ヴァーナログ8話
「いずれ来る神々の大いなる戦い、その輝かしい前哨戦を始めましょうか。」
クロービスの神威が煌々と膨れ上がる。紅蓮の如き長髪が重力の鎖を引き千切り空間に広がる。
「鉄の権能よ、火と鉄、戦争の神グランの威光を示せ。」
厳かに言祝ごわれた世界は無残にもその理を捨て去る。地面から鉄が湧き上がり、鉄の権能によって収斂された黒い槍が無数の方向からメルクリウスに襲いかかる。
黒の波濤はそのままメルクリウスを飲み込む。しかし当のメルクリウスは無数の槍を紙一重で交わし続けていた。直線的に襲いかかる槍もあれば、螺旋を描く槍、弧を描く槍、縦横無尽に死が降り注ぐ。
「伝令の権能よ。」
しかしそれをただ躱して終わるだけのメルクリウスではない。微弱の雷霆を自身に流し、神経伝達を超えるスピードで権能を起動する。
そのまま降り注ぐ絶死の槍から、伝令の権能を以って身を隠す。
「雷霆起動!!!」
0秒でクロービスの背後に顕現したメルクリウスは銀雷を槍のように織って、意趣返しと言わんばかりに突き刺す。
数瞬遅れてクロービスが体を捻って躱そうとするが、数瞬とは致命的な時間、銀の槍が轟きながらクロービスの左肩を貫く。
「ふっ!」
しかし同時に地面から無数の黒い槍が飛び出る。銀の槍を手繰り、連撃を繰り出そうとしていたメルクリウスは退却の姿勢を取れず、十を超える槍に貫かれた。
「ぐぅっ!」
内臓を貫かれたメルクリウスは苦悶の声を漏らすが、銀の槍の解れを壊し、迸る銀雷を以ってクロービスを彼方へと吹き飛ばした。爆音が鳴り響き、同時に周囲を襲っていた黒が消える。
しばしの時間稼ぎ、メルクリウスは片膝を着き、全身の回復に集中した。
しかし稼いだ時間は刹那の如く、彼方より猛烈な勢いでクロービスが突っ込んできた。全身を躍動させながら接近を図るクロービス、鉄の権能によって鍛えられた黒の槍をメルクリウスの頭目掛けて打ち込む。
「雷霆起動!」
接近に伴う厖大な衝撃波に、もはや雷の放撃では迎撃できないと悟ったメルクリウスは、降り掛かる死を銀雷の槍で受け流す。
しかし槍の特性上、払われたとしてもすぐに次の突きが繰り出せる。突き、突き、突き、突き、突き突き突き突き、永劫を思わせる時間、豪雨を思わせる猛攻がメルクリウスを徐々に疲弊させる。弾き逸らして、また弾き弾く。正中線を外した連続突きは狙いが広すぎてメルクリウスの集中を徐々に削いでいく。
そしてついに払い損なった一撃がメルクリウスの脇腹を大きく抉った。顔を歪めるメルクリウスと、勝利を確信して笑みを浮かべるクロービス。
「これで終わりです。」
槍を短く持ち直したクロービスがトドメを刺さんと天に腕を掲げようとした瞬間、
「伝令の権能よ!」
「な!その怪我で権能—」
腹を抉られた数瞬後には槍を掴んで、槍ごと自分の身体をクロービスの側面に飛ばした。そして最後の反撃、銀雷の槍をクロービス目掛けて全霊で打ち込む。
「だが甘い!」
徒手になったクロービスが柏手を打つと鉄のカーテンが両者の間に敷かれる。しかし放たれたメルクリウスの右手に槍は握られてなかった。
瞬間クロービスの背後から途轍も無いほどの光が漏れ出し、世界の明暗がくっきりと別れた。そして覚悟を決めたメルクリウスの顔が浮かぶ。
「なんと!!槍だけをッ!!!」
メルクリウスとは反対の方向から銀雷の槍が飛び出し、轟々とクロービスを貫いた。生物としての致命傷に加え、体液すら蒸発させる電熱に思わず苦悶が溢れた。
鉄のカーテンが解れる。鉄の鎧ごと身体を貫かれ、大きく体勢を崩したクロービスはもはや権能の維持をできない様子だった。
「雷霆起動!」
その隙をメルクリウスは決して見逃さない。メルクリウスの呼びかけと共に顕現した銀雷の槍が黒の間隙を縫ってクロービスの頸に狙いを定めた。
「ウェスタさん!おかえりなさい!」
溌剌とした女性の声がかかる。ウェスタとグランが神人派本部の司令室に入ると小柄な女性が二人を出迎えた。
「ただいま、クピド。」
「はい!人道派のゴミクズを迎えに行かれると聞いた時はヒヤヒヤしましたけど!無事で何よりです!」
「ご、ゴミクズとは...」
突如として放たれた言葉にグランが狼狽えるが、クピドは顔色を一切変えない。
「はじめまして!グランさん!」
それどころか普通に挨拶してくるのでグランは考えるのを放棄した。
「あぁ、はじめまして...。」
「この娘はそういう子なの、順応が早くて助かるわ。」
ウェスタも諦めた様にグランを諌める。
「ところで!この人が本当に奴らの殺し方を見つけてくれるってほんとですか!?」
「ええ、早速だけどこれを見て欲しいの。」
ウェスタはグランにタブレットを貸し、とある映像を見せた。
「これは...」
それは現在進行形で行われているメルクリウスとクロービスの戦闘の録画映像だった。
「普通の生物なら既に5、6回は死んでいるわ。でも奴は死なない。もう人類の築き上げてきた科学では説明できない存在よ。グラン、直感でも良いわ。なにかこの映像に違和感だったりを感じないかしら?」
権能が発動するたびに画面が激しく点滅し、グランの顔を照らす。
「違和感...、特には感じないな。どちらも死力を尽くして戦っているように見える。」
映像を見ながらグランは顎に手を添える。
「しかし一つ挙げるとしたら」
「挙げるとしたら...?」
「なぜ...
クロービスはなぜメルクリウスの心臓を狙わない?」
ウェスタとクピドは大きく目を開ける。グランの答えを待っていたかと言う様に。
メルクリウスの渾身の一撃がクロービスの頸を捉える僅か一瞬の前。
ほんの一瞬をついて銀雷の槍が止められる。
「クロービスゥ、お前やられすぎだぉ。」
いつのまにかクルボルンが姿を表し、メルクリウスの攻撃を防いだのだ。
「なっ!?」
そして無造作に二つの影がメルクリウスの前に放り出される。それは黒く焼け焦げたマルスとヘリオスであった。
「こいつらが回復するまで暇だからぉ、おめぇに貸し付けといてやるぉ。」
「貴様ぁぁぁ!!!」
仲間の無惨な姿にメルクリウスが激昂した。
怒髪天を突く勢いで無数の銀雷の槍を装填し、限界を超えた伝令の権能を以ってクルボルンを串刺しにしようとする。
「いや貸しは必要ない。」
しかし伝令の権能が行使されるよりも早く、隙だらけのメルクリウスの心臓がクロービスによって貫かれる。
「すっかり忘れてたんだよ。殺さなくてもいいんだったな、こいつらは。」
矛盾した言動を前にメルクリウスは心臓を失い倒れ込む。
「ぐっ!!...き...貴様らは...一体なにを...」
「あ、」
ようやく腕を回復し終えたテール、しかしそれでは間に合わなかった。
ギリギリで保たれてた精神が、仲間の壮絶な死によって崩壊する。
雷霆アダマスが暴走を始めた。
読んでいただきありがとうございます、アルクポッドです。
3月投稿を謳いながらのこのザマ、本当に申し訳ないです!
次は5月までに投稿する予定です!()