鬼滅の刃の世界に転生したけど味方に鬼がいませんでした   作:せとり

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12.刀鍛冶の里・岩柱

「カァー! 甘露寺蜜璃、上弦ノ伍トノ交戦中、上弦ノ弐ガ介入~! 劣勢! 急ゲー!」

「何……! 上弦の弐だと?」

 

 身長二メートル以上もある巨漢の男、行冥は、上弦の伍の襲来の報せを受けて刀鍛冶の里に向かう最中、さらなる続報を受けて驚愕した。

 上弦の鬼は一体でも柱が勝てるか分からない強さだ。それが二体など、絶体絶命の窮地と言っていい。

 

「何とか耐えてくれ、甘露寺……!」

 

 武器の定期的な点検のため、行冥が刀鍛冶の里に向かっていたのは僥倖だった。

 おかげで大変な事態に居合わせることができた。本来なら遠い任地で間に合わないところだった。

 

 刀鍛冶の里が、すぐそこに見えていた。

 火の手が上がっているのか夜闇が赤く染まり、濛々と黒煙が上っていた。

 微かに聞こえてくる悲鳴や助けを呼ぶ声に、盲目の瞳から涙が零れる。数珠を持って合掌し、念仏を唱えた。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

 しばしの黙祷を捧げた後、意識を切り替える。

 悲しみに暮れていた行冥の顔つきが、怒りを宿した戦士のそれへと変わった。

 

「悪鬼共め……許さん!」

 

 里と森の境目辺りに来た時、行冥の透き通る世界にまで至った鋭敏な感覚は、何かの気配を察知した。

 森の中、植物のような気配の薄さで佇んでいた。

 紫の袴下に黒の袴、腰に差した獲物は刀と、侍然とした男だった。

 

 視線が合う。

 この重厚な威圧感、間違いなく上弦の鬼だ。それも上位の数字の。

 

(甘露寺の方に弐と伍がいて、参は鳥海が滅した。ならばこいつが上弦の壱か)

 

 隙の無い佇まい、武術においても相当な手練れだった。

 この者もまた自身と同じ領域にいるものだと、両者は瞬時に悟った。

 

「むんっ!」

 

 行冥は、鎖斧の鉄球を加速させ、侍の鬼――黒死牟に向かって投げつけた。

 黒死牟は最低限の動きで鉄球を回避した。

 骨の向き、筋肉の収縮、血の流れ。透かした体内の挙動から回避する方向を瞬時に読み取った行冥は、躱した直後に背後から頸を粉砕するべく、巧みに鎖を操った。鉄球は寸分違わず狙い通りの場所を穿ったが、そこには黒死牟の姿はなかった。

 黒死牟もまた行冥の狙いを看破し、最小限の動きで回避して、己の間合いへと足を進めていた。

 

 ――月の呼吸、壱ノ型、闇月・宵の宮。

 目を見張るほどの速さの踏み込みからの一閃。

 振るわれた斬撃に沿って、大きさが常に変化する三日月の刃が無数に形成された。

 

(これは……奴の血鬼術か?)

 

 初見の技も危なげなく対処し、分析する行冥。

 

(近接での手数は相手の方が上。ならば距離を取って戦うまで!)

 

 大きく飛び退り、距離を取って戦おうとする行冥に対し、一歩も引くことなく追いすがる黒死牟。

 両者の行動は、完璧な予測、精度を以って導かれた最善手を打ち続けていた。

 実力は拮抗していた。戦いの勝敗を分けるのは、ほんの僅かな差だった。

 その僅かな有利・不利が、実力が拮抗した者同士の駆け引きにおいて重要な要素となる。小さな差がさらなる差に繋がり、勝敗を決める大きな差ができるのだ。

 少しでも相手より有利を得るべく、両者は虚々実々の限りを尽くして戦った。

 

 木々や地面が斬られ、抉られ、粉砕されて、森が破壊されていく中、渦中にある両者は全くの無傷であった。

 

「…極限まで鍛え上げられた肉体…透き通る世界にも至っている…素晴らしい…体を温めるには文句なし……」

 

 黒死牟の呟きに、行冥が反応する余裕はなかった。

 

 人間の体力が有限なのに対して、鬼の体力は無限に等しかった。

 持久戦では行冥が圧倒的に不利であり、また今も二体の上弦の鬼を相手にしている蜜璃の救援に向かわねばならず、状況的に焦っているのは行冥の方だった。

 必然、攻勢に出るのは行冥だったが、上手くいなされ、反撃の糸口が見つからない。

 焦って強引に動けば敵の思う壺。そうは思っても、仕掛けなければ始まらない。

 

(これは……一人で倒すには刺し違える覚悟がいる)

 

 躱すだけなら何とかなるが、反撃を考えれば途端に難易度は跳ね上がる。

 痣を出し、死を恐れずに戦うことで、ようやく頸に届くかもしれないというレベルだった。

 

 決断の前に、俯瞰して状況を考える。

 刀鍛冶の里には、現在三体の上弦が確認されている。

 目の前に上弦の壱(恐らく)、甘露寺の方に上弦の弐と伍。

 戦力的には、甘露寺を見捨てて撤退するのが無難だろう。だが仲間を見捨てることなどありえない。

 目の前の鬼を倒し、甘露寺に加勢して他の上弦も倒す。それが理想だった。

 上弦の鬼と遭遇できる機会も滅多にないもので、命の捨て時としては最適かもしれない。

 

 何より行冥には、頼れる仲間たちがいた。

 ここで自分が死んでも安心して後を任せられる、最強の柱もいる。

 

(あとは任せるぞ、鳥海、皆……!)

 

 行冥は、命を捨てる決意をした。

 巌のような体に痣が浮かび上がる。

 体が軽い。力がわき上がる。これならいける。

 腕が一回り太くなり、血管が浮き出るほどに全力で鎖を握りしめる。

 以前は手斧と鉄球を打ち付けるなど一手間が必要だったが、痣が出た状態なら鎖を握りしめるだけで鎖斧全体が赫くなった。

 

「…痣に…赫刀か……」

 

 鎖を握りしめた動作は、隙と言えば隙だった。

 それを見逃すほど、黒死牟は甘くも優しくもなかった。

 ――月の呼吸、陸ノ型、常世孤月・無間。

 刀の一振りが生み出す広範囲の斬撃に、行冥は冷静に対処する。

 

(赫刀には血鬼術を阻害する効果もある。とにかく攻撃を当て、そのまま押し切る!)

 

 ある程度の手傷は享受して、回避動作は最小限に。行冥は斬撃に身をさらして血を流しながらも攻撃の手を緩めない。

 

 ――岩の呼吸、伍ノ型、瓦輪刑部。

 赤熱した超重量の鉄球が途轍もない運動量を得て暴れまわり、黒死牟を襲う。

 刀を犠牲にして、黒死牟は受けきった。

 再生しにくくなった刀は捨て、新しい刀を体から生やして握る。

 

「…勝負に出たか……ならばこちらも応じねば…不作法というもの……」

 

 行冥が死力を尽くした勝負に出たのを察して、黒死牟は応じる構えを見せた。

 黒死牟が手にする刀が伸び、一瞬にして歪な形状のものへと変化する。

 ――月の呼吸、拾肆ノ型、兇変・天満繊月。

 先ほどまでと比べたら間合いが倍以上に伸びた、超広範囲の斬撃だった。

 線ではなく、もはや面の攻撃だ。

 

 臆することなく、行冥は前に出た。

 防御をかなぐり捨てて、ひたすら黒死牟の頸を狙う。

 行冥の攻撃が激しさを増すごとに、黒死牟と行冥、双方の体には傷が増えていった。

 

「ぐっ!」

「……!」

 

 月の斬撃に触れて行冥の腕が飛び、黒死牟の足に赫い鎖が巻き付いた。

 灼きつく赫刀に血鬼術を阻害され、黒死牟は瞠目した。

 

「うおおおおお!」

 

 渾身の力を振り絞り、片腕に持った手斧を黒死牟の頸に叩きつける。

 間に差し込まれた刀を圧し折り、そのまま赫く染まった刃が頸に突き立つが、完全には断ち切れず、頸の半ばほどで止まった。

 そのまま全身全霊の力で押し切ろうとするが、遅かった。

 新たに掌から生やした刀に、残された腕を斬られ、最後の押し込みは切断面から血をまき散らしながら、虚しく空転した。

 返す刀で、行冥の首が飛ばされる。

 

「む、ねん――」

「…良き…戦いだった……」

 

 一部始終を上空で見届けていた鴉は、悲しそうな鳴声を残し、遠くの夜空へと消えていった。

 

 





 

岩柱。
雑なプロットではある程度で撤退して生存する予定だったけど、考えてみたら仲間のために無茶しそうだし、逃げたら当然追ってくるよなということで、死んでしまった。

戦力比的に、登場させちゃった時点で死亡が確定していた感じ。
好きだから活躍の場を与えようと思っただけなのに……すまん岩柱さん……。

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