配信者ものはいいですね。
「こんにちは、今日一日が平和に終わった実況者、怪獣作家のアルトです! 珍しいことに僕が怪獣を発見できなかったので、代わりに実況者らしいことをやっていきたいと思います! と言ってもこの動画は撮り溜めですがね。ばっかん」
白黒の仮面を身に着けた謎の存在は、いったいどこなのか分からない大きな岩の上でそう言った。
風景を映していた動画は、あるインターネットのサイトを映している場面へと切り替わる。
「『知恵者の森』! まあどう見てもランプの魔人なんですけど、怪獣専門のサイトらしいです。なんか……すごく……ニッチ。でもないか。最近は本当に増えてきていますからね。この国以外でも年に数件は怪獣災害が発生しているので、こういうサイトもあっていいと思います! 本当に知りたい怪獣がいるなら災害対策本部の公式ページから調べた方が速いですけど。開始」
かちり、とマウスを動かしてアルトが画面を進める。
「スタンレイについて調べてみましょう。載ってるかな。ないわけはないから、精度の問題だな。あっ、一応説明しておくと、このサイトは質問に答えていくとその情報を精査して、怪獣を特定してくれるというサイトです。問一。男ですか。知らない。怪獣に性別ってあるの? あるのもいるだろうけど。分からないと答えておきます」
スタンレイはかなり無機質だ。
「問二.髪の毛はありますか。ありません。髪の毛のある怪獣って……怖いんだけど。
明らかに体毛と別れていない限り、毛が生えていても髪の毛とは言わない。
「問三、緑色をしていますか。いいえ。スタンレイは黒だよね? 光の当たり方で薄くなったりするけど。でもハゲではない」
緑色のハゲとは? 誰もそんなことは聞いていないが。
「問四、カテゴリースケールは7以上ですか。はい。スタンレイのカテゴリースケールは7.7ですね。カテゴリースケールっていうのは怪獣災害の危険度の単位で、数字が大きければ大きいほど危険。大体数値が1上がるごとに強さの指標は3倍くらいになります。3倍になるのは破壊規模と耐久性と移動速度なんかです。強い」
なお、怪獣が大型化していくとその強さも危険度も跳ね上がる。50メートル級の怪獣ではカテゴリースケールの数値が6を下回ることはまずない。
「問五、属性は鋼? なんか知らない概念が出てきた。多分違う、というか絶対違う。強いて言うならまず影だけど、影属性とかあるのかな」
マイナーすぎる。
「問六、鱗が生えていますか。鱗はない。つるつるすべすべ。触ったことはないけど」
影は通常は
「問七、女王蜂ですか。もう特定しにかかってる。【女王蜂】はハニーフロストですね。違います」
ハニーフロストは大昔から存在している大怪獣の一体である。
「問八、人の言葉を話しますか。怖いな。話さないよ。そんな怪獣がいるの? いいえを選択」
高い知能を持つ怪獣なら仲間同士で複雑なコミュニケーションをとっているかもしれないけれど。
「問九、ダークカラーですか。そう。黒いね」
アルト自身も黒い色が好きだ。
「問十、仮面をつけていますか。僕だね。違う、スタンレイはいいえ」
仮面をつけたように見える怪獣がいるのかもしれない。
「問九、動画を投稿していますか。それも僕だね。なんなの? 怪獣なの?」
いない。
「問十、
そもそも怪獣なのかどうかも怪しいラインのものである。
「問十一、神出鬼没ですか。そうそうそう! いい質問ですねぇ!」
スタンレイは近年の確認される頻度が最も多い怪獣災害の一つだ。
「問十二、ハンマーを使いますか。そう! 勝ったな。他に知らんもん」
何を持って勝ったというのか。
「あなたが思い浮かべているのはNo.477【
参考までに、アルトが名前を出した他二体の怪獣災害についての情報を記しておく。
No.31【
カテゴリースケール:推定9以上
体高:48メートル
体重:130トン~
性質:北の大地で眠りについている。ハニーフロストが完全に目覚めたとき氷河期が訪れる。
備考:眠りが浅い。
No.--【
カテゴリースケール:なし
体高:50メートル
体重:1666トン
性質:666人分の魂を生贄に捧げることで稼働する機械生物兵器。経験を積み重ねることでシステムが進化していく。
備考:テレビゲーム“
これは本気。
「こうして、スタンレイは無事に特定することができました。……こいつ、魔人と違ってうれしそうな顔をしない」
森だから。
「僕は一つ気になったんですけど、仮面をつけていますか、とか。動画を投稿していますか、とか。あれって僕だよね。載っているのかな。ちょっとやってみたいと思います」
怪獣ではないが……?
「問一、空を飛べますか。あぁ~いい質問。怪獣ならね。飛べるか飛べないかって言ったらあれだけど、一般的には僕のそんなところ誰も知らないでしょ。分からないを選択」
怪獣には宇宙から来たものが多いが、それでいて空は飛べないものが多い。
「問二、海に関係してる? 空の次は海。キングギドラか? どうなんだろう。海には行ってるけど。普通に考えればないね。ナイナイ」
怪獣災害が最も発生しやすいところとは海である。
「問三、災害識別番号は400番以降ですか。番号聞くのはグレーゾーンじゃない? 分かっちゃうでしょ。僕はないけど。分からない」
災害識別番号は、その怪獣が確認された順に割り振られる。一つの番号で、同種の怪獣が多数確認されているものもる。怪獣の発見は古く、最古の怪獣は2万年前の地層から、怪獣災害と人との関わりが確認できる。識別番号制度ができたのは130年前。
「問四、植物のような心を持っていますか。何だよ、それは。違います」
アルトには、植物の心が分からない。
「問六、鳴き声を上げますか。喋るけど。どちらかと言えば……いや、普通に違う。次です」
怪獣の鳴き声というものは大半が威嚇行動である。
「問七、爆発しますか。しません」
スタンレイはする。
「問八、まだ存在していますか。なるほどね、そういうのもあるのか。存在しています」
怪獣の中には、数十年にわたり姿が確認されていないものもいる。
「問九、オルニス? 違う。名前を聞きにきてどうする」
とり。
「問十、戦いますか。戦いません。基本的に」
アルトは怪獣の争いを撮影しているだけの配信者だ。
「問十一、神出鬼没ですか。ここでくるのか。でも神出鬼没なのはスタンレイであって僕は……うーん。うん」
迷うまでもなく神出鬼没。
「問十二、マスターピース? 意味が分からない。いいえ」
マスターピースとはすぐれた作品のこと。
「問十三、四足歩行ですか。そんなことはめったにない。いいえ」
二足歩行の怪獣は少ないが、四足歩行の怪獣も少ない。大きな重量を支えるために脚部が増える傾向にある。
「問十四、怪獣の中で小さいですか。そりゃあそう。怪獣じゃないけど。はい」
怪獣の成体における平均的な体高は、50メートル前後である。
「問十五、白黒ですか。そうそう」
三面怪人……。
「問十六、仮面ですか。当たり! 来たな……」
仮面はアルトの大きな特徴だ。むしろそれが特徴的過ぎて他にイメージを抱き辛い。
「あなたが思い浮かべているのは“怪獣作家アルトの仮面”備考:呪いのアイテム……は?」
確かに仮面だった。
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