クライン達が謎の襲撃者に襲われ3日経過した。光輝はあの後レインの迎えに行き家に送り届けた後オーディナルスケールランキング2を見張っていた。タイミング的に一番怪しかったからだ。
プレイヤーネームはエイジ、鼠色の髪にキリト達よりも年上と言う事は分かった。しかし光輝はタイムパトロールとしての仕事もありこの三日間は見張る事が出来なかった。一応セブンには報告しておいたが難しいと思っていた。こんな大掛かりな事をたった一人でやるはずが無い。エイジのバックには誰かがいる。
そしてセブンがクラインのお見舞いをした時にSAOでの事を聞くと……やはりSAOでの記憶が無くなっていた。そして光輝は三日ぶりにALOに足を運び……再び拳を強く握りしめる事になった
「本当なのか、キリト」
キリトと光輝は今22層のログハウスの庭に出て会話している。二人がログハウスの方を見るとユイとアスナが会話していた。だがアスナの表情がどことなくぎこちない。無理して笑っているように見える。
光輝の言葉にキリトは奥歯を噛みしめながら頷いた。
「アスナさんまで……」
「SAOでの記憶が無くなっている」
アスナは昨日、恵比寿ガーデンプレイスで行われたボス戦にリズベットとシリカと共に参戦した。クライン達が襲われたことは恐ろしかったがその動機までは分からなかったのでまさかSAOサバイバーが狙われているとは思わなかったのだ。
そして、そのボス戦のさなかシリカがエイジとぶつかりエイジは謝ろうとしたシリカを突き飛ばしボスがそのシリカを攻撃しようとしてたのを見てアスナはシリカを庇い……
「……そんな」
SAOでの記憶は悪い事ばかりではない。確かにデスゲームとなって絶望した人もいるかもしれない。だけどキリトや光輝にとって今の自分を形成する上で絶対に欠かせないファクターでありそれが無くなる事は自分の魂が無くなってしまうようなものだ。それはキリトにとって愛する人の記憶も同じだ。
キリトは深呼吸して光輝に聞いた。どこか責めるような……いや八つ当たり気味にだ
「光輝、お前は知ってたのか? サバイバーからSAOでの記憶がなくなる事件が発生してるって」
ここまでくればキリトもこの事件を調べてくるのは時間の問題だと光輝は分かっていた。光輝は今更隠すつもりもない。
「……ああ。カガチ・ザ・サムライロードを倒した夜に七姉ちゃんから聞かされてた」
「どうして教えてくれなかったんだ!」
思わず怒鳴り声でキリトは光輝に詰め寄った。キリトからしたらアスナから記憶が無くなるかもしれない事を光輝は知ってた事になる。その情報があれば少しは違った結果になっていたかもしれないと反射的に感じたのだ。そしてそれは強ち間違いでもない。
もし光輝が注意喚起をしていればクラインは兎も角としてアスナは記憶が無くなる事はなかったかもしれない。というよりもオーディナルスケールをするなと一言言えば良いだけだった。完全に今回は光輝とセブンの対応が後手に回った。
しかしそれは結果論だし……光輝は厳しい事を言う自覚はあるがそれでもキリトに言った
「仮に教えたとして……お前にどうにか出来たのか?」
「──!」
光輝の言葉にキリトは思わず黙ってしまう。そんなキリトを見つつ光輝は続けた。
「お前は頭もいいし仮想世界での強さは俺も疑わない。だけど、AR戦闘でアスナさんに負けるお前がどうやって記憶喪失を阻止出来るんだ? 事実としてお前はエイジに手も足も出なかったんだろ?」
キリトは恵比寿ガーデンプレイスでエイジと相対した。そしてアスナに対しての行動にキレて手を出そうとした。だがエイジが簡単にキリトののど元に剣を突き出しキリトは何もする事が出来なかった。それを先程キリト自身が悔しそうに言っていたのだ。それを忘れていた訳じゃないキリトは思わず黙ってしまう。キリトがもう何も言わない事を確認した光輝は聞いた
「どういう原理で記憶が無くなるんだ?」
キリトはそれを聞き光輝に意識を戻す。本当は光輝に八つ当たりをしそうになった。しかし光輝の拳を見て止めた。光輝は無意識なのか意識しているのか分からないが音がなりそうなほど……リアルなら血が出そうな勢いで強く拳を握っていた。光輝が怒りを抱いているのは明白だった。
光輝がフリーザと戦う前なら超サイヤ人になれてたかもしれない……かは分からない。だがそれくらい今の光輝は怒っていた。
「……オーディナルスケールのボス戦でSAOの記憶を強く想起させて記憶のキーとなる単一ニューロンを特定、限定的な記憶スキャニングが起きて記憶が無くなる仕組みらしい」
この診断を下したのはユウキの主治医である倉橋だ。倉橋がこの診断を早急に下せたのはやはりアスナと同じ症状の人が何人かいたからだ。光輝が想像してたよりも被害が広がっている。光輝はそれを感じて視界の右端に見える時間を見る。光輝の時計はキリト達のリアルの時間に合わせている。時間は20時、今日のボス戦までもう少し。
ユイがボスの……正確にはボスの出現場所である所を突き止めたので今から慌てることはない。……アスナの記憶喪失はそれが仇になったと言えなくもないが。
「取り合えず俺は今日のボス戦行くよ。はっきり言って今回は七姉ちゃんの専門外、あまり支援は期待できない。だったら現地調査しかないからな」
眼で「お前はどうする?」と聞く。キリトもそれが分かったのかリスクは承知で言った
「俺も行く。あいつが来るかもしれないからな」
「そうか、じゃあログアウトする。また後でな」
光輝はそう言ってログアウトした。そして軽く準備した後再びキリト達の世界に向かった。ユイが提供してくれたボス戦の予想場所を見る。この予想場所というのはボスがアインクラッドの迷宮区に重なるような場所に出現する事をユイが突き止めたのだ。正確には重なる迷宮区の最寄りの公園とかだが。
光輝が影でこそこそしながら行くとキリトがいた。ただしエイジとそっくりさんを間違えている所だったが。光輝は自分も人の事言えないがキリトも相当怒ってると思った。それもその筈で愛する人と出会った場所、思い出、約束をエイジは奪い去ったのだ。光輝も誰かが愛美から光輝と愛美が本格的に仲良くなったあの小学校時代の記憶を消したらキリトと同じ……いやそれ以上に怒る自信がある。それこそ超サイヤ人になってしまう位に。
しかし人違いは普通にキリトが悪いので擁護しないが。人違いさせられた方が仲間とどっかに行ったのを見計らいキリトに近づいた
「落ち着けキリト。お前らしくもない」
光輝に言われるまでもなくキリトはもう落ち着いていた。そしてエイジ探しをしようとしているキリトに言った
「エイジはここにいないぞ。あいつの気はここら辺にない。今回は外れかもしれないな」
しかし光輝は落胆している様子はない。犯人の足がつかめないのは今タイムパトロールとして追っている敵達と変わらないからだ。そんな二人の前にシノンがやってきた。キリトはこの前に仲間たちにオーディナルスケールをSAOの記憶が無くなるかもしれないから来るなと言っていた。
だからキリトが思わずシノンに「何で来たんだ!」と言ったがシノンはどこ吹く風という風に
「私はSAOの記憶を持ってないんだから取られる記憶もない」
だそうだ。
光輝はそれに苦笑いする。シノンに向けたわけじゃなく言いくるめられているキリトに対しての苦笑だった。そんな事を考えていたら時間になった。三人はそれぞれのコントローラーを取り出した
「「オーディナルスケール、起動!」」
そう叫ぶと三人の見ている景色がサムライロードの時の様に変わる。サムライロードの時は丸丸都市みたいな印象を受けたが今回はどこか遺跡のような広場を思わせた。
そして現れたのは
「何っ!? アインクラッド第18層フロアボス、ダイア―タスクだと!?」
「18!? 今日は13じゃないのか?」
今回も攻略組に譲っていてたフロアボスで光輝は知らないボスモンスターだった。光輝が誰に問いかけたものでもない質問はユイが答えてくれた
「現在、各地でアインクラッドのボスモンスターが出現しています! それに伴ってボスがシャッフルされています!」
「随分な大盤振る舞いね」
「ボスは1体だけじゃないって事か……」
そこで光輝の脳裏にクライン達の事が思い浮かんだ。戦闘場所から少し離れたあそこでクライン達は恐らくエイジの襲撃にあって記憶を失った。
だけど記憶が無くなるのはSAO時代の事を強く想起させる必要がある。エイジにやられたくらいではSAOの記憶を強く呼び覚ますのは無理なんじゃないか?
それこそアスナさんみたいに直近で戦ってたとか……
「ユイちゃん、今迷宮区以外の場所でボス戦が発生していないか確かめてくれないか?」
「構いませんがどうしてですか?」
キリトがダイア―タスクと戦っているのを見ながら答えた
「クライン達は記憶喪失になった時、エイジが絡んでいるのは殆ど確定だがあいつにやられたくらいでSAO時代を強く思い出すとは考えにくい」
「——ッ! つまりエイジの他にアインクラッドのボスモンスターがクラインさん達に襲い掛かっていたと言う事ですか?」
「正解。もっと言うと今回来ていない面子でこの時間に外を歩いている可能性がある……リズさんやシリカさん、それに……お姉ちゃんの近辺を調べてほしい。それ以外は余裕があればでいい」
「分かりました、任せてください!」
光輝は頷き巨大な鉄球をキリトに振り下ろされかけたのを見てシノンとアイコンタクトを取り同時に動いた。
鉄球が振り下ろされる瞬間にシノンの正確無比な狙撃がダイア―タスクの顎にヒットして態勢を崩した。光輝はその間にキリトを救出して距離を取った
「キリト、焦り過ぎだ。フルダイブと同じように動けないのはお前が一番分かってるだろ」
「ああ、悪い光輝」
他の参加者に猛威を振るっているダイア―タスクを見ながら軽く状況分析をする。そうすると近くで倒れている人を見かけ顔を覗くと光輝にも見覚えがある人物だった。
名前は全く知らないがまだ20層も行ってなかった時に攻略組にいてくれていた人だった。
「どうやら……想像していたよりも
「ああ、早く止めないと」
「じゃあ、久しぶりの共同戦線と行きますか」
「頼むぜ、光輝」
互いの拳を合わせて2人は同時に動き出した。途中で光輝は二刀を引き抜きキリトよりも先行する。
ダイア―タスクは自身に挑む無謀なる挑戦者だと思ったのか高笑いした後その巨大な鉄球を2人に向けて放った。
キリトはそれを横に飛んで躱したのに対して光輝はそのまま鉄球を飛んで躱しそのまま突っ込んだ
「はっ!」
上段斬りでがら空きの胴に一直線の傷跡を付け、直ぐに一回転する要領で上に跳ね上げた。後方返りで光輝と入れ替わるようにキリトが片手剣で何度も斬りつける。
「グオオオオオッ!!」
ダイア―タスクもやられっぱなしではなく直ぐに鎖を引き鉄球をほぼ0距離にいるキリト目掛けて振り下ろした
「シノンさん!」
光輝が叫んだ瞬間にその鉄球と繋がっている鎖目掛けてシノンの狙撃がヒットしてちぎれた。鉄球は重力によって落ちていく。そのままではどの道キリトに当たってしまう
「伏せろ!」
その声が響いた瞬間にキリトは体勢を低くした。その瞬間、光輝は二刀で鉄球をダイア―タスクに向けて吹き飛ばした。
ダイア―タスクはそれをガードする間もなく直撃して吹き飛んだ。キリトの隣に降り立ちながら
「ラストアタック行くぞ!」
「ああ!」
2人は同時に駆け出した。ダイア―タスクは鉄球のダメージを残しながらもボスの意地なのか立ち上がり残った鎖を2人に無作為に振り回す。キリトの前に現れ器用に二刀を振り回してガードした
シノンは忌々し気に呟く
「狙えない」
ある程度動きが予測できるものを狙撃するのは簡単だがこの鎖の様に縦横無尽に振り回されるものに照準を合わせるのは簡単ではない。
だがそれは動き回っているものに限る。ダイア―タスクの眼に照準を合わせ……撃ち抜いた
「グオオオオオ!?」
自分の視界が撃ち抜かれたことに動揺したように叫ぶが……その隙さえあれば光輝には十分だった。
ダイア―タスクの眼前に現れあっという間に交錯した。
「決めろ、キリト」
キリトも一歩遅れてダイアータスクとすれ違いざまに斬りつけて……背後にいたダイア―タスクが爆散した
辺りを見渡した後、光輝は剣を背中に戻し臨戦態勢を解いた。
「お疲れ、キリト」
「光輝もな。シノンもお疲れ」
向こうから2人のアシストをしてくれたシノンもやって来る。
「2人ともナイスファイト」
「シノンさんもサポートありがとうございました」
そう他愛のない話をしていたらどこからかユイがしょんぼりと肩を落としながら飛んできた。
「すいませんパパ、怪しいデータが動いたので追ったのですがプロテクトに阻まれてしまいました」
「そうか……ありがとなユイ」
「ユイちゃん、頼んでたの何か分かった?」
光輝がそう問いかけた時、ユイががばっと顔を上げて光輝に報告した
「そうでした! 現在、予測の場所以外でボス戦が発生している場所がありました!」
「どこ?」
「丁度レインさんのスタジオの近くです!」
それを聞いた光輝は顔を険しく歪めた。そして直ぐにキリト達に背を向けレインと美葉の気をサーチする。
「不味い!」
「光輝?」
「悪い、お姉ちゃんの所に行く!」
言うが早く光輝は直ぐにその場から姿を消した。残された2人はそんな光輝を唖然として見送ったのだった
★
今日のレッスンも終わらせ、レインは美葉と共にスタジオから近くの駅まで歩いていた
「今日も疲れた~!」
体力も消費しているので既に体はクタクタである。最近はいつも光輝が迎えに来てくれていたがこの3日間は仕事と言ってきてくれなかった。
ただ着替えの時にメールを確認したところ今日はキリト達と一緒にボス戦へ行っているらしい。
『SAOのボス戦でSAOの記憶が無くなる事件が発生している。皆出来るだけオーディナルスケールはしないでくれ』
そんな事をグループでキリトが言ったのにも関わらずその本人がボス戦に行っているとはどういうことだ。
ただ今回は光輝も一緒だから心配はしていない。光輝が記憶無くなる可能性も否定できない。けれども強さがずば抜けている分、精神的余裕は仲間の中で誰よりもある。
「アスナちゃん……大丈夫かな」
心配なのはその記憶を失ったアスナの事だった。キリトとの出会いの記憶も思い出も……思い出せなくなったアスナの気持ちはレインには計り知れない。
(光輝君との記憶が無くなるなんて……嫌だよ)
ただ自分と光輝に置き換えた時、胸が張り裂けるような痛みを感じる事は間違いない。それだけではない、アイドルという夢が現実味を帯びたのもあのフィールドボス戦があったからこそ。
自分の今のアイデンティティが形成されたあの場所の記憶を忘れる事はただ怖かった。
「心配なのは分かるけれど……目の前の事にも集中よ」
「はい。……エイジってプレイヤーには気を付けなきゃですね」
光輝からエイジというプレイヤーには気を付けてと言われている。今も一応オーグマーは付けて光輝のGPSを少しだけ追っていた。
それを見ていた美葉は苦笑い気味になった
「レインちゃん、心配なのは分かるけどGPSはやりすぎじゃ……」
「しょ、しょうがないじゃないですか! だって光輝君また心配かけるような事するに決まってるんですからこの世界にいる時位は安心したいんです!」
あくまでもGPSを確認するのは光輝の反応を見て安心するためと言い張るレインに美葉は「ブラコンね」と思いつつレインの光輝への溺愛模様は今に始まった事ではないので諦めた。
その内2人は公園を通り過ぎる為に入り……足を止めた
「貴方は……」
足を止めた理由、それは人が2人を待ち構えていたように立っていたからだ。公園は暗闇に包まれ明かりは電灯の必要最低限だけ、その電灯だけで分かるのは鼠色の髪だった。
そして2人とも彼に見覚えがある。秋葉原DXのボス戦で現れその存在感を示したオーディナルスケール・ナンバー2
「エイジ……」
「へえ、僕の事を知っているんですね」
不敵な笑みを浮かべながら彼は姿を現した。レインは咄嗟に美葉を下がらせながら答えた
「上位の人だから知っているわよ」
「果たしてそれだけが理由かどうかは知りませんが……女性が2人だけでこんな所を通るのは感心しませんね」
「何が言いたいの?」
エイジは何も答えず手を上げた。それに反応したように炎が吹き上がりそこからボスが出て来た。
最初はシリカの使役モンスターであるピナのように小さなドラゴンだったのが徐々に巨大化していく。
禍々しくどす黒い龍はその赤き瞳でレイン達を見た。レイン達は知らないが目の前の龍はアインクラッド第91層フロアボス「ドルゼル・ザ・カオスドレイク」だ
「攻略組の紅の歌姫……僕はお前が気に入らないんだ」
「え……?」
憎しみが籠っている怒気を前にレインが意味が分からないと言いたげの顔をする。レインはエイジの事は今回の事で初めて知った。
最近までオーディナルスケールの事は時間が無くて調べる事もなかったのもある。そんなエイジに自分が恨まれる理由が分からなかった
「お前が今いる場所は本来ユナがいるべき場所だったんだ」
そう歯を食いしばるエイジにレインは何が何なのか全くわからずただ黙るしかない。先ず、今いる場所とは何なのかが分からない。
だが今はそれを問題にしている時ではない。
「美葉さん、オーグマーを外して!」
レインは記憶喪失の事を思い出して美葉に叫ぶ。
「外しても構いませんがその場合はそれ以上の痛みを負う事になりますよ。……風林火山をやったのは僕なんですから」
「——ッ!」
息を詰める。レインも光輝から風林火山の人達が負った傷を聞かされた。それは余りに惨く、聞いていただけなのに辛かった。
それを思い出したレインは逃げる思いよりも怒りが湧き出て来た
「貴方の目的は何なの! こんなことして何がしたいの!?」
「お前には分からない。望むものを手にしてのうのうと生きているお前には」
次の瞬間、カオスドレイクが炎の玉をレインに放った。レインはそれを飛びのくことで回避した。
光輝の地獄のトレーニングを受けていなければ今のは危なかった。
だがそれはカオスドレイクだけの場合だった。躱した先でエイジがレインに襲い掛かった。レインは咄嗟に剣を引き抜きエイジの剣とぶつけた
「くっ!」
「お前は攻略組でありながら”歌姫”を名乗りアインクラッド中にその名を轟かせた!!」
エイジは剣を引き抜きオーディナルスケールでは御法度の蹴りを放ってきた。コントローラである剣や武器でダメージを与えるオーディナルスケールではALOとは違って体術ではダメージ判定が入らない。その代わりに身体的なダメージを与える。
「——ッ!!」
レインは咄嗟に腕をガードに回した。
腕にエイジの蹴りがぶち当たりレインはその威力に耐えられず吹き飛ばされた
「キャッ!!」
レインは地面に転がり小さな傷が付く。女性としては考え物だがエイジはレインを貶す気で攻撃してきた。
ジンジンのレベルじゃない痛みがレインの両腕に響く。
(痛い……)
フルダイブと違って実際の痛みを感じるARはレインには慣れないものだった。
しかしそんな事を嘆く暇もなかった
「くっ」
レインが顔を上げた先にはカオスドレイクが再び炎の玉を発射していた。痛む身体に鞭を打ちバックステップで躱した。
しかし、また躱した先にエイジが迫っていた。紫色の閃光と共に剣を振り下ろす
(受けちゃダメ!)
まだ腕は痛む。こんな状態で鍔迫り合いは負けに行っているものだ。
だからレインはエイジの攻撃を躱すことにした
「”歌姫”の称号はお前なんかよりもユナの方が相応しかった!!」
激昂と共にエイジの攻撃スピードが速くなっていく。
「お前のせいでユナは誰の記憶にも残らなかったんだ!!」
正直レインはエイジに反論している余裕はなかった。それほどにエイジの攻撃が凄まじく受けるので精いっぱいだった。
──あ
そう思った時だった。レインの足が地面を滑り一気に体勢が崩れた。それを見たエイジはその口元を狂気の笑みに変えた。
その背後からカオスドレイクが大きく息を吸い込みブレスの準備を完了させた
「じゃあな、紅の歌姫」
エイジはそう言って自分の巻き添えを避けるために退却して……ブレスが放たれた
「レインちゃん!!」
美葉が悲鳴を上げレインは火炎のブレスに飲み込まれていった
「ふ……これで紅の歌姫も終わりだな」
レインが今アイドル活動を本格的にしようと思ったのはSAOでのあのフィールドボス戦があったからだ。
その記憶が無くなればレインはモチベーションが保てなくなる。それだけじゃない。今のアスナの様に戦う事が怖くなる。
それでは色んな意味でレインがレインでなくなってしまう
「ん?」
しかしエイジは様子が可笑しい事に気が付いた。いつまで経ってもあのブレスの中からレインの悲鳴と記憶のかけらが飛び出してこないのだ。
そしてブレスが終わった時、レインの姿そのものが無かった
「何だと……!?」
ブレスはあくまでもオーグマーが作り出す映像だ。それによって出る恐怖といった感情は本物と言ってもブレスは本物ではない。ただショックを与える分には十分なものだ。
つまりレインが消える事なんてあり得ない。
「どこに……?」
美葉も狼狽えながらあたりを見回した。だがレインの姿は見えない。そんな時だった。どこからか声がした。静かな怒りが満ち溢れ、一瞬で美葉に希望を感じさせた声が
「やっと本性を現しやがったな」
「——ッ!?」
エイジが勢いよく上空を見ると、月を背後にレインをお姫様抱っこしている光輝がエイジを見下ろしていた
「光輝君!」
「良かった、間に合った」
「な……ん」
何の脈絡もなく空に浮かんでいる光輝をエイジは口をあんぐりと開けたまま見上げていた。光輝は美葉の隣まで降り立ちレインを座らせた
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ちょ、ちょっと大丈夫じゃないかなぁ」
光輝が来た安心感からかレインの気が一気に抜けた。光輝もレインが無意識に庇っている腕を見てそっと手を当てた
手を当てた所からエメラルドグリーンの輝きが溢れてきて腕を包んだ。瞬く間にレインの腕の痛みが引いていく
「なんか……光輝君がどんどん超人になってくね」
「まあ俺よりも超人は沢山いるから大丈夫だよ」
何が大丈夫なのか全く分からない。寧ろ大丈夫じゃないんじゃないかなとレインは思った。しかし、その言葉が今は頼もしかった。いやいつでも頼もしいのだが今はいつも以上に頼もしかった
「お前は……蒼赤の戦士!!」
エイジが光輝を見て唸るように呟いた。光輝はそんなエイジを見た。
「お姉ちゃん、ちょっと待ってて。直ぐに終わらせる」
そう言った瞬間にはカオスドレイクの眼前に現れ目にもとまらぬ斬撃で抵抗する暇すら与えず爆散させた
「な……んだと」
その3秒かからない速度にエイジはただただ刮目し光輝を畏怖するように見た。光輝はカオスドレイクのいた場所を興味なさげに見た後、エイジを睨んだ。
「ズタボロの泥雑巾になる前に答えろ。何でこんな事をする、アスナさんや皆からSAOの記憶を奪って何が目的だ?」
その眼が「嘘は許さない」と語っていた。
エイジは狼狽える。光輝は追い打ちを立てるように聞いた
「お前、SAOの頃ノーチラスって名前だっただろ」
「え……?」
レインはエイジが生還者だと知ってまじまじと見る。しかしエイジは眉を顰め怒鳴る
「今の俺はエイジだ! ……ふ。閃光から聞いたのか? KOBの落ちこぼれだと」
「いや、お前がKOBにいたのは今知った。俺がお前を知っていたのはお姉ちゃんのバースデーライブで見かけたからな」
「バースデーライブ……?」
レインが記憶の棚から当時の事を思い出した。レインが紅の歌姫として台頭してきたときに開かれたバースデーライブ。
美葉も勿論覚えている。あれがあったからレインをスカウトしようと思ったのだから。
「お前、自覚は無かったかもしれないがお姉ちゃんの事めっちゃ睨んでたからな」
と言っても思い出したのはつい最近だけどな。元々どこかで見た奴だとは思っていた。
「さあ、先ずはアスナさんの記憶を返してもらうぞ」
そう言って踏み出す。エイジはやられる前にやる作戦で光輝に突貫した。
「お前達攻略組は常に最前線に立ちアインクラッドの希望になっていた!!」
エイジが紫色の軌跡を描きながら人間離れした動きで光輝に襲い掛かる。しかし光輝はそれをあっさりと対応する。
「だがそれは最前線にいた奴らだけだ! 俺やユナのような力のない奴は誰の記憶にも残らないんだ!!」
光輝はエイジの叫びを聞きながら受け流したり相殺する。その表情は揺らぐことなくエイジの瞳を射貫いていた。
「ユナ……か」
「お前に分かるものか! 茅場を倒し名実ともに英雄になったお前には! 弱虫の俺は大切な人が死にそうでも足が竦んで動けないんだ!」
激昂の声と共にエイジの動きにキレが増していく。しかしそれすらも光輝は軽々と反応して見せ逆にエイジのHPを削る。
光輝は途中で目を閉じた。それが舐められていると感じたのかエイジの攻撃は激しくなっていく。だが光輝は眼を閉じながらも完璧に捌いて見せる。その光輝の意識は半分ほどこの場にはなかった
大切な人が死にそうでも……か。俺は最初笠木と戦った時、死を恐れたのだろうか? 恐らく普通に怖かったと思う。
今でこそ笠木なんて眼中にないけど当時は小1の体格だったし相手は成熟した大人。愛美が警官たちを連れてくるまでタイムリミット戦ってのもあったが当時は相当無茶したと思う。まあ今にして思えば俺の命と道ずれに笠木を再起不能にした方が良かったのかもしれない。
それを思えば少しだけどこいつの気持ちも分からんでもない
「SAOなんてクソゲーの記憶なんて貰ったっていいじゃねえかああッ!!」
「だけどな……」
エイジの跳躍斬りを光輝はその場から姿を消して躱した
「なっ!?」
その視認不能の速度にせわしなく動き続けていたエイジが止まった。
「誰かを守れなくて悔しい気持ちも分からんでもない。俺も大事な人達を守れなかった。守るどころか俺はおねんねしていた」
姿が見えないが光輝の声だけが響く。
「悲しくても、悔しくても……もうあの時間は戻ってこない」
自分と愛美を優しいまなざしで見てくれた家族たちを思い出す。今思い出すだけでも胸が苦しくなって当時の悔しさや悲しみが蘇る。
だけど……そんな経験をしたからこの世界に来ることも出来た
「それでも……今俺はここにいる!!」
瞬間、エイジの背後に現れ斬りつけガクンとエイジの体力が減った。
「どこだっ!?」
「クソゲーだって? そうかよ、お前がそう思うのは勝手にしやがれ!」
次はエイジの眼前に現れ反応出来ないスピードで斬撃痕が現れる。そしてまた光輝は姿を消す
「それでも俺やお姉ちゃん、キリトやアスナさんにとっては大事な記憶なんだ!」
エイジが背後を見ても姿は見えず代わりに無数の斬撃がエイジを襲う。手も足も出ずエイジのHPが減っていく。
エイジのオーグマーに特別に付けられている相手の動きを予測する機能も全く役に立たない。
「俺が……俺達が俺達であるためにあの城での記憶は大切なもの。その記憶の価値をお前が決めるんじゃねえ!」
エイジが眼を大きく見開いた時には既にレッドゾーンに入っていた。視認すらも出来ない光輝の連続攻撃、ただの人であるエイジは全く反応出来ない。
エイジは光輝を探そうとキョロキョロするが見当たらない。
「こっちだ!」
光輝の声が響き渡りエイジは勢いよく振り返る。光輝が泰然と仁王立ちしていた。
「黙れ! 俺はユナを生き返らせるんだ! お前なんかに邪魔はさせない!」
エイジが放った言葉に流石の光輝も驚く。まさかこの色々な意味で普通のこの世界でドラゴンボールを使って叶えるような願い事が飛び出すとは思わなかったのだ。
しかし、先程までの言動と今言った生き返らせるというワードのおかげでエイジの……エイジたちの目的が分かった
「成程、ユナを生き返らせるためにユナの記憶が必要だったって訳か」
光輝の一言にレインが意味が分からないと言った感じで光輝を見る
「どういう事、光輝君」
「先ず……今世間で出ているARアイドル”ユナ”にはモデルがいる。……いやいたんだ。SAOに。お姉ちゃんは早い段階から師匠の所にいたから知らないかもしれないけど」
「ユナが……SAOに?」
「ああ。それで死んだ。SAOで」
「——!」
光輝がエイジの反応を見ると苦虫を嚙み潰したような顔で光輝を見ていた。
「エイジはSAOサバイバーから断片的にユナの記憶を駆け集め、それを繋ぎ合わせる事でユナをAIとして復活させようとしたんだ」
その余りにコメントのしようもない話にレインは口を開けたままだった。
エイジは余りの力の差にただただ光輝を見据える事しか出来ない。
「そんな事出来るの?」
美葉も呆然と呟く。それだけ衝撃的な発言だったのだ。光輝はエイジから眼を離さず答えた
「ああ。オーグマーに記憶抽出機能、それにユナを模したAI、普通の人間に他人の記憶を移すのは出来ない。だけどAIならそれも出来る」
剣の切っ先をエイジに向ける
「考えたな。そうしたら確かに疑似的にユナを生き返らせることも可能だ。ただし、何人もの人達の犠牲と引き換えにな!」
「煩い! 大事な人を失う事もない力がお前にはあるだろうが! それだけ強いお前に俺の何が分かる!? 大切な人を守れなかった俺の気持ちが……」
「黙れよ」
エイジの自分勝手な言い分に誰よりも光輝の事を見て来たレインが怒鳴ろうとした、がそれよりも先に大気を震わせるほどの圧力が光輝の言葉と共に発せられた。
光輝は来た時のレインの腕の怪我を思い出しながら聞いた
「お前、まさかお姉ちゃんも恨んでたのか?」
そこには嘘を言ったらただでは済まさないと含んでいた。エイジは一瞬淀んだが自分の在り方を証明する為に叫んだ
「そうだ! そいつはユナの称号を奪い取り誰もが認める存在となった。俺はそれが許せない!」
「……ふざけるな」
光輝の静かな怒りが白色の気として顕現して光輝の身に纏う。その常識ではありえない現象に畏怖のようなものを感じた。
「てめえの眼には”そうなった”結果しか見えねえのか?」
その言葉はエイジの背後から聞こえた。それをエイジが認識した時、エイジのHPが残りのゲージをあっさりと砕け散り目の前に「You Lose」と表示が出た
「俺もお姉ちゃんも……そうありたいと思う未来の為に修業をした。その為に何度も苦き水を啜り立ち直れなくなりそうなこともあった」
光輝は剣を一回振って背中の鞘に入れた
「それでも……何度も立ち上がって自分を越える為に努力した」
そこで背後に向いた。既にエイジはオーディナルスケールが解除され、膝を追っていた
「それが今の俺達の現実だ、夢を……そうありたいと思い努力した結果をお前に否定されるいわれはない」
光輝もオーディナルスケールを解除して私服に変わった。
「逆にお前に分かるのか? 大切な人との記憶が奪われ記憶の共有が出来なくなった人の悲しみが。その大事な人との繋がりが立ち消えそうになる苦しみが」
思い出すのは今日少しだけ見ていたアスナさんの事。俺の前では平静を装っていたけどそれが無意味だと思う位憔悴していた。
「お前がSAOにユナを奪われたように、アスナさんはお前に”自分”を奪われたんだ」
勿論、生きているアスナさんと死んでしまっているユナでは違いもある。それでも……何かを失う事の辛さはエイジにも分かるはずだ。いや分からなきゃならないんだ。
「時間をくれてやる。お前がそれでもユナを生き返らせようとするのなら……」
光輝はレインを立たせた
「今度こそ貴様を立ち直れない位にズタボロにしてやる」
今の優先順位はお姉ちゃんを家に送り届ける事。それにエイジは恐らく記憶を奪い取る実行犯としての役割だ。
つまり……記憶をどうこうするのは別の頭脳派の人がいる。こいつを問い詰めて吐かせることは簡単だが……あいつは多分納得がいかない。
「俺がこの世界にいる限り、もう誰も記憶を取らせることは出来ない」
その言葉を残して、光輝はレインを連れてその場を離れた。残されたのは圧倒的な力の差を感じ、項垂れ光輝の言葉を考え……結局ユナを生き返らせたいと願うエイジがいた
お疲れ様です。
光輝、エイジをボコボコにするの巻。どうでも良い情報かもしれませんが作者はエイジは割と苦手です。
良いことも悪い事も全部ひっくるめて自分。それをどうこう言ったりする権利なんて誰にもない筈ですからね。
見ていて何となく思った方もいるかもしれませんが光輝はSAOのユナの事を知っています。
多分次回か次々回あたりでオーディナルスケール編は終わりです!
今週の土曜に姉とSAOを見に行きます!