幻想郷のどこかにて……
「…?!」
……
………まただ。
一瞬、胸騒ぎがした。
いや、胸騒ぎというか…やや不思議な感覚がこの身体に起こった。
まるで、他人の感情が入ってきたような……?
「紫様、どうかなされましたか?」
変化に気付いたのか、私の式である八雲 藍はこちらに尋ねてくる。
「いや~最近色々やってるからね~
疲れてるのかしら…?」
そう言いながら少し背伸びをする。
実はここのところ、変な感覚がすることは度々あった。
しかも不思議なことに、ここ、『狭間』にいる間だけ起こるのだ。
最初は気のせいだろうと考えていたが、流石に5~6回も起こるとおかしいので、最近は色々と調査をしている。
「…まぁ確かに
最近の紫様はおかしいってくらいバタバタしてますもんね
いつもはだらしない上、面倒事は私に押し付けるのに…ぃいたたたた!」
「ちょっと~?一言余計じゃないの~?」
さらっと毒を吐く藍の頬をつねる。
…やっぱり疲れてるのかしら?
ホントは今すぐ寝たいところだが、この感覚も心苦しくなるから嫌なので、まだ起きておく。
それにあの青年に対して、衣食住は任せろと言ったのに、どれも全く準備していないし。
ほっといてもいいけど、『外』の人間が幻想郷で死んだら閻魔がうるさいし…
……いや、彼は死なないのか…………
不死。
いくらなんでも、こんな突拍子も無い能力は初めてだ。
幻想郷にも不死の力を持つ人(?)はいるが、蓬莱の薬によるものであったり、輪廻転生を早める擬似不死能力によるものだ。
不死そのものが能力として、しかもそれが『外』から来た人間に発現するだなんて。
…ちょっと面倒くさいけど、彼について色々調べなきゃ。
…でもその前に彼の住む家なんだよな~
家が無かったら、彼を探すのも大変になるし…
かと言って、都合よく空家なんて無いだろうし…
む~…
……ま、こういう時はあの子に任せるとしましょ!
彼女の家にはよく遊びに行くし!
紫は少しすっきりしたような顔をした。
もふもふした九つの尻尾を振り、許しを乞う藍を無視しながら…
◆
紅魔館にて……
「…気がついた?」
目を開けると、目の前にはリグルの顔があった。
…どうやら泣き疲れて眠っていたらしい。
……恥ずかしい、あんなに号泣したのは初めてだ。
いや、実際は初めてではないのだろうが。
…そうだ、その前に。
「…ごめんな、リグル
迷惑、かけたな…」
眠ってしまう前に、俺はリグルを心配させたりしてしまった。
いくら自分が怖い思いをしたからって、迷惑をかけるのはいかがなものだろう。
罪悪感が募り、死にたくなる。
「うぅん、そんなことないよ
それよりも大丈夫?」
だがリグルは大丈夫と言うどころか、心配さえしてくれた。
どれほど温かい子なのだろう。
「…うん、大丈夫だよ
ありがとう」
大丈夫だと伝えると、リグルは満円の笑みを見せた。
「でもちょっとびっくりしちゃった
何があったの?」
「…急に声が聞こえたと思ったら、とても苦しくなって…
そんで急に怖くなって…
ただ、それだけ」
そう返すと、リグルは「そっか」とだけ言い、頭をなでてきた。
一撫でされる度に、心が安らぐのが分かる。
まだ恐怖の余韻が残っていたが、除々に無くなっていく。
…とても、温かい。
ふとリグルの顔を見ると、笑顔で返してくる。
すると息苦しさが増してきた。
何故か緊張感も湧いてくる。
長く続いてほしいような、早く終わってほしいような…
ガチャリ。
「死なずの人間、御嬢様がお呼び…
…あら、お邪魔だったかしら」
部屋に入ってきた咲夜は、ちょっと驚いた顔でこちらを気遣う。
「えっ、あっ、だだ大丈夫、です」
いきなり来たので、思わず俺はテンパってしまう。
逆にリグルは落ち着いた様子だ。
「はい、ただお熱を計ってただけなんで」
と、リグルはこの状況を上手く誤魔化した。
◆
起きた時には腕も足も、元通り動かせるようになったので、青年は咲夜に連れられレミリアの元へ向かった。
大広間の一階で無邪気に走りまわるフランとは真逆に、大広間の二階のテラスで、レミリアは優雅な雰囲気を纏いながら本を読んでいる。
「あ!お兄様!!」
こちらを見つけたフランは、一心不乱に駆け寄り、青年に抱きついた。
「お兄様お兄様!!
フランね、肩車してほしい!!」
元気いっぱいのスマイルで、フランは肩車を要求してきたが。
「フランドール様、すみませんがもう少し待ってていただけませんか?
彼は御嬢様とお話があるんです」
咲夜はフランを説得する。
「ほら、一緒にナイフジャグリングしませんか?
楽しいですよ?」
「え~、フラン今は肩車の気分なの!
ちょっとだけでいいからぁ!」
…さらっと危険なものが聞こえたが、気のせいだと信じておく。
「…人間、ごめんだけどフランを肩車してあげてちょうだい」
館内が静かなのもあってか、レミリアの声が響く。
そして肩車の許可を貰ったフランは、とても喜んでいた。
「やったぁ!御姉様、ありがとう!!
大好き!!」
今度はフランの声が響くと、レミリアは静かに、そして嬉しそうに笑った。
◆
という訳で、10分ほどフランに肩車をした後、レミリアとの会話を始めた。
肩車をしてもらい満足したフランは現在、咲夜とアルプス一万尺をしている。
そのおかげで、下からは軽快なリズムが聞こえてくる。
「フフッ、楽しそうね」
その光景を見、レミリアは微かに笑っている。
「…さて、まずはお礼を言わせてもらうわ
今回のこと、ありがとう」
レミリアは深々と頭を下げた。
「いえいえ、私も大したことはしてませんよ」
青年は謙虚に、お礼を受け止める。
「いえ、あなたはとても凄いことをしたわ
…私にもできなかったから」
彼女の表情に、暗い影がかかる。
「…以前、私はフランのために、この幻想郷を闇に覆ったことがあるの
まぁ、それはとある紅白巫女と魔法使いによって、失敗に終わったけど…」
ぽつりぽつりと、レミリアは語り始める。
「その後、私はフランと一緒にいるようにしたわ
少なくとも、1週間に3日はね
でも、フランはあまりこうしたいとかああしたいとか言わなかったから…
私はフランの世話を、使用人に任せたりしてた」
青年はひたすら、彼女の話を聞いていた。
しかし、少し疑問に思うことがある。
フランは全然遊んでくれないと言っていたが、週3日は多い方になるのでは?
だがその謎はすぐに解けることになる。
「その内フランは、以前のように、またおかしくなりはじめた
短いけど以前のように暴れ始めたの
落ち着いたかと思えば、会話も成立しないし、記憶も定かでは無くなっていったの
…私が原因なのだけれどね」
成る程、それならばフランがああ言っていたのも、納得できる。
しかしレミリアは、何故自分が原因だと言っているのか?
「…一体、どうしてそう思われに?」
よほど思い詰めているのか、彼女の顔は暗くなる一方だ。
そしてようやく、重々しく口を開いた。
「…今思えば、違う方法もあったのかもしれない
でも当時の私は、この決断をしたの」
重々しくなる雰囲気に、ごくりと唾を呑む。
「…私はフランを、幽閉することにした
その危険すぎる能力ゆえに、ね」
…ふむ、そういうことか。
「…フランを幽閉した後、私は精一杯考えていたわ
どうにかして、フランが暮らせる環境を作れないかって
でも私はそのおかげで、150年以上もの間、フランを孤独にしてしまった」
「ひゃ、150…!?」
人間ではあり得ない年月に、思わず驚いてしまう。
「えぇ、150年よ
知っての通り私達吸血鬼は、人間に比べて長寿だから
私も一応500年以上は生きてきたわ」
確かに吸血鬼は長寿とは聞いたことがあるが、まさか目の前にその実例が見れるとは。
「でもフランはまだ幼すぎた
一人になったら泣きわめいたりするほどにね
でも私はそんなフランを、一人にして、おかしくしてしまった
…私は、姉失格だわ………」
下に顔を向けたレミリアの頬に、涙が伝う。
「…ねぇ、人間
こんな非情な私の願いを頼み事を、聞いてくれてありがとう」
顔を上げたレミリアは、無理に笑顔を作った。
その笑顔を見た青年は、ついに耐えられなくなり、反論をする。
「…少しよろしいでしょうか」
青年の気迫に少し驚きながらも、レミリアは発言を許可した。
「…私は当時の背景を、私は知りません
ですが正直、私も御嬢様があまりに酷い選択をしたとは思っています
しかし視点を変えれば、それは正しい選択だとも思える
フラン様を幽閉したが故に、救えたものもあるのです」
「だから何だと言うの?」
青年の言葉が気に触れたのか、レミリアは少し声を荒げる。
「もし貴方の言う通りなら、何かを救えたかもしれないわ
でもそれは、所詮赤の他人じゃない!
そいつらの命のために、私はたった一人の妹を犠牲にしてしまったのよ!?」
感情的になったレミリアは、机を力強く叩いた。
「なのにそれが、正しい判断!?
ふざけないで!!!」
ついに怒りが有頂天に達したレミリアは荒々しく席を立つ。
辺りに鳴り響いていたアルプス一万尺も、いつの間にか止んでいた。
対して青年は全然ぶれていない。
むしろ少し口角を上げ、笑っているようだ。
「…何がおかしいの?」
それに気付いたレミリアは、勿論怒りに声を震わせている。
「…おかしくはありません
ただ御嬢様の本心が知れて、思わず口が綻んでしまいました」
いきなり何を言い出すかと思えば、最早その言葉は挑発のようであった。
「…そんなに私を怒らせたいのかしら?」
「違います、御嬢様
御嬢様は自分を酷い存在だ、とおっしゃってましたが、それは違うと証明したかっただけなのです」
理解が追いつかないレミリアは、首をかしげる。
「勝手ながら私は、御嬢様がどれほどフラン様のことを大事に思っているかを観察させていただいていたのです
御嬢様は、フラン様を幽閉していたことを後悔なさっています
そして先ほどの私の発言に対し、怒りを露になさいました
しかしそれほどの感情を出せるということは、それほどフラン様を思っている証拠です」
青年の言動を理解したレミリアは、冷静さを取り戻していく。
「…だとしても、私が姉失格なのは変わらないわ…」
「いえ、そんなことはありませんよ」
レミリアの発言に対し、青年は続く。
「何故?何故そう言えるの?」
「フラン様が、御嬢様のことを好きだと言っていたから、ですよ」
その言葉に、レミリアは驚いている。
「そ、そんな訳ないわ…
私は…私は、フランを酷い目に合わせたのに…」
あまりに信じられないようで、レミリアは動揺している。
「フラン様は、御嬢様のことを話す時が一番楽しそうでした
それに自我が無くなっていた時も、御嬢様を探しておられるような発言や素振りが確認できました
つまりフラン様にとって、御嬢様はとても重要な、大切な存在なんです」
「そんな…そんなこと…」
レミリアは顔を手で覆い隠した。
「御嬢様、もう自分を責めるのはおやめください
フラン様にとって、あなたは最高の御姉様なのです」
青年のその言葉を最後に、大広間には静寂が訪れる。
「……フフッ……」
静寂を、レミリアの小さな笑い声が破る。
「そう、ね…
フランの最高の姉なのに、自身で責めたらそれこそ酷い姉よね………」
レミリアは隠していた顔を露にした。
その瞳に、暗い影は全く無かった。
◆
「本当に大丈夫なの?
これからここに住んでも良いのだけれど…」
「お気遣いありがとうございます
ですがこれ以上お世話になるのも申し訳ないので」
「ふ~ん、遠慮しなくてもいいのに」
レミリアは少し寂しそうな顔をする。
「やだやだやだ~!!
お兄様もここに住むの~!!」
一方フランは物凄い駄々をこねてきた。
引き留めようと足を掴んでくるが、えげつないほど痛い。
「ごめんな、フランちゃん
また遊びに来るから…ってそんな簡単に来ていいのかな…?」
ついでにレミリアに聞いてみる。
「あなたならむしろ大歓迎よ
自宅に帰るかのように遊びにいらっしゃい」
と満足そうにレミリアは言った。
「それじゃ、俺達はそろそろ…」
「そうか、待ち合わせがあるんだっけ?
長く引き留めて悪かったわね
咲夜、門まで送ってあげなさい」
「かしこまりました」
と青年とリグルは、咲夜に門まで送られることになった。
「あ、ちょっと待って!」
お礼を言い、門に向かおうとすると、突如レミリアに呼び止められた。
「これから私のことは"レミィ"と呼んでちょうだい
あと、敬語じゃなくても大丈夫よ
何せ私達はもう、友達なんですもの」
友達…
まさか吸血鬼から友達だと言われるとは思っていなかった。
種族を越えた友情…
本にしかありえぬ展開に、とても嬉しくなる。
「ありがとう!レミィ!!」
青年はその言葉に様々な思いを乗せ、紅魔館を後にした。
◆
青年が去った後の紅魔館にて…
コンコン…
静かな廊下にノック音が鳴り響く。
「どうぞ」
部屋内の住人に許可を貰い、レミリアは部屋に入る。
「あら、レミィ
何か用?」
部屋ではパチュリーが大量の書物に囲まれながら読書をしていた。
「えぇ、パチェとお話がしたくてね」
「ははぁ~ん…さてはあの人間のことでしょ?」
パチュリーは見事、レミリアの話したい内容を当てた。
「えぇ、そうよ
…久々に面白い友達ができたわ」
「へぇ…レミィにしては珍しい
…でもそれほど魅力ある人ってことね
今度私も話してみたいものだわ」
「きっとパチェも気にいるわ
私が保証する」
「御姉様~~!!
どこ~~~~!!!」
「ふ、フラン様!
廊下は走っちゃ危ないですよ~~~!」
話していると、廊下から騒がしい声が聞こえてくる。
すると急に、ドアが開いた。
「ここだ~~~!………
ってホントに御姉様いた~~!!!」
「あっ、レミリア御嬢様!!
お取り込み中にすみませ…ったぁ!!!」
フランの制止に失敗した美鈴の頭に、突如ナイフが刺さる。
「咲夜さん、いきなり刺さないでくださいよぅ~
痛いんですから~」
涙目になりながら、美鈴は咲夜に示談する。
「あっ、ごめんなさい
無意識だったわ…」
「無意識レベルでやっちゃうほど、咲夜さんにとって私はナイフで刺していい存在になってるんですか!!??」
美鈴はつい大声で突っ込む。
色々と集まり騒々しくなる様子を見、レミリアは笑みを浮かべた。
「あら、どうかしましたか?」
騒がしかったからか、部屋の奥にある扉から小悪魔が顔を出した。
「えぇ…」
小悪魔をちらっと見て、パチュリーは返す。
「レミィに、笑顔が戻ってきたのよ」
久しぶりでございます、螢司教です!
ようやく紅魔館編が終わった…!
次回はあの紅白が…?
登場するかも?
お楽しみにっ!!
さてパチェの部屋の奥にある扉。
察しているかもしれませんがヴワル魔法図書館に通じています。
ちなみに館内には、ヴワル魔法図書館への通路が3つあるのですが、その内2つはパチェの研究室と自室につながっています。
パッチュンプリン、めっちゃ部屋あるやん…
それでは今回はこの辺で!
ではまた次回!!