東方を無理矢理FGOっぽくしてみた   作:Gasshow

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隠れ村

「……西暦千六百年のヨーロッパ? 今から四百年前!?」

 

立香は驚きのあまり、思わずレミリアの言葉を復唱してしまった。目を見開き、大口を開け、顔全体の表情筋を引き伸ばす様は、何とも言えない間抜け(ずら)となっていた。

 

「何を驚く必要があるの? これはタイムスリップではない。聖杯による過去の再現よ。なら今から四百年前のヨーロッパに私たちがいたところで驚くことなんてないでしょうに」

 

レミリアが呆れたように言う。

 

「いや、俺が驚いているのはそこじゃなくて」

 

「ん?」

 

「レミリアが懐かしいって言ってたから」

 

それを聞いたレミリアは納得がいったと言わんばかりに頭を縦に軽く唸った。

 

「ああ、そう言うこと」

 

レミリアはそう言えば言っていなかったわね、と言いながら薪を挟んだ立香の対面に座り直した。

 

「貴方、私を見た目のままで判断し過ぎよ。私はこれでも五百歳。吸血鬼なのだから見た目通りのままな訳がないでしょう?」

 

「ッ!」

 

立香は驚きのあまり咄嗟(とっさ)に声が出ず、言葉にならない何とも詰まったような音が口から漏れた。

 

「……ホントに?」

 

立香はいぶかしみの目線をレミリアへとぶつける。

 

「私がここで嘘をついてどうするのよ」

 

レミリアは「はぁ」と小さく溜め息をついた。そんな時だった。遠くから森の木々や、草花を突き抜けどこからか狼の遠吠えが聞こえてきた。それによりハッと意識が本来あったであろう話の原点へと巻き戻される。いつの間にか話題が()れてしまっていた。これ以上話が逸れる前に、これは話題を元に戻した方がいいかなと立香がそう思い始めた時、レミリアから思わぬ提案が飛んできた。

 

「…………もう少し情報の整理をしたかったけれど、もう夜も深い。寝ることにしましょうか」

 

それは遠吠えが鳴り止んだ直後の言葉だった。

 

「整理はついたの?」

 

「まあなんとなくと言ったところかしら。完全ではないけれど、私の考えも貴方に伝わったでしょうし、まあ切り上げてしまってもいいでしょう」

 

その言葉でこのやり取りは自分に情報を渡すための行いだったことに立香は気づく。レミリアのことだから自分のことなどあまり気にしていないと思っていたが、実はそうではないのかもしれない。いや、ただ単に情報を共有している人物の多い方がこれから何かがあった時に便利なのだろう。立香はそう結論付け、頷く形でレミリアの提案を受け入れた。

立香の了承を受け取ったレミリアは、ふと手のひらを薪にかざしだした。するとオレンジ色に燃え盛っていた薪の炎が段々と小さくなっていき、(しま)いには完全に消え、そして暗闇が訪れた。

 

「本来なら私は夜行性なのだけれど、ここはマスターの貴方に合わせてあげる。私の魔力タンクである貴方はしっかりと休みなさい」

 

レミリアはそう言い終えた後、ゆっくりと身体を傾け、地面へと横になる。

 

「でも明日、疲れて動けないなんて言ったら死ぬまで血を吸ってやるわ」

 

そしてその言葉を最後に彼女は目を閉じた。立香はそれを聞き、柔らかく微笑んだ後に彼女と同じようにして横になった。

 

「おやすみレミリア」

 

立香はそう言い、視界を完全に閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。自分が到底見ないであろう夢。記憶にも、知識にも自分の中にはその片鱗すら在った試しはない。なのに何故か自分はそこにいた。自分がいるのは部屋だった。その部屋は紅かった。壁も床も、無駄に広いベッドでさえ紅に染まっていた。今は夜なのだろうか? カーテンは閉じられ、部屋の隅に立っている蝋燭(ろうそく)の灯りだけが視界を鮮明に明るく照らす唯一のもの。自分はそんな部屋の真ん中に座り込んでいた。何もすることはなく、ただそこにいるだけ。

そんな自分にふと後ろから声がかけられた。ただ一言、幼さをふんだんに盛り込んだ可愛らしい声。何と言っていたかは分からないがそれが自分の名を呼ぶ声だと言うことは何となく分かった。だから振り替えった。首だけではなく、足をずらして全身を後ろへと反転させた。その瞬間、身体に大きな衝撃が走る。何かが自分に向かって突っ込んでしたのだ。視線を下へと向ける。そこには少女がいた。金髪の髪を持ち、羽の生えた少女。しかしその羽が独特で、それは羽軸(うじく)だけが剥き出しになっており、そしてそこから宝石のようなものを垂らした飛べるのかどうかさえ怪しい羽だった。そんな少女はしばらく自身の体に顔を(うず)め、ふと金髪の少女が顔を上げた。そこには満面の笑顔が華々しく咲いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──し……」

 

意識がまだ身体の奥底でくすぶる中、誰かの声でそれが浮上する。

 

「──がし……」

 

靄が掛かっていた声が段々と晴れて鮮明になっていく。

 

「──ふ──がし」

 

輪軸が(あらわ)になり、隠れていた言葉がこっそりと顔を出す。それと同時に身体を揺すられる衝撃で目が覚めた。

 

「ふ菓子、起きなさい」

 

立香が(まぶた)を開けると、そこには幼くも恐怖さえ覚える程に整った少女の顔が目に飛び込んできた。僅か一瞬、誰だ? とそんな考えが彼の頭を過るが、すぐに昨日の出来事を思い出し、その少女の名前を呼ぶ。

 

「……レミリア?」

 

立香がその名を呼ぶと、彼はふと口に柔らかな感触が伝わるのを感じた。目を向ければ、そこには手で唇を覆うように自身の口を塞ぐレミリアの姿があった。

 

「静かに」

 

そう言われ立香は状況が把握しきれない中、言われるがままに呼吸を浅くし、そっと上半身を起こした。その様子を見たレミリアは立香の口に当てていた手をどけ、ある一点を視線で指し示した。そちらを見ろと言われているのだとるのだと察した立香は恐る恐るその方向へと視線を動かす。

 

「ほ、骨!?」

 

そこには列を成して彼らを横切るように進む骸骨たちの群れがあった。骨たちが二足歩行で歩き、行進していると言う異常な事態に立香は驚きの声を上げる。

 

「スケルトンよ。騒ぐ程でもないわ。所詮(しょせん)は下級の魔族。力を落としていると言っても私の敵ではない。問題はスケルトンたちが統率(とうそつ)をとって一斉にどこかへ向かっていると言う点」

 

「何かしら目的を持って行動しているってこと?」

 

「ええそうよ。もしかしたら何か聖杯に関する情報を得られるかもしれないわ。ふ菓子、後をつけましょう」

 

骸骨たちを見たお陰が、すでに寝起きの気だるさはない。立香は頷いてそっと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香とレミリアが骸骨たちの後ろを着けて始めて十分程たった頃、まるで森をくり貫いたような(ひら)けた場所が見えてきた。そこには遠目からでもハッキリと分かる木製の家屋(かおく)や、煉瓦でできた井戸などが見えた。外を箒で掃いている若い女性や、歓声ともとれるはしゃぎ声を上げながら遊ぶ子供たちの姿が見えた。

 

「ここは……村?」

 

立香は言う。

 

「……のようね」

 

レミリアも素直に同調した。だがその瞬間、まるで豆電球が点るように、一つの不穏な推測が立香の頭に過った。

 

「まさか!」

 

すると立香の叫びを合図としたかのように一斉にスケルトンたちが村を襲い始めた。甲高い悲鳴と泣き声が一斉にして鼓膜へと到達する。

 

「レミリア!」

 

立香はそう反射的に叫んでいた。レミリアはやれやれと言いた気な表情で首を左右へ振り、手に紅い槍を出現させる。

 

「仕方がないわね。あまり気は進まないけれど、ここで村人が全滅してしまっては、せっかく見つけた情報源を失ってしてまうわ」

 

レミリアはそう言って立香を見上げた。

 

「ふ菓子、貴方は混乱している村人を誘導させなさい。スケルトンの駆除は私がやっといてあげるわ」

 

「分かった」

 

立香の返事を聞くとレミリアは風のように去ってスケルトンの一段に突っ込んでいった。立香も遅れないように村の中へと足を踏み入れる。

村へ入った立香は辺りを見渡す。もう既に何人かが犠牲となってしまっているようで、血を流して倒れている男や、下半身と上半身が離ればなれになってしまっている小さな子供がちらほらと見えた。急いで安全な所に逃げないと! 立香の胸にそんな心境がいそいそと沸き上がってくる。

 

「皆さん! こちらに来て下さい! 話を聞いてください!」

 

立香はその感情をそのままに大声で周囲にそう呼び掛けた。しかし混乱と悲鳴により立香の声は届かない。

 

「くそっ!」

 

そう悪態はつくものの、立香は避難を呼び掛ける声を止めない。そして立香が酸素不足でくらりと頭が揺れそうになった時、彼の叫びが届いた。

 

「お主は?」

 

立香に声をかけたのは細めが印象的な初老の男性だった。うっすらと白みがかった髭と布でできた簡素な簡素な帽子を被っている男性。

 

「自分は通りすがりの者です! この村がスケルトンに襲われているのを発見したので助けに入ろうと。今、自分の仲間が戦っているので、スケルトンは直に駆除されます! それまで逃げ切れればいいのでどうか村人たちの誘導を!」

 

初老の男はそれを聞いて立香からそっと視線を反らし、レミリアの戦っている方へと目を向けた。

 

「…………吸血鬼か」

 

「えっ!? はい! 仲間は吸血鬼です」

 

立香がそう答えると初老の男は一瞬、何かを考える素振りを見せたが、次の瞬間にはギラリとした細目で(にら)むように立香に問いかける。

 

「……信じていいんだな?」

 

「ッ、はい!」

 

立香は間髪入れずに答える。その言葉に初老の男は微笑んだ後にこくりと頷いた。

 

「少年は子供たちを頼む。わしは大人を集めよう。恐らく顔の知らぬ者にあいつらは従わんからな」

 

「分かりました!」

 

立香は言葉を産み落とすようにしてその場を立ち去り、村の中心へと走っていく。

 

「頼んだぞ!」

 

後ろからかけられた熱い感情の乗った言葉。立香は前を向き走ったまま、右手を空へと高く掲げそれに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香は走る。走りながらも周囲を見渡し、子供の姿を探す。立香を追いかけてくるスケルトンもいるが。幸いスケルトンたちの移動速度は思っていたよりも遅く、青年である立香の走る速度であれば充分引き離すことができた。そしてそうすることしばらく、ふと立香の耳に幼い泣き声が潜り込んできた。立香は急いで足先の向ける方向を変え、その声の中心点へと向けて駆け出した。声の場所は木製の家屋、その裏側の影になっている所から発せられていた。立香が角を曲がった先、そこには幼い少女がいた。少女は血を流し、倒れ伏した男女の亡骸にすがり付きわんわんと声を上げて泣いていた。恐らくこれは少女の両親だろう。立香は痛む心を抑え、少女へと声をかけた。

 

「お嬢ちゃん、ここは危険だから早く行こう!」

 

立香の声に少女はそっと顔を上げ振り向く。

 

「……お兄ちゃんだぁれ?」

 

少女の顔は涙と両親の血でぐちゃぐちゃになっていた。透明な筈の涙が紅い鮮血で強い彩りを含んでいた。この場に不相応なことではあるが、立香はそれを何故か美しいと感じた。何がどうなってそう感じるのかは分からないが、それがとても尊く、同時に心臓を貫くような鮮やかさと痛みを象徴させるように感じたのだ。

 

「……助けに来たんだ。皆のいるところがあるから、一緒にそこへ行こう」

 

立香は複雑な心境をその言葉で押し留めてそう口にした。

 

「でも、お母さんとお父さんが……」

 

少女は視線を動かない両親へと向け、困惑を露にした。それを見た立香の顔が歪む。そしてそこで気がついた。先ほどまではこの状況と使命感で全くそんなことを感じる暇がなかったが……。

 

ああそうだ……。

 

そう言えば──

 

 

 

 

 

 

 

 

人の“死”を直接見たのは初めてだ。

 

立香はいつの間にか少女を抱き締めていた。それは少女を落ち着かせるためか、はたまた自分の心を冷静に保つためか。その心境を判断する余裕すら今の立香には無かった。

 

「……大丈夫だから」

 

言い聞かせる。誰に? 少女に? 自分に? そんな思考がぐるぐると彼の脳を巡り、止めどなく混合色が彼の思考を侵食した。

 

しかし、今はそんなことをしている場合ではないと、立香はその循環を力任せに断ち切り、自身の身体と共に少女を起き上がらせた。そして走る、少女を連れてひたすらに逃げるために走る。危険から、感情から、困惑から、思考から。全てを置き去りにするため立香は走った。だがそれはある簡単なことで止められてしまう。

 

「くっ! こんな所に!」

 

ふと立香の目の前にスケルトンが飛び出してきた。それが持つ()びにより(にぶ)く光った刀身が立香の心拍数を更に上昇させた。少女を連れて走っても逃げられないと察した立香は足元に転がっていたピッチフォーク(長い柄と長く広がった三本の歯がある槍のような農具)を拾い、それを構えた。

 

「はあ!」

 

スケルトンが攻撃を仕掛ける前に何とか隙を作ろうと、立香はピッチフォークを横へ()ぎ払うように振るった。しかしスケルトンはビクともせず、お返しとばかりに立香へと刀剣を縦へと振るう。立香は身体を横へと反らし、何とかそれを避け、今度はピッチフォークをスケルトンな腹部へと突き刺した。すると三本ある内の真ん中の歯が見事に背骨へと命中した。だがその瞬間、甲高い音と共にピッチフォークの歯がへし折られ、残骸が宙へと舞った。

 

「固っ!」

 

立香は思わずそう叫ぶ。そう、彼は失念していたのだ。それは彼のサーヴァントであるレミリアがあまりにも呆気なくスケルトンを(ほふ)っていたからか、それとも事前にスケルトンが下級の魔族と言う情報を得ていたからか。いや、立香は知らなかったのだ。たとえ下級であろうとも魔族である以上、それは藤丸立香(ただの人間)にとってとてつもない脅威に成り得るのだと言うことに。

 

ふと立香の頬にそっと冷や汗が垂れる。今更ながらにこの状況が自分手に負えない事態だと気づく。スケルトンがじりじりと間合いを積めてくる中、立香の後ろにいる子供が彼の袖をぎゅっと握りしめてきた。いよいよ後がない。この状況を打破する選択はないかと立香は懸命に頭を回し、可能性を模索しては捨て、模索しては捨てと自分たちが生き残る方法を探そうとする。そして、もうこうなれば子供だけでも逃がそうと。立香がその決断を実行しようとした時──

 

 

 

 

 

 

 

スケルトンの真横から深紅の光弾が飛来し、スケルトンにぶつかるや否や轟音を撒き散らし()ぜた。その音と衝撃で立香は思わず目をつむる。そして目を開けて見れば、彼の足下にはバラバラに砕け散ったスケルトンの破片が転がっていた。

 

「何してるのよ。 早く行きなさい」

 

その声で立香は状況を理解した。どうやらレミリアがスケルトンを駆除してくれたらしい。

 

「ありがとう、レミリア!」

 

立香はレミリアへと礼を言い、彼の後ろに控えていた子供の手を取って先へと急ぐ。もう彼らの逃走を邪魔する者のなど何もなく、二人は村の外へとただ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからも立香は村の子供たちを探し出しては安全な場所へと運び、探しては運びを繰り返した。終盤にはレミリアによって大半のスケルトンが駆逐されていたので、始めのような命を危険にさらすことも無くなっていた。そして今はスケルトンの全滅により安全を取り戻した村、その中央にある家屋で、あの初老の男と机を挟んで対面していた。どうやら初老の男はこの村の長だったようで、話し合いの席を設けた今、彼が立香たちと同じ席に着くのは当然の話だと言える。

 

「この度は村の危機を救っていただいて感謝の言葉もない。お主らがいなかったら今頃、村人のほとんどは帰らぬ者となっておった」

 

村長は座ったまま、机に頭をつけるまで腰を折り、礼を言う。

 

「いえ、当然のことをしたまでです。流石に見殺しなんてことはできませんから」

 

立香は慌てたように手を振り、謙虚に返事を返す。そのやり取りを眺めていたレミリアは彼らの応酬に板を挟み見込むようなタイミングで口を開いた。

 

「……前置きはいいわ。私たちは貴方に聞きたいことがあるの。村を救ったのだからそれぐらいの報酬はあって(しか)るべきよね」

 

村長は立香の隣に座るレミリアへと意識を傾ける。

 

「ええ、なんなりと。私の知っていることであれば全て答えよう」

 

村長のその言葉を切っ掛けにレミリアは質問を開始した。

 

「まず一つ。この世界で何が起こっているのかを聞きたいの。私と彼は遠くからここへ来たからこの土地がどう言った場所なのか欠片も知らない。ここでは村がスケルトンに襲われる何て事態が簡単に起こる場所なのかしら?」

 

「いえ、そうではない。いや、正確に言えば一年前まではそうでなかったと言った方がいい」

 

「一年前までは?」

 

村長は頷く。

 

「ああ。約一年前、ここから西にある大きな渓谷の奥に、巨大で()()な色合いを持つ一邸(いってい)の館が現れたのだ」

 

村長がその言葉を口にした瞬間、レミリアの肩がピクリと跳ねた。

 

「レミリア?」

 

レミリアにしては珍しい反応に立香は思わず彼女の名を呼んだ。

 

「…………何でもないわ。続けて頂戴」

 

村長は話を続けた。

 

「突然現れたその館はどうやら一匹の吸血鬼によって支配されているようで、そいつは現れるや否や数多くの配下を従えてこの周辺の土地を襲い、支配していった」

 

村長の表情は段々と苦々しい表情になっていき、心なしか彼の手も力が入っているような気がした。

 

「奴らは村を踏み倒し、町を支配し、国を滅ぼした。僅か一年と言う期間でだ」

 

「たった一年……」

 

僅かその期間で数々の村や町、挙げ句の果てに国まで滅ぼした。立香はその村長が口にした事実を信じられないとばかりに呆然として聞くしかなかった。

 

「今や奴らはこの土地の王そのもの。実質的な支配者。幸いこの村は森に隠れていたが故に今日(こんにち)まで襲われることはなかったが、どうやらそれも今日で終わりらしい」

 

村長が語りが終わる。しんと部屋に静寂が訪れた。しばらくその状態が続き、そしてふと今までひたすらに黙って村長の話を聞いていたレミリアがふと突然口を開いた。

 

「……館を支配者している吸血鬼の名は分かるかしら?」

 

村長は首を振る。

 

「名前は分からん。……がそいつはこう呼ばれておる。『スカーレット・デビル』と」

 

『スカーレット・デビル』──紅い悪魔。

それだけの情報では相手がどんな存在なのか立香には検討もつかないが、しかしその名にピッタリ当てはまる人物なら彼は思い浮かべることができた。

 

「……何見てるのよ?」

 

立香がじっとレミリアを凝視していたからだろう、当の本人からそんなことを彼は言われた。

 

「ご、ごめん。何でもない」

 

その返しにレミリアは訝しげな様子で立香を見返したが、ふと興味を失ったように彼から視線を離した後、席を立った。

 

「よく分かったわ。その館はここから西に行けば見つけることができるのよね?」

 

「……まさか、行くつもりか?」

 

村長の目がそっと細まる。

 

「さあ? それは分からないわ。でも面白そうではあるから、暇があったら行ってみようかしら」

 

「止めておけ。いくらお主が同じ吸血鬼だからと言っても相手は国を滅ぼした化け物の集団。一人でどうにかなるものではない」

 

しかしレミリアはその忠告を無視するように部屋の外へと通じる扉へと歩きだした。

 

「ご忠告感謝するわ」

 

「ああ、忠告はしたぞ」

 

立香がレミリアの後を追おうと立ち上がった時、思い出したように村長が口を開いた。

 

「それは別として旅人たちよ。村を救ってくれたお礼だ。今晩は泊まっていかれよ。疲れているのはわしの目からも明らかだ」

 

「ええ、ご好意にあずかるわ」

 

「この家を出てすぐ右に建つ家を使われよ。もう住んでいる者は誰もいない」

 

立香は察した。住んでいるものはいない。いや、恐らく住んでいるものがいなくなってしまったのだ。それもつい先程。

 

「……では村長、ありがとうございました」

 

立香は立ち上がり、一つ頭を下げる。

 

「いや、こちらこそ重ねて礼を言う。今、村人たちの命があるのはお主らのお陰だ。また何か聞きたいことがあればいつでも来てくれて構わん」

 

そう言った村長の顔は立香が今まで見てきたどんな人物よりも複雑な表情をしており、そして堂々としているはずなのにどこか儚げなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立香とレミリアは村長の自宅を出て、言われた通り右手に見える小さな家へと向かった。それは遠目から見てもそこまで大きくないことがハッキリと分かる大きさの家だった。小屋とまではいかなくとも、それに近いサイズで、恐らくこの家に住んでいた人物は独り暮らしなのだろうと容易に想像できる程だ。立香とレミリアはそんな家の扉を開け、中へと入る。やはりと言うべきか、内装も特別なものは何もなく、玄関から左右に別れる二部屋の構造。置いてあるものと言えば、一つの机に二つの椅子。そして精々食器や家裁道具のしまってある棚くらいであった。しかし机の上には皿に乗っている食べかけのパンが置いてあり、生活感のまだ残っているこの光景を目にし、立香は痛々しげに顔を歪ませた。

 

「ふ菓子……明日は西へ向かうわ。今日は身体を休めて準備しておきなさい」

 

二人が家へと入ってすぐ、レミリアは家の内装を見渡しながら立香にそう言い放った。

 

「西って……やっぱり行くつもり?」

 

「ええ、聞いたでしょ? 紅い館について」

 

立香はこくりと頷く。

 

「あれば恐らく聖杯の起動と共に消えた私の館──紅魔館よ。それに『スカーレット・デビル』と言うのも幻想郷で使われている私の呼び名の内の一つ」

 

「じゃあ……」

 

「ええ、何者かが私の名を名乗って私の紅魔館(所有物)を我が物顔で使っている可能性がある」

 

レミリアは言いながら家の奥へと進んでいき、部屋の隅にあったロッキングチェアへ腰を落ち着けた。

 

「それだから取り戻す。とても単純で、正当性に富んだ答えでしょ? それに恐らくだけど、聖杯は紅魔館にある」

 

それは立香も予感していたことだった。この世界に突然現れたと言う時点でその考えが自然と浮かんでいたのだ。しかし館へ向かうとなると一つ、懸念すべき問題が浮上する。それは今現在、二人にとって最も身近な問題だった。

 

「でもレミリア、まだ力が戻ってないんじゃないの?」

 

そう、それは立香とレミリアが契約を交わすこととなった根元足る理由。今のレミリアでもスケルトン程度を相手するには訳ないが、しかしこれから彼らが向かおうとしているのは国や町を滅ぼした魔族たちの根城だ。まだ全力ならまだしも、弱体化した彼女では厳しいことは目に見えていた。しかし、レミリアは態度を崩さない。ただ堂々として立香の言葉を聞いていた。

 

「関係ないわ。幸い貴方と言うおやつがいたから、力の回復も思ったより早い。明日になればもっと万全の状態に近づいているはずよ」

 

「だけど……」

 

立香は口ごもる。

 

「いいから黙ってなさい。貴方はただ私の決めたことに従っていればいい。立場を(わけま)えなさい」

 

レミリアにここまで言われれば立香は何も言い返せない。彼自身、レミリアの性格上ここで食い下がってたとしても、彼女の意見が変わらないことは何となく察っしていた。

何よりもレミリアは焦っているように見えた。苛立っているように見えた。それは当然だろうと立香は思案する。自分の大切な物を取られているのだ。彼女に待ってと言うことなどできるはずもない。

だからもう黙ってこの家の片付けでも始めようと立香が机の上にある皿を持ち上げた時、ふとレミリアから声がかかった。

 

「ふ菓子、何か飲み物はないかしら? あったら淹れて欲しいのだけれど」

 

何故だろうか? 立香はその何の変哲もない命令に思わずふふっと笑みを溢してしまった。

いや、奥底では分かっていた。先程までの争い、血肉、悲鳴。それらが急に離れ、やっと自分の知る“安寧(あんねい)”が訪れ、戻ってきた。それを自覚して自分は笑ったのだと。

そしていつの間にかこの我が儘で自分勝手な吸血鬼の命令に安らぎを感じていることに再び笑が込み上げてきた。

 

「何を突然笑っているのよ。何か面白いことでもあった?」

 

レミリアは立香へと不審なものを見るような目付きを送る。

 

「いや、ただ人間って不思議なものだと思ってさ」

 

立香のその返答を聞き、レミリアはこくりと不思議そうに首を小さく横へと傾ける。またその仕草が見た目相応の少女のようで、またうっすらと立香は微笑んだのだった。




《今作における吸血鬼(真祖)の定義》
Fateの世界には“吸血種”と“吸血鬼”は別のものと分類されています。血を吸う者を“吸血種”と呼び、その分類の中に“吸血鬼”と言う種族がいます。更に吸血鬼は“真祖”と“死徒”に別れており、“真祖”は生まれながらの吸血鬼、先天性の吸血鬼であるとされています。そして“死徒”は真祖、または他の死徒に吸血されたことで吸血鬼化した者のことを指します。
さて、ここからが本題です。それは『本作でレミリアがどう言った立ち位置なのか?』と言うことです。Fateでは現在“真祖”と呼ばれる立ち位置にいる吸血鬼は一人だけです(にわかなので定かではない)。そもそもFateの真祖とは人間に対して直接的な自衛手段を持たない星が、人間を律するために生み出した「自然との調停者」「星の触覚」と言った存在なのです。そうすると怪異としてのレミリアはこれには当てはまりません。ではレミリアは“真祖”ではないのか? と言ったことですが、今作ではFateとは全く違った世界と定義していますので、ここでの“真祖”はただ単純に『生まれながらの吸血鬼』と言う言葉通りの意味で捉えることとします。なので『レミリア・スカーレットは真祖の吸血鬼』と言うことにしておいて下さい。



・以下小ネタ

レミリア「ふ菓子、お茶」

立香「はいはい」

レミリア「ふ菓子、そこの本取って」

立香「はいはい」

レミリア「お母さん、夕飯まだ?」

立香「もうすぐよ」

レミリア(まさかボケを被せてくるとは……)
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