何気ない日常、味気ない毎日、多少気分の浮き沈みはあるが流れに身を任せた無感情の日々。寝て食べて横になり、また寝る。変わらない明日がずっと続くものだと、それをどこかで嫌悪しつつも、惰性で受け入れ体に力を入れて動くこともない、本気を出すこともない、いやできなくなったこの精神を同じく惰性で受け流す。そう思っていたのに、あの日、あの瞬間全てが完膚なきまでに破壊された。失って気づいた日常の儚さは今や遠き過去。醜くも愛おしかったあの時間はもはや胸中にしかない。あの日、人類の黄昏と呼ばれた日、天より神々が降臨した。
中部紛争地帯、通称グラン戦域。
「B1はポイント24へ、N2はポイント26へ。ポイント25の敵を挟撃せよ」
「「承知!!」」
「これでも喰らえ!!くそったれが!!」
一個中隊の兵士が全員手に持った銃火器を踊らせる。鳴り響く銃声、絶えず撒き散らされる爆発音、耳がちぎれそうになる戦争の音がグラン戦域を支配していた。
人類の黄昏と呼ばれる件の日、神々を自称する異形のヒトガタ達が天より舞い降り人類を蹂躙した日から5年、人類と神々の戦争は激化の一途を辿っている。彼らは降り立った地に神殿と呼ばれる謎の建造物を造設し、そこから無限とも言える量の尖兵を製造、出兵させている。人類はその尖兵を神々の眷属と呼び、中でも統率者を上位眷属、統率者に従う兵士を下位眷属と呼び分けている。そしてここグラン戦域は火と鉄、戦争の神グランを相手に熾烈な生存競争が繰り広げられていた。
「B1部隊、N2部隊ともにロスト...!東部戦線エリア20が奴等に奪われました...。」
軍事トラックの中でオペレーターが責任者に悲痛な面持ちで報告した。責任者の男は拳を握りしめ、爪が刺さった掌からは血が滴り落ちていた。
「...これで事実上東部戦線は崩壊、核ミサイルを含め、軍需をほぼ欠いた我々では神に対抗できないという訳か....。全部隊に撤退指示を。北部連中の言っていたことは正しかった訳だな」
「そんな!所長の消耗ドクトリンのおかげでこの東部は唯一”彼ら”なしでこの戦線を維持できていたじゃないですか!」
「だがこれで私たちの奮闘は終わりだ、即時本部への帰還準備、急げ。」
「まだ予備戦力が残っています!所長の戦術眼があればまだ戦えますでしょう!”グラン”所長!」
「...なぜ我らが”彼ら”に対して”人道派”と呼ばれるのか忘れたのか?確かに予備戦力を投入すれば時間は稼げるだろうな、だが結果は変わらない。今回の任務は人道派がまだ眷属相手になら戦えることを証明するためのものだ、だがそれは完全に失敗した。もはやこれ以上の血の奮戦は無駄だ。中央に”彼ら”の即時投入を要請して、荷物をまとめろ。」
「...はい」オペレータの幽かな返事が軍事トラック内の悲痛をより一層際立たせていた。
グラン戦域、北部戦線
「人類に黄金の時代を、、、か、、、」
夥しい数の眷属の死体が転がる中1人の青年が立ったまま本を読んでいた。本のタイトルは「人類の黄昏とその後」。人類の戦意高揚の為に執筆された創作本であり、内容は極めて幼稚と言わざるを得ないが、その内容、人類が神々を圧倒する描写は人々に最後の希望を与えている。テーマは人類に黄金の時代を。
「そんなところにいたのかユピー、こんなところで本なんか読みやがって!ぐずぐずサボってねえで次の戦場がお呼びだぞ!おら!」
本を取り上げられてユピーと呼ばれた青年は顔を上げた。
「そう焦るな、マルス。分かっているさ。グランが遂に負けたんだろ。」
「あぁそうだ!これでようやく本部の連中も俺たちを認めるだろうよ!北部戦線をぶち壊したこのマルス様をな!」
「だから焦るなよ、俺たちの戦略的勝利は東部戦線を規定ラインまで押し上げることだ。何も東部戦線でまた暴れ散らかす必要はない。」
「えぇいまどろっこしい!!やはり本部の連中はぐずでのろまだな!!もういい早く行くぞ!」
「気持ちが逸りすぎだ、油断するなよ。」
後に中部紛争地帯総務局に提出された北部戦線の軍事レポートの一部をここに抜粋する。
北部戦線:生存者6名 死者数0名 討伐した上位眷属0体 下位眷属7750体 人類側の勝利
東部戦線エリア20
もはや残存部隊は壊滅的、戦術は意味を介さず、不運にも生き残った兵士は眷属相手に戦うことはおろか逃げることすらできずに蹂躙されていた。
「うわぁぁ助けぐへぇ」
異形の怪物、下位眷属に捕まった兵士が、その醜く太った腕で頭部を握りつぶされる。だがその中でも果敢に銃火器を振るう兵士が一握り、一矢報いろうと上位眷属に立ち向かった。上位眷属は火を纏ったケンタウロスのような見た目をしており、本エリアの敵軍司令官であると推定されていた個体である。敵軍深くに位置していたはずの個体がなぜか最前線に赴いてきたのだ。この好機を逃すものかと複数の兵士が覚悟を同調させた。
「せめてお前だけでも!!!」
幾重の影が地面スレスレを舐めるように神速とも言える速度で下位眷属を潜り向け、両手で持った銃剣をその上位眷属の胸に突き刺そうとする、
「喰らえぇぇぇ!!!!」
が次の瞬間その全てが柱の如き太槍で薙ぎ払われた。そして吹き飛ばされたほとんどの兵士が下位眷属にまとわりつかれ捕食されていった。火を纏った巨体は何事もなかったかのようにただ厳かに佇む。
「我が名はクレパウルス。勇敢なる兵士よ、なぜ戦う?なぜ立ち向かう?もはや此処は戦場ではなく狩場だ。圧倒的力量差を前になぜ絶望しない?」
太槍を地面に突き刺し、クレパウルスは憐れみを抱いた口調で兵士の残骸に問いかけた、答えは帰ってこないと分かっているにも関わらず。しかしクレパウルスの予想を裏切り、下位眷属を吹き飛ばしながら1人の兵士が現れた。
「————!!!!」
そしてその男は全身に自らの血と下位眷属の体液を浴びながら声にならない雄叫びとともに特攻した。次の刹那、その銃剣は太槍を持つクレパウルスの左腕に深々と突き刺った。驚愕、焦燥、痛み、畏敬。クレパウルスはそれらを噛み締めながら空いた右腕でその兵士の胴を鷲掴みし、兵士ごと銃剣を引き抜きながら天に掲げた。
「勇敢なる兵士よ、見事な奮闘である。それ故に再び問おう。貴様はなぜ立ち向かった?
どうしてまだ戦えるのだ?」
「、、、決まっているだろう、、、お前たちが、、、お前たちは死ねば、、、そこで、、終わりだ、、、だが、、、俺たち人間は、、、違う!俺が死んでも、、、後に続く者が、、、現れる、、、後に続いた者が、、、少しでも楽に、、、お前を殺せるように、、、俺はお前、、、を、、傷つける!」
その瞬間突如兵士が腰元に付けていたポシェットの中身が信じられない威力で爆発した。瞬間世界は色を無くし、音は彼方に消えた。
爆心地は陥没し焦げ付いた大地にはまだ火が燻っている。轟音が鳴り響いた後の静寂が少し続いた後、何かが大きく息を吸い込んだ。
「なるほど、確かに学習した。」
爆煙が徐々に晴れる。周囲にいた下位眷属は専らその身体を爆散させていたが、大きな影が1つ何変わらずにそこに君臨していた。
つまり左腕から体液を流し、右腕を浅く火傷しながらもクレパウルスは健在であった。
「そうか貴様ら人類の強さは「継承」か。残し、残され、遺す。施された者が次に施しその輪廻が太くなる。連綿と続く継承こそが人類の在り方か。確かにこれは我らには無いものだな。」
クレパウルスは右手に残った微かな兵士の肉片に愛おしく語りかけていた。
「だがまだ時が足りなかったな、我らと戦うにはその輪廻は細すぎた。」
「そんなことはない」
突如横槍が入れられる。そして先ほどの爆音が赤ん坊の寝息に思えるほどの轟音とともに雷撃が空間を切り裂きながらクレパウルスの横腹に直撃する。
「グオォォォッ!!!」
火を纏った巨体が大きく揺れる。
「彼の奮闘が貴様をここに縫い付け、この一撃につながった。見せてやるよ、人類が絶望の5年間で紡いだ輪廻の太さを。」
ユピー率いる「神人類派」が絶望を塗り替えにグラン戦域東部戦線に到着した瞬間であった。
初めまして、アルクポッドです。
小説をこのような形で公開するのは初めてでして、なので至らぬ点や直すべき点が多く見受けられると思います。その際はコメント等でご指摘頂けると幸いです。
規格外の脅威に対する人類の反攻が好きな方に楽しんで頂ける作品を目指して、これから投稿していく次第です。
ではまた次回!