Warrior beyond despair   作:レオ2

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加筆修正。
心情描写とキリアスのデュエル場面追加。文字数は前の3倍くらいになった


激突する意見とレインの夢 改

「ここどこだろう? 僕なんでこんなとこいるんだろう?」

 

 光輝は暗闇の中歩いていた。光一つ差し込まれない世界で光輝はただ歩いていた。何が何なのか分からず立ち止まる。そして心細そうに暗闇に呼びかける

 

「おじいちゃん、お姉ちゃん、みんなどこ~?」

 

 そう言うが返事がない。それが余計に光輝を不安にさせる。何時も家族と過ごしていた光輝は世間的には甘えん坊の方に入るだろう。学校ではそんな雰囲気がちっともなかったが安心できる環境でもないのにそうなる訳ないだろう。若干愛美にだけは見せていたかもしれないが。呼びかけながら歩いていた光輝は泣きそうな表情で立ち止まった。

 

「返事してよう……」

 

 光輝は気が付いていないが今の光輝は祖父から受け継いだ道着に変わっている。前にもこんな事があったのを光輝は気が付いていない。

 本当に泣きそうになった光輝はある時人影が見えたのを見て顔を輝かせる。その人影の後ろ姿は光輝にはよく知っている人だったからだ。

 

「おじいちゃん!」

 

 それに気が付いた光輝は自分の持っている違和感にも気が付かず祖父だと思われる人物に走り寄る。光輝が持つべき違和感、それは光輝の背中にある西洋風のロングソードだ。それは祖父が親友から貰った真剣の生まれ変わり、つまり本来持つべきなのは祖父であり光輝ではない。しかしそんな剣が光輝の背中にあると言う事は……

 

「おじいちゃん会いたかったよ~!」

 

 そう言って光輝は祖父の後ろから抱きつく。光輝の記憶が正しければ鍛えられた体を感じることが出来る筈なのだがそんな体ではなく冷たくなっている体だった。それに光輝は気が付き

 

「おじい……ちゃん?」

 

 光輝はそこで自分の手を見た

 

「––え?」

 

 光輝の手は血に染まっていた。自分も最初の笠木との戦いのときに出していたから分かる。だけど今光輝は何ともない状態のはずだ。それなのに何で? と光輝が恐る恐る祖父の目の前に移動すると

 

「ひっ!?」

 

 思わずそんな声を出す。何故なら祖父は何度も殴られ腹部には強烈な攻撃だと思わせる打撃痕があったからだ。そして光輝に見られた後倒れた。それを呆然と見た後、光輝の見ている景色が変わった。身に覚えがある。そこは西沢家の長男夫婦の寝室の場所だ。その布団の中で二つの人影を見た光輝はゆっくりと近づき布団をめくり

 

「あ……あ」

 

 そんなめくっちゃだめだという思いとめくらないとと思う思考が激突しながら光輝はめくった。その中にいたのは光輝の両親だった。ただし原型が殆どなく眼は浮き出て筋肉なんて皆無で分かる形は骨だけだった

 

「……ぁん……で?」

 

「何で?」と言いたかったがそれすらも言葉にならなかった。光輝は両親に触れたが生気はなかった。そんな両親の手だった所に目を向けると西沢家で撮った集合写真があった。光輝は焦点が合わない表情でその写真持ち上げてよろよろと立ち上がった。そうすればまた景色が変わった。今度は祖父と祖母の寝室だった。

 

「おじいちゃん……よく戦えたなあ」

 

 そう疲れ切った声で言った。武蔵は最愛の妻の亡骸を見た後に直ぐに臨戦態勢に入った。その思いは孫だけは守らなければならないという思いだったのだろう。あんな状態では自分の息子も死んでいるとも分かっていたはずだ。それでも戦った。

 

「あれ? 何で()はこうなってる原因知ってるんだ?」

 

 そんな思考をしながら光輝は祖母の布団をめくった

 

「おばあ……ちゃん」

 

 祖母も先程の両親と同じ状態になっていた。光輝の中から何かが込み上げてくる。それは嘔吐物だった。真っ黒な空間に思わず吐き出す。

 

「はあ……はぁ……はぁ」

 

 まだ吐き気がするが光輝は前を向いた。だが今度見た光景は光輝から生気を奪っていた。光輝の大好きな姉が先程の両親、祖母と同じ状態でいた。

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃん!」

 

 そう叫び触るが息はなく……

 

「うああああああっ!!」

 

 暗闇の中光輝は雄叫びをあげ……

 

「光輝君!」

 

 その姉とよく似た声の持ち主によって光輝は現実に戻ってきた。ベッドの上で勢いよく上体を起こし目の前の暖炉を見つめていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 光輝は荒くなった息を整えようとするが今見た夢のせいで落ち着かせようとする度に逆に息が荒くなっていく。

 

「光輝君」

 

 その声に光輝が横を見るともう一つのシングルベッドで寝ていたはずのレインがパジャマ姿でいつの間にか光輝のベッドに来ていた。

 レインは光輝を見て悲しげな顔になる。光輝の眼は彼が意識せずとも赤眼と蒼眼になっていたからだ。

 

「お姉ちゃん……」

 

 レインは答えず光輝に近寄り抱きしめもう一度ベッドに一緒に倒れこむ。そして光輝の頭を撫で落ち着かせる。光輝はレインを抱き返し顔を埋める。

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 そう言い聞かせれば光輝は眼を閉じ息を今度こそ整える。時間が少し経ったとき光輝は顔を上げた。そうすればレインと目が合う。レインは少し安心した顔になる。光輝の眼が黒に戻っていたからだ。ただ眼には涙が溢れている。光輝はぼそぼそと言った

 

「起こしてごめんなさい」

 

 今は夜中の3時だ。こんな時間に起こしてしまった事の謝罪だ。レインは首を振る

 

「光輝君は大丈夫?」

 

「……大丈夫じゃない」

 

 そう小さな声で言った。それを聞きレインは少し強く光輝を抱きしめ光輝も抱き返す。レインは少し嬉しかった。会ったばかりの光輝ならばきっと「大丈夫」と言うと思ったからだ。ちゃんと本音を言ってくれるのが嬉しかった。レインは撫でながら諭すように言った

 

「今日は攻略会議があるからもうちょっと寝ようか」

 

「……うん」

 

 そう言ったらレインは子守歌を歌い始める。綺麗なその歌声は光輝の意識を再び眠りに誘う。光輝は特に抵抗せずレインにしがみつきながら眠りに落ちた。それを見届けたレインはその態勢のまま歌いにくい事この上のないが自分のオリジナルソングを歌っていた。そんな歌を聞いていた光輝の口元が先程よりも緩んでいたのにレインは気が付かなかったのだった。

 

 ★

 

「フィールドボスを、村の中に追い込みます!」

 

 ダンっ! と音を出しながら血盟騎士団副団長《閃光》、最近は《攻略の鬼》のアスナさんが言った。何でそう呼ばれているのかは俺も最近は知らなかったが心に余裕が出来た時に知った。多分攻略に全神経を注いでるような感じからそうなったんだろうなあ。

 俺の感想は兎も角場は驚愕の声が多かった。その理由は色々あるが一番はそんな誰もやりそうでやらなさそうな作戦をあっさりと言ったからだと思う。確かにフィールドボスの近くの村は圏外村と言ってフィールドボスも入ってこられるから作戦として見るだけならありっちゃありだろう。

 そしてそれに反対する者が1人。《黒の剣士》で俺がこの世界に初めて来たときから何かとお世話になっているキリトが焦った表情で言った

 

「待ってくれ! そんな事したら村の人達が……」

 

「死ぬ」とまでは言わなかったが凡そ言いたいことは分かった、嫌……元コンビだからこそ分かったんだろう。キリトの言いたいことが。だがアスナさんは

 

「それが狙いです。フィールドボスが村にまで来れることは確認済みです。そして村の人々を襲ってる間に私達は総攻撃で叩きます」

 

 そうあっさりと言ったアスナさんに流石の俺も苛立ちを込めた視線で見る。何でこんなに変わってしまったんだ。少なくとも第9層辺りのアスナさんならこんな作戦立てなかった筈だ。あの時の俺も余裕があったわけじゃないが今のアスナさんよりも冷静になれていたぞ。

 キリトも過去のアスナさんを知っているからこそ戸惑った声で言う

 

「でも村の人達は……」

 

「生きているとでも言うんですか? あれは単なるオブジェクトです。消えてもまたどうせリポップするのだから問題ありません。それともこの方法以外に何か勝つ方法があるんですか? 月夜の黒猫団のキリトさん?」

 

 わざとらしく、そしてどこか当てつけのように言ったアスナさん。キリトは確かに否定したが他に案がある訳じゃない。だからこそ言い返せない。

 

「くっ」

 

 ないと分かっているアスナさんは余裕の表情で今の立場と共に言った。

 

「ないのでしたら今回のフィールドボス攻略はこの血盟騎士団副団長、アスナが務めます。不服ならこの場から去ってください」

 

 そう言ったらキリトも含め黙った。確かに作戦としては倫理的なものを除けばありだろう。恐らくデスゲーム下じゃなかったらアスナさんと同じ作戦を立てる人はいる。だけど……デスゲーム、そしてその最前線にまで来た人ほどそんな考えにならないはずなんだ。それはこの世界が創造者である茅場が言った通り今いるこの世界が俺たちにとっての現実でそこに住んでいるNPCも生きてるって実感できる事が多いからだ。

 アスナさんがまた始めようとしたが俺も個人的にムカついたから反撃する。思いっきりため息をつき言った

 

「はあ~! わかった。じゃあ俺は抜ける」

 

「「えっ!?」」

 

 光輝の言葉に隣にいたレインはやっぱりねという顔になっていた。しかし他の、特に血盟騎士団の面々は驚いた顔になった。しかしアスナはゆっくりと出口にその足を向け何時でも出ていける光輝を見つめ若干鬼の形相で言った

 

「……わかってるんですか!? どっち道このボスは倒さなきゃ行けないんですよ? あなたに攻略する気はあるんですか!?」

 

 それに光輝は肩をすくめ余裕の表情で言った。

 

「あるよ、当たり前だろ。元の世界に帰る為にはそれを目指すしかないんだから。だけどあんたの作戦で行くなら俺は行かない」

 

 光輝の言葉は光輝の事情を知っているディアベルやヒースクリフ、攻略組の上の立場の人達や他の面々からしてもおかしくない言葉だ。ディアベル達ならそれは過去に帰るための手段として、他の面々からすれば現実世界に帰るために。今のアスナは後者だ。何故ならあの光輝の謝罪会にアスナはいなかったからだ。

 最も今の会話で重要なのは光輝はアスナの作戦では行かないということだ。最近に光輝は攻略組に合流したので忘れがちだが本来光輝はフィールドボスどころかフロアボスにも一人で殴り込みに行くことが出来る実力者、それは皮肉にも笠木との決戦で色々人間としての限界を超えたから出来ている芸当だが。そんな人に抜けられるのは困る。いないならいないで作戦を考えるがこの作戦は攻撃力がある面々がいる事が前提なので光輝がいれば成功率が上がる。そうアスナが言おうとした時光輝の隣にいたレインも悲しそうな視線を向けながらアスナに言った

 

「私も行かないよ。アスナちゃん」

 

「レインさん! あなたまで」

 

 攻略組主力メンバーにまで上がってきた女性メンバーとして仲間意識を持っていたレインにすらそんな事を言われ流石のアスナも動揺の声を出す。レインも何時でも出口に行ける向きになったのを見た光輝は聞いた

 

「じゃああんたはその作戦が正しいとほんとに思ってるのか?」

 

 光輝は基本年上ならさん付けをする。だがそれは何も悪いことはしていないか尊敬できると思った人に限られる。それをやめたのは光輝からすれば悪いことをしようとしているからだ。アスナは冷徹な瞳で見定めようとしている光輝に怒りを露にしながら言った。

 

「当たり前でしょ! 攻略組に被害を出すかNPCに被害を出すか、そんな問いは一目瞭然だわ!」

 

 このSAOはHPが無くなれば現実世界にいる本人達もナーヴギアによって脳を焼き切られ”死ぬ”。それを回避するにはアインクラッド第100層をクリアする必要がある。普通のプレイヤーがゲーム機器を操作するようなゲームならばまだましだっただろう。この世界はプレイヤーがコマンドなんかではなく自分自身が戦わなければならない。つまり自分の精神状態、技術、勝負運、そしていざという時の恐怖に打ち勝つ強靭な意志、それらがないと生き残れない。しかし”死”が具体的な数字になっているこの世界、死闘をしたことが無い人が多いこの世界の人達には厳しすぎるのだ。

 しかし脱出のためには戦わなければならない。それもどれだけ犠牲者を出さずにだ。そういう意味ではアスナの作戦も間違ってはいない。だが光輝はそれが分かっていても嫌だった。光輝は厳し気な視線で聞いた

 

「要は、システムが許してるんだからやってもいいって事か?」

 

 チラッとそれぞれのリーダーを見た。青龍騎士団の面々は苦い顔をしてる。風林火山も同じく。副団長は正しいみたいなKOBの団員もいた。だが意外だったのはヒースクリフさんだ。何か……悲しい顔してる。なんでそんな顔をするんだ? そして不服ならアスナさんに打開案を言えばいい。俺達には無理かもしれないがアスナさんの上司、そしてアルゴと同等、それ以上かもしれないあんたの情報網と頭脳なら考えれそうなものだが。

 ……なんだろうな、このヒースクリフさんの生まれた子供を見守るような眼は。

 だけど今は目の前の事に集中する。

 

「そうよ! 死人を出さないようにするのは当たり前でしょ!」

 

「いや、出てるじゃん死人。NPCだから復活するってあんたは確かめたのか? いや、確かめてたとしても俺はどっち道抜けるがな。だってラフコフと同じ穴の狢になりたくないもん」

 

 そう言ったら場は静まった。ラフコフ、正式名称《ラフィンコフィン》。SAOの最初で最後のレッドギルドでHPが0になればここでも現実でも死ぬと分かっているのに平気でプレイヤー達を殺そうとする殺人ギルド。俺はその首領と会ったことがある。俺がソロ時代の時に俺から何か感じるものでもあったのかラフコフにスカウトをしに来たのだ。だが生憎笠木と同じ外道になりたくなかったので丁重に八つ裂きにしようとしたが転移結晶で逃げられた。

 他のKOB団員は驚愕の顔になり、副団長に関してはわなわなと震えて凄い形相で睨んできてる。だが俺からすればまだ笠木の方がアスナさんよりも凄い顔だったから余り怖くない。……女性と比べるのもダメか。

 

「な!? どこがラフコフと同じ何ですか!? あんな殺人集団と一緒にしないでください! 私達がやってるのは攻略(……)です。あんなゲームクリアの阻害しかしてないヤツらと私達がどっちが正しいなんて明白です!」

 

「そうだ! 副団長の言う通りだ!」

 

 そう口々に副団長を擁護する声が上がるが青龍騎士団やキリト、エギルさんや風林火山の面々は俺の言いたいことがわかったらしい。分かってくれなきゃ困るんだが。他の皆は俺とアスナさんを見守る方を選んだらしい

 

「いや、別にそんな事言ってないんだけど。俺がいつそんな善悪云々の事言ったんだよ。あいつらは自分達が殺人をするのはシステム……ひいては茅場晶彦なる人物がそういう事を許してるから自分達には人を殺していいという権利があるって言ったんだろ?」

 

 それはラフコフがギルド創設宣言の時に話していた。俺は病んでた時期だから知らないが一時期騒ぎになっていたらしい。

 自分達が殺人をしていいのはシステムに許されているからだとか。まあそれは建前だろうが強ち言い分としては理にかなっている。倫理的にアウトだが。もし殺人をしてはダメならそれを責めるのはそんな設定にした茅場にぶつけろと言う事だ。反吐が出る。だけど今は目の前のアスナさんを正気に戻す事の方が大事だ。俺は畳みかける。

 

「ならあんたが今言った方法もあんたのこの作戦においての心理も要するに『システムが良いと言ってるんだからやってもいい』って事に集約する。ほら、どこがラフコフと違うの?」

 

 そう言ったら副団長はハッとした顔になった。あからさまに狼狽している。前のこの人なら俺に言われずとも分かったはずだ。あのダークエルフと触れ合った副団長なら絶対そんな考えにならなかったのにな。

 ついでに言うならそれを度外視しても俺はその作戦には反対だった

 

「それにそれ抜きでも俺はNPCを見殺しになんて絶対にさせたくない」

 

 そう言って思い出されるのは師匠の事だった。確かにあの人はNPCかもしれない。システムによって生まれた人かもしれない。だけどそれでも俺を……直ぐに出ていった奴のことを弟子って言ってくれる人だ。例えそれが決められた物でも俺はあの恩を仇で返すような事はしたくない。

 ディアベルさんも立ち上がり副団長に言った

 

「アスナさん、俺達も今回は降ります。キバオウさんはどうします?」

 

「ワイもや、あんの畜生どもと同じにはなりたくないからな」

 

 そう言ってリーダー格の二人が立ち上がったのを見て青龍騎士団の面々も立ち上がる。光輝の言葉に自分達も嫌な気分になったのだろう。

 それだけに留まらず申し訳なさそうな表情で抜けるものがまた

 

「悪いなアスナ、今回は俺達風林火山も降りるわ」

 

「俺もだアスナ」

 

 そう言って人の良い侍ギルドの風林火山のメンバーとエギルも降りる。彼らもこんな作戦では嫌だったのだろう。更にまた

 

「悪いな。俺も降りる」

 

 そう言ってキリトも降りた。降りた組は出口に歩を進めた。流石にこんな一気に主要メンバーが抜けるとは思わなかったのかアスナが焦った表情で言った

 

「なっ!? 攻略はどうするんですか? あのボスは倒さなきゃ行けないんですよ?」

 

 ボスを倒さなければ100層には行けない。なら最高戦力で行った方が道理。そんなのは俺も分かってる。だが別に血盟騎士団だけが最高戦力ではない

 

「無理ならまた降りたメンバーで行けば良い。少なくとも今降りたメンバーはあんたに従えないってよ。というかあんた、俺がフロアボスに一人で殴り込みに行ってた事忘れたのか? まあ恨むなら自分の言動を恨んでくれ。あんたが不服なら降りろって言ったんだから」

 

 さあこの後どうするかな? 予想は付くが。俺は今アスナさんを否定した。そしてアスナさんが威厳を取り戻す為に必要なことは……

 

 光輝がそう考えた時、光輝の目の前にデュエル申請が現れた。それも予想道理で言われる事は大体予想つくが光輝は後ろのアスナを見た。アスナは

 

「……私と戦いなさい! 私が勝ったらこの作戦を、あなたが勝ったら違う作戦かクエストをもう少し探して考えます」

 

 俺は降りた組を見て皆頷いたのを見てOKしようと思ったがちょっと待ったがかかった。先程までアスナさんと言い合っていたキリトが俺の隣にまで来ていった。

 

「どうしたキリト?」

 

「その決闘、俺がやってもいいか?」

 

 その顔はどこかアスナさんの眼を覚まさなければという使命感のようなものを感じた。確かにキリトは25層までアスナさんとコンビを組んでいたから今のアスナさんに思うところがあるんだろう。申し込んだ本人は

 

「あなたには申し込んでません!」

 

 そう華麗なツッコミが入ったがいいや。確かにアスナさん相手ならキリトがいいかも。25層までコンビ組んでたし。それにこの決闘で仲直りしてくれたらそれに越した事はないからな。

 

 光輝はふっと笑い言った

 

「わかった。じゃあキリトに任せるよ」

 

「な!? 私は光輝くんに申し込んだのよ?」

 

 アスナが「ふざけるな」と言いたげな顔になるのを見ながら光輝はアスナに言った。負けず嫌いなアスナを奮い立たせるための魔法の言葉を

 

「安心しろ、今のあんた程度じゃキリトに勝てないから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アスナが比喩なしで鬼のような顔になった。光輝はそんな表情をまっすぐ受け止める。アスナは叫ぶ

 

「良いでしょう! キリト君が負けても言う事を聞いてもらいますからね!」

 

 今の言葉は副団長としてではなくどこかプレイヤーの一人として言った気がした。デュエルが決まれば一行は会議場の洞窟をでて目の前の広場にまで来た。俺はお姉ちゃんの隣にちょこんと座り見届ける。

 因みに外野は大分盛り上がってる。何故なら攻略組として最初から最前線を走ってきて二つ名を貰ったトッププレイヤーの二人が激突するのだ。盛り上がらない方がおかしい。

 キリトは第50層のフロアボスのラストアタックボーナスであるエリュシデータ(解明者)を中段に構える。あのエリュシデータは片手剣なのに結構重い。だから一撃一撃の破壊力は今の所の片手剣の中は上位に間違いなく入る。だけど重いが故に取り扱いが普通の片手剣と同じようにはいかない。本人曰く最近ようやくまともに持てるようになったらしい。それをこの大事な場面でどれだけ力を引き出せるか。

 

「アスナちゃんの細剣も初めて見るかも」

 

 お姉ちゃんの言葉にそっちを向いたら確かにアスナさんの細剣も前までの物とは違った。だけどあの細剣からは何故か今までアスナさんが使っていた剣たちの魂のようなものが感じられた。何言ってんだと思うかもしれないが俺も似たような経験があるからそう思ったのかもしれない。

 因みにこのデュエルは初撃決着モードだ。強攻撃が当たるかHPを半分切ったら負けだ。

 

 光輝がアスナの観察をしていればそのアスナとキリトの間にあるカウントが0になった。

 

「––ふっ!」

 

 キリトは一気に眼を見開いた。何故ならデュエル開始直後にアスナは仕掛けてきたからだ。アスナの作戦、それは超短期決戦だ。キリトの強さはその今までの戦いで得た経験、ゲーマーだからこそある集中力。そしてその並外れた反射神経。恐らく長期決戦では分が悪いと考えたのだろう。だが開始早々の攻撃は流石のキリトにも隙が出来ると考えたのだろう。

 

「––!」

 

 アスナが選んだソードスキルは「リニアー」、細剣の初期ソードスキルで初動も発動までの時間も早い。更にアスナの繰り出すリニアーはそこら辺の細剣使いの物とは最早別次元の領域にまで行っている。

 その証拠に光輝以外の全ての人は今何が起きたのか分からなかった

 

「–なっ!?」

 

 それはアスナでさえ同じだった。何故ならアスナのリニアーはエリュシデータの真ん中に激突し火花を散らしていた。それをやった本人のキリトでさえ歯を食いしばり何とかできたという顔だ。二人はソードスキルとガード態勢のぶつかり合いで弾かれた。群衆はざわめく。何故なら今の攻防が見えなかった人が大半だったからだ。それはステータスだけでは説明がつかない超速度だった。光輝も拳銃乱射の事件が無ければ見えていたか怪しかった所だ。

 

「今……どうなったんだ?」

 

 隣に立っているクラインが思わず呟いたのを聞き光輝は言った

 

「アスナさんが初っ端から最高速度のリニアーで勝負を決めようとした。で、それをキリトが防いで衝撃で弾かれた」

 

 あっさりと言った光輝にクラインは

 

「……光輝、お前見えたのか?」

 

「まあな。流石にアスナさんがあんな速度をぶっ飛ばしてくるとは思わなかったけど」

 

 それは本当に思った事だ。アインクラッド第1層の時とは比べられないくらい早くなってる。あの修業をしてなかったらキリトも危なかったかもしれない。……いや、それがなくてもキリトなら行けそうな気もしてきた。あいつなんだかんだ言って勝負強さ半端ないからな。

 その二人は再び睨めっこしていた。アスナさんが思わず言った

 

「……どうして分かったの?」

 

 それは先程反応出来たことの事だ。あのスピードはアスナ自身でさえ制御は至難の技だ。キリトなら死なない思ったからやっただけで普通にデュエルならやらない。そしてそれだけではなくキリトはリニアーの攻撃箇所すら分かってるかのようにガードした。それがアスナには意味分からなかったのだ。

 しかしキリトも全然余裕を持った顔ではない。現実なら恐らく冷汗が出ていることだろう

 

「今のは危なかった。いきなり来るとはな。俺もガード出来たのは殆ど勘だ」

 

「勘……ね」

 

 それすらも若干怪しんでいるように見える。しかしキリトは本当勘で今の攻撃をガードした。確かに少しは細剣の動きが見えたっちゃ見えたが本当に少しだけだ。

 アスナは歯ぎしりする。初っ端からの作戦が失敗した。もう同じ手は通じない。ここからは攻略組の最高戦力であるキリトと小細工なしの真っ向勝負しかない。キリトはふっと笑い言った

 

「まだデュエルは終わってないぜ」

 

 それにアスナは眼を見開く。嘗てデュエルのやり方をキリトから教わった時は自分は怖くて出来なかった。だけど今は血盟騎士団副団長としてここにいる。だから戦わない選択肢なんてない。それでも……どこかこのデュエルを楽しんでいる自分がいる事には気が付かなかった。

 

「ええ! 行くわよ!」

 

 二人は激突した。

 キリトの戦い方は基本的に堅実だがいざとなったらの勝負所は逃さない勝負勘や大胆な戦い方にもなることだろう。そして最近はあるスキルの獲得の影響かはたまた取得条件か何かだったのか反応速度もプレイヤーの中ではトップレベルだ。

 

「ふっ!」

 

 対してアスナの持ち味は先程見せた全プレイヤーの中でも圧倒的なスピードだろう。アスナの基本戦闘スタイルはヒット&ウェイだ。攻撃を当てては避け当てては避けだ。

 元々アスナの使ってる武器主の細剣は片手剣よりも1撃1撃のダメージは少ないが片手剣よりも軽いので手数で押し切る武器だ。そんな武器とアスナの戦闘スタイルの相性が悪いわけない。

 

(さあ、どっちが勝つかな)

 

 光輝は二人の戦いを見守る。戦闘が長引くほどキリトとアスナの動きがどこか華麗になっていく。そんな戦いを見ているレインは思わず言った

 

「なんか……綺麗」

 

 二人が斬りあう度に火花が飛び出る。それが二人を照らしまるで二人で踊っているように見える。光輝はそんな姉の言葉を聞き言った

 

「それだけじゃないよ、二人の口元を見て」

 

 その言葉にレインだけではなくクラインやエギルもつられて動き回っている二人の口元を見る。エギルが思わずと言う風に言った

 

「笑ってる……のか?」

 

 その言葉に光輝は頷く。

 

「俺は大切な人を守るための手段として戦いを選んだ。だけど、戦いってそれだけじゃない。ああやって誰かと高めあい、認め合うためにだって出来る」

 

 笠木にそんな感情は持たなかったが光輝自身は武道の本質のようなものを武蔵から教わっていた。家族が死んでからはそんな事忘れていたがキリトとアスナを見ていたら思い出したのだ。どこか郷愁を漂わせながら光輝は言った

 

「俺も何時か……そんな戦いをしてみたいな」

 

 どこか諦めている声にも聞こえレインは光輝を不安そうに見る。光輝はそれに気が付き微笑んでいった

 

「今の俺の目的は皆をもとの世界に帰す事、今はいいんだ」

 

 レインが何かを言おうとしたら光輝が話題を逸らすためか言った

 

「もう決着がつくよ」

 

 レインがその言葉に二人を見れば確かに二人にHPはもう少しで半分と言う事を知らせるイエローゾーンに入る。二人もそれに気が付いたのか一旦二人して後退する。

 

「……次で最後ね」

 

「ああ、どんな戦いにも終わりは来る」

 

 そう言って二人は構える。アスナの脳裏には既に先程の光輝の言葉は殆ど消えている。目の前の戦いが楽しくて忘れるほどにどこか満たされた気分になっている。

 

(ソードスキルをガード出来るのは後一回が限界か)

 

 二人のHPを見ながら心の中でそう言った。最もソードスキルを使わない選択肢もあるが多分そうはならないだろうなと光輝は思っている。少なくともどちらかはソードスキルを使う。もう二人とも長い時間戦っている。集中力も削られている。そんな状態での戦いがその人の強さを示す。

 

「……」

 

「……!」

 

「あ!」

 

 仕掛けたのはアスナ、全神経を注ぎ突進を始める。その手に持つ細剣がピンクに煌めきアスナをキリトに超接近させる。一瞬の静寂

 

「くっ!」

 

 ようやく聞こえた声はキリトの苦虫をかみしめるような声だった。しかしそれは負けたことによる声ではなく

 

「……また!?」

 

 アスナの攻撃……先程よりも洗練されたリニアーが再びキリトのエリュシデータに阻まれアスナは衝撃で少し吹き飛ぶ。

 

(ここが正念場だ、キリト)

 

「うおおおおおお!!」

 

 デュエル中の中で一番の雄叫びを上げキリトは衝撃で吹き飛びリニアーの技後硬直にあって動けないアスナに全力で突撃する。しかしアスナが選んだリニアーは細剣の初級スキル、それ故技後硬直も短い。キリトが眼前まで現れた時、アスナの技後硬直が終わり突撃してきているキリトの腹部目掛け細剣を突き出そうとした

 

(……え?)

 

 だがアスナはその剣を急遽自分を守るために戻した。その理由は突撃していたキリトが唐突に左手を自分の左肩に鮮やか過ぎる程手を伸ばしたからだ。だからアスナはてっきりそっちにも剣があり攻撃してくると思ったのだ。しかしその左手には剣がない。

 

(しまっ!?)

 

 アスナがその事に気が付いた時にはもう遅い。キリトはそのフェイントに引っかかったアスナの持っている剣目掛けエリュシデータを振った。アスナは抵抗も出来ずにアスナの剣「ランベントライト」が弾かれた

 風切り音と共にランベントライトが離れた所に勢いよく突き刺さった。

 

「成程、そんなやり方もあるのか。勉強になった」

 

 と光輝はのほほーんと言っている。件の二人はというと……

 

「俺の勝ちでいいか?」

 

「……はぁ。リザイン」

 

 そう呟けば二人の上空にwinnerキリトと出てキリトの勝利を知らせる。キリトは剣を一度振ってから背中にある鞘に入れた。それと同時に大歓声があがったのだった。

 

 

 

 ★

 

 

 

 勝負の結果もう少しクエストを探してみることになった俺とお姉ちゃんはクエストを探してない。何を言ってるんだと思うかもしれないが本当に探していないのだ。ベンチがあったのでそこで休んでいる。

 今いるこの村は「チナシー」と言う村だ。そしてそれについてお姉ちゃんが何か気がついて今は休憩している。

 

「よう、光輝、レイン」

 

 そう言って近づいてきたのはキリトだった。先程アスナさんと激闘を繰り広げていたのが嘘のようにのほほーんと歩いている。因みに27層で会った黒猫団はあと少しで追いつけるらしい。

 キリトは俺の隣に座り聞いてきた

 

「なあ、今俺が言うのもあれだけどお前らは休憩中なのか?」

 

 そう言って前を向くと小さな女の子がいるがそれ以外は攻略組が聞き込みしまくってる姿が見える。たまーにこっちを向いて「あいつらさぼってんじゃね?」とか言ってそうだがこれにはそれなりの理由があるんだ。

 その理由の言い出しっぺであるお姉ちゃんが笑いながら言った

 

「ほんとだねぇ〜。キリト君も絶賛休憩中じゃない」

 

 実際キリトも今俺の隣で休憩中なので乾いた笑みで返す

 

「ははは、でも言い出しっぺのお前らがこんな無駄とも思えるような事を10分近くする訳ないよな」

 

 それを聞くにどうやら俺たちの行動を見ていたらしい。お姉ちゃんは我が意を得たりって感じで言った

 

「流石キリト君、この村の名前知ってるよね?」

 

「え? ああ、チナシーだろ?」

 

「チナシーはロシア語だと静寂って意味なの。だからもしかしたらクエスト開始の合図は話しかける事ではなくて···」

 

 お姉ちゃんが言いかけたが目の前にいた小さな少女がてくてくと歩いてきてるのを見て黙った。それに気が付いた俺やキリトも黙った。少女はお姉ちゃんの目の前まで来るとクエストアイコンを出しながら言った

 

「お姉ちゃん達はあのおっきい魔物を倒したいの?」

 

 俺達は顔を見合わせてうんと返事した。それがクエスト開始のトリガーになったのか少女が自分の祖母から聞いたという話をしてくれた。

 それを分かりやすく言い換えると何でも少し村を出た所のもう誰もいなくなった家があってそこに魔物·····フィールドボスを一定時間眠らすことが出来る歌詞の紙があるらしい。

 だけどその家には中途半端な者達が魔物に挑まない為に抑止力としてそのフィールドボス程ではないが強い守護獣がいる。でもその守護獣に力を認めて貰えればその家に入ってその歌詞が書いてる紙を手に入れられるらしい。そしてそれを聞き終え少女にお礼を言った俺達はキリトと一緒にその家に行きながら話す。

 

「なる程な。話しかけるんじゃなくて待つのか。それは騙されるな。皆クエストは話しかけるもんだと思ってるから」

 

 そこでキリトは微妙な顔になりレインに言った

 

「というかこれレインがいなけりゃ誰も気がつかなかったんじゃないか?」

 

 勿論、ロシア語が分からなくてもヒントはどこかにあったかもしれないがこんなにストレートに行けたのは何故かロシア語を知っていたレインがいたからこそだろう。レインも自分の推理が当たって嬉しいのか楽しそうに話す

 

「あはは、そうかも。私も半信半疑だったけどね」

 

 そこで光輝はさっきから疑問に思っていた事を聞いた

 

「というかお姉ちゃんよくロシア語知ってたね」

 

 光輝は全くロシア語なんか知らなった。というか何なら言語は世界に日本語と英語しかないとか思っていた。レインは微笑みながら光輝に言った

 

「私、生まれはロシアなんだ。ハーフなの。日本とロシアのね」

 

 意外な事実が判明した。姉を見ていた時も思っていたがどこか日本人離れしているなとは思っていたらレインに関してはハーフと言う。それは確かに日本人離れするなと思った。しかしそうなると光輝からすれば自分のルーツに関して疑問が出てくる。

 

「そうなんだ……うーん」

 

「どうしたの?」

 

 光輝は一瞬言おうか迷ったが別に減るものでもないので言う事にした

 

「いや、俺の方の姉ちゃんとお姉ちゃんが髪の色以外は瓜二つだから俺の家系もどっかにロシアの人がいたのかなって思って」

 

 というかそうでなければ麗華とレインが瓜二つの説明がつかない。そうなると光輝にもどこの代かは分からないがロシアの人がいたと言う事だろうか? でも光輝はそんな話は聞いたことが無い。

 

「うーんそれは分からないなぁ」

 

 流石にレインも生物学的なもの詳しいわけではない。自分に瓜二つという光輝の姉を見てみたいがもう亡くなってるからそれは無理だ。光輝は少し自分の家系について考えていたがもう西沢家は光輝ただ一人になってしまったので分からない。考えを諦めお礼を言った

 

「そうだよね。ありがとうお姉ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

「おーい、俺を忘れるな〜」

 

 いつの間にか話を置いてけぼりにされていたキリトの声が聞こえたのだった

 

 ★

 

 

 そんなこんなで守護獣と迎合し俺達の力を認めて貰えれ家の中に入れた。そこにあったのは少女が言っていた歌詞がある紙だった。一つだけ問題があったが取り敢えず持って帰ってディアベルさん達や皆で一緒に見たが·····

 

「歌唱スキル!?」

 

 リンドさんというディアベルさんを意識しているのか青髪の青龍騎士団のナンバー3が思わず叫ぶ。

 歌唱スキルは所謂娯楽スキルだ。戦闘には余り役に立たないと攻略組は考えているからそのスキルを取ってる人は少ない。生きるか死ぬかの二択のこの世界、生きるために必要なスキルを取るのが最善の選択だと思う人が多いからだ。だがそれがここにきて仇になった。

 

「それが無いと眠らすことが出来ないのかい?」

 

 ディアベルさんが思わずみたいな感じで聞いてきたので先にこのアイテムを見ていた俺は付け加えて話す

 

「それも結構な熟練度で。但しそれが出来たら楽出来るらしいです」

 

 そう言って俺はある方向に顔を向けた。だけど俺はこれに関してはそんなに問題がないと思っている。だって俺が顔を向けている人はその歌唱スキルを取ってると思われるもん。

 

「でもそんなマイナーなスキル誰も·····」

 

 歌唱スキルは先程言った通り取得している者は少ない。おまけに熟練度の上がり方も遅いし地道だ。町中に行けばいるかもしれないが攻略組のエゴでレベルがマージンに届いていない人を戦場に連れて行くわけにはいかない。

 ディアベルさんは流石にこればかりは悩むのかうなり始める。俺は視線をお姉ちゃんに向けたままだ。お姉ちゃんはその視線に気が付きめちゃ赤面になっている。だけどこのままでは埒が明かないと思ったのかおずおずと手を上げた

 

「レ、レインさん!? 上げてるんですか? 歌唱スキル」

 

 その手を上げた意味が分かったのかディアベルさんが思わず叫ぶ。会議場にいる皆がお姉ちゃんに注目している。お姉ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからこの注目は恥ずかしいのかもしれない。でも自分のせいで攻略が止まるのは流石に嫌だったのかもしれない

 

「は、はい。熟練度は昨日MAXになりました」

 

 そう言ったら攻略組面々は首を傾けた。さっきも言ったが歌唱スキルはマイナーだし熟練度上げも地道にしなければならずはっきり言って面倒だからだ。だから何でお姉ちゃんがそんなマイナーなスキルを持って尚且つ熟練度MAXにしてるのか気になるらしい。

 

「え、えと。その〜」

 

 そう言って段々顔が赤くなるお姉ちゃん。別に熟練度Maxにした理由位教えてもよさそうなものだけど……一体どうしたんだろうと思ってたら答えた。それはもう周知の限界を超えてるんじゃないかって位に赤くなりながら

 

「·····将来の夢がアイドルになる事なんです」

 

 そう言って羞恥で顔を真っ赤にして顔を下げた。別に恥ずかしがあることないのに。

 それを聞いた皆が呆気に取られていたが誰も笑いはしなかった。寧ろ·····

 

「そうか、俺は応援するよ」

 

 そうディアベルさんが言ったのを皮切りに皆応援するぜみたいな事を言い始めた。それにお姉ちゃんは「え?」って顔になる。もしかしたら笑われるかもしれないと思っていたのかもしれない。だけどそんな事する人はここにはいない。デスゲームだから……いや、デスゲームだからこそ夢を持つべきなんだ。それが生きるために必要なこと、目標もなく生きる方が空しいしな。

 そして俺も未だに唖然としているお姉ちゃんの手を引っ張り。

 

「俺も応援するよ、お姉ちゃん」

 

 お姉ちゃんは俺の夢を聞いてくれた。家族と……愛美と結婚して幸せに暮らしたいって小1なりの夢だった。その半分はもう叶えられない願いになった。だけどまだ半分は叶えられるかもしれないって教えてくれたのがお姉ちゃんだ。だから俺もお姉ちゃんの夢を応援したい。

 

 光輝の言葉を聞いた眼から少し涙が出てきた。そして光輝の手を握り返し嗚咽を漏らしながら言った

 

「う、うん……ありがとう、皆」

 

 そう言ってお姉ちゃんは皆に頭を下げた。そしてディアベルが手を叩き皆の気を引き締め直す。だがまたおどけた感じで

 

「じゃあこの歌はレインさんが歌う。皆もそれで良いか?」

 

 そして口々に勿論と言ってる。アスナさんも顔は見えないが異議はないらしい。というか他に歌唱スキルを持つ人が最前線のレベルにいるか分からないってのもあると思うが。ディアベルさんがお姉ちゃんに向き直り言った

 

「それではレインさん。あの世界へ帰る為のファーストライブは任せましたよ」

 

 その言い方絶対緊張させると思うのだが。ただ、こういうところが本当にナイトって所なんだろうな。

 

「は、はい!」

 

 勢いよく返事はしたが絶対緊張しているので俺はまたてをぐいぐいし話しかけた

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん歌上手いもん!」

 

 それにレインは思いっきり驚いた顔になりながら聞いた

 

「こ、光輝君いつ聴いたの!?」

 

 レインは歌唱スキルを今の今まで隠してきた。なのに光輝は確信を持ってるかのようにそんなことを言った。しかし光輝はあっけからんと言った

 

「えっ? 俺が寝てる時に練習してたでしょ?」

 

 レインは光輝と行動するようになってからは歌唱スキルは光輝が寝静まった後に練習していた。それを光輝はたまたま起きて聞いていたのだ。それ以来光輝はレインの歌を聞いてたら寝ていたとしても口元が緩んでいる。

 レインは光輝のまさかのチクリに何故か要求レベルが高くなったと感じ

 

「うっ! もうプレッシャーかけないでよ〜」

 

 そう言って皆で笑いあった。

 そして翌日お姉ちゃんの歌声と共にフィールドボスが討伐された。

 

ロストソング編などについて。SAO編の最後は思いついて絶賛書いてる最中というか殆ど書き終わったんですけど書いてみてこの流れならロストソング編もいけるなってなりました。そこで読者の皆さんにアンケートです。個人的には書きたいですけどその形態についてです。

  • この絶望を超えし戦士の本編の番外編でやる
  • 絶望を超えし戦士とは違う小説としてだす。
  • いや別にやらんでもええわ!

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