ユウキのエイズって病気が完治してから早二週間、それに七色さん……じゃなかった。七姉ちゃんが起こしたクラウドブレイン事件から1週間、俺はALOではなくキリトの家にいた。もっと言えばキリトの家の道場にいた。俺の手の中には俺の背の半分ちょっと位大きい竹刀がある。
そして俺の向かいにいるのは剣道の面やら服を着ているから分かりにくいがキリトの妹さんのリーファさん……じゃなかった。直葉さんがいる。その手には俺と同じ竹刀が握られている。
こうなったのはには理由が勿論ある。事の発端は昨日だ。昨日の修業を終えてALOにいた俺は偶々いた直葉さんのアバター……リーファさんに会った。
俺は正直余りリーファさんと一対一で話した事は少ない。基本誰かと一緒にいる時にしか話さなかった。それがある事でちょっと話しやすくなった。最もリーファさん自体は凄く話しかけやすい人だけど。多分俺の方に原因があっただけだ。守る人が増えたことによる不安のせいで。
そんなリーファさんと昨日ALOで会って少し話をした後思い出したようにこう聞いてきたのだ。
「そうだ! 光輝君明日暇?」
曰くせっかくだからリアルでの鍛錬に付き合ってくれないか? と言われたんだ。別に俺に却下する理由は特にないしオーケーした。どの道今日はこっちでする事があったからな。
向こうは剣道装備なのに対し俺は何時もの恰好である。最初は剣道装備にしようかと思ったけど俺のサイズに合うやつが無かった。まあ今の俺は竹刀がぶつかった程度痛くも痒くもないから別にいいだろ。
そういう訳で俺は目の前の直葉さんと鍛錬することになった。
二人は距離を取りながら隙を伺う。構えは直葉が剣道の正当な構えに対し光輝は中段に片手で竹刀を持って構えている。SAOから戻ってきたキリトと戦った事が無ければ「なにこの構え」となった事だろう。しかしそんな事は今は思わない。
何故なら、あの命がけの世界で磨いてきた強さは直葉も身をもって知っている。ゲームだからとかは関係ない。それを動かしている人達の思いや魂は皆本物だから。直葉は目の前の光輝を見据えながら考える
(それに……)
目の前の光輝の強さはあの最後の戦いを見た直葉から見ても強いと思わせるには十分だった。あの時の光輝はヒースクリフが光輝が許可したとはいえ所謂チートをしていたのに光輝は素で食らいつきそして最後には結局光輝自身も推測の域を出ないパワーアップを果たしラスボスを打倒した。
その事で光輝はキリトにALOで謝ったことがある。曰く、本当の歴史ならばデスゲーム参加者ですらない光輝ではなくキリトがあのデスゲームを終わらせた英雄だというのだ。まあそれは今あまり関係ないので割愛。
光輝の強さはリアル由来、そしてその強さはタイムパトロールによって更に磨かれている。直接戦うのはこれが初めて。
二人はじりじりと間合いを図りながら近づいていく。
「……やあ!」
先手必勝とばかりに直葉が仕掛ける。そのスピードは流石は中学での全国大会ベスト8に入ってるだけあって早い。上段から竹刀を振り下ろす。光輝はそれを簡単に竹刀を横に置きガードする。
竹刀と竹刀がぶつかり合った音がする。直葉はそのまま押し切ろうとしてみるがびくともしない。ちらりと光輝の手を見てみると片手しか使っていない。
「ふっ!」
光輝は直葉を弾いた。少し直葉はよろけるがすぐさま態勢を取り直した。そんな直葉に光輝が迫る。
(早い!)
心の中でそう叫ぶも何とか反応する。光輝は斜め切りで迫る。直葉は避けるか受けるかの二択を選ぶ。選んだのは後者。自分の竹刀を光輝の竹刀にぶつけ相殺しようとする。
「──!」
だが相殺しようとこちらも勢いよくぶつけたのにも関わらず直葉は一瞬で押し切られるところだった。押し切れないことを悟った光輝は直ぐに後退する。そして直葉が光輝に迫る。二人は竹刀をぶつけ合う。そんな中光輝は思った
(やっぱりリアルでは直葉さんがぶっちぎりで強いな。技術はSAO組も負けてないと思うけどパワー負けするだろうな)
光輝が後退する。直葉は逃がさないとばかりに距離を詰める。光輝も直葉を迎え撃つ。光輝は気を抑えている。だから直葉もある程度渡り合える。互いの竹刀を弾いてはまたぶつけあう。剣道の試合時間は高校生の直葉に合わせ4分としている。その内の三分間は互いの竹刀をぶつけ合っている。
(直葉さん上手いな、俺にパワー負けする事を見越して最善の選択をしている)
(強い! 全然攻めきれない。これでも手加減してる状態だなんて)
互いの思ってることは概ねそんな事だった。光輝は直葉の技術に舌を巻き直葉は光輝の単純な強さに冷汗をだす。だが二人にはそれ以外の決定的な違いがあった。それは
「はぁ……はぁ」
光輝から離れ直葉は息を整える。光輝はそれを黙って見ている。
二人の決定的な違い、それは体力とスタミナだ。直葉は体力はそこら辺の人達よりも高い。しかし光輝は直葉とは桁が違う体力とスタミナを持っている。普段ならこんなに動かないし試合も終わってる事が多いが今回は体力の消耗が激しすぎる。この三分間半ずっと動きっぱなしなのだ。それも光輝によって余計に体力が持っていかれる動きをしていた。
直葉がそれに気が付いた時、セットしておいたタイマーがけたたましく鳴り響いた。それを光輝は止める。そして二人は互いに向き合って一礼した。その後直葉はお面を取った
「はぁ~!」
思わず大きく息を吸ったのは空気をもっと取り込むためだろう。そんな直葉をスルーし光輝は自分が持ってきていたポイポイカプセルから出現させておいた冷蔵庫に近寄り中開けてキンキンに冷えている水を取り出した
「直葉さん!」
そういって光輝は冷たい水が入ったペットボトルを投げ直葉はそれを片手でキャッチした。そしてキャップを開けて乙女としてはいかがなものかと思うほどがぶ飲みする。一気に半分ほど飲み干せば生き返った顔になる。
「ありがとう、光輝君」
「いや、俺も割と楽しかったです」
この試合の前に光輝は直葉と二人一組で色々鍛錬をしていた。それが祖父からの教えを受けれなくなり独学で剣をやっていた光輝からすれば大分新鮮だったのだ。二人は座ってさっきの鍛錬についてあれこれ話していた。そして技術の話になった時
「正直技術に関しては俺はどうこう言えませんね」
それは本当だ。光輝の強さは少し祖父から受け継いだだけで殆どは独学でアインクラッドで得たものだ。そんな光輝の技術を今のやり方に慣れている直葉に今すぐ変えろと言われても出来る訳ないしそしてなにより……
「技術は想いだ。どんな思いでそれを磨き今までやってきたのか、それがその人を映す鏡。それを無理に変える必要はないと思います」
直葉のスタイルは今は亡くなった直葉の祖父からも少なからず受け継いでいる。直葉はその言葉に神妙そうに頷いた。もとより変えるつもりもないが光輝に改めて言われたことで自分のスタイルに自信を持っただけだ。その時ふと思い隣で物騒にも自分の二振りの剣を磨いている光輝に聞いた。
「光輝君はどんな想いなの?」
光輝自身はどう思ってその手にある剣を振るうのか、その力は何のために使うのか。それを聞きたかったのだ。
「俺は……」
俺はそこで磨く手を止め剣たちを見る。この二つの剣を初めて見た時、俺はお姉ちゃんを、キリト達を守りたいと改めて誓わせてくれた。俺がそこまで思うようになった理由、それは
「俺は……やっぱり皆との思い出かな。俺は……誰も傷ついてほしくなくて友達も作ってこなかった」
その言葉に直葉は悲しそうな顔をする。光輝の過去は少し知っている。平行世界とは言え笠木と言う外道との戦いは聞いてるだけでも胸が苦しくなった。こんな小さな少年が命を懸けて戦った。大人は助ける事は出来なかったのか? と直葉は考えたことだってある。
いやそもそも笠木がそんな事をしなければ良かっただけなのだが。しかし光輝の顔を見るとどうやら今はそんなに悲観していないらしい。
光輝はウォーリア・ビヨンド・ディスペアーを見ながら続けた。
「でも……あの世界でキリト達に出会って……お姉ちゃんに怒られて皆と一緒に戦った。それが俺には嬉しかった。今度は俺一人で戦ってるんじゃない、皆と一緒に戦ってるんだって思えたから」
クオーターボス戦以外で初めて攻略組の皆と一緒に戦った時、言葉で言い表せないくらい何故か嬉しかった。俺はあの時まで戦えるのは俺一人しかいないって思っていた。笠木と俺が戦う事になったのも俺しか戦える人がいないからだと思っていたからこの世界でもそうなんだろうって。
でも初めて攻略組に合流したボス戦で俺にはない戦い方をする皆を見て攻略組も確かにあの時を生きて戦っていたんだなと思った。だからこそあの後自己険悪に落ちてた時もあるんだが。
「……そっか」
直葉はそこで寂しそうな顔になった。当時を思い出していたのだろう光輝の顔が輝いて見えたからだ。自分はSAOにはいなかった。だからSAOで生きてきた兄を含め生還者達の死線を共に超えてきたからこそ得られる信頼関係が直葉には眩しいのだ。それは隣にいる光輝にも同じ表情を見ることが出来たから少し寂しいのだ。
しかし光輝はそんな直葉に気が付かずに続けた
「それに」
光輝はそこで言葉を区切り直葉を見て言った
「そんな繋がりが俺を直葉さんに出会わせてくれた」
それに驚いたように直葉は光輝を見る。今の流れなら光輝が大切にしてるのはアインクラッドでの思い出だと思っていた。それなのに光輝は自分との出会いも大切だって言ったのだ。その理由は色々あるがやっぱり思うのは
「俺が義理の妹の話をした時、凄い親切に話を聞いてくれた」
それは光輝がALOに来るようになってから少し経ったときににキリトとリーファの関係性を偶々知り光輝は思わず自分の妹の話をした。自分は嫌われているのではないか? そもそも忘れられてるんじゃないか? と不安を吐露した。それをリーファは否定した。
『血は繋がってなくても……家族の絆はそれだけじゃないよ。どれだけ互いの事を思いあえるのかが大事なんだよ。光輝君が妹ちゃんを本当に案じてきたのなら……妹ちゃんもきっと答えてくれるよ』
ちゃんと妹さんは光輝の行動に答えてくれると。自分だってキリトとは従妹だし光輝とはもう少し状況が違うがそれでも妹と兄の関係に関してはそれなりに分かっているつもりだ。
それがあの時生きていて尚且つ帰れるのに帰らないという選択肢を選んだ光輝に刺さったのだ。
「俺からすればそれだけで十分です」
光輝は言ってないが光輝からすればキリトの仲間は自分の仲間みたいなところがある。だからシノンもユウキも……そして最近どういう訳か姉になった七色も光輝からすれば自分以上に大切な人達だ。大切な人達が増えてしまったのは正直怖いと思う事がある。この世界には悟空達の世界にあるドラゴンボールなんかない。死んだらそこで終わりの世界なのだから。
それでも光輝が大切な人達を増やした理由、それは……
「自然の摂理さえ超越する強靭な意志、その為に必要な事。大切な人達を守りたいと思う力が人を強くするって俺は信じている」
光輝はそう外を見ながら言った。程ほどに夕日が出てそんな映画のワンシーンのような横顔に直葉は兄に似た何かを感じたのか微妙な視線で光輝に言った
「光輝君、お兄ちゃんみたいに女の人を引っかけまくっちゃダメだよ?」
それに光輝は思いっきり意味が分からないと言いたげな表情で振り返りながら言った
「確かにキリトの周り女の人多いけどそれって何か悪い事なの?」
本当に分かってなさげな光輝に直葉はレインやセブンでもないのに光輝の事が心配になった。どこか光輝相手には母性が出てしまう。少しレインがブラコンになる気持ちが分かった気がした。しかしこのままでは光輝は無意識に誰かを傷つけてしまうかもしれないので例え話を出した
「じゃあ、もし光輝君の好きな子が光輝君以外の男の子と仲良くなってたら光輝君はどう思う?」
これを言った直葉は少しまずったかなと思った。まだ光輝との付き合いは1年位しかないが光輝が女の子に夢中になる所なんて想像できなかった。光輝の周りには普通に可愛い女の子が多いのにも関わらずだ。それこそシリカやユウキなんて光輝と年も近いし間接的に命を救ったユウキならばそのまま恋愛関係になったとしても何らおかしくない。最もユウキと光輝の関係は恋人同士というより完全にライバルのそれだが。
そんな光輝に恋愛系の例え話で分からせる事が出来るか? となってしまったのだ。
(あれ?)
しかし意外なことに光輝は若干焦り始めた表情になっている。そしてそれについて何か言おうとしたら光輝が勢いよく言った
「そ、そんなの嫌だ!」
思いっきり叫んだ光輝をよく見ると少し頬が赤くなっている。直葉は意外に思った。この感じだと光輝は好きな人がいると言う事になる。まさかレインの事が好きなのだろうか? 確かに姉弟と言っても血は繋がっていないから行けるっちゃ行けるが光輝のレインに向ける視線は恋愛感情というより家族のそれだから違う気がする。ならば最近色々あった七色か? しかしそれも恋愛感情のそれではない気がする。
その事に突っ込みたい気持ちが出てくるが話を途中で折る訳にもいかないので続けた
「でしょ? 光輝君にはそういう人をたぶらかすような人になってほしくないの」
なんか親みたいなこと言ってるなと自分でも思うがキリトのそれで一度傷ついたことがある直葉は本当にそう思ったし光輝に同じようになって欲しくはなかった。
「わ、分かりました」
そう勢いよく返事したが正直これは光輝の問題ではなく相手の問題なのでどの道光輝にはどうしようもないとこがある。
二人が片付けを終え外に出ると夕焼けが見え始めていた。家に入ると一人の女性が二人を迎えた。
「あら、お帰りなさい。光輝君はいらっしゃい」
「お邪魔してます、翠さん」
女性の名前は桐ケ谷翠、キリトの義理の母で直葉の実母だ。普段は雑誌の編集者として忙しい日々を送っているが偶に早く帰ってくる。今日がたまたまその日だったのだ。
二人がリビングに入るとキリトが何故か微妙な顔をして座っていた
「どうしたのお兄ちゃん?」
そんなキリトの目の前には最近発売されたオーグマーという光輝からすれば若干ナッパやラディッツがつけていたスカウターに形が似ている機器が置かれていた。
オーグマーはAR機器、つまり拡張現実に特化した機器で例えばメールなどのタスク管理、目の前に出てきた食べ物のカロリー計算。それから簡易的なライブもその場で出来る優れものだ。レインなんかは早速レッスンに取り入れている。レインにおすすめされ光輝も買った。光輝は同年代に比べたらタイムパトロールの給料でお金持ちなので普通に買えた。
このオーグマー、実はSAO帰還者学校の生徒は無料配布されたのだ。だからキリトやレイン、アスナにリズベットとかは皆持っている。飛び入りしたユウキにもプレゼントされた。光輝は席に座りながらキリトが微妙な視線を向けている理由を言った
「キリトはARに慣れないんだよ」
そう簡潔にキリトが微妙な顔になっている理由を言った。キリトは「やっぱりわかるか」と言いたげな顔になる。直葉は少し呆れた顔になりながら言った
「もう、便利なものは使わないと損だよ」
「いやそれは分かってるんだけどさ……俺はフルダイブの方がやっぱりいいよ」
長年フルダイブ技術と共に過ごしてきたキリトからすればいきなり電子事業に現れたAR機器は受け入れがたいのだ。光輝もキリトの考えが分からない訳ではないが普段リアルの方で命を懸けて戦ってる身からすればそんなに忌避感はない。
しかし今日はそんな事を言ってる場合ではなくなった。
「というより今日アスナさんとボス戦に行くんだろ? そんな調子で大丈夫か?」
今日、オーグマー対応のゲーム、「オーディナルスケール」のイベントがあるのだ。オーディナルスケールとはAR機器であるオーグマーを利用したソードスキルがないリアルSAOのようなゲームだ。
SAOと違うのはこのオーディナルスケールにはランキングシステムやポイントシステムがある。ランキングが高い程報酬も良いものになる。リアルにあるお店と提携しクーポン券やケーキを一つ無料でもらえるなど色々ある。ついでに若者の運動不足を解消にも一役買っている。
「いざとなったら光輝がいるだろ」
「俺を当てにするなよ」
今日光輝がこっちに来たのは光輝がオーディナルスケールに訳あって初挑戦するからだ。最もキリトや仲間の中では光輝がやればどんなふうになるのか想像ついているが。光輝はSAO時代よりも強くなってる。SAOが終わり偶にフルダイブ関連の事件で激闘を繰り広げたことはあるが現実だと仮想世界と勝手が違う。
しかし光輝の戦いの舞台は現実の数多の超戦士達がぶつかり合っている世界なのでその強さは笠木と戦った時の光輝とは比べ物にならない。そんな光輝がオーディナルスケールに参加すればどうなるのか? 恐らく運営側がボスの強さを100倍にしても光輝を倒すのは至難の技だろう。もはや光輝をボスにした方が早い。
会話は途中だが翠が言った
「二人とも今日はいっぱい動くでしょ? 食べなきゃ食べなきゃ!」
そう言って翠はテーブルの上に今日の晩御飯を置いていく。因みに光輝と翠は何回か会っている。最初あった時らへんなんて編集者の性なのか色々聞かれたが生憎光輝は前の世界では色々教えてもらう前に笠木との決戦だったのであまり自分の世界についてはよく分かっていない。だから余り分からなかったという拍子抜けの状態になった。
キリトも翠の言葉を聞き腹を括りそれらの料理をお腹が膨れすぎない程度に腹に収めた。食事の途中で直葉は言った
「あーあ、私も行きたかった」
直葉が今日キリトとアスナ。それに光輝がボス戦に行くと聞いたのはさっきキリトが帰ってきて道場に寄った時だ。直葉がいけない理由としては移動手段がないからだ。キリトはバイクでアスナを迎えてからでも間に合うが3人乗りは色んな意味で危ないので却下しかなかったのだ。因みに光輝は安定の武空術だ。
「しょ……しょうがないだろ。バイク三人乗りは流石に不味い」
オーディナルスケールのイベントボスの出現場所は当日イベント開始の30分前に発表される。だからその場所に向かうための足が必要となる。それにキリトは不本意ながら選ばれたのだ。それを聞き今度は隣で行儀よくご飯を食べている光輝に言った
「私も空飛べたらなぁ」
直葉自身ALOで空を飛ぶことに魅入られた一人だ。現実でも空を飛べる光輝に憧れるのもある意味必然だ。光輝は野菜炒めを噛んで飲み込んだ後言った
「別に武空術はサイヤ人の専売特許って訳じゃないから修業したら直葉さんも飛べるようになると思いますけどね」
「うーん……難しい?」
「俺基準で言ったら簡単だった。ただそれは気について漠然と分かっていたからそうなっただけで0からの人は多分難しいと思う」
「え~!」
一瞬期待したのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。そんな反応が面白く光輝は微笑んでいた。そして少し早めの夕食を食べ終えたらキリトと光輝は外に出た。
「じゃあキリト、現地集合ってことで。直葉さん、今日はありがとうございました」
「うん。こちらこそありがとう、光輝君」
「ああ、また後でな」
光輝は周りに誰もいない事を確認し飛翔した。それを見届けたキリトは自分のバイクに乗りアスナの家に向かった。
光輝はレインのレッスンが行われている場所まで向かった。今日は朝からみっちりレッスンだと聞いていたから光輝特性ドリンクを持参した。これは仙豆をほんの少し削り果汁100%のオレンジジュースにぶち込んだものだ。
元々オレンジジュースには疲労回復に良いと言われているクエン酸やビタミンCが入っている。そんな中に仙豆をほんの少しでも入れた時の回復量はきっと疲れているだろうレインには良いと思ったのだ。
「光輝君!」
光輝が少し待つとちょっと深く帽子を被り珍しい髪色を隠しているレインとレインのマネージャーの美葉が出てきた。レインは光輝に駆け寄った。
「お疲れ様、お姉ちゃん」
そう言いながら水筒を渡す。レインはお礼を言いながら受け取り少し飲んだ。
「はぁ~! 美味しいしちょっと疲れもとれたよ」
少ししか飲んでないから回復量も少ないのだ。3人は歩き出す。光輝はその間にオーグマーをつけイベント開始時刻30分前になったのでイベント情報を見るとどうやらこの近くの場所みたいだ。その情報をレインに伝えながら心配そうに聞いた。
「でも疲れてるんでしょ? 大丈夫?」
それにレインは微妙な顔になりつつも返した。
「大丈夫だよ。それにこれも活動の一環だからね。弱気になんてなっていられないよ」
最近、さっき言ったオーグマーがでた当初から台頭してきているアイドルがいる。それはARアイドル、ユナだ。
動かしているのは機械のはずだがその機械とは思えない言語能力や歌唱能力は瞬く間に日本中に広がっていった。シリカは既にファンだという。
だから最近レインのライブの人数は少なかったりする。勿論、人数だけが問題ではない。来てくれる人の気持ちがレインは嬉しいのだ。しかしレインの事務所としてはそうはいかない。思わぬところでライバル……それもフルダイブのレインと反対のARアイドルだ。
そこで事務所は敵を知るのには何とやらでレインにオーディナルスケールに参加してほしいと言われこうなっている。
「それに、光輝君が修業を手伝ってくれたんだから私も期待には答えなくっちゃ」
光輝はそんなレインの頼みを受けレッスンの合間にレインの特訓を手伝っていた。レインは元来運動音痴である。それはもうぐうも出ない程に。光輝も最初オーディナルスケールでレインと戦った時その運動音痴さに唖然とした。攻撃は反応できるのに体が追い付かないというクウラと戦った時の光輝と同じことになっていた。
「でも……光輝君の特訓は辛かったよ」
そう思い出しただけでも辛さが思い出されるのか苦笑いする。美葉はその模様を見ていたので一緒に苦笑いしている。それでもフォローはする
「だけど、光輝君のおかげでボス戦行けそうじゃない」
流石に光輝が悟空達にされてきたサイヤ人形式の修業はレインには出来ないし時間もなかったので光輝が医療忍術が出来る事を良いことに少し無茶なやり方で修業した。それはかつて光輝もやっていた方法、重りを付ける事だ。これが一番手っ取り早かったのだ。その重りを付けたまま光輝とオーディナルスケールで戦い続けた。今のレインは前までのレインとは一味違う。光輝は忠告しておいた
「でも……どんなボスが来るのか分からない。気を付けてね」
「光輝君も……っていらない心配だね」
寧ろ光輝は現実の方が強いのでシステムに作られた敵程度では今の光輝は止められない。今の光輝とあの時のヒースクリフが戦っても赤眼と蒼眼がなくとも普通に勝てる。知らない間にどんどん強くなっていく光輝にレインは一瞬寂しそうな顔になった。それに光輝は気が付かなかった。そこで思い出したように光輝は美葉に言った。
「そう言えば今日はクライン達風林火山も参加するそうですよ」
「えっ!?」
思いっきり動揺した声を出す美葉にレインは
(早く付き合っちゃえばいいのに)
とか内心思っていた。そんな事を思っていたらとうとう今日のイベント会場に着いた。その場所にはキリトやアスナが既にいた。それだけではなく風林火山の面々もいた。光輝達に気が付き手をあげる
「光輝、レイン!」
そう二人に聞こえるように声を上げる。光輝も手を上げながら近づく。だが周りは
「なあ、今レインって言ってなかったか?」
その言葉に一斉に光輝とレインに視線が集まる。光輝はキリトに「馬鹿か」と言いたげな視線を向ける。キリトは思いっきり申し訳なさそうな顔になった。しかしレインは敢えて被っている帽子を取った
「「うおおおおっ!!」
その場にいたレインのファンたちが叫ぶ。
「本物だ!」
「握手してください!」
イベントボス戦がもう少しで始まるというのに皆レインの周りに集まりだす。
「レインさんも参加するんですか?」
「うん! 今日は私も一緒に戦うよ」
(お姉ちゃんの切り替えが早すぎる)
その言葉に沸き立つ群衆。それを見ていた光輝はアインクラッドぶりに見る姉の人気者姿に微笑んでいた。そんな時別に怪しいわけではないが変だなと思った気が建物の上からこちらを見ていることに気が付いた。光輝はばっとその場所を見た。そこにいた青年と視線がぶつかり合った。その青年は鼠色の髪で割と背も高い。そんな光輝の様子に気が付いたのかキリトが聞いてきた
「光輝、どうしたんだ?」
「いや……何でもない」
まあ上から見下ろすくらいで一々怪しむわけにはいかないからな。でもあの人、どこかで見たことがある。どこでだ?
そんな事を思っていたらイベント開始の鐘が鳴り響いた。その音でお姉ちゃんに群がっていた人達も臨戦態勢に入った。俺はお姉ちゃんを撮る為にオーグマー対応のカメラを出していた美葉さんに言った
「美葉さん、そろそろ離れた方が良いと思いますよ」
「え、ええ。レインちゃん頑張ってね」
「はい。頑張っちゃいます!」
そう言いながらレインはごそごそと腕をいじりそこからドスンと音を鳴らしながら重りが二つ落ちる。そして少し手首をひねったりする。少し骨の音がした。
キリトとアスナもレインの隣に立ち四人は一緒にゲームを起動するために必要なコントローラーを持つ。オーグマーもつけ光輝とレインに関しては両手に二つずつ持った。そしてゲーム起動に必要なコマンドを叫んだ
「「オーディナルスケール、起動!!」」
そう叫べば俺が見ている景色が変わり始めた。先程見ていた現実の景色も東京だから都市だったのだがオーディナルスケールを起動してから見える景色は年の面影を残しながらもどこか怪しげな建物になっていく。勿論これはオーグマーが俺に見せている仮想のフィールドだがいる場所は本当の現実なので臨場感はフルダイブよりもあるかもしれない。
そして俺の恰好も変わり始める。蒼色の羽織に帯、唯一何時もと違うのはインナーが黒という位だろう。
(これじゃあ
とちょっと内心で遊んでいる。早く赤色のインナーの装備ほしい。あの恰好じゃないと戦闘の時落ち着かないんだよな。
お姉ちゃんを見るとどこか赤色のバトルドレスを着ている。それに元々お姉ちゃんが付けているカチューシャも合わさりどこかのメイドさんに見える。そんな事を思っていたら目の前から尋常ではない炎が溢れ出してきた。
「ボスのおでましって訳……」
光輝は思わずそこで言葉を止めた。その顔はどこかありえないものを見ている眼だからだ。それにレインが気が付き聞いた
「どうしたの?」
「何でこいつが出てくる」
光輝が思わずそう呟いた言葉にキリトもアスナも出てきたボスを見る。ボスは光輝の2、3倍位の大きさで巨大な甲冑を着ている。顔はどこか鬼に似ている。最もその口から覗かせる舌は蛇に似ているが。光輝は3人と風林火山の面々に聞こえるように言った
「こいつは……アインクラッド第十層フロアボス、カガチ・ザ・サムライロードだ」
「えっ!?」
嘗て攻略が光輝と攻略組の早い者勝ちになっていた時期、光輝が単独で倒したボスの内の一体だ。光輝が倒したしベータテストでも戦わなかったのでこのボスの存在はこの世界では光輝しか知らない。
光輝は二刀を構え言った
「でも……やることは変わらねえ。またずたずたにしてやる」
そんな物騒な言葉を言っている光輝にレインは苦笑いしていた。そしてサムライロードを見る。そんなサムライロードの後ろに何かUFOみたいな浮遊物が出てきた。そしてその浮遊物からピンク色の光が出てくる。そんな光の中から出てきたのは少女だった。白髪で後ろ髪を二つに分けている。服装は主に黒がメインだがその中に白のラインや赤い部分もある。クラインが思わず言った
「ゆ、ユナちゃんだ」
(これがユナか)
光輝はレインの事務所がライバル視しているARアイドルの存在は知っていたが直接見るのは初めてだ。確かに挙動や表情は並みのAIではだせない動きをしている。そのユナが参加者に言った
「皆~準備はいい? 戦闘開始だよ!」
その言葉と共に何やらBGMが流れ始めた。光輝も町中で聞いたことだある曲だ。それを聞いた光輝達の隣にいるトラ型アバターの人がグッドポーズをしながら言った
「よっしゃー! ユナが歌い始めた。ボーナス付きのスペシャルステージだぜ!」
その人が言うのと同時に緑色の雨が降り注ぎ俺達に当たった。そうすると俺達にバフがかかった。お姉ちゃんを見るとユナを見つめていた。俺はその時さっき建物の上にいた青年から視線を感じばっと見た。青年は先程の黒い恰好ではなく黒の中に紫色のラインが入っている格好になっていた。その青年はお姉ちゃんを見ていた。その瞳が俺には「お前にユナは超えられない」って言ってる気がした。
そしてとうとうボスと戦う10分間のカウントが動き始めた。それと同時にサムライロードが動き始める。
「行くぞー!」
そう言って参加者の人達がサムライロードに突撃する。サムライロードは巨大な刀を振り下ろす。その速度はこの世界の人達からすれば早い。ボーナスをもらいたかったのか突撃したプレイヤーは八つ裂きにされている。
「どうよキリの字」
始まったフルダイブとは違う戦い、その模様にキリトは複雑そうな顔になる。光輝はそんなキリトの背を押す
「どんな場所でも戦いは戦いだ。複雑なのは同情するがそんなじゃリアルで大切な人を守れないぞ」
そう言いながら光輝はレインの横に並ぶ。正直光輝の言ってることは常に戦いの場にいる光輝だから言えるセリフだ。だがだからこそ不思議とその言葉に説得力があった。
サムライロードとプレイヤーとの激突はサムライロードの優勢だ。HP0で死なないだけマシだがそれでもあんな巨体と戦うのは心理的に圧迫感があるだろう。おまけに飛び道具持ちだし。参加者が減ったのを見計らい光輝はレインに言った
「行こう、お姉ちゃん! 俺がサポートする!」
「うん!」
二人はそう言い合って未だに攻撃パターンを見切れていないプレイヤー達に猛威を振るっているサムライロードに駆け出す。サムライロードも近づいてくる二人に気が付き刀をレインに振り下ろした。
それを光輝はレインに当たる前に割って入り二刀で逸らした。とんでもない剣と刀がぶつかり合う音がした。
「––!」
レインは光輝の後ろから現れ攻撃を逸らされ胴体を思いっきり逸らしているサムライロードに一閃する。それによりまたサムライロードはよろける。
そんなサムライロードに光輝は追撃する。その持っている二刀でX形に斬りつけた。サムライロードは態勢を立て直し一番近くにいた光輝に刀を振り下ろす。しかし光輝はそれを簡単に二刀流防御技「クロスブロック」で受け止めパリィした
「スイッチ!!」
光輝の叫びにレインが合わせる。また光輝の後ろからサムライロードを斬りつける。そんな姉弟の連携プレイに外野は
「すげぇ」
それを見てクラインは触発されたのか自分のギルドメンバー達に呼びかける
「よっしゃー! 俺達も光輝達に負けてられねぞ!!」
「「おおーっ!!」」
風林火山の面々と共に駆け出す。彼らの動きを気で察知した光輝はサムライロードの足目掛け攻撃した。
それによりサムライロードは態勢を崩す。しかしそれでも刀は振るえる。
「おじさん達、スイッチ!」
おじさんとは何事だという暇もなく光輝と刀を振り下ろしていたサムライロードの間に割り込む。光輝がこけさせたのはサムライロードの攻撃範囲を狭める為だ。
ゴォーン! という音共にタンクの風林火山のメンバーが刀を止める。その間にクラインともう一人がサムライロードを斬りつける。
サムライロードは再びクラインともう一人を斬りつけようと刀を振り上げるがその二人の前にもう一人のタンクが割って入り思いっきり弾いた。
弾かれたサムライロードの目の前に光輝とレインが現れ同時に斬りつけビルまで吹き飛ばした。
「な、なあ? レインちゃんと一緒に戦ってる子供ってもしかして……」
観客がそこでようやく光輝の正体に気が付き始めた。ざわざわとし始める。
「光の解放者じゃねえか?」
「嘘だろ!? あいつ平行世界の奴じゃねえのか? 何でこんな所にいるんだ?」
「いや、お前知らないのか? レインちゃんと解放者は姉弟だぞ?」
「どこ情報だよ?」
「この前でたSAO全記録に書いていたぞ」
第三者がそんな会話をしている。しかし光輝達には関係ない。立ち直ったサムライロードは離れた所にいるキリトをターゲットしている。その証拠にサムライロードが今までノーマークだったキリトに突撃している。
「キリト、タゲされてるぞ!」
光輝が叫ぶ。キリトはサムライロードを見据えながら後退を選ばず敢えて迎え撃つために走り出した。その速度はやはり仮想世界の彼と比べれば遅い。しかし現実ならこんなもんだろうと光輝は特に気にしていない。
そしてサムライロードとキリトが交錯する時……
「あ」
光輝が思わず言った時
「うわあっ!」
と光輝が思わず言ったのと同時にキリトは盛大にこけ仰向けに倒れた。それもよりによってサムライロードの目の前で。そんなギャグマンガのような展開に光輝は隣にいるレインに聞いた
「これって笑っていい場面なのかな?」
レインは苦笑いしながら
「それはキリト君の名誉の為にやめてあげて」
「はーい」
とか軽いコントをしている間にキリトは何とか態勢を取り直しサムライロードから離れていた。
キリトとアスナさんは俺達の方に走ってきながら会話している
「くそ、体思うように動かない」
「ただの運動不足でしょ!」
アスナの叫びが聞こえたのか光輝は首をこてんとしながら聞いた
「キリトも俺と修業する?」
「お前のは絶対に辛いだろ!」
「大丈夫大丈夫。俺ベジータさん程スパルタじゃないからいけるいける」
完全に自分基準になっているのはそのベジータの性格が若干移ってる証拠と言う事に光輝は気が付いてない。
とかそんな事を思っていたらさっきのトラ型アバターの人が飛び出してきた
「よっしゃー、ラストアタックは貰ったぜ!」
そう言って肩に担いでいるバズーカをぶっ放した。別にラストアタックは早い者勝ちだからそれは別に良い。だがコースが問題だった。放たれたバズーカはこちらに突撃してきていたサムライロードに放たれたのだがバズーカのコースが直線的過ぎたのだ。サムライロードは簡単にそのバズーカを躱した。そしてバズーカはその向こう側にいるユナに向かっているではないか。それを見た光輝は少し気を高めた
「しょうがない、行くか」
AIとは言え人がくたばる瞬間なんて見たくない光輝は少しだけ気を引き上げユナに向かったバズーカを弾こうと思った。
「––!」
しかしその足を光輝は止めた。何故ならそのユナを守るようにさっきから建物の上にいた人物がそのバズーカを簡単に弾いてサムライロードにぶつけたからだ。
「やるな」
降り立った人物を見て光輝はそう言った。所謂普通の人達が多いこの世界の中であれだけの動きをするとは思わなかった。建物から跳躍しユナの目の前に現れバズーカを跳ね返す事は難易度が高い。それを当たり前にやってのけた青年は普通に凄いと光輝は思ったのだ。そしてそれは彼のランクを見れば少しだけ納得出来た。青年のランクは
「ランキング2位!?」
「すげぇ」
と青年の凄さに周りが驚いている間にもサムライロードは立ち上がる。そしてサムライロードも本気を出すという意思表示なのか左手が煌めきそこから右手の刀と同じ刀が出現し二刀流となった。
それを見てもびくりともせずにせずに青年は普通の人以上のスピードで走りながら周りに言った
「大技が来るぞ! タンクはついてこい!」
サムライロードは右の刀を青くきらめかせながら振り下ろす。そこから衝撃波のようなものが出てくる。それだけではなく今度は左の刀を横に振るってさっきの衝撃波を放つ。しかし青年はそれを器用に飛んで躱しつつすれ違いざまに一閃する。
「凄いな、この世界のリアルにあんな動きをする人がいるとは」
まあ光輝自身がそれ以上のレベルに達しているが光輝は比べる人の環境も考慮する人間なので素直に誉め言葉が出てくるのだ。
そこで光輝は青年の頭上にある名前を見た。名前は「エイジ」だそうだ。でもそこで光輝の記憶に何かが引っかかった。それが光輝には分からなかった。だから今はその事を置いておきエイジに続いて突撃した風林火山とアスナを追いかける。
サムライロードは体力がもう少ないので所謂暴走状態になっている。風林火山のタンク二人が攻撃をガードするがサムライロードの攻撃が激しくなっていきとうとうタンクも支えきれなくなった。しかしそこは元最前線攻略組、咄嗟に避難し逃げていく。
「お姉ちゃん、ラスト行くよ!」
「うん!」
光輝に答え光輝とレインは風林火山とすれ違う。光輝はさっきのエイジ以上のスピードを簡単にだしレインを置いてサムライロードに突撃する。その際そのスピードに眼を見張っているエイジと一瞬目があった。しかしそれも一瞬、暴走状態の暴れっぷりにクラインが思わず光輝に言った
「光輝無茶だ!」
しかし光輝の顔は戦いに集中した時の高揚感を味わっている表情でクラインの言葉を聞いていなかった。
二つの刀を青い煌めきと共に滅茶苦茶に振るっているサムライロードに突撃してそれらの攻撃を全て躱す
「うそぉ!」
とアスナは思わず言った。普通ならあんな暴走状態の暴れ攻撃はさっき風林火山がやったようにタンクが凌ぎその内暴走は止まるからその間に決着をつけるというのがセオリーだ。セオリーのはずなのだが生憎光輝に常識は役に立たない
「アスナちゃん行こ!」
そう言いながら光輝に突き放されて走ってきていたレインが言ってアスナも一緒に走り始めた。それと同時に光輝はサムライロードの顎を勢いよく跳ねさせた。
「これで最後だよ二人とも! スイッチ!」
光輝はちょっとだけ空を飛びながらバク転し後ろから来た二人と入れ替わる。レインとアスナは光輝と入れ替わりに盛大に態勢を崩しているサムライロードに自分の得物をぶっ刺したのだった。
それでサムライロードのHPが無くなり……爆散した
「「よっしゃ──ーっ!!」」
イベントボス打倒により参加したプレイヤーに貢献度によってポイントが配られた。光輝のとこにもランキング上昇の通知が来た。だが光輝は直ぐに消した。別にランキングに興味はない。ランキングで全てが決まるなら苦労しない。
光輝は二刀を背中に収めた。アスナと一緒にレインが近寄ってくる。
「お疲れ様、お姉ちゃん」
「光輝君もね。でも最後は本当にびっくりしたよ」
あの無茶苦茶な軌道の攻撃を受けるのではなく全て躱しきるなんてあのランキング2位のエイジでも出来るか分からない。と思ってレインが辺りを見回したらもう既にエイジの姿は無かった。
「だってああする方が手っ取り早かったんだもん」
「それを成し遂げる光輝君がおかしいって皆思ってるのよ」
とそんな会話していたら。さっきまで歌っていたユナがフィールドに降りてきて参加者たちが沸き立つ
「皆お疲れ様ーっ! ポイントとランキングを確認してね! 更に、今回のMVPにはスペシャルボーナスをあげるよ」
そう言ってユナはアスナとレインの方向に歩いてきた。そしてどちらにしようかと一瞬悩む素振りを見せ結局何と二人まとめて抱擁してきた
「「えっ!?」」
とレインとアスナの声が重なる。と思ったらユナは離れ
「どっちかなんて決められない! 今回は二人がMVPよ!」
そう言ったらファンファーレが鳴り響きレインとアスナを光に包んだ。二人がリザルト画面を見るとポイントとランキングが上昇していた。
それを見届けたユナは
「じゃあまたね、アスナさん、レインさん」
そう微笑み最初のUFOっぽい浮遊物に吸い込まれていった。光輝は今の会話を聞いて不思議そうな顔をした。
(何で二人の名前を知っている)
茅場が作った自立型修正プログラム、カーディナルが作ったAIでさえ名前は一度プレイヤーから聞かなければその後普通に呼ぶことは出来ない。それなのにあのユナってアイドルはそれすらもせずに名前を言った。
光輝は別に何か事件があった訳じゃないが厳し気な表情になっていた。そんな光輝を他所にレインの所に観戦とビデオを撮っていた美葉が近づいてきた
「レインちゃんお疲れ様。最後のラストアタック良かったわ」
「ありがとうございます、美葉さん」
「光輝君もレインちゃんのサポートありがと」
光輝はユナについての思考を止めて美葉に言った
「俺がサポート役なのはSAOから変わらないですよ」
そのサポートが強すぎるのだが。レイン達は言わないだけでこう思ってる
(光輝君一人でサムライロード倒せたよね)
と。まあ実際光輝は今よりも弱かったころのSAOで一人で倒してるからそう思うのは今更な気がするが。苦笑いしていた光輝にレインは言った
「光輝君、今日家に泊まる?」
「お姉ちゃん達がいいなら良いけど」
「勿論、良いよ」
とご機嫌になってるレインに美葉はこそっと言った。
「レインちゃん、皆見てるよ?」
と言われレインが周りを見ると確かにレイン達を見ている人が多かった。レインは光輝に言った
「ちょっとだけ待っててね」
「うん。頑張って」
その言葉にまあ確かに頑張る時だと頷きレインはファンたちの元に歩いて行った。それを見届けた光輝は再び難しそうな顔になったのだった。気になるのはユナ、そしてエイジ。だけどまた関わるか分からない以上悩んだって意味ないだろう。この時光輝は本当にそう思っていたのだった。
お疲れさまでした。気が向いたら書いてこうと思います。
尚、基本光輝無双です。大筋は変えませんがオリジナル入れます。ではでは