「間違いなく上位眷属のお出ましだな。」
グラン戦域東部戦線における陽動作戦に参加していた人道派部隊の全滅をようやく察知した司令部は混乱を極めていた。
「グラン中将!!どうか指示を!」
「死体回収班を観測役として向かわせる。ただし一切の交戦を禁じろ。」
指示も何もない、連絡が取れない以上、文字通り部隊が全滅したと言っても過言ではない。上層部の考えていることは分からないが、これ以上の犠牲を許せるほどグランは無能ではなかった。
「席を少し外す。参謀本部に報告と確認したいことがある。」
そう部下に言いつけると足早に司令室を飛び出て、本部に向かおうとした。しかしその瞬間彼を呼び止める声がかかる。
「グラン、だめよ。」
「ウェスタ!」
神人派部隊の司令部責任者であるウェスタが持ち場を離れ、人道派基地にいることが既に異常であった。
「なぜお前がここに?ユピー部隊への指示はどうした?」
「あなたが参謀本部に怒鳴り込むのを止めて、神人派基地に呼べってユピーに言われたのよ、とにかく落ち着きなさい。」
「だがもうこれで人道派部隊の人間が何人死んだ!」
部下の前で抑えていた激昂がついに漏れた。
「、、、上層部の考えを教えてあげるわ。」
「なに?」
「でも今はユピー部隊のことに付き合って。」
「、、、今の俺に何をしろというのだ?」
「貴方が研究していた奴らの”権能”についてよ。とにかくこっちへ。」
ウェスタに促され、渋々とグランは渋々ウェスタについていく。
「この世界の理すら容易に捻じ曲げる超常の力、神の奇跡、権能。おそらく今回の戦場がようやく表舞台で初めて使われた機会となったわ。」
「、、、上位眷属以上は権能が使えるという考察は当たっていたわけだ。」
「そこは重要ではないわ。でも今回の戦場でようやく人類はその有用性を証明することができる。」
「何だと?」
「それこそがユピー部隊の目的。」
「権能を発現した戦闘員から構成されるユピー部隊。彼らはそのための部隊なのだから。」
時を同じくして遂に人の口から権能が言祝ごわれる。
「伝令の権能よ。」
腕を失った俺は地面に伏せながらも、戦いの趨勢を伺っていた。最悪肘まで再生できれば雷霆は放てる。ボロボロの体に鞭を打ちつつもクロービスの隙を見逃さぬように顔を上げていた。
しかし、メルクリウスさんが何かを呟いた瞬間、この世の理を超えて世界が割れた。
そして裂け目から雷の地獄が顕現する。
この世界のあらゆる物理法則を無視した現象、エントロピーが急速に低下していく。虚無より現れた雷は0秒で指向性を定め、創生世界、万物の在り方を変えてしまうほどのエネルギーを破壊へと転向させた。
そしてそのままクロービスのゼロ距離で雷霆が、最高位の銀雷が炸裂した。
「!!!」
辺りに莫大な破裂音が響き渡る。躱す以前に察知することすら敵わない不可視の攻撃、防御体制を全くとれなかったクロービスは全身を黒く焦がしながら宙に吹き飛ばされ、そのまま激しく地面と衝突した。もはや戦闘を続けられる状態ではなかった。
まさに一撃、たった一言で上位眷属との戦いに決着がついたのだ。
しかし、勝利の余韻は一瞬にして冷めた。黒焦げのクロービスはフラフラと立ち上がり、メルクリウスさんの方を向き直したのだ。
俺は思わず絶句した。ミネルさんと俺の雷霆で胸の内側から焼かれ、メルクリウスの銀雷によって完全に五体を破壊されてもなお立ち続けられる生物など馬鹿げている。
しかしクロービスの闘争に対する献身に応えようとメルクリウスさんも再び戦闘態勢をとる。ゆらゆらと立つクロービスはどこから見ても隙だらけだった。しかし、なにか違和感があった。あれほどのダメージを受けて立てるはずがない、そもそも立つということは勝機があるということ。やつはまだ何かを隠している。そしてそれに気づいたのは、トドメを刺さんとばかりにミネルさんが後ろから銃剣で貫こうとした時だった。
「よもや、ここまでとは。」
声帯など完全に焼け落ちた筈のクロービスが厳かに語りかける。
「だまれ、いい加減、倒れろ!!」
「鉄の。」
「ミネルさん危ないっ!!!」
そう、そこでようやく答えに辿り着いた。やつは今まで一度も権能を口で発していなかったのだ。メルクリウスさんの呟いた「権能」という言葉、ユピーさんが時々話してくれた異常能力。紡ぐことで世界の原理すら歪める超常の業。あれは言祝ごうことで真価を発揮する力だと誰から教わるわけでもなく、本能で理解した。そして仮にやつが発したならば、その威力は...
「鉄の権能よ。」
瞬間世界が真っ黒に染め上げられた。クロービスが世界に語りかけると、大地から”黒”が柱のように天を擦りながら吹き出し世界を覆い始める。
そしてその”黒”に激突したミネルさんは嫌な音を立てながら吹き飛んだ。
銃やベルトの留め具、身につけていたあらゆる金属が革紐を引きちぎり、その渦に取り込まれていった。
”黒”の正体はすぐに分かった。
無数の砂鉄が地面より這い出て嵐のようにクロービスを覆っているのだ。
「油断していたわけではないですが、なるほど。貴方たちは既にその領域に在ったのですね。」
ボロボロとクロービスの身体から焦げが剥がれ落ちていく。真っ黒に焦げ付いていたと思っていたのには肉体ではなく砂鉄であった。戦いが始まる元から可視性をギリギリ抑えて砂鉄を身に纏っていたのだ。
場には動かなくなったミネルさんと、両腕のない俺、比較的体力の残っているメルクリウスさん。相対するは磁場と電場を自在に操る無双の上位眷属。
ジリジリと戦況が悪い方向へと沈んでいく。
「私からも宣戦布告を、さあ戦いを始めましょう。」
クロービスとの権能の戦い、その幕がようやく上がった。
一方、クルボルンを相手取ったヘリオスとマルスは戦いの均衡を崩せずにいた。クルボルンは直接戦うのではなく、地の底から下位眷属を召喚し続ける戦闘スタイルをとって時間を稼いでいた。
戦闘というよりは作業の如き戦いが続く。2人の雷霆が下位眷属に当たると下位眷属はボロボロと塵芥に消え、また新たな下位眷属が湧き出る。クルボルンは奥でゆったりと戦いを見守るのみ。
「なぜ、なぜ貴様は戦わない!?」
マルスが下位眷属を雷霆で破壊しながらクルボルンに問いかけた。
「、、、」
「答えろぉ!!!」
マルスがクルボルン目掛けて雷霆を放つが、やはり地面から下位眷属が飛び出して肉盾となり、無効化された。
「、、、この戦いに意味がないからだのぉ」
一呼吸の沈黙を起き、クルボルンはその野太い声を響かせる。
「意味が、ない!?」
「そうだぉ、意味がない。だってお前たちは戦いに参加する権利がねえ。」
気怠げにされどはっきりとクルボルンが答える。
「どーゆうことだ!!今だってこうやって戦ってるだろうが!」
「、、、あと一柱の神が降臨すれば本当の戦いが、始まるぉ。そうなればお前たちは自分が、どれだけ矮小な存在か分かるぉ。」
「んだとぉら!!てめぇ!!」
その言葉に激情したマルスが雷霆で下位眷属を吹き飛ばしながら、クルボルン目掛けて突貫した。
しかしクルボルンは身体を跳ねさせると宙で停止し、その突撃を躱した。
「くそッ!あの野郎ッ!空中に浮けるのかよ!」
そしてまた死なない程度に手加減された量の下位眷属が地面より湧き上がってきた。
「その短気さも、脆弱さも、おでは人間が好きだぉ。だから世界の隅っこでほのぼの生きていて欲しいぉ。」
「、、、それを生きるとは言わない。」
今まで沈黙を保ち続けていたヘリオスがついに口を開いた。
「急になんだぉ?」
心の内を見抜くような鋭い眼光に嫌な予感を感じ取ったクルボルンは空中をゆっくり下降しながら問いかけた。
「それを人は生きるとは言わない。
ただ生を繋ぐだけの行為を生きるとは呼べない。」
「ほーん、じゃああとは何を望むぉ?」
やや不機嫌になったクルボルンの疑問にヘリオスは軽く首を振る。
しかしその途端ヘリオスの足元を抉り取るように下位眷属が無数に召喚された。完全な騙し打ちにマルスは思わず叫ぶ。
「ヘリオス!!」
足場を失ったヘリオスは重力によって鮮やかに下位眷属の口に吸い込まれていく。一瞬の後に絶命の危機に陥れられた。
されどその一瞬で世界の常識は塗り替えられる。
「紅炎の権能よ」
瞬間世界が眩く燃え上がる、ヘリオスの呟きとともに周囲に太陽爆発に匹敵する熱量が噴き出した。
直下の下位眷属は炭化し塵芥に消え失せ、マルスはその余波で大きく吹き飛ばされた。
そしてクルボルンには。
「躍動せよ。」
噴き出した爆発が指向性を保ちながらクルボルンに衝突し、その巨体を飲み込んで大爆発を起こした。遠くで着地したマルスの鼓膜が弾け飛ぶほどに。
「静滞せよ。」
陥没した大地に降り立つヘリオス。そして周囲に漂う熱がヘリオスの周りに纏われる。
その瞬間クルボルンの爆心地から熱戦が放たれる。高濃度に収束された熱線は空間を穿ちながらヘリオスに向かうが、ヘリオスの熱空間に侵入した瞬間たわみながら拡散しながら彼方へと抜けていった。
「人間も権能を使えるのかぉ、、、」
煙が晴れると、クルボルンが右半身を焼け爛れながら現れ、ぼやいた。
「火を手に入れた人は、叡智を開き、遂には神の領域にすら手をかけた。」
「あらゆる困難を乗り越え、その命の輝きを示す。それを
生きる
というのだ。」
静かに相対するヘリオスとクルボルン、先に仕掛けたのはクルボルンであった。
「戦争の権能ぉ!!!」
クルボルンの雄叫びと共にまた地下から下位眷属が湧き出す。
しかし下位眷属はこれまでの無秩序な群体ではなく、軍隊のごとく統率された動きで隊列し始めた。
一瞬で敷かれた右翼と左翼が、大きく前進しヘリオスを挟み撃ちにする。怒涛の波が両方向から向かってくるのに対して、ヘリオスは顔色一つ変えずに状況を理解する。
「これが貴様の権能というわけか。だが群は範囲破壊に有効であって、
圧倒的な個に用いるものではない。
紅炎の権能よ!」
ヘリオスの周囲が異常なほど熱せられ、下位眷属の赤黒い波濤と眩い炎が激突する。
しかし先程と違い全ての下位眷属がすぐに炭化することはなかった。前衛は死に絶えたものの、無限に湧き続ける後続の下位眷属が死体を盾にヘリオスとの距離を縮める。
「むっ」
「行けぉ。」
その波濤は止まることなくヘリオスを飲み込んだ。
「その権能は知ってるぉ、そしてその弱点も。ようは近づけいいんだぉ。」
「雷霆起動。」
しかし今度は雷霆を放つことでまとわりつこうとした下位眷属を吹き飛ばした。
「宇宙すら焦がす紅炎だが、それは諸刃の剣。天文学的な熱量を至近距離の相手に使えばこちらも無事では済まない。
そう言いたいのか?」
「似たようなことをベラベラとぉ、その権能は不愉快だぉ!」
すると途端にクルボルンの背後が爆発した。
「ぬぉぉぉぉおお!!!??!?」
丸っこい巨体がヘリオスの方へと吹き飛ばされる。マルスがいつの間にかクルボルンの背後を取り、ありったけの赫雷をノーモーションで解き放ったのだ。
「どいつもこいつも権能をぶちかましやがって!後で覚えてろよ!」
「良出来だ、マルス。」
紅の炎がゆっくりと渦を帯びながらヘリオスの周囲纏われる。
「徐に融けよ、紅炎の威光を此処に。」
「躍動せよ!!!!」
瞬間、まさに太陽が顕現した。
「権能の運用に関する特設部隊、ユピー部隊。
人間に無理矢理権能を埋め込んだのか、、、」
「そういうことになるわ。でも中にはあの日を境に発現した人もいる。とにかくこれなら上位眷属とも互角に戦えるのよ。」
「、、、ウェスタ、それは本気で言ってるのか?」
「どういうこと?」
「人間の権能で本当にやつらと対等に渡り合えると考えているのか。これで奴らを倒せると。」
「そうよ、上層部もそのために神人派の増強を図っている。」
「ならばそれは大きな驕りだと言っておこう。」
「、、、」
「人類は権能を用いて神を殺してはならない。」
今回も最後まで読んでくださりありがとうございます、アルクポッドです。そして前回10月中旬に投稿するといっておきながらの大遅刻、大変申し訳ありません。言い訳がましいのですが、リアルでちょっと栄進がありまして、その関係でとんでもなく忙しくなり結果この様となりました。しかし今後はまた順調に投稿していけそうなのでご安心ください。これからもしばらくお付き合い頂けると幸いです!