カタクリとジンベエが話している間に、蹲(うずくま)っていたタマゴ男爵…否、ヒヨコ子爵とペコムズも立ち上がる。圧倒的な強さを持つカタクリ、それにまだ倒しきれていない3億超えの海賊二人が相手では流石に勝ち目がないと悟ったジンベエは、
「ううむ…。わかった。ここはお前さんの要求を飲もうか。」
と歯を食いしばりながら言う。だがそこへ、
「しかしなあジンベエ、俺たちに恥辱を与えたお前にはもう死んでもらうしかないボン!!」
とヒヨコ子爵は斬りかかった。カタクリがその気になればこの国は最悪滅びる。そう考えれば、ジンベエはこれ以上、下手にヒヨコ子爵らに手を出してカタクリらを怒らせるよりもここで潔く死ぬ道の方が良いように思えた。
「我が人生、一片の悔いもありはせん。」
ジンベエはヒヨコ子爵が両手に持つ小刀が、その無防備な首を切断するのを待つのみであった。が、その時無表情であったカタクリの顔が少し歪んだ。
「チッ、面倒な奴らが来たな。」
それを言うのと同時に、ヒヨコ子爵はジンベエへと一直線に走っている最中に突然上から強い衝撃を受け、地面にはクレーターが出来てヒヨコ子爵は地面に伏した。
「俺は白ひげ海賊団船長・ヴェル。俺たちのナワバリを荒らす奴は許さねぇ…!」
その衝撃とともにそんな声が広場に響く。爆発させられた広場に立てられた白ひげ海賊団の旗を新たな物に替えてヴェルは敵を見た。
ヒヨコ子爵は強大な衝撃に耐えきれず、完全に粉々になってしまっている。ペコムズは初めて対峙するヴェルの存在感に圧倒されて口を半開きにさせている。
カタクリだけは鬼の形相でヴェルを睨んでいたが、ヴェルには心強い味方・ジンベエもいる。勝機は完全に潰えてはいなかった。
「ヴェル君、よく来てくれた。助かったわい。」
ジンベエはヴェルを見て嬉しそうにそう言った。二人は以前から仲が良く、ジンベエはヴェルに稽古をつけることもあった。
「ええ、ジンベエさん!ちょうど良いタイミングで来れてよかったです。」
「あぁ、そうじゃな。ところで、奴ら相手にどう戦う?」
ジンベエがヴェルに問うと、ヴェルは神妙な顔で考える。
「あの奥におる奴は正直、別格じゃ。ワシが三人おっても互角ぐらいじゃわい。」
「確かに強そうですね。マルコさんでも勝てるかわかりません。」
「うむ。なんでも、奴は見聞色を鍛え過ぎて少し先の未来が視えるようになったらしい。少しぶっ飛んだ話にも聞こえるわい。」
ヴェルもまさかそんなはずはないと思ったが、考えてみればビスタも極限の見聞色は未来が視えると話していたし、実際に目の前にいる敵のオーラを見ればハッタリだとも断言できない。
「で、どうするお前さん、あのカタクリという男とどう戦う?」
ジンベエはヴェルに聞き直すが、ヴェルは、
「カタクリは今は考えなくても良いと思います。手前にいる二人を手分けして倒しましょう。」
と返答する。何を考えているんだといった表情でジンベエはヴェルの顔を見つめるが、ヴェルはヒヨコ子爵が粉々になっていたところを見つめて動かない。すると、広場に大きな声が響いた。
「コケコッコー!!!」
広場にいた誰もがその音の発信源を注視すると、そこにはヒヨコからさらに進化したニワトリ伯爵が立っていた。
「なんだあの面白能力は。」
呆れた声でヴェルは言うが、ヒヨコ子爵だった時のスピードを遥かに凌駕するスピードでヴェルへと仕掛けた時、ただの面白能力ではないことを悟る。
続いてペコムズも自身にダメージを与えたジンベエに襲いかかる。まだニワトリ伯爵とペコムズによる戦いは終わっていなかったのだ。
四人が打ち合っているのを見てカタクリはゆっくりと動き出した。卑怯かもしれないが、ヴェルとジンベエがそれぞれ攻撃を受けている今、攻撃の絶好の機会である。カタクリは少し跳躍して、
「武装色硬化“角モチ”!」
と超高速かつとても強靭な武装色の覇気を纏った拳を右手から繰り出した。遠目でそれを見ていたヴェルも、やがて自分の方へ向かってくるとわかると青ざめる。まともに食らったら致命的なダメージを負わされかねない。
「チッ…。」
だが、そうして舌打ちしたのはヴェルでなく、拳を出したカタクリであった。
「ビキッ!!」
ヴェルへと一直線に向かっていたその拳は途中で止められたのだ。
「悪いが将星・カタクリよ、ここは俺と手合わせ願おう。」
現れたのはビスタであった。剣を鞘にしまい、自慢の髭をいじりながら余裕の表情でカタクリを見つめる。
「面倒な…。お前が相手だと時間がかかりそうだ、"華剣"のビスタ…。」
カタクリはビスタを嫌そうな顔で睨み返した。そして、
「ほう、俺の名前を知ってるのかい。」
「ふっ、お前ほどの剣豪を知らん方がおかしかろう。」
という会話を皮切りにビスタとカタクリの槍である土竜は激しくぶつかり合うこととなった。
ジンベエはペコムズをこれでもかと殴りつける。幾度か試してみたが、やはりペコムズの甲羅自体はビクともしない。外的衝撃をダメージの主軸とした七千枚瓦回し蹴りでもどうやら傷一つつかない様子だ。
だが、
「あまり使いたくはなかったが…。魚人空手奥義・“無頼貫”!!」
と水から衝撃を伝える技を出したところ、やはり大ダメージを与えられた。その攻撃を受けてから、ペコムズはミンク族の特性でもあるエレクトロと体術で対抗してきた。これは非常に良い作戦で、水、特に海水を操るジンベエに対して、海水に流れやすいエレクトロによる電撃は効果的であった。数回電撃をジンベエも浴びせられた。
しかし、エレクトロの威力はジンベエを数発の攻撃で仕留められるほど高くなく、ジンベエは戦法を撃ち水による遠距離攻撃に変えつつ、隙を見て近接攻撃によるダメージを加えていった。二回も大ダメージを負わされたペコムズの体は思うように動かず、最終的に戦場で一番早く敗北を喫することになった。
一方で、ヴェルを相手するニワトリ伯爵は二本の短剣を用いて猛攻撃を仕掛けていた。ヴェルは今までしていた見聞色の覇気の訓練を必死に思い出して対応していた。もしあれをしていなかったら、何発かニワトリ伯爵の攻撃を貰っていたかもしれない。
そんな中、攻撃を躱しながらヴェルは反撃もせずにイメージを練っていた。訓練のおかげである程度強い覇気を使えるようになったものの、まだ集中しないとそれは使えない。
(イメージするんだ…、ニワトリ伯爵の頭をぶっ潰すような攻撃を。)
傍から見たらヴェルが一方的にやられているように見えるこの状況だが、ヴェルが避ける以外の他所事を考えれるほどにその戦力差は開いていた。
「逃げてばかりで恥ずかしくないのかー!!」
そして、ニワトリ伯爵があまりにチョロチョロと避け続けるヴェルに苛つき、無理な攻撃を仕掛けた瞬間、ヴェルは動いた。
思い切り右手を突き出したニワトリ伯爵の一撃をしゃがんでニワトリ伯爵の間合いに入りつつ避け、屈んだ状態から下方向に放衝し、一瞬にしてニワトリ伯爵と距離を詰める。
「こ、コケッ!?」
驚くニワトリ伯爵に、無慈悲にもヴェルは一撃を叩き込む。
「お前をぶっ潰す一撃だ。受けてみろ!!」
殴ろうとしているヴェルの腕は両方とも後ろに伸ばされている。
「ショクショクの“バズーカ”!!」
後ろへと引き伸ばされた両手が一気にニワトリ伯爵の顔に衝突する。放衝によってあまりに速く距離を詰めたため、ニワトリ伯爵はガードすることすら出来なかった。ヴェルの掌からは凄まじい勢いで放衝され、ヴェルもその反動で後方へと宙返りをして着地した。
「パンッ」
と破裂音を立ててバズーカを受けたニワトリ伯爵の顔は音の通りに破裂。その場で崩れ落ちた。タマゴ男爵およびヒヨコ子爵、ニワトリ伯爵は倒されても再生する。だが、再生の途中の段階となる卵の状態は隙だらけだ。
「グチャッ」
倒されたニワトリ伯爵は卵になって再びタマゴ男爵に戻ろうとしたが、ヴェルに踏み潰されて儚く絶命させられた。
ヴェルが戦っている様子を見ていたジンベエも、戦い終わるとヴェルに労いの言葉をかけてビスタの方を見る。
「流石はビスタじゃ。あの将星・カタクリに一歩も引かず互角の勝負をしている。」
カタクリがモチモチの実で変則的な攻撃をしたり、未来が視えるという能力を活かした速攻を仕掛けてくるのだが、それに対して素早く対応し、剣と槍がぶつかり合っても力負けしていない。
「ですが、カタクリの方がやや優勢かもしれません。ビスタさんは息がかなり上がってます。ただ、まだ“華剣”は出していないですね…。」
「まあ、どちらにせよ加勢すればカタクリは劣勢に立たされるだろうな。」
ヴェルとジンベエは顔を見合わせてビスタの元に赴いた。
ビスタは焦っていた。本人の弁ではないものの、噂通りカタクリは本当に未来が視えているようで、攻撃は大概当たらない。また、カタクリが操る餅はビスタの剣との相性が最悪で、覇気を纏えば攻撃は通るのだが、剣本来の斬るという特性が餅の粘着力に阻まれる。何とか相手の攻撃を凌いではいるものの、相手は本気を出してはいなさそうだし、勝ち目が見えてこなかった。
そこへ、
「ビスタさん!」
とヴェルたちが駆け寄る。この3vs1の状態にはカタクリも頭をかいて悩ましげにする。1分ほど両者は睨み合い、やがてカタクリが呟いた。
「チッ、一旦は引いてやる。だが、優秀な部下を二人も奪ったツケはいずれ払ってもらうぞ、白ひげ海賊団…。」
「あぁ、望むところだ。」
ヴェルはそれに答える。ヴェルは彼らビッグマム海賊団がしている圧政を元々快く思っていなかったし、今回の白ひげが死んだところで魚人島の弱いところを突くようなやり方を頑として許す気はなかった。
「バチバチバチバチッ」
そんな睨み合う両者の周りにはそんな音とともに他を圧するような空気が充満する。それに気圧されて気の弱い者は次々と倒れていく。
「ヴェル…、お前覇王色の覇気の持ち主だったのか…。」
ビスタは驚くが、静かに怒りをカタクリに向けるヴェルは気付いていない。数秒その重々しい覇王色の覇気のぶつかり合いが続き、カタクリは何事もなかったかのように自身の船へと戻っていった。千人程度で赴いたビッグマム海賊団はカタクリを除いて全滅したのだった。
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