…何で?
何でなの??
疑問、疑問、疑問。
疑問ばかりが思い浮かぶ。
壊れない……
壊れてくれない……!!!
鬱憤、鬱憤、鬱憤。
頭に浮かぶのは、鬱憤ばかり。
言い付けを守ってたら、良いことが起こるんじゃないの?
言い付けを守ってたら、遊んでくれるんじゃないの?!
御姉様!
御姉様!!
一緒に遊んでよ!!
フランのお部屋で、一緒に遊んでよ!!!!!
ただ御姉様と遊びたいだけなのに。
どうせなら一緒にいるだけでもいいのに。
ずっと良い子にしてたのに。
……もう、誰でもいいから…
フラン、ワガママ言わないから………
誰か、フランと一緒に……
………もう、嫌だ。
少し戻った理性が、闇に霧散していく。
◆
ドゴォォォォォォォォン……!!
絶え間なく破壊音が鳴り響く。
不気味ながらも上品であった地下室は、もはや廃墟の如く荒れ果てている。
約2時間と少し経ったぐらいで、これ程までに変容させるとは。
流石の能力と身体能力と言えよう。
「ぐぅぅぅぅ!!!!!!!」
怒りに任せながら、フランは拳を浴びせにかかる。
青年は勿論、拳を捌きながら時間を稼ぐ。
しかし腹に迫る拳を捌ききれず、青年はまともに喰らってしまった。
「っぐぶぇ…」
腹を貫き、腹腔に少女の手が紛れ込む。
しかし少女は臓物の一つや二つを握り潰したりはせず、青年の顔面に強烈な一撃をお見舞いする。
ペキョっという軽い音の後に、ゴキュアっと鈍い音が続く。
青年の顔面は勿論陥没し、それだけでなく頭部全体も砕け散る。
勢いのまま倒れた青年の身体に、フランは容赦なく『禁忌 レーヴァテイン』を炸裂。
身体のほとんどが塵と化す。
だが運よく残った腕から、青年の再生能力が発動。
元のまま身体が復活し、全感覚も取り戻す。
その様を見ていたフランはふらつきながらも、直ぐ様青年との距離を詰める。
(よし、もう少しか…?)
フランが一瞬ふらついたのを確認した彼は、より気合を入れる。
実はこの時点で、青年は既に10回以上命を落としている。
身体を吹き飛ばされたり、半分に引き裂かれたり…
それらが原因でか、青年も体力に限界が来ていた。
(いくら復活能力でも、体力は回復しない、それどころか消費するのか…)
どうやら死なぬからと言って、安心は出来ないそうだ。
いや、もしかしたら体力が尽きたら復活できないのかもしれない。
いまだ謎の多い自身の能力に、少し恐怖を覚える。
だからこそ青年は、身体に喝を入れる。
空元気でも、無いよりかはましであろう。
そして再度襲いかかるフランの猛攻を、後退しながらも何とか凌ぐ。
しかし突然、身体が宙に浮く。
もしやフランの隠していた他の能力かと思ったが、答えは単純。
ただ自分が、瓦礫に足をひっかけただけだったのだ。
だがそれも命取り。
フランは青年の足を掴み、力任せに地面に何度も叩きつける。
ベチョ、ベチョと水音が部屋に響くにつれ、人間の形を失っていく。
肉塊から骨があらゆる部位から露出している様は、まるで子供が適当に作った粘土のよう。
そして止めを刺すためか、最後に目一杯壁に叩きつけられ、青年は完全な肉塊と成り果てた。
「ぐぅぅぅぅ…
フゥウゥゥゥ………!」
しかしフランの怒りは収まらない。
いや、これを怒りと呼んでいいのか?
そう言わしめるほど、彼女はひたすらに暴れ続ける。
その様はまさに、狂気に取りつかれているようだ。
◆
紅魔館、大広間にて…
約束の時刻まで、あと45分。
自室から移動したレミリアは、大広間の二階席で読書をしていた。
約束の時刻になったら、某死なずの人間とここで話したいと考えているためだ。
…が先程から地下から微かに音がする。
まぁフランが暴れているのであろうが、少しばかり違和感を感じる。
長すぎる。
大抵は4~5分程度で終わるのだが、今回は20分以上続いている。
もしや、某死なずの人間がフランの逆鱗に触れてしまったのか。
…やはり彼に任せたのは失敗であったかと、些か失望する。
あの時感じた希望が、徐々に消えていった。
◆
「ハァー……ハァー…………」
意識が戻ると、部屋の中央に座り込んでいるフランが見えた。
ようやく疲れが身体に効いてきたのであろう、息は荒く、身体中に汗が滴っている。
だが今のフランは、違うことに苦しんでいるようにも見える。
いや、思い返せば何かに捕らわれたように苦しむ姿を度々見ていた。
だが、もう少しでそれも終わらせることが出来よう。
青年は確信する。
そしてフランに近付こうとした時、足で瓦礫を蹴飛ばしてしまう。
その音に気がついたフランは、疲れなど無いかのようにこちらに走って向かってくる。
予想だにしない行動だったので、青年は横に避ける。
すると青年が先程まで居た壁に、大きなクレーターが出来る。
それほどの力を出しておきながらも、フランは執拗に青年を追いかける。
一息つけると安心していた青年の身体が、悲鳴を上げながらフランの連撃を捌き始める。
…いや、少しはましか。
フランの一撃一撃は遅くなっており、しかも手数も少なくなっている。
すぐに反撃できそうなほど隙も出来ている。
「ハァー………ッハァー…………ッ」
呼吸音が大きくなってきている。
「どうして…………どうして………………!」
耳を澄ませば、フランの呟きも聞こえてくる。
それほどに余裕が無くなっているのだろう。
(もう、楽にしてあげねば。)
青年はフランの一撃を通常より強く捌く。
急に強く捌かれたため、フランは大きな隙を見せる。
その瞬間、青年は両の手をフランに伸ばし…
そのまま胸に抱き寄せた。
「……………え…………」
フランは少し間抜けな声を漏らす。
「フランちゃん、もう大丈夫」
青年はフランに語りかける。
だがその返事は、腹に向かっての拳であった。
「離せ………!離して………!!!」
何度も何度も、食らわせてくる。
そして吸血鬼の腕力もあってか、内臓に大きなダメージが入り、青年は口から血を流し始める。
「離せってばぁ!!!!!!」
そしてフランはより力の込めた拳で殴り付ける。
その拳は簡単に青年の腹を貫く。
だが青年はフランを離さない。
どんなに苦しかろうが、どんなに痛かろうが。
腹の内部に走る激痛に耐えながら、青年はフランに話しかける。
「もう、大丈夫だよ
フランちゃんは、これからも、一人じゃないんだ」
痛みに耐えながら話しているためか、変に途切れ途切れになってしまった。
「フランちゃんは、ただ誰かと一緒に、遊びたかっただけなんだよね
一人になるのが、怖かっただけ、なんだよね
でもフランちゃんは、優しい子だから、みんなを、お姉さんを、心配させたく、なかったから、一人で頑張ってたんだよね」
「………」
フランがそっと、残った腕で青年の身体を抱き寄せてきた。
「…………あれ……どうして………?」
フランに理性が戻り始めている。
ただ無意識に抱き寄せていたのか、自分でも困惑している。
しかし少ししてから、青年の肩に顔をうずめてきた。
「……辛かった、よね
苦しかった、よね」
うんうんと首を縦に振っているのが、感触で分かる。
背中を掴む手も強くなってくる。
「…だけど、もう一人にならなくても、いいんだ」
「…ほんとに?」
フランが初めて言葉を返す。
「…御姉様は、フランを一人ぼっちにしてきた……
貴方も、そうするで…」
「それは違うよ」
悲観的なことを言うフランを、青年は否定する。
「お姉さんはね、フランちゃんのことを、とても心配していたよ?
でもお姉さんはね、館にいる全員のことを、見なくちゃいけないんだ。
そんな、忙しいことばかりしてても、お姉さんはフランちゃんのために、出来ること全部やってたんだよ
だから俺も、ここにいるんだ」
フランは反論もせず、ただ話を聞いていた。
「…フランちゃんは、お姉さんにとって、宝物なんだよ」
肩がじんわりと濡れてくる。
青年はそれに気付くと、フランの頭を優しく撫でる。
「フランは、もう、一人ぼっちじゃないの…??」
泣きじゃくりながら、フランは問いかける。
「…あぁ」
青年は優しい声でそうだと言う。
「これからも、ずっと、フランちゃんは一人じゃないよ」
その言葉を聞くと、フランは大声を上げて泣き始めた。
◆
一緒に遊びたかった。
一緒にお話したかった。
でも皆すぐに行っちゃうから。
皆大変そうだったから。
皆を困らせたくなかったから。
ワガママを言わないようにした。
いっぱい我慢もしたよ。
だってフランは良い子なんだから。
御姉様は皆を困らせたらダメって言ってたから。
一人ぼっちは寂しかった。
一人ぼっちは苦しかった。
でもずっと頑張ってた。
一人ぼっちでも、ずっと頑張ったよ。
だってフランは良い子なんだから。
御姉様もいっぱい頑張ってるから。
……でも、ずっと頑張ってるのに。
ずっと良い子にしてるのに。
誰も褒めてくれない。
良い子だねって言ってくれない。
御姉様も全然遊びに来てくれない。
ちょっと嫌な気分。
だけど文句は言わないよ。
だってフランは良い子なんだから。
フランが悪いだけだから。
……でもこの人間は、お兄様は。
フランを褒めてくれた。
優しい子って言ってくれた。
嬉しかった。
とても嬉しかった。
まるで御姉様に褒めてもらった時みたいに。
頭を撫でてもらった時なんて。
ぴょんぴょんしたくなっちゃうくらい嬉しかった。
ぎゅってしてくれた時なんて。
きゃーって言っちゃうくらい嬉しかった。
でも何でだろう。
涙が止まらなくなっちゃった。
早く、早く泣き止まなくちゃ。
良い子は泣かないんだから。
でもお兄様はずっとぎゅってしてくれた。
撫で撫でもしてくれた。
怒ったりもしなかった。
ただただずっと、フランの一番近くにいてくれてた。
良い子じゃなくても良いんだよって、言ってくれてるみたいに。
お兄様がぎゅってしてる時は、
まるで御姉様と一緒にいるみたいに。
温かかった。
◆
まだフランは泣きじゃくっている。
よほど我慢していたのだろう。
青年はただ、フランの頭を撫でていた。
フランに安らぎを与えるためにも。
だが、その時は長くは続かなかった。
急に身体中に痺れが走り、頭がくらくらする。
そういえば、いまだ腹を貫かれたままであった。
微量だが長い間出血したおかげで、軽い失血状態になっているのだ。
「……?
お兄様…?」
フランが異変に気付き、慌てた拍子に腹に刺さった手を抜く。
勿論栓が外れ、噴き出すように血と臓物が飛び出る。
青年の症状は勿論悪化し、抱き寄せていた手が力無くほどける。
「お、お兄様?」
フランが震えた声で青年に声をかける。
だが彼には返事をする余裕もない。
ついには身体を支える余裕も無くなり、フランに倒れこむ形になる。
「イヤ!!!お兄様!!お兄様!!!!死んじゃダメ!!!!!」
フランが必死に叫んで青年の身体を揺らすが、既に手遅れ。
青年の意識はほとんど無くなっている。
そこにちょうど、ドアを開けるような音が聞こえた。
もう聴覚もほとんど途切れているが、誰かが来たことだけは分かった。
後はもう、大丈夫だろう。
そしてついに青年の意識が消失した。
◆
………
…………?
……………こ……
ここは………?
断片的に、色んな風景が見える。
今は誰かの部屋の中で、男性らしき人物がそこに座っている。
しかしどこかで見たことがあるような…
ガチャリ。
ドアが開き、誰かが入ってくる。
何故か影がかかって顔やらは見えないが、シルエット的に女性のようだ。
誰だか分からないが、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる。
きっと、自分ととても仲良かった人のような。
「……………」
「………………!」
今度はその二人が楽しそうに話している光景だ。
楽しそうと言っても騒がしい訳ではなく、なんと言うか穏やかな楽しさだ。
見ているだけでも微笑ましくなるその光景に、心が落ち着く。
だが奇妙な現象が起こる。
「大好きだよ」
女性側が口を動かした時、自分の耳元で女性が言ったであろう言葉が聞こえた。
何が何やら分からなかったが、その声は心の安らぐ、聞き覚えのある声だった。
瞬間以前感じたような不快感が襲ってきた。
罪悪感のような、悲壮感のような。
色んな負の感情が入り乱れているようであった。
(これは……!?
何なんだ…………!!)
頭にその言葉をが出てきた瞬間、意識と映像が消えた。
ただ不快感だけを残して。
どうも、螢司教です!!
今回はちょっと重めになってしまいました…
フランちゃんの抱えた闇。
それは孤独の影響と良い子でいるために起こったものでした。
ただ自分の欲求を抑えつけ、ひたすらに良い子になろうとする…
そうして狂気に侵されていったと考えると、フランちゃんはちゃんと心根の優しい『良い子』だったのでしょうね…
ちなみに次回でも若干触れますが、フランちゃんが全然遊びに来てくれないと言ってたのは、実は間違い。
確かに回数は少ないですが、それでもおぜう達は、週3日はフランと遊ぶようにしていました。
では何故フランちゃんはあんなことを言っていたのか…
それは次回までのお楽しみにさせていただきます(笑)
最後に映った謎の風景。
それは彼の『何』なんでしょうか…
次回!リグル、久しぶりの登場!
全然出せなくてごめんね…次回はいっぱい喋らせるからね…!(T_T)
それでは次回で会いましょう!!
コメントもお待ちしております~m(__)m