アルトは、怪獣が出現したところをずっと追い続けている。それは
アルトが怪獣を探す方法はいくつかあるのだが、その中でも衛星を使って探すという観点は間違っていない。アルトは、人とは違う“目”を持っているのだ。
◇ ◇ ◇
宇宙ステーション、星の最新技術が集められている場所で、唐突に怪獣が現れた。
「いったいなんだ!」
宇宙ステーションの乗組員が異常を確認すると、そこにいたのは四枚の翼の生えた虫のような怪物。
「なぜ今まで見つからなかった!」「分かりません! 電磁波探査をすり抜けています」
乗組員は混乱している。
この虫型の怪獣は現時点で全くの新種。電気を餌とする怪獣災害で、電磁波を吸収しすぐに放出することでほとんど真空のように振る舞っている。
本来は電気を餌とするだけで直接人的被害を起こすような怪獣災害ではないのだが、宇宙ステーションでは電力の低下は非常に危険だ。電気によって生命維持に関連するものを含む様々な装置が稼動しているのだから。
◇ ◇ ◇
「こんにちは、皆さん。本日も良い動画日和ですね」
ステーションの中に響く場違いな声。
白黒の仮面を身に着けた謎の人物が、いつの間にか立っていた。アルトは母国語以外にも三か国語程度は話せる。動画を作るために外国へ行く必要があるからだ。
「お前は何者だ」
当然のごとく警戒されている不審人物。怪獣作家である。
「ご存じない? 怪獣作家のアルトです」
乗組員の中には国際ニュースにも取り上げられたアルトを知っている者がいたが、それが宇宙空間の密室の中に現れたことの説明にはならない。
「怪獣作家? お前がこんなことを?」
「あー違います違います。作家って言っても動画を撮りに来ただけなので」
ふざけたアルトのテンションにいらだちを見せる者もいる。
「でも大丈夫だと思いますよ!」
アルトは、窓の外を指してそう言った。
「え?」
つられて窓の方を見る、宇宙ステーションのクルーたち。窓の外には、星空よりもなお暗い、影の巨人がそびえ立っていた。
「うわあ、なんだこいつ!」「見られている! ずっとだ!」「おお、神よ!」
いきなり彼らは叫び出した。
「あっ。普通の人が見ると発狂するんだっけ」
アルトはその惨状を見て間違えたことに気がつく。まあ僕は動画撮りに来ただけだから……と、そっとその場を撤退した。
◇ ◇ ◇
場面変わって宇宙ステーションの上。スタンレイが謎の怪獣にドロップキックをかましていた。スタンレイの体重はあってないようなものなので宇宙ステーションに乗っていても問題はないが、蹴り転がされた怪獣は威嚇して宇宙空間へと浮かぶ。ばりばりと電気の羽を広げていた。胴体も電気を吸収したことで大きく膨らんでいる。
アルトはいつの間にか宇宙ステーションの外にいて、ぷかぷかと浮かびながらカメラを構えていた。
災害同士の決戦が始まる。
“
怪獣の身体が一際強い輝きを放つ。全身から電撃が桜の枝のように放出される。生物の息の根を止めるには十分すぎるほどの雷。
これはスタンレイの身体にいくつもの穴を開け、強い閃光によってスタンレイの姿が一瞬薄くなった。しかしスタンレイにあるのは
しかし相手の怪獣は宇宙空間に浮いたままだ。スタンレイは空を飛ぶことができず、近づこうとするがそれはできない。スタンレイは近くの相手か、影が届く場所にしか攻撃できないのだ。
――
スタンレイの手に巨大なハンマーが握られる。そのままハンマーをどしりと構え、相手を見据えた。動いたのはそれから数秒後。怪物が動き始めるのを見逃さなかった。
“
――
ぶつかり合う雷と影。高電流・高電圧の雷がスタンレイをめがけて放出されたが、スタンレイの投げたハンマーが巨大な影へと変形したことで正面から受け止められる。その拮抗は数秒続いたけれど、影はそもそも光に弱く、大きく穴を開けて崩れる。
しかし今はそれで十分だった。スタンレイは影の中を自在に移動できる。役目を終えたハンマーの影、文字通りその影の中からから大きく飛び出したスタンレイ。その腕にはやはり巨大なハンマーが握られていた。
スタンレイの腕が振り抜かれる。巨大な影のハンマーによる殴打で、怪物の身体から鈍い音がしない。なぜならば宇宙空間だから。
アルトもその様子をじっと見ていたけれど、突然日の光が当たり、慌てたように動く。スタンレイがアルトを庇うように日の光を受けとめた。次の瞬間、そこにアルトの姿はなくなっていた。
……よし、変形していいぞ……
スタンレイの姿が奇妙に暴れる。全身からマフラーパイプのようなものが生え、そのシルエットは全体で見ると鳥のような姿に変形した。
――
スタンレイの背から黒い炎が発生し、急激に加速する。
“
電気の怪獣は大量の電撃を弾丸状に変形させて連射する。スタンレイにとっても回避不能な攻撃のはずだった。
――
命中したはずの弾丸が次々とすり抜ける。スタンレイは一直線に敵へと向かった。
――
スタンレイの影がさらに大きく膨らみ、怪獣を飲み込んで通り過ぎた。その際、エネルギーを根こそぎ奪い取っていく。エネルギーを吸い取られた虫のような怪獣は、明滅して数秒後に爆発した。
◇ ◇ ◇
ことが終わって、アルトは家で動画の編集をしていた。
「おっ、もう名前決まってるんだ。早いな」
怪獣災害対策本部にある新着情報に、宇宙ステーションでスタンレイと衝突した怪獣の情報が掲載されていた。
No.620【
カテゴリースケール:推定6以上
体高:~50メートル
体重:???
性質:白鳥座方向の宇宙から飛来。電気エネルギーに吸い寄せられる。
備考:潜伏能力が高く今後も警戒が必要。
「分からないことが多いな。仕方ないか」