TSは好きだけど最近増えすぎてない?
男装とか、男の娘とか、可能性は広いよ?
普通のカッコイイ男子も見たいですけどね。
「どうもこんにちは。世界の千年王国、グレイランドからお送りしています、怪獣作家のアルトです。よろしくぅ!」
あるサイトに投稿された短い動画。どこにでもある廃墟をバックに映っているのは、白黒に分かれた仮面で顔を覆う謎の人物。
「最近のニュースでこのチャンネルが炎上しかけていることを知ったんですけど、これってすごいことじゃないですか? こんな
そう言って、アルトと名乗る人物は仮面ごとにこりと笑う。
そしてアルトは一度意識を切り替えるように姿勢を正した。
「それではいつも通り、本家の動画の話に入っていきましょう。今回の動画は、まあ皆さんもご存知かと思うのですが。災害識別番号614番。【
アルトがそう言うと、ある実在する景色の映像が流れ始めた。
◇ ◇ ◇
どこかの街並みを押しつぶすようにして巨大な怪物が歩いている。高さは実に50メートルを超える。調査委員会によれば身体のほとんどが水分だと予測されているが、全身がほぼ球体に近いことを考えるとその重さは数万トンにも及ぶだろう。この怪物――怪獣がグラジャム。ごつごつとした殻を背負っており、
この惨状はグラジャムの持つ
しかしここで地平線から巨大な影が伸びた。のっぺりとした影がそのまま立ち上がり、それを食い破るようにして漆黒の騎士が現れる。人に近い体形で、こちらも50メートル
向かい合う二体の怪獣。
グラジャムにとって、スタンレイは背の高さこそ同程度であっても体積では大きな差がある。本来警戒するほどの相手ではないはずだ。しかし、グラジャムはぴたりと静止して機を
一方のスタンレイは何を考えているのか、人に似た姿でありながらも表情は全く読めない。
やがてしびれを切らしたのかグラジャムが殻の中から伸びる触腕をスタンレイへと向け、その先端の
“
ガパリと開いた鋏から放出される高圧水流。ただの水とはいえ、グラジャムの体内で圧縮・合成された波は恐ろしい速度で空を
とはいえ、速さでスタンレイに対抗することは難しい。何といってもスタンレイは影なのだ。目で追いきれないほどの速度で移動したのか、砲撃をすり抜けるようにして回避していく。
――
スタンレイの手に巨大なハンマーが握られる。どこから現れたのか分からない質量物による、容赦のない振り下ろし。大地に穴をあけるには十分すぎるほどの威力がある。
これはグラジャムの背中へと命中し、その甲殻を大きく陥没させた。グラジャムの胴体から青い体液が流れ出す。
グラジャムは痛みを嫌がるように身を捩ると、殻の中から新たに触腕を伸ばした。その先端には
“
放出されたのは泡の弾丸。泡は大地に触れると反発し、スタンレイを追いかけていく。空間を埋め尽くすようにして泡が押し寄せ、その領域を急激に拡大する。直接触れたとしてどのような効果があるかはわからないが、スタンレイは一度後退して距離を取った。
泡の弾丸は周囲一帯を覆い隠していく。瓦礫の広がる地面に当たっても一切割れないので、グラジャムの姿は泡に隠れ見えなくなった。
それに対してスタンレイは、ハンマーを大地に叩きつけた。
――
叩きつけた部分から真っ黒な衝撃波のようなものが発生し、泡を切り裂いていく。しかし視線が通った先にグラジャムの姿はなかった。
さらに泡の中から、複数の水の砲撃が撃ち出される。スタンレイはこれを回避するが、水の砲撃は全く別々の方向から射出されていた。どういう原理なのか分からないが、泡に触れた水の砲撃は自在に向きを変えている。泡の包囲を完全に潰さなくては、スタンレイがグラジャムを倒すことは難しい。
そして辺りを見れば、街の被害はかなりひどい状況だった。
グラジャムに直接踏み潰された場所は勿論のこと、水流が直接当たっていない余波だけでも、怪獣よりはるかな小さな人間たちは吹き飛ばされ、押し流されていく。
スタンレイは直接目にしたものに強烈な痛みを覚えさせる。吐き気やめまいが起こり、眠りを妨げられるほど心身に異常をきたす者もいる。
怪獣同士の争いは、それが発生した土地にいつも大きな爪痕を残すのだ。
ここでスタンレイに大きな変化が起こる。影が複雑に
スタンレイはさらなる加速を見せる。
――
爆発。そうとも思えるほどの一瞬の攻撃。地を伝い急速に伸びた影がグラジャムを打ち抜いたのだ。泡の防御も関係なく、爆風によって全てが吹き飛ぶ。その影はまるで雷のようだった。グラジャムの姿が露わになると、甲殻はほとんどひび割れ内部が完全に露出していることが分かる。焼け爛れ、体内も融けかけていた。だがまだ息はあり、異音を上げながら食碗を暴れさせる。
次の瞬間、スタンレイはその懐に飛び込んでいた。
――
巨大な影のハンマーによる殴打。グラジャムの肉体は地表面を二キロほど高速で吹き飛び、そこで内側から爆発した。
爆発が晴れると、もうそこには何も残っていない。
スタンレイはそれを確認すると、影の中へ沈むようにして消えていった。
◇ ◇ ◇
「どうだったでしょうか。そこまで強くはなかったですね。まあ初撃決着とはならなかったので、カテゴリー6の中では強めかもしれませんが。……怪獣のカテゴリースケールって何で分けてるんですかね。被害規模? 元々は海から上がってきた怪獣ですから、そのあたり地上では調子が悪かったのかもしれませんねぇ。もし出てきたのが怪獣王だったら困りますけど。それにしても何あのおっきな巻貝。やる気あるんですかね。怪獣災害はほぼ全てが宇宙から飛来してきたものなので、海洋生物……生物? まあいいか。今回のようなタイプはいないはずなんですけど。そのあたりは研究者さんに考えてもらいましょう。もうすぐ3分。ラーメンタイマーが鳴ってしまうな。このあたりで失礼します。それではまた、怪獣が現れたときにお会いしましょう。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」
◇ ◇ ◇
「投稿っと。異常ないな? 音声ヨシ! 画面ヨシ! 身バレ対策ヨシ!」
アルトは投稿してから動画を確認していた。
「てか、仮面じゃまっ!」
顔に張り付いていた白黒の仮面をべりんと脱ぎ捨てる。
黒い瞳が露わになる。そこにはどこにでもいそうな特徴のない顔があった。
真っ黒な遮光カーテンが閉じられていて、殺風景な部屋の中。
アルトはPCデスクの前で黒い髪をくしゃりとなでつけてから、腕を組み上に伸ばしていた。年齢は二十代前半といったところだろうか?
「くぁあ……怪獣の撮影そのものより編集の方が疲れるわ」
肩をぐるりと回す。湯を入れたカップラーメンの蓋を最後まで剥がすと、四つ折りにしてゴミ箱へと叩き込んだ。小さく“いただきます”と言ってから割り箸を二つに割り、カップを軽く混ぜてから麺を啜る。画面を見ながらご飯を食べるのは行儀が悪いので真似をしないように。
アルトが他の動画を検索し、スクロールバーを進めていると、突然に赤い警告画面へと切り替わる。
「怪獣警報! またかよ、見に行くしかないな! 待ってろ被害」
アルトは窓をがらりと開け、靴を投げてから外へと飛び出した。
良い子のみんなは玄関から出入りしよう。
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怪獣作家アルト:顔は出していないが生身の配信者として有名な一人。動画を上げると不適切扱いで瞬時に通報されることが悩み。
動画サイト運営:通報を受けて動画を消そうとしても何故か消せないことが悩み。