞いてくれない。
そうこうしている内に祖父が言った
「光輝、すまんな」
「·····え?」
謝られる理由が分からない。
そして家族は口々に光輝に謝りながら遠ざかっていく
「待って·····待ってよ」
光輝は手を伸ばし追いかけようとするが足がどうしようもない程動かない。
「動いてよ! 動け!」
そう涙を見せ叫ぶ。だが光輝の想いとは裏腹に全く動かない。家族はとうとう光輝から見えなくなり光輝は抵抗をやめた·····やめるしか無かった。これ以上抵抗したら余計に辛くなると分かってるから
そんな光輝の前に映像が出てくる
両親、そして祖母が笠木に殺され祖父が立ち向かったが敗北、その後姉も·····
「あっ……あ·····う……やめて……やめてよ」
光輝は膝を付き頭を抱える。そんな光輝の頭にあの声が聞こえる
「ヒヒヒ、君が僕の邪魔をしたのが悪いんだ! 恨むなら自分を恨むんだね!」
その声と光輝の叫びが真っ暗な空間でこだましたのだった
★★★★★
「はっ!」
そう言って俺は安全地帯の床から飛び起きた。
迷宮区には安全地帯と呼ばれる休憩所みたいな所がある。休憩所と言っても地べたでありふかふかな布団何て無い。
プレイヤーはここで休憩したりご飯を食べたりする。ついでに言うなら光輝にとっては臨時のホテルみたいなものだ。光輝はあんまり主街区の宿泊施設には行かない。主街区に行くのも武器の点検とかその辺だけだ。
光輝が宿泊施設に泊まらないのは単純に面倒くさいと思っているのと攻略組の面々と余り顔を合わせたくないからだ。特に最前線の宿泊施設には攻略組がよくいるのでそれも相まって面倒くさいのだ。
マイホームと言う手もあるが光輝のマイホームのイメージが大人が買うみたいなイメージなので自分みたいな子供が買うと言うイメージが湧かない。それからコルが高い。そして·····自分と住んでくれる大切な人達がいない
飛び起きた光輝は呼吸を整え……涙ぐみながらぽつんと言った
「み……んな。ねえ……ちゃん」
思い出される皆の事。俺のせいで死んで言った皆の事。俺がもっともっと強かったら死なせないですんだ皆の事
後悔先に立たず、確かにそうだが今の光輝にはそんな事を考える余裕なんて無かった。ここ数日何回も同じ様な夢を見る。見る度に光輝の精神がすり減りとことん気持ちが落ちていく。
そんな光輝1人で暗い雰囲気になっていた安全地帯に誰かが入って来た。光輝は目線だけ向ける
「おお! 光輝じゃないか! 第50層の時ぶりだな!」
そう言って入ってきたのはクライン率いる風林火山の面子だった。
クラインはキリト曰く悪趣味な赤いバンダナを巻いているおじさんである。
キリトがSAOで初めて交流した人でもある。その時クラインはキリトから基本的な戦闘をレクチャーしてもらっていた。そしてその技術は今でも役に立っている。
クラインはデスゲーム宣言後、キリトと別れリアルの仲間達と合流、風林火山と言うギルドを作り攻略組を目指した。
クラインは直ぐに訝しげな視線になった。何でだと思ったら聞いてきた。
「光輝……、おめえ泣いてたのか?」
「えっ?」
そう言って俺は自分の目の辺りを触ったら確かに濡れてた。
何回も見るあの夢のせいで光輝は自分でも知らない内に大分追い詰められている。それをモンスター達に八つ当たりして目を背けて一時的に平常に戻るだけで休憩していたら元に戻るのは道理。
俺は悟らせたくないから目元を拭いながら強がった。
「な、何でもない!」
だがそんな子供の強がり何て光輝よりも何年も生きてきたクラインにはバレバレだ。クラインは光輝に近寄りしゃがみながら言った。
「いや、なんでもない事はないだろう。お兄さんに話してみな」
お兄さんと言う年齢は過ぎているような気もするが光輝にそんな事を突っ込む余裕は無い。それどころかその優しさが逆に光輝を追い詰める。
皆優しいからこそ自分1人で迷惑をかけたくない。きっと言ったら皆気分悪くなる。
だから自分は1人で戦い攻略組の誰かが死ぬ所何て見たくなくて·····
自分が我慢すればいい。この世界には家族なんていないのだから
「何でもないって言ってるだろ!」
そう思わず叫ぶ。クラインはその声に思わず立ち上がっていた。俺は剣を背負い直し安全地帯を出ようとしたが止められた。特に先程の叫びを気にせず
「おい、俺らと一緒に行かないか? この先に行くんだろ?」
普通のゲームなら1人で行ったって全く問題は無い。だが今はデスゲーム、死んだらそこでゲームも現実も終わり。
今のアインクラッドでは大人数で攻略に行くのが普通だ。それこそクラインみたいにギルドを作るとか。キリトだって現状ソロだが帰る場所として月夜の黒猫団がいる。だが光輝にはそんなものは無い。光輝の居場所何て……どこにも無い·····と本人は思っている
俺は立ち止まって振り向かず答えた。
「……別にいい。この先にはボス部屋しかないからそこのボスに殴り込みに行くだけだから」
デスゲーム下では確実に馬鹿な言葉にクラインは思わず叫び返す
「いやいや、危ねぇだろ!」
「別に。何時もやってる事をやるだけだ」
光輝は事実を言ってるだけだ。今の所アインクラッドは全部で53層まで攻略されている。その半分は光輝が単独で攻略した。残り半分は攻略組、或いはクォーターボスの時に光輝と攻略組が手を組んだ時のものだ。
だから何時もやっている事と言うのは本当だ。自分だけ挑んで負けたら自分が死ぬだけでいい。
(どうせ俺を待っている人なんていない)
そう心で続ける。この世界が未来なのならば自分はとっくに忘れ去られ皆笠木と光輝の事なんて人外同士の喧嘩とでも思っているだろう。
櫂一家や愛美がいたとしてもそれはもう光輝が知っている人達では無い。だから自分を犠牲に出来る。誰も自分何か必要としていないから
今攻略をしているのだって1割はもしかしたら元の時代に帰れるかもしれないと密かに希望している事、残り9割はこの世界で得体の知れない自分に親切にしてくれた人達を元の世界に返す為だ。
だが今に関してはもう嫌な現実に目を背ける為の攻略でもある。
しかしクラインはそんな事は知らないし推し量る事も出来ないのか自分よりも年下の光輝を1人で行かせることに良心が痛むのか
「で、でもよう……」
何かを言おうとしたクラインの声を……その優しく心配してくれる声を光輝は聞きたくなくて
「もううるさいな! ほっといてくれ!」
そう迷宮区に響く声で叫び俺は制止の声も聞かずボス部屋に向かった。
★★★★★
光輝が出て行ってから俺達は腹ごしらえして直ぐに後を追った。光輝の様子は普通じゃなかったからな。幸いギルドメンバーも気のいい奴らばかりで直ぐにOKを貰った。
そしてmobは光輝の奴が先に片付けて置いたのか少なかったおかげで俺達は結構早くボス部屋についた。ボス部屋は戦闘中は基本開いていて俺達は入り口の所から中を見た
そして見たものは光輝が吹き飛ばされて壁に叩きつけられていた所だった。血の気が引いた。あいつは痛みがあるんだぞ!? それをあんな勢で叩きつけられたらたまったもんじゃない。ボスは鳥型で多分突風攻撃でもしたんだろう。俺は光輝に駆け寄って退避させようとしたが
「邪魔するな!」
そう言われあのクォーターボスでさえこんなに危機迫った感じはしなかったのに今は何かを恐れて戦ってる感じがする。そして俺の返事を待たず駆け出した。俺達も行こうと思った矢先に後ろから足音がして来た。来たのはディアベル達だった。
ディアベル達はクライン達が安全地帯を出たのとほぼ同時に安全地帯に入りクライン達が焦った感じで先に向かったのを見て直ぐに追いかけてきたのだ。ディアベルは光輝が鳥型……グリフォン系のボスと戦っているのを見ながら聞いた
「クラインさん! これは一体どうしたんですか!?」
「光輝がボス部屋に1人で入った!」
そう言って俺達はボスの鳥を見た。体力は半分にまで削られている。あいつ一体何レベなんだよ! と思った。
光輝の事情は攻略組の中ではほぼ全員に知られている。レベルと武器の性能と威力で相手へのダメージが決まる事等。クライン達がここに来るまで30分程かかった。光輝と別れてからなら45分程だ。光輝が全力ダッシュしてボス部屋に突撃したのなら恐らく20分程かかりそこから逆算して25分位殴りあっていたはずだ。それも空を飛んで攻撃を当てにくい鳥型にだ。だからこそ思ったのだ
光輝が一旦下がってくる。ディアベルは思わず前に出て言った
「光輝さん! 俺達も手つだ……」
そしたら俺たちの目の前にピックが投げられてきた。それを投げてきたのは当たり前だが光輝だった。そして今まで見せた事の無い冷徹な瞳で言ってきた。
「邪魔するなと言ったはずだ。それに今回の層は元々早い者勝ちだ」
「でもよう光輝。あのボスは人数が多い方がいいんじゃねぇか?」
鳥型を倒す基本は羽を折り飛べなくしてフルアタックが鉄板。その為には大人数が良いのは必然。だが光輝はボスに向いて答える
「例えそうだとしても俺は1人でやる」
「ちょ、おい! 光輝!」
そう言って光輝は走り出しボスの羽にある針を飛ばす攻撃を躱したり剣でたたき落としたりしながらどんどんボスに近づきそして飛んだ。
光輝はピックを一つ投げてボスの目に命中させ視界を奪った隙にボスの上に乗り剣を突き立てた。
ボスは叫んで光輝を振り落とそうとしてるみてぇだが光輝は全く落ちる様子はない。空で暴れているから俺達は手を出せずあいつの無事を祈った。そしてみるみるうちにボスの体力が無くなりポリゴンとなり消え光輝が落ちてきた。そして着地……出来なかった。
「がハッ!」
そう言って背中から落ちた。ただのそれだけでもコンクリートに落ちた時の痛みの筈なのだ。俺は心配で近寄った
「お、おい。大丈夫か光輝?」
駆け寄りながら俺は手を差し出したが光輝はそれを取らずに立った。やっぱり変だ。少なくとも俺の知ってる光輝はこんなに冷たい感じはしなかったはずだ、今はどこか別人に見える。俺は前から思っていた事を聞いた。
「お前は何で1人になりたがる! 皆と一緒に戦えばもっと楽に勝てるだろ!」
MMOは元々大人数VSボスが普通だ。1人で挑むのもチャレンジでするのは良いがデスゲームでするのは普通に自殺行為だ。その自殺行為を普通に切り抜けているあたり光輝は頭おかしいが光輝からすればもう普通だ。
そして光輝は
「…………言いたことはそれだけか?」
「なっ!?」
唖然とする俺らを置いて光輝は次の層に登って行った。
★★★★★
翌日 第50層主街区 アルゲード
「……俺のせいで誰かを死なす訳にはいかないんだ。俺のせいで……」
そう光輝はぶつぶつ言う。脳裏には最早人なのかすら分からなくなった家族の死体、血だらけの祖父がある
今俺は溜まりに溜まってしまったポーションを売るためにあのスキンヘッド……名前をエギルという人の所に行くために第50層の主街区アルゲードにいる。
でも迷子になった。道が入り組みすぎてわからなくなった。そう思ってブラブラしながら探しながら俺は昨日の事を考えてた。
……冷たく当たっちゃった。もう嫌われてるだろうな。味方を自分から遠ざけてもう自分が嫌になる。·····馬鹿だな俺。この世界に味方なんていないのに……
そんな思考を周りを見ないでしていたら当たり前だが人に当たる可能性がある。
それは今の光輝も例外では無く角を曲がった所で思いっきりぶつかった。
「きゃっ!」
「いて!」
俺は小学三年生の時の身長だから相手がそれなりに大きかったら不意打ちでぶつかった時は俺が弾かれる。
それも主街区の中だったので完全に油断していた。
「いてて」
「ごめんね、僕。大丈夫?」
完全に対応が小さい子にするそれだが光輝は答える余裕も無かった。相手は光輝を立たせる為に手を差し出した
俺は差し出された手を反射的に掴み立ち上がりお礼を言いながら立とうとした。立つ所までは出来た。だけど·····相手の顔を見た時……頭が意味分からなくなった
「おねえ……ちゃん」
「へ?」
姉に顔がそっくりだった。声も凄く似ていた。というか多分声質は同じだ。
髪の色は違うが姉にそっくりだった。でも服装も姉が好きな物とは違った。この人の服装はどちらかというと1度秋葉原に行ったことがあるがそこにいたメイドさんの格好に似ている。取り敢えず·····間違った事を謝っとく。
赤の他人を死んだ姉に重ねるなんて最低だ
「ご、ごめんなさい! いきなり間違えて」
確かに見知らぬ子供がいきなりお姉ちゃん何て言ってきたら誰でも驚く。相手の女性も例外では無く普通に変な声が出た。
女性は少し気になったが返した
「あ、ウンウン。大丈夫だよ。所で大丈夫? 泣いてる見たいだけど?」
そう心配している顔で覗いてくる。見れば見る程姉と何もかもそっくりで·····だからこそそんな事言われたら否定したく
「えっ? な、泣いてなんか」
「うそ。ほら」
「あっちょ」
そう言われてその人の指が俺の目の辺りにいき1回押し当ててまた見せてきた。無意識に姉を思い出して泣いたらしい。俺ってばこんなに泣き虫だっけ?
俺はもう何が何だかわからなくなって夢中で謝った
「ご、ごめんなさい」
だが女性は別に謝られるような事でも無いし子供が泣いているのを我慢している方が見ているのが辛くて
「もう、何謝ってるの? 泣きたい時は泣けばいいんだよ」
「俺は別に泣いてなんか……」
そう強がっている子供に何を言っても無駄なので女性は光輝を観察しながら聞いた
「ふーん。所で僕。何か探し物? さっきもブラブラしてたよね?」
光輝は今日永遠と迷子になっている。アルゲードには来なさすぎて分からなくなっているのだ。そんな様子を女性も見ていてそれを覚えていたのだろう。
俺は本当は目的なんか言わなくてもいい筈何だ。だけど·····別人だとしても姉と同じ顔と同じ声で聞かれて……抵抗出来なかった
「え、えと。エギルって人の店に行きたいけど迷子になっちゃって」
それを聞いた女性は
「あー、エギルさんね。私も今から行くから一緒に行く?」
そう言われ魅力的な意見だから素直に頷いた。永遠と迷子になっているのも少し疲れた。エギルさんにメールを送って場所を教えてもらう事も考えたがお店だから忙しいだろうから遠慮していた。·····姉と似たこの人と一緒にいたい訳では無い
そんな事を思っていたらいきなり手を繋がれた
「え、えと。その」
「ふふっ、迷子にならないように、ね」
アルゲードは人も多い。光輝も迷子になったのは半分は人の波に流されたのもある。だから手を繋ぐのは間違っていないと光輝は自分に言い聞かせた。
「は、はい」
そう言われ俺は手を引かれながら歩いた。凄い周りから見られてるけども。このお姉さんは何処吹く風というように華麗にスルーしている。そして俺は無言を突き通し着いた
「ここだよ」
そう言ってお姉さんは手を繋いだままドアを開けた。中にいたのはチョコレート色のスキンヘッドのおじさんだ。この人がエギルさんだ。エギルさんはお姉さんを見た
「いらっしゃい、レインと……」
そう言って家主は俺を見て目をぱちくりさせてる。そして割と直ぐに復活した。
「光輝じゃないか! 何だ、やっと来てくれたのか!」
「エギルさんお知り合いなんですか?」
そうお姉さんが聞いた。エギルは頷いた後、あれ? と言う顔でレインに言った
「ああ、というかレイン。お前気が付かなかったのか?」
そう言われてからお姉さんは俺の事をじっと見てきて今思い出したように答える。というか俺はカーソルやらないから普通真っ先に気づきそうだが。
「も、もしかしてこの子が!?」
「ああ、攻略組には一応属すがフロアボスとはクォーターボス以外とは真っ向勝負でしかやり合わずそしてそれに打ち勝っている『蒼赤の戦士』だ」
蒼赤の戦士、それが俺の2つ名だ。まあ見た目が蒼と赤色だからそのまんまだな。因みにキリトは《黒の剣士》、アスナさんは《閃光》って言われてる。何で俺が剣士ではなく戦士なのかはアルゴ曰く普通に剣だけじゃなく無手で殴り込みにも行くから剣士とは言えないよなって事でそうなった。ビーターの方はあまり使われなくなった。皆ベータテスターを責めたってしゃあないってなったんだろうな。……そして密かにこの呼び名は気に入っている。
「まあ、俺としては早くどこかのギルドに入って欲しいんだが……」
そう言ってジト目で見られる。だけど俺は1人じゃないとダメなんだ。だからこれからも1人で戦う。1人で戦えば誰も死なないから。死ぬ所なんて見ないで済むから。そしてしばらくジト目見られ続けたが商人の顔に戻った。
「まあいい、レインは何の用だ?」
「あっ、師匠からお使いを頼まれたんです。このリストのものをください」
そう言って光輝の手を離しメニューを出してエギルに見せる。エギルはそれらのメニューを一瞥した後自分のメニューも開きレインと呼ばれる女性に送る。女性はそれとほぼ同時にコルをエギルに渡した。これで取引成立である。
「おう、毎度あり! じゃあ次は光輝だ」
「あっ、えっと。このポーションと謎の素材全部を」
初めてNPCじゃなくて人に売るから緊張している。まあ相場なんか知らないから何コルでも良いんだけど。
俺がエギルさんに見せたメニューを見たエギルさんは
「お前どんだけ貯めてたんだよ! もっとこまめに来いよ」
そしてレインはそんなメニューをチラ見して·····信じられないようなものを見る目をしてエギルに言った
「あっ、エギルさんちょっと見せて」
そう言ってレインさんはシステムメニューを見てこっちに顔を向けて
「こ、これS級食材だよ! 本当に売るの!?」
アインクラッドでは食材にはランク付けがされている。高い順からS・A・B・C・Dとなっていて当たり前だが高い程美味しい。しかしSランク食材はそれをドロップするMOBが滅多に現れず半ば幻状態なのだ。エギルもレインも見るのは初めてだったりするのだ。
因みにものによるがDランクはこの世のものとは思えない味をしているらしい。光輝は最初期は割と食べてた。そして料理した方が良いということに気がついた。
S級食材と言われたら多分あのラグーラビットの事かなと思い答える。
「うん。料理スキルは足りるけど簡易キッチンじゃ美味しく出来ないからそれなら美味しくできる人にあげようかなって思って」
光輝は料理スキルを取っていてその熟練度はもうMAXだ。何故なら永遠とMOBから手に入れた謎の食べ物達を安全地帯等で永遠と料理しているから嫌でも熟練度が上がるのだ。
そして食材のランクによっても料理の難しさが変わる。Cとかなら低くても料理出来るがSやAになると低い熟練度では大事な食材が黒焦げになる確率が高いので気持ち的に手が出しにくい。その点は光輝はクリアしているので良いのだがもう1つ問題があって光輝は野営用の簡易キッチンしか持っていないということ。料理は設備もある程度ないと出来ない。簡易キッチンでは少なくとも無理だ。
そんな少し残念そうに売ろうとしている光輝の小さな肩にレインは勢いよく手を乗せて
「キッチンがあれば出来るのね!?」
何か凄いぐいっと来られて姉と似てる顔と言うのも相まって思わず「はい」って言っちゃった。そうしたらおね……じゃなくてレインさんはとびきりの笑顔になり言った。
「じゃあ師匠のお家のキッチンを貸してあげる!」
そう言われたがちょっと何言ってるか分からなかった。だってそんな師匠さんのキッチンを勝手に使って良いよって言ってるもんだし。
「という訳でエギルさんラグーラビットは売らないそうです」
「お、おう」
その勢いに押されエギルさんも思わずそう返した。そして売り終わったら直ぐに手を掴まれ
「ほら、行くよ!」
全力ダッシュでアルゲードの転移門を通って転移した。そして主街区を出て色々歩いて山の中にある一軒家に来た。隣には何か工房的なやつがある。
「ここが師匠の家。インスタンスマップなの」
インスタンスマップとはクエストごとに出現するマップである。だからこの場所はレインとレインが連れてくる人達しか来ることが出来ない。
そう言って俺とお姉さん……レインさんがお家に入って奥にいたのは少し年配に見える女の人だった。訝しげな視線で見てきたがレインさんが話しかけた。
「師匠、今日はお客さんを連れて来たの。今日1日泊めさせても良いですか?」
そう言った後、レインさんの師匠さんはこっちをじっと見つめてきてやがて視線を戻した。
「……勝手にしな」
「ありがとうございます。行こっ!」
そう言って連れて行かれたのはお部屋だった。
「ここが今日泊まる部屋ね。ちゃんと覚えとくようにね」
「あの、えっと。速攻で選んでましたけどここは元々客間何ですか?」
「? ああ、違うよ。私の部屋だよ」
「えぇぇ!」
驚く俺を無視して引っ張られる。そしてそこにあったのは立派なキッチンだった。ちゃんと料理器具もある。これなら作れそう。
「じゃあお料理しよっか」
「は、はい」
そう言って俺はレインさんと料理し始めたって言っても現実と比べたら割と直ぐに出来るんだけどな。そしてあのお師匠さんの分も作り食卓につく。お弟子さん達が他にもいるらしいが出払ってる設定らしい。
この世界に来て初めて誰かと食べる。手を合わせていった
「「いただきます!」」
そう言って俺達は食べ始めた。結論から先に言うとめちゃくちゃ美味しかった。歯ごたえがB級とかよりもあってなんか肉汁も心なしか沢山出てきた気もする。間違いなくアインクラッドで食べたものでナンバー1だろう。
これがS級かぁと思いながら食べてたらあっという間に無くなった。
「「ご馳走さまでした!」」
そう光輝とレインは手を合わせてい言った。レインは微笑みながら光輝にお礼した。
「すっごく美味しかったよ。ありがとう光輝くん」
姉と同じ姿で、姉と同じ声で言われ光輝は今までにないほど緊張して返した
「あ、はい。どういたしまして」
お師匠さんの反応を見るが何も言ってくれずちょっとしょげてたらレインさんが美味しかった時は何も言わないんだよって言ってくれたから救われた。そしてそのお師匠さんが話しかけてきた。
「お主は何か無理しているな?」
そう直球で聞かれてめちゃくちゃ心臓がバクバクしてる。会ったばかりの筈の子供の様子なんて普通誰も気にしないだろう。それにこの人はNPCの筈なんだ。プレイヤーかすら分からない俺の心情なんて分からない筈なのにそれを見抜いた様に聞かれたことに俺の心臓の鼓動が早くなり現実なら冷や汗が出ているだろう。だけど姉に似たレインさんの前で弱音なんて吐きたくなくて
「む、無理なんてしてません」
だけどお師匠さんはその答を予期していたのか特に気にせず手を吹きながら言った。
「……そうか、なら明日の明朝私と勝負じゃ」
「し、師匠!?」
レインは驚愕の声を出す。レインにとって師匠というのは鍛冶と戦闘の師匠であり何度も稽古した。だが赤の他人にはずっとそっけない態度で接していたのに光輝にだけは今までとは違うアクションを起こした事に困惑の声を出したのだ。
だが師匠は立ち上がりながら言った
「レイン、口出しは無用じゃ。ではな」
そう言ってお師匠さんはまたどこかに言った。俺は鼓動を抑えるために深呼吸していた。だんだん収まっていったのを見計らいレインさんが聞いてきた
「……光輝君、大丈夫?」
「……大丈夫、です」
「そう、じゃあ武器の手入れしてあげようか?」
「えっ?」
鍛冶を学んでいる事は知らない光輝は疑問符の声を出した。レインは自慢するように胸を張り言った
「私これでも鍛治スキルはもうMAXに近いんだよ。それに明日師匠と戦うなら手入れはどっち道した方が良いでしょ?」
確かにそうかなと思い頷いた
「分かりました。ありがとうございます」
そう言ったら着いて来てと言われ後に着いてくと家の隣にあった工房に来た。そして俺は2つの剣、《ブルー・ブラッド》と《レッド・ブレイカー》を取り出してレインさんに渡した。
結構STR型よりの筈だがレインさんは普通に受け取って見た
「噂通り二刀流みたいだね」
「そういうおねえ……レインさんも2つ持ってるじゃないですか」
レインさんの両腰に2つ剣があるのを見て言った
「あはは、そうなんだよね~」
そうのほほんと言って耐久値を回復させてくれてる。直接回復させてる所を見るのは初めてだからなんか感心する。少し時間が経った時回復が終わりレインさんが鞘に入れて返して来た。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
何か心做しか今までで一番ピカピカしてる。剣達を背中に装備しながらレインさんに顔を向けたら何か凄く心配されてる顔で見られてる。思わず少し困惑していたら聞いてきた
「光輝くん、本当に無理してない?」
さっきの会話でレインも光輝の様子を見て純粋に疑問に思って聞いたのだ。だが光輝は強がり
「し、してません!」
そう強情を張る光輝を心配の顔で見ていたが
「分かった。じゃあ今日は寝ようか。師匠の叩き起されるなんて嫌でしょ?」
「……はい」
そして俺とレインさんは部屋に行き俺は遠慮したけどレインさんが駄目と言ってシングルベッドに2人で寝転がり俺は姉と寝た日を思い出しながら不思議とあっという間に眠りに落ちた
★
(寝顔可愛いなぁ)
私は光輝くんを寝かしつけた後寝顔を観察していた。私に弟はいないけどいたらこんな感じなのかなぁ。
(七色……)
私には5歳離れている妹がいる。……生き別れだけど。私の両親は母親が日本人で父親がロシア人だ。つまり私はハーフと言うことになる。
父が妹が優れた能力を持ってる事に気づきそれを開花させる為に色んな勉強をさせるべきだと言い張る父と普通の女の子として育てたいという言い分がぶつかり合い最終的に父が強引に七色の親権を奪って母と離婚しアメリカに行った。そして母と私は日本に戻った。そこからはもう七色と会っていない。今は何してるのかな?
「おねえ……ちゃん」
光輝くんはさっきからよくこう言ってる。私と今日初めて会った時もそう言ってた。だから思わず変な答えになってしまったが。
(聞いてたのとはあんまり違うな〜)
私が街で聞いた蒼赤の戦士……あの時はまだビーターだっけ? カーソルも何も無くそして当時の攻略組のほぼ全員を無手で傷1つ負わずに退けた出鱈目に強いプレイヤー。そしてチート疑惑があった。そしてフロアボスをたった1人で挑んで勝てるというプレイヤー。
だけどフロアボスを部屋自体は見つけたのに攻略しに行かない日もあるという。下の層にいる人達は彼はチートをしているからボスを1人で倒せるんだって言ってたが私はそうは思わない。
第1チートするにはそのゲームのコードやら何やら難しい事を知らなければならない。だからチーターが出るのは決まってゲームが出て少し経ってからだ。例外と言えばこの子がこの《ソードアート・オンライン》の開発スタッフの中にいた場合だけどこんなに小さな子では日本の法律上働けない。
それに開発スタッフなら何か私達のコモンアカウントと違って特別なアカウントがあってもいいはずだ。それもかなりの差があるアカウントが。だけどこの子は何時も自力でボス戦に挑んでるらしいからその説は消えた。昨日までの最前線もこの子がフロアボスをその他の攻略組の面々の前で倒したらしいが、そのやり方はかなり強引だったらしいから余計にチーターでは無いと思う。じゃあ何なんだって聞かれたら答えられないけど、今日1日この子を見てたらそんな悪い子じゃないと思った。むしろどこか無理している。
「ねぇ、何で1人で戦うの?」
そう言って私は眠りに落ちた。
お疲れ様です。
メモデフでレインの思い出話で登場したレインのお師匠さん登場。尚、話し方はオリジナル。
光輝の病み具合を少しだけ足しました。
(*´∇`)ノ ではでは~
ロストソング編などについて。SAO編の最後は思いついて絶賛書いてる最中というか殆ど書き終わったんですけど書いてみてこの流れならロストソング編もいけるなってなりました。そこで読者の皆さんにアンケートです。個人的には書きたいですけどその形態についてです。
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この絶望を超えし戦士の本編の番外編でやる
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絶望を超えし戦士とは違う小説としてだす。
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いや別にやらんでもええわ!