俺にとっての初任務、それは下位眷属の陽動作戦における殲滅役、人道派が撤退しきるまで通常火器で応戦し、その後雷霆でとどめを刺すだけの簡単な任務になるはずだった。
「くっ。」
思わず声が漏れる。
戦場の趨勢を識るのは女神だけ、矮小な人間はいつ死が訪れるかを知ることなどできない。
しかしこの瞬間だけ、俺は確かな確信があった、死が目の前にあると。
上位眷属三体から発せられる圧倒的な神威、陽動に派兵された人道派部隊を一瞬のうちに消滅させた怪物が戦闘態勢をとる。それだけで世界が軋むのが分かった。
平静を保っているように思えるのはユピーさんとヘリオスさんだけ、他の皆は額に汗を浮かべ、浅い呼吸を繰り返していた。
重くのしかかる緊張に耐えきれなくなりかけた、その時。
「雷霆権限!!!」
ユピーさんが急に叫んだ。
瞬間すさまじい雷の奔流が上位眷属を飲み込む。
そしてこれは時間稼ぎだと言わんばかりにユピーさんが命令を下す。
「ヘリオスとマルスはクルボルンを!
メルクリウスとミネルとテールはクロービスを!
俺はクレパウルスをやる!攻勢始めッ!!」
「「「了解!」」」
小隊全員が雷霆を構える。
ユピーさんの放った雷撃が消えると同時に上位眷属三体もこちらに突撃してきた。
「クレパウルスゥゥゥ!!!」
ユピーさんは全身に雷撃を纏いながら、クレパウルスと衝突、一瞬にして全体からクレパウルスを引き離した。
それを追いかけようとするクルボルンをヘリオスさんとマルスさんが背後から強襲する。
「てめえの相手は!!」
「こちらだ!」
クロービスには効かなかった雷撃のコンビネーションがクルボルンに炸裂する。
「うぬぅ!!」
赫雷の直撃を受け、丸っこい巨体が地面を激しく転がる。
そして刹那の余裕をもとらせまいと、二人はさらなる雷撃を浴びせ続ける。
視界に残るは、人の反射速度を超えるスピードで接近してくるクロービスのみ。
このまま直進してくるなら相対するのはメルクリウスさんでも、ミネルさんでもなく、俺だ。
腰を低く構え、雷撃を纏う右手で全身をガードできる体勢をとる。
「クロービス!!!」
自分を標的にしなかったことを怒るかのように、メルクリウスさんが吠えながら銀雷を振り下ろす。高密度に圧縮された銀雷は鞭のように天から振り下ろされ、地上を滅茶苦茶に蹂躙する。しかしクロービスに触れようとすると、やはり雷の鞭は解かれ霧散してしまう。
「まずはアダマスから墜とさせてもらう!」
その言葉に反応して地面から下位眷属がメルクリウスさんとミネルさんめがけて飛び出てきた。
「くそっ!テール!!!」
行く手を塞がれたメルクリウスさんが吠える。
二人を完全に無視し、信じられないスピードでクロービスが接近してくる。
このままでは反応すらできずにやられるという確信があった。
「雷霆起動!」
しかし敵が反射を超える世界にいるのならば自分もその世界に入門すればいい。全身に微弱な雷霆を流し、限界を置き去りにした。
「うおおおぉぉぉ!!!」
クロービスの猛烈な抜き手を紙一重で躱す。第二、第三の攻撃も全身をひねりながら躱す。
そして、そのままの勢いで小銃を取り出し、グリップの部分をクロービスの肘関節を振り下ろす。神人となったことで手に入れた阿呆ほどの膂力を全力で叩き込む。するとメコォという嫌な音を立てながら、肘があらぬ方向にねじ曲がった。
しかしクロービスは怯むことなく振り返り、小銃を持つ方の俺の肩めがけて手刀を振り落す。反応しようとした時には既に遅い。全く痛みを感じさせぬ動きに俺は虚を突かれてしまった。
「はっ!」
勢いそのままに肩が引き裂かれる。
「っ!!!」
声にならない絶叫を噛み砕いた。
視界の隅で俺の右腕が舞っている。しかしそれに気を取られる訳にはいかない。
右肩が燃えるように熱いのを無視して左手でサバイバルナイフを順手に取り出す。そして遠心力を殺さぬように大きく振りかぶりながらクロービスの首めがけてナイフを突き刺す。
それは首を後ろに下げられ躱される。しかし右足を軸に全身を回転させながらもう一度ナイフを繰り出す。そこでようやくクロービスの顎を掠める。
その瞬間を見逃さない。
「雷霆起動ッッ!!」
僅かに触れたナイフの切っ先を通り、莫大な雷をクロービスに浴びせさせる。
打ち込まれた雷撃が強烈な電気信号となってクロービスの身体を自らの意志関係なく跳ねさせる。
その隙にナイフを空中で逆手に持ち替え、そのまま全身全霊の力でクロービスの胸に差し込む。厚い胸板を神人の膂力でこじ開ける。
「雷霆起動!!!」
流しこんだ雷撃にナイフが耐えきれず爆発する。破片がクラスター爆弾のように両者の身体を切り裂く。しかしそれは想定内、ぐちゃぐちゃになった胸に同じくぐちゃぐちゃになった左手をねじ込み、雷撃を再開する。
「これならどうだ!!!」
全身を震わしながら碧雷を放ち続ける。
謎の力で雷撃を分散させる相手でもゼロ距離の雷撃ならば躱せまいと。
碧の輝きとともに周囲は暗転し、爆音が響く。
「!!!!」
クロービスが悲鳴らしき声を上げるが雷撃の爆音がそれをかき消す。
とどめを刺さんと全力の碧雷を放つ、その刹那、雷撃に慣れ、身体の自由を僅かばかりに得たクロービスが右腕を刀のように振り上げた。
その軌跡に沿うように大地が破断される。そして俺の左腕が遙か後方で地面に衝突した。
「見事だ、アダマスの戦士よ。」
左腕を失ったことで重心が崩されクロービスの方に倒れ込んでしまう。
碧雷から解放されたクロービスは一転して攻勢に移る。時間がスローモーションのように感じられた。赤熱した右腕が陽炎の如く揺らめきながら振り下ろされる。今から死力を尽くして回避行動をとっても避けきれるかは分からない。だが諦める訳にはいかない。最後の雷撃を自分に流して無理矢理身体を反らす。
それでもクロービスの豪腕から逃げることはできなかった。
身体に流そうとした雷は、クロービスが腕を振り下ろした余波で霧散してしまったのだ。
特大の熱波が迫る。
しかし俺の身体を引き裂くゼロ秒前、瞬間それをメルクリウスさんが寸前で間に割って入り受け止めた。
「無茶しやがって。」
莫大なエネルギーの衝突によって衝撃波が辺りに何度も広がる。上位眷属の赤熱した腕を前に、神人とはいえ生身の腕ではそう長く均衡は続かない。
「メル…クリウス…さん」
メルクリウスさんの腕がじわじわと黒化していく。このままでは押し切られると思ったそのとき、背後からミネルさんが銃剣でクロービスを貫く。
「なんと!?」
「く、ら、え!!!」
そのままとんでもない怪力でクロービスを持ち上げる。
そして俺と同じく銃剣を通して雷撃を流し込む。世界を黒く塗り替えるほどのエネルギー、膨大な量の赫雷が迸り、先ほどよりも数段上の爆音が鳴り響く。
「ここらの下位眷属は全部片付けた。両腕が再生するまでそこで寝てろ。」
俺はその傍らでメルクリウスさんによってゆっくり地面に寝かされる。
しかし伝えなければいけないことがあった。
すぐさま加勢に加わろうとするメルクリウスさんを寸でのところで呼び止める。
「メ、メルクリウスさん、あいつの能力の正体が分かりました。」
「何だと?」
遠距離から放たれた雷撃が全く通用しなかった訳を。
「おそらくですが、あいつは磁場と電場を操っています。
雷撃が霧散させられてたり、電流の流れたナイフが弾け飛んだのも全部そのせいです。」
先ほど矛を交えた数瞬で半ば本能的に悟ったことではあるが、幾ばくかの確信があった。
「なるほどな。人道派が通信できたなかったのもそれが原因か。」
それともう一つ、今度は不可解な点を伝える。
「あとあいつは、なぜか俺がアダマスを持っていることを知っていました。」
メルクリウスさんも不可解だと思ったのか首をかしげるが、すぐに切り替える。
「それは今考えても仕方がない。とりあえず雷撃が効かない絡繰りはこれではっきりした。後は俺たちに任せろ。」
「はい、、、腕が再生次第、復帰します、、、。」
そこで俺は地面に伏せた。全力で腕を再生させる、1秒でも早く戦線復帰しなければいけない。それが俺の生きる意味なのだから。
その間ミネルは銃剣と赫雷でクロービスを全力で封じ込めていた。そのミネルにメルクリウスが合図を送る。
ミネルは合図を受け取るとその剛力でクロービスをメルクリウスの方へ投げ飛ばした。
「!!」
一方クロービスは未だに理解が追いついていなかった。自分よりも二回りも小柄な生命体に持ち上げられ、あまつさえぶん投げらたことに。加えて、主より与えられた権能を行使しても処理しきれないほどの雷撃を二度も浴び続けてしまったことにすら、その動揺が拭いきれていなかった。
そしてその切り替えの遅れが戦場では致命傷となる。
「雷霆権限」
メルクリウスが銀雷を溜める。
しかしクロービスも最上級の戦士。雷霆の反応を察知し、半ば反射的に磁場を操作して周囲に雷撃の通らない空間を作り上げる。
そして静かに呟く。
「伝令の権能よ。」
それを聞いてクロービスは思わず叫んだ。
「まさか貴方も権能を!!!」
「跳躍せよ。」
権能の発現を悟ったクロービスは最大規模の磁場を展開するが、メルクリウスの放った高密度の銀雷は空間を超越しクロービスに直撃した。
どうもアルクポッドです。
9月中に投稿するはずが、気づけば10月に!
一日なんでぎりセーフかなと、嘘です反省してます。
次はクロービス戦の続きと、クルボルンの様子を10月半ばに投稿できたらいいなと思います。
それではまた次回!!!