あれから結局、立香一人がこの膨大な本を片付けることになり、パチュリーはその指示を、レミリアはそれらを眺めることにより、この“パチュリーの部屋散らかりすぎ事件”は一応の決着となった。その結果、疲れ果てた立香は大きく息を吐きながら椅子へと落下するようにして座る。そこでタイミングを見計らったかのように、立香の目の前に紅茶の淹れられた一つのティーカップが置かれる。それを差し出したのは誰でもない、この部屋の持ち主パチュリーだった。
「私、片付けはからっきしにできないからどうしようかと思っていたけれど、貴方が来てくれて助かったわ」
パチュリーはそのまま自分とレミリアの前にもティーカップを置き、そして座った。
「これからは散らかさないように頼むよ」
「…………努力はするわ」
パチュリーの歯切れが悪いコメントに、立香は惨劇の再来を予感し、頬を引きつらせた。
「ご苦労様、駄菓子。これで話が始められるわね」
レミリアはパチュリーの置いたティーカップを持ち上げ、口元で傾ける。その紅茶を淹れたのはパチュリーであるし、部屋を片付けたのは立香。レミリアは本当にここまで来るのに何一つ働かなかった。戦闘の時とは表裏一転、本当にこう言った雑務は自分でしないなぁ、と思いつつも、それを受け入れている辺り、かなりこのレミリア・スカーレットと言う我が儘なお姫様に毒されているのかもしれない。などと立香はこの短い間で彼女の存在に順応した自分に思わず笑いが込み上げてくる。
「それで、何から話しましょうか? レミィ」
やっと話題が進むようになり、その口火を切ったのはパチュリーだった。
「先ずはこの世界について、貴方の考察を述べてちょうだい。そしてそこから分かる、犯人とその目的も。まあ紅魔館にいた貴方にとって、犯人は考察でなく事実を述べてくれればいいのだけれどね」
そう言えばそうだったなと立香は思い出す。しばらくの間、紅魔館に滞在していたパチュリーは、犯人を直接見ているに違いないのだ。だから今まで分からなかった聖杯の所有者が誰なのか。パチュリーはそれを確実に知っていることになる。
「そうね、ではまず私が思うこの世界の構造から話しましょう。前提をもう一度だけ言わせてもらうけど、この世界は誰かが聖杯に願うことによって創られた世界。少しものは違うけれど、虚数空間と言っても指し違いないわ。私たちがいるのは聖杯そのものの中にあるその場所に取り込まれたのよ」
これはレミリアが考えていたものと大体同じだった。
「では何を思ってこの世界が生まれたのか。そして生み出したのは何が目的かと言う話になるけれど、まずこの世界を生み出した人物は明確な土地を再現しないで“中世のヨーロッパ”と言うあやふやなイメージをこのモデルとした。それは果たしてわざとそうしなかったのか、それとも再現できる程の体験をしたことがなかったのか。答えとしては後者よ」
パチュリーは迷うことなくそう断言した。
「まず前者だったのならそれはきっと自分が聖杯を使った人物だと悟らせないために、中世を自身の知識だけで作り、当時の中世を知っている紅魔館の住人を犯人に仕立てあげたいと言う狙いが考えられるわ。でもそうしてしまえば逆説的に私たちが犯人ではないと大袈裟にばらしてしまうことにもなるのよ。だって私たちだったら、無意識にでもこんな大袈裟な世界を創ることはできない。絶対にどこかは自分の知っている土地を再現してしまうわ。だからもうその瞬間、私たちが犯人ではなくなってしまう。結局は意味の無い行為になってしまうのよ」
「聖杯保有者がそこまで思い当たらなかったって言う可能性は?」
立香は尋ねる。
「確かにそれはあるかもしれない。でも本来、この聖杯は紅魔館の一番厳重に閉ざされた地下室にあったのよ。空間固定の魔法まで使っていたから、その場所に転移することもできない。貴方は誰だか分からないでしょうけど、隙間妖怪にだってそうそうあの部屋に侵入することはできないわ。それを私たちに悟らせず、こんな事件を起こすなんて、そこまで頭の回らない人物だとは到底考えずらいわ」
なるほど、と立香は納得する。確かにこんな世界を創ることも可能な願望機をレミリアたちがそう簡単に近づける場所に保管するはずはない。それなのにパチュリーたちは犯人の影すら見ることなくこの世界に取り込まれたのだ。余程、計画を練らないとそんな芸当を実行し、現実とさせるのは不可能だろう。それができる人物が賢くないはずはないのだ。
「それでは後者だった場合、当時のヨーロッパをあまり知らずに、犯人は何故かこの世界を創ったことになる。目的はまだハッキリと分からないけれど、それでも聖杯保有者が中世のヨーロッパに何かしらの思い入れがあるのは間違いない。だって聖杯に願ってまで創った世界なんですもの。そうなると思い当たる節が一つ現れる」
パチュリーは顔だけを正面のレミリアへと向き直した。
「レミィ、貴方も薄々は気づいていたでしょう?」
レミリアはそれに何の飯能も見せずにただ黙ってパチュリーを見つめるだけ。ただ横からみたその瞳に僅かな揺らぎがあったことを立香は見逃さなかった。
「そう、この世界を創りだしたのはフランドール・スカーレット。レミリア・スカーレット、貴方の妹よ」
聖杯保有者の名前が明らかになったタイミングで、レミリアが「パチェと二人だけで話がしたい」と言ったことで、立香は部屋の外へと出ることとなった。そんな彼が今いるのは、城の二階にある小さな個室だった。そこに置いてあるのは部屋の隅にあるベッドと、四角い小柄な机、あと二つの椅子だけ。そして控えめな窓が一つ壁に張り付けてある、そんな質素をそのまま形にした部屋だった。パチュリーが「ここらにある部屋は自由に使っていい」と言っていたので、立香は多くある個室から一つを選び、ここを選んだのだ。そして彼はそこにあるベッドで寝転がっていた。
そんな立香が頭に巡らせていたのは、先程パチュリーが口にした名前──フランドール・スカーレットについてだった。立香はレミリアから妹がいると言う話を聞かされていなかったので、それに驚くと同時に、なぜレミリアの妹がこんな事件を引き起こしたのか疑問に思っていた。しかし幾ら考えても紅魔館の住人でもなく、ましてや数分前までフランドール・スカーレットの存在を全く知らなかった立香にその答えを見つけることはできなかった。
ごく平凡で、平和的な家庭に生まれた立香には、身内に牙を向けられる体験をしたことがなかった。しかしそれが余程のことなのは理解できる。それはあの時、レミリアが浮かべた儚く揺れる瞳からも明らかだった。立香はあの不安定に揺れ動く瞳が頭から離れないでいた。蝋燭のかがり火を連想させるあの瞳。それが立香の脳裏を焼き、黒い刻印を刻み付ける。しっかりと前を見ている筈なのに、息を吹けば消えてしまいそうな彼女の瞳を思い出す度、立香の胸は酷くざわめくのだ。
そのせいか、疲れているはずなのに立香は眠りにつくことができなかった。ただぼうっと天井を見つめ、無作為に時間を過ごすだけ。次第に思考も働かなくなり、今では置物の人形と変わらないものになってしまった。
そんな時だった。こんこんと部屋の扉が叩かれる音が鳴ったのは。
「駄菓子、いるの?」
その音が鳴り止んだそのすぐ後に、扉をすり抜けるような柔らかい高音が室内へと侵入した。
「レミリア?」
聞き覚えのある声に立香が返答すると、ドアノブが慎ましげに回され、扉が静かに開いていく。やがて扉が半分ほど開けられ、その先には立香が名前を呼んだ通り、レミリアが立っていた。
「ここにいたのね。部屋が多かったからどこにいるか探したわよ」
「ごめん、別れる前に言っておくべきだったよ」
立香はベッドの上で上半身を起き上がらせ、ベッドの縁に腰かける。決して新しくないベッドから木の軋む音が鳴った。
レミリアは開けていた扉を優しく閉め、部屋へと入る。それから彼女は迷う素振りすらも見せず、立香の隣に座った。
部屋にある椅子を譲るつもりでベッドに腰かけたのに、自分の隣に座ったレミリアを立香はわずかに驚きの表情で見る。レミリアはそれに気づかなかったのか、それとも気づいた上で無視しているのか、何もなかったかのように話を始めた。
「部屋を追い出して悪かったわね。少し紅魔館の住人同士だけで話がしたかったの」
「うん、分かってる。全然気にしてないよ」
事実としてそうだった。レミリアとて、出会ってから日の浅い自分に話せることが多くないことを立香はよく分かっていた。それがまた身内のいざこざとも言えることとなると余計にそうだろう。
立香はそんな考えの元に言葉を返したのだが、レミリアはただそれに何も返さず、少し居心地が悪そうに体をよじらせていた。立香も唐突に無言となるレミリアに対して何か話題を見つけることができずに口を閉ざす他なかった。不意に現れる沈黙。二人の間に出会ってから一度もなかった気まずさが漂う。しばらくそうした時間が過ぎ、ふとその空間を断ち切ったのはレミリアからだった。
「ふ菓子、私は貴方に話さなければならないことがあるの。この世界に無理やり引っ張り込んだ私だからこそ、貴方には話しておかなければならないの」
レミリアはいつにも増して真剣な眼差しで立香を見上げる。しかし彼女の瞳の奥には、立香がパチュリーの部屋で見た、あの不安定な揺らぎが見えてとれた。
「貴方も聞いたでしょうけど、今回この事件を起こしたのはフランドール・スカーレット。私の妹よ。パチュリーが紅魔館にいた時、あの娘が紅魔館の実権を握っていた。彼女がその目で見たとなれば誰が聖杯を持っているかは一目瞭然よ」
紅魔館にいたパチュリーが言うのだから間違いない。それは決定的な証拠であり、何よりも明らかな証明だった。
「……レミリア。どうしてレミリアの妹がこんなことを?」
立香は踏み切ったこの質問を尋ねようか迷った挙げ句、しかし最後にはそう口にした。
レミリアは数秒程、沈黙し、何かを考えるように目尻を下げる。そうしてしばらくしてから考えが纏まったのか、きゅっと袋口を閉じるように唇を結び、それから緩めた。
「少し昔話をしてもいいかしら。時代にしてこの世界と同じくらい昔の話。まだ私がもっと幼く、そして紅魔館の主ではなかった頃の話を」
それはレミリアが自身の過去を話すということ。立香にレミリア・スカーレットと言う吸血鬼の内をさらけ出すと言うことだ。そんな覚悟を持った彼女の言葉を耳にしてしまえば立香は頷く他なかった。何より彼自身、レミリアの過去は知りたいものの一つであった。
「……私の生まれは西トラキア。今で言うブルガリアの南西部。そこで私は当時、紅魔館の当主である父と母との間に生まれたの。もちろん二人とも吸血鬼よ」
立香の了承を得たレミリアは、ぽつりぽつりと話し出した。彼女の過去、そして構成を。
「その当時、吸血鬼はトラキアで数こそ多くはないものの、絶大な力を振るっていた。それはそこがヨーロッパの中でもアジアに近い場所だったから、西ヨーロッパにあった中央教会がこっちまで手を伸ばせなかったのが原因よ。でもそれはあることを境に一気に崩れることとなる。それはオスマン帝国の侵略。それによりトラキアはオスマン帝国の領地になりその結果、元々複雑化していた宗教が更に混雑を極めた。だけどそれがトラキアにいた吸血鬼たちに多大な被害を与えることとなるの」
オスマン帝国。確かそんな国を高校生だった頃、世界史の授業で聞いたことがあったなと立香は断片的で朧気な記憶を思い起こした。
「トラキアを侵略し、おざなりとは言え、ある程度その土地を安定させたオスマン帝国は、未だにそこで力のあった私たち吸血鬼が邪魔な存在になったのよ。だから駆逐することを決めた。そうして人間と吸血鬼の戦いが始まったのよ。勿論、吸血鬼たちは闘った。だけど教会か国の軍隊としか戦ってこなかった吸血鬼たちにとって、他の宗教を元にした呪術師や霊媒師を相手にすることはあまりに未知で、段々と吸血鬼は数を減らしたわ。そんな中、私は生まれたの。スカーレット家長女として紅魔館でね」
レミリアは自身のの出生に至った経緯を他人事のように語った。いや、事実そうなのだろう。誰しも自分が生まれた時の事など覚えてはいない。しかしレミリアはまるでどこか知らない国の童話を読んでいるかのような口調だった。淡々と心を消してただ目から入ってきた文字列をそのまま喉を通して口から垂れ流しているような、そんな口調だった。
「そしてその五年後、フランドール・スカーレットと言う妹が生まれた。だけどその子は生まれながらに莫大な力と破壊の能力を持っていて、それを制御できず、時たま狂ったように物や生き物を壊すことがあったのよ。その結果、戦時中で余裕のなかった私の両親はフランドールを紅魔館の地下へ幽閉し、力に精神が追い付くまでそこで育てることにした。でも私は嫌だったの。たった一人の姉妹なんだもの。妹だけ地下へ行くのは可哀想と思ったし、私ならそんなことはしないと心の奥で決意もした。だけどそれはあっさりと波状したわ」
他人事の言葉は続く。自分が経験した事なのにも関わらず、自分がかつて抱いた思いを口にしたのにも関わらず、それはどこまで行っても朗読の域を出なかった。立香はその平坦で出っ張り一つないはずの言葉を聞くたびに胸が痛くなった。ここまで自分のことを他人事に話せる彼女に、何故だか悲しみが沸き上がり、そしてそれが心臓を突き上げる。
「始まりはこの紅魔館にも人間が攻めてきたことが切欠。両親が私たちを屋敷ごと転移させて逃がし、自分たちはその足止めをするために外へと飛び出した。その命を引き換えに。こうして私は幼いながら紅魔館の主になったの。私は紅魔館の主として人間たちから館を守る必要があった。そうなると未だ情緒不安定なフランドールを外へ出すことはできなかったの。その立場になって初めて両親の行動を理解することができた。フランドールには必ず外へ出してあげるといいつつ、結局はそうすることができなかった」
そう言い終えたところで初めてレミリアは感情を言葉に乗せた。いつの間にか朗読は終わり、会話が始まっていた。
そこで立香は初めて気がついた。レミリアは『妹を外へ出す』と決意した自分とその決意を実行へと移せず『妹を幽閉し続けた今の自分』とを完全に別の者だと思っているのだと言うことを。それはきっと後悔や
立香もふと思い出す。“現実”を知らずに“今”を夢見た自分を。そして“今”が見えて“現実”を知った自分を。
昔、誰彼構わずに夢をおおっぴろげに語ることのできた小さかった頃。恥ずかしげもなく「僕が君を守るから」何て言えた無知だった自分。立香はそんな過去の自分を他人事のように思い起こした。懐かしいなどとは思うことのできない。それは“記憶”ではなく“記録”だった。
「……どうしたの? 駄菓子」
立香が完全に意識をレミリアから外していたからだろう。レミリアは疑問符を浮かべながら立香の顔を覗き込む。
「ごめん、何でもない」
レミリアは
「それからはあまり関係のないことだから省略するけれど、年月がたって私たちは幻想郷にたどり着き、今現在ここにいるわけよ。けれどそのせいで私はフランドールに憎まれてしまった。パチュリーは目的が何か分からないとは言っていたけど、きっと今回の騒動はそんな私に対するフランドールの憎悪から始まったのよ。私に復讐するために聖杯を使い、昔を再現し、何かをしようとしている」
「……何かって?」
立香は尋ねる。
「さあ? それはまだ分からないわ。例えばだけど、妹と姉の立場を入れ換えて、私を地下へ幽閉する、なんて復讐が目的だとしても理解はできるわ。パチュリーから聞いた話だと、今は取り敢えずこの世界を支配する所から始めているみたいね。わざわざ自分が支配者である世界を作らないで、なぜ作ってから支配しようとしているのかは謎だけれど」
そこで会話は終わった。長い長い話が終わり、その後に残ったのは沈黙だけだった。レミリアがこの部屋を訪れた時に現れたあの沈黙。体に異物が紛れ込んでしまったような気持ち悪さが漂う静寂が部屋を満たす。立香はそれを何とかしようと声を出そうとするが、しかし喉が塞がってしまったかのように空気の振動が彼の口から飛び出ることはなかった。しかし立香はそのことに関して疑問に思ってはいない。理由は単純、立香は分からないのだ。何を言えばいいのか。何を伝えればいいのか。その迷いが喉に溜まり、詰まる。そのせいで声が出せないと言うことを立香自身よく理解していた。だからもう自分の思いや、レミリアの過去に対して何かを口にすることを立香はしないことにした。レミリアに対して迷ったままの適当な発言を立香はしたくなかったのだ。だから立香は言うべきことだけを言うことにした。聞きたいことだけを聞くことにした。
「……レミリアはこれからどうするの?」
この疑問はレミリアとずっと行動を共にした立香だからこそ聞きたいものだった。今までは誰かも分からない犯人を追い続け、そして聖杯の回収を目標として来た。ではその犯人が身内だと判明した今はどう行動するのか。それをまず立香は聞きたかったのだ。
「変わらないわ。私たちのやるべきことは一つ。聖杯を取り戻すこと。確かに私はフランドールに負い目がある。けれど紅魔館の主として──いえ、姉として妹のけじめはつけなければならない。この事で多くの人妖を巻き込んで被害を出しているのは事実だもの。貴方も含めてね」
「いや、俺が巻き込まれたのはレミリアのせいなんだけど……」
「あら、そうだったかしら? 私忘れてしまったわ」
レミリアは意地の悪い笑みを浮かべ、それからリンリンと鈴が鳴るような透き通った笑い声を出す。立香にはそれが本心から笑っていると同時に、何かを誤魔化す為の覆いを自分にかけているように見え、それが立香の胸をそっと締め付ける。何か言わなければいけない気がして、しかし言うべき言葉が見つからない。それでも何か言いたくて、立香はただ思った言葉を口にする。
「レミリアはどんな時のレミリアもレミリアだよ」
それは言葉未満の文字列だった。口の中で完成する前に外へと飛び出したその言葉は、出来損ないのガラクタ。レミリアが受け取れば、その瞬間に崩れ落ちてしまう不出来なものだった。しかしレミリアはそれを笑うでもなく馬鹿にするでもなく、ただ微笑みを浮かべ、受け止めた。それからただ無言で立香を見つめ続け、突然何かを考えるように口を結んだ。
「…………駄菓子。貴方の名前、何だったかしら?」
今更!? ──と立香は叫びたくなる気持ちを何とか押し留め、口を紡ぐ。自分から聞いたはずなのにそれを忘れるとは何とも
「えっと、藤丸立香だけど」
レミリアはその答えに対し、ただ「そう」とだけ返すと、一拍だけ空白を飲み込み、優しく
「ねぇ
「……何?」
突然にして初めて名前を呼ばれたことに立香は
「話すことはもう全部終わってしまったけれど、もう少しだけこの部屋にいてもいいかしら? 私が特別に紅茶を淹れてあげるわ」
レミリアの言葉。それはいつも誰かに紅茶を淹れさせる彼女が自主的に行動すると言うこと。当然、立香も興味が湧かないはずもなく、ほぼ反射的に首を縦へと振る。
「待っていて。用意してくるわ」
レミリアはヘッドから立ち上がると、そのままいそいそと扉の前まで移動し、部屋の外へと出た。扉の閉まる振動が
「…………家族か」
立香はポツリと呟く。どこか近いようで遠い、そんな中途半端な空間を見つめてそう呟く。ふと彼は窓を通して外へと視線を移した。そこからは城の低い城壁とどこまでも広がる草原が見えた。それは立香が生まれてから初めて見る景色で、とてもではないが彼にとって馴染みのある場所とは到底言えなかった。
いつまでも空に浮かんでいると思っていた月も今は雲に隠れてしまっているのか、彼の視界に映ることはない。いつの間にか風は止み、立香はそっと目を閉じる。ずっと狭いと感じていた部屋が今では妙に広く感じた。
・以下小ネタ
レミリア「どうしたの?早く感想を聞かせて♪」
立香(猫舌なんだよね……俺)