ヴァーナログ 人類の黄昏   作:アルクポッド

2 / 9
第2話

荒野にて相対する神の眷属と人、クレパウルスとユピー。圧倒的な神威の衝突を前に大地は震え、風は荒れ狂い、世界は矮小に縮こむ。

 

「フッ、貴様は雷神の子であるな?」

 

クレパウルスはその口元を綻ばせながら問いた。

 

「すまないが俺は口問答を好まない。」

 

ユピーはそのまま直立不動で戦闘態勢に入る。手に雷撃を溜め、背部では漏れ出した雷が世界を引き裂き始めた。

 

「なるほど、やはり似ているな雷神に!」

 

瞬間トップギアでクレパウルスの太槍がユピーに振るわれる。爆発的な瞬発力、音を置き去りにし空間を破壊しながら振るわれる一撃。常人ならばその莫大な運動エネルギーを受け止めきれずに爆散するであろう打撃がユピーのこめかみに触れる、その刹那、

 

「雷霆顕現」

 

ユピーの身体より発せられた白銀の雷が太槍を粉砕した。

しかしそれを意に介さずクレパウルスは左手を水平に構えて返すように手刀を繰り出す。

一方ユピーも左腕を構え、それに呼応しユピーのまとう白銀の雷が左腕に収束する。火と雷の衝突、生物の腕と腕がぶつかり合っただけとは思えない衝撃が世界に鳴り響く。

 

「ほう、雷霆の中でも最高位の銀雷か。いよいよ雷神の現し身であるな。」

 

「おしゃべりが過ぎるぞ。」

 

口を閉じるより早くユピーは右脚にも銀雷を纏わせ雷のような軌道で蹴りを繰り出す。クレパウルスはそれを真正面から受け止めた。そして直撃を受けた左前脚を完全に破壊されながらもユピーを見つめる。

 

「そう言うな。私は識りたいのだ、人を。その為に最前線まで赴いた。」

 

「なに?」

 

「我等の怨敵、人の在り方。あまりにも多種多様で理解が追いつかない、一体どのような進化を遂げればこのような多様性が生まれるのだ?」

 

「そんなもの知るか。」

 

「それが分かれば我等は更なる高みへ、遥かなる御座へと至るだろう。」

 

その言葉と共にクレパウルスの闘気が上昇していく。ついで衝突の均衡が崩される、クレパウルスが渾身の剛力をもってユピーを上空へと跳ね飛ばしたのである。

 

「くっ!」

 

「我等を取り込んだ人よ、見事な銀雷であった。故にお見せしよう。真なる神の一撃を。」

 

いつのまにかクレパウルスの空の左手には弩弓が握られていた。弩弓は絶えず炎を吹き出し、周囲の空気をプラズマ化していきながら赤熱していく。

 

「火と鉄、戦争の神グランの威光をここに示そうぞ。」

 

クレパウルスがそう言紡ぐと、一体の下位眷属がその身を鉄の矢へと変化させた。そして、それを弩弓に構えると、

 

「あらゆる現生種を灰燼に帰す。啖うがよい、絶滅を司る我が渾身の一射を!」

 

炎の弩弓より放たれた矢は一条の光線となり、吹き出される炎は太陽の表面爆発の如く空間を焼き尽くす。まさに絶死、核ミサイルと同等のエネルギーを持った矢がユピーに迫る。

 

「雷霆顕現!」

 

しかしユピーも黙って落下する訳ではない。不安定ながらも空中で右手を天に掲げると、荒野の上空の雲、空気全てが帯電し始める。

 

「銀雷よ!」

 

掲げた右手に世界が宿る。万象天雷、絶えず銀雷が轟き、あらゆる物質が分解され、全ての原子が激しく分子運動することで生まれる宇宙創生の世界。

 

「銀雷よ!万象世界を灼け!」

 

振り下ろされる右手と共に莫大な銀雷がクレパウルスの矢に向かって放たれる。

 

銀雷と矢が衝突する。

 

 

 

世界が明転する。

 

周囲は暴威の嵐が吹き荒れ、衝突の余波に巻き込まれた下位眷属がバラバラにちぎれていく。大地がめくり上がり、大気のすべてが消し飛ぶ。あらゆる衝撃が世界を粉砕する。数瞬されど永劫とも思える余波が徐々に拡散して、それが鎮まると辺りはもはやかつての光景が残らないほど掻き混ぜられた薄灰色の退廃的な世界が広がっていた。

 

一方、ユピーが上空で帯電し始めたその時から全力疾走で撤退していったマルス達は離れた丘の陰に隠れて大衝突をやり過ごした。

 

「あの野郎、毎回毎回全力でぶっ放しやがって!」

 

マルスが独りごちるが、その場にいた4人の総意であったため誰もが頷く。

 

「だがそれでもあいつが人類で唯一上位眷属と真っ向からやりあえる究極兵器だからな」

 

マルスに続いて長身の男が口を開く。

 

「だがよお!いくら神人派の俺たちでもあれは死ぬぜ?ヘリオス!」

 

ヘリオスと呼ばれた男は違いないと言わんばかりに首をすくめる。

 

「それよりもあいつらはどうなった?」

 

ヘリオスは丘から身を乗り出そうとする。すると余波で飛んできたのか、下位眷属の肉破片が気持ちいいくらいに顔面に直撃した。

 

「ぎゃはははは!!」

 

それを見たマルスが顔をぐちゃぐちゃにしながら笑う。

 

「相変わらず運が悪いなあ!てめえ!!

 

「よせ、運が悪かった訳ではない、避けられなかった私が悪いのだ。」

 

肉片をどこかへ投げ捨て、髪をかきあげながらヘリオスは視線を戦場に戻した。

 

するとまた何かがヘリオスに向かって飛んでくる。

 

「だから私は運など悪くない!!!」

 

再び自身目掛けて飛んでくる物体を粉砕しようとヘリオスがこぶしを固める。

 

「ん?」

 

不意にヘリオスが気づく。

 

「あれは人か?」

 

飛んできたのは人の上半身。かろうじて人の形を保ってはいるものの、肌は黒焦げ、腕は今にもちぎれそうなほどボロボロであった。

 

「あいつは、まさか!」

 

マルスが驚愕を持って吠える。

と同時にヘリオスはソレを優しく抱きとめる。

 

 

 

明転した世界でそれでもユピーはクレパウルスを視界に収めていた。

 

「銀雷よ!」

 

一条の銀雷がクレパウルスに向かって放たれる、瞬間クレパウルスは直感で銀雷を紙一重に交わし、交わしただけでなく銀雷に寄り添うかのようにユピーに音速で接近していく。

 

「くっ!」

 

体勢が芳しく無いなかで接近を許してしまったユピーは苦悶を零しながらも銀雷を掴むとそれを鞭のように縦横無尽に振るった。

 

辺りを無作為に蹂躙する銀雷にクレパウルスはたまらず防御体制を取るがその圧倒的攻撃範囲によりクレパウルスの巨体は直撃を免れなかった。その衝撃はただの鞭を遥かに上回り、天上の雷に打たれたかのような轟音とともにクレパウルスが吹き飛ぶ。

 

しかし吹き飛ばされながらもクレパウルスはユピー目掛けて鉄の矢を同時に5本射った。先程より威力は無いもののそれでも上位眷属の放った矢は音速を超えて空間を貫通し続ける。

 

「赫雷よ!」

 

同じくしてユピーも雷霆の出力を下げ、手数を増やす作戦に出る。網状に広がる赫雷と鉄の矢がぶつかり再び空間が陥没する。岩が空中で踊り、土が天へと昇り、塵が世界を覆う。しかし両者とも幾度となく死線をくぐり抜けた強者、視えておらずとも互いの気配を1ミリの誤差もなく察知し、接敵、最適解の打撃をぶつけ合う。

 

火と雷の均衡は崩れることなく、されど次第に両者の腕が崩壊していく。

 

故に勝負を決めたのは互いが衝突する前に負った傷の有無、一人の兵士の渾身の自爆がもたらしたわずかな火傷、つまり致命的な負傷が勝敗を分けた。

 

幾度めかも分からない全力の殴打を繰り返し、繰り返されたクレパウルスの左腕が不意に嫌な音を立てながら宙を舞った、主人の胴体を離れちぎれていった左腕を目で追うクレパウルス、しかしユピーはその一瞬を見逃さない。

 

「銀雷よ!」

 

ユピーは雷霆の最大出力を0秒で引き出し、そのまままクレパウルスの頭部を銀雷で射抜いた。

 

 

 

飛んできた人の上半身を受け止めたヘリオスはそれを優しく地面に下ろすと、手で顎を撫でながらそれを見つめた。

 

「おそらくだが自爆の威力が大きすぎて上半身がそのまま吹っ飛んだろう。」

 

「なんというかロケットみてえだな。」

 

「そしてそのまま失血死、さらにユピーと上位眷属の衝突の余波でここまで吹き飛ばされた訳か。」

 

「まあそんなことはどうでもいい、こいつも中央に運んで、例の実験だろ?」

 

「あぁ、俺たちは神人派だからな、ベルカ条約には逆らえない。たとえそれがどれほど倫理を欠いた行動だとしても。」

 

ヘリオスは視線を落としながらも言葉を紡ぐ。

 

「それが奴等の、神々の文明を支える生命工学を解き明かす唯一の方法なのだから。」

 




どうもアルクポッドです。
突然なんですけど、投稿は週二回ペースを保っていきたいと思ってます。コロナで暇なので多分大丈夫です!多分! 序章も終わり、次回からようやく主人公が動き始めます。
それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。